ハイカラさんが通る【完結】   作:代理投稿者サクマ

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鵺似、有、塩味。11/13

  あー、落ちる。背中に衝撃。腐葉土、水気を帯びて弾ければ、あたしはきっと泥まみれ。不快な冷たさに背中が濡れて、仰向けの視界、縁を囲むように木の枝と葉、中心に、夜空。星々がさんざめく。頭上から、声をかけられた。

 

「おうどうしたよ。大妖怪ともあろうぬえ様が、腰掛けから手を滑らせて落ちるなんて」

「……うるさいな」

 

 後頭部を柔い地面にねじ込ませて見上げることもない。それは水蜜、村紗水蜜の声だ。

 

「なあ、答えあわせをしようよ」

「いいよ。いまさら。あんたに友達がいないってことは、よくわかったから。キスメ、なんにも知らないじゃないか」

 

 頭頂、視界の外で水蜜が笑う。なんだよ、たのしそうにしやがって。こっちは全然、そんな気分じゃないんだ。

 

「ハハ、そんなんじゃないよ。前に、キスメとトランプをやったろ? ほら、ダウトってゲームさ。覚えてないかな」

「やったっけ。……ああ、キスメがイカサマしたやつか。それが、なんだっての。いまさらさぁ」

 

 水蜜はまた笑って、あたしの腹の上に何かを放った。軽い衝撃のあと、それは腹の上でバラバラと散らばりそうになるから、焦ってまとめる。その感触でわかったことは、腹の上に放ったそれが、束になったカード。トランプだってこと。

 

「それがさ、キスメ、イカサマしたわけじゃないんだよ。私たち、はなから騙されてたんだ」

 

 まとめたトランプを眼前で広げれば、薄暗闇の中、微かな月明かりに、トランプ特有の、さまざまな柄が判った。

 

「あ? なんだこれ、あはは! ひどいよ、これ。あー、なるほどね、イカサマはしてないけど、いやでも、これはひどいよ。ひどすぎる、はは!」

「だろ? しかも、これをくれるときのキスメのセリフときたらさぁ。わたしが集めた五十二枚を、水蜜にあげちゃう。だってさ! いや、買えよ!って。私、おもわず笑っちゃいそうになって、堪えながら受け取ったんだよ」

 

 五十二枚のトランプ、内訳はめちゃくちゃだ。Jは六枚、5は三枚、Kに至っては七枚ある。あれだけ悩まされたAも、数ある混沌の中の一つだったというわけだ。

 

 あー、それにしたって、虚しくなる。

 

「……はい。返すよ、これ」

「いいよ。それ、おまえにやるよ」

 

 トランプごと後方に差し出した腕が辛くなってきても、水蜜はトランプを受け取らない。面倒になってそのまま脱力すれば、腕は泥濘に沈み込む。トランプだって、泥にまみれる。あーあ、もったいない。でも、いらないね。こんな、バラバラのトランプなんて。

 

「じゃあ、私は行くよ。明日人を迎えにいく用事があってね、それが、朝早いんだよ。ああ船で行くんだけどもね。でかい船さ。その船がまた遠くてさぁ、一つ向こうの森の中だ。そこに戻っていっかい寝ることを考えると、相当急がなきゃいけない。だから、もう行く」

「……あっそ」

 

 水蜜の足音はあたしを置いて、そのまま遠ざかっていく。音が聞こえなくなるまでの間、ずっと夜空を見ていた。星がさんざめく黒い空、イメージではその中に、劇色の円盤のいくつもが見える。円盤は不規則に揺らめいて、静粛な夜空をかき乱す。これがイメージではなく現実だったら、どれだけ素晴らしいだろう。足音が消えて立ち上がれば、泥まみれの背中が冷えた。

 

 月を探せば未だ、月は山の端にあった。半月となって、山へ隠れようとしている。不意に風が吹いた。木の葉が不快にざわめいて、否応無しに心が凪いだ。体を舐める風は泥のそれより暖かく、春の気配がした。放っておけば、朝が来てしまいそうだったから、あたしは思わず、駆け出していた。

 

 

 ストップ。

 一仕事する前に、腹ごしらえしとこーかな。

 そうしよ。

 なに、食べようかな。

 どうしよ。

 いやいや、決まってる。

 

 エビフライにはやはり――。

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