ハイカラさんが通る【完結】 作:代理投稿者サクマ
そうして、何十時間か経った夜だ。あれから、正邪は長屋に戻らなかった。リビングの隅ではミサイルの赤い先端が、風呂敷から飛び出している。
正邪の戻らない今となっては、ミサイルなんて、もうどうでもよかった。結局のところ、私は正邪がどんな選択をするかが見たかっただけで、世界の存亡なんて、はなからどうだってよかったのだ。ほんとをいえば少しだけ怖いけど、朝起きれば歯は磨くし、お昼にはスパゲッティを食べてお皿を洗うし、夜は洗濯やなんやをするから、なんだか、そこまでの不安は感じられないままでいた。
一人分の布団を敷いてから、眠る前に、暗いリビングのテレビをつけると、接近する彗星の生中継をやっている様子だった。リポーターはどこぞの天狗で、目をぐるぐるさせながら接近する彗星の様子をてんやわんやと実況している。
『この月に似た彗星の落下地点が、こちらとなっております! ご覧ください、様々な屋台でひしめいて、そこかしこにブルーシートを張って宴会に勤しむ人々を! ああ、楽しそうですね。ちょっくら突撃取材といきましょうか。そこの赤、狼、魚のお三方! 明日の夜、ここに彗星が落下する気分はどうですか? え。きんぴら、くれるんですか。わー、ありがとうございます! どれさっそく……あっ! ……おいしいですねえ!』
カメラクルーもカメラを投げ捨ててきんぴらに集ったらしく、画面には土と草の根のみが映し出される。みんな、ちょっとおかしいんじゃないか。私は布団に入って、眠ってしまうことにした。
それにしても、あの彗星のどこが月に似ているというのだろう、やはり、わからない。
夜中に目を覚ますと、背中が濡れていたので、私は口を動かしてやることにした。
「なあせーじゃ。泣くほどいやなんだったら、返して来いよ。あんなもの」
「……やだね。きっとこれが、最後のチャンスなんだ。こんな簡単に世界に泡吹かせてやれるチャンス、二度と巡ってこない」
「そうかい。それなら、私は止めないよ。私はなんだかんだ言って、正邪の共犯者だからね。……あのときだって、正邪がほんとは何を企んでるか、知ってたんだから」
「……じゃあさ、共犯者だって言うなら、姫。お前あれを、何処かに隠してくれよ。あれが視界に入ると、わたしは、どうにかなっちゃいそうなんだ」
「やだね。実行犯にはなりたかないんだ、私は。ほら、話は終わりだよ、布団から出て行け」
「……別に、いいだろ。最後の日ぐらい」
「おまえは私の布団全部取るから、ダメ」
正邪はちくしょうと呟いて、私の隣に布団を敷いた。