ハイカラさんが通る【完結】   作:代理投稿者サクマ

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すみれこのなつ 5(了)

 不意に、眠たげな口調で早苗が言った。

「菫子さん。今日はありがとうございました。私のわがままに付き合ってもらっちゃって」

 ん、と私は答える。本当は、私がお世話になった一日なのだから、色々返答したかったんだけど、なんだかそれ以上は気が引けて。

「今日はとっても楽しかったです。それで、今、久し振りに本当に寂しくて、なんだか嬉しいんです」

 早苗は、やはりふふふ、と笑いながら言った。

「寂しくて、嬉しいの?」

「えへへ。なんか、そうなんです。でも、いつも寂しいのは、もちろん嫌です」

「そりゃあ、そうだよ。誰だって」

 

「でも、私は普段、ほんとに幸せなんです」

「幻想郷に来る前は、不安だったんですけどね。そんな私の不安を他所に、こっちはとっても賑やかで、楽しくて。……でも、時々戻りたくなることもあります。そんなときは、やっぱりちょっと寂しいけど、でも、ちょっとなんです。ほんの、ちょっとだけ」

「神奈子さまが居て、諏訪子さまがいて、霊夢さんや、魔理沙さんがいて。忙しないくらい賑やかなのに、どこかゆったりした日々が流れていく。ああきっと、ここにいれば、こんな日がいつまでも続いていくんだなあって、思うんです」

「そう思うと、寂しさなんて、ちょっとの間に、何処かに消えてしまうんです。それがまた、少し寂しいんですけどね」

 寝室は、夏にしては涼しかった。少し開けた窓から、そよそよと風がそよぐ。

「そっか」

 ……。

「……私が、そっちにいた頃。高校生だった頃は、寂しさって、もっと痛切なものだった気がするんです」

 私は少し、胸が締め付けられるのを感じた。

「幻想郷で暮らしていると、寂しさなんて、ほんとにちっぽけに感じられるんです。寂しくなっても、ほんの一瞬。寂しさなんて、すぐに押し流されてしまうんです。そのくらい、ここは賑やかで、楽しくて。向こうにいた時のことなんて、忘れてしまいそうになるくらい」

「でも、いまはほんとに寂しいです。幸せで、寂しいです」

 そして少しだけ、いじわるだなあ、と思った。

「何がそんなに寂しいのさ」

 分かってたけど、私も少し、仕返ししてみた。

「おやすみなさいを言うのが、です」

 分かってるってば。

「でも、言わないまま眠っちゃうのも、それはそれで寂しいかもよ」

「それは、そうかもしれませんね」

 それでもおやすみなさいを言わない早苗が、私はなんだかいじらしくなってきて。

 気がつくと、私は早苗と同じ布団に入っているのだった。

 布団の中は、とても暖かくて、なんだかすごくさらさらしていた。

「菫子さん。明日はゆっくり眠ってて下さいね。私が朝ごはんを用意しておきますから」

 早苗は殆ど眠りそうになりながら、そんな事を言う。

 ああ、やっぱり早苗さんだなぁ。なんだか、明日起きた後、ふつーに敬語使っちゃいそうな感じ。

 そんなことを考えると、私は少し寂しくなった。

 でもいいや。布団、暖かいし、眠たいし。

「ほんと?楽しみにしてる」

「はい。楽しみに、しててくださいね。気合い入れて、作っちゃいますから」

 そう言って、早苗は寝息を立て始めるのだった。

 結局、おやすみなさいは言えなかったけど、でもいいや。

 私もそろそろ、眠ってしまおう。

 朝ごはん、楽しみだな。

 

 

 ……

 …

 

 

 

 

 目がさめると、私は布団の中にいた。

 目を瞑ったまま、布団をまさぐって早苗さんの存在を確かめるが、どうやら早苗さんは布団の中にはいないようだ。

 ああそういえば、寝る前に、朝ごはんを作ってくれるって言ってたっけ。

 思えば何か、味噌汁のいい匂いがする。

 我ながら、ちょうどいい時間に起きたかもしれない。

 起きて行ったら、テーブルに朝食が並べられてたりして。

 流石にそこまで期待するほど図々しくはないけど、早苗さんなら有り得るかもしれない。

 そんなことを寝ぼけながら考えていた。

 うーん、このままもう一度、眠ってしまおうか。

 しかし、蒸し蒸しとした夏の熱気がそれを許さなかった。

 茹だる暑さに堪えきれず、思わず勢い良く上体を起こすと、窓から燦々とした日差しが部屋の中に降り注いでいた。

 窓から炎天下に焦がされたアスファルトを見やると、やはり私は部屋から出る気力すら奪われ、カーテンを閉じるのだった。

 ああ、夏だな。と、私は思った。

 

 




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主演:小野塚小町
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