ハイカラさんが通る【完結】 作:代理投稿者サクマ
しばらく歩いて、私は妖精の名前を自力で思い出す事を諦め、五十音順に当てはめていこうと思い至った頃だ。タ行が終わりナ行に差し掛かった時、ふと空を見上げると、日が暮れ始めていることに気がついた。空はにわかにその青色に朱を差していた。
はて、私が眠ったのは何時頃だったか。確か昨夜は徹夜で3Dモデリングの作業をして……。
気がつくと正午をまわっていて、お腹が減ったことに気がついて、食べて、シャワー浴びて、寝たんだ。
ああ、そんなことはどうでもいい。
陽が沈むとなると、私は守屋神社に帰らなければならない。
結局里をふらついただけで、早苗、さんへの対策を何も考えていなかった。
結局、私はどうすればいいのだろう。さして親しくない早苗さんと二人きりで、何を話せばいいのだろう。
そんな時、私の視界に里の酒屋が飛び込んで来た。
これだ。と私は思った。
幻想郷の住人といえばこれだ。酒だ。幻想郷の住人は皆酒浸りなのだ。
私は酒屋に飛び込み、店でも一等高い酒を買った。金ならあった。
香霖堂の店主に適当なものを遣って、謝礼にとせしめた金がそれなりに。
私は半ばヤケクソになって、その金であれも、これも、と、多種多様な酒を購入した。
これだけあれば、早苗さんとの会話の話題にも事欠くまい。
私自身アルコールを呑んだことはないが、それは飲むだけで会話の弾むという代物らしい。
私はこれだけ買い込めば文句はあるまい、と店を出た。
さあ行こう。いざ行こう。守屋神社へ!
私は不自然に息を巻いて守屋神社へ向かうのだった。
しかしその矢先、里の家々の軒先から漂う匂いが、私の鼻腔をくすぐった。
それは、なんだか懐かしい匂いだった。
玉ねぎやら、じゃがいもやら、そんな類の野菜を刻んでいるときの匂い。
瞬間、私はひどくノスタルジックな気持ちになり、先程までの対早苗さんの熱は急激に冷めていくのであった。
ああ、早苗さん、夕飯作ってくれるって言ってたな。
なんだかんだ、少し楽しみになって来たかも。
いや、でもやっぱり不安だな。お酒、いっぱい買っちゃったけど、役に立つのかな。少なくとも、二人で飲む量じゃないけど。
ふわふわと、守屋神社への帰路を辿っていると、在ることを思い出した。
ああ、〝ノ〟だ。
日中私を悩ませた妖精の名前の最後の文字を、思い出したのだった。
守屋神社が見えてくる頃、空は夕焼けを通り越していて、紺色が橙色を、今にも押し潰してしまいそうだった。
戸の前までたどり着くと、美味しそうな煮付けの匂いが鼻腔をくすぐった。
魚かな、と、私は思った。