銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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81話

 夜空が謎の法撃によって真昼のように光り、飛空船(レビテートシップ)の姿が完全に晒された時。クリストバルが乗っている飛空船(レビテートシップ)の艦橋は騒然とした。しかし、謎の法撃から数分が経過しても特に攻撃はくることはなく、空は再び元の夜空に戻っていく。

 

「えぇい! 落ち着け!」

 

 それでも謎の法撃を受けたことによる混乱が未だに艦橋を占領していたので、クリストバルは苛立たしげに艦橋の床を靴で思いっきり踏むことで乗員を黙らせた。これだけのことをしてようやく混乱が止まったことにクリストバルは『未だ錬度は不十分か』と嘆いていると、先ほどの法撃が再び夜空を照らした。

 

「ふん、どうせこけおどしだ。このままミシリエまで進むぞ」

 

「ブローエンジン。最大船速!」

 

 種は割れたとばかりにミシリエまで一直線に進もうと飛空船(レビテートシップ)の船長──鋼翼騎士団の騎士団長にクリストバルは指示を出した。騎士団長は指示に従うために速度を上げるよう伝声管の蓋を開けて命令を伝達しようとするが、ミシリエの方角から飛来するまるで太陽のような輝きを放つ大きな火球を見た途端、先ほどの命令内容が霧散した。

 

「あ……え?」

 

 先ほどの謎の法撃とは異なり、明確な敵意と共に飛来した火球は空に浮かんでいる飛空船(レビテートシップ)の内の1隻。先頭を駆けていた飛空船(レビテートシップ)の片側の帆を掠めると、そのままジェデオン要塞の方角に法撃の勢いを衰えさせることなく飛来していった。

 

「なんだあれは」

 

「法撃です! 恐らくミシリエから……2番艦航行不能! 墜落します!」

 

「なんだと!? 掠めただけだぞ!」

 

 虎の子である飛空船(レビテートシップ)が墜落するという報告にクリストバルが飛空船(レビテートシップ)の窓から2番艦の様子を見ると、火球を掠めた帆は既に基部ごと燃え尽きており、さらに炎が飛空船(レビテートシップ)の本体まで燃え移っている光景にクリストバルは言葉を失った。

 徐々に高度が下がっていく2番艦からティラントーが外壁をぶち破って降下するが、現在の高度から鎖という補助が無い場合の降下ははっきりいって自殺行為である。その行動による最悪の結果が容易に浮かんだクリストバルや鋼翼騎士団の団員達は、先ほどのほぼ木造で出来ているとはいえ、飛空船(レビテートシップ)1隻を容易に落とすほどの熱量を持った法撃に沈黙していた。

 

「いかん、高度を落とせ! 今すぐ!」

 

「は、はい」

 

 しかし、咄嗟に何かに気付いた騎士団長は王族であるクリストバルへの意見具申をせずに高度を下げるように命令する。いきなり高度を落としたことでがくんとした衝撃が船全体を襲い、乗員の何人かが軽傷を負うが騎士団長はただ前からくる何かを見逃さないとばかりに正面を向いていた。

 

「もっと下げろ! 第2波が来るかもしれん!」

 

「どういうことだ!」

 

 突然の第2波と言う言葉にクリストバルが叫ぶ。『あれほどの法撃をそう何発も撃ててたまるか』という認識がクリストバルや鋼翼騎士団員の心を1つにするが、その思いは空しく先ほどのような大きさの火球がミシリエの方角からぐんぐんと迫ってきた。

 その火球に腕を前に出すという無駄な足掻きをしながら息が詰まったような声を出す団員を他所に火球は先ほど墜落した飛空船(レビテートシップ)の真横を進んでいた飛空船(レビテートシップ)の本体に着弾するが、内部で爆発せずに法弾が貫通した。

 もしジャロウデク側にエルやアルと同じ日本人の転生者が居たならば、『竹輪だ』と言いそうな無残な姿になった飛空船(レビテートシップ)が落ちていくが、クリストバルや騎士団長は『すぐ前』に居た飛空船(レビテートシップ)の心配よりも貫通してきた火球を避けられるかの瀬戸際に立たされていた。

 

「船の損傷は気にするな! 燃え尽きるよりマシだ! 他の船にも高度を下げるように伝えろ! 高度を上げるな!」

 

 目が潰れるかと思われるほどの閃光を手で遮った騎士団長は、3発目が来るかもしれないと他の船にも高度を下げるように指示してひたすら神に祈った。すると、その祈りは通じたのか火球はクリストバルや騎士団長が乗った船に損傷を負わせることなく彼方へ飛び去って行った。

 

「全速力だ! 急いでミシリエを落とす! 黒顎騎士団にも連絡を入れろ!」

 

 その結果に今にも拳を振り回しながら回避に成功したことを喜びたかったクリストバルだったが、先ほどから鳴りやまない頭の警鐘に従って後詰を前面に展開しながら全速力でミシリエに進軍することを宣言した。再び推進用のブローエンジンから送られる風が帆を膨らませ、飛空船(レビテートシップ)が再加速する。──はずだった。

 

「監視から報告! 森の各所から異常確認とのことです!」

 

「今度は何だ!」

 

 度重なる異常にもはやお腹いっぱいになっていた騎士団長が外の様子を見ると、爆炎を放ちながら飛翔する小さい物体が見えた。その物体は異常に気付いて回避しようと動き出した他の飛空船(レビテートシップ)の横っ腹に突き刺さったり、高度を落としたことで飛空船(レビテートシップ)よりも高く飛んだ物体が重力を味方に付けて飛空船(レビテートシップ)の上部に襲い掛かるという悪夢ともいえる光景が眼に映りこんだ。

 そして、どうやらその上部の攻撃が致命傷になったらしく、船が傾斜しながら滑るように落下し始める。そのまま重力の井戸に引きずり込まれるように森に突っ込んだ飛空船(レビテートシップ)は激しい衝撃音や破壊音を撒き散らしながら地面と感動的な再会をした。

 

 数時間前までは自分達が『狩る側』だと思っていた。しかし、今はどうだ。謎の法撃によって2隻が落ち、畳みかけるように別の攻撃によってさらに1隻が後を追う。

 そして、まるで肉食獣から身を隠すように高度を下げている飛空船(レビテートシップ)の現状にジャロウデク軍は自分達が『狩られる側』だと理解したのは奇しくも空を駆けたあの謎の物体が再び宙を舞った時だった。

 

***

 

「ほんとアル。ごめ……申し訳ありませんでした」

 

「あの総帥、嫌いになりそうです」

 

 一方のその頃。イカルガが腰を90度に曲げて謝罪するという社会人のマナーの題材として出てきそうなほどに綺麗な謝罪をパッチワークにしていた。──というのもアルは最初から当てるつもりで法撃を放ったのだが、照準が狂っていたために初撃は外れた。

 もちろん、待機中も撃てなかったとはいえ調整はしたし、ブレることがないように何度もテストはしたのだが、なぜか外れた法撃にアルは先ほどまで言っていた『大出力による狙撃が外れることに定評があるキャラクター』の言霊が効いたのではないかとアルは『謝罪は良いから慰謝料代わりに時折イカルガの魔力転換炉(エーテルリアクタ)を使わせてくれ』と言いそうになった口を厳重にチャックし、パッチワークに増設されたボタンを押して魔導兵装(シルエットアームズ)の外装を強制的に排除する。外装が排されたことで魔導兵装(シルエットアームズ)の基部に篭もっていた尋常じゃない熱が音を上げながら煙と共に霧散した。

 

「しかし、予備を作っておいてよかったです。ミッシレジャベリンも中々の威力ですし、数は減らせましたね」

 

「でもかなり当ててようやく1隻ですからね。改良は必要そうですよ」

 

「副団長、そんな感想は後にしてくれ。準備はもう出来てるんだから急いでくれ!」

 

 闇夜を切り裂く魔導飛槍(ミッシレジャベリン)の群れから逃れようとする空飛ぶ船の軌道を眺めていた2人にカタフラクトから声がかかる。作戦を次の段階──エルやツェンドリンブルが空飛ぶ船の相手をしている間にアルが陸上部隊を相手に時間稼ぎをする時間がやってきたのだ。

 その声を聞いたアルはパッチワークに接続していた長大な魔導兵装(シルエットアームズ)の固定を外してから紋章術式(エンブレム・グラフ)が他人に見られても解析出来ないようにパッチワークの脚で踏んづける。傍らにおいていたパッチワークの専用の盾である『デュランダル』を片手に装備させると、カタフラクトに繋がっている後部に魔導兵装(シルエットアームズ)を配した特製のキャリッジの荷台にパッチワークを乗せた。

 

「それでは僕はお空の天使達と踊ってきます」

 

「僕は荒野を歩く死神の列と重力戦線してきます」

 

 簡単な挨拶の後にイカルガは皇之心臓(ベヘモスハート)女皇之冠(クイーンズコロネット)を轟かせながら大空へ飛翔し、パッチワークはカタフラクトに指示を出すと銀鳳商騎士団の実働部隊が集まる陣地近くまで移動した。

 

「お、アルフォンス。藍鷹騎士団の斥候の情報によると地上のジャロウデク軍が動き出したらしい」

 

「それでは、皆さん手はずどおりに。……決して無理はしないでください。機体は消耗品ですので」

 

「ふっ、乗員が生還すりゃ大勝利だったな」

 

 エドガーは昔に聞いた覚えのある言葉の続きを笑いながらアルディラットカンバーに乗り込んだ。ここから先は乱戦もありえるのだが、初手の動きは完全なる待ち伏せとアルの策で相手に動揺を与える計画なので各中隊は必要以上に幻晶騎士(シルエットナイト)を動かさず、かついつでも動き出せるように準備を整えた。

 

 そうしていると徐々に雷鳴にも似た足音と共に地鳴りが大きくなるのを感じたアルが小さく『来たか』と呟くとパッチワークで斜面を滑りながら降りていく。そして馬防柵や幻晶騎士(シルエットナイト)で掘った落とし穴の付近まで近づくと、バトソンに予め頼んであったもう1つのアガートラームを左腕に装着しながらパッチワークの魔導演算機(マギウスエンジン)銀線神経(シルバーナーヴ)を繋いで外に出る。

 地面に降り立ったアルは、さらに地面にちょこっと出ている数十束にも及ぶ銀線神経(シルバーナーヴ)を両腕のアガートラームの指先に巻きつけると腕を組みながらジャロウデクが来るのを待っていた。

 

「上手くいく……練習したんだ。約束したんだ」

 

 不安と責任から今にも砕けそうになる心を陣地を作っている頃から続けてきた練習の日々やイサドラとの約束で補強しながら大胆不敵ともいえるような態度でジャロウデク軍が来るであろう道を見据えていたアルの瞳に、幻晶騎士(シルエットナイト)の機影が見えた。

 

「止まれ!」

 

「何者だ!」

 

 手はずどおりゴルドリーオからエムリスの良く通る声が響くとジャロウデク軍は足を止める。最前線を進んでいたティラントーからありきたりなセリフが返ってくると、アルはパッチワークの拡声器の操作を行ってジャロウデク軍の騎士達に聞こえるように自身の声を増幅させた。

 

「皆様。遠路はるばるご苦労様でした。通行手形はお持ちでしょうか? 来訪の目的は観光ですか?」

 

 不安によって震える手が闇で隠れる中、アルの一世一代のはったりが始まろうとしていた。

 

***

 

 黒顎騎士団を率いていた隊長達はミシリエに到達する前に旅団を2つの部隊に分けた。これは道幅の狭さによる進軍難易度や撤退支援といった細々した理由もあるのだが、一番の理由は両者とも旅団──100機にもなるティラントーの集団を指揮した経験がなかったので一番慣れている部隊数まで落とし込んだ結果であった。度重なる協議とクジの末に隊長の1人である『パヴァン』が前衛として進軍し、もう1人の隊長である『バネスト』の部隊が後詰としてパヴァンの部隊の少し後ろで様子を伺うことになった。

 

 そして現在。パヴァンは闇夜から聞こえてくる声に反応し、ティラントーの足を止めて篝火のすぐ傍で仁王立ちする年が若い──どちらかというと若過ぎる騎士のような装束を纏っている子供が映った幻像投影機(ホロモニター)を用心深く見つめる。たまに空を舞う法撃によって周囲は昼間のような明るさにはなるが、現在は月が中天まで昇っている時間である。

 そんな時間帯に幻晶騎士(シルエットナイト)と共に佇んでいる子供。しかも容姿は少年とも少女ともとれる出で立ちに、パヴァンは敵として認識するよりもなんとも形容しがたい不気味さを感じていた。

 

「やぁ、皆様。遠路はるばるご苦労様でした。通行手形はお持ちでしょうか? 来訪の目的は観光ですか?」

 

「あまり笑える冗談ではないな。我らはファダーアバーデンの再来のためにこの土地を貰い受ける」

 

 いきなり来訪理由と言うわけの分からない言葉にパヴァンは不審に思いながらも返答し、自身のティラントーを臨戦態勢にする。それに釣られたのか後方に控えていたティラントーもいつでも動き出せるように構える中、目の前の子供が『やっぱり世界の父(ファダーアバーデン)なんですね』と言い放ちながらいきなり大声で笑い出した。その笑い声と言うには猟奇的な、もはや笑いすぎて声がサルの鳴き声のようになってるのにも構わず笑う子供にイラだった騎操士(ナイトランナー)の1人が隊伍から離れると仲間の制止も聞かずに子供に向かって突進した。

 

「なにが可笑しい!」

 

「あ、そこ。危ないですよ」

 

 ティラントーが足音を鳴らしながら子供に迫るが、子供が指を差した地点にティラントーの脚部が入るといきなり鉛色の杭が地面から射出された。杭は一息にティラントーの脚部を串刺しにし、完全に地面に縫いとめられたティラントーから『動けねぇ!』という騎操士(ナイトランナー)の声が聞こえる中、パヴァンはこれ以上被害を出さないように周囲のティラントーに下手に動かないように厳命する。

 

「そこらへんには地雷式のシルエットアームズが埋まっています。ちなみにこのようにタイミングをコントロールも出来ます」

 

 にらみ合いは性に合わないのか、笑っていた子供が急に光る篭手から伸びた糸を翻すとパヴァンの周囲から先ほどティラントーの脚を串刺しにした杭と同等の物が地面から飛び出し、ティラントーの脚部や胴体近くを掠めていく。さらに攻撃は杭だけではなく、パヴァンが立っている先頭から少し後ろの方では小さくない爆炎が数度巻き起こり、それらの攻撃によって部隊の陣形が乱れた。

 

「そんなシルエットアームズ聞いたことがない! はったりだ!」

 

「見ろ! 土が盛り上がっている! 各自、盛り上がっている土を避けて突撃せよ!」

 

 子供からの謎の攻撃で指揮系統が少し乱れたことにより、隊伍から離脱するティラントーが現れ始める。その中には子供の言う『地雷式』を埋めたとされる『土が盛り上がっている部分』を目ざとく見つけた者が居り、その者を中心に十数機ほどのティラントーが駆け出した。未だ手の内が全く見えないうちに突撃を行うという彼らの無謀とも言える行動に子供も負けじと腕を振りながら操り人形を操作するように爆炎や杭といった地雷を発動していくが、土の異常に気付いた騎操士(ナイトランナー)達が巧みに罠を回避しながら着実に子供との距離を詰めていく。

 やがて、簡素な馬防柵ぐらいしか目立った障害が見えないほど接近したティラントー達が持っていた得物を構えながらさらに速度を上げる。巨人たちが自分を踏み潰そうと迫ってくる姿に腰を抜かしたのか、子供は恐怖に彩られた顔でティラントー達を見つめていたのも束の間。突撃を行っていたティラントーの集団の姿が忽然とパヴァン達の乗っているティラントーの幻像投影機(ホロモニター)から消えた。

 

「なんだ!」

 

「落とし穴だ!」

 

「引き返せー! 罠がぁ」

 

「なんだこの水……逃げろ!」

 

 樹木の枝が盛大に折れる音や金属同士がぶつかって生じる破砕音、そして騎操士(ナイトランナー)の悲鳴や怒号がどこからか聞こえる中、子供は仰々しく輝く篭手をつけた片手を上げるとすぐに勢いよく振り下ろす。すると、馬防柵のあたりに存在する暗黒の空間から爆炎が轟いた。煌々と照らされる爆炎にパヴァンは最初何が起こったのかも分からずに放心していたが、爆炎の中から聞こえる先ほど突撃を仕掛けた騎操士(ナイトランナー)達の叫び声が聞こえた途端、反射的にティラントーを操作するとバックウェポンを展開。数発の法弾を子供に向かって撃ち放った。

 幻晶騎士(シルエットナイト)が放つ法弾は戦術級魔法(オーバード・スペル)という名前通り人間には過剰な威力である。だが、パヴァンには先ほどまでのことをしでかした目の前の子供が森の闇が生み出した悪鬼や化け物だと認識していた。そんな人間の命を容易く滅する橙色の炎は子供目掛けて直進するが、それは子供に当たる前に子供の傍に控えていた幻晶騎士(シルエットナイト)が装備する大盾によって防がれた。

 

「なんだと!」

 

 思わぬ結果にパヴァンは声を荒げる。それもそのはずである。

 屈んで子供を守ったことにより幻晶騎士(シルエットナイト)の跳ね上げられた胸部装甲の下──誰も居ない操縦席がパヴァンのティラントーの幻像投影機(ホロモニター)に映ったのである。搭乗者が居ない状態で動くというさらに不可解な事態がパヴァンの脳を震わすが、戦況は流動的に刻一刻と変化する。虎の子である飛空船(レビテートシップ)がまるで羽虫のように叩き落とされ、パヴァンの居る付近では飛空船(レビテートシップ)が墜落したことによって轟音や振動が響くが、子供はまるで轟音が聞こえないかのように極めて平静に言葉を紡いだ。

 

「ファダーアバーデンを再来ってジャロウデクがかの国の正当な継承者なんですかね? その証拠は? 歴史的に証明できます? 出来ませんよね? ……ほら、皆さんも言ってあげてくださいよ」

 

 ふと子供が両手の篭手の指先を忙しなく動かしながら森の周囲に目を向けると、パヴァン達の周囲の森が一斉に唸り声を上げた。もはや状況が上手く読み取れずにひたすら受身になっていたパヴァン達だが、いきなり周囲の森から細かな法弾の雨がパヴァン達目掛けて飛んでくることを幻像投影機(ホロモニター)から確認すると全員顔を青白くしながらティラントーの腕で操縦席を守りながら膝をついて被弾面積を小さくする。

 

「ほら、あの人達にも先ほどのセリフを言ってくださいよ。当事者ですよ」

 

 指先を別の生き物のように動かしながらも森の奥目掛けて首を動かす子供にパヴァンを含めたティラントーの騎操士(ナイトランナー)が森の奥にティラントーの眼球水晶を向ける。法弾によって視界が不明瞭だが、森の奥に大量の幻晶騎士(シルエットナイト)──クシェペルカの制式量産機であるレスヴァントが大勢こちらに向けて法弾を放っていた。どの機体も片腕が損失していたり、操縦席を守るはずの胸部装甲に夥しい量の傷があったりと先ほど戦場から帰ってきたばかりの風体のレスヴァントが篝火の明かりに照らされながら魔導兵装(シルエットアームズ)と思われる棒を手に法撃を続ける姿に少しだけ怯んだ騎操士(ナイトランナー)達だが、すぐに負けじと陣形を変更して法撃を開始する。

 

「おい! 当たったはずなのになんでまだ立ってるんだ!?」

 

「良いから撃て! シルバーナーヴが焼け付くまで撃ち続けるんだよ!」

 

 迫り来る法弾をティラントー特有の固い外装で受け止めながらお返しに法撃をレスヴァントに放つ騎操士(ナイトランナー)達だったが、数分もしないうちに法弾が何発も命中してもレスヴァントが構わずに法撃を続けるという不可解な事態に騎操士(ナイトランナー)達は口々に疑問を噴出させる。

 当然だが、いくら『案山子』という蔑称をつけて馬鹿にしていようとも法撃1つでレスヴァントが破壊されないことは騎操士(ナイトランナー)達も分かってはいる。だが、法撃によって外装が剥がれ落ちようと、肩の装甲が吹き飛ぼうとも気にせずに法撃をティラントーに打ち放つという、その場に存在しない『何か』を相手にしているような空気が騎操士(ナイトランナー)達を包み込んだ。

 

「くそ、案山子共を調子に乗らせるな! 近接攻撃で決着をつけ……ぎゃっ」

 

「小隊長が行動不能! 誰か手を貸してくれ!」

 

 その空気に当てられたのか、まるで手ごたえを感じない気味の悪いレスヴァントを討とうと盾を構えながらティラントーの小隊が前進する。法撃の雨を盾で凌ぎながら1歩1歩前進するが、そのような目立つ行動をした者がどうなるのかは諸兄の想像の通りである。

 法弾の密度が急激に上がり、その圧力に動きが止まったティラントー。その法撃の雨の中から突如飛来した『槍のような形状の法弾』が寸分たがわずにティラントーの眼球水晶を破壊する。突如視界が奪われたティラントーが倒れ、部隊は法撃の雨の中で動けなくなっての立ち往生と言う悲惨な結末となった。

 その光景の一部始終に加え、空を悠々と飛ぶ青い幻晶騎士(シルエットナイト)飛空船(レビテートシップ)を快調に叩き落とす姿を見た騎操士(ナイトランナー)達の士気は、最初の勢いはどこへやら。すっかりマイナス方向に振り切れてしまった。

 

「くそ! 撤退だ!」

 

「待て! 誰が言った! 誤報だ! 戻って来い! 誤報だ!」

 

 どこからか撤退の声が聞こえたことでパヴァンの後方に居たティラントーが一気に後退を開始する。当然そんな指示を出していないパヴァンは制止の声を上げるが、部隊内の混乱は既にそんな声で止まる許容値をとっくに越えていた。ぐんぐんと自分から離れていくティラントーに諦めずに何度も制止の声をかけるパヴァンだが、法撃による爆発音で声が掻き消えて満足行く結果が見出せないことを悟ると周囲に居た数機のティラントーで防御陣形を構成する。

 

「森に逃げ込む前に行動不能。後ろに撤退しようにも先ほどから爆炎が止まらん。八方塞がりだ」

 

「隊長。あのガキが居なくなってます」

 

 ティラントーが逃げたとされる後方から鳴り止まない爆音を聞きながら活路を見出そうとするパヴァン。すると、隣で盾を構えていた騎操士(ナイトランナー)の1人が前方に居た子供が居ないことに気づく。先ほどまでこちらの気持ちを逆なでするような大演説をしていた子供とそれを守る幻晶騎士(シルエットナイト)が居たはずの地点は既にもぬけの空という状態にパヴァンは少し引っかかったが、今は生き残ることが先決と先ほど突撃した小隊が消えた地点を指差した。

 

「恐らくあそこに落とし穴がある。一か八か、あそこに飛び込むぞ」

 

「ええ、さっきのやつらが焼かれたの見てないんですか!」

 

「盾を下に敷くんだ。ここで耐えてもいずれやられるんだ。やってみよう」

 

 脅える騎操士(ナイトランナー)達を何とか宥めながらパヴァンはタイミングを計る。『1……2の……3!』と言ったタイミングで全ティラントーが一斉に馬防柵の傍まで走りこみ、そこで大口を開けていた元々落とし穴があった場所に飛び込み、即座に盾を地面に敷くとティラントーの身を屈ませる。

 1分、2分と待つが下から炎が吹き上がらないことにパヴァンは賭けに勝ったことを確信し、安全地帯を手にしたことでここから先の建設的な話し合いでもしようとした矢先。なにやらゴロゴロと何かが転がってくるような音がパヴァンの耳に届いた。

 

「な、なんだあれは!」

 

 穴から身を乗り出したティラントーの眼球水晶には側面から火を噴きながら猛烈な勢いで斜面を転がる珍妙な物体が映っていた。時折バランスを崩して何個かは横転して動かなくなるが、その物体は斜面を転がった勢いのまま簡素な馬防柵をぶち壊し、そのままパヴァン達が入り込んだ穴の中に突入する。パヴァンの乗っているティラントーにもその物体は迫り、ティラントーの比較的装甲の薄い兜を砕きながら穴の中へ進入すると独りでに爆発した。

 穴の中に入り込んでは爆発し、一気に穴の中が阿鼻叫喚の地獄に変わる中、この最後の攻撃の正体もつかめぬままパヴァンは騎操士(ナイトランナー)達の悲鳴や爆音を子守唄に意識を手放した。

 

***

 

「どうやらなんとかなったようですね」

 

「やれやれ、俺達の出番はなかったな」

 

 崖の上から主戦場を見下ろすアルの隣で『アルがヘマした時に何とかする役目』を仰せつかったエドガーが主にティラントーで構成された主戦場の悲惨さに呆れる。今回の作戦でアルが行ったことは罠の発動と各法撃陣地や藍鷹騎士団に合図を送っただけである。

 ただ、その合図といっても早馬を使ったわけではなく、地面に敷設した銀線神経(シルバーナーヴ)に魔力を流すことによって各地に設置された魔導ランプを点灯させ、それを法撃の合図にするという端的に言えば簡易的な光信号である。しかし、これは準備が手間だし銀線神経(シルバーナーヴ)が断線していれば使えない手法なのだが、逆に届きさえすれば確実な伝達手段なので準備の時間はべらぼうにあったアルが主導で真っ先に取り組んだ。その結果がこうして一斉法撃とレスヴァントによる文字通りの案山子戦術によって勝手に驚いたジャロウデク軍が退却したので、アルは疲れと緊張がもろもろ篭もっている息を思いっきり吐き出した。

 

「藍鷹騎士団の皆さんもありがとうございました」

 

「いえ、こちらこそ申し訳なかったです」

 

 いつの間にか隣に居た大きなコンテナのようなものを背負ったカルディトーレの操縦席から降りてきた藍鷹騎士団員がアルの言葉に首を横に振る。藍鷹騎士団も以前に王族の暮らす館にジャロウデクの密偵を侵入させてしまうという汚点を濯ぎたいと量産されたシルエットギア用の魔導兵装(シルエットアームズ)である『タネガシマ』を装備したシャドウラートを駆り、主に指揮官の機体を重点的に狙ってもらったりとアルの一世一代の大仕事に花を添えてくれたのだ。

 たしかに館に侵入を許したのは汚点だが、結果的には全員無事だったのでアルは『気にしていないですよ』とフォローをしながらも敗走したティラントーや後詰の部隊を相手にするべく、パッチワークに乗り込んだアルがパッチワークの腕に備え付けられた魔導兵装(シルエットアームズ)で合図を送る。すると、地響きの後にキャリッジ付きのツェンドリンブルやカタフラクトがアルや第1中隊の前に勢ぞろいし、全員が乗り込むと再び地響きを立ててツェンドリンブル達は次なる戦場に向けて走り出した。

 

「さぁ、僕の作戦は終わりました。後は僕達の作った装備がお相手しますよ」

 

 カタフラクトのキャリッジに備え付けられた魔導兵装(シルエットアームズ)をパッチワークに握らせながらアルはエムリスのような獰猛な笑みで逃げつつある空飛ぶ船を見据える。

 場の空気は最高潮だが、未だに宴もたけなわはまだ遠い。




陣地作成に虚言で足止め キャスターかな?
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