ハイカラさんが通る【完結】 作:代理投稿者サクマ
「いやぁ皆様方!少しだけ、わたしの話に耳を貸していただきたい。今からするのは、わたしと、そして皆様方ご自身のお話です。まずは自己紹介をさせていただきましょうか」
「わたしは鬼人正邪と申します。種族は天邪鬼。えー、こんな種族で生きてきたものですから、それはもう様々な辛酸を舐めてきました。酒席ですから、詳しい話は省きますが。あー、そうですね、一つ、そこまで暗くないもので印象に残っているのがあります」
「わたしはその日どうにも腹が痛みまして、どうにかならないものかと腹を押さえながら妖怪たちの集落のような場所をふらついていました。すると、なんの妖怪かまではわかりませんが、角を生やした妖怪の子が腹を押さえたわたしをみつけるなり指を指して云うんです『ああ、天邪鬼が腹を隠して歩いてら!わかりやすい天邪鬼もいたもんだ!腹なぞ隠さなくても、お前ら天邪鬼の腹の色は知れ渡ってるってのに!』なんて。わたしはそれを聞いて、腹痛はさておき。ああ、言われてみるとその通りだなぁと、妙に感心してしまいましてね。それから、なんとなく腹に手を添えるのが癖になって、それがどうも落ち着くようになってきたんです」
「今お話ししたのはほんの一例ですが、わたしはこのように、お前は天邪鬼だから〝こう〟なのだろう、といった偏見の眼差しを受けてきました。しかしながら、それは、皆様全員にも同じことが言えるでしょう。心当たりはありませんか?恐らく〝お前はこうだから、こうなのだろう〟そんな風に決め付けられて、思うように主張が、会話が、出来なくなってしまったことがあるでしょう。少なからず、そこにいる妖怪のお二方は身に覚えがあるかと存じます。えっ、盗み聞き?いやいやとんでもない、お二人の声が大きくて、自然に聞こえてきただけのことですよう。えっ、よくも妖怪だとバラしたな?これは失礼しました」
「さぁ、人間の皆さんはこのお二方が妖怪だと聞いて騒めき始めましたね。ほうほう、酒がまずくなる?こんなところには恐ろしくていられない?はい。わたしが言いたいのはまさにそれです。あなた方人間は、妖怪の存在を見つけると、逃げ出したり、罵声を浴びせたり、攻撃を始めたりします。それは一体なぜでしょう?妖怪が憎いから?恐ろしいから?そうではありません。それは、あなた方が人間だからです」
「人間は、この幻想郷に生まれた以上は被食者という、ヒエラルキーの下層に位置します。ヒエラルキーの頂点には、もちろん妖怪やら神格やらが位置しています。幻想郷に生まれた以上、それを知らずに生きていくのは不可能でしょうね。だからこそ、あなた方人間は、人ならざるものを見つけ次第に逃げ出したり、恐れたり、攻撃を仕掛けたりするのです。ときに、下を向いて歩いていると、わたしの足音に気付いた蟻達が一目散に逃げているのを見つけました。それが、ヒエラルキーの下層に位置するものの正常な行動なのです。しかし、わたしはそれが嘆かわしい!踏み潰される蟻の恐怖や憤りを考えると、とてもじゃないがまともではいられません」
「なので、わたしは人を食べたことは一度としてありません。えっ?あ、あぁ、少し腹が痛みましてね。こほん。しかしながら、わたしとて潔白ではいられないのです。人を食べずとも、管理された家畜たちの肉を食べています。道を歩けば、気付かぬうちに蟻も潰して歩いているでしょう。それは悲しいことではありますが、食べられる為だけに生まれる命も、気付かぬままに踏み躙られる虫達も、人一人が生きていくための仕方のない尊い犠牲というほかないでしょう」
「物言わぬ彼らについては、それで済ませる他ないのかもしれません。ですが、あなた方はそうではない!あなた方は、気付かれぬままに踏み潰される蟻ですか?あなた方は、食われるためだけに管理される家畜ですか?もちろん、違います。人間にも妖怪にも、同じように意思があります。ならば、人間と妖怪、どこに差があるというのでしょう。いくら能力に差があるとはいえ……同じ自由意志を持つ……あれ?」
「そういえば、皆様はどうしてわたしが天邪鬼と名乗った時、何事もないかのように振舞っていたんです?天邪鬼を知らないなんてこと、ないでしょうに」
「え?そんな小さい子供に飲み比べで負けるような妖怪は怖くない?いやいや、何を仰いますか、そもそもこいつも妖怪みたいなもので……いや、そのまえに、負けてませんから、飲み比べ。ほら、まったくをもって呂律も理路も整然としているじゃありませんか」
「ええ?結局なんの話か、と?……あれぇ、ええと、なんでしたっけね。ははは」
「いやぁすみません……。どうも今日は楽しくて……あはは。……いい店ですね、ここは」
……。