俺達と神達と空想神話物語 番外編?   作:赤色の魔法陳

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霊「……前回さらわれてゴスロリになった私。主人公なのに出番があまりなかったが今回は...」

零「あらすじが適当過ぎるだろ。ゴスロリしかわからないぞ」

卯「まぁまぁ、今回もちゃんと戦うし」

霊「私以外だろ」

零・卯・翔「……」

霊「はぁ...次回に賭けよ。どうぞ」

神「次回じゃなくて今回の予告をしよう!?」


I want to know your true feeling

「俺らが変装した所で普通にバレると思うんですけど」

 

 精巧に作られたマスクを被りながら零矢は不満を漏らす。珍しくスーツ姿にこのために買ってきた革靴を履いたその姿は赤の他人が見ればまさしく時神 針太郎だった。

 

「まぁまぁ、後は演技力だけだから頑張ろ、あなた♪」

 

 もう一人、先に準備を完了していた卯一が零矢を茶化す。こちらも慣れないスーツ姿に革靴を履いた時神 薫そのままの姿をしていた。

 

「失礼します...うわっ!凄い、そっくり」

 

 部屋に入って来た翔が二人を見るなり息を呑む。二人の仕草や立ち癖等を除けば自分の両親と瓜二つの顔をしていた。この為に本人達から腕時計やネックレスを拝借し、婚約指輪こそレプリカだが赤の他人が気付く事はないだろう。

 

「どこでそんなマスクを作れる程の技術を...」

 

「良く出来てるのねぇ」

 

 遅れて入って来た本物の時神夫妻が感心する。まるで鏡を見ているかのような現状に二人は驚愕と共に畏怖の念を抱いた。

 

 しかし、自分達が犯罪者と会うのに丸腰では危険である。例え危害は加えないと最初に約束していたとしてもそれを反故にされる可能性は捨てきれない。なので今回はこの二人に頼るしかないとはいえ何も出来ない自分達に歯痒さを感じていた。

 

「準備OK、そろそろ行くよ」

 

 薫の顔をした卯一が号令を掛ける。それを聞いた零矢はネクタイを閉め直し腰を上げ、翔もそれに続く。

 

「一応変装中なのでくれぐれも外出は避けて、なるべく宅急便等にも出ないで下さい。後、電気もそんなに使わないように、どこかに監視役がいるかもしれませんので」

 

 玄関で翔が靴を履いている間、卯一が時神夫妻に諸注意を話す。相手は僕らの職業すら完璧に言い当てる程の情報網を持っている。殆どは管理局からの物だろうが他にも情報を流している輩がいないとは言いきれない。

 

 翔が靴を履き終えたのを確認して三人は家の外に出て鍵を閉めた。指定されたのは管理局付近のホテル、そこで金品の引き渡しがあるという事だった。移動手段は徒歩に電車。下手に『赤車』で行くよりはマシだろう。

 

「あのさ...」

 

 駅までの道のりの最中に卯一が小声で翔に話し掛ける。

 

「君のご両親ってラブラブだったりする?」

 

 緊張を吹き飛ばすかのような質問に翔は一瞬固まってしまう。しかし少し遅れてそれが変装の為に必要な事だと理解し、同じく小声で返した。

 

「あんまり人前でイチャついたりはしませんが出かける時に手を繋いだり腕を組んだりしているのは見たことはあります」

 

 ふーん、と言った反応を見せた卯一は急に零矢の腕を取り、それと自分の腕を組む。

 

「なっ...!?」

 

 突拍子もない行動に女性経験の乏しい零矢は驚いて腕をほどこうとするがガッチリとホールドされてしまい抜くことができなかった。

 

「いつもしてるでしょー、照れちゃってあ、な、た♪」

 

 そこまできてようやく演技だと気づいた零矢は少し複雑な気持ちになりながら覚悟を決めて力を抜いた。が、再び力んでしまう。

 

……当たってる...柔らかいのが

 

 冷静に考えればスーツ姿なので胸部よりも腕の方が柔らかいだろうがそれに気付くほど零矢は平静を保ってはいなかった。

 

 まるで新婚のような二人を横目に翔は深刻な面持ちをしていた。もし霊香さんが裏切っているならば魔王装備を保持している事は筒抜けになる。おまけに先輩達の情報も。

 

(だから念の為に君にもついて来てもらう。私は不測の事態に対応はできても完璧に予知することはできないからね)

 

 つまり、その最悪の状況下にあった場合の切り札として翔は同行している。それ以外は足手まといになるだろうと翔は自覚していた。

 

……予知はできても対処法が思い浮かばなければ行動に移せない僕と違って、彼女は予測と計算で動ける上位互換。先輩は言わずもがな

 

 冷静に考えれば考えるほど惨めさは増していく。それでも翔は自分で主張したのだ。霊香を助けたいと。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 話は昨日――五月二日に遡る。

 

「はーい」

 

 大型連休前日の朝八時、神木家のインターホンが鳴り、卯一がそれに応答する。相手は中年と思わしきスーツ姿の男性で、当初卯一は訪問販売の類いの者だと思い出ようか迷っていると、

 

「時神です、お二人ともご在宅ですか?」

 

 その男性の傍らから見知った顔がカメラに映り、すぐさま卯一は隣の男性が翔の父親だという事に気づいた。それに応答した後で朝食の片付けをしている零矢に声を掛ける。

 

 すぐさまテレビ前の机の周りを片し、卯一がお茶の準備をしている間に零矢がドアを開けた。

 

「ん?どした」

 

 先に男性の方に軽く礼をすると、傍らにいる翔に用件を訪ねる。だが翔が口を開く前に男性が、

 

「こういう者で、少し中でお話させていただいてよろしいですか?」

 

 と内ポケットから取り出した警察手帳を提示した。

 

「聞き込み...ってわけじゃなさそうっすね。どうぞ」

 

 この時に零矢は翔の父親が警察だった事を思い出し、翔が何故ここに連れて来たのか不思議に思いながらも家の中に招く。その際に家の周りを見回し、張り込まれていないかを確認した。どうやら翔と二人で来たらしい。

 

 二人をリビングに通し、テレビ前のソファーに促して卯一はお茶を出し、後から来た零矢と共にテレビと机の間に座る。

 

「翔の父です。すみません、連絡もなしに突然」

 

「いえいえお宅の翔君にはお世話になっておりますので」

 

 他愛ない挨拶を終えると本題に入ろうと言わんばかりに針太郎は懐から携帯端末のような物を取り出した。それは二人も見覚えのあるGod-tellだった。

 

「この携帯端末は翔があなた方からバイトの際の連絡手段として頂いたと聞いておりますが、逆探知の機能なんて普通は使わない物が入っている理由をお聞かせ頂きたい」

 

 卯一は瞬時に“神”が逆探知を行っている瞬間を見られたのだと悟りこの状況を切り抜ける案を考える。もし逆探知後の画面を見たならばまだアプリの類いだと切り抜けられるのだがその前に画面に向かって話し掛けるあの“神”を目撃された場合、言い訳を考えるのが更に困難になる。

 

 “神”の存在は門外不出、データ上からパスワードを介することなく機密情報を閲覧できるようなハッカーAIもどきなど所持している事がバレれば国家転覆目的と疑われても仕方ない。めでたく神事屋は犯罪企業のレッテルを貼られるだろう。

 

「それはあれですよ、物騒なんで誘拐された時にと念の為に入れておいた物で」

 

 考える卯一をフォローする為に零矢が最もらしい言い訳を話す。しかし、針太郎は更なる不審を抱いた。

 

「でもこれ、誓石(オリハルコン)ですよね。入手も加工も難しく、そもそも一般人に存在さえほぼ知られていないこれを簡単にバイトに渡すんですか?」

 

 誓石製と言われた事に驚き二人は口をつぐんでしまう。確かに何も知らない者から見ればこの端末は普通に売買されている物より少し派手な色としか考えないだろうが、誓石を知る者から見れば特有の模様、温度、そして掌から伝わるエネルギーからこれが誓石製だと見抜くのは造作ない。

 

 そもそも大企業ですらない会社のしかもバイトが誓石製の物を持っている時点でその会社はどう考えても普通ではない。返す言い訳がなくなった二人に追い討ちをかけるように、

 

「あなた方は一体...何者なんですか?」

 

 という針太郎の質問が投げ掛けられる。その威圧感に零矢は目を反らす。もしここで捕まれば生き返る事はできない。いつ消えるかもわからない身体で牢獄に閉じ込められる訳にはいかない、そう思いながら拳を固く握り閉めた。それに気づいた卯一は、

 

「……対テロリスト用民間組織、それが私達の裏の顔です。神谷(かみや) (みつぎ)率いる我々神事屋M-Sは表をいわゆる何でも屋、裏をテロが起きた時に最前線で戦闘、救出を行う部隊なんです」

 

 零矢にはだいたい言いたい事が伝わっていたが、合ってるような間違ってるような告白をすらすらという卯一に驚きを感じていた。

 

 だがそれよりも驚いていたのは翔だった。そもそも裏の顔とやらの仕事内容を正式に聞いたのはこれが初であり、神谷という人物など全く知り得ていない。実際零矢もその名前を聞くのは久方ぶりである。その名前の正体はこの事態を引き起こした張本人の“神”の偽名なのだが。

 

 流石にこの告白には針太郎も若干呆気に取られていたが、すぐに気を持ち返し更に質問を続ける。

 

「そこに何故翔が?」

 

「彼の能力を貢が見抜いたからです。テロリストに対抗出来る能力を持った人材として」

 

「その貢氏はどこに?」

 

「連絡先を知らないのでわかりません」

 

 警察相手に反論を許さぬ弁論術でペースを取り返す卯一に零矢と翔は内心引いていた。

 

「それよりこちらからも質問して良いですか?」

 

「えぇ...はい」

 

「お宅で預かっている霊香ちゃんがさらわれた件についてなんですがそれについての情報をお教え頂きませんか」

 

 ここでこちら側が知りたい情報を聞き出すの!?という表情をした零矢は卯一がこの状況をチャンスと考えているのに気付く。この後で翔が捜査状況を針太郎に聞いたところで疑われるのは必然、ならば直接今聞けば良いのだと。

 

「答えたら?」

 

「それを元に霊香ちゃんの救出作戦を考えて実行に移します、ね?」

 

 卯一が零矢に目配せをし、それを読み取った零矢が、

 

「もちろん。霊香も俺達の仲間ですから必ず取り戻します。そのために情報を頂けませんか、お願いします!」

 

 零矢と卯一が頭を下げる。それを見て翔も針太郎に頼み込む。その姿を見た針太郎は霊香を取り戻そうとする自分達家族と二人にシンパシーを感じ、

 

「君達の事を完全に信じたわけではないがこちらも神事屋を探していたんだ。霊香ちゃんに言われたと女子高校生達が言っていたからね。俺が持っている情報を君達に渡そう」

 

 それを聞いた二人は礼をすると作戦を立てるべくメモとペンを用意して再び机の前に座った。

 

「そう言えば名前を名乗っていなかったね」

 

 そう言って針太郎は自分と薫の事を手短に説明した。それに合わせ零矢と卯一も軽く自己紹介をする。二人がまだ未成年だったことに針太郎は驚いていた。

 

「表札は神木だったけど、もしかして二人はカップルなのかい?」

 

「「えっ!?」」

 

 唐突な質問に二人は顔を見合わす。まぁ無理もないだろうと翔は思った。第一仲が良いのはわかるが距離が近いし歳だってそこまで離れてはいない。お似合いだとは思うのだが。

 

「ちっ違います!彼はその...仲の良い世話のやける弟というか!」

 

「そっ、そうです!歳の近い姉っていうか世話好きな母親的なっ!」

 

 お互いに言った言葉にお互いにムッとなって顔を見合わせる。そして我にかえって気まずそうに目を反らした。これをどう見たらカップルじゃないと言うのだろうと翔は考えていたが、針太郎から見れば翔と霊香の関係も大差なかった。

 

 自分と薫の若き日の事を思い出していると針太郎は自分の携帯に着信が着ているのに気づいた。すぐに薫にメールを送るとすぐに返信が来た。その内容を見た針太郎は、

 

「すまないが一度家に来てくれないか?話はそこで」

 

 と二人に促すが、

 

「でも誰かが見張っているかもしれないし」

 

 と翔がたしなめる。確かにこちらが部下を引き連れて取引場所に来るのではと疑い見張りをつけている可能性もある。その場合、二人が我が家に入る事でそれが部下と見なされたらレオンと近づくチャンスは絶望的になる。

 

「何だか良くわかりませんがそちらのお宅に気付かれないように行けば良いんですか?」

 

 事情を察した卯一が針太郎に助け船を出す。

 

「それぐらい簡単ですよ、先にご自宅で待ってて下さい。箱から参りますから」

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

「お届け物でございます」

 

「はい」

 

 夜になり自宅に人一人はゆうに入るぐらいの段ボールが届いた。差出人は記されていない。あれから霊香さんがレオンの娘であること、レオンから取引を持ち掛けられていることを話したが、ウイッチさんはさほど驚く事もなく、準備しておきますのでと行って僕達を早々に帰した。

 

「これレオンからかしら、配達人もロボットのように無表情だったし。何かキョロキョロして挙動不審気味だったわ」

 

 ロボットと聞いて脳裏に『治療』と『武器庫』の姿が浮かぶ。まさかと思い段ボールのガムテープを剥がしていく。そこまで頑丈に密封されておらず三人で縁にあるガムテープを全て剥がして恐る恐る箱を開く。

 

 半開きになった箱から人の手のような物が見え、死体と早とちりした母さんが悲鳴をあげそうになるのを父さんが防いでいるとその手が箱を押し上げ手招きをするように動き、

 

「あの、出て良いっすか?」

 

「ちょっ、ちょっと!?急に動いたら...あっ、痛たたた!痛い、ストップ、ストップ!!」

 

 と聞き慣れた声が段ボール箱の中からした。安心感に包まれながら箱に近づき中を見てみると、零矢先輩とウイッチさんが体育座りで向き合いながら脚を交互に入れて頭を膝付近まで近づけていた。

 

 側面には箱の形が崩れないように板が入れられており、これのせいで先輩達は箱の中から出られないようだった。じゃあ一体どうやって入ったのだろうと考えたが『治療』が二人を押し込んでいる様子が脳裏に浮かび上がり、それ以降は考えるのを止めた。

 

 大急ぎでカッターを取り、中に気を付けながら 端に刃を通して行く。やがて一つ、二つと端に切り込みを入れて行くと、

 

「離れとけ」

 

 と中から声が聞こえると、ドンという音と共に側面の一つが倒れ、そこから先輩がゆっくりと出てその後でウイッチさんが箱の中から立ち上がった。

 

「三十分以上箱の中だと流石に身体が固まるね」

 

「汗とか臭くなかったですか?」

 

「馴れてるから大丈夫だよ」

 

 一人だけ先輩達の事を知らず状況を上手く飲み込めない母さんが恐る恐る知り合いかと僕に訪ねてくるので、さっき説明した助っ人だと説明した。

 

「えーっと、お二人はそういうプレイを...?」

 

「「えっ?」」

 

 暴走する母さんを父さんが制止している間に僕が母を紹介する。突然の発言に固まっていた二人だが紹介を聞きながら何とか意識を取り戻した。

 

「あー、えーっと。ゴホン、ご紹介に挙がりました?よね、改めまして翔君のバイトの先輩の幼美と...」

 

「…神木です。えーっと面白いお母様ですね」

 

 何とフォローすれば良いのかわからず捻り出した言葉を聞いてウイッチさんは肘を先輩に軽く当てる。

 

「あっ、別に今のは悪い意味じゃなく...」

 

「気にしないで下さい。霊香さんの時も似たような感じでしたから」

 

 気まずい、空気が非常に気まずい。あまり苦笑いをしないで欲しい。母さんは基本大人相手しか会話しないから自分の子供と同い年辺り、しかも高校生に対する話し方が微妙にわからないのだ。

 

 その点、父は事情聴取などで高校生に聞き込む事もあり、話題を合わせることは容易い。なので相対的に見た場合、この家では母さんがちょっと変に見えてしまう。

 

「ま、まぁえーっとご自宅の敷地内をサーチしましたが盗聴機の心配はなさそうですね。ただ、外に見張りが二、三人ほどいました」

 

 やはり見張りがいたが予想より多いな。父さんが警察関係者だから部隊を手配していたと考えられるのが普通か。やっぱり普通に取引する気はないんだろう。

 

「ところで、そろそろ話して頂けませんか?何故このような状況になっているのかを」

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

「予想はしてたけど霊香ちゃんがレオンの娘だとは...でも私達が取引現場に行く訳にも...」

 

 僕らが知り得る情報を全て話し終えるとウイッチさんは取り乱す事もなく顎に指を当てながら冷静に状況を整理した。因みに情報とは僕らの昨日の会話と、僕らが先輩達の家にいた間に母が出た電話の内容だった。

 

(管理局近くのビジネスホテルのロビー、そこで金を用意して待っている。今後の自分達の地位を守りたいなら正午までに来い。部隊なんて連れて来たら、わかるよな?)

 

 電話してきたのはおそらくレオン。文面だけなら誘拐犯が身代金を要求してきたように見えなくもない。金を用意しているのは向こう側と言うのが違っているが。

 

「変装とか、どうですか?呼ばれているのはお二方だし、俺達二人がお二方に変装して取引に応じれば良いんじゃないですか」

 

「そんな、危険過ぎる!テロリストの巣窟に乗り込むようなものなんだぞ!?」

 

 先輩の提案に父さんが強く反対した。それもそのはず、父さんが言っているのは正論だ。だがそれは先輩達が普通の子供ならだ。彼らは霊香さんと同じ、死線をくりぬけた能力者。多分父さん達が行くよりは圧倒的に安全だろう。

 

「いや、それが最適解だね。丸腰でも対抗手段が多少ある私達の方が安全かも」

 

「じゃあ俺とウイッチさんで行きますか?」

 

「いや...考え得る最悪の状況、つまり霊香ちゃんが裏切って、うーんこういうのは何か変な言い方だけどレオン側の人間だった場合、私達じゃ情が働いてすぐに動けないかもしれない」

 

 そう言ってウイッチさんは僕の方を向いた。

 

「だから念の為に君にもついて来てもらう。私は不測の事態に対応はできても完璧に予知することはできないからね」

 

 僕の能力がバレていないならば家族として行くのは不自然ではないし、ノータイムで発動出来る能力ゆえに例え手の内がバレていようと不穏な動きは控えるだろう。

 

 相手に対する抑止力、つまり味方陣営に対する切り札として僕は参戦出来るということだ。父さんの前だから大きな声では言えないが『黄金の槍』もある。最悪戦闘になった場合、先輩と僕で霊香さん一人ぐらいは対応は出来る。

 

「という事ですが賛成して頂けますか」

 

 父さんと母さんは顔を見合わせたがすぐに頷き二人揃って頭を下げた。

 

「「お願いします」」

 

 その光景に先輩達は恐縮し、

 

「いやいや、頭を下げられる程の事じゃないです。こちらだって霊香奪還の為の情報だって教えてもらいましたし」

 

「と、取り敢えず明日の作戦を考えましょう!」

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 そんな事があって現在五月三日となる。管理局は南街と東街を丁度分割する海沿いの場所にあるが、それは翔達の家がある住宅街からかなり離れているため、電車での移動を余儀なくされた。

 

 同業者への身バレを防ぐために偽時神家はサングラスやマスクを着用しなるべく話さないように徹した。明らかにつけてきている者が数人いたからである。

 

 やがて管理局の最寄り駅で降りると、待ち構えたかのように一つのタクシーの扉が開く。運転手に呼ばれ、話を聞くと親子連れを乗せてあるホテルまで連れて来るように言われていたのだった。

 

 やはり先程の尾行してきた奴らに翔も同行していた事を報告したらしく、零矢達は警戒するがホテルの場所までに時間内にたどり着く事と、管理局付近で針太郎の知り合いに会うのを防ぐためにタクシーに乗った。

 

「お客様着きました、ホテルラピスラズリ前です。お代は先に頂いていますので」

 

 十分も経たずにホテル前まで到着する。零矢が時計を見ると正午十分前、時間切れの心配はない。

 

 フロントに事情を話すとロビー内でで外側から見えない場所に位置するテーブルに通される。

 

 レオンはまだ来ていない様子なので、ソファに卯一、零矢、翔の順に座る。感触からしてソファ内に何か仕掛けられているということはないようだ。

 

「ようこそ、わざわざご足労頂いて」

 

 その声が突然一行の背後から聞こえると、緊張のあまり全員の身体が強張る。宇宙を震撼させた犯罪者がすぐ後ろにいる。そのプレッシャーが原因の発汗で顔に張り付いたマスクが緩んでしまうのではという妄想を抱かせる。

 

「そんなに恐縮しないでください、あなた方は恩人なんですから」

 

 そう言ってレオンは向かいのソファに腰かける。その両端にサングラスを掛け耳に通信機を着けたがたいの良いボディーガードがついていた。

 

……恐らく実力はGDと同様、霊香の処刑の時の奴ら並だったらキツいがそれ以下なら何とかなる

 

 冷静に分析し心にいくらか余裕が出来た零矢が他の二人よりも早く口を開いた。

 

「いえ、とんでもない。霊香ちゃんはとても良い子でしたよ。彼女は今元気ですか?」

 

「あぁこのホテルにいるがとても元気だよ。それで...」

 

 レオンが指示すると隣のボディーガードが置いていたスーツケースを受け取り、蓋を開けてその中身をこちらに提示してきた。

 

「ここに一億ある。これを受け取って、帰って頂く」

 

 どんな取引だろうか。養育費払うから黙って帰れ、やはり普通に考えても異常な取引である。脅されて大金を渡されて帰らされる。そうすれば霊香と関わった事を口外しない。一般的に見れば口止め料と受け取れるが時神家が霊香の事を口外したところでバッシングを受けるのは時神側、不利しかないのだ。

 

「そちらも職業柄、犯罪者の子供を匿っていたなんてバレる訳にはいかないでしょう?それに今後もし我々がテロ行為をする場所にあなた方がいたら警告を送ります。つまり安全に、普通の暮らしが送れるんですよ。霊香の事を忘れれば」

 

 ここで大体話の内容が掴めた卯一がレオンに対して質問を投げ掛けた。

 

「霊香ちゃんがそうして欲しいと言ったんですか?というより彼女があなたについて行くと自分から申し出たんですか?」

 

「霊香は俺の娘だ。あなた方よりも本当の親と一緒にいるべきだろう?例え俺みたいな犯罪者だとしても」

 

 普通の思想とは掛け離れた何かを感じた卯一は口をつぐんだ。溺愛とはまた違う感覚。まるで所有物のように考えているような気がしてならないと卯一は感じていた。

 

「……霊香さんがそんな事望んでる訳がない...あの人はこれから僕達と生きていきたいと言ってくれた。それが嘘な訳」

 

「演技だったとは考えないのか?」

 

 翔の主張を遮りレオンが威圧的に言い放った。その言葉を聞いて卯一の中で霊香が最初から裏切っていたのではないかという疑問が確信に近づいてしまっていた。

 

「あなた方は亡くなった奏ちゃんの面影を霊香に重ねて家族ごっこをしてたに過ぎない。霊香はあなた方の事を家族でも何とも思ってないんだよ」

 

 奏という聞き慣れない名前が出てきて零矢と卯一は困惑する。針太郎達から翔に兄妹がいた事は聞かされていなかったからだ。

 

 だがその一方で翔は絶望に陥っていた。信じたくは無かった事実。本当はそうなのではないかと心をよぎる度にそんな訳がないと見て見ぬふりをしていた事実。自らの脳裏に浮かぶあの涙が、笑顔が、その全てが偽りの元に成り立っていた。全てを否定されたように感じた翔は放心状態になってしまった。

 

「大人しく帰ってもらおうと思いましたが、どうせこうなる事はある意味予想済みなので呼んで置いて正解だった。霊香、来い」

 

 レオンの呼び掛けに応答し、一行の背後から霊香が現れる。翔の座っている横を通りレオンの隣に腰掛けた。その行動は否が応でも霊香がレオン側の人間だということを一行に理解させる。

 

「久し振り霊香ちゃん」

 

 だが完全に裏切ったとは思っていなかった零矢が最初に霊香に声を掛けた。しかし、霊香の視線は放心状態の翔に向いており、また翔の視線も霊香を捉えていたがお互いに言葉を発する事はなかった。

 

 しばらくして視線を零矢に移したかと思うと、

 

 

「……そんなに砕けた呼び方じゃないだろ、零矢」

 

 と発言した。零矢の顔がマスクの下でひきつる。驚きの余り卯一は霊香の方を向きそうになるがもし向いてしまったらそれはここにいる針太郎が偽者ということを認めることになる。

 

「何言ってんだ、霊香。お前が世話になった時神家の皆さんだろ?」

 

「違う、確かに世話になったが少なくともこの二人は針太郎さんと薫さんじゃない。多分零矢と卯一、バイト先の同僚と先輩の二人が変装してる」

 

 まさか一発で見抜かれるとは警戒していなかった卯一と零矢が黙ってしまい場が静寂に包まれる。これ以上どのように弁明したところで霊香には全て嘘だと見抜かれてしまう。

 

 手詰まりかの感じた卯一が首筋に手を掛け顔に張り付けたマスクを外す。それに続いて零矢もマスクを外した。更に頭に着いたウィッグを外す。

 

 その顔を見てレオンは収集した資料に同じ顔が載っていた事を思い出した。どちらも両親の職業が不明、卯一の方は住所不特定になっていた。神事屋というバイトをしておりそこで霊香と知り合った者という様にしか記憶していなかったがなぜその二人がこの場にいるのか理解はしていなかった。

 

「俺達の正体を見破ったって事はお前やっぱり...」

 

「……そんな安物の指輪で父親の目は誤魔化せても私は誤魔化せない。それより何でろくに抵抗出来もしない子供だけで肝心の大人がいない?身代わりか?」

 

 霊香の質問に違和感を覚えた卯一が答えようとする零矢よりも先に発言する。

 

「あの人達はお偉いさんだからね。高額な時給で頼まれたのよ」

 

 そう、と霊香は小さな返事をすると傍らのボディーガードに指示をする。すると、ボディーガードは左手を通信機に当て何か合図を送った。するとすぐに一行の背後にボディーガードと同じ黒服の男達が十人程現れる。

 

 その男達に一行は腕を背後に拘束され身動きを取れなくさせられた。霊香はそれを見て立ち上がると一瞥もくれずその場から去ろうとする。

 

「霊香さんッ!!」

 

 締め上げられる痛みをものともせず翔が霊香の背中に叫び掛ける。

 

「本当に全部嘘だったんですか!?この一週間僕達家族にしたこと全て!本当に...」

 

 霊香は少し俯いたが振り向く事もせず再び歩き出した。霊香が見えなくなるとレオンが立ち上がり、

 

「念の為霊香に合わせて正解だった。金に目が眩んだガキどもが、ここがどこだかわかって来たんだろうな?」

 

 と押さえつけられた零矢に近付いて問い掛けた。それに対して零矢は目を反らすことなく、

 

「あったり前だろ!」

 

 と敵対心を剥き出しにする。レオンはふん、と鼻で笑うと零矢の顔面を思い切り殴る。押さえつけられているため倒れる事が出来ず、口に血の味を感じながらもレオンを剥き出しに睨み続けた。

 

 レオンはそれを呆れた様に見ると次は卯一の前に行き、顔を思い切り叩いた。それを見た零矢が

 

「ふっざけんな、殴るなら俺を殴れ!!」

 

 と声を荒げた為、もう一発殴られる。そして満足したのか、

 

「取引は不成立って事で良いよな、舐めた真似しやがって。警察の風上にも置けない奴だ。おい、このクソガキども適当な所で殺して埋めておけ。女は好きにしてもいい」

 

 それを聞いた男達は全員の両手を紐で縛って口に猿轡をはめ、いつの間にか表に停められていたキャンプカーのような車に全員を乗せて発車する。

 

 零矢と翔はうつ伏せに押さえ付けられ、殆ど動けぬ中、卯一だけは猿轡を外される。

 

「やっぱ声が聞こえた方が良いよな」

 

 零矢が猿轡を噛みちぎらんとするばかりに叫んで暴れるので何人かに殴られる。

 

「止めて!!止めなさいって言ってるでしょ!」

 

 卯一の悲痛な叫びで零矢を殴る手は止まったが本人は既に血だらけでぐったりしていた。

 

……せめてGod-tellの中にある『黄金の槍』さえ召喚出来れば

 

 と翔はもがくが手も声も使えない状況でそれは不可能だった。

 

 厄介者の零矢が黙ったので男達は再び卯一の方に向き直ると手を伸ばして来る。その手が身体に触れそうになった瞬間、車体が何かに追突されたように激しく揺れた。

 

 片手を宙に浮かしていた男達は態勢を崩して倒れるのを卯一は避けると、窓から見覚えのあるアンドロイドの顔が覗いているのに気づく。

 

 胸に『回復役』と書かれたバッジを着けたそのアンドロイドは卯一に合図を送り、顔を伏せたのを確認すると片手で窓ガラスを砕きドアを破壊する様にこじ開ける。

 

「お待たせ致しました。幼美卯一、神木零矢、時神翔全員無事ですね」

 

 呻いている男達を次々に車外に投げ飛ばし全員の縄をほどく。そして即座に零矢の治療を開始した。それを確認すると卯一はようやく自由になった左手に『電気銃』を召喚し外に飛び出す。

 

「後輩クンをあんな目にして許さない!」

 

 と銃を乱射する様に見せて的確に男達に当てていく。そして帯電して身体が動かない男達に対して次々に飛び蹴りをかましていった。それに続いて車外に出た翔がワイヤーを伸ばして近くにいた五人の男達を拘束する。

 

「捕まえた状態で襲うなんて最悪だし...」

 

 いつの間にか『GK銃』まで取り出して二丁拳銃となっていた卯一がGod-tellを取り付けてパワーチャージをしていた。

 

「気持ち悪いのよ!!」

 

 と叫びながら銃のトリガーを弾いた。

 

 銀色の光弾がワイヤーで拘束された男達目掛けて一直線に飛んでいき、被弾したした瞬間に翔がワイヤーをほどく。するとまるでボウリングのピンの様に男達は吹き飛び、それぞれ壁や地面に叩きつけられ動かなくなった。

 

 ふぃ~、と肩の荷をおろした様に呟く卯一に翔は声を掛ける。

 

「ウィッチさん、後ろ!!」

 

 残党の一人が窓ガラスの破片を持って卯一の首筋を切りつけようとしていたのだ。しかし卯一は避けるのではなく腰を抜かしたかのごとくその場に座り込んだ。

 

「死ねぇ!!」

 

 と破片を卯一の首筋に向けて振り下ろす男目掛けワイヤーフックのようなものが翔の横を通り抜けたかと思うと続けざまに物凄い速さで横を何かが通り過ぎる。

 

 フック状のエネルギーが男の手に纏わり付き振り下ろされる手が止まる。それに合わせて卯一が素早く男の両足をGK銃で撃って体勢を崩すと、男の身体は宙に浮いた。

 

 そこでやっとフックが伸びてきた先を男が見るとそこには既にロープの上に乗り加速を十分に付けた零矢が蹴りの構えをしていた。

 

加速蹴り(スラスティング)ッ!!

 

 と叫ぶのと同タイミングで突き出した右足が男の胴体に蹴り込まれる。みぞおちに入ったその一撃は男の意識を奪うのに十分過ぎる程の威力であり、そのまま後方の壁に打ち付けられて倒れる。

 

 それを見ていた意識がある他の男達は負傷している零矢に一斉に畳み掛けようと走り出した。それを見た卯一が自分のGK銃からGod-tellを取り外し、

 

「パス」

 

 と後方に投げる。それを取った零矢が自分のGod-tellをはめ、画面上に映った選択肢の中から『月読命』を選択する。

 

「お返しだ」

 

 そして銃口を天に掲げトリガーを弾くと、二メートルは優に越えた刀を模したエネルギーが銃口から生成された。それを構え、横に一閃する。そして刀身が当たった衝撃や風圧で残りの男達の意識を瞬時に刈り取った。

 

 だが手当の途中で激しい運動をした為、傷口から血が流れだし零矢の頬を伝っていく。

 

……『治療』が来なかったら今頃...

 

 自己嫌悪にひたりそうな気持ちごと拭うように顎から頬に掛けて袖で血を拭く。助からなかったifの世界を考えたところで意味がない。この場で鉄のような匂いがする今こそが現実だ。

 

 GK銃からGod-tellを取り外し、零矢は卯一に歩みよっていく。座ったまま零矢を見上げる卯一の頬は痛々しく赤く染まり少し腫れていた。

 

 その目に浮かぶ涙を見た時、零矢は申し訳なさのあまり目を反らしてしまう。もっと自分が強ければ、捕まっても抵抗できていたならば、彼女に痛い思いも怖い思いもさせなくて済んだのではないかと、考えれば考える程はまっていく沼に足を取られた。

 

「……良かった」

 

 その言葉を聞いて零矢が視線を戻すと、涙が頬を伝いながらも微笑む卯一の姿があった。

 

「動かなくなって心配したんだからね...バカ」

 

 確かに『治療』が来ていなかったら大変な事になっていただろう。だが卯一にとっては手を出そうとする相手を挑発することで自らを盾にし、卯一や翔が暴力を受けない様にした零矢にただ感謝していた。

 

 同時に卯一も零矢に損な役回りをしなければならない状況を作ってしまった事に自らの不甲斐なさを感じていた。だが颯爽と敵を倒すいつもの零矢を見ると何故か涙が出ていたのだ。

 

「体力の限界でもう立ち上がれないからさ、ん」

 

 卯一は涙を拭い零矢に左手を伸ばした。零矢はその手をしっかりと握ると、引き上げる様にして卯一の重い腰を上げさせた。

 

「血、付いてますよ...良いんですか」

 

「慣れてるから...大丈夫」

 

 卯一が零矢の腕を持ち上げ脇の下に頭を入れて身体を支える。普通は好まない鉄の匂いも何故か今だけは愛しくも感じられた。卯一は零矢を抱えて『治療』の元へ行こうと試みたが、

 

「……あ、待ってちょっタンマ。筋肉痛で脚動かな...」

 

「全く!また処置中に動くんですから」

 

 倒れそうになったところを『治療』に二人まとめて抱えられる。その手にはGK銃が握られており、先程のフックショットを撃ったのは『治療』だということが判明した。

 

「時神翔、あなたも抱えましょうか?」

 

「えっ?いや...僕は別に」

 

「そうですか、じゃああっちに『運転手』が待機してるのでそちらに」

 

 そう言ってそそくさと歩いて行ってしまった。残された翔が辺りを見回すとここは倉庫のような場所だということに気づいた。

 

 いくつかのシャッターが並びすぐそこには海が見える。さながら魚市場等で使用されていそうな場所のようだなど平凡な感想が頭に浮かんだ。

 

「霊香さん...」

 

 海を眺めながら自分の問い掛けに何も答えなかった少女の名前を呟く。家族との思い出を全て否定されたような気分が悲しみと同時に憎しみの感情を抱かせていく。

 

(あの女が憎いか?)

 

 学校で聞こえた時と同じ声が翔の脳内に問い掛ける。

 

(心の底で自分を裏切ったあの女を滅茶苦茶にしたいと思っているんじゃないのか?)

 

 逆らわなければならない感情に犯され、翔の脳内はその声に魅了されていく。 

 

 船の汽笛の音が辺りに響き渡り空気に溶けていく。苦し紛れに見上げた空も雲一つなく澄み渡り日差しは肌に差し続ける。

 

 なのに翔は色を感じる事が出来なかった。高校一年生として、新しい環境として輝いていた世界は残酷にも変わることはなく、大切な者を失った人にも平等に時を進めていく。

 

……また家族がいなくなるのか...

 

 7年前にあれほど流した涙が7年後の現在では同じ様に流れ出てくる事はなかった。それはとっくに枯れ果てていたのか、それとも本当は家族と思ってなかったのか。

 

(家族ごっこは終わりだ。お前の眠った残忍な思想に火を灯そう。あの女を血祭りにあげ裏切った事を後悔させてやれ!)

 

 それを肯定するように翔の頭の中に残酷な声が響き渡る。やがて悩むことに疲れた翔は一つの結論に至ってしまった。

 

「そうだ、元々霊香さんだって裏切ってたんだし、あの人は家族でも何でも」

 

「決断を下すのはまだ早いのでは?」

 

 悪魔に魂を売ろうとしていた翔を直前で『治療』が止めに入る。『治療』にとって翔が聞こえた声など感知出来はしない。だが明らかに異変を感じた『治療』は翔が誤った決断を下す前に割って入ったのだ。

 

「どうしても自分を納得させる為に都合の良い結論に至ってしまうのはあなた方人間の悪い癖です。まだそうと決まった訳では無いのですから」

 

 そう行っておもむろにタイガーロープを取り出して回りでのびている男達を縛っていく。壁の近くに転がっている大の大人も軽々と持ち上げて全員を背中合わせに座らせロープを巻き付けていく。

 

「それでも仲間が裏切ってないと信じ、行動に移せるのが人間の強みでしょう?結果がどうであれ個人の意志で動く事が出来る、我々の様に命令を受けなければ動けない機械との大きな違いです」

 

 やがて『治療』はロープの先を縛ると翔の元に近付いていき、ひょいと肩に担いだ。そのまま道の真ん中に男達を置き去りにして悠々と『運転手』の待つ車まで歩いていく。

 

 『治療』が翔を連れて戻って来たのを確認した『運転手』が車のドアを開けると、少し乱暴に車内に翔を押し込み、『治療』は助手席に座った。

 

「今は余計な事を考えない方が良いですよ。いつかそれが後ろめたさとなり、やがて心の傷とならないように。目に見える傷なら私は治せますが、心の傷は癒すまでに時間がかかりますから」

 

 『治療』は誰に向けて言ったのでもなくただただ独り言のように呟いた。だがその言葉はその場にいた人間には重く感じられた。

 

「しんみりしているので音楽でも掛けますね」

 

 そう言って『運転手』がプレイヤーにCDをセットするとリズム感のある明るい曲が流れて来た。それは休日の朝の子供達の多くに元気を与えたであろう、二、三年前のヒーロー番組のオープニングだった。

 

 霊香の本心はまだ完全にわかった訳じゃない。もし彼女が本物の家族と出会った事で正常な判断が出来ていないならば、自分達が霊香に本心を思い出させる。結果として余計なお節介になってしまったとしても想いが届くように。そう全員の中で意識が固まりつつあった。

 

「霊香ちゃんが私達を見破った時...」

 

 卯一が思い出したように語り始める。

 

「ろくに抵抗出来もしない子供って言ってたけどおかしいなって感じたの。本当に彼女が裏切ったなら私達の持つ力全てをレオンに報告するはず、それなのに神力はおろか魔王装備の警戒もしていなかった」

 

「じゃあ...」

 

「完全にレオンの手に堕ちた訳じゃないかも。私達に助けを求めてレオンに情報を流さなかった可能性はある」

 

 全員の中で薄々感じていた違和感が解決する。どこかよそよそしく振る舞い、零矢と卯一を()()()()()()()()()()と紹介していたことから神事屋の事も把握されてはいない。霊香がわざと情報を止めていることに他ならない証拠があの対応にはあった。

 

「私達で霊香ちゃんをレオンの元から取り戻す。そして自分はどうしたいのかを確認しよう」

 

 そうして一致団結するなか、車は時神家へと向かっていた。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

「あれから一日経ったわけだが流石に緊張するな」

 

 人目の付かない路地裏に停めたサイドカー付きの黒いバイクに寄りかかり、漆黒のライダースーツにホルスター付きのベルトを絞め顔を黒いヘルメットで顔を覆った少年が傍らの別の少年に話しかける。

 

「一国...いや一つの星を敵に回す行為ですし。まぁレオンにばらされたらそもそもこの星に居場所なんてなくなるんですけどね」

 

 その少年もライダースーツにヘルメット、回りから見ても個人を特定するのが不可能な服装だった。前の少年との違いはこちらの方が身長が少し低いことだろうか。

 

「そろそろ針太郎さんが手を打ってくれる時間だし、君達冥王星の監獄にぶちこまれる覚悟は出来た?」

 

 サイドカーの近くで何やら整備をしていた身体のラインが引き立つライダースーツを着た少女が立ち上がる。

 

 三人は深緑色の携帯端末を出し、画面内に映った管理局の地図を眺める。そこには本部までの道のりが入念に記されており、そこまでの道を丁度三等分した位置に1、0、そして本部に×と言う文字が描かれていた。

 

「防犯カメラのハッキング及び施設の緊急警報の阻止よろしくね、“神”」

 

 少女が端末に向けて語り掛けると映された地図の横からひょこっと出てきた銀髪の女性が任せとけ、とだけ言って再び消える。

 

 それを確認すると背の低い方の少年がサイドカーに腰掛け、もう一人の少年がバイクにまたがる。そして少女がその少年に掴まるようにしてその背後にまたがった。

 

 少年がアクセルをふかすと騒音と捉えられてもおかしくない程のエンジン音が辺りに鳴り響く。当然周りの人々も不審がり、音の出ている場所を特定しようと辺りを見回した。

 

 その時、路地裏からサイドカー付きの黒いバイクに乗った黒ずくめのライダースーツを纏った三人が族とも見間違う姿で飛び出して来た。

 

 そのバイクは管理局入り口の警備員に忠告を受けるが構わずに入り口を突破する。

 

……霊香さん、待っててください...

 

 今ここに少女を救うために一つの星を敵にした戦いの火蓋が切って落とされたのだった。




「お前ら警察官じゃないだろ」

「お勤めご苦労様ですが、少しここで寝ていてもらいます」

「きっちりお礼参りしないとな」

「ゴスロリ...ですか、似合ってますよ」

 次回『Keep an eye on my true feeling』

「私の家族は...」
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