銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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ちょっとあわあわしそうなので、先んじて大量投下です。

スパロボ30で個人的に名(迷)場面。

相変わらずアルが居る分、構成や内容は少し変わっていますが、ネタバレになるので注意です。

皆もDLC買お・・・買え!(豹変)
ロボ談義も良いぞぉ。


幕間(連邦軍アイドル化計画)

 ドライストレーガーの厨房で『ミツバ・グレイヴァレー』や『スズカゼ・リン』といった女性艦長達の話を右から左に聞き流しながらお茶請けのパンケーキを焼いていたアル。そこに数人の声が混ざったので、人数の追加かと思ったアルは焼きたてのパンケーキの皿を数枚持ちながら厨房から食堂に進み出た。

 

「ミツバ艦長。スズカゼ艦長どうしたんです?」

 

「ああ、アル君ありがとう。うーん、連邦軍の広報活動でなにか意見がないかって……」

 

「……で、女性陣が集まってると。良いアイデア出ました?」

 

 『はちみーはかければかけるだけ幸せになります』とハチミツの瓶を置いたアルの問いかけに、ミツバはパンケーキを受け取りながらスズカゼと共に否定を現すように首を横に振る。そんな2人に対し、アルに『ピザはないのか?』と問いかけていたC.C.という女性は呆れたような声を出した。

 

「だから、アイドルグループを出せば良いだろう。今までお堅いイメージのあった軍がこのようなことをするというギャップで盛り上がるに違いない。それに、この艦には美人も多いだろう」

 

 C.C.の発言にアルは納得する。たしかにお堅い連邦軍がアイドルを発足するのはギャップ的に面白くもあり、なにより斬新だ。前世でもビールの広告に美人の水着姿を載せることで売り上げが上がったという話もあるので、美人の起用は広告にぴったりである。

 

「あー、なるほど。アディ辺りは可愛いですし、歌も上手いですよ。かけっこも早そうですし」

 

「それを決めるのは私だ。それに、ちょうど良い所に居るじゃないか」

 

 最近、サイバスターを『乗れそう』と興味津々で見ていた幼馴染を推薦したが、C.C.は『お前は何もわかってない』とばかりに首を振ると白く細い指がアルの顔を指し示す。最初、意味が分からなかったアルだったが、周囲の反応から意図を察するとくるりと綺麗な回れ右を行ってから厨房へ向かう。

『さーて、スターローズで仕入れたイカを下処理でもするか』と自分は無関係を必死に装うが、肩を強く掴まれながらぐるりと反転させられる。目の前にはC.C.が相変わらず細い指をアルの目の前にロックオンしていた。

 

「なんですか? その指を折って良いんですか?」

 

「おやおや、銀鳳騎士団の副団長ともあろうお方が……このようなか弱い婦女子の指を手折ろうと言うのか?」

 

「アル君、お着替えする? するわよね?」

 

「もしもし……私だ。至急広報部にアイドル発足の計画書を作るように依頼しておいてくれ」

 

 四面楚歌。そんな言葉がぴったりの状況にアルは──一目散に逃げた。広いドライストレーガー内を右に左に走り、格納庫に逃げ込んだアルは自分の愛機の中でジッとしておこうと思ったが、ふとエルの存在を思い出した。

 直接制御(フルコントロール)の前には胸部装甲は簡単に開けられてしまい、中に隠れているとすぐに捕まってしまうだろうと考えたアルはパッチワークよりも遥か遠くにある交番(デッカールーム)を目指すより、近くに突っ立っていたヒュッケバイン30の操縦席に飛び込んだ。

 

「え、ちょ……何?」

 

「アズ、匿って下さい」

 

 突然アルが操縦席に飛び込んできたことに驚いたアズだったが、必死すぎるアルの形相に『分かった』とアルを招き入れてからハッチを閉じた。ようやく外部と遮断されたためにようやく一心地ついたと息を吐いていたアルに、アズがどうしたのかと聞くと、『Pが……Pがスカウトに来るんです』と再び錯乱した様子で答えた。

 『P』という謎の存在にアズが首を傾げると外でミツバが呼んでいたのでハッチを開けて外を見ると、ミツバやC.C.が黒の騎士団所属の『紅月カレン』やらチームラビッツの『イリエ・タマキ』やら様々な女性を連れて手を振っていた。

 

「どうしたんですか?」

 

「アル君見てない? こっちに走っていったって聞いたの」

 

「……知りません」

 

 後ろで震えるアルの気配がしたアズは咄嗟に嘘をつく。そうするとC.C.が『ちょうどそこにエルが居るし、アルは別に良いだろ』と諦めたように言うとミツバは心底残念そうな表情を浮かべ、メンテナンス中のナイトメアフレームから取り出されたユグドラシルドライブを前に設計図を描いていたエルに近づいた。

 

「残念。エル君、実はかくかくしかじかで……頼めますか?」

 

「シカクイムーブ……と。ほうほう、アイドルですか。歌には自信はないですが、限定プラモと限定版ロボアニメDVDとスーパーロボット大戦300の特装限定版で手を打ちますよ」

 

「分かったわ。アル君だったらごり押しで頼んだら着替えとかしてくれそうだったけど、エル君は……頼んだらもっと報酬上がりそうだし、そのままでお願い」

 

「よし、じゃあメンバーも決まったことだし食堂で話を詰めるか」

 

 C.C.の音頭でそれぞれが食堂へ向かう。その様子に心なしか呆れていたアズは、操縦席でようやく落ち着いたアルに向かって『地球でパフェ奢って』と対価を要求をしたのだった。

 

 その後、『リンリンキャンディドロップス』というかなり古いネーミングセンスを感じるアイドル集団が発足。アイドルには欠かせない本格的なダンスレッスンやボイストレーニングといったことをせず、いきなり記者会見へ望むというバクシン的行動にアルは『ウソデショ……』と呟くが、既に予定は決まっているらしく『俺しーらね』と小惑星の基地へ向かうアイドル達(一部男)からそっぽを向くと、アルの肩を諸悪の根源(C.C)が掴んだ。

 

「何をしている? 行くぞ、マネージャー。念のために機体も持って来い」

 

「やだぁ! こんなイロモノアイドルのマネージャーとかイヤだぁ! もっとシンデレラでミリオンでシャイニーなうまぴょい集団のマネージャーしたいぃ!」

 

「だれがイロモノよ」

 

 カレンの指から繰り出される超パワーによるアイアンクローをかまされたアルは『ガァァァ!』という悲鳴を上げながらブリーフィングルームから連れ出され、そのままパッチワークと共に小惑星の基地へ連行されていった。

 

***

 

「なぁ。あそこに居るのエルだよな? なんで男が混じってるんだ?」

 

「エル君は可愛いから問題な~し。私が出るより絶対良い!」

 

 チームラビッツの『アサギ・トシカズ』の言葉にアディの問題しかない言葉が突き刺さる。胃の辺りを押さえるアサギに、アルは背中をさすりながらもアイドル(?)のお披露目をチベットスナギツネのような冷ややかな目で見物する。

『あなたの心にブースター』はかろうじて意味は分かるが、『ギザギザハートに輻射波動』はもはやハートが解けているのではないか。『がんばる日々にロボットを』は一般人には受け入れられ辛いと思うし、『疲れた身体にアメとムチ』や『お疲れキャンディ メロメロポップ』はもはや何を言ってるのかすら分からない。

 

(艦長ってたしかにじゅ……いや、よそう。どうせ、10年後ぐらいになると黒歴史で苦しむことになるんだから)

 

 20歳を超えているアイドルも沢山居るので、比較的若い女性に囲まれていたとしても問題ないと思ったアルがエルへのインタビューに耳を傾けるが、絶好調な様子でロボのことを話そうとしだしたので『社会人んんん!』と心の中で絶叫した。

 ただ空気を読めるキャスターだったのか、マイクはエルからカレンへとパスされ、事態は沈静化……しなかった。『アイドルグループの活動について』という質問に、『祝勝パーティで宴会芸をします』というぶっ飛んだ答え方をしたので、一瞬にして辺りは騒然となる。

 

(アル君! ヘルプ!)

 

(貸し1で)

 

 瞬間、アルとスズカゼの視線が交差する。目での合図を受け取ったアルは懐から紙を取り出し、一瞬の内に作った笑顔を浮かべるとカレンとキャスターの間に割って入って行った。

 

「もー、カレン先輩カンニングペーパー忘れちゃ駄目ですよ~! あ、すみません。カンニングペーパーってこと言っちゃった」

 

「え……え?」

 

 いきなりカンニングペーパーと言われたカレンが混乱しているが、アルは気にせず『ばれちゃったんですから、ついでにここで私が答えちゃいますね』とワクワクした様子でキャスターの質問に次々と答えていく。所々、『先輩、ここに書いてるやつで良いですか?』と真っ白な紙を見せるアルに、カレンはただ頷くだけしかできなかった。

 

「はい、ありがとうございました。ところで、貴女のお名前は?」

 

「カレン先輩の1番弟子! アカシであります!」

 

(上手い! これなら後輩が目立とうと張り切ったといえば何とかなる! ……それにしても、さらっと偽名使ったわね)

 

 このフォローにスズカゼも心の中でガッツポーズ。カレンへの質問が終わり、次にタマキへの質問が開始される。──のだが。

 

(アル君、フォロー!)

 

(無理です! 後輩キャラ使っちゃったので無理です!)

 

(ああぁ! ジョーカー最初に切っちゃったぁ!)

 

 タマキ、ウェンディと、もはや広報活動になっていない受け答えにスズカゼはアルに向かって必死に合図を送るが、既に後輩キャラになってカレンのフォローに入ってしまったアルがここでしゃしゃり出るのは明らかに空気が読めていない。

 それを理解しているからこそスズカゼも心の中で絶叫を上げながら『アル』という最大のジョーカーを早々に切ってしまったことを悔やみながらインタビューを無理やり締め切ろうとする。

 

 だが──

 

「あ、スズカゼ艦長キレた」

 

「良かった。あそこに居なくて」

 

「アズ、口と顔が別だぞ。私としてはアルとアズのコンビを売り出す腹案もあったんだがな」

 

「C.C.それ以上は余計な混乱を生む」

 

 『アイドルのメンバーに見えない』という売り言葉に買い言葉で再び騒然となる会場を前にアズが一言呟くが、顔は熱に浮かされたように昂揚している。女子たるもの、一度はアイドルを夢見る生物なのかと身勝手なことを思いながら、極力C.C.の言うことを無視したアルは『ちょっと流れ変えてきます』とマイクを向けられたミツバの元へ急ぐ。

 

「ミツリ……ミツバさん、そんな硬い言葉じゃ伝わりませんって。リラックスリラックス」

 

 軽い口調と共にマスコミの中から姿を現したアルはミツバに近づくと手招きする。ミツバは不思議そうに少し中腰でアルに顔を寄せると、アルはいきなりミツバに抱きついた。そのまま落ち着かせるように背中をとんとんと叩きながら『リラックスですよ~』と甘い言葉を吐きながら、合間に『フォローお願いします』という切れ味の鋭い口調でミツバに囁く。

 

「あの、アカシさんでしたっけ? ミツバ……ミツリンさんとはどういったご関係で?」

 

「お世話になってる艦長さんです。よく、戦術とかの勉強でお世話になってます。今回は私も始めて聞く単語ばかりなので。皆さんも私と一緒に分からないことを質問して、噛み砕いて説明してもらった方が分かりやすいと思いまして……駄目でしょうか?」

 

「い、いえ。助かります」

 

「では……まず──」

 

***

 

「疲れた……もうやらん。絶対やらん。二度とやるか!」

 

 ドライストレーガーの食堂でアルは机に顔を押し付けながらモガモガ文句を言う。周囲にはアルの行った行動……というかフォローの数々に『兜 甲児』や『アムロ・レイ』が『おつかれ』と肩を叩いている。

 

 あの後、ミツバの会見が予想以上に時間がかかり、そろそろお開きといったところで基地はウルガルからの襲撃を受けた。対応できるのは機体を積んできたリンリンキャンディドロップスの紅蓮特式、ローズスリー、イカルガの3機。──と、マネージャーとして積んでいた『アカシ』と名乗る人物のパッチワークだけであった。

 

 ただ、この会見はリンリンキャンディドロップスのお披露目。つまり、立派な広報活動ある。

 なのでアカシもとい、アルはパッチワークを極力目立たせないように基地の外壁で盾と魔導兵装(シルエットアームズ)の準備をしていたのだが、話はそう簡単にうまくいかなかった。3機の内の1機は自身が愛機に施した無茶な改造によるマシントラブルによって停止し、2機のコンビネーションがガタガタで作戦もなくただ道行くウルガル機を狩る猪武者に成り下がっていた。

 

 そんなちぐはぐな状況を目の当たりにした後、無関係の1機が通常の任務と同じような感じで敵機を弱らせては共同撃破の足掛かりにしていったらどんな扱いを受けるか。そう、『進学校出身の子供がレベルの低い学校に進学した場合のあれ』である。

 ドライストレーガーの食堂に備え付けられたテレビでは、先日のリンリンキャンディドロップスの記者会見の様子が映されており、前半の記者会見から後半のウルガルとの戦闘シーンまで、全て赤裸々に報道されており、それを見たタマキやカレンは意気消沈していた。

 

「ちらちらと僕映すのやめてくれませんかね……いや、最後にでかでかと持ってくるのも止めてほしいんですが」

 

「ふむ、やはりアイドルの素質という物は隠していても滲み出てくるものなのだな。やはり私の目に狂いはなかった」

 

 リンリンキャンディドロップスメンバーの残念な部分の合間にカレンをフォローするシーンやミツバを抱擁しながら落ち着かせるシーンが挟まれており、戦闘の場面でも基地からの狙撃で何機か落とすシーンや自機の装甲が多少溶解しようともウルガル機の攻撃から基地を守るシーンが取り上げられていることにアルは、『えぇい! パッチワークは良い! イカルガ達を映せ!』と食堂のテレビを持ち上げようとし、アムロに『やめなよ父さん!』と謎の言葉をかけられながら止められていた。

 

 そんな様子をまるで『私が原石を見つけた』と言いたそうな表情で見るC.C.の横に居るルルーシュに向かってアルの極寒の視線が飛んでいった。

 

「ルルーシュさん、この人あなたの嫁でしょ。なんとかしろよ」

 

「いや、こいつは昔からこういうやつ……誰が嫁か!」

 

 そんな騒がしい食堂だったが、レイノルドから『リンリンキャンディドロップスの解散』を宣言される。上層部との通達で計画がストップという妙に生々しい解散に元リンリンキャンディドロップスのメンバーは一部を除いてまるでお通夜のように静かに項垂れていた。

 

「まだ歌も歌ってないのにぃ!」

 

「そうよ! アイドルたる者、歌で皆を魅了できずに解散なんて認められないわ!」

 

 すると、タマキの言葉にウェンディも拳を突き上げながら異を唱える。その言葉に興味を持ったチームラビッツの『ヒタチ・イズル』が『歌ってみてよ』と言った途端、隣に居たアサギに頭を叩かれる。

 案の定、聞くに堪えない歌……歌? のような音楽を冒とくしているようなテンポを声が食堂に響き、ひとしきり歌い終わった食堂にはエアコンの調整が狂ったかのような寒々しい風が吹いていた。

 

「寒くなってきたし……戻ろ」

 

「ああ、アルフォンス君。すまないが、艦長達が君とアズ君を呼んでる」

 

「えぇ……やだぁ。おうちかえして」

 

 通常では口内のストッパーによって外に出ることを防がれるはずの素直な拒否の言葉が、気疲れのせいかアルの口からまろび出て来る。ただ、彼の後ろで『家はここだよ』と無情にもアズの片手がアルの首根っこを掴んでそのまま館長室へ連行される。彼女たちの後姿を見ながら、『アズ君がここを家だと思ってくれた』と胸のときめきを隠せない副長の『レイノルド・ハーディン』がその場で茫然と立ち尽くしていたが、歌のいたたまれなさに続々と食堂から退出していく人の波に押し流されていった。

 

***

 

「嫌です!」

 

「そこをなんとか!」

 

 少し酒臭い艦長室では仄かに頬を赤く染めたミツバがアルの肩を掴みながら拝み倒していた。その必死さに普段は艦長大好きっ子のアズもやや冷めた目をしながら隣で聞いていたが、アルの助けを求めるように視線に気づいてふいとそっぽを向く。

 

「だ・か・ら! アディとかそこに居るアズが居るでしょうが! イケメンならルルーシュさんとかキッドとか甲児さんは……駄目ですね。とにかくいっぱい居るでしょうが!」

 

「取材陣からアカシって軍人について問い合わせが沢山来てるのよ! 上も偽名について把握してないからこっちに確認が降りてきたの!」

 

「ちなみにリンリンキャンディドロップスについての問い合わせは一件も来なかったみたいね」

 

 チームラビッツの運用するアッシュの整備を担当している『西園寺レイカ』の言葉にミツバは軽く凹む。なんでも、地球連邦軍の公式サイトに新たに設置されたNEWザンネン5。もといリンリンキャンディドロップスへの窓口に『アカシと名乗るあの軍人は何者なのか』という問い合わせが殺到し、一時的にサーバーがダウンしたそうだ。

 

 背格好は中学生ぐらいなのに真面目で先輩想い。ちょっとドジな所はあるが、艦長職に物怖じせずに勉強を教えてもらう胆力も持ち合わせている。

 戦闘面に関しても見慣れない専用機持ちのスナイパーだが、ウルガル機を1発。または激しく損壊させて仲間に落として貰うという戦法を駆使し、防御面においても市民を守るために身体を張って攻撃を受け止める姿は未来の地球連邦軍士官として最高の広報要素であった。

 

 この報道を見た上層部は真っ先に連邦軍のデータバンクにアクセスを開始。しかしながら、彼らの求めるアカシちゃんはアルの偽名なので名前だけは合っていても該当するような人物は見当たらず、『ならば現場に聞いてみれば良い』という考えの元、ミツバにお鉢が回ってきたのである。

 さらに言えば、数多ある地球連邦軍の派閥の連絡員がそれぞれコンタクトを取ってきたので、如何に独立部隊であろうともそれらに対応しなけれならないし、自分の精一杯の頑張りがアカシという架空の人物に取られたミツバの気苦労は推して知るべきである。

 

「なるほど。それでアカシちゃんをなんとしてでも活動させたいと」

 

「僕フレメヴィーラ王国所属ですしぃ! 地球連邦軍所属じゃないですしぃ!」

 

 納得したアズの横で『自分! 無関係!』と、アルは首が寝違えるほどそっぽを向く。

 たしかにアルは異世界のフレメヴィーラ王国に仕える騎士なので、広報活動に参加を命令する権利はミツバにはない。そして、エルとの約束にあった限定プラモなどがあんなに高い物だとは知らなかったミツバに、アルが欲しそうな物品を報酬として買い与えるほど現在のミツバの財布は温かくはなかった。

 

「オセアニアに降下してアンブロシウス先王陛下にお伺いを立てようかしら」

 

「そ、それを言ったら戦争ですよ……。ミツバ艦長の一発ギャグを艦内流行語大賞にするよう、ことあるごとに言い触らしますからね!」

 

 悩み顔のミツバの言葉に反応したアルが核爆弾のスイッチを見せ札にする。

 

 現在、オセアニアから地球を侵略しようと進軍を続けている異世界軍を押し留めるため、フレメヴィーラ王国のアンブロシウスがジルバティーガに乗りながら前線で戦っている。そのオセアニア戦線が押されているという報告にドライストレーガーが現場に急行すると、なぜか地球連邦軍所属のジェガン部隊もジルバティーガの指示通りに動いたり、撤退をしたりと極めて練度の高い動きでティラントーやゴーレムを押し留めていた。

 それを見たエル達フレメヴィーラ出向組は、『もしかしてあの人、オセアニアの連邦軍掌握してね?』と国元のリオタムスへの報告をどのようにしようかと頭を悩ませたが、しばらく悩んだ末に『この艦で一番偉い人(ミツバ)に投げよう』と満場一致で決まった。ちなみに、その報告についてまだミツバには話していなかったりする。

 

 閑話休題

 

 そのオセアニアに居るアンブロシウスに先ほどのことを話せば、十中八九──いや、十割蕎麦のような確率でアンブロシウスは笑いながら許可を出すだろう。そうなるともはやアルはまな板の上の鯉である。

 なので、せめてミツバが『会見でおかしな空気になったら使用する』と豪語した、『バンバ、バンバン、ミツバンバン』というどこにも全く架かっていない氷河期レベルのギャグを人質にした。実際、それを引き合いに出されたミツバはアルに『止めて』と氷点下のような微笑を浮かべ、アルの横に居るアズを震え上がらせていた。

 

「た、他人の傷口を虐めるのは良くないですね! ……ですが、やりませんよ!」

 

「うぅ、東京に居た時にリアンからアル君の女装写真が送られてきた時はそういう子だと思ったのに」

 

「あれはアズが着替えるまで暇だったので、暇つぶししてたら巻き込まれました」

 

 さめざめと泣き真似をするミツバに、アルはジト目であの時の様子思い返す。

 たしか、あれは服をあまり持っていないアルが、同じ状況のアズと付き添いの『リアン・アンバード』を連れて服を買いに行った時である。真っ黒い服装やチェック柄といった一部の界隈に大人気なセンスをリアンに一蹴されたアルは、リアンコーディネートの服を何着か購入して割かし手持ち無沙汰な感じだった。

 アズとリアンが服選びしている様子を見ながら、前世ではまるで縁がなかった女性服売り場を物色。洋服売り場と併設された売り場に陳列された化粧品やメイクを行う道具の山に、アルは思わず『最近の化粧道具ってすごいなぁ』と感心した声を上げてしまった。

 

 そこから先は声を聞いたリアンによるノンストップ劇場だった。『試してみる? 答えは聞いてない!』といった具合にあれよあれよという間に着替えさせられ、化粧も決められ、写真も撮られ、いつの間にかアルの腕に通された紙袋の数が1つ増えた。これには事情を聞いたレイノルドも苦笑いだったとか。

 

「任務だったら別に女装、変装の類は別に良いんですよ。ですが、労力や精神的疲労に比べて報酬が釣り合わないのではないかと言ってるんです!」

 

「うん、お金は大事」

 

 アルの力を込めた反論に、お金にちょっとうるさいアズは横で同意する。

 先ほどの通り、アルは別に『女装は嫌だ』と言っているわけではない。──別段したいというわけでもないが、報酬さえくれるならばアルはそのことから目を瞑る。ただ、アルが反発する主な理由として広報活動が面倒くさそうなのと、拘束時間がもったいないこと、それらに加えて報酬が提示されていないことが挙げられる。

 

 ついこの間、アルはチームラビッツの『クギミヤ・ケイ』と極彩色の砂糖の味しかしないケーキをご相伴に預かりながら先日行われたMJPの広報員としての活動を聞いていたのだが、広報活動というものは様々な場所に行くらしい。

 ケイとタマキは警察署、病院、幼稚園や撮影所など様々な場所で広報活動を行ったらしく、特に撮影所で行われたグラビア撮影の際に渡された水着衣装がどんなに酷い物かと延々聞かされ、最終的には『責任者の頭の中かち割って糠味噌なのか確認したい』と豪語するケイに、『無農薬の米の糠床で作った糠漬けは美味いよ』と言ったことと、蟻が寄ってきそうなほどの糖度をアルはよく覚えている。

 そんな面倒くさいことを僅かなボーナスでやらされるぐらいなら魔力計算やエンブレムの改修内容の模索といった改造案を考えた方が何万倍も有意義である。

 

「仕方ない……か」

 

 ミツバが押し黙る中、今まで静かに聞いていたレイカは『アル君』と重い口を開いた。眠れる獅子の言葉にアルは丹田に力を込め、何としても断るために精神を高ぶらせた。

 

「私とスズカゼ艦長とミツバ艦長の権限で次の改造対象をパッチワークにしてあげる」

 

「やります」

 

 即墜ちであった。

 ドライストレーガーの行う機体や武器の改造費は未だアップデート途中で比較的割高である。なので、十分な改造が出来るクレジットが貯まるまで各自勝手な改造は控え、貯まった際に厳正なるくじ引きによって改造機体が選ばれている。

 

 ついこの間もイカルガがクジに当たり、エルが人が出してはいけない奇声を上げながら設計図を描き上げ、それをメカニックが組み上げ、実戦では近づいてきたナイトメアフレームもヨロイもモビルスーツも一刀のもとに斬り伏せる切れたナイフと化していた。しかしながら、今回のリンリンキャンディドロップスの一件でイカルガの不具合を直すためにダーヴィドが今も怒りの形相で鉄を叩いていたりする。

 

 閑話休題

 

 その改造対象としてパッチワークをねじ込むのは明らかな職権乱用なのだが、既にアルはパッチワークへの改造案に鼻を膨らませているので聞いちゃいなかった。酒に酔った海外研修生が外泊証明証にサインするがごとく、アルは夢心地で同意書にサインする。

 そこから先は早かった。同じく連れてきたアズに対しては『ボーナス』という魅惑の言葉と電卓をチラつかせることで無事に了承を得、個人を判断されるとまずいので軽く変装したアルとアズの両方は地球連邦軍の広報員として活動し、リンリンキャンディドロップスよりも成果を上げることに成功した。

 

「アストナージさん、サイコフレーム! サイコフレームつけましょ! もしくはレイカさん連れてきてジュリアシステムとか……膝に刃とかロケットパンチも激しく希望です!」

 

「アストナージさん! 核融合炉と合わせる動力炉についてですが、光子力とゲッター線どっちが良いですか!」

 

「君らなに考えてんの!? それとそのサイコフレームの欠片、何処から持って来た!」

 

「お前達、ドライストレーガーに帰ってくれ……頼むから! 後、その欠片はアムロ大尉かヨナ少尉に返しておくように! ほんと……なにやってんのぉ!」

 

 なお、流石にヒュッケバイン30やパッチワークを乗せるわけにもいかないので、そこはアストナージにジェガンをベースに2機の専用機を仕立て上げてもらった。

 ただ、専用機を仕立て上げる際に噂を聞きつけたちっこいのと搭乗者のちっこいのが、開発責任者である『アストナージ・メドッソ』にまとわりついたせいで開発作業が遅々として進まなかったことが多かったと、ラー・カイラムを預かる『ブライト・ノア』からミツバへ苦情という名の報告として上がってきたとかなんとか。




アストナージ「おい、ここにおいてあった補助サイコフレーム(強化パーツ)どこやった?」

メカニック「さっき、銀髪の子供達が持って行きましたよ? なんでもガンダリウム合金作ったベッドと超合金Zで作った枕で眠る時の抱き枕にするとか」

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