軍本部から連絡があった。
優秀な厄介者集団と名高い我らがストレンジ隊に新入りが入るそうだ。
なんでもその新入りの階級は大佐らしい。
一体何をやらかせばこんな辺境まで飛ばされる羽目になるのやら。
大佐殿の考えることはわからねえな。
まあ、なんだっていいさ。
重要なのはその新入りことマッキンゼイ大佐が我らがストレンジ隊所属、ストレンジ4のナイーブとして仲間に加わるってことだ。
基地司令からは好きに使えと言われている以上こちらも遠慮する必要はないだろう。
あまり期待していないが、少しは使える奴だと良いんだがね。
mission0 とある空軍大佐の独白
***
最近、夢を見る。
はるか昔、私がまだあの蒼穹の大空に思いを馳せていた時代の夢だ。かつての私は戦闘機のパイロットを目指していた。
動機は単純。
あの大空を思うままに飛びたい。
それだけだった。まだ若かった私は戦闘機のパイロットになるのだ、と鼻息荒く軍の士官学校の門を叩いた。
しかし、私はパイロットになることができなかった。空戦演習の結果が振るわず、適性なしと判断されたためにパイロット育成プログラムから外されてしまったのだ。
私は荒れたよ。
空を飛ぶために軍人を志したと言うのに私はその準備すらできなかったのだ。
それからの私は何かに取り憑かれた様に出世を目指した。
まるで破れた夢の残骸を押し流すように。
詰め込めるだけの知識を頭に入れ、上官に忠実な兵士を演じ、出世を続け、とうとう大佐にまで上り詰めた。
しかし、これもまた上手くは行かなかった。
失態を犯し、私は辺境の地へと左遷されたのだ。左遷先はオーシア国防空軍第444航空基地。
人生とはままならぬものだ。
自嘲しながらもなお、私は諦めてはいなかった。
ここで功績をあげ、本部に返り咲く。
大空に見た夢に破れた私に残されたものはもはやそれしかないのだから。
第444航空基地での生活は酷いものだった。
ハリボテの設備、野蛮な囚人達、耳障りな警報音。
この基地の役割は敵軍の注意を引く為だけの囮基地だった。
基地としてのコンディションもまた最悪だ。
スクラップを繋ぎ合わせた急ごしらえの機体、ふざけた態度をとる懲罰部隊の囚人兵。
囮基地故に燃料も弾薬も常に余裕がない。
本部から運ばれる物資もまた基地の維持に必要な最低限の量、そして良く出来たハリボテだけだ。
しかし、何よりも最悪なのは奴らが空を飛んでいる、と言うことだ。
あの青い大空を。
私がとうとう上がることのできなかったあの大空をあの罪人達は悠々と飛び回る。
それが何より私の心をざわつかせた。
その鬱憤を晴らすように私は空から降りてきた彼らを理由をつけては独房に入れる。
空を飛ぶための翼を持つ彼ら。
翼を持つ資格すら与えられなかった私。
鎖にでも繋いで置かなくては嫉妬で狂ってしまいそうだった。
そんな日々を過ごしていた時、この掃き溜めに新たな罪人が現れた。
ハーリング殺し。
三本線の罪を背負った引き金がこの基地に配属されたのだ。
合わせて送られてきた資料には不自然な点がいくつも見つかったが、私には関係のない話だ。
懲罰部隊のコマが増えた。
それだけのことだ。
トリガーはよく働いた。
初出撃では管制塔に攻撃する敵機をことごとく撃墜してみせた。
一度の出撃で落ちた者がいないのは初めてのことだ。
2度目の出撃でもトリガーは活躍した。
敵対空兵器を単騎で壊滅してみせたのだ。
3度目の出撃ではかのミスターXと交戦し、生還してみせた。信じられん。ミスターXと言えばかつての戦争でエルジア軍のトップエースを務めた生きる伝説だ。ストライダー隊を守りながら自身も生還するなど並みの腕ではない。
4度目の出撃では逃げ出すトレーラーのことごとくを破壊し、エルジアの無人機部隊まで壊滅させた。
5度目の出撃でもトリガーは戦果を挙げた。
山脈に散在するレーダー施設を全て破壊したのはトリガーだ。
良い腕を持つパイロットであることは間違いない。
私とは違う。
そして6度目の出撃。
トリガーが懲罰部隊として参加した最後のミッションであり、私が今の立場で参加した最後の作戦でもある。
SAMをまるで居場所が分かっているかのように破壊し、敵増援すらことごとく撃破。
さらには最新鋭の無人機まで撃墜してしまった。
エース、と言うのはまさしくトリガーの様な奴のことを言うのだろう。
もはや会うこともないだろうが、奴を見ていると拭い去ったはずの空への未練が蘇る。
私はあいつが嫌いだ。
***
『ストレンジ4、おいストレンジ4!応答しろストレンジ4!』
「何度も呼ばなくても聞こえている!」
私は今、何の因果かあの罪人達と同じ様に空を飛んでいる。
司令官の地位を失い、最前線の小さな基地に左遷された。同じストレンジ隊のメンバーも懲罰部隊に劣らぬ曲者ばかり。
「しかし、悪くない」
不思議と笑みがこぼれた。
かつて翼を持つことすら許されなかった愚かな男は今、翼を得てこの蒼穹の大空を飛んでいる。
この澄み渡る青にいつまでも浸っていたい。
私は、心からそう思うのだ。