ハイカラさんが通る【完結】   作:代理投稿者サクマ

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すみれこのなつ 2

 私は溶けていくかき氷と、里の道に面した椅子に座り談笑する少女達を眺めながら、ぼんやりと早苗さんのことを考えていた。

 早苗さん……。早苗さん……。早苗……ちゃん。

 早苗、さんの云う〝よそよそしい〟とは、恐らく私の早苗さんに対して使う敬語が原因で出て来た言葉だろう。

 しかしながら、今更早苗さんに対して急にタメ口で話すなんて、私にはおおよほ不可能だ。

 魔理沙のようなタイプ。謂わば幻想郷の住人然としたタイプの相手に対しては割合自然体で話せるのだが、どうも、早苗さんに対して同じようにするのは気が引ける。

 何というか、そんなはずはないのに、私自身のことを色々知られてしまっているような、そんな気がして。

 私の通っている学校。そこでの私の評価は〝比較的おとなしい子〟というものだった。あり得ないことだが、早苗さんに、そんな〝おとなしい子〟の宇佐見菫子が、なんだ、流暢に喋るじゃないか。なんて思われてしまうことを、私は恐れている。

 私は自分が、おとなしい子であるとはあまり思っていない。どちらかといえば、繊細な感情等に対して頓着しない方だと考える。

 それはもちろん、元来持ち合わせた能力のおかげでもあるが、同時に、私が周囲から押される〝おとなしい子〟の烙印の原因はそこにあった。

 幼い頃は周りの子と遜色ないほどに〝お喋り〟もできた。しかし様々な経験を経て、私は人間関係というものに対して、保守的な考えを抱くようになった。人間関係を保守するという考えに希薄になった、と言ってもいい。

 それでも私は、見知らぬ人に道を尋ねたりするのは得意だ。道を聞くついでに、ちょっとした雑談だって出来る。近状とか、天気についてとか。

 ふと、道に面した椅子に座り、談笑している少女達の会話が耳についた。どうも、自分たちは〝ラッキー〟だ、ということについて話しているらしい。

 少女達が何について話しているか、私は一つ思い当たりがあった。

 恐らくは、この溶けかけのかき氷のことだろう。

 守屋神社から里に出て、しばらく歩いていると『ふらっぺ、あります』という旗を見つけ、この茶店に入った。

 お店の人に、フラッペ一つ、と注文すると「お嬢さんは運がいいね」と言われた。

 フラッペ、と聞いて注文し、実際出て来たのは氷を砕いて甘露水をかけたもの、まあ、かき氷だった。

 幻想郷のフラッペ感が分からないのでそこは無視して、自分がどう運がいいのかを店の人に尋ねた。

 店の人が言うには、夏の暑い日、里に幾つかある貯水槽のようなものがいたずらに凍りついていることがあるらしい。

 そう言う日以外はこの〝ふらっぺ〟を出すのは多少困難で、たまたまその日に当たった私は運がいい、ということらしい。

 少女達の会話を聞き流しながら、私は件のリーダー格の妖精の顔を思い浮かべた。

 あの妖精の名前はなんと言ったか、確か涼しそうな名前をしていた。

 ちる……?チル……。チル……ド。

 ううむ。

 私は他愛もない会話に盛り上がる少女らを尻目に、殆ど溶けたかき氷を流し込み、店を出ることに決めた。

 かき氷を流し込んだせいで、冷たさに少し怪しくなった呂律でお店の人に会計と礼を済ませ、私は人里の道を歩き始めた。

 それにしても、あの妖精はなんと謂ったか。

 チル……。チル……。チル……ド。

 最後の一文字が〝ど〟では無いことに薄々感づいていた私だったが、〝ど〟の付くほど暑い陽射しに、妖精の名前を思い出すための唯一のとっかかりである〝涼しげな名前〟という連想が、私の舌を〝ど〟の字に貼り付けるのだった。私はふと、幼い頃、暑さのあまりに冷凍庫から氷を取り出し頬張ったところ、氷が舌に張り付いた事を思い出した(?)。

 ううむ。それにしても。

 ちる……。チル……。チル……ド。

 私はしばらくの間むにゃむにゃと、思い出せない妖精の名前を、冷えた舌の上で転がしていた。

 

 

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