夜空が謎の法撃によって真昼のように光り、
「えぇい! 落ち着け!」
それでも謎の法撃を受けたことによる混乱が未だに艦橋を占領していたので、クリストバルは苛立たしげに艦橋の床を靴で思いっきり踏むことで乗員を黙らせた。これだけのことをしてようやく混乱が止まったことにクリストバルは『未だ錬度は不十分か』と嘆いていると、先ほどの法撃が再び夜空を照らした。
「ふん、どうせこけおどしだ。このままミシリエまで進むぞ」
「ブローエンジン。最大船速!」
種は割れたとばかりにミシリエまで一直線に進もうと
「あ……え?」
先ほどの謎の法撃とは異なり、明確な敵意と共に飛来した火球は空に浮かんでいる
「なんだあれは」
「法撃です! 恐らくミシリエから……2番艦航行不能! 墜落します!」
「なんだと!? 掠めただけだぞ!」
虎の子である
徐々に高度が下がっていく2番艦からティラントーが外壁をぶち破って降下するが、現在の高度から鎖という補助が無い場合の降下ははっきりいって自殺行為である。その行動による最悪の結果が容易に浮かんだクリストバルや鋼翼騎士団の団員達は、先ほどのほぼ木造で出来ているとはいえ、
「いかん、高度を落とせ! 今すぐ!」
「は、はい」
しかし、咄嗟に何かに気付いた騎士団長は王族であるクリストバルへの意見具申をせずに高度を下げるように命令する。いきなり高度を落としたことでがくんとした衝撃が船全体を襲い、乗員の何人かが軽傷を負うが騎士団長はただ前からくる何かを見逃さないとばかりに正面を向いていた。
「もっと下げろ! 第2波が来るかもしれん!」
「どういうことだ!」
突然の第2波と言う言葉にクリストバルが叫ぶ。『あれほどの法撃をそう何発も撃ててたまるか』という認識がクリストバルや鋼翼騎士団員の心を1つにするが、その思いは空しく先ほどのような大きさの火球がミシリエの方角からぐんぐんと迫ってきた。
その火球に腕を前に出すという無駄な足掻きをしながら息が詰まったような声を出す団員を他所に火球は先ほど墜落した
もしジャロウデク側にエルやアルと同じ日本人の転生者が居たならば、『竹輪だ』と言いそうな無残な姿になった
「船の損傷は気にするな! 燃え尽きるよりマシだ! 他の船にも高度を下げるように伝えろ! 高度を上げるな!」
目が潰れるかと思われるほどの閃光を手で遮った騎士団長は、3発目が来るかもしれないと他の船にも高度を下げるように指示してひたすら神に祈った。すると、その祈りは通じたのか火球はクリストバルや騎士団長が乗った船に損傷を負わせることなく彼方へ飛び去って行った。
「全速力だ! 急いでミシリエを落とす! 黒顎騎士団にも連絡を入れろ!」
その結果に今にも拳を振り回しながら回避に成功したことを喜びたかったクリストバルだったが、先ほどから鳴りやまない頭の警鐘に従って後詰を前面に展開しながら全速力でミシリエに進軍することを宣言した。再び推進用のブローエンジンから送られる風が帆を膨らませ、
「監視から報告! 森の各所から異常確認とのことです!」
「今度は何だ!」
度重なる異常にもはやお腹いっぱいになっていた騎士団長が外の様子を見ると、爆炎を放ちながら飛翔する小さい物体が見えた。その物体は異常に気付いて回避しようと動き出した他の
そして、どうやらその上部の攻撃が致命傷になったらしく、船が傾斜しながら滑るように落下し始める。そのまま重力の井戸に引きずり込まれるように森に突っ込んだ
数時間前までは自分達が『狩る側』だと思っていた。しかし、今はどうだ。謎の法撃によって2隻が落ち、畳みかけるように別の攻撃によってさらに1隻が後を追う。
そして、まるで肉食獣から身を隠すように高度を下げている
***
「ほんとアル。ごめ……申し訳ありませんでした」
「あの総帥、嫌いになりそうです」
一方のその頃。イカルガが腰を90度に曲げて謝罪するという社会人のマナーの題材として出てきそうなほどに綺麗な謝罪をパッチワークにしていた。──というのもアルは最初から当てるつもりで法撃を放ったのだが、照準が狂っていたために初撃は外れた。
もちろん、待機中も撃てなかったとはいえ調整はしたし、ブレることがないように何度もテストはしたのだが、なぜか外れた法撃にアルは先ほどまで言っていた『大出力による狙撃が外れることに定評があるキャラクター』の言霊が効いたのではないかとアルは『謝罪は良いから慰謝料代わりに時折イカルガの
「しかし、予備を作っておいてよかったです。ミッシレジャベリンも中々の威力ですし、数は減らせましたね」
「でもかなり当ててようやく1隻ですからね。改良は必要そうですよ」
「副団長、そんな感想は後にしてくれ。準備はもう出来てるんだから急いでくれ!」
闇夜を切り裂く
その声を聞いたアルはパッチワークに接続していた長大な
「それでは僕はお空の天使達と踊ってきます」
「僕は荒野を歩く死神の列と重力戦線してきます」
簡単な挨拶の後にイカルガは
「お、アルフォンス。藍鷹騎士団の斥候の情報によると地上のジャロウデク軍が動き出したらしい」
「それでは、皆さん手はずどおりに。……決して無理はしないでください。機体は消耗品ですので」
「ふっ、乗員が生還すりゃ大勝利だったな」
エドガーは昔に聞いた覚えのある言葉の続きを笑いながらアルディラットカンバーに乗り込んだ。ここから先は乱戦もありえるのだが、初手の動きは完全なる待ち伏せとアルの策で相手に動揺を与える計画なので各中隊は必要以上に
そうしていると徐々に雷鳴にも似た足音と共に地鳴りが大きくなるのを感じたアルが小さく『来たか』と呟くとパッチワークで斜面を滑りながら降りていく。そして馬防柵や
地面に降り立ったアルは、さらに地面にちょこっと出ている数十束にも及ぶ
「上手くいく……練習したんだ。約束したんだ」
不安と責任から今にも砕けそうになる心を陣地を作っている頃から続けてきた練習の日々やイサドラとの約束で補強しながら大胆不敵ともいえるような態度でジャロウデク軍が来るであろう道を見据えていたアルの瞳に、
「止まれ!」
「何者だ!」
手はずどおりゴルドリーオからエムリスの良く通る声が響くとジャロウデク軍は足を止める。最前線を進んでいたティラントーからありきたりなセリフが返ってくると、アルはパッチワークの拡声器の操作を行ってジャロウデク軍の騎士達に聞こえるように自身の声を増幅させた。
「皆様。遠路はるばるご苦労様でした。通行手形はお持ちでしょうか? 来訪の目的は観光ですか?」
不安によって震える手が闇で隠れる中、アルの一世一代のはったりが始まろうとしていた。
***
黒顎騎士団を率いていた隊長達はミシリエに到達する前に旅団を2つの部隊に分けた。これは道幅の狭さによる進軍難易度や撤退支援といった細々した理由もあるのだが、一番の理由は両者とも旅団──100機にもなるティラントーの集団を指揮した経験がなかったので一番慣れている部隊数まで落とし込んだ結果であった。度重なる協議とクジの末に隊長の1人である『パヴァン』が前衛として進軍し、もう1人の隊長である『バネスト』の部隊が後詰としてパヴァンの部隊の少し後ろで様子を伺うことになった。
そして現在。パヴァンは闇夜から聞こえてくる声に反応し、ティラントーの足を止めて篝火のすぐ傍で仁王立ちする年が若い──どちらかというと若過ぎる騎士のような装束を纏っている子供が映った
そんな時間帯に
「やぁ、皆様。遠路はるばるご苦労様でした。通行手形はお持ちでしょうか? 来訪の目的は観光ですか?」
「あまり笑える冗談ではないな。我らはファダーアバーデンの再来のためにこの土地を貰い受ける」
いきなり来訪理由と言うわけの分からない言葉にパヴァンは不審に思いながらも返答し、自身のティラントーを臨戦態勢にする。それに釣られたのか後方に控えていたティラントーもいつでも動き出せるように構える中、目の前の子供が『やっぱり
「なにが可笑しい!」
「あ、そこ。危ないですよ」
ティラントーが足音を鳴らしながら子供に迫るが、子供が指を差した地点にティラントーの脚部が入るといきなり鉛色の杭が地面から射出された。杭は一息にティラントーの脚部を串刺しにし、完全に地面に縫いとめられたティラントーから『動けねぇ!』という
「そこらへんには地雷式のシルエットアームズが埋まっています。ちなみにこのようにタイミングをコントロールも出来ます」
にらみ合いは性に合わないのか、笑っていた子供が急に光る篭手から伸びた糸を翻すとパヴァンの周囲から先ほどティラントーの脚を串刺しにした杭と同等の物が地面から飛び出し、ティラントーの脚部や胴体近くを掠めていく。さらに攻撃は杭だけではなく、パヴァンが立っている先頭から少し後ろの方では小さくない爆炎が数度巻き起こり、それらの攻撃によって部隊の陣形が乱れた。
「そんなシルエットアームズ聞いたことがない! はったりだ!」
「見ろ! 土が盛り上がっている! 各自、盛り上がっている土を避けて突撃せよ!」
子供からの謎の攻撃で指揮系統が少し乱れたことにより、隊伍から離脱するティラントーが現れ始める。その中には子供の言う『地雷式』を埋めたとされる『土が盛り上がっている部分』を目ざとく見つけた者が居り、その者を中心に十数機ほどのティラントーが駆け出した。未だ手の内が全く見えないうちに突撃を行うという彼らの無謀とも言える行動に子供も負けじと腕を振りながら操り人形を操作するように爆炎や杭といった地雷を発動していくが、土の異常に気付いた
やがて、簡素な馬防柵ぐらいしか目立った障害が見えないほど接近したティラントー達が持っていた得物を構えながらさらに速度を上げる。巨人たちが自分を踏み潰そうと迫ってくる姿に腰を抜かしたのか、子供は恐怖に彩られた顔でティラントー達を見つめていたのも束の間。突撃を行っていたティラントーの集団の姿が忽然とパヴァン達の乗っているティラントーの
「なんだ!」
「落とし穴だ!」
「引き返せー! 罠がぁ」
「なんだこの水……逃げろ!」
樹木の枝が盛大に折れる音や金属同士がぶつかって生じる破砕音、そして
「なんだと!」
思わぬ結果にパヴァンは声を荒げる。それもそのはずである。
屈んで子供を守ったことにより
「ファダーアバーデンを再来ってジャロウデクがかの国の正当な継承者なんですかね? その証拠は? 歴史的に証明できます? 出来ませんよね? ……ほら、皆さんも言ってあげてくださいよ」
ふと子供が両手の篭手の指先を忙しなく動かしながら森の周囲に目を向けると、パヴァン達の周囲の森が一斉に唸り声を上げた。もはや状況が上手く読み取れずにひたすら受身になっていたパヴァン達だが、いきなり周囲の森から細かな法弾の雨がパヴァン達目掛けて飛んでくることを
「ほら、あの人達にも先ほどのセリフを言ってくださいよ。当事者ですよ」
指先を別の生き物のように動かしながらも森の奥目掛けて首を動かす子供にパヴァンを含めたティラントーの
「おい! 当たったはずなのになんでまだ立ってるんだ!?」
「良いから撃て! シルバーナーヴが焼け付くまで撃ち続けるんだよ!」
迫り来る法弾をティラントー特有の固い外装で受け止めながらお返しに法撃をレスヴァントに放つ
当然だが、いくら『案山子』という蔑称をつけて馬鹿にしていようとも法撃1つでレスヴァントが破壊されないことは
「くそ、案山子共を調子に乗らせるな! 近接攻撃で決着をつけ……ぎゃっ」
「小隊長が行動不能! 誰か手を貸してくれ!」
その空気に当てられたのか、まるで手ごたえを感じない気味の悪いレスヴァントを討とうと盾を構えながらティラントーの小隊が前進する。法撃の雨を盾で凌ぎながら1歩1歩前進するが、そのような目立つ行動をした者がどうなるのかは諸兄の想像の通りである。
法弾の密度が急激に上がり、その圧力に動きが止まったティラントー。その法撃の雨の中から突如飛来した『槍のような形状の法弾』が寸分たがわずにティラントーの眼球水晶を破壊する。突如視界が奪われたティラントーが倒れ、部隊は法撃の雨の中で動けなくなっての立ち往生と言う悲惨な結末となった。
その光景の一部始終に加え、空を悠々と飛ぶ青い
「くそ! 撤退だ!」
「待て! 誰が言った! 誤報だ! 戻って来い! 誤報だ!」
どこからか撤退の声が聞こえたことでパヴァンの後方に居たティラントーが一気に後退を開始する。当然そんな指示を出していないパヴァンは制止の声を上げるが、部隊内の混乱は既にそんな声で止まる許容値をとっくに越えていた。ぐんぐんと自分から離れていくティラントーに諦めずに何度も制止の声をかけるパヴァンだが、法撃による爆発音で声が掻き消えて満足行く結果が見出せないことを悟ると周囲に居た数機のティラントーで防御陣形を構成する。
「森に逃げ込む前に行動不能。後ろに撤退しようにも先ほどから爆炎が止まらん。八方塞がりだ」
「隊長。あのガキが居なくなってます」
ティラントーが逃げたとされる後方から鳴り止まない爆音を聞きながら活路を見出そうとするパヴァン。すると、隣で盾を構えていた
「恐らくあそこに落とし穴がある。一か八か、あそこに飛び込むぞ」
「ええ、さっきのやつらが焼かれたの見てないんですか!」
「盾を下に敷くんだ。ここで耐えてもいずれやられるんだ。やってみよう」
脅える
1分、2分と待つが下から炎が吹き上がらないことにパヴァンは賭けに勝ったことを確信し、安全地帯を手にしたことでここから先の建設的な話し合いでもしようとした矢先。なにやらゴロゴロと何かが転がってくるような音がパヴァンの耳に届いた。
「な、なんだあれは!」
穴から身を乗り出したティラントーの眼球水晶には側面から火を噴きながら猛烈な勢いで斜面を転がる珍妙な物体が映っていた。時折バランスを崩して何個かは横転して動かなくなるが、その物体は斜面を転がった勢いのまま簡素な馬防柵をぶち壊し、そのままパヴァン達が入り込んだ穴の中に突入する。パヴァンの乗っているティラントーにもその物体は迫り、ティラントーの比較的装甲の薄い兜を砕きながら穴の中へ進入すると独りでに爆発した。
穴の中に入り込んでは爆発し、一気に穴の中が阿鼻叫喚の地獄に変わる中、この最後の攻撃の正体もつかめぬままパヴァンは
***
「どうやらなんとかなったようですね」
「やれやれ、俺達の出番はなかったな」
崖の上から主戦場を見下ろすアルの隣で『アルがヘマした時に何とかする役目』を仰せつかったエドガーが主にティラントーで構成された主戦場の悲惨さに呆れる。今回の作戦でアルが行ったことは罠の発動と各法撃陣地や藍鷹騎士団に合図を送っただけである。
ただ、その合図といっても早馬を使ったわけではなく、地面に敷設した
「藍鷹騎士団の皆さんもありがとうございました」
「いえ、こちらこそ申し訳なかったです」
いつの間にか隣に居た大きなコンテナのようなものを背負ったカルディトーレの操縦席から降りてきた藍鷹騎士団員がアルの言葉に首を横に振る。藍鷹騎士団も以前に王族の暮らす館にジャロウデクの密偵を侵入させてしまうという汚点を濯ぎたいと量産されたシルエットギア用の
たしかに館に侵入を許したのは汚点だが、結果的には全員無事だったのでアルは『気にしていないですよ』とフォローをしながらも敗走したティラントーや後詰の部隊を相手にするべく、パッチワークに乗り込んだアルがパッチワークの腕に備え付けられた
「さぁ、僕の作戦は終わりました。後は僕達の作った装備がお相手しますよ」
カタフラクトのキャリッジに備え付けられた
場の空気は最高潮だが、未だに宴もたけなわはまだ遠い。
陣地作成に虚言で足止め キャスターかな?