ハイカラさんが通る【完結】   作:代理投稿者サクマ

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「なあ、オペラ座の怪人って、そもそもはどんな話なんだ」
「音楽の才能がある醜い男が女に片思いして一生めちゃくちゃやる話。最後はおとなしくなる」
「はえー、じゃ、この映画と大体一緒か」
「大体一緒。どうでもいい」
「そうだな、どうでもいい。まあ、面白くなさすぎて、楽しめたけど」
「言えてる」
「そうだ。昔こんな感じのダサい名前のヒーローアニメ、雑誌で見なかったか? たしか、科学忍者……? なんだっけ、引っ掻くみたいな名前の、ほら。あー、なんだっけなー」
「それこそほんとにどうでもいいわ」
「思い出すの手伝えよー」
「知らん」

 ……。
 …………。
「たまにはミュージカルもいいね」
「うーん。美しいって、こんな感じだよね」
「でもさルーミア、ミュージカルって大抵綺麗に終わってさ、ハッピーエンド、ちゃんちゃん。って感じだけど、実際はそうじゃないよな」
「あー、どゆこと」
「いやあ、なんというか。緞帳が落ちても、そいつの人生は続いてさ。きっと、あとを濁すようにジタバタしてさ、ふっと、死んでいくんだよ。どれだけハッピーエンドでも、きっと、みんなそうなんだよ。それは多分綺麗なもんじゃないし、面白くもないから、んーと、まあ、描かれないんじゃないかなーと、僕は思ったよ」
「なるほどねえ」
「僕、なんか深いこと言ったんじゃなーい?」
「でもさ、この映画。ジャンバルジャンは最後、死んでるじゃん」
「え?」
「ジャンバルジャン、死んでるじゃん」
「……ルーミアお前、情緒がないなあ」
「あんたに言われたくないわ」
 …………。




日々は槻を濁すよに 7

 

 リグルも酔うと口数が減る。逆に、酔って口数が増えたときのリグルは最悪だった。口調そのものは上機嫌なのだが、話す内容は大抵不機嫌なものが多かった。「河童の殺虫剤がヤバい」だとか、「河童共が憎い」だとか。一番酷かったのは、やはりリグルが一番酔っ払ったときのことだった。映画を観終わって呑んでいたら、リグルが唐突に妙な話を切り出して、そこから訳が分からなくなった。

 思い出せる限りでは、

『なあルーミア。おまえ、ベニクラゲって知ってるか』

『ああ、なんとなくね。あの死なないってやつでしょ』

『あいつら死なないでさ、増えるんだぜ。どう思うよ、ルーミア』

『いや、別にどうとも』

『どうともって! このままだといずれ、海はベニクラゲだらけになって、ベニクラゲのものになってしまうよ。僕はどうしたらいいのか、ああ!』

『ここには関係ないでしょ。あんた少し飲み過ぎじゃない』

『だいじょぶ、だいじょぶ。ときに、ルーミア。セックスってさ、どう思うよ』

『お酒、残りは私が飲むわ』

『セックス、アレはさ。感染症のリスクがあって、子供が出来たら金が掛かるだろう? ああ、それで。ルーミア、里で一番多い苗字って、知ってるか?』

『呉』

『え、マジ? どーしよー、呉だらけになるよう』

『話の続きは?』

『ああ、そうだ。だからさ、要はさ、子持ちの人間にタバコを注意されたくないってはなし! 歩きタバコはさ、そりゃダメだけど。タバコ吸ってるならやめたほうがいいよ、お金は減るし、悪影響だし、って、なんなんだよ。余計なお世話だよ! 僕は煙が苦手だし、お金なんてどうだっていいんだ!』

『つまみも残り、食べていいでしょ』

『ああ、そうそれで。世にはさ、あーてぃすと、なんて呼ばれる連中がいるけどさ。あれはダメだよ。映画でみたんだ、本でも読んだ。雑誌でもみたし』

『なにがどうダメだっての』

『不幸の、不幸の中毒なんだ。悲しいこと辛いこと悔しいこと虚しいこと、それを良しとしてるんだ。僕は嫌いだね、報われない努力なんて』

『ミスティアは?』

『みすちー……あいつは、あいつは、好きだよ。もう、僕はどーしたらいいのか、ああ』

『寝たらいいわ』

『……うん、そーする』

 こんな感じだった。

 ときに、言葉を吐き出すのは大抵その言葉を飲み込めなかったときだ。愚痴なんかを想像するとわかりやすい。吐き出す相手によってはそれを食べやすく刻んでくれる相手もいるが、えいやと飲み込んだそれが薬であるとは限らないし、毒であるかもわからない。あるいは毒でも薬でもない、毒にも薬にもならないものかもしれない。ただ言えるのは、毒も薬も、大概苦いということのみだ。だいいち、今更感情の話なんてしたくもない。

 私たちの日々は概ねこんな具合に流れていたが、しかし家でじっとしているばかりではなかった。私は家でじっとしていたかったのだが、リグルがそれを妨げた。だから私は、現にこうして雪降りしきる空の下、雪玉なぞを丸めているわけなのだ。互いにどこかに隠れて、先に相手を見つけて雪玉をぶつければ勝ちという、どう考えても待ちが有利なこのルールはリグルの考案だった。リグル曰く、冬っぽいことできればなんでもいい、とのことだった。勝負はどちらかが5勝するまで続く。互いに冬服を所持していない私たちにとって、もはや勝敗はどうでもよく、さっさと勝負を終わらせることが肝要だった。はずなのに。現在私は4勝4敗と、くだらない経過に至っている。特に何かを賭けているわけでもないが、意地の張り合いが続いたというわけだ。

 

 

「あいたっ」

 

 

 後頭部に衝撃が走り、今まさに決着。私の負けだ。もうなんでもいいから、早く帰りたい。

 

 

 

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