ハイカラさんが通る【完結】   作:代理投稿者サクマ

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日々は槻を濁すよに 11(了)

 それから私は教師になった。初授業の日、慧音先生の見守る中、私は鼻水を垂らしたクソガキどもに言ってやった。

 ――今日からこの寺子屋で勉強を教えるのは慧音先生だけじゃない。自己紹介までに、名前はルーミア。まあ、私の名前なんて覚えなくたっていい。ただ一つ、お前らに言っておくことがある。いいか、一度しか言わないからよく聞けよ。んっんー。……いいかおまえら、学問とはずばり、我々の世界のコウキョウなんだ。

 

 ――意味はわからずじまいだったが、目的はクソガキどもに教養を授けることではなく、それは、慧音先生に対するアピールだった。先生、私は今でも覚えています。なんて、そんな気持ちで放ってやった文句だったのだが。小さい頃憧れてた人物が実はポンコツだった、なんて話はよくあることのようで、先生は教卓の横で不可解そうに首を傾げていた。

 おまけに、私の自己紹介が済むなり、クソガキのリーダーとその仲間たちが、「あたいはおまえなんかを教師なんかとみとめない!」と蜂起して何処かへ遊びに行ってしまった。散々だ。

 しかし、そんな連中を見て浮かんだ感慨があったので、授業のあと、私は先生に或ることを言ってみたりした。

 

 ――先生。チルノも、いわばみんなの教師みたいなものなのかもしれないね。体育かなんかのさ。あはは。

 

 ――先生は相変わらずに何もわからなさそうに首を傾げて、どういうこと? なんて聞くものだから、私は先生を危うく罵倒してしまいそうになった。しかし根が善良で、かつ、たまにいいことを言うので、私は先生に対する尊敬をかろうじて保てている。

 

 さて、リグルについてだが、やつは今まさに、私の隣に座って酒を飲んでいる。

「いやあまさかほんとに、教師になるなんて! はは、僕は、僕はなんだかうれしいよ、ルーミア!」

 上機嫌に顔を赤らめ笑うこいつにしたって、あれから変化があった。相変わらずに害虫駆除という火消し労働を続けてはいるが、放火はやめたのだ。その際に名刺に使っていた肩書きを「害虫駆除業者」から変更したとの話だが、どうも、リグルのセンスは読めない。

「おいおい、センスがおかしいのはおまえだよ、ルーミア。今や、僕が里を歩くとみんなが指を指して目を輝かせるんだぜ」

 いわく、ムシキング。アホか。

 

「はい、おまたせしました、日本酒ね」

「ありがと。ああ、ヤツメウナギもおねがい」

「はーい」

 

 それから、ミスティアはやっぱり歌をやめた。しかし、屋台の壁には使い込まれたフォークギターが飾られており、ミスティアはよく、頼んでもいないのに、弾いてくれる。ああ、そう。私たちは今ミスティアが始めた屋台で飲んでいる。だから、私はいま、酔っている。

「うう、教え子の作った店で、教え子たちと呑める日がくるなんて。こんなにうれしいことはない。う、うう、教師冥利、教師冥利というやつだなぁ……」

「僕うれしいなあ。泣くほど喜んでもらえるなんて。でも先生、僕の服でいろいろ拭うのはやめてよ」

 今日は私の就任記念というやつで、それは、リグルとミスティアの、二人の計らいだった。先生はどうにも酒に弱く、二杯と飲まないうちに涙腺が壊れてしまったようで、さっきからよくわからないことばかり言う。

「ああ、特に、ルーミア! 私は、私はお前のことが一番うれしいよ。心配だったんだ、卒業間近ってときに、寺子屋に来なくなって、それきりだったから! だから、厳密に言えばお前はまだ卒業していないんだぞ、卒業もせずに教師だなんて。おかしな話もあったもんだなあ」

 

 泣いていたかと思えばキョトンとして、感嘆混じりに腕を組んだり。うーん、この人にお酒飲ませるべきじゃないな。

 

「そうだ! ルーミア、なにか、なにか詩を読んでくれ。就任に御誂え向きなのを、そしたら先生、きっと、もっと泣いてしまうから! あ、出来れば三十一字で頼む。先生な、好きなんだ。三十一字が」

 

 ともかくとして、私の日々はこんな具合に流れている。その日々は、思いのほか、あの青い夏と地続きで。まあ、つまるところ、終わりを決めるも決めないも、結局、自分自身、というか、なんというか……はは、わかんないや。

 

 

 先生に頼まれた詩に関しては、そのとき、私は就任を祝われてる、ということもあり、随分前向きなのが思い浮かんでしまった。それは、私の日々は次の世のため、とか、そんな内容で。小っ恥ずかしかったから、頭をひねって、わかりにくくしてやった。

 

 朝の月

 酔えばのたうつ

 平熱の

 日々は槻を

 濁すよに

 

 槻の別称とか、そういうのを捻って考えた詩なのだが、どうも、慧音先生のみならず、リグルにも、ミスティアまでにも、きょとん、をいただいた。

 まあ、この孤立感というのが、すなわち教養というやつなのだ。きっと、そうに違いない。

 いや、でも。うーん……そうなのか? とか、言ってみたりしてさ。

 




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