VIVE LA FRANCE   作:Fletcher

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第1章:植民地帝国
西進再び


中央暦1639年4月12日早朝

クワ・トイネ公国ロウリア国境より20km ギム

 

この日、ロウリア王国東方討伐軍先遣隊が越境を開始。ここに圧倒的戦力を誇るロウリア王国によるロデ二ウス大陸亜人殲滅戦が始まる......はずだった。

 

 

 

 

飛竜騎士団を指揮する竜騎士アルデバランは目の前の状況が理解できなかった。耳に響く不快な轟音、見たこともない竜が奏でる風切り音、そんな中でも聞こえるワイバーンや仲間たちの断末魔、一方的な蹂躙劇。

ああ神よ、これは我々への大陸を統一せんとする王国への試練なのか?それとも罰なのか?

問いかけた瞬間アルデバランは体に衝撃を受け気づけば宙へ投げ出されていた。異形の竜が飛び去って行くのが見えた。その胴体には赤、白、青の円形章が描かれていた。

 

視界が、暗転する。

 

 

 

 

 

「クソっ、クソっなんなんですかあれは!?」

東方討伐軍先遣隊副将アデムは馬を全速力で走らせていた。焦燥した顔に脂汗が滲む。

向かうは討伐軍後方予備総軍本陣。

 

早朝に越境を開始しギムを強襲制圧する作戦はワイバーンの第一次攻撃隊がクワ・トイネのワイバーン部隊を殲滅した直後より何かがおかしくなった。飛竜騎士団から

「北東方面から騎影多数!!敵増援と思われる!我これより迎撃す!」と魔信がはいった後

 

「敵は未確認騎!見たこともない竜だ!!」

この魔信を最後に通信は途絶してしまった。

 

アデムは増援と状況把握のためワイバーン15騎を追加投入したが

「未確認騎多数!!こいつら早いぞ!!」

この魔信の直後より轟音が聞こえてきた。

出所は戦列を組んでいた歩兵部隊からだった。

 

大地が爆発する。人が木の葉のように舞う。

「な、なにが...なにが起こって...」

将軍パンドールは半ば放心状態、いや経験したことのない恐怖が身体と思考を縛っていた。

どのくらい続いたかわからないその爆発はいつの間にか止んでいた。

 

「しょ、将軍!!戦列が崩壊しましたあ!!被害甚大です!」

 

「先遣隊より報告!戦線崩壊、救援要請と!」

 

参謀の言葉でようやく我に返ったパンドールは再集結の指示を出そうとするが視界に入ったソレをみてまた固まってしまった。

 

「なんだ、今度はなんだ」

 

土煙を上げながらソレは近づいてきていた。見たこともない奇怪な形をしたそれは猛然と突撃を敢行していた。

 

「て、敵か!?先遣隊を突破して?まずい!隊列を組み直させろ!!」

 

もはや遅かった。決壊した隊列に楔を打ち込むように敵はなだれ込んできた。

先の爆発でシェルショックになった者が多発しており組織的抵抗は不可能だった。瞬く間に壊走。

 

「おのれぇ!!」

 

傍らに控えていた兵たちがいつの間にか目前に迫った敵に立ち向かう。

がしかし、なにか衝撃を受けたように仰け反り倒れる。二度と立ち上がることなく。

 

「ひっ、ひいいいいあああああ!!!」

 

魔導師はその場で尻餅をつき失禁した。奇怪な地竜が目の前まで迫りパンドールは意識を手放した。

 

 

 

 

「状況は?」

 

「はっ!既に敵先遣隊は壊滅、第19歩兵戦車大隊がさらに進行中です。後釜はオランダ独立旅団が担当しています。南部の第2軍団は第1機甲旅団及びベルギー騎兵師団を先頭に急速に侵攻しています。抵抗はないも同然だそうです。」

 

当たり前だ。敵主力は目の前にいるのだ。南部は精々国境警備隊ぐらいしか碌な戦力はいまい。

 

「1週間以内に首都の眼前にまで迫るぞ。制空権は?」

 

「現状制空権は我々が握っています。既に後方の軍集団に爆撃を始めているそうです。」

 

「閣下、第一軍団の進路上にあると思われる城壁都市はいかがいたしますか?」

 

幕僚の一人が地図を指さす。そこには首都までの北部第一軍団の侵攻ルート上に立ちはだかるように城壁都市の印があった。

 

「迂回すればよかろう。1個大隊でも張り付かせておけば問題ない。」

 

「しかし主要街道を外れることになります。そうすると兵站線に余計な負荷がかかるかと。」

 

「では爆撃と砲撃による城壁の無力化を行え。あとは降伏勧告でもすればよい。銃弾一発も撃ってこない石壁相手に足止めを喰らう訳にはいかん。」

 

有無を言わさない彼の言に幕僚たちは押し黙った。そこに通信担当官が情報参謀へメモ書きを渡してきた。

 

「少将、砲兵観測航空群の偵察機から敵主力中央梯団は潰走中とのことです。」

 

「よろしい。機動大隊と先行する歩兵戦車大隊は予定通り左右へ展開させろ。これで最初の一歩は終わりだ。」

 

 

 

 

アデムは言葉が出なかった。目の間に広がる惨状を目にじっくりと焼き付けていた。

そこには先ほどと似た光景が広がっていた。大地が爆発したかのような跡がいくつもあり黒煙を上げていた。

 

ロウリア王国東部諸侯団討伐軍予備総軍。それは約30万に上る兵とワイバーン500騎のうち約半数を有し、正面戦力が損耗したら適宜部隊の補充ないし代替を行うために組織されていた。

その大軍団があちこちで阿鼻叫喚としていた。伝説の魔帝軍でさせ蹴散らせるような大軍勢、それが視るも無残だった。

 

その時耳に小さな轟音が響いてきた。東の空を見上げると竜と思しき騎影が多数、いくつかの梯団に分かれてこちらに向かってきていた。

 

そこに多数の味方ワイバーンが要撃に上がるのが見えた。

よし、いいぞ、あれを落とせ!!胸中でそう叫んだ。

 

比較的小さめの竜の梯団が降下を始めた。ワイバーン隊に気づいたのだ。アデムは味方ワイバーンが向かってくる竜を次々落としていく情景が浮かんだ。しかしそうはならなかった。猛速で突入してきた竜は瞬く間にワイバーン隊を散り散りにさせ勢いを奪った。何騎かが落ちているのが見える。小さな竜と戦闘をしているうちに更に上を飛んでいる竜はどんどんこちらに近づいてきていた。遠目からははっきりしなかったがワイバーンより大きいその竜は悠々と真上にまでやってきた。

 

「なんだ?なにをする気だ?」

 

見つめていると竜が何かを落とし始めた。逃げなければ、馬を蹴って走らさなければ!

身体は動かなかった。甲高い笛のような音が聞こえる。あの世が、迫る。

 

 

 

 

「爆撃成功だな。写真を撮っておけ!!堅物将軍への手土産だ。」

 

「了解」

 

機長にとってこの任務は実弾演習以外の何物でもなかった。トカゲ飛行隊は数こそそれなりだがそれだけだ。

そして高度3000mからの精密爆撃。もちろんトカゲは追い付けない、というより迫れる状況ではない。

トカゲどもは味方の戦闘機隊に容易く蹴散らされている。一部の機は既に地上への掃射へと移行している。

 

「機長!見てください。第四小隊のやつら高度を落としてます!」

 

機長は第四小隊の位置を見た。自機の右後方だ。3機のB25がゆっくりと高度を落としながら左旋回をしていき視界から外れていった。

 

「掃射するつもりか」

 

『コマンドより四小隊、程ほどにしておけ』

 

主席指揮官である大佐は咎める気はないようである。

 

高度300mまで降下したB25は単縦陣へ編隊を組み換機体間隔を800mにした。速度約280km、梯団の周りを回るように旋回しながら防御銃座が地上へ向かって吠えた。赤い曳光弾が無秩序に地面を耕していく。

後にこの四小隊長はガンシップによる対地攻撃任務の第一人者となるがそれはまた別のお話。

 

 

 

 

「うっ...がぁあっ...」

 

痛みでどうにかなりそうだ。視界には千切れた腕が見えている。アレは俺の腕だ。

敵の大型種が何かを落とし地上が何度も爆ぜた。運よく怪我はしなかったが三半規管がいかれた。

手が震える。突然怖くなった、恐怖、不安、絶望。綯交ぜになった感情が頭を身体をぐるぐる回っているのがわかった。

その時見えた大型種。ソレは地上の獲物を探す猛禽類のように見えた。気づけば腕が吹き飛び身体は地面に倒れていた。

助けて神様。

 

不気味な重低音が残響していた。

 

 

 

 

ロウリア王国東方討伐軍壊滅。この報がハーク・ロウリア34世に届いた際、彼は数回同じ質問を繰り返した。

曰く「それは真か?」と。

その日ハ―クは執務が困難なほど体調を崩した。

 

そして王国軍防衛騎士団将軍パタジン及び三代将軍であるミミネルとスマークは確認された謎の魔導軍に対する防衛策を急いで策定する必要があった。しかし三人は魔導軍の進撃速度を見誤ることになる。

 

一方、4400隻の大船団を率いて東進を始めた海将シャークンは討伐軍壊滅の方を聞き人目を憚らず間抜けずらを呈した。自らが何度も魔信で確認したという。

 

 

その後シャークンはパタジンから直接魔信を受け取った。

 

”マイハ―クを速やかに陥落させよ”と。

 

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