銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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85話

 フォンタニエが再びクシェペルカの領地に戻った。城門から入ってきたクシェペルカの国旗を掲げるレーヴァンティアの姿に町民が歓喜の声を上げ、その声援を受けながらレーヴァンティアや商騎士団の幻晶騎士(シルエットナイト)がラスペード城に入城していく。

 やがて、フォンタニエに入った全ての騎士が自身の幻晶騎士(シルエットナイト)から降りてラスペード城の中庭に集合すると、このタイミングでエレオノーラが『新生クシェペルカ王国』の再興を宣言。この宣言と新生クシェペルカを背負う新女王の誕生の報告は東部領全域に瞬く間に知れ渡り、その報告を聞いた東部の貴族達は今まで閉じ篭っていた堅い殻を自ら破り、東部に取り残されたジャロウデク軍の残党を駆逐していった。

 

 そして、東部領──新生クシェペルカ領を完全に勢力圏に置かれたことでようやくフレメヴィーラとフォンタニエを繋ぐ街道はその機能を取り戻した。既に耳の早いフレメヴィーラの行商人がフォンタニエに交易に来ていたり、セラーティ家が主催した隊商が後々やってくるといった情報も藍鷹騎士団によってもたらされており、この地に元の賑わいが戻ってくるのも時間の問題であった。

 

 そんなある日、銀鳳商騎士団はフォンタニエ近郊にあった飛空船(レビテートシップ)の発着場に集合していた。その傍らにはうずたかく積まれている飛空船(レビテートシップ)やティラントーの残骸の他に4機の完全な状態で再建されたティラントーもあることから長く試験騎操士(テストランナー)をしているヘルヴィ率いる第3中隊は何を行うのか大まかな予想を付けていた。

 

「皆様お集りのようなので、これからの銀鳳商騎士団の方針をお伝えします」

 

 エルの言葉にアルが拍手をするが、最近反応がスれてきた団員は『早く内容伝えてくれ』という表情を作った。その表情に『最近、反応が少なくなって寂しいです』と泣き真似をするエル。しかし、その嘘泣きも効かないと分かるや否や気を取り直してこれからの方針について語り出した。

 

「ナイトスミスの皆さんはレビテートシップとティラントーの解析。ミシリエの戦いで完品が手に入っているのでそれの操作方法を学んでおいてください。親方は国王騎についてクシェペルカのナイトスミスの方々が見えられたらその応対をお願いします」

 

「するってーと、あのレビテートシップは俺達が動かすわけか?」

 

「艦長はまだ決まっていませんが、動かす人員はそう思ってます。最初に王族の方と結んだ商談はもう少ししたら練り直そうと思ってますが、今のクシェペルカにレビテートシップを動かせる人員は居ないと思っているので」

 

 エルの話す方針にダーヴィドが質問をし、その質問にアルが答える。

 先の戦いで手に入れた飛空船(レビテートシップ)。完品は1隻、少し直せば飛べるものが1隻と合計2隻しかない貴重品なので、あわよくば2隻共手に入れようとエルとアルは思っていた。それに、もしこの飛空船(レビテートシップ)をクシェペルカ側に引き渡した場合、レーヴァンティアの機種転換が終了間近かつ、侵攻する部隊を決めている最中のクシェペルカに飛空船(レビテートシップ)の運用を勉強する暇はあるだろうか。──いや、ない。

 そしてなにより、『エルがこの手の新技術を無責任にそこらへんに放り投げることは例え月や小惑星が落ちてきたとしてもあり得ない』のである。

 

「たしかにそうだな。新技術を手にあれやこれやするのはうちの十八番だからな」

 

「親方もずいぶんうちに染まったということで。続けて各実働部隊についてですが、全中隊は任務の傍らでティラントーの評価試験をお願いします」

 

「やっぱりね。試験内容はテレスターレと同じ感じで良い?」

 

 『ティラントーの評価試験』という言葉に待ってましたとヘルヴィが試験方針について尋ねて来る。だが、今回の試験評価の中にはティラントーの基本性能の他に例の部品の有無によって性能の差が出るかの検証や、操作性による対ティラントー戦術を考えることも入っている。

 

「了解、エドガーとディーを巻き込んでやってみるわ」

 

「まったく、しばらくは楽が出来そうだと喜んでいたのに」

 

 ナチュラルに巻き込まれたディートリヒは不満気にぼやくが、第2中隊の団員は視線が常にティラントーに向いていることを見逃さなかった。『口と行動が逆ですよ。タイチョ』と囃し立てる第2中隊員達の言葉に今まで平静を保っていたディートリヒの堪忍袋が切れた。

 

「君達は……まだ騎士団長話してるよな!」

 

「タイチョ! ギブ! ギブ!」

 

「まー、後はクシェペルカの部隊が編成され次第、実働部隊の皆さんには前線に出てもらいます。第3中隊の皆さんは補給任務になるでしょうが、レビテートシップの危険性もあるのでミッシレジャベリンは装備しておくようにお願いします」

 

 いつもの第2中隊の様子を見たアルは早々に切り上げようと口早に残りの伝達事項を纏める。こうして実働部隊がフォンタニエに居る間にティラントーや飛空船(レビテートシップ)の解析が急ピッチで進み始めたのである。

 

***

 

 ティラントーの評価が始まって以来、銀鳳商騎士団の団員はティラントーの操縦難易度に四苦八苦していた。操作性では『カルディトーレと違って動かしにくい』や『テレスターレ以上、カルディトーレ未満の素直さ』と低めの評価を受けたティラントーだが、その膂力はカルディトーレを遥かに凌ぐ性能を叩きだしている。

 しかし、そのような『一撃受けると致命傷』な敵を相手にするのは魔獣との戦いが日常的なフレメヴィーラの騎士とって日常のような物なので、ティラントーとの戦い方、集団戦闘を行う上での戦法は日を追うごとに洗練されていく。

 また、それとは別にアルが見つけた例の部品については徐々にだが進展が出てきた。

 

「うそ! もうマナ・プールが底をついたわよ!」

 

「こっちもだ! 戦っていた時よりも稼働時間が極端に短いぞ!」

 

「ふむふむ、こっちの2機は例の部品が無い方ですね」

 

 ティラントーを動かしていたヘルヴィとエドガーが魔力切れによってうんともすんともいわなくなったティラントー相手に文句の声が上がる。対するディートリヒとエルが乗るティラントーは元気に鬼ごっこに興じているので、アルは例の部品の有無が関係しているのだと考えた。

 

「兄さん、ちょっと外装剥がしても良い?」

 

「反応を見るんですね。ちょっと待ってください」

 

 アルの頼みにエルはすぐさま魔導演算機(マギウスエンジン)へのハッキングを開始。腹部周りの装甲を魔法の対象外にするように装甲強化や身体強化の範囲を意図的に書き換え、終わると同時にティラントーの指で腹部の装甲を数回強く叩く。すると、堅牢だったティラントーの装甲は溶接されている部分を境にただの装甲板となって地に落ちた。

 

「う……っぷ。この石、錬金術で作った類じゃないですよ」

 

「そういえば、その中身調べてませんでしたね」

 

 部材から漏れ出すエーテル量にアルは咳き込みながら部材を取り外す。その後、バトソンに頼んで同じ部材を用意してもらい、現在検証を行っている団員達を集めた後にアルはその部材の検証を行った。

 まず着手したのは部材の中心に納められた鉱石のような物の検証である。エルやアルは当初、錬金術関係だと思っていたそれはバトソンやたまたま近くを通りがかったクシェペルカの鍛冶師曰く、『源素晶石(エーテライト)』と呼ばれる鉱石ということが判明した。

 

「あー、これがそうなんですね。授業で聞いただけなので実物見るのは初めてです」

 

「何も使い道がない鉱石だからね。俺も教科書にある挿絵ぐらいしか知らないよ」

 

「私は劇の事件で聞きましたね。クシェペルカではそれで覚えてる人が多いかと」

 

 この石は端的に言うとエーテルの結晶体そのもので、地上に置いておくと勝手にエーテルに昇華されて鉱石自体も消えてしまうという変わった特性を持っている。

 クシェペルカでは一時期、これを利用した犯罪トリックが劇で流行ったりしたのだが、空気中にまき散らされる高濃度エーテルによって観客の一部がエーテル酔いを引き起こしたために使用する際には許可を取らないといけなくなったことで有名な鉱石でもある。

 ただ、装置に入っている鉱石の正体は分かったが、その鉱石と幻晶騎士(シルエットナイト)にどんな関係性があるのだろうかと説明を聞いていた一同はしげしげと装置に密封されている鉱石を観察した。

 

「接続しなおして挙動を確かめますか」

 

 アルはそう言うといったん部品を接続しなおしてからエルに装置の起動を頼むと、源素晶石(エーテライト)を囲っていた透明な部分が少しずつ開かれていく。その開かれた部分から空気が流れ込み、その空気と反応した源素晶石(エーテライト)は濃厚なエーテルを発し始めた所でアルは使用の停止を叫んだ。

 

「なるほど。マナ・プールが足りなくなる段階でこれを起動させれば高濃度のエーテルがリアクターに供給されると」

 

「これを使えば無限のエネルギーを得られるわけですか。……けど、何か落とし穴がありそうですね。タダより怖い物はないというのが常識ですから」

 

 アルの言葉にティラントーから降り立ったエルが何か見落としていないかと考え込む。だが、いくら時間があるからといっても区切りをつけて作業をしないとどれだけ時間があってもつまらない結果になってしまうので、いったん全員を元の検証作業に戻るように伝えたエルはアルと共にティラントーの残骸を検分するために歩き出した。

 

「次は装置が繋がってたエーテルリアクタを調べるので、アルは別の所検証してください」

 

「ういー。じゃあクリスタルティシューでも調べます」

 

 十分に離れた所を見計らったエルは、その小さい身体を活かしてティラントーの腹部に潜り込むと魔力転換炉(エーテルリアクタ)に刻まれた『生命の詩(ライフソング)』と呼ばれる特殊な魔法術式(スクリプト)を解析し始めた。そして、エーテルリアクタについてはほとんど知識がないアルは外装を乱暴に引き剥がすと劣化傾向のある綱型結晶筋肉(ストランド・クリスタルティシュー)を手にとって観察を開始する。

 

「んー? 分かんないなぁ」

 

「クリスタルティシューもちょっと劣化してるぐらいですね」

 

 ただ、数十分にも及ぶ適度な可愛がり。もとい、検査をしても特に目新しい発見を見つけることが出来なかった2人は、『今日はこのぐらいで勘弁してやる』と三下っぽいセリフを吐きながら近くの団員に城に帰ることを報告する。そして、少しだけ残念そうに肩を落としながら2人はラスペード城へ帰っていく。

 

 エル達が割り当てられた部屋は本来ならば賓客が泊まるような城の格に見合う調度品が下品にならない程度に設えられた個室『だった』。だが、今ではこの兄弟の毒牙によって調度品は部屋から追い出され、その代わりに無骨な製図台が運び込まれ、日増しに増えていく紙が床に散乱する『汚部屋』と劇的なビフォーアフターを遂げていた。

 これには某騎士団員A氏は『エル君は仕方ないなぁ』とやけに上機嫌になりながら自らが掃除をし、某王族の方は『だらしがないわよ』とアルによく清掃するように説教をするので、アルは兄の部屋を作業部屋にすることにした。

 

「さて、それではお楽しみパート2へとまいりましょうか」

 

「ヒーハー!」

 

 そんな部屋でエルとアルは製図台に噛り付いてイラストを量産していた。それは脱稿直前の漫画家のような有様だったが、2人は楽しそうに自身の考えを紙に反映させていく。やがて示し合わせたかのように2人はペンを紙から離すと未だインクの臭いが立ち上る紙を相手にも見えるように机の上に置いた。

 

「サブアームをミッシレジャベリンの発射装置に変えた改造機です」

 

「こちらはウォールローブを少なくして行軍速度を合わせられるようにしたバリエーションです」

 

 エルはアルの、アルはエルの案を見ると『やりますね』と笑いながら共に次の案を紙に書き出した。そう、これはディスカッションとは名ばかりの『僕が考えるバリエーション機』のお披露目会であった。

 この会の交戦規定はたった1つ。『クシェペルカの次期量産機であるレーヴァンティアをベースにしていればあとはノリでなんとかする』である。

 そのため、頭部にパッチワークと同じ装備をつけて長距離魔導兵装(シルエットアームズ)を備えた『狙撃仕様』や、レーヴァンティアのサブアームを廃して3機1組で形成できる巨大な砲身に換装、現地で組み立てて3機の魔力で超威力の法撃を放つ『ヨルムンガンド仕様』。極めつけはレーヴァンティア自体をまるごと隠せるほどの大盾に蓄魔力式装甲(キャパシティフレーム)と連射式の魔導兵装(シルエットアームズ)を備えた『防衛仕様』など様々な案が出来てはエル達のネタ帳に保存されていった。

 

「そういえば、レビテートシップ手に入れたらどうするんです?」

 

「完品は僕……僕達が使えるようにします。相手が飛ぶなら僕達も対抗しなければいけないので」

 

 さらっと『自分だけの物』にしようとしたエルだったが、一応手に入れた後の考えがあるらしかったのでアルは静かに続きを促す。すると、もはやレーヴァンティアの外見がかけ離れているようなイラストが描かれた紙を裏返す。そして飛空船(レビテートシップ)のようなスケッチを手早く描くとその上に大きな筒状の物を描いて飛空船(レビテートシップ)の側面に向かって矢印を伸ばした。

 

「レビテートシップの弱点は速度が遅いことが挙げられます。なのでマギウスジェットスラスタでその弱点を消してあげます」

 

 そう言いながらエルは魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)らしき物を1つ、2つ、3つと次々と書き込む。その量に消費するであろう魔力消費量に青ざめた。魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)はトイボックスの前身であるカルディトーレの飛行試作型という尊い犠牲から幻晶騎士(シルエットナイト)を飛ばすのにも通常のエーテルリアクタ1基では不十分と言う結果が出ている。それを賄う魔力に当てはあるのかとアルが問うと、エルは『余った魔力転換炉(エーテルリアクタ)を積み込むしかないですね』と応えた。

 

「それ、兄さんの言う美学に反してるのでは?」

 

「今のところ、これぐらいしかないですからねぇ。キッドとアディのツェンドリンブルを動力にするという案もありますが、皆を乗せる以上は単体でもちゃんと動かせる必要があります。……とまぁ、長々と語りましたが、マギウスジェットスラスタの改造も兼ねて船作りに挑戦してみるのも悪くないかと」

 

「そこらへんは追々考えて行きましょうか。あー、でも空飛ぶ船かぁ……。艦長とか良いですよね。回避ーって言いたい。……いや、下に向かって法撃して空爆できないかな」

 

「あれでバレルロールって出来るんですかね?」

 

 飛空船(レビテートシップ)と言う新たな可能性を前にそれぞれが夢を膨らませるが、その数ヶ月後にダーヴィドが飛空船(レビテートシップ)でバレルロールをやろうとしてあわや船を墜落させかけるのだが、それはまた別の話である。

 

***

 

 割と緩やかに流れる日々を全て調査に回していたエルとアルは日増しに飛空船(レビテートシップ)やティラントーの謎について解き明かしていく。中でも例の源素晶石(エーテライト)が入った部材については未だに推測の域を出ないが、捕虜から引き出された情報や現物の調査から『空への招待状を見つけた』とエルが上機嫌に幻晶騎士(シルエットナイト)の中に埋もれ、アルは藍鷹騎士団から共有された飛空船(レビテートシップ)の操縦方法や今後行われる契約についての諸々を纏めるために部屋に篭もりはじめる。

 そんなある日、ようやく契約についての資料が出来たアルが部屋から出てくると、ちょうど扉をノックしようとしたイサドラに捕まって無理やりお茶会の現場に引き摺り出された。

 

「あ、アル君も来た」

 

「やっと出てきたの。ほら、たまには休憩しなさい」

 

 文句を言いながらもイサドラがケーキの皿をアルに突き出す。アルはその皿を無言で受け取ると、先ほどまで書いていたクシェペルカ王国と銀鳳商騎士団が結んでいる契約書を片手で持って読み直しながら、もう片方の手でスプーンを使ってケーキを食べ始めた。

 たまに契約内容に書いていた言い回しが気に入らないのかスプーンを口に咥えながら『うーん』と悩む姿を見せるが、その都度『それ止めなさい』とイサドラに膝を強く叩かれて渋々直す姿はどこか姉弟のような雰囲気を見せる。

 

(アルに艦長を任せる案はちょっと不安ですね)

 

 その光景にエルは自身が考えていた銀鳳商騎士団で使用する飛空船(レビテートシップ)の艦長にアルを据えようとする考えに陰りを見せた。そして、ケーキを食べ終えたアルが資料に夢中になりながら横に置いているイサドラのケーキの皿を取ろうとして『私のよ』と注意された途端、エルは『イサドラ様庇って飛空船(レビテートシップ)沈めそう』とアルを艦長にする考えを放棄した。

 

「ほら、あーん」

 

「あー」

 

 そんな時、エレオノーラがキッドにケーキを食べさせている姿を思い出したイサドラは自身のケーキを切り分けて恐る恐るアルの口に運ぶ。

 本来ならばそれをされた瞬間に丁重に断っていたであろうアルだが、現在は資料に集中しているのか素直に口を開けてケーキを口に招き入れた。その一連の流れにイサドラは少しだけ楽しそうに次々とケーキをアルの口に放り込み、アルもそれを素直に受け入れる。

 その光景を外野から見ていたエムリスやマルティナはなにやらメンチを切りあいながら口をパクパクとさせているが、唇の動きで大体何を話しているか分かってしまったエルは空気を変えるためにエレオノーラに呼び出された用件を尋ねた。

 

「そうでした。エチェバルリア卿、改めてご相談したいことが……」

 

「いえ、僕もアルも爵位を頂いておりませんので、どうぞもっと気楽にお呼び下さい」

 

「え、アルって爵位持ってないの?」

 

「……え? あ、はい。資料見てて気付きませんでした。……あれ、なんか口が甘い」

 

 イサドラからの質問にようやくアルが再起動するが、状況が全く見えなかった。ただ、エレオノーラが困ったような表情をしていたので『どうしたんです?』と周囲に聞いてようやく状況を理解した。

 

「あー、僕達は騎士なので爵位はありません。ですが、シルエットナイトに関してや大型の魔獣……はここには居ないのか。特定の災害についての指揮権は上位ですね」

 

「そこが分からないのよ。私と歳も変わらないのにそんなに権限があるのが……」

 

「イサドラ。彼らは形式的にはフレメヴィーラからの客人よ」

 

 西方で横行している貴族主義の観点から見ると異質な彼ら。そして彼らが率いる銀鳳商騎士団という存在にイサドラが疑問を口にするが、マルティナはそれ以上聞くのはマナー違反だと口を挟んだ。

 ただ、銀鳳商騎士団はエムリスよりエルやアルの言葉を優先しているように見えるし、2人の戦果的にも一介の騎士団長や副団長に納まらない──それこそ領地を持っていてもおかしくない活躍に、口には出さないがマルティナとエレオノーラも2人の正体について疑問を感じていた。

 

「……では、エルネスティ様とアルフォンス様と呼ばせていただきます」

 

 ただ、疑問を感じていても客人の前で長時間黙るのもどうかと思ったエレオノーラはキッドと同じく様呼びを提案し、思ったよりも気軽さがないエレオノーラに2人は一様に彼女の横に座っている騎士様(キッド)に無言の圧を送る。

 

(仕方ねぇよ。エレオノーラ様だし)

 

 そんな返答が騎士様(キッド)から聞こえた気がしたので、2人は『それでかまいません』と言うとエレオノーラは先ほどの相談事について話し出す。それは、ミシリエで交わした契約の一部を変更してほしいという物だった。

 ミシリエでの契約では銀鳳商騎士団が破壊したティラントーの残骸については銀鳳商騎士団が使用するということになっている。だが、銀鳳商騎士団の圧倒的戦闘能力によって現在は旅団規模の幻晶騎士(シルエットナイト)の残骸が彼らの所有物となっているのだ。

 しかし、その資材の貯まり具合と銀鳳商騎士団の騎操鍛冶師(ナイトスミス)の稼働時間から真面目にどこかしらで処分しないとまずいと考えたアルは、幻晶騎士(シルエットナイト)のことになると途端に聞かん坊になるエルには内緒で、エムリスと共にクシェペルカの新型量産機であるレーヴァンティアを作る分だけは『出世払いで残骸を売る』という形でダーヴィド達の負担を下げてはいるが、はっきりいって焼け石に水の状態だった。

 

「そこで僕達の所有する残骸で一気にレーヴァンティアを増産したいと?」

 

「アルフォンス様の仰る通りです。現に今も……失礼しました」

 

 アルの噛み砕いた説明にエレオノーラは肯定しながら余計なことを言おうとするが、『横に居る幻晶騎士(シルエットナイト)のことになると自分以上の暴走する兄』が内緒で残骸を売っていたことを聞いた場合どうなるかという自分のことを棚に上げた推測が容易に脳裏に浮かぶので、アルはエレオノーラに目線だけで牽制する。

 

「え、アル。もしかして僕に内緒でティラントーの残骸渡していたことバレてないと思ってたんですか?」

 

「チッ、バレてたか」

 

 ところがエルにはアルとエムリスのやっていたことが筒抜けだったらしい。曰く、『僕が残骸の数を見間違うはずないじゃないですか』とやっぱり頭のネジが数本抜けているようで『エル(君)だからなぁ』と周囲のキッドやアディが無駄に納得する言葉を述べた後、『残骸の件は承知しました』と自ら幻晶騎士(シルエットナイト)の残骸と言う宝の山を手放す発言をした。

 

「本当によろしいのですか?」

 

「えぇ、下手に残骸を持っていても仕方ないです。シルエットナイトは壊れてても良いですが、動いてこそその美しさに磨きがかかりますし」

 

 恐る恐る問いかけるエレオノーラの言葉に『良いですよ~』と答えるエル。その妙にほわほわした表情にエムリスは『どうせレーヴァンティアの姿でも想像してるんだろう』と鼻を鳴らしながら余計な茶々を入れずに静観する。そんなうまくまとまりそうな空気だったのだが、エルは『それでは』とまるでここからが本命の商談のような話の切り出し方をする。

 

「何機ほどの残骸をご所望でしょうか? ああ、もし機体数が足りなくても、この戦いに限り貸与と言う形で供給させていただきます。ですが、お貸ししたシルエットナイトは当然、僕達の戦力としてカウントされます」

 

 矢継ぎ早に繰り出される言葉の波にマルティナは目を閉じながら情報の整理を行い、エレオノーラやイサドラは完璧に波に呑まれたらしくぐるぐると目を回していた。

 いきなり膨大な量の要求をするという交渉は前世ではグレーラインだが、このセッテルンド大陸ではまだまだ現役である。わざわざそんな意地悪なことをする必要あるのかと思ったアルだったが、エルが目で『続けて』と催促してきたので、後が怖いがひとまずはその場の空気に乗ることにした。

 

「それだけでは不十分ですね。僕達の戦力と言うわけですから、最初の契約に従って貸与した残骸で組み上げられたシルエットナイトが倒したティラントーは僕達の所有物になるのが正しいかと」

 

「なっ! 貴公達は何を言っているのか分かっているのですか!」

 

 ここまで聞いてやっとその意図が分かったマルティナは激昂する。つまり、エレオノーラが譲り受ける機数を誤れば銀鳳商騎士団から貸与と言う形で新たに残骸を譲り受けなければいけない。そして、それによって組み上げられたレーヴァンティアが敵を倒せばそれが銀鳳商騎士団の所有物となり、領地を解放するごとに増える戦力に割り振るレーヴァンティアを組み上げるために再び銀鳳商騎士団から貸与を行う。

 そんな敵が居なくなった頃には周りが全て銀鳳商騎士団所有の幻晶騎士(シルエットナイト)だらけになるような構想がようやく浮かんだのか、エレオノーラ達は絶句していた。

 少しばかり不穏な空気が周囲に留まる中、ついに良心の呵責に耐えきれなかったアルが『すみません』と一言謝ってから包みを切ったかのように弁解し始める。

 

「……とまぁ、こういう返し方があるので交渉事の際には弱みを見せないことが──って痛い! イサドラ様痛い!」

 

 そんなアルに横からイサドラが頬を膨らませながら平手でアルの肩をぺシぺシと叩く。そんな折檻を見たエムリスは眉間に寄せていた皺をいくらか緩めながらもう1人の下手人であるエルの頭をむんずと掴んだ。

 

「銀の長。あまり伯母上達を困らせるんじゃない。意地悪が過ぎるぞ!」

 

「いえ、ですが一応商人なので……それに緊張を少しほぐそうかと」

 

 エムリスの手から逃れたエルの乱れた髪がアディによって整えられていく。そんなどうにも扱いに困る騎士と現在進行形で実の娘から折檻を受けてもやり返さない妙に腰の低い騎士を前に、マルティナはため息をついた。

 その後、ようやく解放されたアルを司会にして幻晶騎士(シルエットナイト)と鹵獲した飛空船(レビテートシップ)の所有権、いよいよ始まる反攻作戦での銀鳳商騎士団の動きなど決めなければいけないことが次々と話し合いによって決められ、都合3度目の軽食が供された時にようやく全ての話し合いが終わった。

 

***

 

 話し合いが終わった後、アルは首をゴキゴキと鳴らしながら銀鳳商騎士団の実働部隊に割り振られた任務が書かれた紙を片手にラスペード城の廊下を歩いていた。中にはレーヴァンティアの配送といった準備に時間がかかる物もあるので頭の中で渡す人物の居そうな所をシミュレートしていた時、後ろからエムリスが声をかけてきた。

 

「おや、若旦那。どうしました?」

 

「あー、これをお前に頼むのはどうかと思うんだが……」

 

 エムリスにしては妙に歯切れの悪い応答にあるは不審に思ったが、やがてエムリスは頭を下げながら『イサドラの騎士になってほしい』とアルに頼み込んで来た。突然のことなので、つい癖で『お断りします』と免許皆伝級のお断り真拳を発動しそうになったアルだが、何とか踏みとどまるとエムリスに理由を聞くために近くの壁に寄り掛かった。

 

「イサドラがまだ本調子じゃねぇんだ」

 

「え、あれでも?」

 

「お前や俺が居る時は別だな。……まぁ、この話は置いておくぞ」

 

 『まだ本調子じゃない』ということに驚きを隠せないアルの言葉に同意したエムリスは、続けてアルに騎士になってもらいたい理由を話す。

 まず騎士と言うのは言葉の綾で、本当はもう少しイサドラに付き添ってほしいという要求だった。どうやらエムリスやアルが居る状態では留学中の様子に戻るのだが、1人になると急に空元気になるようなことが侍女の話から明らかになったらしい。

 

「俺としてもエレナよりイサドラの方が縁が深いから何とかしたいが……商会の若旦那が女王を放って元大公の娘を気にかけすぎるのも外観が悪いだろう」

 

「で、僕ですか?」

 

「ああ、俺と共にイサドラを救出して身を挺して守った。俺にはそれだけで十分だ。それに、イサドラはお前に懐いているしな。……お前もイサドラについては少なくとも憎いとは思ってないだろ?」

 

 腕を組みながらエムリスは僅かに顔をニヤつかせながらアルを見る。その恋の波動を感じた銀鳳商騎士団の女衆のような反応に、照れるのは火に油を注ぐものと分かっていたアルは『そうですね』と極めて冷静に答えた。

 ただ、その反応に不服だったのかエムリスはつまらなさそうに頭を掻くと、『で、どうなんだ?』とアルに尋ねてくる。

 

「一つだけ。もし、この戦いが終わった後にイサドラ様がここに残ってほしいと仰られた場合、残酷な宣言をするかもしれません。その後の彼女のフォローはどうするんですか?」

 

 残酷な宣言と無理に強い発言をしたアルにエムリスは『あいつももう子供じゃないんだ。分別は付けるだろう』とよく言えば信頼、悪く言えば当てずっぽうな返答をする。

 アルだけでなく銀鳳商騎士団改め、銀鳳騎士団はフレメヴィーラ王国に所属する騎士である。そのため、この戦いの移管によってはフレメヴィーラ王国に帰還しなければならない。なので、キッドもそうなのだがどうあってもエレオノーラやイサドラと別れる必要性が出て来る。

 

 今まで頼りにしていた人物と別れるという事象は、時に塞ぎ込んでしまうほどの苦痛を伴うことを知っているアルは精一杯そのことをエムリスに伝えようとするが、エムリスはアンブロシウスと似たような快活な笑いで受け流した。

 

「それにキッドはともかく、お前の行く末は良いものになると思ってるぞ」

 

「そんな根拠もない空論は信じられませんよ」

 

「俺の野生の勘だ! 爺ちゃん曰く、これが一番信じられるらしいからな!」

 

 どうしようもない暴論に『脳筋め』と心の中で毒づいたアルは、『拒否されたらリオタムス陛下に言い付けますからね!』と捨て台詞を吐きながら廊下を走っていく。その後ろ姿にエムリスは『わりと冗談じゃないんだがなぁ』とお茶会の際の2人の様子を思い返しながら困った表情を浮かべていた。

 

 この時、彼はとあることを忘れていたのだが、それは彼が再びこの地に舞い戻るまで気づかなかった。

 

***

 

「アル? こんな夜更けに何?」

 

「いえ、ちょっとついてきていただきたいのですが」

 

 そろそろ夜明けが近くなってきた頃合。珍しくぴっしりとした副団長服を身に纏い、アガートラームを両腕に装着したアルはイサドラの部屋をノックして寝起きのイサドラを連れ出した。未だ眠たいのか瞼を半分ほど落としたイサドラの手を掴んでアルがラスペード城の尖塔へ続く階段を上っていくと、だんだん見慣れた光景と思い出したくない思い出が脳裏によぎったのか覚醒したイサドラが抵抗する。

 

「嫌! なんで! なんでこんなところに連れて来るのよ! 嫌だって言ってるでしょ!」

 

「誰にも見られたくないからです! ~~っ! ああ、もうっ! 失礼!」

 

 梃子でも動かない様子のイサドラをアルが横抱きにしてさっさと階段を駆け上がる。その何時ものアルらしくない行動にイサドラが目を丸くしていると、尖塔の頂上──イサドラが閉じ込められた部屋にたどり着いた。未だ片付いていない部屋の一画にはぽっかりと外へ繋がる穴が開いており、夜明けの光を部屋に届けていた。

 

「イサドラ様、これを」

 

 そう言ってアルは茫然と突っ立っていたイサドラに1振りの剣を握らせる。宝石が柄に埋まっており、どう見ても実戦向きではない儀礼用の宝剣に意図を察することが出来なかったイサドラがアルに尋ねようとした時、アルはその場で片膝を立てて頭を垂れる。

 

「アルフォンス・エチェバルリア。これより騎士として貴女の盾になります」

 

 それは騎士の宣誓だった。

 最初はその言葉の意味が分からなかったイサドラは剣を両手に持って呆然と佇んでいたが、その間にも陽の光が2人を暖かく包み込む。じわじわと温まっていく肌を知覚し、耳にはいつもの生活音が響く。ここでようやくイサドラは手に持った剣でアルの肩を軽く叩く。今この瞬間、1人の少年は1人の主を持つ騎士へと変わった。

 

「ひとまず、貴女の尖塔での悪い思い出を塗り替えようとしましたが……いかがです?」

 

 早くこの場を立ち去りたい一心からか、すっくと立ち上がったアルが剣を受け取りつつ茶目っ気を出しながらイサドラに尋ねる。するとイサドラは、『上々よ』と妙に偉ぶった様な返答をしながらアルの前に片手を差し出した。『んっ!』というまるで何かを待っているような仕草にアルはエムリスの言っていたことを若干訝しみながらイサドラの手を取って尖塔から降りていった。

 

「あ……」

 

「あ……」

 

 そして都合よく──否、『そんなフル装備と宝剣携えてガシャガシャ音を立てて隠密とか、フレメヴィーラ人舐めてる?』と待ち構えていたエムリスと銀鳳商騎士団の面々に説教と生温かな視線をいただいたのだが、アルは必死に耐える。だが、途中で我慢できなかったのか近くに居たキッドに八つ当たりをすることになり、この場は解散となった。

 

 そんなこんなで比較的平和な時間を送っていたクシェペルカ陣営だったが、祖国を奪還すべく各々が職務を全うして数週間たった時、エル達の耳に最新の情報が届く。

 『レスヴァント・ヴィードと似た法撃特化の機体を載せた強化型飛空船(レビテートシップ)の出現』。その内容にマルティナなどの王族や合流したクシェペルカ貴族は『このまま易々と奪還できぬか』と悔しそうに呟くが、銀鳳商騎士団の一部は違った反応を見せた。

 

「まぁ、真似をしてきますよね。よし、ニュート○ンジャマー○ャンセラー作戦で行きましょう!」

 

「キャンセラーキャンセラーキャンセラーって具合に鼬ごっこをしてやりますよ! 早速図面起こしますか!」

 

「「ヒャッハー!」」

 

 ──ぶっちゃけて言うとエルとアルだけは『よし! 新しい改造だ!』と目をらんらんと輝かせながら、ジャロウデクへ放つ第2の矢の準備に入ろうとしていた。




アルフォンス、契約騎士になるってよ
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