ハイカラさんが通る【完結】 作:代理投稿者サクマ
お寺の中、リビングは意外とフローリング。テーブルだって背が高いし、椅子もそれと丁度いい感じの高さになってる。
「さあ、状況をまとめようか。この寺にはどうやら、ひらがなも読めないやつがいるらしい。それじゃあ、まずはご主人、頼んだよ」
ネズミのひとが声を上げると、トラのひとがおずおずと前に出る。こいし、ちょっと大変なことしちゃったかも。
「はい……。私、ちゃんと書いておいたんです。パッケージに、とらまるって。楽しみにしてました……お勤めが終わったら食べようと思って……」
「そこまでだ。ありがとうご主人。下がっていいぞ。……このように、ご主人はパッケージに自分の名前を記しておいたことを、たしかに記憶している。問題は次だ。ご主人が勤めから戻ると、それは冷蔵庫から忽然と姿を消していた。となればもちろん、その時間に寺にいた君たちの中の誰か。犯人はこの中にいる」
椅子に座ったみんな、思い思いにざわざわとする。そしたらまた、ネズミのひとが声を開いた。たのもしー。
「一斉に喋るんじゃない。学級裁判をやってるんじゃないんだぞ。聖が勤めから戻る前に決着をつけようと私を呼んだんだろう? なら、私のいうことを聞いてもらうぞ。……挙手制だ。この場は挙手制を採用する。挙手した者から私が選び、選ばれた者だけが発言する。異議は認めないぞ。いいな」
これで、みんないうこと聞くから不思議だよね。しーんとしちゃって、でも、みんなして手をあげてるから、なんか可笑しい。
「村紗」
「はい。……私はぬえが怪しいと思います。理由はバカだからです」
「なにを!」
えー? そういうの、アリ? うちのペットたちでも、もうすこしマシだなあ。
「ぬえ、黙れ。挙手してれば当ててやる。順番だ、順番。……じゃあ、一輪」
「はい。……私はむしろ、そういうふうに真っ先に誰かを指す村紗が怪しいと思います。ちなみに私は食べてません、雲山と一緒に読経してたし」
「真っ先に保身に走って、よく言うよ。ふたりでこっそり食べたんじゃないの、共犯でさぁ」
うう、おねえちゃんはなんでこう、怪しまれるようなことばっかり言うんだろ。食べてないなら、黙ってればいいのに。
「村紗、黙れ。次喋ったら問答無用で犯人だからな。……じゃあ、ご主人」
「はい。……私はもちろん犯人じゃないです! 被害者ですから! なんか、ぬえがさっきからじろじろみてくるんです、自分で食べたの忘れてんじゃないの? って感じの目で……。だから、どっちかって言うとぬえが怪しいと思うんです、私は!」
だから、って言うのも、なんだかなあ。お寺のひとってみんなこーなの? 基準がすこしズレてると思うんですけど!
「よし、じゃあぬえ。被害者から直接の疑いがかかったぞ、どうなんだ」
「はい。……寅丸の言うことはお門違いだと思います。まず私怨でもの言うのはどうかと思うし、何よりあたしは、そんな、プリンの容器なんて見たことないもん。なんかさー、雲山あたりが間違って食べちゃったんじゃないのー? さっきからずっと黙ってて、いちばん怪しいよねえ」
「ちょっと! 雲山は私と一緒にいたって言ってるでしょ!」
「どうだか」
「な、なによー!」
うわあ。ネズミのひとが言う学級裁判っていうのが、なんとなくわかったかも。それってきっと、子供の喧嘩を指す言葉なんだろうね。たのしくなってきたかも!
「ふたりとも、黙れ。困ったな、堂々巡りじゃないか。ん? ああ、村紗。いいよ、そんなに必死に手をあげなくても。じゃあ村紗。喋っていいぞ」
「はい。……なんだろ、さっきはぬえのこと怪しいとか言っちゃったけど、ここまでみんな否定するとなると、なんかさ。犯人、この中にはいないんじゃないかって思うんだよね」
さすがおねえちゃん! するどい! でも、ひどくない? 食べていいって言ったの、おねえちゃんなのに……でも、あれ? ほんとにそうだったっけ? なんか、違う気がしてきた。もっといえば、わたし、食べてないかも!
「なるほど、この場にいない者の仕業ということか。となると、あの狸か。……ぬえ、あれと親しい君の意見を聞こう。どう思う。やったか、あの狸は」
「はい。……うーん、違うんじゃないかな。だって、エビフライですら見慣れてなくて、怖がって食べないんだよ、あの人。プリンなんて、どうしても食べないと思うけど」
えー、意外。あのひと、新しいモノ好きだと思ってたのに。なんとなく。
「なるほど。となると、残るのは本当の部外者の線だな。そうだな、そいつを仮にAとしよう。だが、あり得るだろうか。そうすると、Aは一輪と雲山が読経をするお堂の前を見つからずに通って寺に侵入し、その後、村紗とぬえ、それにご主人の誰にも見つからずにプリンを奪った。そういうことになる。だって、誰もみていないんだろう? しかしAにそれが可能なら、プリンだけじゃなく、もっといろんなものをわんさか盗られてるはずじゃないか。来るときに宝物庫を覗いてみたが、減ってるものはなにもない。やっぱりすこし無理筋だな、部外者説は」
そうだよそうだよ。わたし、わざわざ入り込んで、プリンだけ食べるなんて、そんな不毛なことしないもん! あれ、でも、じゃあわたしは何しに来たんだっけ? 思い出せないけど、いいや! 犯人がわからなきゃ、もう帰れないもんね!
「じゃあやっぱり最初に言った通り、ぬえが怪しいよ」
「だから、あたしはさっき言ったじゃん! プリンの容器なんてみなかった、って!」
またはじまった! はやくしないと、えらいひと帰ってきちゃうよー。
「黙れ! ふたりとも。……まったく。ぬえ、君、プリンの容器をほんとにみなかったんだろうな。ああ、わかってるさ。疑ってるわけじゃない。ただ念のため、容器の特徴を確認しておこうと思ってね」
それ、意味あるのかな。このネズミのひとも、大概へん!
「……ご主人。確認だが、プリンの容器というのは、こう。丸くて、プラスチックで、底に、プッチンするための突起のあるやつか?」
「はい、そうです。間違いありません。その容器に、たしかに私の名前があったはずなんです。とらまる、って……」
あれじゃない? ひらがなだとかわいいから、かわいいプリンの容器との親和性が上がって、製品の名前だと勘違いされて、それで、食べられちゃったていう。そういうあれ。こいし、イイ線いっちゃってるかも。でも結局、誰が食べたわけさ!
「ありがとうご主人。……さて、容器について確認したことで、一つ、或ることが明らかとなった。……わからないかい? わからないだろうね。じゃあ、君たちに教えてあげよう。あのプリンを食べたのはね、私だよ。言われて思い出した。昨日食べたんだ、あれ。私が。美味しそうで、つい」
一同驚愕! 一生のうち一回は使ってみたい言葉番付首位の言葉を、こんなところで使えるなんて!
……
…
明朝。寝床の襖を開ければ、縁側から東の空がみえる。天気が悪い。紺色く、意味もなく湿って、意味もなく曇っている。縁側にはヤツが居た。座って、足をぶらぶらとさせて、庭を見ている。
「おはよ、はやいね。あ、そうだ。あんたさ、人のもん勝手に食べたらダメだよ。よくもまあ、そんな行儀悪いことができるよな、よくないよ」
「うるさいな。あんたの仕業でしょ。……まあ、なんでもいいけど。プリンなんてまた買えばいいだけじゃないか、よくもまあ、あそこまで騒げるもんだよね」
朝の鳥が群れになって、空を横切る。相変わらず、口の減らないやつ。
「どうせ朝の読経もサボるくせに、こんな早起きしてどうすんのさ」
「あんただって、どうせサボるんでしょ? 耳に毒だのなんだの言って」
庭の蓮池に、蛙が鳴いた。すこし、雨の匂いがする。いまにも降ってきそうだ。
「ねえ、あんた。いつまでここにいるのさ」
「あんたこそ」
蓮池の向こう、生垣に、紫陽花が咲き乱れている。青いのも、赤いのも、両方あるけど、中間は無い。
「あのさ。……実はね、恥ずかしいこと言うようだけども。あんたが居なくなるなら、一緒に付いて行こうかな、なんて、思ってんだよ」
「居なくなるなら、って、なにそれ。居なくならないよ、そうそうは」
あー。
降ってきやがった。
「続くかな」
「さあね」
「……えー。蓮池を、囲む地面はさみだれて、草履の裏は、泥まみれ。……どう?」
「はは、全然ダメだよ。しょっぱいね」
『鵺似 有、塩味。』 完。
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主演:河城にとり