執事が大好きなお嬢様は、どうにかして執事に構ってもらいたい。 作:龍宮院奏
何だか、日菜ちゃんのヤンデレ回が続くようです。
黒服さんが車を、何処かの運び屋みたいに凄いハンドル裁きで運転するから、あっという間に着いてしまった。
人生で初めて、車に乗って酔いそうになった。日菜はそんな中でも、はしゃいで居たけれど…。強すぎ…。
吐き気を感じながら車を降りて、マンションの自室に向かう。エレベーターが丁度のタイミングでやって来たので、それに乗ってスイスイ上がっていく。数十秒もしない内に、目的の階に着いた。
「それでどの部屋?どの部屋?」
「今教えるから、待って」
余程楽しみなんだろうな。もし日菜に尻尾が生えていたら、凄いぶんぶん振っているんだろうな。
「ほら、ここだよ」
ようやく自室の玄関にたどり着いた。
「じゃぁ、早速上がらせてもらうよ」
玄関の扉のレバーを掴んで、開けようとしていた。
「いや、ちょっと待って!」
「何でよ〜」
むっとされた顔をされても、
「少しだけ待っててくれたら、必ず入れるから」
部屋の掃除もしたいし、見られたら不味い物は……あるな……。
「だから、お願いします!」
玄関先で必死に頼み込む。近所の人の視線が少し冷たいような気もしたけれど、これは必要事項なのだ。
「むぅ、分かった…」
「お嬢様〜」
良かった…心がひ、
「その代わり、30秒だけだからね!」
全然心広く無かった!悪魔〜!お嬢様の悪徳令嬢!
「もうちょっと!だけ」
お慈悲を、お慈悲を〜。
「い〜ち!」
「え、嘘でしょ」
お慈悲すら、許してはくれなかった。
「に〜い」
いきなりのカウントダウンに焦りつつも、玄関の鍵を開けて慌てて部屋に入る。靴をほっぽりだし、リビングに一直線で走っていく。
部屋に入ると、いつもと変わらない整理整頓がされた部屋が広がっていた。編集部のある会社のビルから近場にあるため、打ち合わせも自宅でする事が多い。だから何時も綺麗にするように心がけている。
「えと、まずは何をしまえば……」
日菜に見られて不味いものは、
『その一・アニメキャラで推しのフィギュア』。これは見られた瞬間に壊されるだろから……、何としてでも守り抜かねば。箱からまだ出していなかったから、そのまま別の箱の中にしまって……。
『その二・冗談半分で買ったエロゲ』ネットでネタが無いか探している時に、『あ、この子可愛い』と思って検索したゲームがあり、何も知らないまま買ったらエロゲだったという。
あ、ストーリも良くて泣けたし、絵も綺麗で良かったけど。これは、夏服のダンボールの奥の方にしまって。
『その三・げふんげふんな同人誌』別にR1〜な奴じゃないよ……うん。まぁ、内容が……絶対駄目だな。これは…何処に…。もう、取り敢えずリュックの中に押し込んで……。
「朱那〜、時間ですよ〜。ねぇ、何してたの?」
押し込んだタイミングで来たよ、何かテレパシー何かか。
「い、いいや。な、何にも無いよ〜。ほ、ほら、怪しいものなんて何一つ無いでしょ」
必死に訂正を保ちながら、誤まかす。
「怪しいものね……」
目を細めて、蛇の目のようにじっくりと眺めてくる日菜。蛇に食べられる動物も、きっとこんな気持ちなんだろうな。
「じゃぁ、その手に持った薄い本は何?」
俺の手を指さしながら、日菜は恐ろしく笑顔で問いかけてきた。
「薄い本?……」
声にならない叫びが、口から溢れ出る。手には確かに一冊の同人誌が握られていた。
その薄い本を奪うと、日菜は再びニマニマと口元を歪ませて、更には目にブラックホールを宿しながら、じっとりと見つめてきた。
「朱那、正座して……。これはご主人様の命令だよ」
今まで考えられない位、冷徹な声で告げられた。
「は、はい……」
怖くなって、そのまま静かに正座した。
「もしかして?朱那がさっき私を部屋に入れなかったのは、コレを隠すためかな?」
奪った同人誌を丸め、バット状にして音を鳴らし始めていた。
「はい……」
ヤバイ、これは完全に殺される……。
するとペラペラと、奪った同人誌を眺めて一言、
「朱那って、こういう趣味なんだね」
弱みを握った事を楽しそうに、サディステックな笑みを浮かべていた。
「でも〜、これはもう要らないよね。だってこういうのがあったら、朱那に悪影響だもんね」
そう言って同人誌を眺め、
「だから、こういうのは全部処分ね。他にもあるなら今の内に出しておきなよ、じゃないと……」
耳元に顔を近づけて、
「朱那には……、もう二度と外の世界と関われないような事、しちゃうからね」
そっと囁き、息を吹きかけてきた。
吹きかけられた息に、日菜の口から出てきた言葉に、思わずびっくりして、体をビクン!とさせる。
「わぁ、朱那ってばビビり過ぎだよ〜。あははは」
光を飲み込むような瞳をしながら笑っていた。
結局、隠したエロゲーと同人誌はすべて回収され、推しのフュギュア全て転売された。
「悪魔……、俺の推しが……うぅ……」
推しが転売されていくの見ることしか出来ずに、そんな無力な自分に絶望していた。
「え〜、だって言ったでしょ?朱那に悪影響だって」
「でも…、推しは…」
推しに関しては、普通に同人誌とか関係ないのに。あまりの辛さに涙を流す。
「あの女の子が、まだそんなに忘れれないのかな?」
そんな何かを考え始めた日菜は、黙り込んでしまった。いきなり黙り込まれてしまうと、一番怖いのだけれど……。
「まぁでも、これから朱那にはたっぷりと教え込んでいくから安心して」
答えが出たようで、笑顔で言ってくる。目は笑ってないけど。それに教え込んでいくって?
「もう、そんな怖がらないの。大丈夫だよ、痛くしないから。最初にも言ったでしょ、殺さないって」
「言ってたな、『殺したら、楽しみが無くなる』って」
「そう…、だから殺さないで…」
思わず息を飲む、
「ゆっくりとワタシ色に染め上げてア・ゲ・ル」
そう言って、最後に頬にキスをして来た。
この時改めて後悔した、こいつの執事に成るんじゃなかったと。
朱那の趣味が、日菜にバレるという…。
想像しただけで恐怖映像ですよね…、だって秘蔵の物資がバレるなんて…。
それに日菜が『ワタシ色に染め上げる』って、もう恐怖しか無いですよね。
それでは今回もご閲覧ありがとうございました。