アルの法撃により
ただ、
「敵本陣に移動しながら鬼神を叩く!」
ドロテオが叫ぶとヴィーヴィルは一旦
その方角にはクシェペルカの本陣があり、エレオノーラ達の顔が浮かんだアルはパッチワーク・アラーニェの強靭な脚部を想いっきりジルバヴェールの甲板に叩きつけ、甲板に居るであろうダーヴィドに向かって吠えた。
「親方! 魔力を送るので追ってください!」
「よし来た! 回せぇ!」
脚部にある
だが、そんな逃げるヴィーヴィルにぴったりとくっついている存在が居た。
イカルガである。
「王手にはまだ早いですよっと」
ぴったりと着いてくるイカルガにヴィーヴィルからは法弾の雨が殺到した。だが、既に『
「埒が明きませんし、こちらから近づきますか」
「鬼神が突っ込んで来るぞ!」
さらに増速してヴィーヴィルを追い抜いたイカルガが、ヴィーヴィルの真正面から法撃を放ちながら突っ込んでいく。その姿にドロテオはアンキュローサは
「おのれ! 今度こそ竜の炎で焼き尽くしてくれる!」
しかし、その様子をただ指を咥えて見ているドロテオではなかった。
「僕とイカルガにそれは効きません!」
そう言いながらエルはイカルガに備え付けられた
「あー、レーザーの初期照射だけならなんとかなるっていう理論ね。あの人、ほんと無茶ばっかりするなぁ」
そんな戦闘の様子をパッチワーク・アラーニェの
たしかに竜の炎──
無論、そんな高速でビュンビュンドヒャドヒャと飛び回る
「しまっ……! 抜かれたか! 総員、船を回すぞ!」
そのまま2合目に備えたドロテオだったが、イカルガが
さらに
「うひゃー、よくやるよ」
「あ、この前親方がやろうとして失敗したやつだ」
「うるせえ!」
そんな攻防戦をようやく追いついたジルバヴェールの甲板上で見ていたアルとパッチワーク・アラーニェからの映像を艦橋の
いくら
「親方~、ミッシレジャベリンの補充終わりました~」
「よし! それじゃあ銀色小僧、どうする?」
「……んー、相手のシルエットナイトのほとんどは動いてませんね。上からなら比較的安全に近づけそうです」
そんなジルバヴェールの姿をドロテオが見つけた時、激しい怒りに苛まれた。
先ほど1本目の
「思えばあの油が入った投槍を撃ち落したのが始まりか」
既にドロテオの頭の中には敗北の色が濃く滲み出す。アンキュローサは壊滅状態に加え、ヴィーヴィル本体も軽症とは口が裂けてもいえないほどの損傷を被った。対するイカルガは損傷らしい損傷は無く、さらに
そんな考えが頭にしつこくこびり付くが、ドロテオの目はまだ死んでいなかった。操縦桿や鐙を素早く動かすとイカルガを振り落とそうとヴィーヴィルを再び錐揉み回転させる。
「懐に入られると芸が少ないようですね」
ただ、既にその行動は見飽きたとばかりにエルはキーボードに指を走らせ、ラーフフィストのワイヤーを限界まで巻き上げる。その直後にヴィーヴィルが回転したのか視界が大きく回り、遠心力によって操縦席に凄まじい圧が加わるが、エルはそれに耐えながらイカルガの手に持つ
「チェックメイトです!」
「舐めるなぁ! ドラゴニッククロー射出!」
内部に向けたファルコネットがヴィーヴィルの内部を蹂躙するのと同時に生き残っていた
いくら蒼き鬼神といえども仲間の船が危険に晒されたとあってはヴィーヴィルを離れていくだろう。
そう思ってジルバヴェールに攻撃を仕掛けたドロテオだったが、イカルガは気にせずにヴィーヴィルを攻撃していた。
「仲間が危機に晒されてるんだぞ! ……もしや、仲間ではなかったのか!」
ドロテオの中でイカルガに対する非常識さの度合いが上がっていく。
法弾でヴィーヴィルの外装がボロボロと大地に墜ちて行く中、ドロテオは『理解できない』というような表情をしながらイカルガを睨みながら操縦桿を動かしていると、件の
「なっ! ドラゴニッククローを迎撃しただと!」
続けて2個目、3個目と全ての爪が迎撃される光景にドロテオは信じられない物を見る目でジルバヴェールを凝視する。
そう、彼は失念していたのだ。イカルガの影に隠れる異形の存在に。イカルガの存在が大きくなればなるほどにその異形はより深く闇に混じり、常にその柔らかな急所を晒すのを監視していることに。
その証拠として爪を迎撃したのと同じ法弾がヴィーヴィルの
「この飛竜は既に命運尽きつつある」
その言葉から伝声管から息を呑む声が聞こえてくるが、ドロテオは続けてヴィーヴィル最期の行動方針を伝える。
それは、『このヴィーヴィルでクシェペルカ本陣に特攻。エレオノーラをヴィーヴィルと引き換えに亡き者にすること』だった。ヴィーヴィルは他の
「すまん。お前達の命も渡してくれ」
ただ、まだ生き残っている部下も死なせてしまうのだけはドロテオ唯一の気がかりだった。ヴィーヴィルには避難用の装備が積まれていない。──いや、『積める部分を全て戦闘に回してしまっている』
ドロテオは『鬼神にこだわりすぎた』と遅すぎる後悔をしながら部下に謝罪するが、返ってきたのは被害状況を報告する声や
その士気の高い声にドロテオの中の狂気とも取れるイカルガへの執着は薄れていく。もはや取り付いているイカルガの姿には目もくれず、ヴィーヴィルは一直線にクシェペルカ本陣に進路を取った。
***
クシェペルカ本陣では高度を下げながら本陣目掛けて進むヴィーヴィルの巨体に騒然となっていた。
その騒がしさといったら近衛騎士団の
「ヘレナ! 私達も逃げるわよ!」
「……どこへ逃げれば良いのでしょう。それに、あの速さでは追いつかれます」
「でも! 生きることを諦めないの! 何か……何か……」
近衛騎士団の重鎮が『何処へお連れする』や『我々が盾に』といった議論が繰り広げられる中、イサドラは自身の騎士の『何が何でも生き残る』という心情の通りに周囲を見渡す。
(武器を捨てて走る? ……駄目! あの速度じゃ、あの騎士団長のじゃないと追いつかれる! 他に……他に何かないの!?)
今もなおぐんぐん近づいてくるヴィーヴィルの速度を考えると、アルに教えてもらった最終手段である全速力の逃走は焼け石に水。それこそ、彼の兄の
イサドラは他に使える手段はないかとカルトガ・オル・クシェールの頭部を左右に彷徨わせる。
(アル! 助けて!)
やがて案は全てイサドラ自身によって却下され、前方では銀鳳商騎士団の旗機であるイカルガが1つの質量兵器と化したヴィーヴィルを必死に押し返している後ろ姿に、イサドラは自身の騎士を心の中で呼ぶ。
(来るわけがない)
しかし、イサドラの中に潜む現実主義なイサドラが現在の戦況やアルの戦っている場所から来ないだろうと自身の脳裏に描いた甘い考えを打ち砕く。イサドラは
「今の内に少しでも離れるわ! 近衛は援護を!」
「あっ……イサドラ!」
イサドラを呼んだエレオノーラの細い指が
ジルバヴェール。銀鳳商騎士団の有する
そのままジルバヴェールは甲板上のべスピアリを起動。ヴィーヴィル目掛けて
銀鳳商騎士団でも止められないという事実に近衛騎士団は撤退を開始するため、エレオノーラの周囲に集まる。だが、それがヴィーヴィルからしてみれば倒すべき対象を自分達から示した行動となった。
「飛竜の口が!」
「国王騎を守れ!」
がぱりとヴィーヴィルの口が開けられ、その口内に蓄えられている小さな火球が見る見る内に巨大な物に変貌していく。背後には火炎を遮る物はなく、飛竜の炎は城塞という巨大な建築物も落としたという話から移動して回避は絶望的だと判断した近衛騎士団。
しかし、彼らは騎士団の銘にある『近衛』としての責務を果たそうとレスヴァント、レーヴァンティア問わず盾を前に突き出しながらカルトガ・オル・クシェールの前に密集していく。
だが、そんな悲壮感漂うクシェペルカ本陣に不審者。もとい、『不審機』が足を踏み入れた。
「イサドラ様ぁぁ!」
不審機の中の
「なんで……ここに居るの?」
見慣れた4本足と声にその不審機──パッチワーク・アラーニェが駆けつけてきたことをようやく認識したイサドラが掠れた声で問いかける。そんな今にも消え入りそうな声に、アルはパッチワーク・アラーニェの4本の脚から飛び出した杭を大地にしっかりと食い込ませながら、『え、なんて?』と無粋な聞き返しをすることなく軽く笑いながら──。
「船から落っこちちゃった……」
なんとも悲しげなセリフを漏らした。
***
少し時は巻き戻る。
(使っている魔力が少なすぎる)
たしかに
ならば残っている魔力はどこに使用しているのか。そう考えていたアルの目が、偶然にもヴィーヴィルの口の端から魔法現象特有のスパークにも似た光を捉えた。その光とこれからヴィーヴィルが行おうとしていることに今まで感じていた悪寒の正体が氷解したアルは、すぐさま半円状に展開していた大楯を翼のように広げながらジルバヴェールの甲板上を歩く。
「親方。ここで降ります」
「は!? おまっ、降りるって空中だぞ!」
「はい。行けたら行くって約束したんで、ここで降りたらイサドラ様の所に行けるから行きます」
不可思議なことを言いながらもアルは操縦席に増設された4つのボタンの内、1つのスイッチレバーを指で跳ね上げる。すると、先ほどまで緩やかだった
「キッド、僕は行くんで……後は頼みますよ」
「ああ、エレオノーラ様のことは頼んだぜ」
「そうですね。キッドの主様はついでに守ってあげますよ~」
『イサドラ様の所』という単語から、アルがこれから何をしに行くのかはっきりと分かったキッドは自身の主のことを頼むが、それを軽口で返しながらパッチワーク・アラーニェは甲板で十分な助走をつけてから夜空に飛び立った。
「しばらく無茶する」
「はいはい、いってらっしゃい。親方さ~ん、キッドが外出るって~」
「はぁ!? まったく、銀色坊主達の友人ってのはこれだから……」
「親方~、俺もあっちに入れるのやめてくれよ」
「シルエットギアに関しちゃ俺達より詳しいバト坊がよく言うぜ」
アディの声に反応したダーヴィドは文句を言いながらもキッドのツェンドリンブルに接続されている
このジルバヴェール。内部に補助動力として4基ほど
もちろん、ツェンドリンブル2機やイカルガといった魔力源も存在するが、最初に設計段階で『簡単にその場を動けてしまう
「まさか……銀色小僧。こうなることが分かって余計にエーテルリアクタを取り付けさせたのか?」
「あの子、そこまで考えてないと思いますよ。石橋を法撃で破壊して、その横に金属の橋を架けないと危ないって言ってましたし」
「それ、元の橋ないよな!?」
先見の明がありすぎると困惑したダーヴィドだったが、隣に居た
***
「エントリィィィ!」
そんな会話がジルバヴェールの艦橋でされている最中。アルは細心の注意を払いながら操縦桿や鐙、さらには
「法撃ぃ!? ……あ、この! 敵と味方の区別も出来ないんですか! 顔覚えましたよ!」
闇に解けるような機体色をしているパッチワーク・アラーニェだが、そんな目立つ行為をしていると当然だが格好の的になる。謎の機体が空から滑るように戦場に乱入してきたので、存在に気づいたティラントーはもちろん、なぜかクシェペルカ所属のレーヴァンティアまでもバックウェポンから
しかし、敵と味方の区別というが『いきなり空を漂いながら姿を現した足が4本ある異形の所属不明機』が味方なのかと問われれば、10人中7人ぐらいは間違いなく首を横に振るだろう。
さらに、顔を覚えたと言っても『レーヴァンティアの顔』を区別できる人間は……1人居るが、アルはそんなレアスキルを保有できるほどロボキチ度は極まっていない。
「当たりませんようにー! 当たりませんようにー! 我らが慈母アマ公じゃなかったアマテラス様ー」
敵味方に法撃されるという事態に、アルは戯言から神頼みに移行する。
『弾は臆病者を好む』や、『身構えている時は死神が来ない』という話も映画などで見たことあるが、そうやってフラグを立てた途端にやられていくことが多いので、アルの中に存在する庶民は遠く離れたもう1つの故郷に住む八百万の神に頼むことにした。
しかしながら、法弾の1つが運悪く広げていた大楯に着弾。1枚の大楯がサブアームから離れたことにより、滑空中のパッチワーク・アラーニェは大きくバランスを崩した。
「ブッ○ァァァ!」
八百万の神に祈っていたのに何故か悟った人物の名前を言いながらアルは、全てのサブアームから大楯をパージさせる。風を受けて機体を減速させることは出来なくなったが、幸いにも地面に近い。搭乗者の
「デュランダルは回収して……本陣はあっちの方角……よし」
パージした大楯の中から一番大事な装備を回収したアルは、パッチワーク・アラーニェの背部にあるリーコンを展開させながら本陣の方角を目指して
「こんなに全力稼働でもマナ・プールが減らないって逆に怖い!」
本来ならばこれほど全力稼働したら半分ほど
そうしている間にもヴィーヴィルは咢を開き、口中に牙のように生えた
「……ごめん」
近衛騎士団の前にパッチワーク・アラーニェを着地させたアルは、これから愛機に対して行うことに操縦桿を撫でながら謝罪する。アンブロシウスから前身であるラーパラドスを受け取ってから様々な改修を続けてきたパッチワークだが、今回の改修で
それは、どんなに取り繕っても自分の好きな物を破壊してしまうような改修を自分で設計してしまったという事に他ならない酷い仕打ちである。
「だけど、大切なものが出来たんだ。力を貸してください」
近衛騎士団の形成した壁の奥に居るカルトガ・オル・クシェールをチラリと見ながら言葉を続けたアルは、パッチワーク・アラーニェの脚部から杭を大地に向けて打ち付ける。
その時、後ろの方でイサドラから『なぜここに居るのか』と問われる声がアルの耳に届いた。その返答として『"約束したから"とか言うの嫌だなぁ』と考えたアルは、あくまでもジルバヴェールから不注意で落っこちた風なことを言いながら操縦席の横からイカルガに備え付けられている物と同型のキーボードを引っ張り出した。
『イッショケンメイ』
キーボードに打ち込まれたコマンドがパッチアーク・アラーニェ全体に駆け巡った瞬間、機体に備わっている安全装置が全て解除された。これによりパッチワーク・アラーニェはベヘモスと相対した際のグゥエールのように、
さらにアルは操縦席に増設された残り2つのスイッチレバーをパチパチと跳ね上げると、その操作によりパッチワーク・アラーニェに収まっている2基の
先ほどのヴィーヴィルと同様に使えきれない魔力が機体の関節部から漏れ出すが、アルは
「……自信無いなぁ」
目の前にはジャロウデクが生み出したクシェペルカを焼き尽くさんとする巨竜。それに対してアルは心底自信がなさそうに呟きながら
アルがこのような勝負に出たのは、ただ単に『クシェペルカ側が詰みの状態』にあったからだ。平原は森林も点在する丘陵地帯なので、国王騎を連れて後退するにしても通常の
「あの船の艦長。ほんとこっちの弱い部分ばかり突いてくるなぁ」
イカルガに抑えられながらもこちらに向けて口を開いているヴィーヴィル。その頭頂部に生えている
どうあっても詰みの状況でアルが出来るのは炎から王を守ることだ。改修に改修を重ねたこのパッチワーク・アラーニェにも要人を護衛するための装備は搭載されているし、
しかし、相手は対城塞兵器を放とうとしているヴィーヴィルだ。ただの守りでは到底守り切れず、仲良く灰になるのが関の山だ。
『死守』。文字通り、命を懸けて守るほどでなければ守り切れないとアルは覚悟を決めた。
「ストームシールド展開」
デュランダルとサブアームを起点に突風が発生する。最初こそ周囲の木々を轟々とざわめかせながら無秩序に吹き荒れていたその風は徐々に風がパッチワーク・アラーニェの前方に集まり始め、何時しかヴィーヴィルほどの大きさを持つ巨大な風の壁になった。
「さて、矛盾対決の2回戦と行きましょうか」
パッチワーク・アラーニェの持つ全魔力を伴った最強の盾に、ヴィーヴィルの持てる限りの魔力を振り絞った最強の矛が衝突した。
ストームシールド
ハイスペルのハイプレッシャーウォールをオーバードスペルクラスに改ざんした魔法。
検証実験ではイカルガの法撃を数発撃つだけで消し飛ぶ程度だったが、リミッターを外した状態 + エーテルサプライヤー4つという破格の魔力量を込めているので、格段に強度は上がっている。
スパロボ30の艦長がショ○コンという情報を取得した調査員。
果たして彼女は、精神年齢が高いエル君(アル君)でもOKな『エンジョイ勢』なのか、それとも魂から幼い子を判別出来る『ガチ勢』なのか。
その謎を解明すべく調査員はアマゾンの奥地へと向かった。
幕間でなんか拵えられたらいいなぁ。