銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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ぐぬぬ。仕事環境が修羅場なのでまだまだ2週間で1話投稿が続きます。
申し訳ない


86話

 新生クシェペルカ軍が元王都『デルヴァンクール』を取り戻すべく中央領の要所ともいえる場所で戦端を開いていくが、最新機であるレーヴァンティアやエドガー達といった追加戦力をもってしても一向にその重要拠点を落とせずにいた。

 もちろん、道中の関所や簡単な防備しかない砦程度なら鎧袖一触で制圧は出来るのだが、重要拠点は堅牢な石の壁やバリスタ、投石器といった幻晶騎士(シルエットナイト)でもてこずるような兵器や防備が備え付けられていたり、極端に道が狭いなどといった天然の地形も災いして新生クシェペルカ軍の足は遅々として前に進まなかった。

 

 さらに、拠点に詰めているティラントー達も今までの攻撃的な装備や力任せの戦法から打って変わり、大型の盾を装備して拠点の前で陣取るといった消極的な戦い方に変化していた。

 そして両者が睨み合ったり多少の小競り合いが行われるが、それらしい被害や戦果を得られずに数日が経過。その間に後方で物資の運搬に勤めていた新生クシェペルカ軍の輜重隊や銀鳳商騎士団第3中隊が飛空船(レビテートシップ)に襲われ、これ以上の戦闘行為は厳しいと判断した新生クシェペルカ軍が撤退するといったパターンが定着化しつつあった。

 

 そんな最前線の空気が薄いフォンタニエの工房。いつもなら槌が金属を叩く音や溶鉱炉が轟々と炊かれる音が溢れている場所なのだが、今は幾分か静かであった。そんな工房の一画にある椅子と黒板が設置されているだけの場所でダーヴィドを筆頭とした銀鳳商騎士団と新生クシェペルカ軍所属の騎操鍛冶師(ナイトスミス)がアディから受け取った資料を片手に黒板の前で立つエルとアルに注目していた。

 

「それでは、定刻になりましたので始めさせていただきます。皆様、質疑応答は挙手後に所属と名前を仰ってからでお願いします」

 

 前口上を発したアルは正面の騎操鍛冶師(ナイトスミス)達の表情をつぶさに確認し、やがて首でエルに合図を送る。その合図を受け取ったエルは黒板の前まで移動するとチョークを片手にカツカツと絵や文字を書きながら先日までの調査で分かった源素供給器(エーテルサプライヤー)といったジャロウデク軍が使っていた装置のカラクリを称賛交じりで解説を始める。

 その称賛にこの前のダーヴィドと同じように『敵の称賛をするなんて』という文句が出て来るが、その言葉を待っていたとばかりにエルが口を開くと、横から『二番煎じ』という小さな声が聞こえた。

 

「僕と同じこと言っちゃうんすかぁ?」

 

 挑発的な言葉と共に粘着質な笑みを浮かべるアルに、口を開いたままのエルはなんだかよく分からない敗北感を感じながら先日アルが言った名言と言葉は違うが、意味はまったく同じ言葉をもってクシェペルカの騎操鍛冶師(ナイトスミス)を説き伏せた。その反応にアルは愉悦を含んだ笑みを続け、ダーヴィドは『こいつら良い空気吸ってやがんな』と半ばあきれる形で続くエルの報告を聞き続ける。

 

 エルの話題は源素供給器(エーテルサプライヤー)の概念から源素供給器(エーテルサプライヤー)幻晶騎士(シルエットナイト)に搭載した場合の利点や魔力転換炉(エーテルリアクタ)が壊れるという最大の弱点へと移り、それらを全て話し終えたエルは次の議題に移るよう、アルに合図を送る。

 

「それでは、皆様気になっていると思われるレビテートシップの解説に移りたいと思います。……が、ここからは実際に動かしながら説明いたします。皆様、資料の5枚目を開きながらついてきてください」

 

 そう言ったアルは下手くそな似顔絵を描いた旗を取り出すと先導を始めた。その一般的な目線から見れば非常識だが銀鳳商騎士団にとってはいつも通り雑な案内にダーヴィドは自身を鼓舞するように大声を出しながら部下を伴ってノシノシとアルに着いていく。

 しかしながらクシェペルカの騎操鍛冶師(ナイトスミス)は『空』という未知のフィールドに足を踏み入れる恐怖と今まで銀鳳商騎士団が作ってきた幻晶騎士(シルエットナイト)と言う規格外の成果を秤にかけていた。

 

「なんですか? そのへったくそな絵」

 

「エルネスティ・エチェバルリアってぇぇ! この人殴った!」

 

「クソみたいな旗を使うの金輪際禁止で」

 

 秤にかけてもなお前で寸劇を行っている約2名に恐怖の方に振り切れかけたが、誰かが『あそこまで平常運転なんだから大丈夫だろ』という一声に大人しくついていくことにした。

 こうして一同は発着場に係留してある飛空船(レビテートシップ)。先の戦いで鹵獲したものを未だジャロウデクに返還せずにいた捕虜をミシリエからフォンタニエに輸送するついでに捕虜自らの手で曳航しながら運んでもらった2隻の内の1隻の前にたどり着いた。

 

「それでは、中へは銀鳳商騎士団のメンバーと一部のクシェペルカ側の方に来ていただきます」

 

「知ってたよ畜生!」

 

 少し怖いのか銀鳳商騎士団の騎操鍛冶師(ナイトスミス)達は涙声になりながらずかずかと乗艦し、その後ろで必死の形相でクジをひいては一喜一憂するクシェペルカ側の騎操鍛冶師(ナイトスミス)達。結局、クジによって選ばれた騎操鍛冶師(ナイトスミス)達が仲間に見送られる形で乗艦し、飛空船(レビテートシップ)のハッチが閉められる。

 

「こちら艦橋。兄さん、そっちはいかが? オーバー」

 

「こちら動力炉ー。いつでも動作確認できます。どーぞー」

 

 逐次艦橋と動力炉で会話を入れながらアルは艦橋に居る騎操鍛冶師(ナイトスミス)達に駆動実験を開始するように指示を送る。源素供給器(エーテルサプライヤー)のスイッチが入れられ、動力炉に高濃度エーテルが流入し始める様子がエルの興奮気味な声によって実況され、その声をBGMに艦橋の騎操鍛冶師(ナイトスミス)達は計器に目立った変化が無いかチェックするために下を向きながら作業をする。

 ただ、どれも説明を受けた際に聞かされた安定値から振り切っていないのに船体には異常が見られないので下を向きながら首を傾げていた所、アディの大声が艦橋を走った。

 

「あれ、なんだろこの感覚。……あ、浮き上がってる!」

 

 アディが足を艦橋の床に軽く踏みながら放った一言に全員が計器から窓に視線を移す。そこには今まで見えていた街を囲う城壁の姿はなく、代わりに街を一望できる風景に変わったのだ。これには艦橋に居たバトソン含めた騎操鍛冶師(ナイトスミス)も驚きの声を上げながら計器から身を乗り出して窓を食い入るように見続ける。

 艦橋内のテンションが上がりつつあったが、動力炉といった飛空船(レビテートシップ)の各所から上がってくる報告を取り纏めていたアルはその裏では『飛空船(レビテートシップ)に対する次のアクション』を思い描いていた。

 

(今は浮かんだだけ。次はこの子にどのような装飾を施してあげるか)

 

 アルの言う通り、この飛空船(レビテートシップ)は『浮かんだだけ』である。薄情な言い方だが、これでは飛空船(レビテートシップ)を完全に理解したことにならない。操作技術はダーヴィド達に任せるとして、アルが今やるべきことはエルと協力してこの船をどのように飾りつけをするかの方針を紙に叩きつけることだと自身の頭でメモを取る。

 

(兄さんは戦闘艦の案を出したし……僕は輸送艦の案かな)

 

 エルと対立させるように一先ず騎操鍛冶師(ナイトスミス)達にエルから出された係留状態にする指示を伝達したアルは、『ではこれで』と挨拶をすると考え込みながら飛空船(レビテートシップ)を降りる。船が浮かんでいる光景に資料を見ながら議論を交わすクシェペルカの騎操鍛冶師(ナイトスミス)の横を通り過ぎ、彼はそのままラスペード城の自室に帰ると鍵をかけた。

 

「んー、輸送艦にするだけだと能力不足なんだよなぁ。そして相変わらず魔力問題が付きまとうし……鎖で降ろすとか下が雪じゃないと骨折……雪?」

 

 設計をしながら以前から上げられていた飛空船(レビテートシップ)の欠点や幻晶騎士(シルエットナイト)を下ろす際に用いられる鎖で吊り下げる方式をどう改善しようかとしていた矢先、アルに電流が走る。その感覚に従ってアルはすぐさま記憶の中に身を投じ始めた。

 はるか昔、それもネット板で見たことがあるネタだったので信憑性は遥かに低いが、かのソ連軍が下が雪だからと降下したという記憶を掘り起こしたアルは『パラシュート!』と叫ぶ。

 

「そうか、鎖ではなくパラシュートにすれば安全に降りれるんじゃないか!」

 

 そう思い立ったアルの行動はペンを放り出すと鍵を開ける時間が惜しいとそのまま窓から飛び出した。その後、特大の布を複数持ったアルが嵐の中で輝きそうな歌詞を口ずさみながら工房を強襲し、報告会が終わったので作業を再開していたダーヴィドに布を差し出した。

 

「は? ……いや、これどうするんだ?」

 

「こう、空気を内部に含ませて減速、降下するんですよ」

 

 鍛冶には到底使えない物体といまいちよく分からない原理を展開するアルにどう対応すれば良いのか首を傾げるダーヴィド。その光景を恒例の『イカルガに乗る系のお仕事』をしていたゆえにイカルガの操縦席に座っていたエルが見つけ、手に持った布とジャンプしながら布に空気を当てる動作にアルがやろうとしていることを察すると一息に地面に降り立った。

 

「パラシュートで降下なんて素人が作って上手くいくわけが無いでしょ!」

 

「えー、だってぇ。浪漫ですよ? やってみる価値はありますぜ?」

 

「……まぁ、そうですね。それに失敗しても無事に脱出できればなんとでもなるはず……はず……いやー……」

 

 アルの一言に自身の内に存在する『ロボット魂』が唸りをあげていることを知覚するエル。約数秒という短すぎる思案の末、『ロボの空挺は戦略的にも正しいし、なにより格好良い』という言葉にダーヴィドは信じていたブレーキが反転して己に向かって突っ込んできた事実に憂いた。

 しかしながらエルとアルは決してアクセルとブレーキの役割ではなく、『結果的にどちらかがつっかえ棒になるパターンがあって、基本的には爆走すること』を思い出したダーヴィドはひとまず実験に使えそうな幻晶騎士(シルエットナイト)を強請る2人に『先だっての実験のせいでティラントーの魔力転換炉(エーテルリアクタ)や消耗品関係は何時壊れるか分からない状態だ』と現状を報告した。

 

「んー、出来れば明日行われるレビテートシップの習熟訓練のついでに行いたいんですよねぇ」

 

「何時までもこの膠着状態ってわけにはいきませんもんね。パッチワークでも使います? あれならマギウスエアスラスタがあるのである程度自力で減速できますが」

 

 現在は戦いが膠着している状態なのでいくらか暇があるが、それもどのぐらいで終わるかも分からないので出来ることはさっさとやってしまおうとパッチワークを実験に使用すると決めた2人は早速安全性を高めるためにプランニングを始める。その光景をダーヴィドは見ていたが、しきりに『じゃあ帰ってからで良いじゃねぇか』というツッコミを心でするが、どうせ聞いちゃくれないと半ば諦めながら見守った。

 

「で、なんだ? 今描いてる箱は」

 

「サブアームで掴むパラシュートパックです。こう、落ちる際に布をこう広げて減速。後は下部にあるマギウスジェットスラスタで着地の衝撃を和らげる感じで」

 

 ジャンプしながら布を広げるアルにダーヴィドはなんとなく理解はしたが、心の内では本当にそんなちゃちな物で降りれるのか不安になっていた。だが、それに対する回答は『いざとなれば脱出すれば良い』という楽観的な言葉だったので、壊す前提の実験なんてとんでもないとダーヴィドは思わず『この実験はなんの意味があるんだ』と2人に問いかけた。

 

「鎖よりも安全に降下できる手段の模索です。もし、これが安全に降下できるならば乱暴にいうなら小隊を船の上に載せ、拠点に向けて法撃で掃除した後に降下。拠点を占拠することも可能なはずなので」

 

「あとは出来ないことはちゃんと出来ないと分かったほうが良いと思います。ただ、この実験は危険性を伴うので消去法で僕がやるということで」

 

「わーったわーった。ひとまずそのパラシュート? とかいうのを作ってやるし、壊すのは構わねぇ! ただし、機体は壊しても良いが、お前はちゃんと脱出しろよ? 実験の結果、銀色小僧が潰れたとあっちゃ目もあてられねぇからな」

 

 鎖は切れてしまえば後は落ちるのみである。これはパラシュートも同じなのだが、ある程度の減速タイミングは自分で計れるかもしれないという淡い希望をアルは抱いていた。エルも流石に鎖で降下する手法には不満があったのかアルの意見に同調し、理想論ではあるが具体的な運用方法を聞いたダーヴィドは渋々納得したという様子で作業を始める。……断じて彼らの顔に『幻晶騎士(シルエットナイト)によるパラシュートという物を使った降下が見たい』といった雑念が顔に浮かび上がっているのが見えたからでは断じてない。

 

「たしか、パラシュートって紐が絡まることもありますよね」

 

「腕に剣でもつけて緊急時に切るようにします?」

 

 生憎パラシュートといったスカイダイビング系の知識がないエルとアルは『ネットやテレビでこんな事故見たことあるな』といった記憶を思い出しながらパッチワークの図面を頭から紙へインプットし、腕部の連射型魔導兵装(シルエットアームズ)を抜き身の剣に変更する。そして、装備の変更を全て書いた紙をダーヴィドに手渡したエルとアルは、明日行われる飛空船(レビテートシップ)の操作や降下実験の段取りを紙に書きながらディスカッションを進めていった。

 

「こういう実験系って一発であまり成功したことないですよね」

 

「そうですねー。……とりあえず、命懸かってるので兄さんも何かあったらイカルガで救助願います。ガチで」

 

 ストランドタイプやテレスターレ、そして今まで開発してきた諸々の失敗を思い出して怖くなったのか、アルは真剣な眼差しでエルに頼み込む。やると決めたからこそ実行に移したのだが、アルが急に弱気になったので『それならばやらなきゃ良いのに』と考えたエルだったが、個人的にも出来るのか気になるお年頃だったので、エルは励ましながら成功率を上げるためにディスカッションを続けた。

 

 そして、話し合いは工房の扉から夕日が差し込む時間帯まで続き、ようやく内容を詰めれた2人といつの間にか参加していたダーヴィドや飛空船(レビテートシップ)を操作する騎操鍛冶師(ナイトスミス)達は明日に備えてさっさと解散することになった。しかし、降下を行うという危険が付きまとう実験を行うせいかアルは深夜になっても一向に寝付けず、結局のところ朝の集合時間になってようやく現地に現れたアルの目元には少しだけクマが出来ていた。

 

「ほんとこの子は……」

 

「面目ない」

 

 その口では反省しているのだが、あまり反省の色が見えないアルの姿にエルは自らの額に手を当てて呆れる。だが、時間は有限なのでさっさと準備を済ませようとアルをパッチワークに押し込め、自身もイカルガに乗り込むとイカルガでパッチワークの両脇に手を入れ、アルが散々他の団員にやられているような宙吊り状態にする。

 

(おー、やってみると中々良い気持ちですね)

 

 自身の背格好がアルとどっこいなせいか、自分以外の団員達がやっている事を出来なかったエルは初めての感覚に気を良くしながらイカルガの強靭な膂力と魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)で重装型のパッチワークを飛空船(レビテートシップ)の甲板まで移動させ、拡声器でダーヴィド達に実験の開始を宣言する。その宣言を聞いたダーヴィドは伝声管越しに昨日作られた割り当て表の通りに騎操鍛冶師(ナイトスミス)達を配置するとやることは終わったとばかりに艦橋中央に備え付けられた艦長席に踏ん反り返った。

 

「えーっと、これがパラシュートを開くボタンで……これがパラシュートパックのマギウスジェットスラスタを動作させる……基本パラシュートを開いたら戻せないから慎重に操作しないと」

 

 一方甲板に突っ立っているパッチワークの操縦席ではアルが増設されたボタンを指差し確認しながらブツブツと独り言を話していた。その時、浮遊感と共に前方の景色がゆっくりと変わっていったので、アルは思わず前を見る。

 ゆっくりと。しかし確実に飛空船(レビテートシップ)幻晶騎士(シルエットナイト)と言う重量物を載せて浮かび上がり、その性能にアルは隣でテンションを高めているエルと共に感嘆の声を上げる。一般的な幻晶騎士(シルエットナイト)は強力とはいえ、どうにも戦略的な機動力が乏しい。ただ、この飛空船(レビテートシップ)はそれを補強するには十分な性能を内包している。

 

「いつか強襲揚陸艦とか作りたいですね」

 

「兄さんはいきまーす! とかやりたいだけでしょ」

 

「いや、イカルガにシルバーナーヴをつけてそれを引きちぎりながら出撃も悪くないかと」

 

 飛空船(レビテートシップ)に対する自分達の思惑を語っていたが、その間も飛空船(レビテートシップ)はグングンと高度を上げる。やがて、あんなに大きかったラスペード城が握り拳ぐらいの大きさになり、あんなに遠かった雲もイカルガが魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)を最大で噴かせば届きそうな高度に達した時、突然突風が吹いてきたことによってアルの長い髪がぶわりと舞い上がった。

 

「うわっぷ! 風が強い……へあぁ! 目がぁ! 目がぁぁ!」

 

 前身であるラーパラドスから一切改修が施されていないゆえにぽっかり開いている左右の小さな覗き窓から風が流れ込み、アルの髪を絶えず舞い上がらせる。それを慌てて抑えようとしたアルだったが、髪の一部が目を強く叩いたことによってアルはどこかの大佐のような声で叫びながら操縦桿から慌てて手を離す。慌てすぎて肘や腕を操縦席の至る所に強くぶつけながらも目を擦ったことでようやくアルは落ち着きを取り戻した。

 

「あ”-、ひどい目にあった。目だけに!」

 

「アル! 早くパラシュートを切り離せ!」

 

 ようやく痛みから解放され、冗談をたたきながらへらへらと笑うアルを余所にエルが命令口調で怒鳴る。その珍しい怒鳴り声に何事かと思いながらアルが周囲を見渡すと肘に先ほど確認した『パラシュートを開くボタン』が当たっていた。

 アルがそれを知覚した瞬間、ものすごい振動が操縦席を襲う。その振動にアルは慌てて操縦桿と鐙を操作するが、操縦桿は堅くて押し込むことが叶わず、次にその場で踏ん張ろうと踏み込んだ鐙も堅くて通常時の半分も踏み込むことが出来なかった。

 突風が吹いてから時間にして僅か数秒後、アルの健闘虚しく体勢を大きく崩したパッチワークはそのままブチブチやビリビリといった異音をその場に残しながら、パラシュートに引っ張られる形で飛空船(レビテートシップ)の甲板から投げ出された。

 

「アル! 掴まってください!」

 

 イカルガが飛空船(レビテートシップ)から投げ出されるパッチワークに向かってイカルガの背部武装である執月之手(ラーフフィスト)を射出する。大きく開いた執月之手(ラーフフィスト)の掌がパッチワークの手を捉えようとするが、幻晶騎士(シルエットナイト)という重量物。特に追加装甲によってさらに重みを増したパッチワークが大きくバランスを崩したことと風によるパラシュートの影響であっという間に執月之手(ラーフフィスト)の射程圏外まで出てしまった。

 

「親方! 副団長が落ちた!」

 

「なに!? 降下じゃなくて落ちただぁ!?」

 

「親方! 今すぐ船をその高度で固定してください!」

 

 パッチワークが落ちた様子を周囲の監視に就いていた騎操鍛冶師(ナイトスミス)の報告によって聞いたダーヴィドは声を荒げるが、その声を遮るようにイカルガが魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)を轟かせながら流星のようにパッチワークの後を追う。ダーヴィドは事態の深刻さゆえになんとかしたいが、現在の自分の状況に冷静になるような深い深呼吸をするとエルの指示を遂行するためにすぐさま椅子から立つと近くの伝声管に駆け寄った。

 

***

 

「ヤバイ! ヤバイ! ヤバイ!」

 

 一方のその頃。パッチワークの隙間から轟々と流れてくる風と幻像投影機(ホロモニター)に映る地面がだんだん近くなってくるという視覚的情報にアルは操縦席で半泣きになっていた。パラシュートを操作しようにも先ほどの風で穴が開いたのか全く機能しておらず、その事実に先ほどまで泣いていたアルは『布や綱の品質が悪かったかなぁ』と泣き言から現実逃避と言う名の諦めの思考へと移行していく。

 

「アル! こっちへ!」

 

 そんな時、風の音の中からエルの声が聞こえた。スカイダイビングのような大の字で落ちるパッチワークの首を上下左右に向けると、目の前からものすごい勢いでイカルガがこちらへ突っ込んでくるのが見えた。それを確認したアルはすぐさま脱出をするために操縦桿からとてつもなく長い銀線神経(シルバーナーヴ)を引きずり出し、それを握りながらベルトを外した。いつでも外へ脱出できるように胸部装甲を開くとものすごい風圧が胸部装甲から流れ込むが、アルは構わずに様々な魔法術式(スクリプト)をパッチワーク目掛けて流し込んだ。

 

「体勢……調整。リミッター……解除。スラスター準備……今!」

 

 パッチワークを地面と垂直にさせ、魔導演算機(マギウスエンジン)内に存在する魔力貯蓄量(マナ・プール)の制限を解除する。その間にもイカルガがパッチワークと並ぶように高度を下げて手を差し出してきたので、アルは意を決してパラシュートパックの魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)とホバー用の魔導大気推進器(マギウスエアスラスタ)を全力で稼動させて一時的に大きく減速した。

 減速したことで外部から流れ込んでくる風圧が軽減されたので、アルは銀線神経(シルバーナーヴ)越しにパッチワークの外装硬化(ハードスキン)を強めてから銀線神経(シルバーナーヴ)から手を離す。そのまま操縦席を出て圧縮大気推進(エアロスラスト)を用いながら大きく跳躍するとイカルガの掌にすっぽりと納まった。

 

「すみません。失敗しました」

 

「布と綱の耐久性が低すぎですね。投げ出された時から大きな穴開いてましたよ」

 

 そう言いながらアルを操縦席に格納したエルは目の前で魔力切れによってそのまま地面に落下するパッチワークを指差す。パッチワークの後ろにあったパラシュートには大きな穴が開いており、それを支える綱も所々切れていることから今回の失敗原因は明白だった。

 その後、森林部に落ちたパッチワークはすぐさまフォンタニエの工房へ送られる事になった。直前の減速や外装硬化(ハードスキン)が効いたからなのか、幸いにも脚部は修理ではなく付け替えしたほうが早いぐらいボロボロだったこと以外には目立った損傷はなかった。

 しかしながら大破は大破なので、潰れた足をどう修理しようかとお決まりの説教が終わったダーヴィドが頭を悩ませていると先ほどの説教によって大きく腫れたたんこぶを抑えながらアルが手を上げながら口を開く。

 

「すみません。脚部のことなんですが、こういった形にしたいんですが」

 

「なんじゃこりゃ。……銀色小僧、おめぇ馬公だけじゃ飽き足らず今度はなにこさえてんだ」

 

 そう言ったダーヴィドの目線の先にある図面にはツェンドリンブルとは異なった4つの足。まるで節足動物のような足がパッチワークの腰部から伸びていた。ツェンドリンブルでも大層驚いたのに、またもや変な風貌の幻晶騎士(シルエットナイト)に頭を抱えるダーヴィド。そんなダーヴィドの常識が破壊される音と被せるようにアルは『四脚型です』と自信満々に答えた。

 

「あー、アルのパッチワークは射撃型ですからね。確かに安定性は良くなりそうです。……なにより格好良いですし」

 

「ホバーも織り交ぜながらワシャワシャと移動して子供達に大人気のはずです!」

 

 エルとアルが手でやけにリアルな四脚の移動方法を表現しながら話し込み、その光景から『銀色坊主もあっち側か』とアルを説得する援護を期待していたダーヴィドは諦めたかのような表情で『ガワはなんとかする』と叫んだ。

 

「ただ、動作は保障しねぇぞ! まったく、レビテートシップのことで忙しいのに」

 

「マギウスエンジンは僕達に任せろー」

 

「任せろー」

 

 実験に失敗して仕事が増えたのに元気に返事を返す2人の悪魔にダーヴィドは再び鉄拳制裁を行い、ようやく気が晴れたのかダーヴィドが銀鳳商騎士団の騎操鍛冶師(ナイトスミス)達を集めて班員を振り分ける。

 そしてそこから僅か数週間で脚部を四脚に変えたアルの新たな機体、『パッチワーク・アラーニェ』が誕生した。

 

「え、パッチワークって女の子だったんですか?」

 

 命名を聞いたエルが横で叫ぶのを無視したアルはこの機体の操作性をどうするかと頭を悩ませる。

 

 このパッチワーク・アラーニェ。動かせるのは現状で魔法術式(スクリプト)を組んだエルとアルだけであった。

 パッチワークの上半身を使用しているので、上半身を限定して動かすのであれば他の騎操士(ナイトランナー)でも可能だが、四脚はいまだ魔導演算機(マギウスエンジン)魔法術式(スクリプト)構築が済んでおらず、移動は直接制御(フルコントロール)頼みというのが現状だった。

 そもそもこんな脚部を提案する騎操士(ナイトランナー)が他に居るのかと言う話なのだが、今後居ないと言うことはあり得ないので、アルはなんとか操作を簡略化できないかと頭を悩ませていた。

 

「俺も作ってるときは何やってんだと思ったが、中々良い面構えじゃねぇか。法撃の安定性も上がったんだろ?」

 

「ええ、ミシリエで外したあの大火力のシルエットアームズも四脚による安定性にかかればねじ伏せれます。……この際だからもっと大火力にしてもいいかも……いや、いっそあのレビテートシップに導入するのもいいかも」

 

 なにやら怪しい単語が聞こえたが、パッチワークが強化されたのは事実であった。この四脚はホバーを使わない移動こそツェンドリンブルには届かないが、レーヴァンティアやカルディトーレよりも遥かに速く動け、さらに悪路などの走破性も高くなっている。そして魔導兵装(シルエットアームズ)による法撃も火力が上がることで反動も多少あり、狙った場所に当たらないといったこともあるのだが四脚の安定性の前ではミシリエ防衛戦の際に使用したあの大火力砲でもまったくブレずに放つことが出来た。この成果に『ゲ○ズゲーは正しかったんや!』とアルは思わずガッツポーズ。

 

「いやー、格好良いですねぇ。……イカルガもそろそろパワーアップさせるべきですかね?」

 

「これ以上ラスボス感上げてどうするんです? 全てを焼き滅ぼす気ですか?」

 

 いまでも鬼神というどちらかと言うと悪っぽい異名を頂戴しているのにこれ以上強化してどうするのかとアルは問うたが、既に強化案を考えているのかトリップしているエルの耳には聞こえない。

 

***

 

 そんなこんなでアルの新型機が完成したわけだが、今まで安穏としていた最前線の空気が一変していた。度重なる砦放棄の報告にエムリスは×印が多く描かれた地図が載せられた机を激しく叩いた。それらは全て放棄された砦の位置を示すもので、中には幻晶騎士(シルエットナイト)が丸1日行軍してもたどり着かないような僻地のものも含まれていた。

 

「あれ、こことここ……後、ここもヴィードやレーヴァンティアが配備されてましたよね? 結構大口だったので僕も覚えてますよ」

 

 そこにエムリスがいつものように首根っこを掴んで持ってきていたアルが口を挟む。ティラントーとレーヴァンティアは贔屓目で見ても同程度の性能を誇っているので、それらを打倒したとなると大部隊が攻めてきたとしか考えられない。ただ、それだとどんなに隠れて移動したとしても人目につくはずなので、エムリスはそれが不気味で仕方なかった。

 そんな時、ドアがノックされた後に数人の兵士と共にエルを筆頭とした銀鳳商騎士団の上層部の面々が会議室に入ってきた。

 

「すみません。遅れました。……殿下、その子はうちの団員なんですが?」

 

「良いだろ別に。ほら、お前からも何か言ってやれ」

 

「にゃーん」

 

 相変わらずペットのように持ち運ばれるアルの姿に一言物申したエルだったが、エムリスはアルを掴みあげながら悪びれもせずに答えた。アルの方も猫が変なにおいをかいだ時に出す表情を浮かべながら力なく答えているので、『まぁ、本人が嫌がってないし良いか』と話の流れをぶった切ると先ほどの会話に加わった。

 

「それで、情報はないのですか? 安易に拠点が落ちたと言われても流石に対応は出来ませんが」

 

 何事も対策を練るためには情報が必要不可欠である。中には詳しい情報すら渡さずに概要だけで『何か良さげな対策してくれ』と無理強いするようなこともあるが、エレオノーラの口から『(ドレイク)が出た』と一言告げられた。

 

「それはレビテートシップですか?」

 

「はい。逃げ延びた者が皆、口を揃えて伝説の存在であるドレイクのような奇妙なレビテートシップが来たと……。そして、ドレイクが火を噴いて町や砦を……焼き払ったとか」

 

 そのあまり上等とはいえない情報にエルとアルは口を揃えて『おかしい』と呟いた。戦闘用の飛空船(レビテートシップ)という物はエルやアルも考えてはいたが、魔力貯蓄量(マナ・プール)や推進装置の問題をこうも簡単に解消できるとは思えなかったのだ。

 

「火を噴いた……ということはシルエットアームズだと思いますが、そのような戦術級……いや、対城砦とも考えると戦略級の魔法を使うならばそれ相応の魔力が必要ですよ」

 

 どちらかといえば魔導兵装(シルエットアームズ)の方面に詳しいアルの意見にエルも首を振って頷く。例え、どのように緻密な魔法術式(スクリプト)を組んだとしても城砦を焼き滅ぼすような魔法を低コストで作るにしてもかなりの魔力が必要となる。どちらにせよ強大な敵が現れたことには変わりないので、エドガー達は早くも相対した時の際にどのように行動すべきか意識を向け始めた。

 

「正体不明。主な装備は火を噴くぐらいしか分からない謎の戦力……。僕達の出番ですね」

 

 落とされた拠点は全て前線に配備されていたことからいきなり本拠地であるフォンタニエに侵攻する気が無いという意図を読んだエルは銀鳳商騎士団の出陣を進言した。その進言にエレオノーラは『危険ではないか』と躊躇い気味に答えるが、アルは『化け物には化け物をぶつけるんだよ!』とエルの肩を叩きながら答えて当のエルに叩かれた。

 

「たしかにドレイク退治こそ初めてです。ですが、我らは正体不明の類も存在する魔獣と相対することもあるフレメヴィーラの騎士です。魔獣であろうがなかろうが相手の正体が分からない以上、分からないなりの備え方を熟知している当方が最適かと思われます」

 

「なぁに、ちょっと形が変わったレビテートシップが居ても魔獣鎮圧はフレメヴィーラでの任務で慣れてます」

 

 エルの自信ありげなセリフとアルのなんだか霧があたりを立ち込めそうなセリフにエレオノーラは何かを言いたそうにした後に短く『ご武運を』と礼をし、その横でエムリスが『奴らの鼻っ柱を叩き折ってやる』と息巻いた。しかし、そのエムリスの宣言に反応したアルはアガートラームで自らの身に身体強化を施すとエムリスの服を思いっきり引いて近場の椅子に無理やり座らせた。

 

「若旦那……いや、殿下。ドレイクを相手に殿下を守れる保証がありません。なので、守る対象である街と王族の方々は1セットになっていただきます」

 

「ぬぁにぃ! アルフォンス、ここまで来てそれはないだろう! おい、銀の長! お前からも何か言ってくれ!」

 

「僕からもお立場をお考え下さいとしか」

 

 今までは守る対象が近くにある。または、人的余裕が無かったので仕方なくエムリスを戦場に出していたが、新生クシェペルカ軍が存在する今、エムリスを一将として戦場に出すという博打をしなくても十分にこのフォンタニエを守れるはずである。そう考えるとクシェペルカの王族と共にフォンタニエで留守番をしてもらった方がより戦いやすくなる。

 納得がいかないといった様子だったエムリスはエルの言葉にようやく落ち着いたのか、がくりと肩と落とした。

 

「あ、あとキッドもここに居残りで」

 

「アル! 俺は関係ねぇだろ!」

 

「いいえ、ありおりはべりですよ」

 

 自分もこの騎士団の一員であると認識していたキッドはアルからの居残り宣言に食って掛かるが、『いまそかり~』と謎の言葉を言いながら手招きをするエルを見ると押し黙った。他の誰にも聞かれないようにエルの口元がキッドの耳に近づき、その口からとある『密命』が指示される。

 

「お、おい。それって」

 

「ええ、もしもの……ですがね」

 

 その密命──『フォンタニエが襲撃を受けてどうしようも無くなった時はエレオノーラとエムリスを連れてフォンタニエを脱出する』というエムリスを連れて脱出という点だけやけに難易度が高い命令に口元が歪むキッド。そして、その間にキッドのすぐそばまで近づいたアルは自身の握り拳をトンとキッドに押し付けた。

 

「本当ならばイサドラ様も……と言いたいですが。同じ男と見込んだあなただからこそ……あのお二方と後のことを頼むんです。出来ますか?」

 

 アルの言葉に『いざとなったらイサドラを切り捨てる』という意思が籠った激励の言葉にキッドは深く頷いた。キッドが無言でうなずくのを横目で見たエルは出撃準備に入るために団員に呼びかけてから部屋を後にする。他の団員達もエルに倣うようにぞろぞろと部屋を退室していき、最後にアルが礼をしながら扉を閉めようとするが、何かを思い出したのか再び扉を開けながら口を開く。

 

「エレオノーラ様。僕達が友好国だということで引け目を感じてるのならば、それは無用です。僕達が一番困るのは再びここがジャロウデクの支配下に置かれることなので。……なので、存分に甘えても良いんですよ」

 

『主にそこに居るイケメン騎士に!』と言い残したアルは返答を聞くことなく扉を閉めた。エレオノーラが居る手前、今すぐ走って幼馴染を折檻したい衝動を必死に抑えたキッドが『あんにゃろう』と悔しげにつぶやいていると横に座っていたエレオノーラがクスリと笑う。

 

「あの人には何もかも御見通しなんですね」

 

「あいつはああいう奴なんだよ。自分の身の回りには無頓着の癖に相手のことばかり見るんだよ。だから副団長がやれてるんだろうな。なんにせよ、団長達が大丈夫って言ったんだ。大丈夫だろ」

 

 キッドの言葉にエレオノーラは再び笑う。その表情にキッドは内心ほっとするが、同時に『俺だけでは姫様を笑顔に出来なかっただろうな』と少しだけモヤリとしていた。

 

***

 

「さて、我らが団長殿。随分とやる気を出しておられるが……思惑はあるのかい?」

 

 出撃準備中の工房内でディートリヒがエルに尋ねた。その疑念が込められた視線にエルは『思惑なんてとんでもない』と手を振りながら否定するとイカルガを見上げながらにんまりと笑った。

 

「新技術の解析も一段落。新型機の開発も僕の手から離れました。なので、そろそろイカルガを思いっきり動かしてあげようかなって」

 

 笑顔のまま自信ありげに答えたエルの考えにディートリヒは『そうだと思ったよ』と項垂れ、ヘルヴィは『幻晶騎士(シルエットナイト)はペットじゃないのよ』とため息交じりでエルの頭を乱雑に撫で付ける。そう、今から彼らは騎士団長機の散歩という名目で出撃し、ついでに出てきた(ドレイク)と呼ばれる飛空船(レビテートシップ)を倒すのだ。いつもどおりといえばいつもどおりなのだが、安定の無茶振りにため息が溢れる工房内でアルが手を上げる。

 

「作戦は?」

 

「ミッシレジャベリンをありったけ準備して……あとはぶっつけですかね」

 

「おいおい、ぶっつけ本番なんてあまりにも乱暴すぎるんじゃないか?」

 

 作戦と聞いて耳を欹てていたエドガーがあまりにも行き当たりばったりな作戦内容にずっこけながら本当に銀鳳商騎士団がこの任務を受けるべきなのかと問いかける。しかし、その問いにエルの隣に居たアルが『エドガーさんも知っているはずですが』と答えながら周囲の団員を見渡して聞こえるような声量で話を続ける。

 

「新生クシェペルカ軍はレーヴァンティアを動かすのが精一杯です。その段階で正体不明の敵を任せるのは些か荷が勝ちすぎると思うんですよ」

 

「それは……そうだな」

 

「さらに相手は砦を焼き滅ぼしたというお話ですから大軍での布陣は一網打尽にされる可能性も高いですから、僕達のような少数精鋭が事に当たるのは理に叶ってると思います」

 

「うん。それは正しいね」

 

「さらに、厄介な敵をやっつけた。もしくは情報を持ち帰ればクシェペルカとフレメヴィーラのつながりをより一層強くする好機です。そちらにとっても、悪い話ではないと思いますが?」

 

 途中までは真面目に考えさせられる話だったのでエドガーやディートリヒがうんうんと頷くが、最後の段階でなにやら変な事を言い出したアルに、エルは『はいはい○ーメルオー○ル』と言いながら出撃準備が整いつつある工房の中を歩いていく。

 

「みなさーん! 作戦概要を説明しまーす」

 

 途中で転がっていた黒板に地図やら作戦の簡単な概要を書き出しながらエルは銀鳳商騎士団全体に伝わるように今回の作戦内容を伝達する。

 今回の作戦は(ドレイク)と呼ばれる飛空船(レビテートシップ)の確認。出来れば破壊という極めて危険性が高く、相手の戦力や移動予測経路が不鮮明な作戦となる。

 ただ、今まで陥落した砦から数パターンの予測は出来るので、魔導飛槍(ミッシレジャベリン)を搭載した第3中隊と第1中隊を組ませた部隊と第2中隊に対空要員としてイカルガとアディのツェンドリンブル、そしてアルのパッチワーク・アラーニェを足した部隊の2部隊を構成し、後はそれらの拠点を回って行こうと言う方針になった。

 

「全員、決して無理はせずに。情報を持ち帰るだけでも十分ですので」

 

「ああ、分かっているさ。だが、俺としては団長とディーの方が心配なんだがな」

 

 エルの趣味やディートリヒが指揮する中隊のモットーを知っている以上、エドガーは自分達よりも前方で怪しい笑みを浮かべている騎士団長と戦意を高めている同僚を交互に見比べながら心配の声を上げる。だが、その呟きを聞いた当の本人達は『大丈夫、大丈夫』と返答をし、それが余計にエドガーの心労の種となった。

 

「では、俺達は北から回って行こう」

 

「よろしくおねがいします」

 

 そして全ての準備が終わった銀鳳商騎士団はフォンタニエを出立。エドガーとヘルヴィは北の方角に、ディートリヒはある意味ではツェンドリンブルよりも恐ろしい愉快な仲間たちと共に別の道から中央領に向かって足を進めた。

 

「それにしても、それは重くないのかい?」

 

 完全にエドガー達と別れてから数十分後。ガシャガシャという幻晶騎士(シルエットナイト)にしては多すぎる足音に聞き飽きたディートリヒは横で歩いているパッチワーク・アラーニェに疑問を投げかけた。

 今回は(ドレイク)退治という普通の任務ではないことに加え、ツェンドリンブルがアディの1機しか居ないことを鑑みたアルはパッチワーク・アラーニェに持てるだけの武装や改造を施していた。

 

 上半身は無事だったのでパッチワークのままかと思いきや、胴体には追加装甲やナンブのマガジンである板状結晶筋肉(クリスタルプレート)を収めたポーチが所狭しと配置され、前腕部に装備されていた魔導兵装(シルエットアームズ)やナイフは取り外されてなにやら隠してそうなごつい装甲が装備されている。下半身も腰から伸びる四脚の根本にはそれぞれ、戦闘中でも咄嗟に装備できるようになのか、鋼線で固定されているだけのナンブが顔を覗かせていた。

 そして、両肩のサブアームにはそれぞれミシリエで飛空船(レビテートシップ)を落とした長大な魔導兵装(シルエットアームズ)──アルが適当に『グスタフ』と呼んだそれの予備砲身が装備され、とどめに長距離法撃を可能とするサジタリウスを両手でしっかりと装備したパッチワーク・アラーニェ。そんな『フルアーマー状態』という言葉が良く似合う風体に、第2中隊全員のカルディトーレの首がディートリヒの疑問に同調するように上下する。

 

「重いのでグスタフの基部はキャリッジに置いてもらってます」

 

 ディートリヒの疑問にアルは『当然』といった口調で答える。これらの装備群を仮にカルディトーレに装備させれば忽ち過積載で魔力貯蓄量(マナ・プール)が枯渇するのだが、パッチワーク・アラーニェには元から2基の魔力転換炉(エーテルリアクタ)が収められているので多少の過積載は何ともないのだ。

 

 その後はしばらく無言で行軍が続けられる。イカルガを乗せた荷馬車(キャリッジ)を曳くツェンドリンブルとグゥエラリンデを先頭にし、その後ろをパッチワーク・アラーニェがカルディトーレと比べて小さいが、それでも深い足跡を残しながらついていく。彼らの進行方向には新生クシェペルカ領の最前線である砦が待っているのだが、今この瞬間にも天空の覇者がその砦に向かって風を切り裂きながら迫っていた。




パッチワーク・アラーニェ

ACの四脚型のような見た目。
割とガシャガシャ動くので、動く姿が少々気持ち悪いという意見から高速移動時は足を折りたたんでホバーで動けるように改造したという悲しい過去を持つ機体

武装はその場その場で変わるが、ドレイク退治には以下の武装をチョイス
 ・グスタフ(基部と砲身×2)
  ミシリエの防衛戦で使用した超火力のシルエットアームズ。
  その威力は1発でレビテートシップを撃沈出来るほどだが、今回は作戦方針から術式に改造を施し、火力と法弾の速度を犠牲にパッチワーク1機でも運用できるようにした。

 ・ナンブ(各足の根元に4丁)
  お馴染み連射型のシルエットアームズ。
  威力はカルバリンやカマサよりも低いが、連射型なので相手の視界を潰しやすく、魔力もシルエットアームズに収められているクリスタルプレートで賄っているので取り回しやすい中-遠距離装備。

 ・腕に追加した謎の武器
  元々は近接防御用のシルエットアームズやナイフが接続されていた場所だが、無骨な装甲で前腕部が覆われている。
  『男のロマン兼Z以降の様式美』というアルからのコメントが残されている。

本来ならばここにデュランダル(ミスリルを含めた金属を何層も張り合わせた大盾)も装備しようとしたが、エルとダーヴィドに積載量の指摘をされたために断念。
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