中央歴1639年4月25日 ロデニウス大陸北方沿海域
海将シャークンは焦燥感を露わにしていた。
東方討伐軍の壊滅、そして敗走。この報が届いた時は信じられなかった。いや誰だって信じられないだろう。正面兵力だけで20万、総兵力40万になる東方討伐軍が、動員したとしても5万そこらであるクワトイネの農奴どもに負けたのだから。奴らは神龍でも味方に付けたのか?
全くもって不可解であった。
魔導師の間では独自の掲示板機能がある。そこでは討伐軍は魔帝軍にやられたと、専らの噂であった。海将付き魔導師は酷く狼狽していて現在はベットの上だった。
一体なにが起こっている?
シャークンは心中穏やかではいられなかった。しかし眼前に広がる光景を見ると勇気が湧いてくる。
4400隻の大艦隊。文明国、いや列強国ですら実現出来ないであろう大艦隊だ。
やるべき事は分かっている、己の務めを果たすことに集中するのだ。
水平線を睨むと目端に違和感を感じた。
フランス艦隊第一次攻撃隊
鋼鉄の鳥は徒党を組み前進する。
既に敵艦隊は補足できている。12機のSBDドーントレスが二組の梯団に分かれ飛行していた。
「4000だろ?4000...俺たちだけでどうしろってんだ。」
第一次攻撃隊司令兼飛行隊長のロラン フーリエ少佐は独り言ちた。
第一次攻撃隊の目的はもちろん敵船の撃破であるが遅滞戦闘も目的の1つとされていた。
本隊の戦闘準備が整うまで敵船団を撹乱し、進行速度を低下させる。
進行速度を低下させるとは?具体性に欠いた作戦指示にフーリエは鼻持ちならなかった。
綺麗な海だ。フーリエはふと思った。
祖国の沿岸部は、大戦後の経済復興を掲げ、イギリス、ドイツの本土工業地帯が滅多打ちされた様を横目に、重工業を盛んに発展させている。
その弊害が、最近になって問題となっていた。
所謂"公害"
地中海沿岸や北部フランス沿岸は一部死の海と化し、美しき海の色は濁ってしまった。
そんな中この世界へやってきた。人の魔の手が及んでいない海にフーリエは少年時代の心が戻ってくるようだった。
「少佐、2番機が見つけたようです。」
後席からの声でフーリエは現実に戻された。
見ると二番機が仕切りにバンクしている。手信号の通り観ると敵が見えた。
二時下方、密集しているからだろう茶色に塗られた面が見える。
「敵機は確認できないな?」
「そのようです。僚機からの報告もありません。」
「それでは行くか。各隊、小隊ごとに突入、敵対空砲の存在に注意しろ」
『小隊了解』
フーリエは小隊ごとの突入を命じた。第2飛行隊の3個小隊6機は船団の先頭を横切り反対側から攻撃する。フーリエ直率の第1飛行隊はそのまま左翼より攻撃を仕掛けた。
フーリエは二番機について来るよう合図する。
船団はかなり密集している。適当に落としても当たりそうだ。
「いくぞ!!」
先頭左翼のやや後方、回避出来ない位置にいる船に狙いを付けた。
もっとも帆とオールで推進しているガレー船に回避する能力があるか甚だ疑問ではあるが
「1200...1100....1000」
後席から高度を知らせる声が聞こえてくる。
的は訓練時の標的艦よりも遥かに小さい。感覚がナイフのように鋭くなる。
集中しろ、目と耳だけが頼りだ。
「800...700...600...500!!」
「てぇ!!」
ガチャン!ガコ!
重量250kgの通常爆弾が機体のアームから外され重力と慣性によって落下していく。
「ふっ!!ぬぐぐぐぐ...!!!」
投下レバーを押したのと同時にフーリエは目一杯操縦桿を両手で引いた。
機体がギシギシと音を立てている。今にも分解しそうであるが構わず操縦桿を引き続ける。
何度も体感した強烈なGが身体を襲うがそれも直ぐに終わった。
「命中!!」
後席から声が上がった。
対空砲火がない為フーリエはゆったりとした動きで旋回した。
狙った船は四分の一程を残して木っ端微塵となっていた。残った部分も急速に姿を消しつつある。
よく見れば周囲の船も大なり小なり被害が生じている様だ。
直後に爆発。時差を置いて二番機が投下した爆弾はフーリエが狙った船の前方100m程前方にいた別の船へ着弾した。
全体を見渡せば黒煙が数条上がっている。第一撃は成功したとみていいだろう。
(ま、当たり前か...)
銃弾1つ跳んでこない上にロクな回避機動も取らない相手に対しての急降下爆撃。名実ともに実弾演習である。
「掃射に移る。銃座も用意しろ!」
「了解っ!」
後席の相棒はどこか少年の様な返事をした。
「また一隻燃えたぞ!!」
「墜とせ!あの竜を墜とせ!!」
艦隊は混乱状態であった。不快な音を立てて飛んできた異形の竜は耳を塞ぎたくなる鳴声を発しながら急降下し、どうやったかは知らないが眼下にある船を木っ端微塵にしてしまった。
その後は細いブレスを物凄い勢いで吐いていき一隻、また一隻と船を燃やしている。
シャークンは必死に対策を考えていた。翼竜の相手はワイバーン一択に限る。しかし此方のワイバーン部隊は全てが本土防衛に充てられてる為出動要請はできない。
一体どうすれば?
考えれば考える程何も浮かばなくなってくる。既に前衛は混乱の極地に達し各々が勝手に回避を行なっている。
「提督!!」
船長が大声を上げシャークンを呼んだ。
「なんだ...?」
「新たな竜が複数接近中です!!」
「っ!?」
打つ手なし。
もうこうなれば、竜がスタミナ切れで去っていくのを待つしかない。
(クワトイネはいつの間にこんな竜を躾けていたのだ!?いや、本当にクワトイネか?例の...魔導軍なのか?)
ドゴォォォン!!
またあの爆発が起こり海水が吹き上がっていた。
いつまでも続くかと思われた竜の攻撃は、いつの間にか止んでいた。あの不快な音が無くなり、穏やかな波の音がかえって不気味に感じられた。
「被害は?」
「はっ、全体的に見れば損害は微々たるものです。しかし前衛集団が集中的に攻撃されたらしく艦隊前面の陣形が総崩れを起こしています。船員の救助と陣形の再構築を行うには時間が掛かります。」
シャークンは思案した。
被害は全体の1割もない。このまま進撃しても支障はないであろう。だがあの竜が何度も波状攻撃を仕掛けてくれば被害の累積もそうだが士気の低下は免れない。なにしろこちらには迎撃手段がないのだ。
本国からワイバーン隊が来れないことはシャークンとその側近達しか知らない。しかし何度も飛来するあの竜を指をくわえたままずっと座視していれば、理由はともかくワイバーンが来れないことに兵たちは気づくことになる。
そんな状況で竜の波状攻撃を受ければ士気崩壊、離反が相次ぐだろう。悪ければ謀反すらもあり得る。
「むぅ...」
どうすべきかという言葉をシャークンは飲み込んだ。そして、はたと気づいた。
やつらは何故前衛を集中的に狙ってきた?
結果は前衛の混乱による進撃速度の低下を招いている。
簡単なことだ、やつらは時間稼ぎに出ているのだ!地上の軍勢が王都へ進撃し制圧するまで敵は海上の我々を足止めしようとしているのだ!
短絡的ではあったが思い至ったシャークンは即座に指示を出した。
「進撃だ!進撃する!!陣形の再構築は行わず健全な船は即座にマイハークへ向け進撃せよ!!」
「思ったより早く終わりましたね」
「ええ、ベルギーの連中士気旺盛ですな」
軍属の給油船、エティエス号の乗組員は給油を終えたベルギー・オランダ連合艦隊を見ていた。視線の先では幾人かの水兵が此方に手を振っている。
ベルギー・オランダ連合艦隊は臨時旗艦とした蘭海軍駆逐艦ファン・ガレンが指揮していた。
ファン・ガレンは大洋大戦前に竣工した旧型駆逐艦で僚艦のチェリク・ヒッデスとは十年ほどの年差があるが、戦後の改装によって通信能力と武器システムは最新のものになっている。
手を振り返しながら甲板長が連絡士官へ言った。
「うちらの艦隊はどうしてるんです?」
「待機してる筈です。ベルギーとオランダの連中と合流してから当たるそうで」
「たしかに、相手は4000隻だって話ですもんね。...戦艦とか連れてこなくて良かったんですか?」
「今海軍には動かせる戦艦がないそうでして...ま、相手は木造船です。簡単ではないでしょうが、やられはしないでしょう」
「大丈夫ですかねぇ」
「事前に聞いていたのと違うが...」
ベルギー・オランダ連合艦隊臨時司令官となった駆逐艦ファン・ガレンの艦長はフランス艦隊から送られた通信文を読み呟いた。
《貴艦隊 指令アルマデ 待機サレタシ》
当初の予定では仏艦隊と合流後、基地航空隊と協同で一気に殲滅すると聞いていた。
しかしこれは、どういう事だろう?
「通信長」
「はっ!」
「エスカルゴの連中に作戦詳細送られたしと送れ」
「わかりました」
艦長は仏艦隊の真意を問うため電文を送るよう指示した。
(まさか連中、手柄を独り占めする気か?)
ファン・ガレン艦長の予想は全くその通りだった。
「準備は整いましたね」
艦橋にルルネの猫撫で声が響いた。攻撃隊による足止めから数時間経っている。全ては準備万端、正に敵艦隊を殲滅する作戦が始まろうとしていた。
ブルーアイには現状がどうなっているのかがわからなかった。そしていきなり
「対空ロケット撃ち方用意!!」
号令が掛かり、復唱され、ビーっとした何かを知らせるような音が艦内に響いた。
「かっ閣下、なにが始まるんですか?」
ブルーアイは恐る恐るに聞いた。
ルルネは振り返る事なく言う。
「ただの消化試合ですよ」
「提督、第三次散布隊退避完了、観測機の配置も完了しました。」
「よろしい、ファバル司令には感謝しないと...艦長、攻撃開始」
「はっ!対空ロケット撃ち方はじめ!!」
バシュッ!!バシュッ!!
後方からそんな音が聞こえてきたと思ったら左舷方向に白い煙が伸びていた。
ブルーアイにはそれが何かわからない。
巡洋艦シャトールノー
大洋大戦時イタリア海軍がフランスの大型駆逐艦に対抗するために建造された小型巡洋艦であった。戦後賠償の一環としてフランス海軍が取得し二度の改装を得て現在の姿になっている。
排水量4000t弱の船体に半自動装填の新型100mm連装砲を前後併せて2基、37mm連装高射機関砲を4基、Vlz対空ロケット発射器2基、試作13.2mm四連装自動機銃1基、550mm三連装魚雷発射管2基と巡洋艦としては非力だが第三文明圏外では敵なしである。
Vlz対空ロケットは簡易的な赤外線誘導弾で、射程は25km、高度13000にまで到達しその弾体には焼夷榴散弾が装備されている。それを18連装の発射器に装填しており次発装填は手動である。
転移直前の世界ではセミアクティブホーミング式が登場し始めたが、大挙して押し寄せる敵機群を迎撃するにはこちらの方が都合が良かった。
何より北海危機の際、ドイツ大西洋艦隊はこの方式で日英のジェット機戦爆連合を多数撃墜し有用性を証明している。
そして今回はそのロケットの時限信管とジャイロを調整し、水平線の向こう側にいる敵艦隊へ向け発射したのだ。
海が燃える。
全てを焼き尽くす業火の如く
「ファバル中将、作戦は成功したそうです」
「...そうか、使い所に困っていたが役に立ったか。奴には秘蔵のワインでも要求しようかね」
「是非私も、一口いただきたいですな」
《敵艦隊 半数以上ヲ損失シ撤退中 コチラノ損害皆無》
海戦してないじゃん(真顔)
さっさと第三文明圏での話は終わらせたいのですが外交、政略、謀略とか考えが纏まらなくて(トホホ
一気に制圧したいですが流石にフランスでもフィルアデス大陸全土はねぇ...
今更ですが転移してきたのはフランスの他オランダ、ベルギー、ルクセンブルクのベネルクス三国です。海抜高度とか調べてないので陸続きになっていた部分がどうなっているかは各人の脳内補正ということで
この作品、これからも書き方が安定しないと思いますが兵器をカッコよく描写するのが目的の作品ですのでご容赦ください。
その兵器もオリジナルが結構ありますがあしからず。