ハイカラさんが通る【完結】 作:代理投稿者サクマ
針妙丸が珍しく視察しておかなきゃならない場所があるなんて言うから、そのときは感心したんだが、わたしが連れて行かれたのは居酒屋だった。
針妙丸曰く、情報を集めるなら酒場が一番、とのことだったが、わたしは正直ピンとこないまま店に入った。
しかし、そこで思わぬ収穫があった。
店の中には妖怪が二体。人間に紛れ、愚痴を肴に酒を飲み交わしていたのである。
わたしはそいつらの会話に耳を澄ましてみた。
「だいたいさー、なんで人間よりも何倍強い私たちがさ、金なぞ支払わきゃならんのかなー。酒飲むために働いてまでさー」
「わかるわー。ばんきちゃんなんて、人間たちにおせきちゃん、なんて馴れ馴れしい呼ばれ方されてるのよね。なーにがおせきちゃんですか、喰らうぞこらって感じよねー」
「まあ、ばんきちゃんもおせきちゃんも、呼び方としては大差ないと思うんだけどな。呼び方はともかくとしてさ、馴れ馴れしいんだよ、人間風情がさー。博麗さえいなければなー。そうしたら今頃、酒なぞ飲まなくても人喰って満足できてるだろうに」
「でも、ばんきちゃん。私ね、人間の作る麦酒だいすき。もはやこれがないと生きていけないわ。ある種私はもう既に、人間に支配されちゃってるのよ。こわいわー人間こわいわー」
「たしかに。人間の作る酒はやめられないな、私も。あーあ。妖怪に管理されてるはずの人間たちに管理されちゃってるんだなー、私たちって。あの紅白もなまら強いらしいし、なんか、情けなくなってきたなー自分が。これはもう、やっぱりあれだな」
「うんうん。呑むしかないよ、ばんきちゃん」
なんだか情けないやつらだが、計画の駒としては十分な思想を持っていた。
「そういや外の看板みた?なにあれ〝妖怪と思しき方の飲み放題の注文は拒否させていただきます〟って、あまりにも差別が過ぎるよなー」
「あー、なんかここで蟒蛇って奴が飲み放題で元を取るほど飲み散らかしたって話よ」
「あー、あいつか。馬鹿だなーあいつ。ほんとあほ」
「ねー。しかもその蟒蛇ってやつ、妖怪だってことが店にばれた直後、博麗に割られたらしいわ」
「なんだよ割られたって。え、なんだろ、割る?わかんないけどおそろしーな。影狼、私たちも気をつけようなー」
「ほんと。おそろしーわ、人間。あーあ」
暮れも早々にして酒を飲みクダを巻く妖怪たちの会話を聞き飽きた頃、酒に顔を赤らめた針妙丸が私に訪ねてきた。
「なあせーじゃ、蟒蛇ってやつが悪いのに、なんで全ての妖怪から飲み放題注文の権利を奪う必要があるんだ?」
「妖怪ってのは基本大酒飲みですからね。それを見越しての対策なんじゃないですか?人間なりの」
「ふーん。じゃあ、せーじゃも結構呑めるってわけだ?」
針妙丸が何やら挑発的な表情をするので、わたしは少し、こいつをいじめてやりたい気分になった。
「もちろんですとも。わたしはこれでも鬼の端くれですからね。そんじょそこらの妖怪の呑む量の倍は軽いもんですよ。まして、体の小さな小人族なんて比にならないでしょうね」
針妙丸はカチンときた様子で喋り出す。
「言うじゃないか。これはもうアレだな、アレしかないよ」
「飲み比べをしようじゃないか」
単純なやつだな、と、わたしは思った。
「あれは私のせいじゃないだろ!お前が酔っ払って、店の中で演説を始めるからいけないんだ。そのせい関係ないあの妖怪たちまでまで出入り禁止になったんだから。反省しろよなー」
演説なんてしただろうか。記憶にない。
そもそも飲み比べを始めてから店を出るまでの記憶は曖昧だった。
店を追い出されたことは記憶にあるのだが。わかってはいたが、どうにも、わたしはあまり呑めないたちだった。
「酒は進めた方にも責任があるんですよ、姫。下戸にあんな量の酒を飲ませた姫がいけないんです。反省してくださいね。あ、でも帰り道の川で吐いたゲロの量はわたしの方が断然上でしたね」
針妙丸は驚愕、といった表情を浮かべて私を睨んだ。
わたしを睨むこの目が、例の〝信じられないものを見るような〟目である。
やっぱり面白いな、こいつ。
「当たり前だろ。せーじゃと私じゃ、飲める絶対量が違うんだから。しかも、飲み比べは呑める量を競うものであって、吐いた量は関係ないだろ。きたないよ、はなしが。だいたい、弱いなら弱いって、正直に言えよな。まったく「天邪鬼ですから」
声を被せてやると、またしても針妙丸が眉を潜め、わたしを睨む。
微妙な表情だ。
これがなかなか癖になる顔で、わたしはこれを見たいがために、必要以上に針妙丸をからかってしまうのだった。