この話は現在の流れとは異なり、未来の話となります。
ご注意ください。
幕間(兵器達の夢の跡)
アルフォンス・エチェバルリア(西方暦1265年 - )
彼は長い
兄であるエルネスティ・エチェバルリアと共に現在のフレメヴィーラ王国の制式量産機である『カルディトーレ』の基である『テレスターレ』を共同で開発、さらにカルディトーレをはじめとした様々な機体の開発にも参加している。
身長は150センチほどと小柄で、兄と同じ髪型は間違われると髪を長めにしている。一見少女のような風貌だが、『大人の騎士を組み伏せた』という記録が残っている。本人は事実を否定しているが、恐らく組み伏せるだけの何かを持っていたのだろうと思われる。
人柄は真面目で頼まれたらあまりNOとは言えない性格らしく、様々な頼みを聞いては深みに嵌ってもがくのが日常茶飯事だと銀鳳騎士団の団員達の証言で分かった。それでも彼のことを話す時の団員の笑みや声色から彼との確かな信頼関係があったのだろうと推測できる。
兄であり、上司にあたるエルネスティ・エチェバルリアと比べると開発実績に乏しい彼だが、彼が居なければ
***
「なんですかこれ」
「知らないのかい? 君や大団長のような偉人達をまとめた伝記だよ。今、ベストセラー中とゴンゾースのやつが渡してきてね」
ライヒアラにある喫茶店で茶を嗜んでいたアルは、机の上に本を置いた紅隼騎士団の団長『ディートリヒ・クーニッツ』を睨み付ける。だが、その眼力も効いていないのか『サインをして欲しいとさ』と何食わぬ顔で注文をつけるディートリヒに、アルは懐から携帯用のインク壺とペンを取り出してサインをしだした。
「兄さんと比べて僕ってそんなに有名じゃないと思うんですけどね」
「言うじゃないか。ウェスタン・グランドストームで……なんでもないよ!」
ディートリヒが続けて何か言いかけようとしたが、無表情になったアルの冷たい視線に『なんでもない』と慌てて紅茶を口に含んだ。かくしてディートリヒの医務室送りは無事に回避される。
「それにしても、他人から見た僕の印象ってこんなのなんですね」
「身内としてはお利口過ぎる書き方だね。特に人柄とか」
「仕事を押し付けられているだけですもんね。あと、騎士を組み伏せたっていうか身体強化で強化されていない生身の騎士を組み伏せただけなんですが」
『誰でも出来ますよね?』というニュアンスを醸し出しながら伝記を読み進めていくアルだが、
「うわ、懐かしい」
「著者はよく調べてるね。失敗作まであるじゃないか」
ディートリヒが『アルが作った試作物の中で日の目を拝むことが出来なかった失敗作』の数々を指でなぞりながら笑いかける。その失敗作の概要を見たアルも目を閉じて過去の記憶に思いを馳せるのだった。
**曲射型魔法杖の章**
それは、テレスターレの製造がある程度終わった頃であった。キッドとアディが自分達の
「え、ヴァーテックスの握りがおかしい?」
「ああ、なんか構えてもしっくりこないんだよな。軽すぎるっつーか」
「私はちょっと重いかなぁ」
構えながら不満点を言うオルター兄妹にエルは顎に指を当てながら考え、アルはバトソンをよびにいく。数分後、バトソンを交えた話し合いの結果として2人の
「バトソン、兄さん。ちょっと考えがあるんですが良いですか?」
「変な物じゃなかったら良いよ」
エルとバトソンが
「これなら曲がり角から魔法を撃てますよ!」
「アル、落ち着いてください。魔法はスクリプトで撃つんですよ? 曲がり角から演算して撃てばいいじゃないですか」
「触媒結晶の先から撃つというスクリプトで曲がり角から撃てるじゃないですか!」
ヒートアップするエル達を宥めつつ、折衷案として両方作ることにしたバトソンは即座に作業を開始した。銃身以外はエルと自分が製図した
ちょうどその時。テルモネン工房の扉が開き、外からアディが飛び込んでくる。
「バト君出来た?」
「アディ、今出来たところだよ」
バトソンがアディと続いて入ってきたキッドに出来た
「なんだ、この変なの」
「これはこうやって使うんです」
アルは
「俺は大きい剣くっつけたの1つで良いかなぁ」
「バト君、私は細い剣にして! あと、エル君と一緒で2つ使いたい!」
「取り出しにくいって……すぐ壊れそうって……」
こうしてオルター兄妹の新たな
**試作陸上地雷の章**
銀鳳騎士団の設立がライヒアラ騎操士学園に通達された頃。エルとアルは後々だが銀鳳騎士団の本拠地が立てられる予定の山の上に立っていた。その横には恰幅の良い男がペラペラとエル達に独演会を開いていた。
「ふむ、先ほどここに資材を置きに来たシルエットナイトが新型だね? 荷運びにも便利そうだ。あ、これから先はあれがスタンダードになるんだよね? それならここで試行錯誤しないといけないね。ああ、あとお金のことなら」
「ペッレルヴォ先生、ちょっと抑えてください」
「おっと、すまないね。知的好奇心というやつだ」
エルの声に独演会を開いていた男、『ペッレルヴォ・カイタラ』は頭を掻きながら照れている。彼はフレメヴィーラ国内では有名な城砦建築の専門家で、今までボキューズ大森海に面する重要な砦の建築を受け持っていたりする。そんな人物がなぜ銀鳳騎士団のような、言っちゃ悪いがぽっと出の騎士団の拠点を造るのかと言うと、先ほど彼が言ったように今後増えるであろう新型のノウハウを積むためであった。
「一応図面を書いてきたから確認して欲しいな」
「拝見します」
ペッレルヴォが渡してきた図面を2人で確認する。整備場は吹き抜けになっており、一目見て十分な広さを保っていることが伺える。さらに砦の門へ続く道はなだらかなスロープを作成し、出入りはそこのみにすることで魔獣や敵の侵入を阻止しやすくしている。
「良いですね。砦は山の頂上に建築予定ですし、決闘級が何匹来ても大丈夫ですね」
「そうでしょう? さらに……アルフォンスさん、いかがしました?」
図面を返しながら笑顔で答えるエルとは逆に、何かを考え込むような表情で悩むアルを見たペッレルヴォがアルに問いかけるが、アルはそのまま山の斜面まで歩いて下を覗き込んだ。
「ここから丸太とか転がせば山肌を登ってくる魔獣を撃退できそうですね」
「まーたアルはそんな物騒なことを」
「だって砦が落ちたら意味ないでしょ」
エルは『そりゃそうか』とアルの話に同調しながら考える。魔獣が岩肌を登ってくるという可能性も無視できない事案なのでペッレルヴォに何か良い案が無いか聞こうとするが、その前にアルは持ってきていた紙に何かを書き出した。
「村とかにある石臼を繋げて中心に兄さんが考えてる推進装置の術式を刻んだ銀板をくっつけて転がしましょう。下まで落としたらシルバーナーヴで魔力流して爆発させるんです」
アルの図面には小麦などを挽くための巨大な石臼のような物に
「アル、しばらく紅茶飲むの禁止」
「えぇー。……あっ、じゃあマギウスジェットスラスタを車輪の所にくっつけて助走つける形とかどうです?」
「どうです? じゃないです。あなたの飲んでる紅茶ヤバい薬でも入ってるんじゃないですか?」
紅茶とフィッシュアンドチップスの国に魂を捕らわれた俗物に冷ややかな視線を浴びせたエルは、手元の図面をびりびりに裂いて空中に撒いた。その光景にアルが『ネ○ル・シ○ート先生ー!』と叫ぶが、エルはこれで英国面の呪縛からアルが解き放たれるだろうと聞かなかったことにした。
「じゃあシルバーナーヴで操縦できる自走爆弾を……」
「ヨーロッパから離れなさい!」
エルは先ほどの言葉を素早く前言撤回した。アルはまだ前世の珍兵器に魂を支配されいる様子だった。
その後も様々な珍兵器をこの世界の魔法や
だが、後々作成される一部の戦闘用キャリッジ。実はアルの珍兵器知識がトリガーになっていることは2人共知る由も無かった。
**オルヴェシウス砦増築計画**
ライヒアラ郊外に謎の魔獣が現れるという噂が立ち出した頃。
エルとアルは噂の魔獣、もとい人馬型
「うわ、もうスロープ出来てる。この前来た時はテレスターレ使ってなんとか登ってきたのに」
「流石、仕事早いですね」
「エルネスティ殿、アルフォンス殿。ようこそおいでくださいました。ほほぅ、これが噂に聞くライヒアラ郊外に出る魔獣……ですかな? いえ、別に言いふらそうとは思っておりません。これがあれば荷運びもかなり短縮できそうですな。羨ましい限りです」
相変わらずの独演会を開催しているペッレルヴォに少し辟易しながらエルは話を聞いていたが、『この機体はいつ頃流通しますかね?』と実務的なことを問われたので、横に居たアルが『申し訳ありませんが、まだ試験段階なので具体的には話せません』とやんわり断った。
「いや、失礼。ここ最近新しいことばかりでどうも興奮気味でしてな。どうですか? まだ半分ぐらいしか出来ておりませんが、シルエットナイトの整備場はもう完成しております」
そう言ったペッレルヴォが汗を拭きながらエル達を
「素晴らしいですね。これならば理想的な整備が出来そうです」
「クレーンも至る所に動かせますね。ライヒアラの工房じゃクレーンが通る所が限られてますから整備所の取り合いになるんですよね」
感想を言いながらあたりを見渡すエル達にペッレルヴォはにこやかに対応する。出来た部屋を一つ一つ紹介していき、エルが待機する予定の執務室の紹介が終わった所でペッレルヴォは『以上です』と締めくくった。
だが、その時アルがおずおずと手を上げた。
「すみません。ちょっと企画書というか砦に組み込んで欲しい物がありまして」
「ん? 構いませんよ。投石器とかそういう武装の類ですか?」
『組み込み』という単語を聞いたペッレルヴォは、ボキューズ付近の砦を建築した時のことを思い出した。魔獣被害が予想される砦には投石器やバリスタなどを設置するのが通例である。
ライヒアラ付近にあるこの砦は魔獣の量的にはなくても構わないのだが、先日『丸太や不可解な装置を使ってまで魔獣の襲来を想定した』用心深い少年的にはあったほうが良いと思ったのだろうと現在の規模で運用できる兵器を脳内でピックアップしていたのだが、アルは首を振りながら爆弾を落とした。
「いえ、砦内にエーテルリアクタを設置してオール電化ならぬオール魔力で運用したいんです」
「……は?」
その話を聞いた途端、エルは激怒した。必ず、かの邪知暴虐の弟を除かなければならぬと決意しようとしたが、寸での所で踏み止まった。未だ溶岩のように煮立った頭で何とかアルに理由を聞くと、返って来たのは『明かりや篝火のコスト削減』という思わず『主婦か!』と言いそうになる理由だった。
「まー、後はエーテルリアクタの魔力が使えるので、シルエットアームズを固定砲台にするとかありますねー。あ、こんな砲台に考えたんですよ」
エルの内心なぞ微塵も気にしてないアルがなにやらイメージ図を描く。それは、丸い金属の玉を大砲のような物の砲口に詰め込み、それを遠距離に飛ばすような絵だった。エルはその構造から『臼砲』というカテゴリの兵器を連想したが、砲という物は火薬がないと使えない物である。
なので、エルはどういった運用法をするのか少しだけ興味が沸いた。
「アル、これはどうやって飛ばすんですか?」
「ほら、魔獣の中で空気圧縮を使って自身を飛ばしたり、何かを発射する類って居るじゃないですか」
「ああ、シェルケースやキャットネイルフィッシュのことですね」
アルの言葉にペッレルヴォが補則する。
ヤドカリのような風貌の魔獣『
両者の似通っている部分は、『風系統の魔法で何かを飛ばすこと』である。そこまで聞かされたエルは、なんとなく察しが着いたので、アルに向かって自分の意見を言う。
「なるほど、風系統の魔法で金属の玉を飛ばすんですね。ですが、これ。命中するんですか?」
「いやー、試してないのでなんとも。ですが、オール魔力化は砦の運用が楽になると思いますよ」
「たしかに。非常時はエーテルリアクタのシルバーナーヴを切れば良い話ですしね。防衛設備も固定式とは言わず、トロッコのような線路を用いることで火力を集中できそうですよ」
2対1という圧倒的不利な状況にエルは歯噛みする。もし、この計画が実行に移されて実績を積み上げられると、『拠点から法撃や砲弾による面制圧が主流になり、
さらに、アルの開発したリーコンを使えば現場の着弾観測謎容易にできるので、
その間にもアルとペッレルヴォの間で着々と砦改修の企画が整っていくので、エルは段々嫌な予感が現実の物になるのではないかと悲しくなってくる。
「とりあえず兄さん、お試しでエーテルリアクタを1つと臼砲とシルエットアームズの法台を1門づつ配備しましょ」
「却下です! 僕のシルエットナイトで好き勝手なことさせませんよ!」
アルの提案をエルは一蹴した。
その声にアルは歯を剥きながら反論しようとするが、一先ず落ち着いてエルの考えを聞くことにした。エルが涙を流しながらぽつりぽつりと紡ぐ『大鑑巨砲主義』や『
かくして砦を魔改造する計画はエルのワガママと泣き落としによって未然に防がれた。しかし、アルの『
***
「へぇ、あの砦をデュフォールみたいに魔力化しようとしてたのか」
「未遂ですがね。僕としては、ペッレルヴォ先生がお金入った箱を持ってきてオール魔力化の技法を売ってくださいって言われた時が驚きました」
アルが懐かしそうな顔をしながら冷めてしまった紅茶を飲み干す。
この『オール魔力化』という建築技法だが、話はオルヴェシウス砦だけに留まらなかった。この技法を知ったペッレルヴォは、アルに使用許可を取った上でデュフォールや朱兎騎士団の拠点であるカザドシュ砦の改造を行ったのだ。
その結果として『臼砲は村や街道を巻き込む可能性があるが、砦や街の居住性が上がった』という報告が王家に上がっており、さらにいくつかの街や砦のライフラインの一部は複数のエーテルリアクタによる膨大な魔力を用いるようになっていった。
本来は砦を守る改造計画だったのだが、いつの間にか生活基盤を支える物となったことにアルは『なにがどうなるか分からないものですね』と、サインを施した伝記をディートリヒに返した。