銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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幕間も含めると99話となりました。
これだけ続けてこられたのも皆様のコメントや支援で書いていただいたイラストのおかげです。
これからも銀鳳の副団長をよろしくお願いします。


88話

 (ドレイク)を模した飛空船(レビテートシップ)との戦いが痛み分けに終わり、流石のエル達も落ち込んでるかと思っていたエレオノーラ。どうやってフォローをしようかと悩んでいた彼女だったが、何時も彼女の隣を陣取っていた騎士様(キッド)が『そろそろだな』という言葉を発した次の瞬間、まるであらかじめ打ち合わせをしていたかのように件の騎士団長が入ってきた時、エレオノーラは目をぱちくりとさせて驚きを表していた。

 

 そして、彼が入ってきたと同時に始まる(ドレイク)に対しての自身の見解や先の戦いでの反省点の説明。その全く失敗した事を気にしていない──否、『後悔のようなマイナスの空気が感じられない言葉遣い』に、エレオノーラは『再び(ドレイク)と合間見えた時に勝てるのか』と漠然とした質問をした後、自分が厚かましい質問をしてしまったことに気付いて反射的に謝罪した。

 

「ヘレナ……いや、王女殿下。うちの副団長の言ったこと忘れてるぜ。どうせエルはシルエットナイトのことになると見境がなくなるから任せちまってもいいさ」

 

「む、失礼ですね。次のドレイク退治のためにレビテートシップも改造するのでシルエットナイトのことだけじゃないですよ」

 

 わーわーと喋る2人の会話を聞きながらエレオノーラはいつもエルの横に立って話を進めているイサドラの騎士。それどころかイサドラの姿もないことに気付く。エレオノーラがそのことについて訪ねると、エルは少し考えてから徐々に意地の悪い顔をし出し、『逢瀬を楽しんでます』と誤解しか与えないような言動を発した。

 

***

 

 時を同じくしてアルの私室ではアルが数枚の大きな紙に魔法術式(スクリプト)を描き、イサドラが近くの椅子に座りながらアルが引っ張り出していた本を興味なさげに読んでは元の位置に戻すという手持ち無沙汰を身体全体で表現していた。彼女の心境はどこか遊びに連れて行って欲しい……失礼、騎士としてはもう少し自分を優先して欲しい。──具体的にはエレオノーラの騎士みたいにといった我儘な気持ちと(ドレイク)退治の対策を満足いくまでして欲しいという国を想う気持ち。この2つの気持ちがちょうど1対1で別れていた。

 その妥協案としてイサドラは、『私、国王騎の騎操士(ナイトランナー)になるの』とこの前決まったばかりかつ、アルの食い付きそうな情報を話し、それに食いつくようにイサドラの方を見たアルの顔に心の中でガッツポーズをする。

 

「へぇ、国王騎完成したんですか」

 

「うん、ここに残されてた機体で……名前は忘れたけどすごく品質が良いから素体にしたんだって。操縦席もアルの所にお願いして2人乗れるようにしてもらったみたい」

 

「あー、あの時のあれかな」

 

 案外早い完成にアルは驚くと共にイサドラの説明で納得するが、まるでベースとなった機体を知っているかのような口ぶりにイサドラは『知ってるの?』とアルに問いかけるが、『機体名は知りません。お手伝いをしただけです』と反応に困る回答を皮切りにアルは経緯を話し出した。

 

 国王騎のベースとなったのは、アル達は知らないが『ズーティルゴ』と呼ばれる王族専用騎のプロトタイプである。本来ならばジャロウデク軍がここを撤退すると同時に回収しなければならなかったが、藍鷹騎士団の工作や一騎討ちの時間が短かったために回収する時間が足りなくて放置された代物だった。

 ただ、ジャロウデク軍もそのまま放置するのは不味いと思ったのか、新生クシェペルカの騎操鍛冶師(ナイトスミス)がこの機体を見つけた時には魔導演算機(マギウスエンジン)の中身は機体を支える構成部分以外の魔法術式(スクリプト)が空っぽ。つまり、サブアーム関係はもちろんだが、幻晶騎士(シルエットナイト)の動作を行う魔法術式(スクリプト)までも全て消えている状態だった。

 未だ『エルネスティ式幻晶騎士(シルエットナイト)教育術』が叩き込まれていない故に、今から構文師(パーサー)に頼んで魔法術式(スクリプト)の複製とサブアーム関係の調整してもらうとしたらどれほど時間がかかるか分からないと頭を悩ませていた騎操鍛冶師(ナイトスミス)達だったが、ちょうどそこにエムリスとオリジナルを制作した片割れ(アルフォンス)が通りがかる。

 持ち前の陽気さゆえにエムリスは難なく騎操鍛冶師(ナイトスミス)達から問題を聞き出し、いつの間にか工房に潜入して国王騎の概要を読んでいたアルに『出来るか?』と大声で問いかける。すると、『ちょろっすね』とさも障害にならないようにアルが答え、間髪入れずに『んじゃあ、やれ』という命令によってアルという名の小さな悪魔が工房に解き放たれた。

 

 アルはまず、小手調べとして使わない機体から魔導演算機(マギウスエンジン)を引っ張り出し、その魔導演算機(マギウスエンジン)にズーティルゴの機体構成部分を担う魔法術式(スクリプト)を転写。その魔導演算機(マギウスエンジン)とズーティルゴに収められている魔導演算機(マギウスエンジン)を入れ替えようと提案する。

『1から魔法術式(スクリプト)を組む』という騎操鍛冶師(ナイトスミス)達の常識に亀裂が入る音が工房内に聞こえた気がするが、『魔法術式(スクリプト)と機体で差異があるだろう。その場合の手直しを考えろ!』と突っ込まれる。

 だが、アルの『出来なかったら後で直せば良い』という口車によって彼らはアルの言った通りに魔導演算機(マギウスエンジン)を交換し、交換後にアルが少し手直ししただけでズーティルゴは元の動きを完全に取り戻す。その一連の動きに騎操鍛冶師(ナイトスミス)達は信じられないものを見る目でズーティルゴを眺めていた。

 

 しかし、ここでさらに騎操鍛冶師(ナイトスミス)達の脳内に存在する常識をひとつまみ程破壊するアル。

 概要から国王騎は複座式であることを読み取ると、『複座ならこの辺りを変えないと駄目ですね』とカルディトーレ・トレーナーの経験から次々と魔法術式(スクリプト)をアップデートしていく。本来ならば構文師(パーサー)と協議の上で変更を加えていく部分だが、実際に作った経験という物という強みを前面に押し出しながらアルはわずか1時間足らずで魔導演算機(マギウスエンジン)の構築を完了させる。そしてすべてが終わった──かのように思えた。

 

 しかし、まだアルのターンは終わらない、むしろ加速する。

 魔導演算機(マギウスエンジン)を入れ替えた際に試しに操縦を行ってみたが、機体の動きが良くない部分をアルは感知した。初めは整備不良を疑って直接制御(フルコントロール)を介して機体の状態をチェックするが、怪しい反応が返って来るだけで詳細はよく分からなかった。

 なので、実際に反応が怪しかった怪しい箇所の調査を行うために外装を外そうとすると、その部分だけつい最近手を加えられた形跡があることを発見する。その部分を訝しんだアルが中身を見ると、中の銀線神経(シルバーナーヴ)がズタズタに引き裂かれていることを発見することになった。

 そのことを騎操鍛冶師(ナイトスミス)達のリーダーに話すと、『場所が分かるならメモっててくれ』と言われたので同じような変な反応が帰って来る部分を総浚いしたメモを手早く制作したアルは、そのメモをリーダーに渡してエムリスと共にその場を颯爽と去っていく。

 

 ここから先は新生クシェペルカ側の仕事だ。元々はジャロウデク王国のズーティルゴはあっという間に外装が外され、人為的に破壊された部分を完全に修理すると、今度は前国王騎の意匠が施された外装と新たな操縦席が取り付けられ、ここに新生クシェペルカ王国 国王騎『カルトガ・オブ・クシェール2世』が誕生したのである。

 

「──とまぁ、そんな感じで数時間もかからない仕事でしたが、中々良い仕事したと自負してます」

 

 国王騎のあれこれについて説明したアルが晴れやかな笑顔で話し、対するイサドラはもはやどうでも良さげに『ヨカッタワネー』と答える。

 どこの世界にテスト含めて年単位はかかりそうな魔導演算機(マギウスエンジン)の復旧と改造を1日もかからずに行える人間が居るのか。現にここに1人いるのだが、もしかするとフレメヴィーラではそれが当たり前なのかと少しだけ不安になったイサドラであった。

 

「まぁ、それは横に置いておくとして。国王騎の装備についてなにか案はないかしら……って忙しそうね」

 

「いえー? 僕がレビテートシップにつけて欲しい装備とかパッチワーク・アラーニェの嘆願書とかは出来ましたし、このスクリプトも見直してるだけなのですよ」

 

 アルは様々な絵が描かれた設計図らしき物を見せながら暇であることを告げると早速イサドラのいう国王騎の装備について考える。

 ただ、国王騎は実際には戦闘に加わらない物なので、普通に剣と盾を持たせておけば良いのだが、アルは少し考えると大掛かりな杖をはじめとした様々な装備のイラストを描き出した。

 

「空気中のエーテルを集めて超威力の法撃を行う杖とかいかがでしょう? 名前はレイジン○ハート……ジャロウデクの頭冷やそっか的な意味で」

 

「いや、そんな火力必要ないでしょ」

 

「じゃあ、拳に魔力を集中させて相手を打ち砕くやつとか。名前は裁定者(ルーラー)で」

 

「近接格闘とかレベル高いのも嫌なんだけど」

 

「じゃあ照射型の法撃を維持しながら拠点をぶった切るエクス○リバー・カリ○ーンで」

 

「そんな魔力どこから持ってくるのよ!」

 

 アルが適当に描いた設計図を見せながらこれまた適当に考えた概要を話し、イサドラが1つ1つ丁寧に突っ込んでいく。ある程度ボケてすっきりしたのかアルは『冗談ですよ』と言いながら部屋のカーテンを閉じて部屋を暗くする。そして懐中電灯のような形の魔道ランプを点灯させ、壁に向かって照射した。

 

「戦場が夜ならばエレオノーラ様が狙いたい場所を照らして部隊に攻撃してもらうという装備とかありますよ」

 

「でも、それって敵から狙われない?」

 

「え、当然狙われますよ。ていうか士気を挙げる装備っていうのは基本そういうものでしょ」

 

 アルが提案したのはサーチライトだった。ただ、これは相手が狙ってくることが丸分かりなので攻撃が回避される可能性があり、さらに敵からしてみれば国王騎の位置が丸分かりなので総攻撃を受ける危険性が高い代物である。その危険性を分かった上で提案していたアルに、イサドラはアルの頬を引っ張って抗議するが、『まっふぇくらはい』といったん頬から指を離してもらってから言葉を続ける。

 

「多分ですが、エレオノーラ様が出陣されたらこちらの被害を減らそうとこれらの装備をガンガン使うと思います。なので、あくまでも戦の補助や戦意高揚のための回数を限定させた装備にしないとイサドラ様の負担が大きいんですって」

 

「それは……そうだけど……」

 

 アルの説得じみた言葉にイサドラは言葉を詰まらせる。彼女やエレオノーラは幻晶騎士(シルエットナイト)の操作に全くと言って良いほど慣れていない。イサドラは留学時のエムリスや元フレメヴィーラの王族であるマルティナから多少の手ほどきを受けてはいるが、それでも平時の移動が精一杯の状態であった。

 そこに特殊兵装や使い方。緊急事態が発生した時の身の守り方といった物は、はっきり言って付け焼刃にしかならないので、アルは『それが嫌だったら普通の装備にしてください』と返答する。

 

「分かったわよ。その代わり、シルエットナイトの操縦方法を教えて。歩き以外の操縦が分からないのよ」

 

「え、ヤですけど? ったぁぁ! この主殴りましたよ!」

 

 言葉が言い終わるのと同タイミングの拒否にイサドラは思わずアルの頭に鉄拳をお見舞いする。その対応にアルは『今どき、暴力系ヒロインは時代遅れですよ』と謎の言葉で反論しながらも、『良いですか?』と人差し指を立てながらイサドラを説得するために口を開く。

 

「そもそも僕はレビテートシップの改造や乗機の改造、後は藍鷹騎士団から頼まれ事があったりして忙しいんです。そんなシルエットナイトの訓練に付き合う時間はありません」

 

「とか言って暇な時間作って野良猫の集まる所や妖しいお店に行ってるの知ってるのよ?」

 

「あーれーは僕のオアシスです。後、怪しいお店じゃないです! 酒場です! お仕事です!」

 

 イサドラの指摘にアルは耳を手に当てながら聞こえないとばかりに抗議する。猫や犬といった動物に触れ合うのはアルの精神を回復させるのに必須だし、酒場へ繰り出すのは酒場が藍鷹騎士団の詰所になっているからである。

 ただ、アルが言った『時間がない』という言い分も実は嘘だったりする。飛空船(レビテートシップ)やパッチワーク・アラーニェについての嘆願書は先ほど作成したので、後はダーヴィドに見せて改造してもらうだけである。後は、藍鷹騎士団の頼まれ事も(ドレイク)退治の前から着手しており、そろそろその実験成果を受け取りに行って細かい調整を行おうと思っていたりするので、作業的には結構暇になっていたりする。

 

(でもなぁ。このまま一緒に居ると別れが辛いなぁ)

 

 未だ納得がいかないと『良いじゃない』や『お願いー』とアルの肩を揺らすイサドラの顔を見ながらアルは思案する。このまま戦が終わるとイサドラと別れないといけないが、その時点で自身のメンタルは持つのかと不安になる。

 そこで泣いてしまえば最後。あのやり手のマルティナや時としてアルの敵となるエムリスがフレメヴィーラにどのようなことを報告するか分からないので、アルは少しばかりイサドラと距離を置こうと至極平静に『駄目っす』と一蹴する。

 

「良いじゃねぇか。付き合ってやれよ」

 

「そうですよ。イサドラ様の騎士なんでしょ? 主の言うことは絶対ですよ」

 

「アル君、ちゃんとイサドラちゃんの言うこと聞いてあげないと駄目だよ」

 

 だが、アルの考えは甘かった。いつの間にか扉を開け放たれ、その先にエムリスとエルとアディというアルの逃げ道を塞いでくる割合が高いトップ3が立っていたのだ。彼らの援護射撃にアルは『ぐぬぅ』と言っていると、エルはずかずかとアルの私室の中に入ってくる。

 

「レビテートシップに使用するスクリプトについてはレビューのみですから……修正は僕が行います。嘆願書については……パッチワーク・アラーニェだけちょっと聞くことがありますが、概ね了解です。で、藍鷹騎士団からの頼み事はあの件ですね。ノーラさんからもう少し待って欲しいと報告が来ていましたよ」

 

「するってーと、今日はアルフォンスは暇ってことになるな」

 

 矢継ぎ早にサボろうとしていた行程を見抜かれ、エムリスからはやたら良い笑顔を送られる。『誰かあの笑顔をどうにかしてくれ』とアルは東の空に念を送るが、『アルフォンス。これも試練じゃ』という最近王座を引いたご隠居の声が聞こえた気がしたアルは『了解です』と未練たらしく項垂れた。

 その声を聞いたイサドラは早速アルを引き摺りながら城の廊下を歩いていく。『誰か男の人を呼んで!』と自身の性別を忘れたようなことを繰り返すが当然助けなど来るはずもなく、やがてイサドラとアルの姿が完全に見えなくなった。

 すると頃合を見計らっていたのか、エムリスはようやく口を開くと『あいつがクシェペルカに残っても良いのか?』と呟く。

 

「あの子は残りませんよ。あの子もシルエットナイトの作製には並々ならぬ情熱がありますし、その情熱を受け止める力はこれから復興を行う新生クシェペルカにはありません」

 

「だが、イサドラが強硬手段……アデルトルートの前で言うのもなんだが、女の武器を使うかも知れんぞ」

 

 女性であるアディに謝りながらもエムリスはアルがクシェペルカに残る唯一の可能性を提示する。現在、新生クシェペルカ王国は国として最低限成り立っている状態である。復興も当然必要だが、周囲の国との関係も何より必要になってくる。──後は言わずとも分かるだろう。

 

「その時はその時ですね。まぁ、あの子ヘタレなので大丈夫でしょう。個人的にもあの子が王族相手に恋は無いなと思ってます。理由は知ってますが、言いません」

 

「私もノーラさんからヘタレ認定受けてるし、エル君が無いって言ってるから無しかなぁ」

 

「お前ら……実の弟と幼馴染に容赦ないな」

 

 エルとアディの容赦ない言葉と、エルの『……げる。捧げる』といった謎の真似にエムリスはひとしきり呆れる。

 その後、アルが行う作業があろうがなかろうがイサドラが何かと幻晶騎士(シルエットナイト)の修練を強請ってくるので、アルはそれをただ頷いて着いて行く姿が頻繁に見られ、それを見たエレオノーラもキッドを無言で見つめるが、朴念仁属性をスキルとして我が物としているキッドには効果がなかったとか……。

 

***

 

 (ドレイク)討伐に失敗して落ち込んでいると思われた銀鳳商騎士団が、その実あまり気にしていないことがクシェペルカ上層部に知れ渡ってから数日後。フォンタニエ近くに敷設されていた飛空船(レビテートシップ)の発着場では2隻の飛空船(レビテートシップ)に人々が群がっていた。

 一方は飛空船(レビテートシップ)の中に入ってそのまま一向に外へ出てこないエルとダーヴィドを筆頭とした銀鳳商騎士団の騎操鍛冶師(ナイトスミス)達。もう片方は飛空船(レビテートシップ)の外と中を頻繁に出入りするアルを筆頭とした新生クシェペルカ王国の騎操鍛冶師(ナイトスミス)達であった。

 

「アルフォンス卿。本当にこれを解体するのですか?」

 

「修理しても使い手が居ませんからねぇ。そちらが使います? 多分、騎士の方々は人手不足なので必然的に騎操鍛冶師(ナイトスミス)のあなた方が運用することになりますが」

 

「いえいえいえいえ、我らに空は早すぎます。……というか鍛冶師は普通戦場に出ませんよ」

 

 騎操鍛冶師(ナイトスミス)の疑問にアルも疑問で返す。『質問に質問で返すな』とどこからか聞こえてきそうだが、新生クシェペルカ王国の騎士は現在、新型機や遠征と大忙しなのでとてもじゃないがレビテートシップを動かせるぐらいの余剰人数は捻出できない。──ともすれば騎操鍛冶師(ナイトスミス)が戦場に出張るわけだが、エルに『教育』されていないクシェペルカの騎操鍛冶師(ナイトスミス)達は首を左右に振りながら必死に拒否感を顕わにする。

 

「それに解体ではないです。大きさをかなり縮小したやつをドレイクに特攻させようかと」

 

「なっ!? アルフォンス卿! 何を言ってるのか分かって仰ってるのですか!?」

 

『特攻』という人の命をパーツに見立てた攻撃方法に騎操鍛冶師(ナイトスミス)の1人はアルの胸倉をつかみながら反論するが、アルは『落ち着いてください』と今、まさに飛び立とうとしている飛空船(レビテートシップ)を指差した。その飛空船(レビテートシップ)はエルや銀鳳商騎士団が乗り込んでいたもので、船はゆっくりとだが安定しながら上昇すると、上から係留用の錨が降ろされる。

 

「あの中には必要最低限の人員……銀鳳商騎士団のナイトスミスでしか動かしていません」

 

「は、はぁ」

 

 突然の言葉に騎操鍛冶師(ナイトスミス)は訳が分からないと首を横に捻る。確かに今まで飛空船(レビテートシップ)を動かすとなると銀鳳商騎士団の騎操鍛冶師(ナイトスミス)だけでは数が足りず、クシェペルカの騎操鍛冶師(ナイトスミス)も参加するか、もしくは船の中を走って持ち場を掛け持ちすることが多かった。それが1騎士団の騎操鍛冶師(ナイトスミス)達だけで運用できるのは当然すごいと思うのだが、それと特攻に何の因果関係があるのだろうという疑問を口に出そうとした騎操鍛冶師(ナイトスミス)だが、口を開く前に数機のモートリフトが飛空船(レビテートシップ)の心臓部である源素浮揚器(エーテリックレビテータ)を運び出してくる。

 

「では、そのエーテリックレビテータをあの箱に入れてください」

 

 その後、詳しいわけも聞けないまま源素浮揚器(エーテリックレビテータ)はレーヴァンティアによって片隅に魔導演算機(マギウスエンジン)が置かれている大きな箱に納められた。アルはその箱の中に入ると魔導演算機(マギウスエンジン)とエーテリックレビテータを銀線神経(シルバーナーヴ)で繋ぎ、源素供給器(エーテルサプライヤー)内の源素晶石(エーテライト)の残量を確認すると箱から出てきて蓋をしてもらう。準備の総仕上げとしてアルは魔導演算機(マギウスエンジン)に繋がった銀線神経(シルバーナーヴ)を片手に、少し前に設計していた魔法術式(スクリプト)魔導演算機(マギウスエンジン)に転写を行った。

 

「裏コード"ダンタイオヒトリサマ"」

 

 準備を終えたアルが予め仕込んでいた魔法術式(スクリプト)を実行すると、源素浮揚器(エーテリックレビテータ)が突如動作を開始する。本来ならば長い手順やエーテルの流入濃度などを細かに操作しなければならないのだが、その箱は徐々に高度を上げていくと横で係留していた飛空船(レビテートシップ)と同じ高度に達した。

 

「あとはマギウスジェットスラスタを使えば特攻できるというわけです」

 

「り、理解しました」

 

 なぜそうなるのかという理解が追いつかないが、『何をしたいのか』理解した騎操鍛冶師(ナイトスミス)は口をカラカラに乾かしながら頷く。アルは1人で飛空船(レビテートシップ)──もはや飛空船(レビテートシップ)の動力部なのだが、それを質量兵器として相手にぶつけるのが目的だった。

 たしかに長い銀線神経(シルバーナーヴ)を使えば実質アル1人で操作できるので可能なことは可能だが、貴重な飛空船(レビテートシップ)を特攻兵器に仕立てるというもったいない使い方に騎操鍛冶師(ナイトスミス)は苦言を呈しそうになる。

 しかし、それを言うと今度は自分達が飛空船(レビテートシップ)に乗って最前線に送られかねないとあえて押し黙った。彼がそんな葛藤を抱えていることなど知らずにアルは再び魔法術式(スクリプト)を送り込んで箱を慎重に降ろすとちょうど試験を終えたエル達と合流する。最初はニコニコと手を振っていたエルとダーヴィドだったが、懐から数枚の紙を取り出しすや否や、共にアルの肩を強く掴みながら『人を食い殺しそうな笑顔』に豹変する。

 

「おう、銀色小僧。おめぇの設計書は読んだが、これらは何のために必要なんだ? レビテートシップについてはおめぇの改造をかなり見てるからある程度は察しはつく。だがな? 虫公に至ってはちゃんと説明してくれねぇと俺だけじゃなく銀色坊主も敵になるぞ」

 

「ええ、敵になりますよ。あんなに危険性を言ったのに。イサドラ様が居る手前で話せませんでしたが、まさか……あんな物に手を出すなんてねぇ。説明をしてもらいましょうか」

 

 彼らの口ぶりから何やら怪しいクスリか何かを使ったことを咎められている様子だが、アルはダーヴィドの言う『虫公』──パッチワーク・アラーニェに源素供給器(エーテルサプライヤー)を増設しようとしていたのだ。

 当然、『ロボット至上主義』のエルや『わざと幻晶騎士(シルエットナイト)を壊す行為』を嫌うダーヴィドにはその設計図は地雷であるが、『弁解するチャンスをやろう』とばかりにぐりぐりと鎖骨の辺りに力を込めながらエルは説明を要求する。2人の妙に息の合った一連の行動と表情に、アルは『やべぇ。ガチギレ寸前だ』と戦々恐々しながらも自らの考えを述べるために口を開く。

 

「前回の戦いで力不足を感じたからですね」

 

「すみません。最初から意味が分からないです」

 

 アルの口からそんな言葉が出てきた途端、エルは全力で否定するかのごとく激しく肩を掴んでいない方の手を振った。

 前回の戦いでアルは(ドレイク)の片手を損壊させている。残念ながら腹部は射程距離が足りずに外装を少しばかり壊す程度の被害しか与えられなかったが、それを差し置いても地上では欲しいと思っていた場所に適切な火力支援が得られるなどといった活躍をしていたことはディートリヒを代表とした第2中隊の面々からもエルは報告を受けていた。

 (ドレイク)と戦っていたエルは地上の戦いについては報告を聞くしかなかったが、少なくとも後ろ指を差されながら役立たずと言われるような戦闘ではなかったと判断していた。だが、アルはその評価にはやや不満らしく、彼の肩から手を離しながらエルは続きを言うように促す。

 

「兄さんの言いたいことはわかります。ですが、自由奔放に戦う兄さんとは違って僕はこう……欲が深いのであれもこれもと守ったり攻撃したくなるんですよ」

 

「まー、おめぇら兄弟はそうだわな。特にこいつは手に負えねぇ」

 

「親方。僕はシルエットナイトの事を想いながら一生懸命生きているだけですが?」

 

 横から喚いてくる幻晶騎士(シルエットナイト)ガチ勢の話を受け流しながらダーヴィドはアルの考えと先ほどの設計図を反芻する。

 アルは決して欲がないわけではない。むしろその逆──エルと同じく欲深くてそのために行動する人間だ。ただ、その欲のジャンルが一辺倒なエルと違い、アルの願望は様々なジャンルに分かれている。アルが設計したパッチワークやデュランダルも言わば、『攻撃から身を守りたい』や『早く移動したい』といった様々な願望で作られており、サジタリウスも『遠距離から安全に攻撃を行いたい』といった願望によって誕生した。

 では、今回の願望は何か。ダーヴィドは先ほどのアルの言葉から『様々な局面で戦える万能性』を想像するが、その前にアルは大きく手を広げながら『出来る事を増やしたいんです』と訴えた。

 

「攻撃をしたい。守りたい。ですが、シルエットナイトを動かすために一番必要なのは魔力です。いざという時に魔力が足りない。それを防ぐためにエーテルサプライヤーを導入するんです」

 

「クリスタルプレートでは足りませんか?」

 

「あれは他人にも使用できるいざという時のための補給用品です。それに、大量の魔力を貯蓄できますが、それを機体に補給するのには何度も動作を繰り返す必要があります。僕が欲しいのはスイッチ一つで莫大な魔力を生み出せる代物なんです」

 

「なるほど。そこまで考えてましたか」

 

 アルの訴えにエルは話を全て理解したように頷くと、ダーヴィドに作製の許可を出した。いきなり手の平を返すエルにダーヴィドは驚くが、エルが怒っていた理由は『明確な理由のないまま源素供給器(エーテルサプライヤー)という毒物を複数運用する』と思っていたからである。

 

 アルがよく運用しているような板状結晶筋肉(クリスタルプレート)を使用する方法、イカルガのような魔力転換炉(エーテルリアクタ)を特注する方法、ツェンドリンブルのように魔力転換炉(エーテルリアクタ)を複数運用する方法、そしてジャロウデク王国が使用している源素供給器(エーテルサプライヤー)を使用する方法。

 このように莫大な魔力を生み出す改造は様々存在する。もちろん、魔力転換炉(エーテルリアクタ)の特注といったものは不可能だが、現状出来る改造案の中でアルは魔力転換炉(エーテルリアクタ)を壊す毒であることが既に発覚している源素供給器(エーテルサプライヤー)を用いた。

 しかも、通常のティラントーですら1基の魔力転換炉(エーテルリアクタ)に1つだけしか接続していない源素供給器(エーテルサプライヤー)をパッチワーク・アラーニェには2つ。合計4つの源素供給器(エーテルサプライヤー)を接続させるという機体を壊しにかかっているかのような改造。エルはその理由をなんとしても聞き出したかった。

 

「良いのか? 銀色坊主」

 

「僕の中ではその理由で納得出来るので。……あ、一つだけ。これは誰のための改造ですか?」

 

「僕が大事に想っている人……人達のためです」

 

 アルの脳裏に一瞬だけ赤い髪の君がよぎるが、すぐに言い直す。エルはその言葉に『ふーん』と何も気付かずにダーヴィドの方を一度だけ向いて自身の率いている騎士団の姿を目に納めると、再び目線だけをアルに向けた。

 

「その中に僕は?」

 

「居ませんよ? 今まで通り、好きに戦って好きに帰ってきてください。その場所を僕達全員で守ります。足りない手を広げてでもね」

 

 ぶっきらぼうに、そして『どうやってもエルは帰ってくる』という信頼が篭もった言葉にエルが笑顔になる。もし、これで『兄さんもです』や『僕が居場所を守る』といった独りよがりの言葉を投げかけていたら、エルは恐らくグーパンで制裁を下していただろう。

 

 騎士団は1つのチームだ。なんでも出来るからといって1人に作業を押し付けるのは、エルやアルが嫌うブラック企業となんら変わらない。これまでも協力によって数々の敵を屠ってきた銀鳳騎士団員達に『居場所を1人で守ってやる』と言われても誰も喜ばない。むしろ、『精神が生まれ立ての小鹿レベルのお前は待機してろ』と首輪と縄を括り付けられるレベルである。

 それに適度に無茶し、適度に任せる。そして、たまに暴走して全員(銀鳳騎士団全体、国内問わず)漏れなく阿鼻叫喚の地獄に叩き落し、『エルネスティ済』にさせる常識破壊の権化。エルを守るのは、はっきり言って『病院を紹介されるレベル』である。

 

「そこまで分かっていれば十分です。親方、アルの改造を全て行ってあげてください」

 

「分かった。特に俺達全員ってのが気に入った! じゃあ、これも俺達の守るべき家って奴だな」

 

「そうですね。建築はお任せしますよ。棟梁!」

 

 エルの言葉に周囲に居る騎操鍛冶師(ナイトスミス)達がダーヴィドに向けて棟梁コールを送る。最初は気分が良かったダーヴィドだったが、次第にうっとおしくなったのか『さっさと作業に戻れ』と一喝し、ようやくエル達、銀鳳商騎士団が所有する始めての飛空船(レビテートシップ)の建造が着手された。この間、騎操鍛冶師(ナイトスミス)達が飛空船(レビテートシップ)に懸かりきりになるので、銀鳳商騎士団の実働部隊は遠征から近場の警備などにシフトする。

 だが、ジャロウデク軍は引き続き砦に篭もり、(ドレイク)もまたイカルガやパッチワーク・アラーニェの攻撃によって損傷した部分を修復しているのか、特に目立った動きはなく月日は流れる。

 

 騎操鍛冶師(ナイトスミス)達が作業をし、実働部隊がフォンタニエ周辺の警備に就いてている間はエルもアルも暇──なわけが当然なかった。エルとアル合作の飛空船(レビテートシップ)に積み込む兵装や魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)の調整といった大掛かりな作業に加え、アルは突発的に行われるイサドラとの幻晶騎士(シルエットナイト)の特訓やその他のことで暇な時間はほぼ存在しなかった。

 

「はい、剣を前に出してください」

 

「えー、模擬戦とかしないの?」

 

「何言ってんですか? 指示する。移動する。後退する。全力で逃げる。総司令、この場合は国王騎ですが。運用方法は本来、さっき言った4つの操縦で十分なんですよ」

 

 カルトガ・オブ・クシェール2世のような複座式に変更した特別なレーヴァンティアの操縦席で操縦をしていたイサドラの不満にアルは同じく不満顔で答える。

 前線で部隊を率いる指揮官はいざ知らず、最高峰で部隊全体を統括する総司令官は本来、『他の兵と共に戦っている時点で負け戦である』という存在だ。どこかの国の獅子のような元国王やその孫ならいざ知らず、まだ人と人の戦いである以上は総司令官というものは最終手段として自衛手段は持っておくが、それ以外の戦闘は極力避けるというのがアルの持論であった。

 ちなみに後退するのは兵士と共に優雅に後退をすることを意味し、全力で逃げるのは武器を完全に投棄して身軽になり、なりふり構わずに全速力で転ばないように走るのを意味するのだが、イサドラに理解してもらうまで数時間かかってしまい、アルが心の中で『フレメヴィーラの血が流れてやがる』と思ってしまったのは秘密である。

 

「一騎打ちとかあるじゃない? いきなり負けたらどうするの?」

 

「それは兄さんを召喚することにします。王族同士ならちょっと裏で変わりましょう」

 

 アルは一騎打ちの相手を国王騎の代わりにエルとイカルガを召喚することでなんとかなるだろうとイサドラに説明する。このことはイサドラに幻晶騎士(シルエットナイト)の操縦方法を教えるという過程を説明する際にマルティナとエムリスにも話しており、両者の承認と実際に一騎打ちが行われた際に戦うエルの二の句を告げない承諾によって決まった内容であった。

 

「模擬戦でも駄目?」

 

「怪我したらどうするんですか。あなた1人の身体じゃないんですよ。……あ、国王騎が動かせるのはあなたしかいないんですよって意味ですよ! ほんとですよ!」

 

 わたわたと焦るアルにイサドラは先ほどまでの不満顔から一転して笑顔になる。その笑顔に形勢が悪くなったとアルはさっさとレーヴァンティアの操縦権を奪い、工房へ機体を進ませる。

 

「ねぇ、さっきのもっかい言って! もう1回!」

 

「怪我したら僕の責任になるのでやめてください。無断でやったらもう訓練しませんし、1日中反省文の刑ですからね」

 

「それって1日中付きっ切りでアルが監視してくれるってこと?」

 

「やだ、この主。切り返し方学習してる……怖!」

 

 まさかの返しにアルは本気で怖がりながら工房の所定の位置にレーヴァンティアを返すや否や、転がり落ちるようにレーヴァンティアから降りる。そのまま机の上に畳んであったフード付きのローブを羽織るとエルは足早に工房を出ていく。

 

「フレメヴィーラの女は怖い。セラーティ侯爵の言葉はほんと金言でしたね。さすがフレメヴィーラ王族の血」

 

 ぶつぶつと独り言を呟きながらアルはフォンタニエの城下をするすると移動し、やがて1軒の酒場の扉を開く。慣れた様子でカウンターに腰掛け、いくつかの注文をすると『銀の食器を付けてください』と付け加えて注文する。

 

「あいよ」

 

 見慣れた男が小さく返事をしながら厨房に一旦引っ込み、すぐさま何かが入ったコップと粒が荒い小石のような物が盛られた皿と串切りにされた果実がアルの目の前に配膳される。『銀の食器はまだ待ってくんな』という言葉に頷いたアルは、早速左手の親指と人差し指の付け根をコップに注がれた液体で軽く濡らして皿の上に盛られた小石を数粒ほど乗せた。

 次にアルは串切りにされた果実を摘み取ると、小さく口を開いて果実の果肉部分を少量ほど齧りとる。果実の心地よい酸味や、酸味の奥に秘められた僅かな甘みを楽しみながらその余韻が残っているうちにコップの中にある液体を呷ったアルは、最後に指の付け根に乗せられた粒──岩塩を舐めた。

 

「お待たせしました」

 

「ええ、待ってました」

 

 そんな中、露出が激しい服というより、もはや布を纏った給仕が現れる。妖艶な所作をしようと心がけてはいるが、未だ慣れていないことを思わせる所作にアルは少しばかり笑うとその給仕に銀貨2枚を手に取ると彼女の掌に乗せる。枚数を確認した給仕が満足げに手を閉じようとした次の瞬間、アルは袖の下から金貨を1枚、周囲に見えない様に彼女の手の中に滑り込ませた。

 その『余計な1枚』に少しだけ難色を示しながらも給仕はアルの手を取って階段を上がり、そのまま2人は奥の部屋へと消えていった。

 

***

 

「……朝帰りとは結構なご身分ね」

 

「騎士なので良い身分……っつぁ!」

 

 朝にばったりと出くわしたイサドラの黄金の右拳がアルの頭部に炸裂する。一応は主付きの騎士が無断で一晩別の所にいたことになるので非はアルにあったりするが、なんだかそれだけではない意志を感じたアルはしぶしぶといった感じで謝ることで事なきを得た。そして、その後ろで待機していたエルに『昨夜はお楽しみでしたね』と宿屋の親父のようなセリフを吐かれるが、アルは気にせずに1枚の紙をエルに見せる。

 

「水陸両用型も目途がつきそうですね」

 

「これは水中で行動が出来るだけですけどね。いまだ気密が上手くいかない難題があるので引き続き助けてくださいとのことです」

 

「じゃあ、一緒に案でも出しましょうか」

 

 エルの提案にアルは戸惑いなく飛びつくと、『水中活動用幻晶騎士(シルエットナイト)実験結果』という項目が書かれた紙を片手に話し合いをするためにエルの私室へと足を運ぶ。

 ──そう、昨夜にアルが外出した理由。それは藍鷹騎士団から実験結果を受け取るためであった。

 昨晩ノーラという名の給仕と共に部屋に消えたアルは、そこで待っていたムサいおっさん達と顔を突き合わせながら先ほどの実験結果を纏め、朝頃に店を後にした。ちなみに、店に入った際に注文した飲み物は『ただの水』である。

 

 しかし、なぜ藍鷹騎士団が水中活動が出来る幻晶騎士(シルエットナイト)を欲しているのか。事の発端はエムリスの調査命令に起因する。

 (ドレイク)が前線を暴れまわる少し前。藍鷹騎士団にはエムリスから旧クシェペルカ王都の『デルヴァンクール』へと軍を進める上で無視できない要所である『四方楯要塞(シルダ・ネリャク)』を調査するように指示が出されていた。

 その指示に従い、彼らはその要塞の周辺を調査しようと奮起するが、彼らがいかに優れていようとも四方楯要塞(シルダ・ネリャク)はデルヴァンクールを守る要塞群の総称である。主戦場になりうる東側の者に調査を限定するにしても、規模が広大すぎるので情報を一箇所に統括する場所──つまるところ調査の基点となるベースキャンプを張る必要があった。

 

 しかし、巡回の目を掻い潜れるようなベースキャンプを張るには些か地形的にも厳しいと判断した藍鷹騎士団の親父は、四方楯要塞(シルダ・ネリャク)付近を流れてる川に着目する。川の水深は深く、水の濁りもあるため視認し辛いので必然的に監視の目は緩くなる。そこで上流や下流といった所にベースキャンプを設営し、移動時は水が入らない様に加工したコンテナを幻晶騎士(シルエットナイト)に背負わせながら川底を歩かせれば、見つからずに移動や調査が出来るのではないかと考えた親父は早速、藍鷹騎士団に配備されていたカルディトーレを近くの川に沈めてみた。

 だが、結果は操縦席まで水浸し。乗っていた親父も少し引き上げるのが遅れていたら溺死していたという悲惨な結果に終わった。そもそも、雨天時には専用の防水処置を施さねばならない物に水中は無謀だろという話も出て来たのだが、そこからアルに……そのアルを経由してエルにまで話が回ってきた。

 概要を説明されたエルとアルが『ズ○ック!』やら『アッ○イ!』と狂喜乱舞していたのは言うまでもない。

 

 幻晶騎士(シルエットナイト)を丸ごと蓄魔力式装甲(キャパシティフレーム)で作った専用の鎧で覆うことによって魔力の確保と防水性を両立させる『第3次実験』の結果は上々だと判断した2人は、未だに不完全な専用の鎧の気密処理について案を出し始める。

 

「シルエットナイトを使わずにシルエットギアで偵察とか色んな無茶なことやってましたよね。そう考えれば藍鷹騎士団って僕達のこと悪くいえませんよね」

 

「いや、それアルが加わるからでは? 一応、君ってどっちの人間なんですか?」

 

「銀鳳騎士団だよ!」

 

 鎧の固定方法を外装硬化(ハードスキン)に頼るのではなく魔道トーチで完全に溶接してしまう案や、エルのよく使っている大気衝撃吸収(エア・サスペンション)で機体全体を空気の膜で包み込む案といった複数の案を書きながらエルはアルに問いかける。

 兄から言われた疑問の理不尽さにアルは叫ぶが、エルは『ほんとでござるかぁ?』とちょっと腹の立つ笑顔を浮かべながら笑っていた。

 

 その後、なんやかんやありながらも水中活動が数十分という極々短時間だけ可能な『カルディトーレ・アクア』が藍鷹騎士団の手で完成されたが、エルとアルは『いや、こっちの人間じゃないんだから……何勝手に見ようとしているんだ』という発案者に対して敬意を全く感じ取れない理由で見ることは叶わなかった。

 

 そのあんまりな理由に2人はエムリスと藍鷹騎士団に抗議するが、エムリスは『いや、当然だろ?』と駄々っ子をあやすように諭され、その間ずっとエムリスのそばに居た親父とノーラと複数の藍鷹騎士団員達は無言でアルを凝視していた。その視線の意図を察したエルは、『あげません!』と強く否定することでこの話は有耶無耶になった。

 

 ──多分なった!




カルディトーレ・アクア
 藍鷹騎士団が水底を歩かせるために考案し、エルとアルに助力を頼むことで出来上がった初の水中活動型シルエットナイト。
 ただ本文内でもある通り、シルエットナイトは雨天時には特殊な防水処置をしなければならないほどなので、水につけるのは不味いだろうと判断したアルは、シルエットナイトにキャパシティフレームで作った専用の潜水服のような鎧を着せることを進言。
 結果的にナイトランナーや人員輸送用に特別に気密処理をしたコンテナに乗せる人員の空気的に(専用の酸素ボンベの有無によって多少変動するが)数十分ぐらい水中で活動が出来るカルディトーレが出来た。

 反省点は、武装を全て外しているために無防備な点や専用の鎧によって動きが阻害されるため、操縦性や走破性は1世代前の機体であるカルダトアにも劣ると様々だが、一番の反省点は『鎧によってエーテルリアクタでの魔力生成乏しいこと』である。
 水中におけるエーテルリアクタの挙動の実験を行う暇がなかったため、キャパシティフレームの魔力が尽きた場合は即座に脱出しないとそのまま酸欠でお陀仏になる結構危険な代物。
 そのことから『シャドウラートで良いじゃん』という話になり、本機のみしか試作されずに成果も実験のみに終わった。
 エルとアルに詳細を話さなかったのはそのためである。

※イメージとしてはEVAのD型装備のようなイメージ


パッチワーク・アラーニェ FM
 アルが『戦闘で出来る事を増やす』という願望を元に設計。FMは『フルミッション』の略称で、パッチワークの十八番である遠・中距離からデュランダルを使用した近接戦闘や防衛も考慮に入れた設計となっている。
 ただそのようなことをすると、当然魔力が瞬時に枯渇するのでエーテルサプライヤーを用いて魔力の増強することを敢行。文字通り、命を削ってまで目的を為す機体設計でもある。
 設計図の中には『何度折れても復活する相棒』と『巨竜の片手を捥いだ新人』を媒介にし、『巨大な船』に固定した謎の装備も確認されている。

余談
マイページの自動推薦に銀鳳の副団長が入り、お気に入りにするべきか迷ったのは秘密です
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