ハイカラさんが通る【完結】   作:代理投稿者サクマ

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機械 2(了)

 

 あたいの話が聞きたいって? わざわざあたいに休日なんて与えて、あんたも物好きだなぁ。まあ、聞きたきゃ聞かせてあげるよ。酒も奢ってくれるって話だしね。ただ、その目をやめておくれよ。嫌いなんだ、その目。

 そうだな。まずはあんたの知ってる話、何回か話したかもしれないが、まあ、やな顔せずに聞いておくれよ。あんたが聞きたいって言ったんだ。

 死神の、あたいの主な仕事ってのは引率。死んだ人間をあの世まで引率することだ。死亡現場付近をうろついてるやつ、所謂霊に死を自覚させて、三途の川まで連れて行く。三途の川に着きゃあ、向こう岸まで渡してやるんだ。これも結構キツい仕事でさ、あんたも知ってるとは思うが、カッチカチの規則ってやつがあったんだよ。

 まず原則として、必要以上の会話をしないこと。別にあたいが、死神が死者にどれだけ肩入れしようと裁判の判決が変わることはない。なのに、まあ、禁止されてたんだな。

 それから細かいところでいえば、川までの引率の際は必ず死者より先行すること。立ち止まらないこと、振り向かないこと。死者が小走りになるぐらいの歩調で歩くのさ。ほら、犬の散歩ってあるだろう? あれが近いね。

 んっんー。まあ、こんな感じにやるんだよ。

 ああ、貴女。私のことが見えるのですか。貴女以外は私のことが見えていない様子で、もしかすると、私は死んでしまったのでしょうか。

 そうだよ、あんたは死んだのさ。それで、あたいは死神。あたいはあんたを連れて行かなきゃいけないんだ。どこに連れて行かれるかは、分かるだろう?

 こんな具合で、歩き始める。奴らは大抵未練やなんやで、よたよたよたよた、トロいんだ。でも、あたいは振り向かないでさっさっと歩く。奴らは小走りになって着いてくる。なもんで、三途の川に着く。川の幅は乗せる奴によってまちまちだけど、大抵長くて、そして暇だ。だから奴ら、話しかけてくるんだな。こちとらそれを禁止されてるってのに。それも、やれ生前がどうだったとか。やれ残る家内が心配だとか、徹頭徹尾、よくある話でさ。あたいは相槌を打つんだ、そうかい、そうかい、って、全部に同じ相槌をさ。嫌になるよ。それでも奴ら、話終わると満足した様子で、暫くは黙って揺られてるんだけども、なんでかな。最終的には口を開いて、みんな同じことをあたいに聞くんだ。

 あの、私は、地獄に落ちるのでしょうか。ってさ。

 あんたなら分かるかもしれないが、そんなことはあたいが知るはずないだろう? だからあたいは言うんだよ。

 どうだろうね。って。

 何かどうも、奴らは死神ってもんを勘違いしているらしいんだよ。死神は生き死にに精通していて、達観していると思い込んでるんだ。いい迷惑だよ、まったく。死神なんて生き物に出せる解なんてありゃしないんだよ。死神ってのはそういう風に出来てるんだ。死神は、なんの解も出せない性質なんだよ。そんな生き物がさ、言えるかい? あんたはきっと天国だよ、あんたは地獄だよ。なんてさ。どうだろうね。それ以外、言えるわけがない。

 だって、死神は生まれた瞬間から死神なんだよ。河童や人間なんかは、よく自身の種族に課せられた生産って命題で悩んだりするらしいけどさ。死神よかよっぽどマシな種族だよ、あれは。河童だって人間だって、とどのつまり辞められるじゃないか。種族への迎合を捨てたらそりゃ生きていけないかもしれないが、自由に生きて、自由に死ねるならよっぽどマシさ。少なくとも、あたいはそう思うよ。

 それに、あたいは天国や地獄がどんな場所かよく分かってるんだ。冥府ってのはつまり、魂をリサイクルできるようになるまで漂白する場所なんだよ。

 なあ、閻魔様。あんた自我ってなんだか知ってるかい?

 自我ってのは要はそいつがそいつ足る明確な他との差。まあ、個性だな。じゃあ、個性ってのはなんだと思う? あたいはね、そいつが何を楽しいと感じて、何を苦しいと感じるか。そういった人それぞれの苦楽の基準。それが個性だと思うんだ。

 よし、仮に辛いことを快く感じる人間がいたとしよう。それから、そいつが天国に行ったとする。天国ってのは何はどうあれ楽しい場所だろう? だから、そいつは天国でつまらない思いをするだろうね。ほら、よくいるじゃないか。酒席で、端の方に座って黙ってるやつ。きっと、そんな感じになるんだろうね。だけどそれでも、天国ってのは絶対的に楽しい場所なんだ、そうじゃないといけない。だから、そいつは否が応でも楽しくさせられる。感情を楽しいに固定されるのさ。地獄に行ったとしても同じ。そいつがどれだけ苦痛を快く感じたところで、地獄って場所は絶対に苦痛を固定するんだ。そこに個人の苦楽の基準、個性は介在しない。どんな人間も楽しいだけ、または辛いだけにされて、魂を漂白されるってわけさ。人間達はそれを冥福、なんて呼んでいるらしいが、ははは。ああ、その目をやめておくれよ。嫌いだって言ってるじゃないか。

 え? 天国や地獄で、楽しいかったり悲しかったりするのは自我があるからじゃないか、って? あー閻魔様、言ったじゃないか。自我とは他者との差異、つまり個性で、個性とはそれぞれの持つ苦楽の基準だって。感情ってのは自分の所有物じゃないんだよ。それはきっと、どっかから供給されるものなんだよ。

 いや、こんなあたいにも、我を忘れるほど笑ったり、悲しんだりしたことはあるんだよ。楽しいときゃ、箸が転げるだけでどうにも楽しいし、悲しいときゃ何がどうして全てが悲しい。そうだろう? でもそれってようは、苦楽の基準を逸した状態だろう? つまり個性を逸した状態さ。感情が自分の所有物だってんなら、いつでも蛇口を捻るように感情をコントロールできるはずじゃないか。でも、喜びと悲しみってのは突然やって来る。それは交互に入れ替わったり、ずっとどちらかに偏ったりしてさ。それがつまるところ、感情が自分の所有物じゃないって証明になるだろう。そう思うとさ、楽しさとか悲しさに、意味を見出せなくならないかい? 少なくとも、あたいはそうだね。

 そうだ、それで思い出したが、たまに面白いやつもいるんだよ。どこで聞いたか、天国や地獄がどんな場所か分かってるやつがさ。そういうやつは渡し舟の上で、私は地獄に……なんて聞かないんだ。その代わりよく喋るね。天国と地獄、どちらにせよ自我が消えたらそれで終わり、その瞬間こそが本当の死だ、なんてさ。まあ、結局怖くてたまらないから、喋らずにはいられないんだと思うけどさ。そいつはたしか地獄に落ちて、そうだな、結構早く、まっさらになったって話だよ。流石、生前から冥福を前借りしていただけあるよな。

 いやいや閻魔様、人間ってのは割と合理的に生きるように出来てるんだ。こないだあんた、外の世界の死神との交流会を開いてくれたろう? ああ、あれは楽しかったなあ。ああ、ともかく、ともかくさ。そこで、向こうの死神から聞いた話なんだけどね。向こうの世界で、どうしても殺される運命の男がいたんだよ。運命って言っても、あれだよ、ヤクザに狙われたとか、死刑囚とかさ。それで、そいつを殺す側の男がそいつに尋ねるんだと。銃か毒か、好きな方を選べ。ただしお前が毒を選び、奇跡的に死ななかったとしても、その時は俺がお前を殺す。何がどうあれ絶対に殺す。助かることは万が一にも無い。さあ、銃か毒か、好きな方を選べ。なんてさ。そしたら殺される側の奴ってのは、大抵銃を選ぶらしいんだ。閻魔様、これってどうしてだと思う? あたいはね、早く次に行こうとしてるんじゃないか、って思うんだよ。さっさと死んで、さっさと冥福にあやかって、リサイクルされよう。って。そういう算段が、生まれた時から魂に刻み込まれているんじゃないかって思うんだ。向こうのその死神は統計を取っていたらしいんだけど、八割は銃を取るって話だよ。なんか、不思議だよなあ。ははは。

 え?

 いや、もちろんそりゃあそうだよ。天国や地獄かどういう場所かなんて、あたいに、一介の死神風情に解るわけがないじゃないか。言ったろう? 死神なんて生き物に出せる解は一つもないって。なんで、って。何を聞くんだい。それこそ分かりきったことじゃないか。死神を渡した死神はいない。あたいらが死んだら何処へ行くかなんて、誰も知らないんだから。

 ああネエちゃん、酒、お代わりね。

 まあさ、あんたが色々変えてくれるって話だけど。どうだろうね。

 

 あたいは結局、何も変わらない気がするんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 




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