夜。生きとし生ける者の大半が自身の塒に籠る時間帯。先ほどの大半の中に当てはまらない夜行性の生物が元気に活動している森林地帯を何機もの
「さて、仕事の時間だよ」
「へい」
シルエットナイトの拡声器から女性の声が漏れると同時に各
さらにその後ろを人の数十倍の質量と図体を持った
「魔獣番達には世話になったけど、あたしの為に消えてもらうよ」
操縦桿を器用に動かしながらケルヒルト・ヒエタカンナスは舌なめずりをする。『上等すぎる手土産』を持って本国に帰還したことで彼女は新生銅牙騎士団の騎士団長になった。手土産を用意するのに少なくない犠牲を払ったが、再編成されたことで再び動けるようになった騎士団がジャロウデクの王族から言い渡された
崖を登りきった新生銅牙騎士団専用
***
時を同じく、アルは自室で訓練に明け暮れていた。以前に物音をたてすぎたせいで見回りの騎士から最近アルのストッパーにジョブチェンジしたイサドラに通報され、小一時間ほど訓練内容や時間について問い詰められたという苦い経験もあってか誰も入らないように鍵を閉めた部屋で、アルは数機の
「訓練開始」
独り言を呟いたアルは
なぜアルが昔行っていたことを今になって訓練しだしたかというと、少し前に法撃陣地を組んでいた折にアルが思い浮かべた連携攻撃に対する問題について、昔にしでかした
無人の
「むぅ、出来れば個別単位で動かしたいですがね。そうなると頭が弾けそうで怖い」
数機の
「自分みたいなオールドタイプじゃ無理ですね」
エルのような即座に術式を変更できる人物なら容易く行えるかもしれないが、そんな人間は今のところエルしか見たことが無いのであっさりと『人外』にカテゴライズしてから何か突破口はないかとアルはこの問題の解決方法を考え込んだ。
「別に難しくしなくても良いんですよね。ハイテクよりもローテクの方が信用におけることも多々ありますし」
アルは昔のゲーム機が空爆を受けても起動できたという話を思い出しながら、今回の問題である『連携攻撃の合図』について採用の有無を一旦頭から追い出して案を上げていく。ここにエルも居れば毎度おなじみの『ブレインストーミング』を行って派生した案や突拍子もない面白い案が出て来るのだが、地対空兵器を開発している工房からアディに連れ去られている姿を最後に目撃していない。
ここ最近、アルとイサドラの間柄について余計な世話を焼いているエルだが、アディに食事の世話やスケジュールの調整役をしてもらったりと着実に外堀を埋められつつあった。
「教えた身としては結構複雑なんだよなぁ」
まだこの戦いが起こることなんか気にもしなかった頃。エチェバルリア兄弟の母親であるセレスティナとオルター兄妹の母親であるイルマタルと共にアディの料理特訓をして培った腕をこんな所で発揮したことにアルは苦い顔をする。
とりあえず明日にでも『エルエルしたんだ!』と泣き喚いてボケようと考えていたアルだったが、ドサリという重い物が崩れ落ちた音と共にガチャリと金属質な物同士が打ち鳴らす音が小さく鼓膜を震わせた。
「やっべ、だれか来た」
誰かの接近に気付いたアルはすぐにベッドに戻ろうとするが、とあることに気付いて動きを止めた。アルの周囲には操縦席を開けた状態の
片づけをしてからベッドに潜り込もうと考えたアルは一先ず
(え? 強盗? 流石にこんな時間に来る人なんて……あ、若旦那とか第2中隊が居たわ)
しかし、そんな淡い迷い心は無情にも鍵が破壊される音によって砕け散った。扉から黒づくめの衣装の人間が姿を現し、その『いかにも』な人間の登場にアルは内心『犯人役にされそう』と人事のように思いながら相手の出方を窺う。
「王女の部屋ではない。いや、個室からすると重要人物か」
独り言を呟いた人影はそのまま腰から黒く塗り潰された短剣を引き抜き、つま先から地面にくっつけるように僅かに膨らんでいるベッドまで近づいていく。そんな光景をアルは
抜き足、差し足と形容するような用心な足運びの末、人影はベッドまでたどり着くと手にした短剣を一息にベッドのふくらみ目掛けて突き立てた。しかし、予想より柔らかい手ごたえが返ってきたのを不審に感じた人影はベッドにかけられたシーツを翻すと大きなウサギのぬいぐるみがベッド脇に転がって行った。
「っ! 人形だと!」
「ドラァ!」
まさかの変わり身に動きを止めた人影に向かってアルは拳で殴りつける。もちろん未だ
「なにか拘束できる物……できる物……あっ」
ピクリとも動かない襲撃者に勢い余ったかと不安になったが、アルは拘束することを最優先にロープや紐といった拘束アイテムを探すために部屋を見渡していると、数台並んだ
「持ち帰れるならなぁ」
そして
どのように大変なのか、仮にこれが銀鳳商騎士団が使っていた物ならチームリーダーどころかダーヴィドやエル達に即刻報告を上げるべき案件レベルだと言えば察しが付くだろうか。もちろん
「エレオノーラ様はキッドに任せてイサドラ様と合流しましょうかね。部屋近いですし」
扉から部屋を出た時、遠くの方から隠密もへったくれもない足音を聞いたアルはイサドラの部屋まで急いだ。なにせ、彼女は王族の血を引いてはいるが本命のエレオノーラの『スペア』である。最悪を考えるとどうしても足音を隠し切れなくなるほど足を速めてしまうのだが、タイミング良く館周辺──否、
「魔法?」
窓から見た外の景色に雷雲が見えないことから魔法現象だと推測したアルはすぐさま足音を一切気にせずにイサドラの私室へ飛び込んだ。その目の前にはちょうど轟いた雷によって怯んだ先ほどの襲撃者と同じ背格好をした人影が居り、アルはすぐさま
加速した
「アルフォン……誰!?」
「はい、アルフォンスです。こっちは乙女の部屋で刃物持ってる危ない人です」
「とりあえず避難しましょう。とりあえずこの中に」
アルは
「皆も起きてきますね。それでは合流しー……」
「アル?」
喋りながら曲がり角を曲がろうとしたアルがふと足を止めながら
「いったいどれだけ投入してきてるんですか」
潜入や破壊工作で活躍する密偵は騎士の付き人や戦場の連絡役である騎兵などと比べれば圧倒的にコストがかかるものだと藍鷹騎士団のオヤジから聞いていたアルは、投入人数の多さに改めてジャロウデクという大国の力という物を実感する。
「アル? 誰か居るの? ねぇ、無茶はやめてよ?」
イサドラの警告するようなか細い声は集中しているアルには一切聞こえなかった。装備していたサイドポーチの中から閃光玉と長い
「ん、なんだ?」
予想よりも
「ギャッ!」
──瞬間。激しい閃光が廊下を真昼の様に照らし、それを直に見た襲撃者が悲鳴を上げる。その隙に曲がり角から一気に走り出したアルが装備したナイフを持つ……が、すぐに戻すと装甲強化の魔法を施したアガートラームの方の腕で思いっきり襲撃者の顔面をぶん殴った。
「っし、無力化」
先ほどまで持とうとしていたナイフに視線を向けずに動かなくなった襲撃者を拘束するために近づくと、突然真上から先ほどとは別の襲撃者が降ってきて仰向けに押し倒された。さらに襲撃者は何も言わずに馬乗りになると自身の腰から黒い短剣を取り出すとアルの額目掛けて振り下ろすが、その腕をアルはアガートラームを装着している方の腕で握って刃を止める。
(おかしい……なんで拮抗してるんだ)
短剣をいち早く退かそうと
いきなり襲撃者側の力が抜けたことで血を顔面に被りながら起き上ると、エムリスが両手剣を肩に担ぎながら立っていた。
「ふぅ、無事か? アルフォンス」
「若旦那、すみません。不覚を取りました」
襲撃者の血を拭いながらアルが先ほどの襲撃者が握っていた短剣を検分しようと刃先に手を近づけた。
「触るな!」
突然のエムリスの声に刃先から手を遠ざけたアルに、エムリスが先ほどアルが持とうとした短剣を足で廊下の隅に追いやりながら小さく『刃先に毒が塗ってある』と呟いた。
なんでもエムリスが襲われた際に襲撃者の腕を極める過程で手に持っていた短剣を襲撃者の背中に刺したら襲撃者の口から鮮やかな赤い泡を漏らしながら倒れたらしく、毒の存在を知ったアルは『毒液が垂れてこなくて良かった』と思わぬ幸運を噛みしめた。
「しかもこの短剣、銀製で飾りに触媒結晶を使ってやがる。さっきも身体強化してたんだろうな」
「こっちは鍵で、あっちは杖兼暗器。国や使用する部隊によって発想が違いますね」
同じ銀の短剣なのに全く異なる用途にアルが感心し、それをエムリスが『さっきまで殺されかけてたくせに』と悪態をつきながら『伯母上!』と呼ぶと、廊下の奥からマルティナが姿を現した。全員の無事が確認され、いざ避難といった所でアルがエムリス達を引き留めて先ほどアルがイサドラを放置した曲がり角まで歩くと、
「一人にしないで……開けてよぉ」
「エチェバルリア卿。流石にこれは酷いと思うんですが」
「お前、イサドラのことどう言ってたっけか?」
「すみません。緊急事態なので……」
内部からすすり泣きながら開ける様に懇願する
たしかにイサドラの性格ならアルを助けるために飛び込んでいき、逆にイサドラがやられたり守りながら戦うという事態になっていたことも大いにあり得るが、少し前に尖塔に閉じ込められた少女を狭い
***
謎の襲撃を退けた銀鳳商騎士団は、いつの間にか隊伍を組みながら点呼を取っていた。第1、第2、第3の各中隊は大部屋を使っていたからか襲撃者は館から脱出する際に遭遇した数人だけなので、幸い被害はなかった。
「ばか! バカ! ばぁーか!」
「いや、ほんとすみません。すみませんでしたって」
自分達の安全を確認でき、残りはクシェペルカの王族やエムリス、騎士団長といった上層部だといったところでなにやら面白おかしそうな会話にエドガー達が後ろを振り返ると、キッドがエレオノーラを大事そうに抱える横でアルが涙目のイサドラを背負いながら背中から頭を小突かれているところだった。
あの後、すぐに
そして、それはエレオノーラを救い出したキッドと共に館を脱出した今でも続いており、アディを伴ったエルが合流するまで続いた。
「これで
「ディー! この場は頼むぞ!」
「ちょっ! 役割が逆ではない……って仕方ないか。エドガーとアルフォンスが一番あの事件について因縁があるからねぇ」
「ディーさん。僕が今のイサドラ様を離して飛び出したが最後、首に縄付けられますよ」
重要人物の周囲を中隊員で囲みながら再び館に入るディートリヒの後ろでアルが『また、どこか行くの?』という明らかに閉じ込められて出来た闇が拭いきれてないイサドラを背負いながら文句を飛ばす。
たまに館に残っていた襲撃者が数人ほど這い出て来るが、銀鳳商騎士団の団員の魔法や集団での連携で捕獲、もしくは殺害した後、全員揃って作戦会議などで使用する大部屋に立てこもった。
「周囲を確認しよう」
「了解」
ディートリヒは暖炉の火掻き棒のような柄の長い棒を部屋から見つけ出すと、天井や隅を突いたり払ったりして人がへばり付いていないか探り、中隊員は部屋の隅を2人1組で捜索する。そうしていると、純白のカルディトーレが1機、館の近くで駐機体勢を取ると『騎士団長の言う通り賊が居ましたが、被害はありません』と拡声器で告げた。
「アル。部隊に合流するように合図をお願いします」
「アイアイ」
イサドラをマルティナに託したアルはフリーになったアガートラームの指先に
「中隊に戻ります」
ハンドサインを確認した中隊員は器用にカルディトーレで騎士の礼をしながら立ち上がり、そのまま盾を前方に構えながら街から出ていく。
「お前達の騎士団はどこかおかしいな」
「まぁ、シルエットギアでの訓練もしてますからね。あの人は味方ですよ」
駐機体勢を取ったまま騎士の礼をする操作難易度もあるが、このような場面で礼を返す胆力は間違いなく銀鳳商騎士団の団員である。エムリスの呆れた声に反応したエルは、『後は任せました』と言いながら壁にもたれて休息の姿勢を取ってしまった。
「ディーさん、2組に分かれて朝まで休みながら守ってください。武器に毒が塗られているかもしれないので、基本的には魔法で対応。無理に捕まえようとしなくて結構です」
(普段はアレだが、基本的に優秀な騎士団なんだよなぁ。普段はアレだが!)
一連の指示と実行の速さを見たエムリスは、ものの数秒で眠りこける
その背中を見たマルティナは、実父であるアンブロシウスがなにかしら大事をやらかした際に呆れるリオタムスの背中を幻視し、少しだけ故郷を懐かしんだ。
***
朝になり、街の周囲に見かけない
「アル。今回の相手側の作戦の総評をしてみてください」
「間髪入れずに僕のベッドを短剣で突き刺したので、目的は要人の暗殺。キッド曰く、エレオノーラ様を連れ出そうとしていたのでも拉致も視野に入れていたと思います」
相手側に立った作戦の目的を推測していくアルはさらに踏み込むため、藍鷹騎士団から提供された情報を総動員させる。
敵の
「生き残り……が居ますね」
「なぜそう思う?」
「兄さん、カルディトーレの小隊でミシリエから中央まで行けますか?」
いきなり質問されるたエルは特に焦ることなくカルディトーレとおまけのレーヴァンティアの性能──特に魔力消費量と貯蓄できる魔力量を念頭に入れて計算してみた。最悪を考えて魔力が満タンな状態でミシリエから離れることを仮定して地図に指を這わせながら何度も計算してみるが、導き出されたのは『数回休ませなければ踏破できない』という答えだった。
「対する僕達は朝になったらエレオノーラ様が居ないことに気付くので、ミシリエを中心に放射状にツェンドリンブルを走らせます。何かあればイカルガが飛んでいきますので、陸上を逃げるのは不可能になります」
「なるほど。空飛ぶ船で逃げたのか」
『陸上を逃げるのは不可能』と言った辺りでエムリスは忌々しげに拳を打ち合わせる。そう、銀鳳商騎士団にはない高速移動を行う兵器がジャロウデクには存在しているのだ。恐らく本命は殿と言う名の捨て駒をミシリエに残して空飛ぶ船で撤退したのだろう。撤退タイミングは定かではないが、『捨て駒を出さなければいけない程焦っている空気』を感じたエルとアルは『良い傾向だ』と笑みを深くする。
「ヴィードも前線に配置し終わり、返ってきたナイトスミスの方々もレーヴァンティア作りに参加することで制作速度も上がりました。どれだけ焦っても時が過ぎれば過ぎるだけ兵力はイーブンになっていきます。……と、なーるーと?」
「戦力を集めての速攻ですね。ここで押し留まれば相手は必ず息切れします。さーらーに?」
エルが言葉を言い終えると同時にアルが続きを話すという、まさに打てば響くといった謎の連携で言葉を紡いでいった2人は、仕上げに『さん、はい』とタイミングを取ってから『空飛ぶ船も来るだろうから、大いに試せます!』と意見をハモらせるとハイタッチをして喜びを分かち合う。
「たまにお前らの考えについていけなくなる時があるんだが」
「こうでもしないと精神衛生上悪いので、勘弁してください。それよりも生き残りが居るという方向で行けば、こちらもうかうかしていられない状況です。陣地作りを急ぎましょう」
「そうは言うが、もう十分じゃないのか?」
そう言いながら足踏みをするアルにエムリスは尋ねると、アルはその場で震えながら『せっかくイサドラ様が直してくれた5代目に毒が染み込んでおじゃんになったんですよ! ジャロウデクがやったんですよ!』と逆切れした。それを聞いたイサドラが『あー、さっき焼却炉で燃やしたわね』と行動を思い返すと、アルはまるで昔から連れ添った戦友が亡くなったように悔しさを顕わにした。
これには周囲の人物も苦笑いを浮かべるが、アルにとってはボロボロになるまでアルの安眠を守り、5代目に至ってはアルのメンタルが崩壊しかけた時にもその身を持って慰めになったいわば『もう1人の親友(定価:銀貨20枚 割引可)』である。それが復活した直後にジャロウデクの手で止めを刺されたのだ。こうなるのも致し方が無い。戦争は非情なのだ。
ちなみに販売している商会はフレメヴィーラ王国にしか存在しないので、『これから一人寝になるー』と勝手に盛り上がったアルが次第に虚ろな目で『ジャロウデク許すまじ』と怨念のように唱えていると、途端にニタリと笑い出した。
「恨み……怨念……怨霊……なるほど。あと一押し足りなかったところですし、ちょっと驚かせてみましょうか」
「もう勝手にしてくれ」
理由が理由だけに一気にやる気が削がれたエムリスは頭を抱えながらアルを追い出すと、夜中と同等の盛大にため息をついた。
たしかにジャロウデクは許されないことをしたが、それでもたかがぬいぐるみ1つという理由で陣地を強化するのは明らかにジャロウデク側が可哀想ではないか。そうしていると、その片割れであるエルがエムリスに『目的を決めたらアルは突っ走りたくなるだけなんです』と自分のことを全開で棚に上げながらエムリスを宥める。
「お前は目的が無くてもシルエットナイトのことになれば突っ走るだろうが」
「あーあー、聞こえませーん」
耳に手を当てながら露骨に視線を外したエルに、エムリスは『頼りにはなるんだがなぁ』と頭を抱えたが、数秒後には『最終的にジャロウデクぶっ倒せればそれで良いか』となにもかも放り投げた。
***
黒い蛇が街道に沿って東進する。歩みは遅いが、それでもなお力強い足並みで大蛇は着実にミシリエに向けて足を進めていた。
「ふん、やはり弱兵ではないか。姉上はチマチマし過ぎるな」
空飛ぶ船、『
銅牙騎士団の作戦が失敗に終わって事態は再び膠着状態になるかと思いきや、姉であるカタリーナから王族の現在地を聞いたクリストバルは1週間という短い間に
その圧倒的な武力の矛先にまず選ばれたのは、当然東部の玄関口であるジェデオン要塞である。
前回は比較的少数で
「下の臆病者にも伝えろ。しっかりついてこいとな!」
「はっ!」
下が見えない木製の床を煽るように踵で叩きながら笑い方を嘲笑に切り替えたクリストバルに、
『ま よ わ ず つ い て こ い』
その短くも皮肉たっぷりな信号を地上で読み取った大蛇──全てティラントーで構成された黒顎騎士団の一団の先頭を歩く2機のナイトランナーは達観したような表情で『気楽に言ってくれる』と同時に呟いた。
彼らは先のジェデオン要塞攻略戦で一方は謎の勢力による破壊工作とティラントーの故障によって要塞にたどり着く前に後詰と交代させされ、もう一方はそれらの妨害や故障を受けてもなお要塞にたどり着いたは良いが消耗や要塞側の圧倒的な火力に逃げ帰った部隊の隊長だった。
「この道は大丈夫なのか?」
「斥候も出しているし大丈夫だ。足元がしっかりしているから後方に下がりやすいし、草原地帯だしな」
前回の反省を踏まえ、彼らは常に斥候を出して状況を確認。さらにいつでも後方に下がれるよう退路を重きに置いた進軍ルートを選んで進軍している。それだけ念入りに準備をしても未だ彼らの中にはあのティラントーが謎の動作不良を起こす忌まわしきが付きまとっていた。
「なぁ、あの動作不良が何か分かったか?」
「思い出させないでくれ。未だに朝乗り込んだら正常に動くか数分は念入りに確認するんだぞ。……乗りたての学生でもあるまいし」
「俺もだ……この前同僚に笑われたよ」
動作不良について聞いたのに結果は苦い思い出の共有しただけという冴えない結果となった2人は揃って空を悠々と飛ぶ
あの大敗過ぎてもはや芸術的ともいえる敗走の後、黒顎騎士団は2つに分断された。騎士団長と選りすぐりの数十人を纏めたジャロウデク王族の親衛隊と敗走した2人の隊長を長とした今回ミシリエを攻略する予定の『その他』である。
表向きは打撃部隊へ栄転ということになっているが、隊長の2人には『おう、失敗したツケ。この戦いで払ってもらうからな』という言葉が透けて見えていた。
「やっちまった物は仕方ない。ミシリエでこの汚名を返上してやるさ」
「どうせ相手はあの案山子だしな」
明らかに空元気だが、それでも元気を取り戻した隊長達は周囲を警戒しながら先頭を歩いていく。その姿を数機のシャドウラートがじっと見ていた。
いよいよミシリエの悪夢です。
・・・が、最近また仕事の関係上で時間が取れない状態になっていますので、お休みを頂くことになるかもしれません。