執事が大好きなお嬢様は、どうにかして執事に構ってもらいたい。   作:龍宮院奏

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部屋が広すぎても何処か違和感しか無いです……


第8話作家は引っ越しを完了させました。

 あれから日菜に特に何かをされることは無く、黙々と荷物を纏めていった。何も言われないの、それはそれで不安になる。どうしても、あの『ゆっくりとワタシ色に染めてあげる』が頭から離れない。

「俺…、これからどうなるんだろうな…」

不安要素が胸の中で渦巻く中、処分されずに済んだ特撮ヒーローのお宝を眺める。

「もし、これが消えたら……」

 

「うん?それもまた悪影響なものかな?」

耳元で突然日菜に囁かれる。

 

「日菜、いやこれは違うよ……」

思わず、ギュっとお宝を抱きしめ振り返る。

「そんな怖がらないでよ」

日菜の顔は笑っていても、今も変わらずに目だけが笑っていなかった。

「ほら、これだよ。これ」

抱きしめていたアイテムを、納得してもらう為に見せつける。

「これは俺のデビュー作が売れた時のお金で買ったんだ……。最初の、まだ無名の頃に、売れたことが嬉しくて、小さい頃に買えなかったのを買ったんだよ……」

初めてみたヒーローの、最初の変身アイテム。力を手にしてどうして良いか分からないまま、怪人たちと戦った最初の戦士を作ったもの。

「だから、これだけは……。これは俺の原点だから」

日菜はそれを見て、

「ふ〜ん、朱那の原点ね……。これが無いと、もしかして仕事進まない?」

あまり気乗りはしていないようだが、先程処分されたものより反応が良かった。

「まぁ…、無いと安心できなからな…。仕事にも支障をきたすだろうな」

実際に試したことは無いけど、多分クオリティはダダ下がりだろうな。

「じゃあ私、るんってくる小説読めなくなるって事!」

ヒーローのアイテムの重大さを知った日菜は、一度手に取りじっくりと眺めた末に、

「なら、これはこのままにして良いよ」

ようやくブラックホールの消えた目で、笑顔で笑ってくれた。先程までの恐怖が、一瞬にして吹き飛んでいった。

「良いの……?だってこれだけじゃなくて、まだ沢山あるよ……」

ショーケースに入ったアイテムを指さしながら言うと、それを確認した上で日菜は、

「別に構わないよ。だって、私の家の部屋だよ。こんな小さな棚一つくらい余裕で入るし。それに……」

「それに……?」

「朱那に悪影響が出そうな物でもないし、これなら私も安心して朱那の側に置いておけるから許す」

親指をグットポーズにして、お嬢様から承諾を得ることができた。お嬢様、マジ女神や……。

 もうさっき迄の自分を、飛び蹴りからの空中で反転してもう一度飛び蹴りをかましたいわ。そう心の中で密かに思いました。

 それから持っていく荷物を仕分けていく時に、アニメの主題歌ソングでキャラソング集を持っていくかで揉めたのはまた別の話だった。

 

「これで全部の荷物が…、はぁ…、運びきった……」

用意されていた部屋に、借りていたマンションから次々と荷物が運び込んでいった。幸いにも、黒服さんたちが、大まかな家具を持って行ってくれたので助かった。普段運動しないから、辛い事この上ない。

「じゃぁ、早速部屋の衣替えをしていきましょう!」

日菜は、荷物を運び出す時に俺が買ったマンガを読んでくつろいでいた。

『朱那、これの続きどれ〜。あははは、これ面白くて堪らないよ』

少しは手伝って欲しかったけど、ベッドに寝っ転がれて体勢が体勢だったので、何も言えませんでした……。日菜って足綺麗なんだな、細くて、白くて、お人形みたいだったな……。

「あれ、朱那?もしかして疲れてる?ぼーっとしてたけど」

「え、あ、ちょっと疲れたかな?」

気がつくと、目の前に日菜の顔があった。

「そうなの?もう、そんなじゃ、家の執事は務まらないからね」

お前はさっき迄、人の部屋でベッドの上でゴロゴロしていただけだろうが。けど、ここで言っても仕方ないか。

「それは……、精進させて頂きます」

「うむ、宜しい。それでどんな配置にするの?」

「そうだな?」

部屋全体を見渡し、簡単なモデリングを頭の中で想像する。棚は成るべく机の近くに置いて、テレビは壁際において、ベッドはまぁ端だな。後は……、

「よし、こんな感じで良いだろ」

机や棚、テレビやベッド、収納のケースなどの配置が整い、ようやく連行されてきた部屋が自分の部屋になった。

「これは慣れるまで、時間がかかりそうだな」

部屋は広いし、配置を変えたため違和感しか無いのだ。猫とかもそうでしょ、新しい場所に慣れるのに時間が掛かるみたいな。

 時計を見ると、16時を過ぎていた。夕食を作り始めるまでにはまだ早いし、今は何よりも疲れた。

「日菜、疲れたからしばらくの間寝ても良い?」

ダメ元で日菜に睡眠の許可を得る。

「え〜、寝ちゃうの?何かしようよ〜」

案の定、あっさり却下されました。

「でも、疲れたし。何するんだよ…」

「何かこう、るんってくるもの」

何んだよ、るんって…。でも何かすれば良いんだろ…、何か疲れなさそうなもの…。家の中、家の中…。

 天から神的な発想が舞い降りてきた、疲れてテンションが可笑しい。口元にフッと笑みを浮かべて、提案をする。

「なら、かくれんぼでもするか?日菜が鬼で、俺が隠れる」

まぁ、当然反応は、

「え〜、何でかくれんぼ?他に何かあるでしょ、ほら朱那が持ってきたゲーム機とか」

予想通りに、予想通り過ぎるくらいの反応だった。

「別にゲームしても良いが…、俺対人戦弱いからやめておいてくれ」

「そんな事ないでしょ、やってみようよ」

ゲームをしようとねだってくる、そこに最後の手段を使う。

「もし俺の事を制限時間内に見つけられたら、今日の残りの間、何でも一つ言うことを聞いてやる」

この巨大な屋敷の中だ、そう簡単にかくれんぼをしても見つからないはず。それに上手い事隠れることが出来たら、その間は眠ることも可能となる。もう一石二鳥じゃない、俺は眠れる、日菜は遊べる。さすが俺だ…、やっぱりテンションが変だ。

 この条件を聞くと、

「言ったね…、今、何でも一つ言うことを聞くって……」

目に焔を宿していた。それを見て少しだけ、やるんじゃなかったかなと反省した。

が、今更後に引くことも出来ず、

 

「良いぜ、俺の推しに誓って言うことを聞いてやるよ」

ガンガン強気でいかしてもらいました。

「なら、ワタシも本気でやるかな……」

手をポキポキとならし、気合十分だった。

「よし、じゃあルールな。範囲はこの屋敷全体、ただし屋敷の中だけ。庭とかは無し」

「うん、その方が分かりやすくて良いと思うよ」

「次に、俺はこの屋敷の間取り、部屋を知らないから不利だ」

「言われてみれば、私は生まれてからずっと居るから」

「それでだ、俺が隠れるまでの間はこれをしててくれ」

棚からヘッドホンを取ってきた。

「超防音、ノイズをすべて削除。超高性能ヘッドホン・ファイフォンで音楽を聞いて待ってて」

「うわぁ〜、形からして朱那は好きそう。それに高そう……」

「総額数十万超え、デザインは特撮ヒーローの限定モデル!」

「あ、だから……。うん、だろうと思った……」

他の家具を見ても、そんなにうわぁってなる程高そうな物は無かったけど。これがあるからかな?

「じゃあ音楽プレイヤー渡すから、この中の曲を一曲選んで聞き終わったら、探しに来てね」

手渡された、小型の音楽プレイヤーを握りしめて、

「じゃあ朱那、絶対私が勝つからね!」

指を指しながら宣言した。

「まぁ、頑張ってくれ…。お・じょ・お・さ・ま…、それでは〜」

部屋から全速力でその場を後にした。

 

 あぁ、朱那が行っちゃった……。それにしてもかくれんぼか、何年ぶりだろう?小さい頃にお姉ちゃんと公園でやってたのが最後だったかな?

 

「でも、何でも一つ言うことを聞いてくれるなんて。ふっとぱらだな〜、朱那は」

手渡されたヘッドホンを耳に当てる。耳全体をヘッドホンのクッションが覆う、けど耳にはそんなに重さを感じない。これは高いな…、値段に納得した。

「曲はっと、どれどれ?」

ファイル保存されている為、随分と分かりやすい。どれも見たことの無いものばっかり、全部アニメ関係かな?ファイルを数個開いて確認してみたけれど、どれがるんってくるのかがいまいち掴めなかった。

「うん〜、何かないの〜」

これじゃあ、朱那を見つけるのに手間が掛かっちゃう。日菜の中では、もうすでに朱那を見つけ出した未来が見えていた。

「早く見つけ出して、色々したいのに〜」

その後もファイルを幾つも開いて探してみた結果、最初に見たファイルの一番下の方に合った『俺特選・神曲』の中から一つ選んで聞いた。あ、案外カッコいいや。今度、彩ちゃんにも教えようっと。

 こうして明らかなフラグ満載な、かくれんぼ対決の幕が上がった。




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他の連載中の作品を執筆中に書いた作品が、ここまで来るなんて……
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