俺達と神達と空想神話物語 番外編?   作:赤色の魔法陳

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霊「……おひさ。大部時間が空いてしまった。プロローグで数ヶ月待たせてしまって申し訳ない。ここからが私達の物語の始まりだ、付き添い頼んだぞ」


Recommence our extraordinary days

「なのでこの『ぬべし』の“ぬ”は強意の助動詞で...」

 

 五月一日月曜日、暇だ。いや現実的には良いことなのだが暇だ。現在は二時間目の古典の授業中である。一、二年でやった基礎事項のおさらいというものなのだが頭に入っている私としては退屈なのだ。

 

 ふと廊下に目をやる。そう言えば中学生男子というのはもし今教室に不審者が入って来たらどのように対処するのかというのを授業中に考えているというのをこの前TVで見たが、そんな事現実にあり得ないだろう。まぁ私なら一方的に叩きのめすが。

 

 まぁそんな事はさておき文系の私にとって古典の授業は重要である。決してサボリなどしてはいけない。お金がない私の代わりに翔の両親が授業料を払ってくれる事になったのだから。

 

 しかし、ただ一時間半もの間座っているだけというのがどうにも身体に会わない。まぁ数日前に命掛けで動いていたのもあってどうしてもウズウズしてしまう。やはり腐ってもGD、私も根っからの戦闘狂なのだろうか。

 

「じゃあ、ここを破神さん」

 

「推量」

 

「正解。じゃあ次を...」

 

 急に指されたが焦る事もない。事前に予習は終えている。だから暇なのだ。まぁ実践に入ればもう少し難しくはなるんだろうが。

 

 窓の外を見ると何だか黒い雲が流れて来る。天気予報では晴れだったが、雨でも降るのだろうか。

 

……翔傘持ってるかな

 

 彼は朝練の為に私よりも先に家を出たので今日の朝は顔を合わせてはいない。でもお昼に会う約束はしているのでその時に聞けばいいか。もし持っていたら二人で一つの傘に入って帰ればいいだろう。

 

 ふと自然にそう考えている自分に驚いた。それだとまるで付き合っているみたいではないか。私と彼はそうではなくて家族みたいなもので...家族と言っていいのかどうか。

 

 そう言えば私の本当の家族はどこにいるんだろう。記憶の奥底に眠る家族の思い出は食事の場面だけ、それ以上は覚えてないし何だか思い出したくないような気がしている。

 

 それでも私の今の家は時神家であり、その人達が家族だ。きっと本当の親が現れてもそれは変わる事はない。きっと。

 

 空にヘリコプターの音が響いていた。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

「先生トイレ行って良いですか?」

 

「休み時間に済ませろよ翔~」

 

 クラスからの野次が飛ぶなか僕は男子トイレへと向かう。さっきの休み時間は零矢先輩に捕まってトイレに行けなかったのだ。まぁ仕事の話だから仕方ない事だが。

 

 用を済ませ、手を洗っていると誰かが廊下を走っている音が聞こえた。今は授業中なのに誰が走っているのか気になりトイレから出ようとした時、無意識に未来透視(フューチャービジョン)が発動する。

 

 実は僕の能力『予知(プレディクション)』は本来は自分から望んで発動させるのだが、僕自身にこの先何らかの危険が及ぶ場合に無意識に未来透視が出来るようになっているらしい。

 

 それはともかく映ったのはガスマスクで人相を隠し両手にマシンガンのような物を抱えた二人組がトイレの中に入って来て、抵抗する僕を撃つ様子だった。

 

 すぐさまトイレ掃除用のロッカーの中に入って息を潜める。すると予想通り二人組が入って来る足音が聞こえ、

 

「トイレにいないだろ」

 

「でもさっき流れる音が」

 

「こういうお高い学校は何分か置きに自動で水が流れる仕組みが付いてるの、ほらいくよ」

 

 等と会話したあとでその場を去っていった。先程の予知から学校関係者ではない事は確かだし、左胸にトランシーバーを着けていたことから二人だけではない可能性が十分ある。

 

……取りあえず霊香さんと零矢先輩に知らせないとって二人は大丈夫なのか?

 

 廊下に出る前に未来透視を発動し二人の二分後を予知するがやはり同じような格好をした連中が二人ずつそれぞれのクラスに入って生徒達の手をロープで縛り目を手拭いで覆っていた。

 

……取りあえず近いのは零矢先輩の三組か

 

 僕のいるトイレは一年三組の教室からすぐ近くにある。この学校は一階が一年、二階が二年というように教室が割り振られ、同じ組の教室は上に並んでいる。つまりすぐそこの階段を駆け上がれば先輩の教室まですぐにつくのだ。しかも霊香さんのクラスは四組、これもまた近い。

 

 僕は足音を立てずに慎重に階段を登り、柱の隅に隠れ、教室内の様子を伺った。流石にクラス全員が人質になっているため零矢先輩も反抗できないでいる。

 

「“神”どうすれば良い?」

 

 ポケットからGod-tellを取りだし自称神に問いかける。

 

「私あのトランシーバーの電波ジャックしか出来ないぞ」

 

「使えないか」

 

「はあっ、失礼な‼呼んでおいて何だし⁉」

 

「馬鹿、今騒いだら‼」

 

 ガラッと教室のドアが開く音がしてガスマスクが一人廊下に出てきた。僕は息を殺して柱の影に隠れ続ける。バレているのかどうなのか。

 

「何?一人トイレに行った生徒が行方不明だと?警察に連絡されたら面倒だ。校内で電波が発信されている場所があったらその場所に向かって捕らえろ。最悪殺しても構わない」

 

 そう言って、また教室に戻って行った。取りあえず気づかれはしなかったが行方不明の生徒とは恐らく僕である。状況が最悪なのは変わりはない。恐らく全員縛り終えたら校内を探しに来るだろうし、見つかったら殺される。

 

 冷や汗をかきながら打開策を考える。電波云々と言っていたのでウィッチさんにも連絡を取れないし、最悪“神”も使えない。God-tellの中に入っているアイテムは琥珀の槍のみ、これを使って無双は出来るが生徒を人質に取られると万事休すである。

 

「“神”聞いてる?」

 

「馬鹿お前電波使ったら⁉」

 

「囮頼まれてくれない?」

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

「二人一組を作って片方が手を縛ってどちらかの前に持ってこい。それを確認してもう一人の手を結ぶ。抵抗したら、わかってるだろうな」

 

 数分前、急に教室内に押し入って来たガスマスクの連中に制圧され、教室は緊迫感に包まれていた。

 

……あと少しで問題解けたのに、この野郎共

 

 俺は殺気を出さないように二人が持っている物を観察する。マシンガンなら近寄れば何とか出来るだろうが、この人数がいる中で誰かが流れ弾に当たるのを避けるにはそう簡単に抵抗するわけにもいかない。

 

 近づくなら縛ったのを確認させる一瞬のみ、それで気絶まで持っていけば何とかなりそうだが持っていけなかった場合...射殺される事は目に見えた。

 

 すると一人が廊下に出て何かを話していた。つまり今この教室には一人、またとない絶好のチャンス。俺は隣の席の女子、夏川さんに詫びながら手をきつくないよう緩く結び確認の為に教室に残った方に近づいていく。しかしこのタイミングでもう一人が廊下から戻って来てしまった。

 

「何だこれ?全然きつく結んでないじゃないか」

 

 そう言って夏川さんの手をロープを取り、きつく結びつける。

 

「痛ッ、痛い」

 

 跡が残りそうな程きつく縛る姿に流石に殺気を抑えてられないと思った俺は今ここでやるしかないと腹をくくった。

 

……取りあえずこいつをぶちのめして、奥のやつはその後だ。もし弾を撃ったら、他の奴に当たらないように俺が受けるしかない

 

「何だお前、その目は?正義感ぶってるのか。舐めた態度取ってんじゃね...」

 

ヴワァァァァァァァァァァッ‼

 

 そう思った瞬間、シリアスを吹き飛ばすかのようにどこかで聞いたことのあるような悲鳴が廊下から響いて来た。しかも、この声の主は翔のようだ。

 

「見てくる」

 

 すると他の教室からもガスマスクの連中が一人ずつ出て来たが、俺のクラスから出た奴が指示して元に戻らせ、一人階段の方へ歩いていく。

 

 完全に見えなくなったところで、まだ外が気になっている残った方のマシンガンを蹴り飛ばし、反撃される前にラリアット。窓際に追い詰め回し蹴りで意識を掠め取った。都合よく夏川さん以外のクラスメイトの視界は覆われている。

 

 俺は夏川さんのロープだけをほどいてそのガスマスクの奴に巻き付けマシンガンを拾い、

 

「絶対にここから動くなよ」

 

 と言って屈みながら廊下に出る。すると丁度翔が階下から登って来る所だった。その手には先日使用した琥珀の槍をぶら下げていた。

 

「お前、流石に殺してないよな」

 

「殺ってないです。さっきのは“神”が僕の声で叫んだんですけど取りあえず先輩だけでも抜け出せたのなら良かった」

 

 と言っても階下に一人転がってるんだが。まぁ出血は見られないから気絶してるんだと思うが。

 

「あいつどうやって気絶させた?」

 

「後ろから突き落として」

 

「サイコパスかよ」

 

「僕は先輩みたいな格闘スキルないんです」

 

 そう言われると何だか申し訳ない。しかし、翔もいるとなると状況は大分良いのか?取りあえずウィッチさんに連絡をしてこの後の動きを...

 

「あ、God-tell取り上げられたんだ。悪ぃ、教室戻ろう」

 

「でも多分連絡は取れないかも知れません。あいつ等の会話からもし連絡しようとしたら即座に場所がバレる可能性がありますし」

 

「なら俺は教室、お前霊香の方の様子見で。すぐ合流する」

 

「了解です」

 

 もう一度階段を上がり俺は自分の教室へ、翔は霊香の教室へ向かう。戻ると夏川さんが言った通りに一人座って待っていた。

 

「神木君、警察に掛けた方が良いよね」

 

 彼女は他のクラスメイト逃げるまでの聞こえない声量でそう俺に言った。

 

「いや、多分バレるから止めた方が良い。もう少し待ってて、様子見て来るから。クラスの他の子をよろしく」

 

 俺は気絶したガスマスクの奴の傍らに置いてあった袋からGod-tellを取り出しポケットに入れる。それから翔の元に向かった。

 

 合流すると、霊香のクラスメイトは全て拘束され目を塞がれていたがその中に霊香はいなかった。翔の予知によれば一人だけ連れていかれたらしい。このガスマスク集団の目的は霊香と言うことなのか?それならばこいつ等はGD...その割には弱いような気がするが。

 

「どうします?他のクラスも見てきましたがガスマスクをつけた奴等は既に居ませんでした。もしかしてどこかに集まっているのかも」

 

 もしそうなら...

 

「おい、お前これはどういう事だ⁉」

 

 廊下に怒声が響き渡る。俺は駆け出しながら翔に理由を説明した。もし一度集まったのならあの気絶した二人は戻って来ない。不審に思って様子を見に来るに違いない、そうなると夏川さんが危険だ。

 

 教室に駆けつけると一人のガスマスクが彼女にマシンガンを向けていた。怯える彼女の目が俺の姿を捉える。それを逃さなかったガスマスクが俺の方を向く前に俺はそいつへ駆け出す。

 

「先輩、右に避けて‼」

 

 後ろから指示する翔の言葉に従い左足に力を入れ、右側へ重心を傾ける。横目に映るのは投擲された槍。それが俺に銃口を向けたガスマスクの上体に辺り体勢を崩させる。

 

……こいつをぶっ潰す‼

 

 右足で黒板を蹴り飛び込むようにガスマスクへと拳を入れた。それにより壁に叩きつけられたそいつはガクリと頭を垂れる。死んでないよな...大丈夫だよな。

 

 近づいて脈を測るとまだ波打っていたのでまだ生存していたことがわかった。すると傍らのトランシーバーから低い声で怒鳴り声がした。

 

「おい、どうした‼返事をしろ‼」

 

 俺はトランシーバーを掴み、そいつに対して怒鳴り返す。

 

「女子に銃向けてたから気絶させたって返事すれば満足か!お前等の目的は何だ?って言うかどこにいやがる?」

 

 しかし舌打ちのような音が聞こえた後で通信が切れる。こうなればしらみ潰しに探すしかないか。そう考えていると翔が俺の肩を叩き、

 

「恐らく第一講堂です。“神”が今の通信中逆探知とサーチの会わせ技で電波の発信源を特定してくれました」

 

 俺は頷き、固まったままの夏川さんにもう警察に連絡して大丈夫だと告げ第一講堂へと走る。第一講堂は主に集会などで使われる為、内の高校では体育館よりも広くなっている。なので一階、二階、三階からの入り口がそれぞれあるのだ。

 

 ドアの前までたどり着いた俺達は、顔を見合せ頷いた後で中に突入する。そして下を除き込んだ瞬間、工事中のような音が鳴り響き俺等の頬を弾丸がかすめていった。

 

「今何人見えた?」

 

「多分一人がマシンガン、残りは下のドアから出て行きました。予知し忘れました、ごめんなさい」

 

「一人だったら俺が相手するからお前は霊香を追え」

 

 そう言って俺は翔にワイヤーを手渡す。そして立ち上がって一階の入り口と対角線になるように走った。俺の姿を捉えた下の男は容赦なくマシンガンの銃弾を浴びせて来るが、俺は着弾するギリギリで走り続け階下へ飛び降りる。

 

 その落下時に相手を確認すると、マシンガンを二丁構えているのがわかった。しかし顔にはガスマスクがない。目つきは軍人のようではなく、まるでただ撃つのを楽しんでいるようだ。恐らく囮なのだろう。

 

 懐からGod-tellを取り出すとそいつは翔の方向に向かって撃っているのがわかった。

 

「どこ撃ってんだ‼こっちだコラァ!」

 

 翔から注意をそらす為に俺は声を荒げ天照大御神に『変身』する。急に服装が変わり驚く男をよそに俺は右手を掲げた。

 

目眩閃光(ホワイトアウト)ッ!

 

 そこから部屋全体を照らす程の光を放ち全員の視界を奪う。だが予想外にも俺の視界ははっきりしていた。これも天照大御神の力なのか。俺はすぐに翔の場所まで戻って翔を抱えると一階の入り口の手前まで高速移動する。

 

「そこから出るのはわかってるんだよ‼」

 

 がむしゃらに男がこちら側に向けて発砲してくるがほとんど的を得ていなかった。その内に目を瞑っている翔を押して部屋の外に出そうと促していると、

 

……ッ!

 

 下手な鉄砲数撃ちゃ当たるとはよく言ったものだ。当たらないと高をくくっていたせいで右足に一発喰らってしまった。

 

「先輩、まさか怪我して?」

 

「いいから行け」

 

「ダメですよ!怪我した状態の先輩をおいてもし何かあったら」

 

「そんなこといいかグッ、くそっ」

 

 次はドアに手をかけていた右腕に二発、腕に血が伝っていくのが感じられた。これ以上喰らったら変身が解除されかねない。

 

「先輩‼」

 

「いい加減にしろ‼俺が手負いになった今この場所で霊香を救う事が出来る可能性が一番高いのはお前なんだぞ!こんな奴一人ぐらい手負いだってやれるつーの!だから...さっさと行けッ‼」

 

「...わかりました」

 

 そう言って翔は部屋から出ていった。それを見送った俺は膝を付いて倒れる。実は話している途中に腰にも銃弾を喰らっていた。もう立つのもやっとなのだ。

 

……何がやれるだよ、カッコつけただけじゃねぇか

 

 立ち上がろうにも体重をかけるべき腕がやられているので立ち上がる事が出来ない。今『紅蓮の剣』の鎧を纏うものならばたちまち暴走へと一直線なのは明らか、しかも止めてくれる人はいない。

 

……後輩にカッコ悪いとこ見せられないもんな

 

 力を振り絞り立ち上がると両掌を相手に向ける。今ならウィッチさんが俺に対して何も明かさないのもわかる気がする。

 

……このエネルギーをなんとかアイツに!

 

 目眩閃光の要領で掌にエネルギーを集める。これを一点に集中させて前方に向けて放てばせめて銃くらいは手から落とせるかもしれない。

 

……今考えたら銃の方が良いけど構えてる時間なんてねぇ‼

 

 光は収まったが目が眩んで銃を乱射する相手に向け一気にエネルギーを放つイメージで手を押し出した。

 

シャイニングインパ...あ、ダメだ!えっと太陽光線(サンライズインフィニティー)ッ!!

 

……決まらねぇ

 

 決め台詞とは裏腹に皮肉にも光線はまっすぐ相手を捉え銃は愚か、身体ごと後方に押し出した。そのまま壁に叩きつけ、さらに壁にひびを入れた。が、それほどの威力を誇る光線を怪我をして踏ん張りが効かない足腰で支えたらどうなるのか。

 

 答えは簡単。こちらも吹き飛ぶだけだ。後方のドアを吹き飛ばし俺は上体を仰け反ったまま十メートル程吹き飛ばされる。光線の威力は凄まじく講堂の入り口を完全に破壊してしまっていた。

 

 勿論俺も立ち上がることなんて到底できそうにない。今敵が来たら確実に殺られる。後は翔に任せるか。

 

「“神”、ウィッチさんに連絡しといて」

 

「あいよ」

 

 また心配されるだろうか、いや怒られるか。彼女の事を考えるとこの状況下であるのに何だか気持ちが落ち着いてきた。それが何故なのか、俺には上手く説明することができそうにない事を悟り少し目を閉じた。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

「どけぇぇっっっ‼」

 

 迎え撃って来るテロ集団の銃弾をもろともせず僕は琥珀色の鎧を纏って、手に持った槍で次々と敵を薙ぎ倒していく。

 

……コイツら相手に予知を使う必要はない。でも少し手を抜かないと殺しかねない。調整が難しいな

 

 只でさえ先輩とは違って戦闘経験が無いうえに加減を調整しつつ相手を行動不能にさせる。これが恐ろしく困難であることを切実に感じていた。

 

 所詮やっているのは身体的強化ではなく装備の強化。身体が追い付かなければ諸刃の剣なのだ。それでももう僕一人しか霊香さんを救える者はいない。

 

……後二人‼

 

 先輩から託されたワイヤーを前方の二人の銃に向けて射出して絡ませ、そして一気に引き寄せる。敵は抵抗も空しく廊下を滑りながら引きずられて来るのに会わせ槍を横に持ち双方の腹部目掛けて押し出す。

 

……これでなんとか足止めの奴らは倒したけど、うっ

 

 疲労のせいか目が霞み脚がふらつく。サッカー部でもこんな動きしないからだろう。槍を杖のようにして予知を行う。

 

……屋上のヘリで逃げる気か

 

 階段を駆け上がるのも面倒に思ったので窓ガラスを砕いて屋上にワイヤーを伸ばす。

 

(……おい)

 

「ッ‼‼」

 

 気を抜いているとどこからか声が掛けられた。驚いて辺りを見渡すがどこにも人の気配などない。敵なら襲って来るだろうし、他の生徒はほとんどがまだ拘束されているはず。思い違いか?

 

 その後なんともなく屋上にたどり着き、ヘリを探す。すると後ろからけたたましいプロペラの音が響いて来た。振り向くとヘリに誰かが乗せられようとしていた。

 

 黒い長髪の少女、見間違えるはずがない。あれは...

 

「霊香先輩‼」

 

 鎧から生えた翼で校舎間を飛び越え、ヘリが止まっている場所に降り立った。しかし既に彼女はヘリに乗せられてしまっていた。

 

……どうして抵抗しないんだ⁉

 

 とにかく逃がしてたまるか。その思いで槍を構え、ヘリに乗っている奴らを倒そうと駆け出す。

 

「先輩を放...ぐッ、ぐあッ!」

 

 急に脚が動かなくなってしまった、否脚だけではない。上体も指先さえ金縛りにあっているようだ。

 

(おい)

 

 先程と同じ声。一体どこから声が掛けられているのかわからない程、脳に直接響いて来る。

 

(お前には冷酷さが足りない。愛しい彼女を救うなら他の奴の命なんて省みるな)

 

 何を言っているんだこいつは。奴らを殺せと、僕に促しているのか。そんなことするわけないだろう。僕は必死に抵抗しようとするが身体が言うことを聞かない。

 

 死に物狂いで抵抗していた時、ヘリから彼女が降りて来た。良かった、自分で敵を蹴散らして逃げ出したのか。そう思ったのも束の間、彼女は翡翠の鎧を身体に纏った。

 

 弓形のネックレストップが巨大化した武器を僕の方へ向ける。そして何の躊躇いもなく翡翠の矢を放った。

 

「……純翠神破弓(アグネスストライク)

 

 僅か十メートル程の距離間から放たれた一筋の矢は宝石のように美しく輝きながら狂いなく僕の持っている槍を撃ち抜く。槍は屋上の入り口まで飛ばされ、それにより鎧の装甲は解除され、解放された僕は倒れこんだ。

 

 彼女は武器をネックレスに戻すと、制服の胸ポケットにしまいこみ、きびすを返して再びヘリに乗り込んだ。

 

「まって...どう、して」

 

 そう呟く僕の声はプロペラの騒音に書き消された。前が見えない程の風が吹き、ヘリが飛び立つ。

 

「僕が助けな...きゃ」

 

 願うように空に浮かぶヘリに手を伸ばすが、その姿は徐々に小さくなっていく。僕は目に涙を浮かべるも泣くことはできず、そのまま目を閉じた。再び閑静になった学校の屋上は非日常から日常を取り戻していた。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

「了解いたしました。神木零矢、及び時神翔の回収に向かいます」




「初めまして私は...」

「地球管理局本部...」

「お久しぶりです、お嬢様」

「その携帯は何だ?」

 次回霊香編第二話

『Enjoy touching our reunion』

「たった一人の家族だからな」
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