ハイカラさんが通る【完結】 作:代理投稿者サクマ
またしても鬼の無断欠勤により勤務体制に穴が空いた。やはり埋め合わせは私に回ってきて、私はまたしても賽の河原に来ていた。
川辺は藪に囲まれており、敷き詰められた石の隙間からは草花が疎らに蔦を伸ばしている。
空を見やれど、そこにはやはり何もない。太陽もなければ雲すら浮かばぬ空を見て、私はまた、深く息を溜める。
肺いっぱいにむせ返るほどの草花の臭気が広がり、それを短く吐き出した。
草履を履いた私のつま先にコツコツと当たる石を多少不快に感じつつ歩みを進めると、そのうちに濃い灰色の靄が少し先の方に見えてきた。
靄は曖昧に人間の子供の形を縁取っている。
靄の“頭”の部分には発疹のような黒い斑点が無数に浮かんでおり、私が近づくと、靄はその無数の黒い斑点で私の方を見据えるのだった。
「おねえちゃん。まってたよ。みて!こんなに石を高くつめたの」
靄は斑点の一部を口の形に変化させ、甲高い少女の声で私に話しかけてくる。
私はそれを無視して、足元に積まれた石を大鎌の柄でこつん、と小突き、崩した。
すると、靄は無数の黒い斑点をきょとん、とさせて、私にその視線を向けてきた。
私はその視線を無視して、踵を返し、賽の河原の出口へと向かった。
出口へと向かう最中、靄はやはり私に付いてきているようで、敷き詰められた石を踏みしめて歩く私に、しきりに声をかけてくる。
「ねぇ。みて」
「おねえちゃん。みて」
「ねぇ。聞こえてるんでしょ」
「ねぇほら。石。みて」
「みてってば」
その声はやはり甲高い少女の声だったが、靄が言葉を発するにつれ、それはだんだんと無機質な、男とも女ともとれぬ声へと変わっていった。
「おねえちゃん。みて」
「みて。石」
「おい」
「石。みて」
ああ、まったく、いやになるよ。
「無視してんじゃねぇよ」
私は振り向いて、靄に鎌を振り下ろした。
その後、私は謹慎を受けた。
賽の河原では積まれた石を崩す以外の干渉は禁じられている。それを破ったことが謹慎の理由だった。
しかしながら、思いもよらぬ久々の休暇を手に入れた私は、人里に在る行きつけの飲み屋に来ていた。
「なぁ聞いてくれるかい。ひどいんだよ、うちの上司はさぁ」
昼も半ばにして、私は酒を飲み、管を巻いているというわけである。こんなに有意義な休日の使い方はない。私は上機嫌で話し続けた。
「だいたいさ、空いた穴を埋めるために慣れない仕事をしてさぁ、それをちょっとばかりミスったからって、謹慎だなんて、おかしい話だろう?人使いが荒いとか、もはやそういう問題じゃあなくなってきてるよ、なぁ、そうは思わないかい」
「あぁ、そうだねぇ」
そう答えるのはこの飲み屋の看板娘だった。というのも、それは、初めて会った頃の話で、かつての看板娘も、今では専ら婆さんだ。
「しかし、婆さんもしばらく見ないうちにまた老け込んじまったねぇ」
「ふふふ。小町ちゃんは変わらないわねぇ」
「えー?」
「小町ちゃん、店に来る度におんなじこと言ってるんだもの」
「ははは、そうだったかな。そいつは悪いね。それよりさけを追加だよ。今日は飲むぞぉ」
「昼間っから顔を赤くして、景気のいいこと」
「休日が少なくてねぇ、金ばっかり溜まっていけないよ。全く。婆さん、今日はとことん話を聞いてもらうからね、覚悟しておくれよ」
「はいはい。いくらでも聞きますよ」
そうして私は、酒をかっくらい、普段の鬱憤を晴らすように管を巻き続けた。
婆さんの顔には死相が浮かんでいたが、私はそれを見なかったことにした。
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主演:水橋パルスィ、古明地こいし