誘われし幻想の吸血鬼   作:☆さくらもち♪

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幻想の吸血鬼(fantasy vanpire)

少女の片隅でボロボロになった女性があった。

それは少女の一撃によって成されてしまった事なので仕方ないと言えばそうなのだろう。

事実、やり過ぎたと反省して少女……クーリアは女性の代わりに門を守っていた。

 

「威力もう少し下げるべきですね」

 

先程女性をボロボロにした技。

『幻想鏡花』というそれはクーリアの能力と刀があるからこそ成せる技。

目には見えない不可視の刃と共に鼓膜をいとも容易く破壊する快音波を鳴らす。

使い手がクーリアただ1人という事もあり、その威力は空間を斬り裂くほど。

山は抉れ、海は穴が出来るというぐらいな為に基本的には使うことのなかった技ではあったが。

 

「……吸血鬼、ですか」

 

紫によって教えてもらった情報。

それは確実な物だとクーリアはこの館に近づいた時点で確定した。

並の妖怪では決して持つことの無い妖力。

それは大妖怪とも並ぶ。

そんなものがあちらこちらにいるわけもなく。

 

「……()()()も久々に見ました」

 

元より生まれた家。

いずれはまたこの家に帰れると信じてはいたものの、幻想郷に来ていたとなれば見つかることすらなかったというわけだった。

クーリアは能力を発動させて()()()()()()()()()()()

 

「私に物理的な攻撃は通りませんよ」

 

全方位から向かってきた銀色のナイフはクーリアの身体を通り抜けていく。

クーリアの能力によって引き起こされた状態だった。

 

「戦う気はないつもりなのですが」

 

「門番をそんな状態にしている時点で敵と認識されてもおかしくありませんわ」

 

「館の主に会いたいもので。アポイントメントを取れば良かったのですか?」

 

「いいえ。そもそも取る前に殺してさしあげるつもりでしたが」

 

クーリアが視界に捕らえたのは銀髪のメイド。

その両手には先程クーリアに向かって投擲されたナイフがあった。

 

「我らが主がお会いになるそうです。門番はそのままで構いませんわ」

 

「ふむ……そうですか」

 

一応念の為にクーリアはまだ気を失っている門番に治療を施してからメイドの方へと歩いていく。

その様子を見ていたメイドは少し驚いたように目を見開いていたが、すぐに直すと館の中へと案内する。

 

「……?」

 

生活した年月は何十年も満たないだろう。

しかしそれでもクーリアは違和感を感じた。

この紅魔館は見た目よりも広いと。

 

「空間……あぁ、そういう事ですか」

 

「どうかなされましたか」

 

「メイドさんの能力、時間に関する事ではないでしょうか」

 

「何故そう思われましたか」

 

「貴女から感じるのは至って普通の人間です。しかし微かに能力は感じ取れました。となれば、先程の攻撃は空間か時間に関することではないかなと」

 

「その推測では確定し切れませんわ」

 

「はい。しかし空間系能力の特徴として、設置時に微かに遅れるのですよ。先に発動させた力が来てしまいナイフは遅れます。となれば残りは時間系能力。時を止めるとなれば時の世界に入り込み、ナイフを私に投げてから元の世界に戻った。そうなれば辻褄が合うのですよ」

 

その予測はクーリアだからこそ出来た方法。

それに至るまでの思考回路は並大抵ではない。

 

「……お手上げですわ」

 

《答え》を言ったクーリアにメイドは否定はしなかった。

クーリア自身も間違ってはいないだろうと思って喋ったのだから。

 

「お嬢様が、この先でお待ちです。後ほどお茶と茶菓子を持って参りますわ」

 

「分かりました」

 

答え合わせのように、メイドは一瞬にしてその場から消える。

クーリアは時間系能力の一つである《時間停止》だと完全に理解した。

 

「人の身で珍しいですね」

 

そう呟きながらクーリアは案内された部屋の扉を押し開ける。

中には先程感知した大妖怪のような力の持ち主がいることは分かっていた。

 

「へえ、来たのね」

 

そしてその主がどんな相手なのかも把握していた。

 

「吸血鬼にとっては天敵とも言える日が昇る時に来てしまい申し訳ございません」

 

「ええ、そうね。おかげで気分はとても悪いの」

 

館の主、青髪の幼い少女。

その姿を見ただけでこの場所に来てよかったと思った。

 

「そうですか。私はとても気分が良いです」

 

「……それで、機嫌が悪い私を楽しませれる何かがあるのよね?」

 

「はい。もちろん」

 

多少胡散臭い笑顔にも取れるクーリアの表情。

しかしそこで気を抜いては我慢した意味がなくなってしまう。

だからこそしっかり気を張っていた。

 

幻想の吸血鬼(fantasy vanpire)をご存じですか?」

 

そう告げた瞬間、クーリアの首に魔力で作られた槍が当てられていた。

その槍の持ち主は殺気を溢れ出させて威圧もしていた。

 

「どこでそれを聞いた」

 

「お答えになられませんか?」

 

「どこでそれを聞いたと言っている!」

 

吸血鬼という存在自体が最早伝説の話。

それでも《幻想の吸血鬼》という二つ名がついた吸血鬼は確かに存在したのだ。

しかし存在はしていたが、それを知る者はいなかったはずだった。

だからこそクーリアの目の前で対峙する少女は睨み殺さんばかりに殺気を溢れださせているのだろう。

 

「確かに聞いた、と言えば聞いた事になるのでしょうか?人間から聞いた事もありましたから」

 

「……」

 

「幻想というのは、根拠の無い存在です。それ故にそもそも《幻想の吸血鬼》という存在自体が居なかったのではないかと」

 

「……《紅い悪魔》《幻想の吸血鬼》《悪魔の妹》。その子の姉であった以上は決して居なかったとは認めない」

 

悔いるように少女は槍を消すと、クーリアの横に座り直す。

 

「もし、《幻想の吸血鬼》が帰ってきたらどうします?」

 

「帰ってきたら……か。思い付きもしないよ。姉と言いながらも共に過ごした時間は生きた年月に比べてとても少ない」

 

紅魔館が揺れる。

クーリアの隣に座る少女よりも強い力の持ち主が暴れ回るように動いていた。

 

「この館に居ると私の妹に巻き込まれる」

 

「ふむ……そうでしょうね。あれ程までに強力な妖怪はそう見ません」

 

やるべき事を先に終えてから、そして《正気に戻してから》。

クーリアは驚く顔を見てみたくて。

剣翼を出して羽ばたかせて、使い慣れた刀を現す。

 

()()。待っててください」

 

 

神にも等しい戦闘狂の吸血鬼が部屋を飛び出した。

明かりに照らされ輝く銀髪は美しいの一言だろう。

戦女神の如く、クーリアは()()()()を助ける為に動く。

 

 


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