マリンフォードへ向かう途中、クザンは手頃な島に立ち寄った。
「さすがにそのまま連れてくと幼児誘拐呼ばわりされそうだからよ」
言われてアナは体を見た。ぼろぼろの衣服とぼさぼさの髪、海兵にもらったサイズの合わないサンダル。比べてクザンはくたびれてはいるがそれなりに上等の服だ。確かに人攫いを疑われても仕方ないだろう。寄ったのは大きな街のある島で、身なりを整えるには丁度良さそうだった。
「とりあえず整髪から行くか。言っちゃなんだが鳥の巣みてェだし」
クザンは視界に入った美容室を指した。
「パパに鳥の巣とか言われたくない」
「おれのこれは癖っ毛だから」
***
「……………」
「………………」
「美容師のねーちゃん、おれパーマかけてって言ったっけ?」
「お客様、これはお嬢さまの地毛ですわ」
アナはクザンに負けず劣らずの癖っ毛だった。
「お父様似の髪質ですのね。少し整えるためのカットはしたけれど、このままで十分可愛らしいと思いますの」
いかがかしら、と美容師は首を傾げた。アナは鏡の中の自分とクザンを見比べた。
「あたしの髪って、パパにそっくりね」
「そーね」
「このままがいいな~」
「おれもそう思う。このまま行くか」
少なくとも親子と言われて疑う者はないだろう。整えてもらったことで鳥の巣感はかなり減ったし、買い物に出ても通報はされないと見て、二人は買い物に繰り出した。
「うん、いいんじゃない」
「もっと大げさに言って!」
「アナちゃんサイコー」
「えへへ」
少女は鏡の前でくるくると上機嫌に回った。清潔感のある白いワンピースがひらりとなびく。腰に巻いたリボンに挿さった木の枝はなんとも言えないが、先に買ったサンダルとも合っているし、とりあえずはこれで良さそうだ。しかしマリンフォードへの道は最短でも数日かかる上、色んな季節の海域も渡るため他にも服は買う必要があった。道を急ぐ旅ではないし、他の季節の服は別の島で買えばいいということになり、他にもいくつか下着含めた夏服を買い揃えて二人は自転車に乗った。
自転車の旅は、運転しない少女にとっては暇だった。初めの頃は海や空や跳ねる魚を見て楽しんでいたが、ものの数時間で飽きてしまったので、クザンの広い背中に話しかける。
「パパ、服たくさん買ってくれてありがとう」
「一応親子って設定だしな。当たり前でしょ」
「でも、お金たくさん使った」
「普段あんま使わねェからいいんだよ」
「貯金ができるひとはちゃんとしてるひとって誰かが言ってた。パパ、意外とちゃんとしてる」
「褒めるのか貶すのかどっちかにしてくれない?」
「青キジはだらけきってるってきいてたの」
「まァ間違っちゃいねェが。誰が言ってたのそれ、あの海兵たち?」
「海兵さんじゃないけど…誰だろ。わかんない」
「ふーん……」
アナの声が明らかにトーンダウンした。クザンは少し考える。
「アナ、自分の記憶を取り戻したいか?」
「ん?んーん、べつに」
「本当のパパとかママとか、気になんねェの」
「べつに……なんか、最初からいなかったきがするし」
「そうかい」
一人の人間がいる以上、産みの親はいるはずなのだが。記憶が一切ないということは未練もないということかとクザンは解釈した。幼女の姿での転生なので実際に両親は存在しないのだが、この世界の住人であるクザンにはもちろん知る由もない。
「そういやお前、何歳くらいかはわかる?」
「わかんないけど、服屋の店員さんは7、8歳くらいかなーって言いながら服探してくれてたよ」
「へえ~」
だらだらと雑談を続けながら漕ぎ進めていると、少し離れた所に海賊船を発見した。
「お仕事タイムだ。アナはここで待っとくか?」
アナは咄嗟に首を横に振った。戦いの場に出ず一人で待っているのはよくないことだと、体の記憶が言っていた。
「じゃあ乗りな。ちゃちゃっと済ませちまおう」
クザンは海賊船に気付かれぬよう近づいてからアナを肩に乗せた。アナは木の枝をリボンから抜いて握る。木の枝はアナにとってお守りのようなものになっていた。
クザンは自転車を能力でその場に固定し、跳躍した。
「なっ…」
「なんだ!?人?」
「こいつまさか大将の……!」
狼狽えた海賊たちは即座に敵の正体を知り、武器を構えて色めき立った。甲板中から殺意が向けられる。ぞくりとアナの肌に鳥肌が立った。アナはこの感覚を
「あらら。この数をまとめて相手すんのはめんどくせェな。兄ちゃんらには悪ィが…
───
無慈悲な氷が甲板を覆った。クザン親子を除き、その場にいた者が全て凍りつく。
「……パパ、すごーい!」
アナはぱちぱちと小さな手で拍手を贈った。目の前に広がる情景から何か思い出しそうな気もしたが、向けられた殺意が一瞬でかき消えたことに対する感動の方が優っていた。
「大将の名は伊達じゃねェってことよ。さて、じゃあ身元を検めようかね。アナはちょっと降りてな」
「はーい」
クザンはアナを氷漬けの甲板の上に降ろし、手配書の束を出した。船長らしき男には見覚えがあったので、おそらく懸賞金がかかっているはずだ。
アナは待っているのも暇に思って、氷像を見て回った。みんな一様にクザンがいた方を見て凍っている。きちんと見ると少なからず不気味だった。もしかしたら今日あたり夢に出るかもしれない。
不意に物陰で気配が動いた。
気配は無防備な子供を捕らえ、銃口を突き付けて物陰から飛び出した。
「手を上げろ!!」
「……アナ」
「動くんじゃねェ!ちょっとでも妙な動きしやがったら、このガキの頭ブチ抜くぞ!」
「わかったわかった、そうカッカすんなよ」
クザンは大人しく両手を上げる。その気になれば足元からでも冷気は送れるので落ち着いていたが、取り残しがいるのに気付かなかったことを反省した。
唐突に海賊の腕の中に閉じ込められたアナは、一瞬我を忘れていたが、正気を取り戻して暴れた。
「やーーっ!離して!」
「うおッ…暴れるなガキ!これが何かわかんねェのか!」
海賊はアナの目の前に銃をかざして見せた。ぴたっとアナの動きが止まる。
「へへ、そうそう…大人しくしときゃいいんだよ…」
下卑た笑みを浮かべ、海賊はゆっくりと銃口をクザンに向けた。
「てめェを殺せば能力は解けるよなあ!?」
「あー、うん。そうね。殺せばね」
「いいか、動くなよ!絶対に!」
もしやこの男、
男がクザンに意識を向けた時、アナが腕を振りかぶり、枝の先で男の首を刺した。子供の弱い力で血も出ない攻撃だったが、喉を的確に突かれた男は思わず咳き込む。
「いでェ!?ゴホッ、ゴホッ……このガキ!!」
「きゃあっ」
男はアナを突き飛ばした。アナは尻もちをつき、立ち上がれず男を見上げる。
「てめェから殺してやる!」
「やだーーっ!」
何を思ったのか、銃口を向けてきた男に対しアナは木の枝を、銃のように向けた。
「なんだ、こんなモン!」
男は枝を蹴り飛ばし、引き金に指をかける。枝は少し離れた所に落ちた。クザンが即座に男を凍らせようとした時───
カッ! 枝がまばゆい光を放った。
「あ、だめ……っ!」
アナの呟きとほとんど同時、枝を中心に爆発が起きた。
***
クザンは爆発によって氷として崩れた体を形成し直した。何が起きたのか把握しきれていない。爆弾でも投げ込まれたのか?アナは?
もうもうと立ち込める煙が晴れてきた頃、傷ひとつないアナが枝を握りしめて座り込んでいるのが見えた。駆け寄るとアナはおっかなびっくりという様子でクザンを見上げた。
「アナ、大丈夫か?何が起きた」
「これが、どかーんってなったの」
「枝が?」
「あたしが手を離したから…!貯めてたものが出ちゃったんだ」
「そんな屁みたいな感じで爆発すんの?枝って。ていうか枝って爆発するもんなの?」
ちょっと貸してみて、とクザンはアナから枝を取った。
「だめ!」
枝はクザンの手を吹き飛ばした。先ほどの十分の一にも満たない小さな爆発だったが、これが生身の人間相手なら十分武器になる威力だ。アナはクザンから枝を受け取り、抱きしめた。
「これ、あたしから離れたり、あたし以外の人が持っちゃだめなの」
「そうみたいだな。そんな大事なことはもっと早く言ってくれてたら嬉しかったんだけど」
「今思い出したの!あたしの念能力……忘れてたのが嘘みたい」
「ネン能力?なにそれ」
「……ここで話さなきゃだめ?」
アナに言われて、クザンは辺りを見回した。爆発によってズタボロになった海賊船、ほぼほぼ崩れた元海賊の氷像たち。少し離れた所に先ほどの男を見つけたが、爆発をもろに喰らったらしく、見るも無残な状態だった。まだかろうじて生きてはいるようだが、命は助からないだろう。
「そうだな。移動しながらでいいよ」
クザンは電伝虫で最寄りの海軍基地に連絡した。海賊船の処理はそこに任せ、二人は自転車に戻った。
クザンが自転車を出してから少しして、アナは話し始めた。彼女の不可思議な力のことを。
「あたしも何て言えばいいのか、よくわかんないんだけど、…がんばってみるね」
「ああ」
アナは慎重に言葉を探す。
「まず、『念』っていう力?があって、多分この世界の人は使えないんだけど」
「じゃあ異世界の人なら使えるって?どこよそれ」
「わかんないってば!あたしも、頭に残ってる言葉をそのまま話してるだけだもん」
「ふーん?」
「あたしはそれが使えて、それで、念って色々あるんだけど、基本はテン、レン、ゼツあとハツっていって」
「ハツって心臓のこと?美味いよねあれ。ところで長くなるならおれ寝ちゃうけど」
「寝ないでー!」
人がせっかく思い出した記憶(正確には思い出したのは知識のみ)を話そうとしているのに!真面目に聞かないとは許せない。アナはぽかぽかとクザンの背中を叩いた
「いてて。細かいことは良いからよ、枝が爆発した理由だけ教えてくれない?」
「むー……わかった。でも、念能力って、あんまり人に話すとだめだからね。パパだけ特別だからね」
「ハイハイ」
「あたしの能力はね、近くにいる誰かの感情に呼応して、エネルギーがこの枝に貯まるの。貯まったエネルギーは枝から出す感じで好きに使えるの」
「感情に呼応して?枝に貯まる???」
「さっきの海賊のひとたち、パパを殺そうとしたでしょ。そういうイヤな気持ちとか、戦おうってする気持ちとか…そういうのが一瞬でこの枝に貯まったの」
「まだよくわかんねェけど、その貯めたのを爆発させたってわけ?」
「んーん、それはちょっと違くて、この能力には決まりがあるのね。その決まりで、あたしはこの枝を肌身離さず持ってなきゃいけないの。服に触れてたりして、あたしが『身につけてる』のはいいんだけど、さっきみたいにあたしから離れたり違う人が触ると、それまで貯めてたエネルギーが全部出ちゃって、すっからかんになっちゃうの」
「ああ──なるほど、すっからかんになるために爆発が起きるのね。原理としてはくまの”
「くま?」
「七武海の一人だよ。本人が会議に参加したら紹介してやる。…あの爆発でアナがダメージを受けなかったのはなんでだ?」
「? 自分の能力で傷ついたらおばかさんでしょ」
「……………まあそうだな」
確かに、クザンも自分が氷である以上冷たさは感じないし、自身の攻撃で傷つくこともない。そういうもんかと納得して、自転車を走らせた。
その後二人はいくつか島に寄った。服をはじめとする家具など必要なものも買いそろえた所、さすがに自転車で持って帰れる量ではなくなってしまった。クザンは港に向かいながら、片手で電伝虫を取り出した。
「軍艦タクるわ」
「職権濫用」
「いいじゃないの」
ジト目でクザンのだらけぶりを咎めつつ、アナはクザンの持つ荷物の量を見て内心見直してもいた。クザンが実力主義の海軍において大将という位に就いているのは知っている。知ってはいるが、普段のらりくらりとしすぎていて忘れそうになってしまうのだ。子供一人を肩に乗せるのと、あの量を肩に乗せるて持ち運ぶのとではわけが違う。うず高く積まれた荷物は神懸かったバランスでクザンの肩に収まっていた。
港に着くと、ちょうど沢山の荷物を運び入れている軍艦があった。クザンは通りすがりの海兵を捕まえた。
「ちょっと、君」
「何……た、大将青キジ!?」
海兵は即座に敬礼をした。
「あの軍艦ってどこ行く予定?」
「は!本艦の行先はマリンフォードであります!」
「おれも乗ってっていい?」
「もちろんであります!」
「助かるわ~やったねアナちゃん」
飄々と軍艦に向かう青キジを見て、若き海兵は「おれ大将と喋っちゃったよ…」と絶対に同僚に自慢してやろうと心に決めた。そして彼は見た。青キジの腰にも満たない身長の子供がとてとてと大将の後ろに着いて行くのを。後ろ姿でもわかる、青キジによく似た癖っ毛。
「た、大将殿!」
「ん~~?」
青キジは気だるげに振り返った。
「そちらの子供は…」
「ああ、この子ね。おれの娘」
「むすっ……!?」
「今度からマリンフォードに住むの」
じゃあ、と手を振り、今度こそ大将は行ってしまった。行先は自分と同じ軍艦のはずなのに、絶対に縮められぬ概念的な距離を感じる。青キジが軟派であるとはよく聞く評判だったが、まさかあんな大きな子供までいるなんて。フラリと倒れそうになりながらも、海兵は荷運びの業務に戻った。
「いや~助かった助かった。いい加減自転車漕ぐの飽きててさあ。ありがとな、モモンガ」
「許可した覚えはないのですが…」
「でもお前んとこの若い子に聞いたら良いってよ」
「はあ……」
軍艦の甲板の上、モモンガ中将は眉根を摘みつつ隠しもせず溜息を吐いた。会って10秒ですでに苦労人の気が見え隠れしてる、とアナは思った。
「それでクザン大将、そちらの子供は?」
「おれの娘。ほら挨拶して」
「は!?」
「パパの娘のアナです、ちょっとの間お世話になります。よろしくお願いします」
「あ、ああ、よろしく……」
モモンガはアナの礼儀正しさに面食らった。この二人、まるで態度が年齢と真逆だ。
「…子供がいたとは……」
「あ、血は繋がってないよ。拾ったっつーか、引き受けたっつーか」
「ああ、なるほど」
「なるほどって何」
「いえ、さすがにアンタに子供作る甲斐性はないと思っていたので。その通りで安心しただけですが」
「喧嘩売ってる?」
モモンガとクザンではクザンの方が年上だが、一歳差でほとんど同期のようなものだったこともありいくらか気安く喋れる。アナは初めてクザンがへりくだられていないのを見て感動した。
「パパにも友達いたんだね!」
「…モモンガ、聞いた?おれたち友達だって」
「やめてくれ…」
苦労性モモンガ中将の船に乗り、青キジ親子はついにマリンフォードに辿り着いた。
クザンは手慣れた様子でアナを抱え上げて肩に乗せ、アナも慣れた様子でそれに応じる。何も知らなければ、二人が親子であることを疑う者は一人もないに違いない。モモンガは二人を見送りながら、少女の今後を思った。マリンフォードは海兵たちの家族の住む島ではあるが、何より海軍本部のある地。果たして血の繋がっていない、海兵になる予定もない子供の居住権は認められるのだろうか。
「何でですかセンゴクさ~ん!」
「だから!貴様はまずその大量の書類を片付けてからにしろと言ってるだろうが!」
「書類は今関係ないでしょ~?こんなにお願いしてるのに、ひどい…」
クザンはセンゴクの前で床にうつぶせになった。
「寝ているようにしか見えんが」
「最上級の土下座で~~~す」
「…………………」
センゴクの怒気が増して、アナの枝がまた熱を帯びた。クザンが殺意に近い怒りを向けられていることの証左だが、クザンはそれも気にもしていない。
(パパすごい……色んな意味で)
「何の騒ぎですかァセンゴクさん」
廊下の向こうから歩いてきたのは大将黄猿──ボルサリーノだった。クザンは立ち上がって膝の埃を払う。
「ボルサリーノ、紹介するよ。おれの娘のアナ」
振られて、アナはモモンガにしたのと同じようにぺこりと頭を下げた。
「アナです。よろしくお願いします」
「へェ、クザンに娘がいたとはねェ。わっしはボルサリーノ。よろしくねェ~」
ボルサリーノは自然な流れで頭を撫でた。何気に初めて頭を撫でられたアナの顔が赤く染まる。そんなことには気付かず、ボルサリーノはアナの髪をくしゃくしゃと触った。
「髪だけはクザンによく似てるねェ。顔はお母さん似かい?」
「えっと、あの、パパ…クザンはほんとのパパじゃなくって…」
「血は繋がってねェよ、拾ったの」
「なんだァ、クザンもやっと身を固めたのかと思ったよォ~」
「それ言ったらアンタだってまだ独身でしょうが」
お喋りが止まらなくなりそうだった所で、センゴクが大きく咳払いをした。
「黄猿。青キジがこの子をマリンフォードに住まわせたいと言うが、どう思う」
「どうって、いいんじゃないですかねェ」
「よく考えろ。青キジの家族として住むなら、青キジ用の家に住ませるということだぞ。あんな子供を」
「……あ~~~~…」
ボルサリーノは一度だけ見たことのあるクザンの家を思い出して頭に手を当てた。クザンは放浪癖があるうえ、基本どこででも寝る体質と性格のせいでほとんど家に帰らない。ゴミ屋敷というわけではないが、家族もいないそこに子供一人がぽつんと置いて行かれるのはあまり良い絵面ではない。
「クザン、なんだったらわっしがアナちゃんを引き取ろうかァ?」
「あ?なんでよ、おれの娘なのに」
クザンは心底不思議そうに首を傾げた。
「親子ってのはまだ自分たちで言ってるだけだろ?今からならまだ間に合うよォ」
「だから、なんでだよって」
どうにかオブラートに包もうとした黄猿だったが、焦れたセンゴクが叫んだ。
「貴様が家に帰ることなど2年に一度あるかないかだろうが!そんな家に置いて行かれる子供の気持ちを考えろ!」
センゴクの言葉に、え、と狼狽えたのはアナだった。
「そうなの、パパ」
「え~?いやまァ、そうっちゃそうだけど」
「あたし、一人ぼっちは嫌だよ……?」
目からハイライトの消えたアナは枝を持ち、枝の先をクザンの顔に向けた。
「ちょっと待って、それ脅してる?」
アナは答えず、枝の先に意識を集中した。貯めたエネルギーを水鉄砲のように放出するイメージを浮かべ、前から考えていた技名を叫ぶ。
「……エクスカリバーーーー!!!」
「どわぁあああ!!??」
枝の先から、まさしくビームが出た。先ほどのセンゴクの怒りパワーがこもったビームである。すんでの所で避けたクザンの後ろの天井に丸い穴が開いた。「わっしの能力に似てるねェ」とボルサリーノが呑気に言う。
「パパと一緒にいれると思ったから一緒に来たのに!帰らない家なんて家って呼ばない!」
アナは枝をリボンの隙間に挿し込み、ぽかぽかと青キジの足を叩く。今にも声を上げて泣き出しそうだ。
「アナちゃん、わっしがクザンの代わりにパパになってあげるよォ?わっしはよく家に帰るし、クザンと違って寂しい思いはさせないよォ」
ボルサリーノがしゃがんでアナと目を合わせた。アナは静かに瞳に涙を溜める。
「………嫌」
「そりゃどうして」
「…パパは、クザンがいい……」
アナは先ほどまで殴っていたクザンの足にひしと抱き付いた。
「アナ…!」
思わず目頭を熱くしたクザンだったが、ボルサリーノは畳みかける。
「そォかい。それじゃ一人ぼっちで、だだッ広い家で、いつ帰って来るかわからないクザンを待つんだねェ」
「……それも嫌………」
まるで子供の駄々だ、とクザンは思って、それからアナが子供であることを思い出した。アナはどうにも年の割に落ち着いた雰囲気があって実際の年を忘れそうになる。
「うーーーん…じゃあ…おれの同僚のボルサリーノに、『おれの娘』のアナを預けるって形はどうよ」
「………………」
アナは考えた。一人は嫌だ。パパはクザンがいい。「家」には住みたい。自転車の旅も楽しくはあったが、記憶がないからせめて定住地はほしいと思っていた。そうしたらふわふわと地に足のつかない感覚がなくなるのではと。でもクザンは定住地に定住していなくて、定住しているボルサリーノが自分を住まわせてもいいと言ってくれている。
答えは出た。
「……それなら、いいよ」
「わっしは良いとは言ってないけどねェ~」
「駄目なのかよ!?」
「別に良いよォ?ただ、わっしが父親ってことにした方が書類処理は楽に済むと思うんだけどねェ」
「…それぐらいおれがやりますよ、やりゃあいいんだろ」
ふてくされたクザンの肩に、ポンと手が置かれた。
「話はまとまったか。ついでに他の書類もやってくれると助かるんだがな、青キジ」
仏の顔で青筋を浮かべるセンゴクだった。
「センゴクさんまだいたのかよ」
「ずっとおるわ!!」
センゴクとクザンの茶番を横目に、アナはもう一度深々とボルサリーノに頭を下げた。
「あらためまして、アナです。家事は洗濯がとくいです。お世話になります。よろしくお願いします」
「うん、礼儀正しい良い子だねェ」
───かくして転生者田中太郎改め、青キジの娘・アナは、大将黄猿の家に住むことになった。
「それにしても得意な家事なんか言われると、嫁さんでも貰ったみたいだねェ」
「……………アンタ…」
「冗談だよォ~」
アナの念能力:「
他者の敵意・殺意を察知すると攻撃に使えるオーラが
制約:
※
技1:エクスカリバー
…貯まっているオーラをビームとして放つ技。まだ加減ができないので、一度の使用で貯まっている全オーラを使ってしまう。