ハイカラさんが通る【完結】   作:代理投稿者サクマ

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†神意† 2 鈴仙が来ない

 人里に〝レストラン〟が出来た。妖怪の山の企業努力により実現した出店は、人妖問わず様々な者を惹きつけた。レストランは開店から連日長蛇の列が出来ていて、店の中は常に満席だった。

 人々が目に新しい洋風な食事を摂りつつ、思い思いの会話に興じるレストラン。十六夜咲夜と魂魄妖夢はその中の一つのテーブルに着き、黙々と、テーブルに置かれたコーヒーにちびちびと口をつけていた。

 そう、鈴仙を待ちながら。

 

「……。」

 

「……。」

 

 …………。

 二人には、共通の話題が無かった。仮にあったとしても、それを考えることも出来ないほどに互いは互いにとって〝友人の友人〟だった。とはいえ、これまで二人は何度となく会話を交わしていた。鈴仙、咲夜、妖夢の三人で集まっている際ならば、二人は問題なく会話が出来た。

 それもそのはず、三人で集まった際会話における第一声、話題の提供をしていたのは鈴仙・優曇華院・イナバ他ならなかったのだ。三人は休日、よく集まり、いろんな場所へ出かけた。湖畔へキャンプに行ったことさえある仲だった。しかし、三人で集まろうと最初に声をかけたのも鈴仙だった。そもそも、鈴仙が声をかけなければ、三人が集まることはない。今回、話題のレストランへ行くことにしたって、鈴仙の発案によるものだった。三人の中で比較的〝空気の読まない〟傾向があった鈴仙だが、咲夜と妖夢にとっては鎹のような存在だった。

 咲夜と妖夢はその事を、今になって、痛感していた。

 

「……。」

 

「……。」

 

 …………。

 二人は互いを嫌いあっているということはない。二人して、何か喋らねければと考えてはいた。比較的引っ込み思案な妖夢でさえも頭をひねって、何か丁度いい話題を考えていたし、咲夜も妖夢が頭をひねっていることを感じ、丁度いい話題を必死に思案していた。

 しかし、二人の思考を邪魔するものがあった。それは、二人にとって、この場にある唯一の共通の話題だった。

 

 ――鈴仙が、来ない。

 

 二人してそれを口に出さないのには理由があった。二人とも、それを口に出したら、これまで三人の関係の中にて埋没していた事実が表層へ浮き彫りになってしまうことを恐れていたのだ。

 〝二人の関係は鈴仙の存在で持っている。〟

 〝鈴仙さん来ないですね/来ないわね〟この台詞を吐いた瞬間、二人はその事実を認めざるを得なくなる。

 私たちはそれなりに仲の良い友人である。それが、二人にとっての共通認識だった。これまでは。

 

「……。」

 

「……。」

 

 …………。

 

「……あの!」

 先に口を開いたのは妖夢だった。しかし、妖夢の頭には何も思い付いていない。あるのは〝鈴仙が来ない〟その文字だけだった。

 

「……いえ、なんでも、ないです……」

 妖夢は何も言えなかった。元来の優柔不断とも引っ込み思案ともとれるその習性とともに生きてきた彼女に、この状況を打破する名案は、浮かぶはずもなかった。

 

「……そう」

 平静を繕っている咲夜だが、内心ではかなり焦っていた。妖夢が開きかけた口を閉じた事により〝私達の関係は鈴仙でもっている〟という事実が切迫してきた空気を感じたのだ。

 

 …………。

 

 ――この間を打破するのは私以外にいない。

 

 咲夜は鈴仙の話題の切り出し方を思い出した。鈴仙はよく、最近買った小物なんかを持ち寄り、それを提示して話題を切り出す。最近買ったもの、最近買ったもの……。咲夜は思考の果てに、懐からおもむろにナイフを取り出し、それをテーブルの上にゆっくりとのせた。

 

「……これ、私のナイフなんだけど……」

 

「あぁ……」

 

「……最近、新調して……オーダーメイド……」

 

「おぉ……」

 

 …………。

 

 咲夜は時を止めて頭を抱えた。それは失策だった。とりとめのない話題を切り出し、会話が続かないのは〝友人の友人〟感を助長させたのみだった。取り敢えず、テーブルの上のナイフを仕舞おう。そう決意したところで、時はまた動き出す。

 

「……。」

 咲夜は無言でナイフを仕舞った。妖夢は混乱していた。

 

 ――私も何か出さなければ。

 

 脳内はしどろもどろで混沌としていたが、妖夢はできる限りの平静を繕って、ゆっくりと椅子に置いた白楼剣に手を伸ばした。そして、咲夜に見えるようおもむろにそれを構えて、ゆっくりと鞘を抜いた。

 

「……これ、白楼剣っていって……」

 

「あー……」

 

「……えっと……人の迷いを断ち切れる……」

 

「へぇ……」

 

 …………。

 妖夢はテーブルの下に片手を伸ばし、半霊を揉みくちゃにした。それはやはり失策だった。何より妖夢は恥ずかしかった。この妙な間が、恥ずかしくてたまらなかった。

 ――ああ、早く鈴仙さんが来てくれたら。

 

 ――ねえ聞いてよ! ばんきちゃんったら酷いんだから!――。

 

 二人の沈黙の中、なにかよく通る声が響いた。それは、二人の座る席の後方に位置するテーブルから響く会話だった。

 

 ――姫、私ね、今日だってばんきちゃんのこと誘ったのよ! それで、ばんきちゃんは行けたら行く、なんて言うからさ、不安だったんだけど、当日になったら案の定! やっぱ行かない、なんて言ってさ! じゃあ行かないで一人で何するつもり?って聞いたらさ、わかんない、だらだらしてる、とか言ってくれちゃって! 腹立つったらないわ、正直!

 

 うーん、ばんきちゃんはマイペースよね、少しだけ。

 

 少しじゃないわ、マイペースすぎるのよ。こないだもひどかったわ。二人で遊んでる時、お洋服の話になったの。それで、新しい帽子が欲しいなーって私が言ったの。そしたらさ、ばんきちゃんたら本かなんかを読んでてね、あーとかおーとか言って、全然聞いてないんだから!

 

 それはちょっと、たしかにマイペースすぎるかも。

 

 しかも、終わりじゃないのよこの話! それから二週間ぐらい経った頃ね、また二人で遊ぶことになって、私は新しく買った帽子をかぶってばんきちゃんのとこに向かったわけ。それでね、まあお茶飲みながら普通に話してたんだけど、ばんきちゃんが急に、あ、そうだ、なんて言うの。なんだろうなーと思って、なに?って聞いたら、なんて言ったと思う? こないだの帽子の話なんだけどさ、ですって! もう、信じられないわ!

 

 わー、すっごいマイペース。ちょっと引く――。

 

 咲夜と妖夢はゾッとした。鈴仙が、もし、彼女らの友人のようにマイペースだったら。思い当たる節はいくつもあった。二人にとって鈴仙はやはり〝比較的空気の読まない人〟だった。

 

 二人の間の沈黙が、一層重たくなる。

 

 しかし鈴仙は、未だ来ない。

 

 

 

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