空を征くジルバヴェールの甲板に1機の
彼は眼前の
「皆さん、間もなく国境の要塞です」
ただ、それもここまでである。100機以上の
「念には念を入れて支援しときますか」
「おう! 副団長にアレ持ってってやれ! ぶちかますぞ!」
先ほどのはあくまでもアルの楽観的な試算による予想なので、常に最悪のことを考えてしまうこの少年はジルバヴェールの艦長であるダーヴィドに1つの指示を下した。その指示はすぐさま後部格納庫まで伝えられ、数機のモートリフトに搭乗した鍛冶師達の手により、細長い砲身と
「サジタリウスMkⅡ IN "デグチャレフ"」
右手に既に装備していた狙撃銃のような形状をした
しかし、この武装の真骨頂はここからだった。
「IN ジルバヴェール」
アルはさらに
「銀色小僧。あまりぶっ放すなよ? 魔力はこっち持ちなんだ。下手すりゃ真っ逆さまだからな?」
「分かってます。なにしろ親征始まって最初の戦闘ですからね。景気づけは1発あれば十分です」
余り緊張感のない言葉にダーヴィドが艦橋に詰めていた
「……手順簡略。今から撃ちます」
「狙いは任せる。イカルガは起こすか?」
この
「いざという時に繋げれるようにしてください。1発辺りの魔力の減りを見ます」
「こちらイカルガ。了解です」
もちろん何度もテストをして確認したが、唐突な不具合でジルバヴェールの魔力が根こそぎ
ただ、今魔力を送ってしまうと1発の魔力消費量が測れないので、エルはイカルガの操縦に細心の注意を払いながら了解の意思を伝声管に送る。
「では、射撃を開始します」
その声を合図にアルは堅牢な要塞の城門。その前で剣を振り回しながら前衛を指揮している華美な装飾で彩られたティラントーを照準に入れ、
瞬間。大地を揺らすほどの衝撃と轟音が要塞を中心に響き、要塞の城門は元の形が分からないほどに粉々に砕け散っていた。爆発の範囲外だった城壁も法弾の圧倒的な熱量からか液状となった真っ赤な岩が流れ、先ほどまでの要塞と大きく異なった外見に
「着弾確認。今、リーコンの映像をそっちに回します」
「うへぇ。あの黒騎士、溶解しかかってるじゃねぇか」
リーコンの映像が
「地上の方も片が着いた……というか戦いらしい戦いをしなかったらしいですね」
ダーヴィドの嫌そうな声を聞きながらアルは操縦席のボタンを操作してリーコンの目を地上に向ける。すると既に戦闘は終わっているらしく、武装を投棄したティラントーや要塞に詰めていた兵士が連れ出されていた。ティラントーやレーヴァンティアの外装から見るに法弾が少し当たった程度で刃を交わすこともなく終わったことを察したアルは、『損害なし』という報告と入れ替わりでダーヴィドから送られてきた『消費魔力がジルバヴェール全体の5分の1程度』という
***
その後、中央領へ足を踏み入れた親征軍は破竹の勢いで進軍していた。
その理由として新生クシェペルカ軍にとって旧クシェペルカの中央領はホームなので、ジャロウデクも知らない抜け道や有利な状態で戦える地形については熟知していた。道行く城塞についても全てを相手にせず、抜けれる道があるのならば積極的に城塞を回避することで消耗を限りなく抑えることに成功していた。
「あ、次の城。抜け道も対処されてますね」
「んじゃ、ぶちかますか」
次の理由として上空を飛ぶジルバヴェールの甲板に居るパッチワーク・アラーニェの存在も大きかった。
格納庫に戻らず、半ばジルバヴェールの甲板に住んでいるかのようなこの機体にはリーコンと呼ばれる偵察装備や狙撃に使用するバイザーといった『遠くの物を拡大して見る装備』が豊富に揃っていた。
これにより予め城塞の抜け道などを上空から偵察し、その報告を光信号によって地上部隊に伝える。または、やむを得ず攻城戦になる場合は半ば艦砲射撃のような法撃によって1発。最悪、イカルガによる魔力供給込みで城塞の支城を狙うといった支援することでさらに少ない消耗で進むことが出来た。
なお、この方法。アル自身は『俺自身がリーコンになることだ!』という謎の決め台詞を言いながらノリノリでこなしていることから割と気に入っていたりする。
そんなこんなで特に消耗もなく進んだ親征軍だったが、フォンタニエを発ってから数日の夜。夜営が行われている場所の中心で首脳陣が集まってこれからの進軍ルートについて頭を悩ませていた。
「デルヴァンクールがここで……このデルヴァンクールを囲うのがシルダ・ネリャクです」
机に置かれた地図にエレオノーラが指を這わせる。その位置にはデルヴァンクールを守る最後の護りとして建造された
「限りなく速攻を仕掛けたが、そろそろドレイクの方も気付きそうだな。攻城戦の最中に背後から襲われるのは不味い」
エムリスは唸りながら地図を見る。
「渡河用の装備も無い以上、この要塞の橋は押さえておかないといけないですね」
藍鷹騎士団から偵察の資料を見せてもらいながらアルは口を開く。この
「僕が城門の鎖でも壊しましょうか?」
「アルはドレイクに対応するんでしょ? それに、あの要塞の城門は要塞の内部に鎖とか跳ね橋の制御を行う機構があるから変に壊したら碌なことにならないわよ?」
アルの提案に今まで城塞に叩き込んできた法撃の威力を思い出したイサドラは手を横に振る。すると、その説明にピンとくるものがあったのか、エルが手を上げながら『良い物があります』と藍鷹騎士団の方に視線を移した。その視線に藍鷹騎士団の親父は『たしかにな』とエルの言おうとしていることが分かったかのように笑って近くの団員に合図を送った。
「シャドウラートでの工作部隊はノーラ。任せていいか?」
「お任せを」
親父の問いにノーラは言葉少なく返事をしながら目を伏せる。その一連のやり取りにようやくエルの言っていた『良い物』が
大体の話はこれで終わりかと思われたその時、珍しくディートリヒが手を上げた。
「あー、すまない。グゥエラリンデの修理が間に合わないらしいから僕も工作部隊についていっても良いかね?」
ディートリヒの言葉にアルはダーヴィドの方を向く。アルの反応にダーヴィドは『本当だ』と答え、ジルバヴェールとパッチワーク・アラーニェの改修でグゥエラリンデの修理まで手が回らなかったことを報告する。代替案としてレーヴァンティアを1機借りようという話を持ち出したのだが、ちょうどその時にシャドウラートによる工作を行う話が出てきたので、ディートリヒはそれに便乗しようと考えたらしい。
「なぁに、慣れないレーヴァンティアと比べてシルエットギアは嫌というほど経験してきたからね。任せておきたまえ」
ディートリヒの言うことは尤もである。ディートリヒは逐一演算を行わないと動かせないプロトタイプの頃から
そんな時、ディートリヒが工作部隊に志願している最中ずっと何かを考え込んでいたエムリスが唐突に大声を発した。
「よし。ならば第2中隊は俺が預かろう」
唐突に響くその宣言に当の第2中隊の面々は困惑していた。口々に『脳筋』という単語が流れてくるが、ディートリヒは内心『君達も人のこと言えないよ』とツッコムが、やがて意見が一致したのか『御指示に従います』となんとも緩い返事が返ってくる。
本来、中隊ごと戦力を借り受ける際はもう少し空気が重いのだが、その緩さと中隊員の暢気さに中隊長であるディートリヒは釈然としない様子で中隊員達を見つめ、その一連の流れを見ていたエドガーは『決戦の前の空気とは思えんな』と呆れていた。
「あ、例の合図についてちゃんと守ってくださいね。下手したら目が潰れるんで」
「銀の長、味方にも被害が出る装備を用意する時点で止めてくれよ」
念押しするアルの言葉に寒気がしたエムリスは指でアルを指し示しながらエルに抗議するが、『もう作っちゃったんで』だったり、『ハマれば
「恐らくシルダ・ネリャクがこの親征で最大の戦いになるでしょう。どうか、皆様のお力を」
『御意!』
こうして方針を決めた親征軍の首脳陣は各々の天幕へ戻っていく。エル達もジルバヴェールへの帰路についている最中。ふと横を見ると慣れ親しんだ弟の姿が無いことに気づいた。
「あれ、アルはどこにいったんでしょ」
「アル君なら方針が決まったらフラッとどこかへいっちゃったよ?」
「思えばあいつが一番無理してるんじゃねぇか?」
先ほどまでアディから『無理は良いけど無茶はいけない』と苦言を言われていたエルとキッドなのだが、この戦いに介入してから一番無理をしている人物と問われれば真っ先にアルのことを思い浮かべたキッドは『探しに行くか?』といったん立ち止まる。
しかし、エルとアディは『イサドラ様も居るし、大丈夫大丈夫』とまるで手のかかる子供を信頼に足る人物に預けたようなことを言いながら歩いていくので、2人のお気楽な調子に呆れつつもキッドは黙ってそれを追いかける。
キッドの心配をよそに、アルは野営のテントから少し離れた場所で
「遠くへ来たものだ(ね)」
アルの独り言がぶれ、背後の気配に気づいたアルが振り返る。すると、そこにはイサドラがいつでも国王騎に乗れるように軽鎧を身に着けた状態で立っていた。彼女は流れるようにすとんとアルの横に座り込み、『やっと帰ってきた』と感慨深そうに口に出す。
そう、イサドラにとってはとても長い旅路であった。一夜の内に王都は落とされ、命からがら脱出できた先で彼女の父と父が治めていた街が消えた。そして、いつ『用済み』とされるか分からない軟禁生活を続け、横に居る小さな騎士と従兄弟に助けられた後、目まぐるしく変化する生活に身を置いていたらいつの間にかここに来ていた。
「あとは王都を取り戻して……終わりですね。あっちが逃げたら国境線まで押し返す作業がありますが」
「ほんと、その格好に似て心配性なんだから」
ただ、心配性のアルとしては『戦いが続くかもしれない』という可能性が捨てきれないので、そのことをイサドラに言うと吹き出しながらも指先でアルの頬を突っついた。
現在、アルは重装甲なパッチワークの
武装にしても右胸に装備した大ぶりのナイフと防具兼杖のアガートラームがあるので、何時
「僕は兄さんと違ってベッドの上で臨終派ですからね。生き足掻きますよ」
死ぬ時はコクピット派かつ、生死をかけた戦いでも遊びを忘れないロボキチとは違ってアルはそこら辺の感覚は一般人と変わらない。むしろ、先ほどの重装備のせいで一般人よりも生き汚いまであったりするので、イサドラはそんなアルのキメ顔にひとしきり笑い転げると『そういえば、アルと離れちゃったし、もう守ってくれないのね』と残念そうな言葉を漏らした。
「そこは作戦立てた殿下にどうぞ。それに、空の上ですからねー……行けたら行きます」
「そこは絶対行くって言うところじゃない?」
「それは劇の見過ぎです。人には出来ることと出来ないことがありますよ」
Noと言いづらい日本人特有の『行けたら行く』が炸裂するが、どうやらイサドラには効かなかったようだ。しかし、いくら過去の反省と諸々の調整を経て、
「それにエレオノーラにはこんな花用意して……」
「戦意高揚にはなったでしょ?」
親征出発前の花束から抜き取ったのか、イサドラの手の中には鉄華が握られていた。それは少年時代にエルやキッド、バトソンと共に面白半分で作った物で、いつの間にか決して散らない花という特性から主にセラーティ侯爵を中心とした貴族達から重い約束や誓いを指す贈り物として広まって行った曰く付きのアイテムだ。今回はその話をありがたく頂戴してクシェペルカ騎士の戦意高揚に利用させてもらったわけである。
(帰ったらセラーティ侯爵にお礼言おう)
言った瞬間、『何勝手なこと言って来てんのこの子』という罵倒の言葉か、『クシェペルカに鉄華輸出しなきゃ』という銭勘定の言葉が聞こえてきそうな光景が頭をよぎったアルだが、横で『私には? ほら、なにか花的な贈り物はないの?』という心の中が透けて見えてきそうなほどそわそわしているイサドラが目に映った。
「何を期待しているのか分かりませんが、鉄華はないですよ。僕、家族以外にはなにも対価が無い誓いとか契約とかなるべくしたくないので」
「対価ってなによ?」
「んー、シルエットナイトもらえるとか?」
「シルエットナイトもらえるってどんな契約よ……」
イサドラが呆れるが、現にパッチワークはアンブロシウスより『テレスターレ開発に助力兼ライヒアラ騎操士学園の臨時講師』という契約によって賜った機体である。ただ、それを言うとイサドラがフレメヴィーラ王国を勘違いしそうなのでこれ以上言うのは止めた。
(絶対面倒くさいこと言ってくるだろうしなぁ)
先ほど言った『対価の無い誓いや契約をしたくない理由の一端』を毒づきながらアルは視線を
アルはイサドラが自身に僅かながらの好意を示しているのは自覚している。そして、自身もそれを憎からず──その反対の意思を持っていることも自覚している。
だが、アルはフレメヴィーラ王国の騎士なのだ。アンブロシウスに便宜を図ってもらった恩義や騎士団の通常業務として行わなければならない案件から多少目を瞑ってもらい、代わりに
一生かかっても返せないのではないかと薄々ながら考えているアルが途中で銀鳳騎士団を抜けて他国に残る選択肢などアルの中にはなかったのだ。
「じゃあ……対価をわ……」
「わ?」
叫び声にも似たイサドラの声と内容を聞いたアルは、心の中で『"ワ"イのワイル○ワイバーンとか言ったら引っ叩かれそう』と現実逃避しながらイサドラの続きの言葉を待つ。例え『ワタシ』と新婚ほやほやの夫婦が言いそうな言葉がイサドラの口から飛び出てきても『無理っす』と断れるように丹田に力を込める。
「私を護る権利……待って! 無し! 今の無し!」
「テイジナノデー。オツカレサマデース」
どうやら直前で日和ったらしく、即座にアルがそそくさと撤退を開始する。後には『やってしまった』とばかりに声にならない叫びをあげながら頭を抱え込むイサドラ。その少し後ろのテントの陰に隠れていた銀鳳商騎士団の隊長達が『あの子もいざという時へたれるのか』と意外な副隊長との共通点に苦笑いを浮かべていた。
***
戦いの開始を告げるラッパの音に地響きを立てながら前進するのは、王都を取り戻そうと奮起する新生クシェペルカ王国の有するレーヴァンティア。法撃を盾や機動力で凌ぎながら力強い足取りで一直線に
その突撃に対し、戦の定石通りに壁型陣形を取って迎え撃つのはジャロウデク王国のティラントーである。特徴である重装甲や膂力をいかんなく発揮した本機は、新生クシェペルカ王国の
コデルリエ平原全体に轟音が響き渡る。1人、また1人と脱落者を出しながらもコデルリエ平原は両国の
「レビテートシップが来るぞ! 信号を送れ!」
空の彼方から飛来する黒い点を見据えながら
「対空用意! 放てっ!」
レスヴァント・ヴィードを率いる
いくら数による法撃という防御を用いても高速で飛んでくる岩石を正確に撃ち落とすのは至難の業である。結局、陣形の至る所から着弾を示す土煙が立ち上がることを許してしまうが、それでもレスヴァント・ヴィードはそのまま陣中へ強襲をかけてくる数隻の
木造ゆえに下部からカルバリンを浴びせかけられた1隻は炎上しながら墜ちていくが、墜ちた以外の
「ヴィード隊だけでは抑えきれん! ジャベリニーア隊を前に出せ!」
装甲板が貼り付けられた『改造船』の上に立つ刺々しいウォールローブを着込んだジャロウデク王国の
「ミッシレジャベリン斉射! 斉射後は隊を分けて友軍の支援に回れ!」
『応』という返事と共に
しかし、残った
「くそ! 逃げられる! ……黒騎士が出てきたか!」
煙を吹く改造船の様子にもう少しで落とせると踏んだ指揮官だったが、改造船と入れ替わるように姿を現した大楯を持ったティラントーの集団に歯噛みする。その動く城壁はレスヴァント・ヴィードの法撃を受けてもなお前進を続け、いつまでも改造船に向けて法撃を放っていた1機のレスヴァント・ヴィードにハンマーを叩きこんだ。
ウォールローブと共に機体が『く』の字に折れ、その勢いのまま横に吹き飛んだレスヴァント・ヴィードの残骸を横目にティラントーは自身の戦果を誇るかのようにハンマーを高く掲げて力強く吠える。
「チャージ! チャァァジ! 突撃せよ!」
「いかん! ヴィード隊下がれ! ……くそ! あと一息なのに……」
近接戦闘に不向きなレスヴァント・ヴィードを後退させながらも恨めしそうな視線で撤退していく改造船を見つめる指揮官。しかし、突如謎の法弾──
「よし! 誰かがレビテートシップを堕としたぞ! 崩されるな!」
手ごわい改造船が墜ち、周囲の士気が上がったことを空気で感じ取った指揮官は剣を片手に真っ先にティラントーへ駆けだす。
コデルリエ平原にはこうしたやり取りが何か所も発生しており、平原は絶えず戦闘の音が鳴り響いていた。
***
「着弾確認!」
「法撃を行った隊は補給急げ!」
新生クシェペルカ王国の本陣付近では数機のレーヴァンティア達が忙しそうに右往左往していた。どのレーヴァンティアもバックウェポンの代わりに長大な
「南南西に追加のレビテートシップを確認!」
「配置に着け!」
伝令からの報告に1機のレーヴァンティアが膝立ちになりながら飛来する
レスヴァントの余剰魔力が
「ほう。アルフォンスの"砲兵仕様"というのも悪くないな」
撃墜された
『レーヴァンティア・アテラリー』は
しかし、その十分すぎる火力や飛距離の代償として大量の魔力──具体的には
だが、
「やはり、戦いは多くの犠牲を出さずには……いられないのですね」
戦場から流れてくる戦闘音やすぐ近くを動くレーヴァンティア・アテラリーの足音を国王騎の操縦席の中で聞きながらエレオノーラは静かに手を組んで祈った。自身で決断したとはいえ、いざ戦場に出てみれば自身はこの戦いの何の役にも立っていないと自責の念に駆られていたのだ。
しかし、ふと頭を上げたエレオノーラは現在最も戦闘が激しい区域を指で指示し、『近衛を援軍に向かわせてはどうか』と提案するが、『落ち着いて』とイサドラはその提案を一息に両断した。
(私が操縦しててよかった)
落ち込むエレオノーラを見ながらイサドラは『国王騎が1人乗りだった場合』のことを想像して背筋を冷たくする。国王騎を押さえつけるために数機の
だが、このままエレオノーラを悲しませるのも本意ではないイサドラは、エレオノーラ側の操縦席に括り付けられた『花束』を見た。
「ヘレナ、その花束を送ってくれた通り、国を想う気持ちは皆一緒よ。だから犠牲なんて考えないで」
飾られた花束を見て親征に出発する際のことを思い出したのか、ようやくエレオノーラは落ち着きを取り戻し──かけた。
「近衛軍よ! 女王の守りを固めろ!」
唐突に響くエムリスの声に職業軍人故に得も知れない脅威を感じ取っていた近衛軍は陣形を整える。叫ぶイサドラの声を無視したエムリスは、遠くの空から本陣目掛けて異形の黒い
本来ならば改造船でも対処が不可能な本数。しかし、
「……これはどうしようもないな。信号弾を放て。赤3発、緊急だ」
もはや自分達の手に負えないと早急に判断したエムリスは伝令のレーヴァンティアにそう伝える。その間にも
***
「騎兵隊ですよー! 僕のじゃありませんが、人の主に手を出すやつぁ馬に蹴られて三途の川ですよー!」
「馬でーす。ひひーん!」
「なぁ、アル。この2人何とかならねぇ?」
「親方! 全機に合図を送ってください! あれ、キッド何か言いました?」
「いや、なんでもねぇ」
ジルバヴェールの甲板と格納庫で空気をぶち壊す会話が為される中、アルはダーヴィドに指示を送りながらボタンを弄繰り回してパッチワーク・アラーニェの頭部に真っ黒いガラスに換装したばかりのバイザーを降ろす。
念には念とアルはパッチワーク・アラーニェのバイザーに使用された遮光ガラスと同じ物で作られたゴーグルをつけ、視界が
「全員、遮光装備の確認をしてください。昨日も言いましたが、下手するとホロモニターや目が潰れますよ」
「イカルガ、遮光装備OKです」
「ジルバヴェールの乗組員も全員遮光装備を付けた。監視員も退避させた」
先ほどの攻撃によって
「第3艦橋切り離した後は反転準備をお願いします」
「おい、ジルバヴェールに変な部位の名前を付けるな!」
溶接を行う際に使用する遮光マスクを被ったダーヴィドが突っ込みながらも
「いかん! インシニレイトフレイムで迎え撃て!」
その尋常じゃない速度にアンキュローサの迎撃では間に合わないと読んだドロテオが発射体制の整っているヴィーヴィル最大の攻撃である『
「かかった」
砦一つを煉獄に変えるほどの火炎を避けたジルバヴェールの甲板上でヴィーヴィル目掛けて突っ込んで行く船が火炎に飲み込まれる様子を横目にアルは顔をニヤつかせた。火炎による熱が徐々に
戦いが始まって数時間。夕闇に染まる平原に真昼を思わせる2個目の太陽が顕現した。
小船(第3艦橋)
アルが作った無尽特攻兵器。その実態は超巨大な閃光玉である。
片手ほどの大きさでシルエットナイトのホロモニターを焼くほどの光量を
生み出す閃光玉(アニメ版参照)の中身を人間の数倍の大きさを持つ小型サイズのレビテートシップの隙間に満載したので、その結果がこの始末である。