ハイカラさんが通る【完結】   作:代理投稿者サクマ

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まつりにひとり(1話完結 主演:河城にとり)
まつりにひとり 1/1


 

 

 

 

 

私は川を流れていた。

夏の日差しは強く、水の冷たさが心地いい。

私はそのまま、流され続けた。

 

「おい、はやくしないと。食べ物はみんな売れちゃうぜ」

「そんなに急がなくても。食べ物がみんな売れちゃうなんて、あるかい、そんなこと」

「いいから、はやくはやく」

 

夕暮れ、人里近くの橋の下まで流れた頃、そんな会話が耳に飛び込んで来た。

人間の親子の会話だった。

どうやら、里で縁日かなにかやるらしい。

いつもなら、こんなかき入れ時に店を出さないなんてあり得ないのだが、今年はなんとなーく、気が乗らなかったので出店するのはやめにしたのだ。

自分に実入りのない縁日なんて、大して興味もなかったが、私はなんとなーく、人里へ向かったのだった。

 

人里に着く頃には、空はとっぷり暮れていた。藍色に乗っかられた橙が、今にも押し潰されそうな、そんな空の色だった。

人里では、予想通り縁日が開かれていた。

 

通りを行き交う人々は、まるで増水した川のようで、今にも溢れそうだった。

またしても、私は川を流れていた。

川の流れに従いながら、気づけば私の両手には、綿菓子やらりんご飴、それらがしっかりと握り込まれているのだった。

 

甘味を舌で遊ばせて、私は川を流れていった。

 

……。

 

「珍しいな、河童がいるぜ。河童の、河城にとりがいるぜ。まさか、縁日で客のお前が見られるとはな」

「それにしても、右手に綿菓子、左手にりんご飴。腕に袋までかけてると来た。袋の中身が気になるところだが、生憎、私は向こうから来たんでな」

 

……。

 

人の川に押し流されながら、その中で白黒の人間の声を聞いた気がしたが、川の流れは私をそのまま押し流すのだった。

 

ガヤガヤと、音を立てて流れてゆく人の川。どこか遠くで、祭囃子の笛の音が響く。

 

ぴーひゃらら ぴーひゃらら

 

……。

 

「あやや?河童の河城にとりさんじゃないですか。あなたがお客さんだなんて、珍しいこともあるんですねぇ」

「ところで、椛をみかけませんでしたか?一緒に来ていたはずなんですけどねぇ」

 

……。

 

ドーン、ドーン、と、太鼓の音が遠くで響く。川の流れのピークは迎えていた。

大量の足音と、太鼓の音と、喧騒が、ただなんとなく歩いているだけの私の心を震わせる。なんだか妙に、顔が熱い。

 

……。

 

「わ、にとりさん!びっくりしました?私です、椛ですよ。一人で歩いてるから驚かしてしまいました、ふふふ」

「そうだ、文さんを見ませんでしたか?今日は文さんと来ていたんですけど、ふいに見失ってしまいましてね。迷ったら演し物の場所に集合するよう決めたんです」

「にとりさんは、演し物みないんですか?」

 

……。

 

ドーン、ドーン、ドーン。

太鼓の音が、徐々に鳴り止む。

段々と、人通りが疎らになってきた。

あんなに溢れそうなほどの人々が、一体どこへ消えてしまうと言うのだろう。

 

団子の串や割り箸が、地面のあちこちに散らかっている。

 

……。

 

「おや、にとりじゃないか。まさか一人で来ていたとは。いや、少し前に魔理沙と会ってね。君が楽しそうに歩いてるのをみたぜ、なんて言ってたものだから、てっきり誰かときているのかと思い込んでいたのさ」

「ところで、頼んでいた修理は終わったかい?いや、急ぎじゃないんだ。ただ、あれを店に置くのが楽しみでね」

 

……。

 

「え?魔理沙かい?魔理沙なら演し物を見終わってすぐ、満足気に帰っていったよ。一人でまわる縁日も乙なもんだな、なんて、言ってたっけな」

 

……。

 

ジリジリ、ジリジリ。

蝉の鳴き声が夜に響く。

人の川は、もうすっかりどこかへきえてしまった。

夏特有のじんわりとした寂しい涼しさが、体に纏わり付いた祭りの熱気を攫っていく。

出店の主人たちが店じまいをする音。

川に取り残された僅かな人々の、かすかな話し声。

 

ジリジリ、ジリジリと、夜に響く、蝉の声。

そろそろ帰ってしまおうか。

 

私は人里近くの川辺にやって来た。

川辺が私の帰路だった。

 

道中、手持ちの花火を囲む四人組を見つけた。

線香花火を真剣な面持ちで握りしめるもの。

火花が噴出するような手持ち花火で、空に軌道を描くもの。

ただ眺めているだけのもの。

そんな風景をカメラで撮っているもの。

一瞬、見知った奴らかと思ったが、全員、全くの別人だった。

 

紺色の空の下、木々に囲まれた砂利道を、さーっと風が吹き抜ける。

川辺のひんやりとした気温は、祭りの後の寂しさに浸った私の心とよく似ていた。

それは、子供の頃に好きだった、絵本のような寂しさ。悲しみのない、きれいなだけの寂しさ。

 

そんな寂しさを抱えて歩く私の心の中には、ひとつ、淡い光が灯っていた。

それは暗闇の中、儚く光る火花のような光だった。私はその光を思うと、なんだか胸が締め付けられるような気がして、一人で照れ笑いを浮かべていた。

 

一人、川辺を歩きながらニヤついている自分を俯瞰すると、私はさらに決まりの悪い気分に陥った。

途端に、さっきまで感じていた寂しさも、今感じている面映ゆさも、全てがちゃちに思えてくる。

 

あーあ。と、私は小石を蹴りつけ、少し笑う。

すると私は、不意に、どこか遠くの方で、祭囃子の笛の音が響くのを聞くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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主演:小野塚小町
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