ハイカラさんが通る【完結】 作:代理投稿者サクマ
不意に、眠たげな口調で早苗が言った。
「菫子さん。今日はありがとうございました。私のわがままに付き合ってもらっちゃって」
ん、と私は答える。本当は、私がお世話になった一日なのだから、色々返答したかったんだけど、なんだかそれ以上は気が引けて。
「今日はとっても楽しかったです。それで、今、久し振りに本当に寂しくて、なんだか嬉しいんです」
早苗は、やはりふふふ、と笑いながら言った。
「寂しくて、嬉しいの?」
「えへへ。なんか、そうなんです。でも、いつも寂しいのは、もちろん嫌です」
「そりゃあ、そうだよ。誰だって」
「でも、私は普段、ほんとに幸せなんです」
「幻想郷に来る前は、不安だったんですけどね。そんな私の不安を他所に、こっちはとっても賑やかで、楽しくて。……でも、時々戻りたくなることもあります。そんなときは、やっぱりちょっと寂しいけど、でも、ちょっとなんです。ほんの、ちょっとだけ」
「神奈子さまが居て、諏訪子さまがいて、霊夢さんや、魔理沙さんがいて。忙しないくらい賑やかなのに、どこかゆったりした日々が流れていく。ああきっと、ここにいれば、こんな日がいつまでも続いていくんだなあって、思うんです」
「そう思うと、寂しさなんて、ちょっとの間に、何処かに消えてしまうんです。それがまた、少し寂しいんですけどね」
寝室は、夏にしては涼しかった。少し開けた窓から、そよそよと風がそよぐ。
「そっか」
……。
「……私が、そっちにいた頃。高校生だった頃は、寂しさって、もっと痛切なものだった気がするんです」
私は少し、胸が締め付けられるのを感じた。
「幻想郷で暮らしていると、寂しさなんて、ほんとにちっぽけに感じられるんです。寂しくなっても、ほんの一瞬。寂しさなんて、すぐに押し流されてしまうんです。そのくらい、ここは賑やかで、楽しくて。向こうにいた時のことなんて、忘れてしまいそうになるくらい」
「でも、いまはほんとに寂しいです。幸せで、寂しいです」
そして少しだけ、いじわるだなあ、と思った。
「何がそんなに寂しいのさ」
分かってたけど、私も少し、仕返ししてみた。
「おやすみなさいを言うのが、です」
分かってるってば。
「でも、言わないまま眠っちゃうのも、それはそれで寂しいかもよ」
「それは、そうかもしれませんね」
それでもおやすみなさいを言わない早苗が、私はなんだかいじらしくなってきて。
気がつくと、私は早苗と同じ布団に入っているのだった。
布団の中は、とても暖かくて、なんだかすごくさらさらしていた。
「菫子さん。明日はゆっくり眠ってて下さいね。私が朝ごはんを用意しておきますから」
早苗は殆ど眠りそうになりながら、そんな事を言う。
ああ、やっぱり早苗さんだなぁ。なんだか、明日起きた後、ふつーに敬語使っちゃいそうな感じ。
そんなことを考えると、私は少し寂しくなった。
でもいいや。布団、暖かいし、眠たいし。
「ほんと?楽しみにしてる」
「はい。楽しみに、しててくださいね。気合い入れて、作っちゃいますから」
そう言って、早苗は寝息を立て始めるのだった。
結局、おやすみなさいは言えなかったけど、でもいいや。
私もそろそろ、眠ってしまおう。
朝ごはん、楽しみだな。
……
…
目がさめると、私は布団の中にいた。
目を瞑ったまま、布団をまさぐって早苗さんの存在を確かめるが、どうやら早苗さんは布団の中にはいないようだ。
ああそういえば、寝る前に、朝ごはんを作ってくれるって言ってたっけ。
思えば何か、味噌汁のいい匂いがする。
我ながら、ちょうどいい時間に起きたかもしれない。
起きて行ったら、テーブルに朝食が並べられてたりして。
流石にそこまで期待するほど図々しくはないけど、早苗さんなら有り得るかもしれない。
そんなことを寝ぼけながら考えていた。
うーん、このままもう一度、眠ってしまおうか。
しかし、蒸し蒸しとした夏の熱気がそれを許さなかった。
茹だる暑さに堪えきれず、思わず勢い良く上体を起こすと、窓から燦々とした日差しが部屋の中に降り注いでいた。
窓から炎天下に焦がされたアスファルトを見やると、やはり私は部屋から出る気力すら奪われ、カーテンを閉じるのだった。
ああ、夏だな。と、私は思った。
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主演:小野塚小町