銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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幕間(相談事の章/ジャロウデク脅威のメカニズムの章)

***相談事の章***

 

 晴れてイサドラの騎士となったアルだったが、特に変化のない毎日を送っていた。強いて言うならば私室がイサドラの横の部屋になり、毎朝彼女を起こす侍女に付いて行き、部屋の扉から半分ほど顔を覗かせるという『家政夫は見たごっこ(アルフォンス命名)』をしたり、朝食中のイサドラの右斜め後ろにフル武装で立つという『近衛ごっこ(アルフォンス命名)』をするようになったぐらいで、職場や形態がいきなり変わったりといった環境は劇的には変わらなかった。──羨ましいことである。

 

 そんなアルを含めた銀鳳商騎士団。輸送や各地の戦闘の助っ人として大活躍なのだが、彼らはサイボーグではなくれっきとした人間である。たまに休まなければパフォーマンスに支障が出るし、幻晶騎士(シルエットナイト)もメンテナンスをしなければ性能は徐々に下がっていく。

 そんな騎士団長と副団長の意見によって任務帰りの団員達には騎操鍛冶師(ナイトスミス)達曰く、『クシェペルカと銀鳳商騎士団の幻晶騎士(シルエットナイト)全ての整備が完了するまで』の数日間は休みを支給していた。報告作業がある隊長達とは別に一般の団員達は羽目を外さず、また財布の底が尽きないように気をつけながらも休みを満喫し、報告を行った隊長達もまた日ごろの命のやり取りから解放されるためにフォンタニエを満喫する。──のだが。

 

「で、話ってなんです?」

 

「えーっと……」

 

 とある昼下がり。アルはラスペード城から少し離れた喫茶店の席に座っていた。落ち着いた店内には音楽こそ無いものの穏やかな空気が流れ、客のそれぞれが決して煩くならないようにお互いを気遣いながら優雅にお茶を楽しんでいた。

 そんな場所で適当な注文を終わらせたアルは、再度目の前にいるヘルヴィに声をかける。しかし、彼女は相変わらず目を右往左往とまるで誰かにばれないか心配するようにしながら言いにくそうに口をもごもごさせるといういつもの快活な彼女らしくない振る舞いをしていた。

 

「お待たせしましたー」

 

「あ、ありがとうございます。そのケーキは彼女で、そっちのケーキは自分です」

 

 どちらも喋らない時間が無常に過ぎていき、やがて給仕の手によって注文した物が配膳される。給仕に幾分かのチップを払ったアルは時間を潰すようにペラペラと真新しいメニューを見ながら片手でフォークを装備すると食べ始める。──これがもし彼の現在の主であるイサドラが横に居たらまたしても顰蹙を買う仕草だが、今は居ないのでアルも『物を食べる時は自由でないといけない』と好き勝手に振舞っていた。

 

「アル君。お願いがあるの」

 

「ふぁい」

 

 そうして時間を潰しながら甘味を楽しんでいると、ヘルヴィは意を決したかのように顔を上げた。その真剣そうな顔を見たアルは口に咥えていたフォークをケーキが置かれている皿の端において紅茶を一口飲み込む。紅茶の適度な渋みがケーキの甘さを洗い流し、喉に伝わる温度を口から逃がすように吐き出したアルは真剣な表情でヘルヴィの顔を見る。

 

「今度、エドガーと遊びに行くんだけど……何着ていけば良いと思う?」

 

 ツェンドリンブルの増産か、はたまた中隊員の増員かと考えうる限りで中隊についての不満点を頭の中で洗い出していたアルだったが、出てきたのはまさかのエドガー関係だった。『なんでこの2人は示し合わせたかのようにこっちにその話を振って来るの?』と遠い目をしながらアルは過去に起こったエドガーとの出来事を掘り起こし始めた。

 

***

 

 これはまだフォンタニエがクシェペルカ領になっていない頃。エドガーはアルを連れてフォンタニエのとある酒場まで来ていた。

 

「で、話ってなんですか?」

 

「すまない。少し心の整理が付いていないから待ってくれ」

 

 適当な席に着いたアルは前に座ったエドガーに用件を聞くが彼らしくない要領を得ない回答に店員を呼んで適当な料理を頼む。その途中でメニューにある『酒類の項目』を見たアルは座りが悪そうにそわそわと目線を右往左往するエドガーにメニューを見せる。

 

「エドガーさん、今日お休みですしお酒頼んでください」

 

「いや、昼間から流石に酒は……」

 

「副団長命令です」

 

 そう言いながら店員を呼んだアルの有無を言わさない命令にエドガーは渋々といった風に酒を頼む。すると、流石にドリンクメニューということもあってかすぐに生温いエールと果実水が机の上に並べられ、アルは果実水の入ったカップを持って『乾杯』と強引に杯をぶつけて中の物を飲み乾して新しい酒と果実水を注文する。

 

「その……な?」

 

「はい」

 

 そうすること2回。ようやくエドガーの思考が柔らかくになったのか、バツが悪そうに口を開く。アルはここまでエドガーが自身相手に悩むことが不思議に思ったので、中隊関係で軋轢やストレスが溜まったのではないかと推測してより良い環境で戦ってもらうためにどうすれば良いのか思案を開始する。

 

「ヘルヴィを……デ、デートに誘いたいんだが。どうすれば良い?」

 

「は?」

 

 ところがエドガーから吐き出された思わぬ相談事に、アルはマジトーンの『は?』で返した。

 

「デートですか?」

 

「い、いや。いつも任務や戦闘で疲れているだろうから気晴らしに遊びに……な?」

 

 酒のせいか、はたまた別の要因なのか顔を赤くしながらも必死に言葉を選んで訂正するエドガーの姿に、急に考えるのが馬鹿馬鹿しくなったアルはフォークを皿の上に乗せられた腸詰に叩きつける。それをワイルドに噛み千切りながら『どう返答したもんかな』と考えながら咀嚼し、飲み下した所でフォークをエドガーに向かって指し示した。

 

「学生や学園を拠点にしていた頃は遊びに行かなかったんですか?」

 

「そりゃ、予定が無い時は行ったさ。だが、関所のことが頭から離れなくてな」

 

 そこまで言われてアルはようやく合点がいったかのようにフォークを指先でくるくると回す。

 確かに東部の関所、ティラントーと初めて戦闘したあの場所でエドガーはヘルヴィにキスをされていた。恐らく、それが気になったエドガーがヘルヴィを遊びに誘うことをためらっているのだろうと推測したアルは『分かりました。では僭越ながら』とため息をついてから再びエドガーに向かってフォークの切っ先を向けた。

 

「良いですか? エドガー先輩には恋愛的な攻めるデートは無理です」

 

「ばっさり行くな! いくら俺でも傷つくぞ!?」

 

 上段からの唐竹割のようなバッサリとした意見がエドガーを両断する。その意見に異を唱えたエドガーだが、アルが『出来るんですか?』とエドガーの目に視線を合わせると『うっ』と声を詰まらせた。

 その反応に再び大きなため息をついたアルは食事を続けるために手元の皿を動かして腸詰や野菜を取り分ける。

 

「多分ですが、エドガー先輩はまだ恋心というものを抱いていないのでは? 切磋琢磨していた友人であり、同期がいきなり頬にキスという友達以上の親愛行為をしてきて戸惑っているのでは?」

 

「そうだな。正直、戸惑っている」

 

 図星を突かれたエドガーは自身の感情をようやく認識したのか俯いていると、皿に取り分けた野菜を兎のようにモソモソ食みながらアルは指を1本立てて『こふぁえはひほふです(こたえはひとつです)』と答える。正直、マナー的には最悪の部類なのだが、せっかく相談に乗ってもらうのにそれを指摘するのは不義理だろうとエドガーは無視して拝聴の姿勢を取った。

 

「いつもどおりの遊び方をしましょう。そして、改めてヘルヴィさんの良さを見つけて好きになっちゃえば良いんです。第1中隊の隊長さんは相手の出方を観察してその場にあった対応をするのが得意と聞きますよ?」

 

「そうだな。変に行動に起こしてぎくしゃくするよりいつもどおり接することにするよ」

 

 アルの『いつもどおり』というアドバイスにエドガーは憑き物が取れたかのように笑うと都合3杯目の杯を飲み乾した。

 

***

 

 時は戻ってフォンタニエの喫茶店。ミシリエでの出来事を思い返しながらアルが紅茶で口を湿らせながら目の前で顔を赤くしているヘルヴィに声をかける。

 

「エドガー先輩はなんと?」

 

「いつもと変わらない感じでたまには息抜きに遊びに行かないか? と言われたんだけど」

 

「では、いつもの服装でいいのでは?」

 

 過去のことを思い出して少しだけもやったのか、やけ気味に手元のケーキを口に放り込んだアルはぶっきらぼうに答える。ケーキの甘味が気だるげな状態にあった脳に強かに叩き込まれる感覚にアルの脳内に住む白髪の少年が『甘味は良い。リ○ンが生み出した文化の極みだ』と囁き、アルもそれに大いに同意する。

 そうしていると先ほどの返答に不満なのか『でもね』とヘルヴィがさらにアルに向けて声をかける。

 

「ちょっと前に関所でキスしちゃったからもしかしたらデートなのかなと思っちゃって」

 

「ああ、だからいつもの服装かデート用にキメた服装か悩んでいると」

 

「そうなの!」

 

 本当に困っている様な声につい答えてしまったアルの言葉にヘルヴィは悩みを分かってくれたとばかりにヘルヴィは首を上下させるが、そんなヘルヴィ様子に真っ先にアルが疑問に思ったのは『なぜに自分を相談相手に選んだ?』ということだった。

 反射的に同性で恋する乙女という条件からアディの名前をアルの頭のデータベースが浮かんだが、すぐさま『恋する対象がエル+色恋に関してあまり良い提案が出来なさそう』という反対意見が思い浮かんだ。また、他の女性団員達もどちらかと言うとどこかの脳筋(だい2)中隊と同じように野次る傾向がある。それに、騎操鍛冶師(ナイトスミス)以外の女性団員を全て第3中隊に回したせいもあってか、ヘルヴィもなかなか相談しにくい立場なのだろう。

 

(メンタリスト雇いてぇ。精神分析に技能振ってる人雇いてぇ)

 

 結論的に今世、前世共に色恋の敗北者の自身に白羽の矢が立ったのだと理解したアルは、心の底から机の上で出来るRPGゲームのスキルを持っている人材を所望するのだった。本来ならば『知ったことか』と突っ返す相談事だが、設立当初から色々お世話になっている仲間ということもあってかアルは中々邪険に出来ずに腹の中から湧き出てきた闇を紅茶で無理やり飲み下した。

 

「ヘルヴィ先輩ってエドガー先輩をまぁ、好きなんですよね?」

 

「…………うん」

 

 両手の人差し指を突きあっていたヘルヴィがたっぷり余白を取りながらアルの問いに答え、その返答に『まぁ、エドガーさんの気持ち知ってるんですけどね』と心の中で舌を出しながらアルが手を前で組むというどこかの司令官のようなポーズを取る。

 

「多分ですが、エドガーさんは友達だと思っていたヘルヴィさんがいきなりキスという愛情表現をしたことに困惑してるんですよ」

 

「え、あのエドガーが?」

 

 アルの口から出てきた憶測にヘルヴィは目を丸くする。性格は超がつくほど真面目なエドガーが狼狽える姿を想像したヘルヴィが小さく吹き出しながら『似合わない』と呟いていると、続けてアルは『いきなり好意を持たれた相手には奥手になる人も居るんですよ』と自身の根拠に基づいた意見を述べた。

 

「そうなの?」

 

「逆の立場で考えてみてください。ヘルヴィさんはどうします?」

 

 アルの疑問にヘルヴィは自身がテレスターレの仇に執念を燃やし、エドガーが元乗機のことを考えてくれたという嬉しさのあまり、ヘルヴィにキスする様子を思い浮かべる。少しだけ、『あ、良いかも』と頬を赤らめながら呟くが、目の前でアルが寒気がするような視線を向けていたので咳払いをしながら『殴るわね』と取り繕った。

 

「まぁ、惚れた腫れたは良いんですよ。ただ、相手に好きだって認識させてあげないといつまでも平行線ですよ?」

 

 そう言いながらアルは仏頂面で紅茶のお代わりを頼む。

 アルがこれだけ言うのも、前世でちょっと優しく接してきてくれた女性に『ひょっとしてこの人、僕のことが好きなんじゃね?』という痛い勘違いによって玉砕したからである。この玉砕は後に噂を聞きつけたエル──前世の倉田がアニメメドレーを企画することで『ヘルメットが無ければ即死だった』とサムズアップするぐらいには回復することが出来たのだが、その失敗による後悔を後生大事に今世まで持ってきていたアルは、『人に聞かせるべきは成功談ではなく、失敗談』という精神でヘルヴィに共有することにした。

 

「例えば小物なんか良いですね。いつもの服装……はちょっとやめて露出が控えめな服に小物を添えて女の子っぽさを加えるのも良いかもしれません。ですが、ここで勇んでは引かれてしまうこともあるので、ちょっとずつ仲を深めていくのが良いかもしれません」

 

「やけに具体的ね」

 

 そう言いながらもメモはきっちりと残したヘルヴィがお礼を言いながら店員に会計を頼もうと手を挙げる。すると、その手をアルが掴んで『ここが僕が持ちます』と自らの鳩尾を叩いて咳き込んだ。

 

「その浮いたお金で洒落た小物でも買ってください。ヘルヴィさんは魅力的ですから、きっと良い物が見つかるはずです」

 

「ありがとね」

 

 年下に奢られることに拒否感を示したヘルヴィだったが、アルの一言でクスリと笑うと店から出ていく。その姿を見送ったアルは店員に頼んで席をカウンターに移してもらうと開口一番でこう注文した。

 

「紅茶ください。ものすっごい渋いので」

 

 そのこの世全てのリア充を妬むような殺気がこもった顔を前に店員は優しげな表情で紅茶を淹れ始めた。

 

***ジャロウデク脅威のメカニズムの章***

 

 とある日。アルは日課の『家政夫は見たごっこ』と『近衛ごっこ』をした後、一目散に飛空船(レビテートシップ)の発着場へ向かった。

 

「バトソーン、今やってる?」

 

「絶賛分解中だよー」

 

 居酒屋に営業しているか問うようにアルがバトソンに近づくと、飛空船(レビテートシップ)の残骸を運びながらバトソンが疲れた表情をしながら答える。彼はここ数日働き詰めで、ようやく明日休みが取れることを思い出しながらアルは『明日休みですし、明日に疲れを残さないように』と注意しながら飛空船(レビテートシップ)の残骸を乗り越えながら奥へ突き進む。

 

「よっす」

 

「よっす。そういえばレビテートシップについて先ほど情報共有がありましたよ」

 

 先に来て部品を弄りまわしていたエルと軽く挨拶したアルは、本日藍鷹騎士団からもたらされた情報をエルから聞く。

 ティラントーを調査した際に明らかになった源素晶石(エーテライト)という鉱石が収められた不思議な部品。その部品が飛空船(レビテートシップ)の動力炉に多数配されており、ジャロウデク軍はこの動力炉を『源素浮揚器(エーテリックレビテータ)』と呼称していたらしい。

 ただ、ティラントーや源素浮揚器(エーテリックレビテータ)に備え付けられた部品の名前については未だ分かっていないらしく、『いつまでもあの部品ってのもどうかと思いますからね』とエルはこの装置を勝手に『源素供給器(エーテルサプライヤー)』と名付けることにしたらしい。

 

「兄さん、このエーテリックレビテータを自在に動かせたらビット兵器になるんでね? やってみます?」

 

 すると、件の源素浮揚器(エーテリックレビテータ)を見ていたアルが珍しくエルを『遊び』に誘う。その誘いにエルは『ティラントー持ってきます』と返しながらどこかへ駆けて行き、アルは源素浮揚器(エーテリックレビテータ)周辺に点在する廃材から銀線神経(シルバーナーヴ)と数十枚の銀板を集めて源素浮揚器(エーテリックレビテータ)の前に陣取った。

 

「まずは推進器っと」

 

 集めてきた銀板の中から比較的大きな銀板を4枚ほど吟味し、アルは爆炎術式を刻み込んだ。それらを源素浮揚器(エーテリックレビテータ)の上下左右に配し、落ちない様に銀線神経(シルバーナーヴ)で固定する。そうしているとエルがティラントーに乗ってやってきたので、アルは固定した銀板に少量の魔力を流し込んで動作確認を行い、エルは源素浮揚器(エーテリックレビテータ)にくっ付いている複数の源素供給器(エーテルサプライヤー)銀線神経(シルバーナーヴ)を延ばし、ティラントーから直接操作できるように魔導演算機(マギウスエンジン)に手を加えた。

 

「エーテリックレビテータよしっ!」

 

「推進器よしっ!」

 

 指差し確認が終わった2人は早速装置を起動させる。外気に接触したことで源素晶石(エーテライト)から高濃度のエーテルが精製され、源素浮揚器(エーテリックレビテータ)に充満する様子をアルが今か今かといった様子で見守る。すると、まるで風船みたいに金属の塊である源素浮揚器(エーテリックレビテータ)が地面から数十cmほど浮かび上がった。

 

「エーテルサプライヤーが足りないんですかね」

 

「まぁ、今は推進器で動くか試してみましょうよ」

 

 議論は後にしてとにかく遊ぼうとアルは銀線神経(シルバーナーヴ)に魔力を送り込む。魔力は寸分の狂いなく爆炎術式の刻まれた銀板に到達すると、爆炎を発生させることで源素浮揚器(エーテリックレビテータ)を今の位置から移動させた。

 

「いけ! ファ○ネル!」

 

 右、左、上と順番に源素浮揚器(エーテリックレビテータ)は爆炎を撒き散らしながら空中を移動するので、アルはだんだん楽しくなってきたのでアニメで見た無線式の兵器の名前を叫びながら源素浮揚器(エーテリックレビテータ)を機敏に動かそうとするが、貼り付けている銀板の数が足りないのか動きはかなり遅かった。

 

「オールレンジ攻撃をするにしてもこの大きさでは1基背負うだけでキャパオーバーですね。操作方法も特殊ですし」

 

 『そもそも有線だからイン○ムだろ』というツッコミはあえてせず、エルはこの遊びによって分かった課題点を洗い出す。幻晶騎士(シルエットナイト)で行うオールレンジ攻撃は確かに魅力的だが、操作は魔導飛槍(ミッシレジャベリン)よりも難しい。さらに源素浮揚器(エーテリックレビテータ)の大きさや使用する源素晶石(エーテライト)によって機体重量を跳ね上げてしまって機動性が著しく低下してしまう。これを実戦投入するのはそれらの問題を解消する必要が出てくるので、今この段階で実用化は厳しいと2人は結論付ける。

 

 しかし、2人の実験と言う名の遊びはこれだけに留まらなかった。ふと顎に手を置いて思考を巡らせたアルが源素浮揚器(エーテリックレビテータ)を指差すと『飛空船(レビテートシップ)を浮かび上がらせるほどのエーテルを魔力転換炉(エーテルリアクタ)に入れたら大出力が見込めるのでは?』と提案。その後の2人の動きは迅速だった。

 

「やりますか」

 

「やらいでか」

 

 まず鍛冶師であるバトソンを拉致し、道すがら今回やりたいことの概要を話した。そうすると『ああ、いつものね』と慣れた調子でバトソンが少し考えた末に源素浮揚器(エーテリックレビテータ)の配線を変え、高濃度エーテルをティラントーの魔力転換炉(エーテルリアクタ)に吸入できるように改造を施す。

 

「これでエーテリックレビテータ……だっけ? 起動するとエーテルがエーテルリアクタに吸入されるよ」

 

「助かります」

 

 バトソンにお礼を言ったアルが早速ティラントーに乗り込み、エルが源素浮揚器(エーテリックレビテータ)を全力稼動させる。その瞬間、飛空船(レビテートシップ)を動かすほどのエーテルを吸った魔力転換炉(エーテルリアクタ)が、まるでイカルガを全力で動かしたかのような魔獣の唸り声を思わせる咆哮が轟く。その音に驚いたアルが異常がないかと計器を調べると、先ほどまでゆったりと回復していた魔力貯蓄量(マナ・プール)の計器が振り切れているのが確認できた。

 

「アルー、変わったところはないですカー」

 

「凄い、5倍以上のエネルギーゲインがある」

 

「あ、この子ダメですね。既に頭が天パになってます」

 

 出力が急激に上がったことで気分はすっかり機動で戦士なロボット物の主人公になってしまったアルを一端放っておくことにしたエルは工房に鎮座しているイカルガの下まで走る。いきなりイカルガを動かしたことでダーヴィドが怒鳴るが、拡声器から『実験のためです』と意味が分からない言葉と共にイカルガが工房から出て行った。

 一瞬、先ほどの言葉に頭から疑問符が溢れた騎操鍛冶師(ナイトスミス)達だったが、いち早く事情を察したダーヴィドと初期段階で銀鳳騎士団入りした騎操鍛冶師(ナイトスミス)達は『またか』と言いながらイカルガの後を追う。イカルガはフォンタニエ近くの発着場たどり着くや否や作業をしていた騎操鍛冶師(ナイトスミス)達に退避を指示してから、最近分かった船を浮かび上がらせる部品の前に陣取ったティラントーに相対する。

 

「では、出力を図りましょうか」

 

「ラージャー」

 

 ティラントーからアルの返事が聞こえると共にティラントーは左右の手でイカルガの左右の手を掴むという手四つの姿勢を取った。イカルガは主炉である皇之心臓(ベヘモスハート)を起動せずに体勢を整え、準備が完了したと同時に合図を出す。

 

「うぉ、あのティラントー! クィーンズコロネットを使ったイカルガと互角じゃねぇか!」

 

「いや、徐々にティラントーが押しこまれてるぞ!」

 

 軋みを上げながらもイカルガとやや拮抗気味のティラントーにダーヴィドは驚く。いくら重装甲のティラントーでもイカルガの過剰とも言える魔力とそれにより引き出される膂力の前では一瞬で内部機構を潰しながら力負けすると思っていた。だが、一般の魔力転換炉(エーテルリアクタ)1基で女皇之冠(クイーンズコロネット)しか使用していないとはいえ、イカルガにやや劣る程の出力が見込めることに『全機体にこの装置をガンガンくっ付けるべきじゃないか』と考えていた。

 

「そっちのマナ・プールはどうですか!」

 

「まだまだ余力ありです! うちでもこのエーテルサプライヤーを複数導入すべきではないかとぉ!!」

 

 魔力貯蓄量(マナ・プール)に余裕があるのか嬉しそうに報告するアル。それを聞いたエルもこの結果に大いに満足していた。──だがその瞬間。ティラントーの面覆い(バイザー)が突然光を失い、そのままイカルガの膂力に押し出される形でものすごい勢いで後方に吹き飛ばされた。

 

「アル!」

 

「銀色小僧! お前ら! 急いで担架持って来い!」

 

 残骸の山にぶち当たりながら発着場を突き抜け、木々に数度ぶつかったことでようやく停止したティラントーに全員が騒然となった。慌ててイカルガを飛翔させて近くに降り立ったエルが幻像投影機(ホロモニター)越しでボロボロになったティラントーを確認していると、ティラントーの操縦席を保護する胸部装甲が魔法によって弾け飛ぶ。

 

「いやぁ、危なかった。やっぱりシートベルトとエア・サスペンションはやっておくべきですね」

 

 ケロッとした様子で出てきたアルに冷えていたエルの肝も熱を帯び始める。その後、担架を振りまわりながら怒り狂うダーヴィドや騎操鍛冶師(ナイトスミス)達をなんとか宥め、なぜいきなり吹き飛ばされたのか原因を調査する銀鳳商騎士団一向だったが、後に魔力転換炉(エーテルリアクタ)の動作が完全に停止しているという驚くべきことが分かった。

 

「うげ、炉が完全に死んでやがる」

 

「こちらは魔力出力が安定しません!」

 

「こっちの実験機は駄目だ! 完全に動作を停止してる!」

 

 その後、事象検証のために『源素浮揚器(エーテリックレビテータ)とティラントーの魔力転換炉(エーテルリアクタ)を繋げた状態で大量の魔力を消費する行動』を数機のティラントーで行うが、どれもが魔力転換炉(エーテルリアクタ)が完全に動作を停止するという結果となった。そのことにより、高濃度のエーテルは魔力転換炉(エーテルリアクタ)を劣化させるということが分かったダーヴィドや騎操鍛冶師(ナイトスミス)は改めてジャロウデク王国という大国の力を再確認した。

 

「銀色坊主、俺達本当に勝てるのか?」

 

「いやー、流石に心臓部を使い捨てにするとか大国は違いますねぇ。見事な技術です」

 

 ダーヴィドが珍しく弱気になる反面、エルはあっけらかんとこの理論を開発した技師を褒める。その言葉に『敵を褒めてどうするんだよ』というツッコミが入るが、その言葉を聞いたアルは人差し指を立てながら『僕の尊敬する人の言葉にこういうのがあります』と言葉を続ける。

 

「どんなに技術が進んでもこれだけは変わらない。モノを作る人間、整備する人間に使う人間、人間の側が間違いを起こさなければモノも決して悪さはしない。技術を憎んでは技術が停滞します。この技術獲得を機に戦争を吹っかけた人間を憎むべきです」

 

「たしかに技術を憎んで使わないのは宝の持ち腐れだな」

 

 とある整備の神様の言葉を引き合いに出しながらアルは心の隅でジャロウデク王国内に存在するであろう魔力転換炉(エーテルリアクタ)の産地への心配をする。

 この魔力転換炉(エーテルリアクタ)の使い捨てという所業は間違いなく産地の職人を蝕んでいる。どのような職人が作っているのかエルから話を余り聞いていないアルには見当も付かないが、この運用法を長く続けるのはいかに国力が高いジャロウデク王国にとっても痛手になるのではないかとアルは考えていた。

 

「ちゃっかりあの班長の言葉を使いましたね」

 

「お互い両親よりも長い付き合いじゃないですか。……フヒヒ」

 

 ちゃっかり自分も使いたかったセリフを取られたエルは肘でアルの横っ腹を突きながらツッコむが、またしても整備の神様の名言から持ち出すアルにエルは『ずるいですよ』と口を尖らせる。

 そうしていると発着場に夕日が差し込んできたので、ひとまず今日の作業はここまでだとダーヴィドが叫ぶ。その大声量に発着場に居た騎操鍛冶師(ナイトスミス)達は次々と発着場を後にし、ダーヴィドも工房に居る仲間に作業の終了を伝えるために工房へ戻っていった。

 

「アルはこの戦いはどういう方向に行くと思います?」

 

「このままジャロウデク側が何もしないとなると、時が相手を弱体化させますね」

 

 帰り道、エルはこの戦いの行く末について自身よりも多方面の知識を浅く広く吸収しているアルへと疑問を投げかけると、心配性のアルとしてはいささか楽観的な意見が返ってきた。だが、たしかに今回の源素供給器(エーテルサプライヤー)の件、『炉の劣化と引き換えに大出力を得る』という効果を鑑みると相手が源素供給器(エーテルサプライヤー)を使用するごとにいつ魔力転換炉(エーテルリアクタ)が停止するか分からないチキンレースを強いられ、魔力転換炉(エーテルリアクタ)が止まると本国からまた新しい魔力転換炉(エーテルリアクタ)幻晶騎士(シルエットナイト)を送ってこなければならない。

 さらにクシェペルカ陣営や銀鳳商騎士団の実働部隊も動いてはティラントーを持って帰ってきたりしているので、その分も加味するとアルの言っている弱体化と言う言葉は間違いではないのだろうとエルは納得した。

 

「ただ、あちらにも優れた技術者が居ることが今回やレビテートシップの強化のことで分かりました。ならば相手も二の矢、三の矢があると考えたほうが良いでしょう」

 

「ほう、ではその貴公の考えを聞かせてもらえないだろうか」

 

 屋敷に入ってもなお話し合っていたからか、唐突に後ろからマルティナが会話に参加してくる。それに驚いたアルが後ずさっていると後ろから筋肉質な腕がアルの脇から手を突っ込んでそのまま宙吊りにした。

 

「銀の長、こいつ借りるぞ」

 

 アルを宙吊りにしたエムリスがそのまま猫を借りるかのようにエルに声をかけ、エルは『作戦とか相手の思惑を考える力は僕よりも上ですからねー』とあっさりと許可を出す。そんなやり取りに『残業やだー! ○ー人事ぃ!』と叫び声を垂れ流しながらアルは連行されていく。その姿にエルは『ほんとあの子、仕事が増えるからやらなくても良い所まで勉強しちゃうの変わらないなぁ』と昔のことを思い出しながらお楽しみの設計をするべく部屋の扉に手をかける。

 その瞬間、部屋から伸びてきた銀鳳商騎士団所属のA氏の腕に捕まって部屋に引きずり込まれ、それ以降朝までエルを見かけた者は居たとか居なかったとか。

 

***

 

「ふーむ。導き出される推測を増やそうとねぇ」

 

「えぇ。エレオノーラも勤めを果たそうとしてくれていますが、我々ではジャロウデクの動きから推測することしか出来ません。なので、1つでも推測を増やそうとしていたのです」

 

 ところかわってラスペード城の会議室ではマルティナとエムリスとアルが地図を置いた机を挟んで会話をしていた。会話の内容はここ最近のジャロウデク軍の動きで、どうやらミシリエまでの烈火のような攻撃的な戦略から拠点に篭もるという消極的な戦略に変わったらしい。ティラントーの装備も大型の盾といった防衛仕様に換装されており、エドガーやディートリヒといった銀鳳商騎士団の応援があっても中々進軍できない状態が続いているのだとか。

 その傍らで装甲や法撃戦仕様機(ウィザードスタイル)──魔導兵装(シルエットアームズ)を両手やサブアームに装備させたティラントーを用いた強化型の飛空船(レビテートシップ)が輜重隊を襲うという事態に、クシェペルカ王族はジャロウデク軍の意図が全くといっていいほど分からなかった。

 

「再編成の時間稼ぎ……本国からの応援……駄目ですね。推測だけなら星の数だけありますが、確証がないです。ただ、時間稼ぎをされているのは分かります」

 

「やはりアルフォンスでも駄目か」

 

「若旦那は僕のことを軍師だとお思いで? 騎士ですよ? セイバーですよ?」

 

 エムリスの打つ手なしといったため息にむっときたアルが運命と出会う的なゲームのクラスを言いながら反論する。だが、エムリスはそんな反論に耳を貸さずに『時間稼ぎなのは分かるんだがなぁ』と悩みを噴出させるが、いつまで経ってもその時間稼ぎから新たな案が生まれることはなかった。

 

「今の状態ってジャロウデクの側で立つとピンチなんですよね。もしかして兄さんみたいに一騎当千の英雄とか最終兵器とかそんなのが投入されたりとか──違いますよね。うん、この話はなかったことに」

 

「俺もそれは考えたが、そんな騎士が居るなら今まで戦場に出さない理由がない。その最終兵器にしてもこの戦いの序盤に投入されてるはずだ。それに、仮に現在作っているという話ならこんな短時間で出来上がるはずないだろ」

 

「ですよねー。ひとまず僕はジャロウデクが残したシルエットナイトやレビテートシップの調査結果まとめてきまーす」

 

 『アデュー!』と余計なことを言って噛み付かれないようにアルは素早く会議室から脱出する。その十数秒後、エムリスが会議室から勢いよく飛び出して『飛空船(レビテートシップ)の謎が分かったのか!?』と叫ぶが、既にアルの姿は忽然と消えていた。

 まるでキツネに摘まれたような感覚に陥りながらもエムリスが会議室に入りなおすとマルティナが『リース』とエムリスを呼んだ。

 

「あの少年だが、やっぱりこちらにくれないかい?」

 

「それはおや……陛下に言ってくれ。だが、俺としてもあいつはやれねぇな」

 

 『銀の長と比べて扱いやすいし、なにより幻晶騎士(シルエットナイト)以外のこともある程度できるからな』と快活に笑うエムリスにマルティナは『たしかに』と釣られて笑う。もしこの状況をアルが聞いたら『勝手に人を売り物にするな! 出る所出て勝ちますよ!』と憤慨する所だが、現在アルはものすごい勢いで資料を作成しているため、自身が割かし王族に気に入られていることなど知りもしなかった。

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