銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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スパロボ30にナイツ&マジック参戦決定!
というわけで1週間でがんばりました。


大西域戦争編_中章
84話


 ジャロウデク王国の第1王女のカタリーナ・カミラ・ジャロウデクは玉座に座りながらほうっと息を吐く。窓の外ではティラントーが忙しなく隊列を整えており、飛空船(レビテートシップ)も宙に浮かんではそれぞれの目的地に急ぐように進む姿は少し前のジャロウデク軍ではありえないほど切羽詰ったような印象をカタリーナに与えた。

 

 ミシリエでの大敗北。此度の遠征の主力たる黒顎騎士団から100機のティラントーに最新兵器である飛空船(レビテートシップ)を20隻以上投入という生半可な要塞でも陥落しうるほどの大戦力を送り込んだこの戦いは先の通り、未曾有の大敗北という結果に終わった。

 飛空船(レビテートシップ)は4分の3が撃沈し、帰還した飛空船(レビテートシップ)の中には完全な状態で戻ったものは居なかった。ティラントーも中央護符であるデルヴァンクールに戻ってきたのは中隊規模すら満たなかった。

 

──そして。

 

「クリス……」

 

 カタリーナは玉座でポツリと零す弟の名前を零すが、当然返答は返ってこない。

 それもそのはず。今回の戦闘でジャロウデク王国の第2王子であるクリストバル・ハスロ・ジャロウデクは噂に聞く鬼神と交戦、その最中に飛空船(レビテートシップ)から落下して命を落としたのである。遺体も撤退途中ということもあってか未回収なので、カタリーナは一目会いたいと焦がれても簡単に会える様な状況ではなかった。

 

「カタリーナ様。東方護府指揮官のドロテオ様がお見えです。なにやら緊急の報告らしく」

 

「……通しなさい」

 

 扉越しに兵から来客の報を受けたカタリーナは居住まいを正して総司令としての仮面を被る。クリストバル亡き今、たとえ第1王女であろうともカタリーナがこのクシェペルカ方面軍の総司令であった。その重責が徐々に馴染む感触を覚えながらカタリーナは入室を許可するとドロテオと共に彼の義息であるグスターボ・マルドネスが臣下の礼を取り、グスターボの率いる部下が何人かで棺桶をカタリーナとドロテオの中間まで運び込んでから丁寧に床に降ろした。

 

「ドロテオ卿、ちょうど呼ぼうとしていましたが何事ですか?」

 

「はっ、至急お耳に入れたい事情があったために謹慎中の身ですが、こうして馳せ参じた次第です」

 

 そう言いながらドロテオが合図を送ると棺桶の近くで待機していた騎士達がゆっくりと蓋を取り去る。そして、カタリーナが中で眠るクリストバルの姿を見た時、一瞬で総司令としての仮面が弾け飛び、思わず手で口元を覆い隠した。

 

「クリスっ! …………んっ、どこで彼を?」

 

「それが、非常に申しあげにくいのですが」

 

 少しばかり狼狽えたがカタリーナは咳払いをしながら事情を聞くが、ドロテオの反応はどうも歯切れが悪かった。その反応に何時ものドロテオらしさが見えなかったカタリーナはドロテオとグスターボ以外の全員の人払いを命じた。

 そしてこの場に居るのがたった3人になった所で普段被っていた総司令官の仮面を取り、クリストバルの右腕であるドロテオと普段話すような口調で『卿らしくありませんね』と続きを促すとドロテオはゆっくりと口を開いた。

 

「殿下はクシェペルカに捕まった捕虜と共に返還されました」

 

「冗談とはますます卿らしくないですね」

 

 クシェペルカが怨敵であるジャロウデクの王族の遺体や捕虜を返還なぞ有り得ないと考えたカタリーナはドロテオの返答に対して鼻で笑ったが、ドロテオの横に居るグスターボも『おれっちも見ましたぜ』と礼儀に欠ける証言をしたことからカタリーナの中の信憑性がほんの少しだけ高まった。

 

「返還を主導した騎士……いったい何者だ?」

 

「私も彼には恩があるので名前だけはご容赦を……ですが、私が知る中で一番騎士らしい騎士です。そこに居る愚息の口に爪の垢を両手両足分所望しようと思ったほどに」

 

 兵から遺品が入った小箱を受け取ったドロテオはグスターボの悪態をつきながら胸のポケットから小さい花を木箱に乗せてから『こちらも返還された亡くなった者達の遺品です』差し出す。チクリと嫌味を言われたグスターボだったが、反論する前にここがどこであるのか改めて認識すると押し黙った。

 

「実力者のドロテオ卿が花とは……明日は岩でも降るか?」

 

「いいえ、それは彼から殿下への手向けでございます」

 

「遺体だけではなく花までも……。その鉄華の騎士、クシェペルカが落ちたら見つけ出してこちらに引き込むのも悪くはないな」

 

 箱を受け取りながら上に乗せられている金属で出来た無骨な花をしげしげと見ていたカタリーナは今後のことについて漏らした。

 『クシェペルカが落ちたら』、このセリフはこの戦いはまだ終わらせないという宣言に等しかった。その言葉にドロテオは涙を流しながら自身を戦場に復帰するようにカタリーナに上申すると、カタリーナはまるでその言葉を待っていたかのようにドロテオの今後──現在、飛空船(レビテートシップ)の生みの親の『奥の手』について話し出そうと口を開きかけたが、その前にドロテオから聞いた『クシェペルカ軍が新型の開発に成功し、中央領に向けて進軍の疑いあり』という報告にカタリーナは急いで中央領の境目付近に向けて残存する黒顎騎士団を差し向けた。

 

***

 

 時を同じくしてジャロウデクの東部護符が置かれているフォンタニエでは未曽有の危機に直面していた。

 城壁の上で欠伸を噛み殺しながらも何時攻めて来るか分からない敵に備えていた兵士の耳にピイィという甲高い音が聞こえ、その音の発生源である遠くの森林地帯を訝しげに見つめた瞬間、今まで静寂を保っていた森が一斉に動いたのだ。

 

「敵襲! 敵襲!」

 

「なんだあの数! 軽く大隊は居るじゃねぇか!」

 

 慌てふためく兵士がそれでも職務を全うしようと伝令や投石器の準備と大わらわになっていると、やたら目立つ金色の幻晶騎士(シルエットナイト)──ゴルドリーオの拡声器からかなり大きめの声が聞こえた。

 

「我らはこれよりフォンタニエを奪還すべく、攻撃を開始する! 一般市民は避難せよ! また、ジャロウデク軍の司令官よ! 場所を変えて雌雄を決したいが、如何に!」

 

「うるっさ……。若旦那、拡声器の調整を勝手に大きくしないでくださいよ」

 

「は? これが最低出力だぞ?」

 

「……ウソデショ」

 

 ゴルドリーオの騎操士(ナイトランナー)であるエムリスから衝撃の事実を聞きつけたアルはゴルドリーオの音声回りを親方に相談することを心のメモに書き残しながらパッチワークをゴルドリーオの前まで前進させる。その動きに反応し、パッチワークの前方に居る2個中隊規模のレスヴァントが一糸乱れぬ動きで前進し、パッチワークがデュランダルを斜めに突き出すとレスヴァント達もそれに倣うように大盾を突き出すことでゴルドリーオを守る盾の壁が瞬く間に形成された。

 

(荒が目立ちますねぇ。あそことか隙間出来てるし)

 

 急ごしらえの現地改修ゆえに『パッチワークのやっている動作と同じ動作』をすることしかできないレスヴァントによる盾の壁は良く見れば所々隙間が在ったりと違和感だらけだったのだが、城壁からかなり離れているためにその致命的な問題はばれることはなかった。

 それでもアルは『短時間でどこか直せないかな』と前世からのプログラマー魂に小火程度の火が着きかけるのと同時にようやく伝令が届いたのか、それともエムリスの大声がじかに届いたのか知らないが、フォンタニエの現在の総司令官。ドロテオが指名した代理人が城壁から『しばし待たれよ』と叫んだ。

 

「承知したぁ! だがそんなに暇はないと心得よ! ……、アルフォンス。偵察しろ」

 

「御意」

 

 そう言ったアルはパッチワークの背部にあるリーコンを起動する。銀製の筒棒が徐々に伸びていき、城壁を軽く超えたぐらいでアルは先端の偵察機器を動かしながらフォンタニエの内部、特に工房の辺りに居る人の流れを注意深く確認する。多数並んだ工房の壁を突き破ってティラントーが出てきたり、躓いて他のティラントーと共に派手にすっ転んだりとまさに阿鼻叫喚といった工房周辺の騒ぎにアルは脳内で『人造人間が暴走するBGM』を流していた。

 

「暴走してますねー。なんだ、僕より親父さんの方がえげつないじゃないですか」

 

「お前は騎士だろ。そんなこと言ってたらイサドラに嫌われるぞ」

 

「イサドラ様は関係ないでしょっと、ひぃふぅみぃ……ぎりぎり4個中隊規模が来ますね」

 

 軽く雑談を交わしながらも完全武装のティラントーが城壁付近にたどり着いたのを見つけたアルはパッチワークが急激に動くことでリーコンが破損しないように収納しながらエムリスに偵察情報を伝える。

 その情報にエムリスはゴルドリーオの胸部装甲を開くといつの間にか肩装甲にくっついているノーラに『作戦成功、内部の味方を回収してこい』と伝えるとノーラは頷きながら姿を消す。

 

「お待たせした! ただ、悪戯に兵を消耗するのもそちらにとっても痛手だろう! 一騎打ちを所望する!」

 

(嘘だな)

 

(嘘ですね)

 

 城壁から響く提案にアルとエムリスは同時に嘘を心の中で看破するが、余計な茶々を入れずにアルはその場で待機し、エムリスは了解の旨を叫んだ。すると、固く閉ざされた城門が開け放たれ、先ほどの騎操士(ナイトランナー)が乗っていると思われる外套型追加装甲(サー・コート)とハンマーを装備したティラントーが4個中隊とともに姿を現した。そのまま4個中隊は城壁に沿うように整列すると自らの得物の柄を銘銘力強く地面に叩きつけて鬨を作った。

 

「アルフォンス。こちらも鬨を作るぞ。普通は名乗りだけだが、向こうがやったなら応えねばならん」

 

「いえ、僕をどこまで非常識な存在だと思ってるんですか」

 

 まるで初陣仕立ての小姓に戦場の作法を教え込むようにエムリスがアルに順序立てて説明し、その説明の丁寧さにアルは少しだけ不服そうにパッチワークの手に持たせたデュランダルを叩きつけて音を作る。その動作もレスヴァントに反映され、その音はさらに後衛に控えていた大隊クラスの数の幻晶騎士(シルエットナイト)に伝播していくとフォンタニエ周辺は一気に騒々しくなった。

 

「こちらは東方護府指揮官代理のカッヘラ・ヴィドリオがお相手しよう。クシェペルカ側、代表者を!」

 

「こちらは銀鳳商騎士団、実働部隊隊長のエルネスティ・エチェバルリアが相対する! エルネスティ、前へ!」

 

 エムリスの声に後衛のさらに後ろ。最後衛から何かがものすごい勢いで上空に舞い上がると、魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)の音を轟かせながらエムリスの横に降り立った。蒼い外装に鬼のような面覆い(バイザー)という特徴的な姿にカッヘラは一瞬怯えるが、それでも闘志を振り絞るべく『合図の銅鑼を用意せよ』と拡声器に大声を乗せた。

 

「良いか? 合図が来たら開始だ。分かったな?」

 

 エルにも決闘の作法を教え込むエムリスだったが、エルは『振りですか!?』という返答をしてエムリスに『振りじゃねぇよ! まじでやるなよ!』と念を押される。その後、ようやく理解……というのか納得したのか、イカルガがティラントーと相対するためにゴルドリーオの側を離れると、ゴルドリーオから戦っても居ないのにまるで疲れ切ったような深いため息が聞こえた。

 

「お前達は正直心強いが……手綱を取るのに一苦労だな」

 

「え、僕達が殿下の手綱を握ってると思ってましたが」

 

「……お前達と後で今の上下関係っていう物をもう一回整理する必要があるな」

 

 どの業界。どの世界にも認識の齟齬という物は時に最悪の結果を生む危険性がある。『とりあえず、話し合うか』とエムリスは隣で決闘を楽しそうに見るパッチワークを半ば睨みつけていると、銅鑼の音が鳴った。決闘の開始である。

 

 ***

 

 端的に言えばエルは決闘に勝利した。それも相手を圧倒する形で。

 

「いや、早すぎるでしょ」

 

「イカルガだから仕方ねぇよ。相手もよく初撃を防ぎ切ったと思うぜ?」

 

 撤収するジャロウデク軍の飛空船(レビテートシップ)を見ながらぽつりと呟いたアルにキッドが相手に最大限の賛辞を送る。

 

 彼が話す初撃とは、文字通りイカルガとティラントーが初めにぶつかり合った時のことである。

 ティラントーに向けて両手で挟み込むように振るったイカルガの銃装剣(ソーデッドカノン)を相手にティラントーはあろうことか剣を手放した。そして、片方を盾で受け止めるともう片方を銃装剣(ソーデッドカノン)を握ったイカルガの手を抑えることで止め、そのまま膠着状態にもつれこまない様にティラントーの太い足でイカルガの胴体を蹴って距離を取ったのだ。

 僅かでもイカルガを損傷させたこととその鮮やかすぎる手並みに銀鳳商騎士団の面々、特に第2中隊はカッヘラといったあのジャロウデク側の代表者を肴に大いに雑談を楽しんでいた。

 

「タイチョ! あの人スカウトに行きましょ! 絶対うちに合いますって!」

 

「おれ、レビテートシップ追いかけて来る!」

 

「いや、もう藍鷹騎士団に頼んで拉致ろうぜ!」

 

「いい加減黙りたまえ。君達」

 

 如何に勧誘しようかと話し合う第2中隊の横で呆れたように手で顔を隠すディートリヒ。しかし、彼もあのティラントーの動きには目を見張るものがあったと初撃を躱した後の戦いを想起させる。

 

 距離を取ったことで法撃戦に移行した両機。イカルガの装備している銃装剣(ソーデッドカノン)からどこぞの機動戦士に出てきそうな照射状の法弾が地面に突き刺さる中、ティラントーはひたすら足を動かして移動しながらの法撃に徹していた。

 イカルガの法撃を盾や肩に食らうが、外装を撒き散らしながらもティラントーは構わずに法撃を続けながら円を描くような動きでイカルガに接近していく。

 

「なるほど。円を描くように……呆れるほどに有効な戦術ですね。……ですが!」

 

 だが、その動きの意図を読んだエルが鐙を動かしながら魔法術式(スクリプト)を流し込むと、命令を受け取ったイカルガは魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)が取り付けられた部分が一気に垂直に稼働し、続いて空気を取り込みながら炎を吹かせて機体を上昇させた。

 

「くそっ!」

 

 相対するティラントーの騎操士(ナイトランナー)は策が失敗したことに苛立ちながらイカルガに向かって法撃を乱射するが、魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)によって空を高速で飛翔するイカルガには当たらない。

 やがて、法撃を撃ち過ぎたためかティラントーの動きが明らかに悪くなり、攻撃が飛んでこないことを悟ったエルはイカルガの銃装剣(ソーデッドカノン)に魔力を集中させた。

 

「中々良い戦いでした。ですが、チェックメイトです!」

 

「なめるな!」

 

 空から勢いよく突っ込んで来るイカルガにティラントーは冷静に1発の法撃を放つ。その法弾は正確にイカルガの頭部に着弾する軌道だったが、小刻みに動かした魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)の推力によってその法弾の魔力は空に溶ける。

 それでもなおイカルガを討ち取ろうとティラントーは武装が無い腕でイカルガを殴りつけるが、エルが『チェストォォ!』という気合の声を発しながらキーボード一体のコントロールスティックを演算した魔法術式(スクリプト)と共に動かすとイカルガはその腕をするりと掻い潜り、手に持った銃装剣(ソーデッドカノン)によってティラントーの腰部は綺麗に切断したことで決着となった。

 

「うん、あの最後まであきらめない気概や戦い方は実に良いとは思うよ。最後のあれはエルネスティが咄嗟に避けたことで腰を切ることになったんだろうね」

 

「そうですね。まさかアルや銀鳳騎士団以外の人が拳で反撃してくるとは思ってませんでした。油断してました」

 

 先ほどの戦いを振り返っているディートリヒの耳にエルの相槌が聞こえたので振り返るとイカルガがまるで疲れた人間がやるように首をぐるりと回して突っ立っていた。拡声器から『精進が足りませんね』と弾んだ声で反省しているような台詞を言っているので、ディートリヒは先ほどのセリフを『楽しかった』という副音声で充てることにした。

 

「うん、君が楽しそうで何よりだよ。それで? 労なくフォンタニエを取り戻せたけどどうするんだい?」

 

 ディートリヒの言葉を聞いた瞬間、待ってましたとばかりにイカルガがずいっとグゥエラリンデの眼球水晶に面覆い(バイザー)を近づける。その様子を見ていたアディが『ディーさん許すまじ』と嫉妬の念を送っているが、急に鬼のような意匠の面覆い(バイザー)を間近に見せられたディートリヒは操縦席で情けない悲鳴を上げていた。

 

「シルエットナイトを作りましょう! ああ、でもそのまえにレビテートシップとかティラントーの解体とか調査も必要ですし……でもシルエットナイトの設計図を製図したいし、機能も考えたいし……」

 

「兄さん、なにを変なこと言ってるんですか」

 

 イカルガの首を左右に振りながら『ロボ……調査……』と悩んでいるエルにパッチワークの拡声器からアルが会話に乱入する。その余裕っぷりに何やら秘策でもあるのではないかといった期待をエルが、また変な方向に話が行くのではないかといった不安をディートリヒが感じていると次にアルが放った『迷った時は?』という言葉にディートリヒだけ首を傾げたが、その言葉の意図を察したエルは思わず口を開いた。

 

「「両方です!」」

 

「うん、いつもの君達で安心したよ」

 

 腕を天に突き上げたイカルガとパッチワークといういつもの銀鳳騎士団節溢れる方針に安堵したディートリヒは去っていく飛空船(レビテートシップ)を見やる。

 こうしてフォンタニエ陥落の報はデルヴァンクールに伝えられ、まんまと騙されたパヴァンや捕虜だった黒顎騎士団員は左遷という形で鋼翼騎士団へと編入されたが、その顔は愁いを帯びた物ではなくむしろ晴れやかだったという。

 

***

 

「というわけで」

 

「まずはティラントーを組み立てましょう」

 

「いや、なにがというわけなんだよ。帰って早々……」

 

 フォンタニエ奪還という嬉しいニュースによってミシリエが沸き立つ中、工房では帰還したイカルガとパッチワークから出てきた騎士団長と副団長の言葉にダーヴィドは詳しい説明を求めようとがなり立てる。周囲の騎操鍛冶師(ナイトスミス)達も突然敵の機体を組み立てるというトチ狂ったかのような指示に首を縦に振ってダーヴィドの意見に同意している。

 

「技術検証という意味合いが強いですね。何が出来て何が出来ないのか。操縦性はどうかとか様々な検証をするために数機ぐらい完品が欲しいんですよ。……別に乗りたいわけじゃない……デスヨ」

 

「アルに同じ。べ、別に乗りたいわけじゃないんですからね!」

 

 そんな乗りたい欲という物を漲らせながらティラントーの完品を要求する2人にダーヴィドは『俺達も忙しいんだがなぁ』という文句を言いながらモートリフトに搭乗して飛空船(レビテートシップ)の破片を運搬していたバトソンに声をかけた。

 

「バト公、破片の輸送は新入りの奴らに任せろ。お前はティラントーの組み立てを同年代の古参達とやれ」

 

「分かった。じゃあ早速取り掛かるよ」

 

 疑問を覚えずに破片を新入り──モートリフト制作以後に銀鳳騎士団入りした騎操鍛冶師(ナイトスミス)に託したバトソンはモートリフトに乗ったままエル達と同じく中等部で銀鳳騎士団入りした仲間の元へ駆けていく。それを見送ったダーヴィドがなにやら頭をガリガリと掻きながら『おめぇらがフォンタニエに行ってた間なんだが』という前口上を呟いた。

 

「クシェペルカのナイトスミス達が国王機を作るっぽいんだわ」

 

「へぇ、国王機ですか。では僕らもお手伝いした方が良いんですか?」

 

「いや、クシェペルカ側でやるみてぇだから俺達は意見出しやあれこれ技術提供すりゃ良いだけだ。ただ、今はこの有様だから待ったほうが良いとは言った。言ったんだが、この情勢で国王機なんて大層なもんを作る部材がねぇんだよなぁ」

 

 通常の幻晶騎士(シルエットナイト)と違ってかなり部材に気を使う国王機。もちろん、鹵獲や破壊したティラントーや現在進行形で新型機に移行していっている関係上、余りに余ってるレスヴァントを使用するのは余りにも『部材としての格』が違いすぎる。ただ、クシェペルカ侵攻の序盤に破壊された国王機が再び作られればクシェペルカ再興の大きな旗印となり、それと同時に味方の士気も高まるのも事実だ。

 ダーヴィドが『なんか良い案ないか?』という質問にエルとアルは首を捻りながら考える。

 

「どこかに都合の良い……良い……。あ、あの王子が乗ってたシルエットナイトとか使えません?」

 

「あー、そういえばティラントーよりも良い部材でしたね。あれ」

 

 アルが記憶から部材の内容を思い出すが、同時に損傷具合も流れ込んできたのでそれらを加味すると国王機の再建には厳しいのではないかという考えに至る。隣でもエルが『落下してボロボロですから。無事な部材寄せ集めても上半身ぐらい?』とアルが考えたことと同じような考えを呟いている。

 そんな幻晶騎士(シルエットナイト)の建造に関しては謎の信頼感があると定評の2人が同じ意見を言ってきたので、ダーヴィドは『どうしたもんかなぁ』と頭を悩ませる。

 

 結局、捕虜の聞き取りで聞いたクリストバルの乗機、アルケローリクスの使えそうなものだけをかっぱらうが建造は部材の目途がつくまで保留にしなくてはいけないという結論に至った3人はそれぞれの仕事に戻るために解散するが、ふとアルが何かを思い出すとエルを連れてティラントーの残骸の近くで楽に再建出来そうな残骸を物色するバトソンたちの元へ足を運んだ。

 

「アル、そんなすぐには出来ないよ?」

 

「いえ、バトソンにはちょっと調べてほしいものがあるんです」

 

 そう言いながらアルはティラントーの腹部、魔力転換炉(エーテルリアクタ)が内蔵されている部分の装甲をバトソンから借りたレンチで丁寧に剥がしながら1つの部材を引っ張り出す。魔力転換炉(エーテルリアクタ)に直に接続されたその部材を引っこ抜いたアルはそれを周囲に見せるが、今まで銀鳳騎士団の騎操鍛冶師(ナイトスミス)として幻晶騎士(シルエットナイト)に関わってきたバトソンや周囲の騎操鍛冶師(ナイトスミス)、そして幻晶騎士(シルエットナイト)のことならば騎操鍛冶師(ナイトスミス)以上の知識を内蔵しているであろうエルでも何に使用するのか分からない部材だった。

 

「バトソン、出来る限りだけでいいので他のティラントーにもこの部材が使われているか調査をお願いします。それと、部材をつけたティラントーとつけてないティラントーを比べたいので……」

 

「分かった。最低でも2機だね」

 

 バトソンの返事に周囲は作業を開始し始める。その作業風景にこれ以上邪魔をするのは悪いとアルが工房を出て行こうとするが、ふと横を見るとエルが居ないことに気付く。

 

「うん、知ってた」

 

「あ、アル。遅いですよ」

 

 近くに転がっているティラントーの胸部にある操縦席ではエルが魔導演算機(マギウスエンジン)の解読に力を注いでいた。当然、エルやアルには銀鳳商騎士団としての仕事が残っているので本来ならばすぐに戻って仕事に取り掛からないといけない。

 

──だが。

 

「ふむふむ。術式的には機能のオンとオフだけですね」

 

「エーテルリアクタと直結してますし、補助動力でしょうかね?」

 

「ですが、エーテルリアクタは人間やドワーフには作れませんよ?」

 

 仕事に行こうとしていたアルもエルと同じくティラントーによじ登ってあれこれと検証に参加していた。だが、エルもアルも数日前から『フォンタニエ奪還』という騎士としての仕事をしてきたばかりなので、休息を取るのは最優先事項である。つまり、これは『休憩』なのだ。休憩中にロボを弄繰り回しているだけなのだ。

 そんな『昼休みを取っている体裁で朝に片付けられなかった仕事をする人』のような言い訳をしながら2人は魔法術式(スクリプト)や部材の配線といったティラントーの隅々を嘗め回していく。

 

 そして、朝頃に工房に赴いたはずが夕刻になった辺り。ようやく調査が一段落着いた2人は先ほどの部材が何に使用されているのか予想した内容がびっしりと書かれた紙を見て笑みを作る。

 

「僕としては補助動力ですね。もし人間でも普通に作れる動力なら夢が広がりますね」

 

「僕はパワーアップの部品ですかね。こう、窮地に陥ったらコードを入力して出力を上げるとかロマンですよ」

 

「ほう、お前達は仕事を放り投げてそんなことをしていたのか」

 

 和気藹々とした空気の中に冷や水が1つかけられる。その慣れ親しんだ声に2人が恐る恐る後ろを振り向くとペンを耳に引っ掛けながら資料を脇に挟んだエムリスが立っていた。その後、いかにも仕事から逃げてきた風体のエムリスによって2人は回収され、支出計算や指揮の方針といった銀鳳騎士団の仕事を与えられることになった。作業は深夜までかかり、朝頃に工房の火を入れに来たダーヴィドがティラントーの操縦席で眠るエルとアルを発見したのだが、ダーヴィドは極力それらのナマモノに目を向けないように仕事に取り掛かった。

 

***

 

 その数日後。フォンタニエへ続く街道を数十機もの幻晶騎士(シルエットナイト)の集団が進む。その構成はレーヴァンティアやレスヴァント。ツェンドリンブルやカルディトーレと多岐に渡り、その集団の中にはもちろんパッチワークも居た。

 

「ついに帰ってきたのね」

 

「思えば遠くもあり、近くもあり……ですね」

 

 パッチワークの操縦席に座るアルの後ろからイサドラがホロモニターの先に映るフォンタニエの風景に目を輝かせる。そして、ちらりとアルの後姿を見てふとその細い首に手を回したそうに腕を宙に漂わせるが、アルの真剣な表情にため息を吐きながら座席の背もたれに手を置いた。

 

「ここからよ。やっと東部を奪還したばかりなんだから」

 

 輪郭がおぼろげに見えたラスペード城を前にイサドラはあの幽閉生活を思い出しながら決意を固める。イサドラを勇気付けようと手を伸ばしたアルだったが、イサドラの表情にため息を吐いて握ろうとした手を引っ込める。そんな息が合っているのか合っていないのか分からない空気を漂わせたパッチワークはフォンタニエに入っていった。

 

「アル、シルエットアームズであの尖塔を吹き飛ばして。嫌な思い出しかないの!」

 

「出来るわけないでしょ。あーっ! 身を乗り出さないで! パッチワークの操縦桿奪わないで! お客様! 困ります! あーっ!!」

 

 ウェスタングランドストームのことを記載した戦史ではフォンタニエに入った瞬間、パッチワークは奇妙な踊りを踊って民衆を笑わせたとの記録が残っているが、かの銀鳳騎士団副団長はその記録に異議を唱えていたとか唱えていなかったとか。




次回は2週間後予定です。申し訳ない
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