俺達と神達と空想神話物語 番外編?   作:赤色の魔法陳

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霊「……前回突然学校に押し入ってきたテロリスト達にさらわれてしまった私、翔も零矢も負傷してるみたいだし、一体どこに連れて行かれるのか?」

翔「半年振りの戦闘シーンでしたね」

零「身体がなまってたな」

卯「私出番なかったけど!?」

霊「……今回は出番あるから、どうぞ」


Enjoy touching our reunion

「霊香さん!」

 

 目覚めるとそこはラボだった。床に敷かれた布団に寝かされ、上半身裸で身体には包帯が巻かれていた。応急措置を施されたらしい。

 

「お目覚めか?」

 

 声のする方向を向くと、僕よりも包帯の量が多い零矢先輩がアンドロイドから処置を受けている最中だった。

 

「動かないでください」

 

 そう言うアンドロイドが先輩を押さえつけ、半ば強引に包帯を巻いている。そのアンドロイドには見覚えがあった。

 

「これやったの運転手(ファーラー)?」

 

「いえ」

 

「え、違った?ごめん、武器庫(アーセナル)の方?」

 

「違います」

 

 よく車を運転している『運転手』と武器庫の倉庫番をしている『武器庫』は見た目が瓜二つなので見分けるのが困難なのである。しかしそのどちらでもないならこのアンドロイドは?

 

「胸のバッジ見てみろ」

 

 先輩に言われて見てみると、そこには名札のように『回復役』と書かれていた。RPGの役割か何かですか。これ他の二人にも書かれてるのか。そしたら残りの二人は運転士と武器調達とかなのか、パーティー滅茶苦茶じゃない?

 

「始めまして、『治療(クラティオ)』です。主に負傷兵の回収、治療を専門としているアンドロイド3号機です」

 

「末っ子ってこと?」

 

「はい、と言っても『武器庫』とはほぼ同時期に作られたのですが。我々の中なら『運転手』が一番古いタイプで私は彼女を元に作られたのです」

 

 それなら顔がそっくりなのも納得できる...いや顔もうちょっと変えてもよくない?見分つかなすぎじゃないか。

 

「それより普通に学校に入って来てそのまま俺達をここまで運んで来たのか?」

 

「はい、防犯カメラは既にジャックされていてサーバーに干渉する必要もありませんでしたので、God-tellの反応を元に二人を担いで『赤車』に乗せここまで運んだということです」

 

「え、じゃあ今僕達は学校にいないことになって」

 

「それもご心配なく」

 

 その声と共に一つの扉が開き中から『治療』と同じ顔をしたアンドロイドが出てきた。胸のバッジには『倉庫番』と書かれていた。ってことは『武器庫』か。

 

「卯一様が考案し、大鎌様が開発された影武者(コピドル)を放っておいたのでご安心を。いわゆるコピーロボットのようなものです」

 

 今コピーロボットの発音がどこかの猫型ロボットのようだったが気のせいだろうか。

 

 取りあえず学校側の問題は大丈夫そうだが一番の問題は霊香さんだ。彼女がどこへ連れ去られてしまったのか。そして誰が何の目的で彼女をさらったのか。

 

「ちなみに町中の監視カメラの映像から恐らく西側、地球管理局の方向かと」

 

 実は全宇宙の秩序を統括する管理局、ASMの地球支部がここ神聖区の西街に存在していたりする。元は自衛隊の基地だった場所が宇宙進出に応じて管理局と合併し、そのまま管理局の基地となったのだ。

 

「じゃあ管理局の奴らに霊香は連れ去られたと?」

 

「断言はできませんがヘリも管理局が所有する物のようですし、恐らく霊香様は地球管理局にいるのではないかと」

 

 そうなると迂闊に手は出せない。管理局に殴り込もうならばそれこそ惑星反逆罪で、冥王星の監獄に入れられてもおかしくはないだろう。

 

「取りあえず妖美卯一が帰って来るのを待ちましょう」

 

 『治療』はそう言うと再び先輩の手当てを開始した。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

「……あなた達の目的は何?組織の連中なの?」

 

 ヘリに乗せられてどこかへ連れて行かれる最中に私はテロリスト達に訊ねた。同乗者は五人、二人が操縦で残りが相席である。

 

 と言うかこのヘリ六人用のような気がする。こいつ等どう考えても六人以上いたはず。元から数名切り捨てる気で来たのか。もしそうだとしたらこいつ等はGDではない可能性が高い。あの連中はなるべく味方を回収しようとするはずだからだ。

 

 私が抵抗せずについてきたのは、そうすれば他の学生に危害を加えることはないという条件を提案されたからだ。それにもし連中が危害を加えようとしてもまだあの学校には翔と零矢がいる。予想通り翔は救出しに来てくれた、暴走しそうだったから止めたが。

 

 だからこの場で私がしなければならない事は二つ。一つはこの連中が私をさらった目的を聞き出すこと、二つ目はこの後、連れて行かれた場所を把握しそこから何とか脱出すること。幸い『翡翠の弓』は所持しているがGod-tellは持ってない。調整でウィッチさんに預けておきっぱなしなのだ。

 

「……聞こえてるでしょ、質問に答えないならこのヘリを落としても良いんだけど」

 

 威圧を込めた発言で脅しを掛けるがこの連中は全く口を開こうともしなかった。仕方ない、警告はした。そちらが従わないなら私は強行手段に出るとしよう。

 

 現在飛行中の場所を確認するため窓の外の眺める。海の上だと逃げるのに困難だからだ。しかし、そこは思いもよらない場所の上空だった。

 

「……地球管理局」

 

 よく見ると他にもヘリが何台か停まっており、何人か人が集まっている。別の学校からもさらって来てるのか。やがて私が強行手段に出る前にヘリは降り立ち私は下ろされた。

 

 そこは軍事施設の入り口で見回すと私の他にも学生服を着た女子高生と思われし子達が怯えながら、或いは生を諦めたような面持ちで立たされていた。

 

……集められた女子高生、売り買いさせる為か、それとも

 

 彼女らの傍らには銃を持ったテロリスト達が監視役のように立っている。今下手に動けば彼女達の無事を保障するのは陽の目を見るよりも明らかだった。

 

 すると私を連れて来た連中の一人が隣の仲間に何か耳打ちした後、建物の方向へ駆け出した。だが、すぐに止まって元の場所に戻る。

 

 不思議に思い建物の方向を見ると、そこには一人の男が立っていた。その場にいる全員がその男を見て戦慄する。相手を威圧させるように逆立てた頭髪、カラーコンタクトを入れたように青い瞳。額から左頬に向けて付いた古傷は全員の脳裏にあの日の恐怖を思い出させる。

 

……こいつ何でここに⁉確か冥王星の監獄に収容されているはずじゃ⁉

 

「ビビってるってことは俺の事を知ってるってことだよな」

 

「レオン・デウス・アルコバレーノ...」

 

 連れて来られた女子高生の一人が呟く。彼女の言う通りこの宇宙に生きる人々ならば誰もがその名を知っている。ケレースを爆破した凶悪犯罪者、そんな奴が目の前にいるなど悪夢を見ている気分だ。

 

「あ、伝達ミスで容姿を言い忘れたからこんなにいるのか。ちなみに全員レイカって名前か?」

 

 その質問に全員が頷く。どおやらここにいるのはレイカという名前の女子高生達らしい。わざわざ名前を指定して集めると言うことはそのレイカという者と何か関係があるのか。

 

 と言うことは私は名前が同じだったからさらわれたのか?滅茶苦茶迷惑な話じゃないか。折角学校生活が始まったのに。まぁ前に休校にしたの私だけど。

 

 しかし、この凶悪犯罪者を野放しにする訳にはいかない。隙を見て逃げ出して翔に伝え、ウィッチさんに作戦を立ててもらい、私と零矢で殲滅する。

 

……あれ、何で私こんなに正義感に...これもアグのおかげなのかな

 

「えーっと写真、写真と。俺の娘は...そこの目線が鋭い黒髪ロングのその子だ。なあ、レイカ・ディ・アルコバレーノ」

 

 全員がレオンが指差した方を向く。それは真っ直ぐに私の方を指していた。全員の視線が痛い程感じられる。これはあれでしょ、実は私と見せかけて後ろの銃を構えてるこの人が娘で息子になってる的なドッキリでしょ。

 

 私は指を差された方向から外れるように身体を動かす。しかし、それに合わせてレオンの指は動き、全員の視線はスライドしていく。

 

「……え、えー。私なの?」

 

「露骨に嫌がるなよ、久し振りだなレイカ」

 

 確かに私には父がいて、よく思い出せばこのような見た目だったが私を十五年近く前に捨て、さらにその子の顔さえも写真を見なければ見分けられない父ならば関わりたくはない。平●二期■面▲イ◆ーのクソ父親のテンプレみたいじゃないか。

 

 私の周りの銃を構えたテロリスト達が膝まずく。それに合わせてレオン以外のメンバーもその場に膝まずいた。

 

 その様子を見て、他の“レイカ”達が騒ぎだす。

 

「お願いもう帰して‼」

 

「私達関係無いんでしょ‼だったら...」

 

「あぁ悪い悪い。ほら」

 

 それを聞いてレオンが面倒くさそうに頭を掻いた後、指を鳴らした。その瞬間さっきまで膝まずいていたメンバーが一斉に立ち上がり私以外の女子高生達に銃を向ける。

 

「娘見つかったからもう良いわ。お疲れ様」

 

 そう言って指を鳴らずレオン。それが何を意味するのか、瞬時に女子高生達は察したであろう。自分達は帰ることなどできない。その予想を裏付けるようにテロリスト達は引き金を引く。銃口から放たれた弾丸が女子高生達の額目掛けて迫っていく。何人かは走馬灯のように迫ってくる弾丸のスピードが遅く感じたかもしれない。

 

「ほう、これがお前の能力か」

 

 レオンの声を聞いた女子高生達は涙ながらに恐る恐る瞳を開ける。そこには自分達の額から僅か数センチ程の距離で宙に浮かぶ弾丸があった。パニックで何人かは状況を理解出来ていない。

 

 怯える女子高生達が見回すと一人、レオンの娘の私だけが右手を前に向けて立っている。その右目が白く輝いている様子を見て彼女達は自分達は夢を見ているのではないかと錯覚したかもしれない。

 

「……逃げて、ここは管理局。こいつ等の息がかかっていなければ必ず誰かが助けてくれるはず。こいつ等は私が倒す、だけど外に出られたら誰でも良いから神事屋M-Sに伝えて。……頼んだよ“レイカ”」

 

 私は銃を構えたテロリスト達全員に窒息ノ箱(ボックス)を発動させる。その隙に他のレイカ達を逃がし私はレオンに向き直った。

 

「おいおい、データだと非情で残忍ってなってるのに何故そんなヒーローみたいなことするんだ?」

 

「よく知らないがそれは私の過去の記録、今は違う!」

 

 私は駆け出し、レオンに対して跳び蹴りを放つ。しかし横に避けられてしまう。だがそんなことは予想済、着地の前に空中に壁を設置し、それを蹴って次の攻撃を仕掛ける。

 

 霊子を纏わせ威力を上げた拳をレオンの顔面目掛け突き出した。確実に捉えた、そう思ったのだが私の拳はレオンには届かなかった。割ってきた何者かの掌に私の拳は収まっていたのだ。

 

「御家族同士の争いは止めましょう、お嬢様」

 

 その白髪にタキシードでレオンよりもがたいが良い身体つきをした初老と思われし男性には見覚えがあった。

 

「……サブ」

 

「お久しぶりです、お嬢様。随分と大きくなられて」

 

 子供の頃の記憶、それは殆どが両親との記憶だろう。しかし、私にはそれがほぼ無いに等しい。代わりにある記憶はこの世話役との記憶。それだけは何故か鮮明に覚えている。

 

 対してレオンの顔を覚えていないのは私が顔も見たくないと幼いながらにも思ったから脳が記憶を閉じ込めてしまったのだろう。

 

「まだ信じられない、配偶者の名前を答えろ」

 

「あ?レイナ・ディ・アルコバレーノだろ。お前忘れたわけじゃねぇだろうな」

 

 名字まではわからないが確かに母の名前はレイナだ。つまりこれで本当に父親だということが確定してしまった。本当の血縁関係がある家族、私を捨てた父と今ここに対峙しているのだ。

 

「……何故今更お前と会う必要がある。捨てたのはお前でしょ」

 

「俺にはお前が必要なんだよ、唯一の家族だろ?」

 

 そうやって要らない時に捨てて欲しくなったら連れ戻す。私は人形なんかじゃない。お前が捨ててから私がどんな思いをしたのか知らないくせに、お前のせいで翔の家族と触れ合うまで家族の暖かさを忘れてしまっていたことも知らないくせに。

 

「お嬢様?」

 

 心から深い憎しみがまるで火山のように吹き出して来るのを堪え父親を睨み続ける。すると、私を見ていた二人が急に後ずさりした。

 

「お前、やる気か?」

 

 気がつくと私は無意識に翡翠の鎧を纏っていた。合言葉を唱えた覚えはない。恐る恐る顔に触れると硬い感触、いや硬いもの同士がぶつかったような感じがした。

 

(憎いなら我慢しなくて良い、レイカの思い通りにしてあげるよ。さぁボクに身体を貸して)

 

「止めて、アグ...」

 

 脳内に鎧の声が響き渡る。しかも、今までとは違う。強引に身体の支配権を奪おうとしてくる。まるで首を締め付けられているように息が苦しい。

 

「暴走か。それほど俺が憎いかレイカ?」

 

 憎い憎い憎い憎い。私の感情は全て無視されその二文字だけが頭の中に繰り返し響く。脳がゲシュタルト崩壊を起こし吐き気が催されてくる。

 

「お嬢様‼」

 

 サブが私が手に持った弓を弾き飛ばそうと手を伸ばす。しかし、身体が勝手に動き鎧は彼の首を跳ねようと弓を構えた。しかしその斬撃は彼の首筋に当たることもなく宙で停止し、そのまま押し返された。

 

 予想外の動きに鎧は握った武器を手放してしまい、翡翠の弓が宙に舞う。武器と鎧の距離が開き過ぎると武装状態が解除されることを理解している鎧はサブよりも武器の回収に目的を変え宙に浮かぶ武器に手を伸ばす。

 

 しかし、鎧の中の私の視点は弓からグラリと右にスライドする。左側から攻撃を受けたのだ、だけど私はそれを感知できなかった。

 

 確かにこの状況下薄れる意識の中でどの方向から攻撃が来るかなど感知することはほぼ不可能だ。しかし私にも場数というものがある。ならば何故わからなかったのか、それは見えなかったからだ。サブの攻撃範囲よりもリーチが長い何かで攻撃された。だから私、もとい鎧は攻撃を感知できなかった。

 

 体勢を崩した鎧は地面に転がるがすぐに起き上がりサブに対して駆け出す。だが既に彼の手には翡翠の弓が握られていた。

 

「戻れ」

 

 その言葉と共に鎧が光出しそれと同時に翡翠の弓も光出した。やがて弓の方に光が吸い込まれるように集まり、鎧が身体から剥がれていく。そして身体から黒い蒸気が吹き出して、武装が解除された私は力なく倒れた。

 

「ここまで融合率が高いとはな、驚きだよ」

 

「……レオン...」

 

 倒れた私を覗き込むようにする父を睨みながら私の意識は途切れた。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

「はぁ⁉神聖区全域の高校でヘリによる誘拐事件が発生しただと?あぁ、取りあえず俺も上との話が終わったから今からそっちに向かうが。何か共通点はあるのか?……え、どの高校からも連れて行かれたのはレイカという名前の子だけだと...わかった、取りあえず待っとけ」

 

……レイカって事は霊香ちゃんも連れて行かれたのか?と言うことはGDの仕業?でもそれなら他の高校から同じ名前の子をさらう必要なんてないよな...

 

 俺は地球管理局最高本部から中央棟への長い道を歩いていた。道と言っても建物内の廊下を歩いているわけではない。屋外である。しかも見渡す限りコンクリートの地面。コンクリート砂漠かここは?

 

「秘密保持ったってここまで護衛なしで警察呼ぶってどうなんだよ。お偉いさんは最高本部の周りを砂漠にしてまで隠したい事があるのか」

 

 せめて移動用車とか用意して欲しい。スーツ姿だと暑くてかなわない。移動にかかる時間は歩いて二十分、マジで何でこんなところに作ったんだ?

 

 すると丁度中央棟への道の中間にあるオアシスが見えてきた。と言っても噴水とヤシの木が十本程生えているだけで人っ子一人いやしない。取りあえずここで汗を拭うとしよう。

 

「ったく中間管理職は辛いわ...ん?」

 

 ふと人の気配を感じる。警戒して恐る恐る振り向くと高校生らしき女の子がこちらを怯えながら見つめていた。

 

「やべ、見ちゃいけないもの見たわけじゃないよな」

 

 噴水の水を顔に掛けもう一度冷静になってからそちらを見る。蜃気楼ではない。確かにそこに女の子は立っていた。

 

「君、何でここにいるの?社会見学じゃ無いよね、ここ立ち入り禁止区域だし。取りあえずこっちにおいで」

 

 すると木陰から続々と姿を表しあっという間に二十人程になった。しかも全員が違う種類の制服を着ている。え、本当に蜃気楼じゃないよな。

 

「待って、もしかして君達の名前ってレイカだったりする?」

 

「そうです‼急に誘拐されて、そしたらレオン・デウス・アルコバレーノが」

 

「え⁉あいつは冥王星の監獄に収容中のはず...じゃあここに連れて来られたって事かな」

 

 女子高生達は顔を見合せ一斉に頷く。つまりお偉いさん達はレオンの脱獄を隠ぺいし、しかも当人を本部にかくまうような行為をしているということか。

 

 そういえば、霊香ちゃんの姿が見当たらない。もしや運よくさらわれてないのだろうか。

 

「君達の中に神聖学園の制服を着た子がいなかったかい?」

 

 すると雰囲気が変わり全員が暗い表情になった。

 

「いました、一人だけ。その子が私達を逃がしてくれたんです」

 

「でもその子をレオンが俺の娘だって」

 

 その言葉はすぐさま電気のように俺の脳内に響き渡った。あの子がレオンの娘?確かにあいつには一人娘がいることは判明していたが、それが自分の家にいたってことか。そうなると俺の立場を知っていて彼女は翔に近づき父親の脱獄の為の情報収集をするつもりだったのだろうか。わざわざ命を狙われる振りまでして。

 

「……そうか。取りあえず君達を警察で保護しよう。ここにいたら秘密保持の為に命を狙われかねないからね。問題はこの区域をどう出るかだけど」

 

 恐らくこの子達は本部までの手続きをしないままここに連れて来られている。そうなるとそう易々と受付を通っては帰れないだろう。

 

 受付に状況を説明...して通じるかどうか。少なくとも管理局側の人間だからそう簡単には通れまい。中央棟で待たせている部下に連絡しようにもどう説明すれば良い?

 

 犯罪者を管理局が匿っている。そんなことを公表したら世間から暴動が起きかねない。この子達が今起きている事を口外しないなんて保障はない。それでも、

 

……家族に会えないのは嫌だよな

 

 不安そうに互いの目を見合ったり、泣き出している子達を見て可哀想に思えてくる。秘密保持の為にこの子達をこのままにするなんて出来ないよな。

 

 俺は携帯を取りだし部下に受付に事情を説明し、もし従わなかった場合は強行突破してくるように伝えた。その後、知り合いの幹部にも連絡し、警察部隊を手配する。

 

 これでこの子達は家に帰れるだろう。だが...

 

 俺はもう一つの連絡先をスマホの画面に映し出す。この人物は今回のような時に最も有効な能力を持っているしかし、

 

……また頼らなければならないのか...

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

「ごめん、今帰った‼」

 

 夜になり学校から卯一が神木宅に戻ってきた。額には汗が浮かんでおり、駅から走ってきたらしい事が伺える。

 

 リビングへと続くドアを開けるとTVの前のテーブルの周りにに零矢、翔、そして以外にも『治療』が座っていた。テーブルには『治療』の目から映し出された映像が流れている。

 

 一応卯一の端末にも送られていた映像だったが改めて見てもヘリに付いている印からして管理局のものに間違いはなかった。つまり、卯一にとってはあまり信じたくはなかったが管理局が今回の事件に関わっているのが明白になってしまった。

 

「でも一番わからないのがこんな大掛かりな事をしてまで霊香ちゃんをさらう必要があるかなんだよね。彼女がGDだという事を認知した上で抵抗しないようにだとしても生徒を縛るのはやり過ぎだし」

 

「じゃあテロリスト達が管理局の弱味を握ってて設備を使用しているとか?」

 

「今のご時世そんな簡単に設備を使わせないよ。まぁでも近いものはあるかも。例えばテロリスト側の誰かにまたは所持物に管理局側がどうしても欲しい何かがあって、または隠したい何かがあってそのために設備を供給したとか。まぁやってる事は犯罪だけど」

 

 高校生になり少しは政府の陰謀だとか隠ぺいは現実にも少なからず存在することに薄々感じていた零矢と翔はほぼ同時に息を呑んだ。そうなると無事に霊香が帰って来る可能性は極めて低い。フィクションならば存在を抹消されるか洗脳されるかといったところだろうか。

 

 男子高校生二人が不安な顔をして考えているのを見た卯一は二人が考えてそうな事を察し、

 

「まぁ君達が考えている程エグいのは...ないと思うけど」

 

 だがこの言葉が二人の妄想に拍車をかける。特に翔はもう目に涙を浮かべ始めていた。

 

「それよりもこれを見てください」

 

 『治療』の一言で全員が気を取り直してテーブルに目線を移した。しかし映っているのは同じヘリ、強いて言うなら少し角度が違って映っているというぐらいか。

 

「どうやら破神霊香が誘拐される数分前にもヘリがいくつか飛行していたようで、さらにネットからの情報によれば近隣の高校全てで同じ事が起こったようです。しかも誘拐された生徒は皆“レイカ”という名前だと載っています」

 

「レイカという名前の生徒だけを集めている?」

 

「しかも名前的に多分女子高校生だよね。その中に管理局もしくはテロリストと関係がある子がいる可能性が高い。そのテロリスト達もしかしてGDだったりする?」

 

「GDにしては拍子抜けなような...武器を持っていたから手こずっただけで実際今までの奴らよりは圧倒的に弱かったっすよ」

 

「じゃあ別のテロ組織とか?有名どころなら『七罪の指導者(シン・ヒューマニズム)』とか、後は...」

 

「……『虹の王国(アルコバレーニョ)』、かのレオン・デウス・アルコバレーノが率いるテロリスト集団です。彼が所持する兵器の情報と引き換えなら考えられなくもないはずです」

 

 何だか間に抜けたような名前だが知名度だけなら前述の『七罪の指導者』を軽く凌ぐ程である。といっても起こしたのはケレース爆破の一件だけ。これでも十分大罪ではあるが。

 

「それに過去にネット上で流れた噂程度ではありますが彼には一人娘がいたという情報がありました。もしそれが今回の事件と関わりがあるのなら」

 

「娘を回収しに来たってことか。なぁ『治療』、そいつについてもう少し教えてくれ」

 

 皆が話始める中、翔は自分の携帯に着信が来ているのに気づいた。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

「くっ...」

 

 目覚めると私はベッドの上だった。服はバスローブのような物を纏い、頭には包帯が巻かれ、腕や足などにも手当てがされていた。ツインテールにしていた髪は真っ直ぐ伸ばされており、というか驚いたことに手入れされていた。

 

 傍らには髪止めと新しい衣服がおいてあった。着替えろということだろうか。...いやいやいや待て待て待て。この格好でベッドはヤバいでしょ、何もされてないよね。髪までとかしたのがレオンだったらドン引きなんだけど。取りあえず異状はないし、痛くはないから何もなかったのだろう。

 

 着替えを見ると、制服とはうってかわって白をベースとし所々に雲の巣のような黒い意匠が見られるワンピースだった。他には『翡翠の弓矢』と、これはケープだろうか。

 

 手早く着替えを済ませ扉を開けて恐る恐る部屋を出る。廊下はどこかの家というよりは施設のような雰囲気だった。もしかして管理局の中なのだろうか。驚いた事に人の気配はない。あるとするなら自動で動く監視カメラぐらいか。

 

……逃げても無駄か、こちらの動きはお見通しなのか

 

 私は真っ直ぐ廊下を進んだ先にある他より大きなドアを開いた。そこは壁の一つがガラスになっており、中央よりもガラス側にお高そうな机と椅子が配置され、椅子はガラスの方を向いていた。

 

「なぁ、昔の話をしようか。ある星が開拓された時、とある若き実業家はその星の実権を握るべく真っ先にその星に赴き僅か数ヶ月でその星を手中に治めた。そしてその星の中で最も優れた年下の女を配偶者にした」

 

「やがて二人の間に娘が生まれ、その子は母親に良く似ていた。親子の間には幸せな時が流れた。しかし、母親の病気が発覚し、それ以来母親はベッドの上を離れる事は出来なくなった。やがて母親が亡くなると父親はその娘の事を愛せなくなった、だから捨てた。違うか?」

 

 椅子が回り座っていたレオンが姿を現しその腕を机の上に置いた。

 

「思い出したか?」

 

「……少しだけ」

 

 眠っている間に見た夢、それは過去の記憶だった。忘れていた幸せな日々。日に日に狂っていく父の姿。捨てられた時の悲しみ。間違いなくその全てのシーンにこの男はいた。

 

「お前を辰神に引き渡した時、お前は今と同じゴスロリだった。覚えてるぜ、なんたって大切な一人娘だからな。大きくなったなレイカ」

 

 辰神という名前に心当たりは無いが話の内容的にGDのボスの通り名みたいなものだろう。覚えてるだと?私が預けられた場所は間違いなく生き地獄だった。本当に大切ならば親として預けていい場所ではない。

 

 私は怒りを顔に出さないように静かに拳を握りしめ口を開く。

 

「何故私を連れ戻した?」

 

「そりゃスカウトみたいなものだろ、これからは『虹の王国』の主要メンバーとして...まぁそれはあくまで表向きだがな。本心を言うならお前にもう一度会いたかったからだ。捨てたのに、って顔してるな。あの時は事情があった、それは後で納得いくまで説明してやる。だがまぁ元気に育ち、強靭な肉体になってくれたのは俺の誇りだ」

 

 この男は何を言っているのだ。私がこいつの誇り?元気に育った?翔に救いだされるまで感情が殆ど消えていたのに?お前なんて私の家族なんかじゃ...

 

「たった一人の家族だからな」

 

 レオンは立ち上がり私の肩に手を置いて耳元で囁いた。その言葉からは気持ち悪さを感じるよりもどこか優しさのようなものを感じる。先刻、似た言葉を聞いた時に頭の隅に引っ掛かっていた言葉、そう“家族”という言葉が繰り返し響いていた。

 

……家族、例え離れていても同じ血が通った人間同士。私の唯一の肉親...そうだ、どれ程憎くてもこの世にたった一人だけの紛れもない家族だ。それは私が求めていたものだ

 

 振り返ると既にそこにはレオンはいなかった。半開きになったドアが風で揺れ、軋む音と共に私の脳内には再び家族という文字が響いていた。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 それは父からの電話だった。他の三人が話し合っている間、僕は電話と言って一旦家を出てドアの外で応答する。

 

「翔、霊香ちゃんは?」

 

「さらわれた。そっちに連絡行ってないの?」

 

「やっぱりか...悪いちょっと話がある。今家にいるか?」

 

「いや、バイトの先輩の家だけど」

 

「じゃあ一旦帰って来い」

 

「わかった」

 

 そう言って電話を切る。話とは何だ?電話口ではなくわざわざ家で話すということは母さんも含めた話し合いだろう。

 

 考えても仕方ないので一度室内に戻った。丁度話終えたのか僕を待っていたように入り口の方を向いていた。

 

「すみません、父から電話で帰らなきゃいけなくなりました」

 

「了解。そう言えば翔君のお父さんって警察だったよね?もし何かわかったら知らせてね」

 

「はい、失礼します」

 

 僕は先輩の家を出ながら先程話し合っていた内容を父に伝えるか悩んでいた。僕らの話はあくまでも仮説だ。それに先輩達の事をどのように説明する?僕が拉致された時に霊香さんと一緒に助けてくれた人と説明したら霊香さんつまり元GDと同等の戦闘能力があるということになる。

 

 それは警察からすれば厄介な存在に変わりはない。下手をすれば重要監察対象としてつけ回される可能性だってある。そしたら霊香さんが元GDだということが世間にバレるのも時間の問題だ。

 

 ならば先輩達を含め不要な事は言わない方が無難だろう。それにあまり心配をかけたくないのも事実だ。特に母さんには以前の事もあるし。そうこう考えているうちに家に着いた。

 

「ただいま」

 

「おかえり...霊香ちゃんはいない...か」

 

 父さんから話を聞いていたのだろう、わざわざ玄関にまで来た母さんは心配そうな表情をしたまま僕を迎えた。

 

 父さんが帰って来るまでの間、母さんは僕に怪我はなかったのか、霊香ちゃんは無事なのだろうかと口を開きっぱなしだった。実の娘同様に接してきたのだからよほど心配なのだろう。

 

(私は...例え彼女が奏の手掛かりだとしても普通に接してあげたいの)

 

 いつだか母さんが僕に言った言葉が脳裏によぎる。我が家が霊香さんにひた隠しにしている事、それは時神 (かなで)、僕の妹の事だ。母さんが霊香さんを大切にしていたのは恐らく奏に面影を重ねていたからだろう。

 

 奏は既にこの世にいない。とある事件で七年前に亡くなった。その手掛かりがGD、そして組織の内部を知りながら組織に属していない霊香さんはその手掛かりを探すためにはぴったりな人材なのだ。

 

 かと言って単なる道具として見ているわけではない。僕だって大切な家族の一人だと思っているし、彼女が来てからこの家は幾分か明るくなった。だから母さんには僕達には力があり、武器があり、これからも死闘が続くかもしれないなんて事は言えない。

 

「今帰った」

 

 ようやく父さんが帰って来て食卓に腰掛ける。たった一人いないだけでいつもの場所はお通夜のように重い空気が漂っていた。

 

「テレビで見たかも知れないが霊香ちゃんの他にも他の高校で“レイカ”という名前の女子生徒がさらわれた。だがその子達は地球管理局内部で発見された」

 

 報道されていない事実を耳にして驚く母をよそに僕は机の下で携帯のメモを起動する。

 

「その子達によれば連れていかれた先にレオン・デウス・アルコバレーノがいて、そいつが霊香ちゃんを自分の娘だと言っていたらしい」

 

「ッ!?」

 

 予想外の事実に思わず息を呑む。先輩達の予想はほとんど当たっていたという事か。なら霊香さんはレオンの元を離れてGDに入ったって事か。一体何のために?

 

 そこまで考えて脳裏に一つの可能性がよぎった。それは当たっていて欲しくない可能性。しかし、

 

「信じたくはないが霊香ちゃんはスパイとしてGDに所属し、問題を起こして脱退する際に警察関係者がいる我が家に転がり込んだ、全てはレオンのために」

 

 無情にも父さんはその可能性を告げた。僕だってその可能性は外れていて欲しい。だがもしそれが真実ならば、彼女は僕達の前で家族を演じていた事になる。他人の懐に入り込み同化して警戒心を解く、正にスパイのごとく。

 

「もしそうなら、奏の事を聞き出そうと試みていた俺らからレオンに関する情報を聞き出そうとしていたかもしれないとはとんだ皮肉だな」

 

「そんな言い方...」

 

「俺だって言いたくて言ってる訳じゃない」

 

 この場から立ち去りたい程の重く、居心地の悪い空気が辺りに漂う。この場で僕らが言い争ったところで何も解決しない事は重々承知のはずだ。

 

 だが僕らは無いにも等しいかもしれない最悪の可能性を前提として考えてしまう。全員がネガティブ思考に囚われてしまう。奏がいなくなってから表面上は変わったとしても結局僕らは七年前のあの日から変われないのだ。

 

 どうしようもない雰囲気を掻き消すようにリビングの電話がなる。父さんは気まずそうにため息をつくと電話の置かれた棚の前に行き、受話器を取った。

 

「もしもし、時神ですが」

 

「そちら時神 翔君のご自宅で間違いないでしょうか」

 

 スピーカーになっていたらしく、相手の話していることがこちらにも把握できた。声色としては父さんと同じぐらいの男性だろうか。だが発音が何だか軽い人のように思えた。

 

「そうですが、そちらは」

 

「いやうちの娘がそちらのお宅には大変お世話になったので。何かお礼をと思ってな」

 

 その言葉で全員の動きが止まる。我が家にいた家族以外の人は一人だけ、そしてこのタイミング。全員が電話の相手を推測するのにそう時間はかからなかった。

 

「レオン・デウス・アルコバレーノ...」

 

「流石、『地球管理局警察組織部副部長』時神 針太郎。既に情報は渡っているらしいな」

 

 父さんの素性が把握されている事に僕らは驚く。仕事柄そう易々と回りに職業を言いふらすような事はしない、言っても警察止まりなのでどの係のどのポジションかなど身内ぐらいしか知らないはずである。

 

「驚く事はない、何だって知ってるさ。妻、時神 薫は某有名広告代理店幹部。息子、時神 翔は神聖学園高校一学年、所属はサッカー部だろ?もう少し詳しく言うなら...」

 

 かの有名な凶悪犯罪者に個人情報が流出している事に戦慄が走る。確かに地球管理局にならその情報はあるはず、だが個人名簿は特定条件下以外では閲覧不可能になっているはずなのだ。

 

 戸惑っているとGod-tellが震える。画面を見ると“神”が口に人差し指を当てながら文字が書かれた白いボードを持って僕に指示していた。そこには、

 

『逆探知してやるから私を電話の近くに置け!』

 

 と書かれており、僕は話している父さんの近くまで行き、携帯を電話に密接するように置いた。その行動を不審に思った父さんが指を指して訪ねるが、画面に逆探知中と書かれているのを見て事情を把握したらしく再び会話に戻る。

 

「ちなみに娘、時神 奏は...」

 

「もう良いだろ、何が目的だ?」

 

「言っただろ?お礼だよお礼。娘をGDの魔の手からご家族一丸となって守ってくださってありがとうございますっていうお礼」

 

「そんな事のためにわざわざ掛けて来たというのか?」

 

「話を最後まで聞けって。レイカを預かってくれていたお礼に後に生活費を何割増しにして返すし、元犯罪者のレイカを家に匿っていた事実を世間に公表したりはしない。ちゃんとしたお礼だろ?」

 

「ふざけるのも大概にしろ。犯罪者から貰う金などこちらからお断りだ。それにお礼と言いながら脅迫も混ざっている、そんな提案を警察の俺が呑むとでも?」

 

「あんたらの今後の人生に大きく関わる事だ。もう一度ゆっくり考えてから答えを出せ。また連絡してやるよ、チャオ」

 

 ツー、ツー、ツーという電話を切った音がこだまする。ほぼ一方的に話して切られた気もするが、僕らが脅されているのに変わりはない。

 

 携帯を見ると逆探知成功の文字が表示されており、タップすると地図が表示された。図上で赤く点滅している場所が電話が掛かって来た場所だろう。父さんが覗き込みその場所の名を呟いた。

 

「地球管理局本部...」

 

 奴は、レオンはやはり地球管理局に居座っている。恐らく霊香さんもそこにいる。彼女を救うにはそこに乗り込むしかない。そうとわかれば早速ウイッチさんに連絡を...

 

「待て、翔。その携帯は何だ?どこで手に入れ、何故逆探知の機能が入っている?説明しろ」

 

 やはり...説明しなければならないのか。不安げな母さんを横目に後ろめたさを感じつつ僕は先輩達の事を話した...




「あなた達は一体...何者なんですか?」

「本当に全部嘘だったんですか!?」

「箱から参りますので」

「決断を下すのはまだ早いのでは?」

次回「I want to know your true feeling」

「君達冥王星の監獄にぶち込まれる覚悟はできた?」
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