銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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スパロボの幕間を望む声があったので作っちゃいました。


・女性主人公(アズ)/地上ルート。
・体験版(4話)までを一応予定。
・幕間は不定期に更新予定。
・原作と内容や戦闘の流れの一部が変わっているので、ご注意を。
・未購入の人には序盤のネタバレになります。
・皆もスパロボ。買おう。

以上の注意点に気をつけてご覧ください。


幕間(スパロボ1話)

 潜入捜査をしている藍鷹騎士団の連絡員からジャロウデク王国と手を組んだとある神官の情報を聞いたエル達は、アルや幼馴染ーズを伴って調査に向かった。だが、その先でおかしな穴に吸い込まれてしまった一行は穴の中でお互い離れないように注意していた。

 

「アル!」

 

「兄さん!」

 

 だが、まるで台風が通ったかのような凄まじい風圧に押されたパッチワークは、手を伸ばすイカルガやツェンドルグとは別方向に見る見るうちに離されていく。やがて、一面が暗闇に覆われたと思えばすぐに眩い光が幻像投影機(ホロモニター)に刺し、パッチワークは重い足音を立てながら着地した。

 ベルトをしていなければ操縦席を跳ね回っていたと思えるほどの強い衝撃にアルは目を閉じて衝撃をやり過ごす。次第に機体は普段の動作を取り戻し、再びパッチワークの操縦桿を強く握ったアルは直接制御(フルコントロール)を使用して機体の状況を細かに確認する。

 

「脚部は……大丈夫。現在地は……不明」

 

 脚部からの応答が正常値だったことにアルは一般的な幻晶騎士(シルエットナイト)よりも外装硬化(ハードスキン)の出力を増した特別性の紋章術式(エンブレム・グラフ)を脚部の蓄魔力式装甲(キャパシティフレーム)に組み込んだ甲斐があったと安堵すると共に、周囲を見渡しても現在地が分からないことに不安を募らせていた。

 

 彼が居るのはうっそうと木々が茂った森林地帯だが、どの木々も幻晶騎士(シルエットナイト)より少し高いぐらいなのでアルは第1の行動としてその場でゆっくりと息を吐きながら待機することに決めた。幻晶騎士(シルエットナイト)は巨大な兵器である。今、焦ってこの場を動けば敵にこの場を悟られる危険性があるので、アルはのんびりと……そして周囲に変化が無いかつぶさに観察しながら時間が過ぎ去るのを待った。

 

「敵からの攻撃。そして、援軍の様子なし……と」

 

 たっぷり数十分の休憩の末、周囲に敵影のての字もないことからアルは背部の偵察機器であるリーコンを延ばして周囲を偵察する。現在、一番欲しいのは共に吸い込まれたイカルガとツェンドルグ、そしてイカルガの手の中に居たダーヴィドとバトソンの情報だった。仮に周囲にイカルガが居た場合、魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)でそこら辺を飛んでもらって地形や情報を総浚いしてくれるだろうと期待していたアルだったが、残念なことにイカルガどころかツェンドルグもダーヴィド達も見つけることが出来ず、代わりに『アルにとって懐かしい光景』がリーコンに映りこんだ。

 

「え? なんで……」

 

 その景色にアルは茫然とする。

 それは町だった。だが、セッテルンド大陸では当たり前の城壁が一切なく、石材や木材ではなくアスファルトによって舗装された道路。そして、その道路の両脇には同じくセッテルンド大陸ではお目にかかれないコンクリートや瓦ぶきの屋根といった物で構成された家や商店の姿があった。

 そう、それらはまさしくアルが前世で見慣れた街並みそのものだった。

 

──だが

 

「違う」

 

 アスファルトの道路には所々にまるで砲撃を受けたかのような大きな穴が開き、煙を上げながら半壊している家屋を多数ある。その『戦争』を連想させるその悲惨な光景に、アルは自身の元居た平和だった日本とはまた別の日本であると断言する。

 

「でも、なんでシルエットナイトは動いてるんだろう? とりあえず歩いて調査しますか」

 

 空気中のエーテルを吸い込んで魔力に変える魔力転換炉(エーテルリアクタ)がセッテルンド大陸外でも動いていることに僅かながら不審に思ったアルだが、ひとまずは現在地ぐらいは知っておくべきだと銀の短剣を抜いて外に出る。魔法を放てる銀製の手甲であるアガートラームを纏った指先から、確認のために魔法を出しながら鬱蒼とした森の中を歩き続け、ようやく町の入口までたどり着いたアルは近くのベンチで一息ついた。

 

「人気が無い」

 

 まるでゴーストタウンのような状況に嫌な予感がアルの頭で輪唱する。だが、せめてここがどこか知らないとこれからの予定が立てられないので、再び歩き出したアルの視界に自販機が映った。

 自動販売機。前世ではかなりお世話になった無人の働き者の存在につい懐かしくなったアルはそれに近づくが、もちろんお金は持っていないので『あー、こんな飲み物あったあった』と品物を物色していると、後ろから『欲しいの?』と突然声がかけられた。

 

「うぉ!? すみません、人が居るとは思わなくて」

 

「ご、ごめんなさい。今、この町についたから……」

 

 浅葱色のツインテールの少女が申し訳なさそうに謝ってくる。大きいバックパックを背負ったへそ出しというかなり攻めたファッションだが、先ほどの態度から良い人そうだと思ったアルは『僕もここに来たばかりです。ここって売ってるやつ違うのかなと思って見てました』と、あくまで旅をしている人物を装った。

 

「その格好……君も旅してるの? お父さんとお母さんは?」

 

 少女の言葉にアルは自身の格好を自覚する。騎操士(ナイトランナー)の装備と目立つ銀の手甲という奇抜さなら負けていないファッションに『荷物置いてきたら良かった』と心の中で反省するが、このままどこか行くのも体裁が悪いので旅人という設定を貫く。

 

「僕一人ですよ。君もですか?」

 

「私は……逃げてるだけ。旅はしてるけど」

 

 あまりよく分からない言葉にアルは『訳アリかな?』とその少女を見据える。少し──少ぉし! 少女の方が背が高いのだが、恐らく中学生ぐらいだと思うこの少女をこんな街中に放置させるわけにもいかないので、アルは『人が居そうな所に行きましょう』と誘うと、その少女は手を差し出してきた。

 

「はぐれないように」

 

「いや、自分16歳なので」

 

「……何月生まれ?」

 

『16歳』という単語にぎょっとした少女がすぐに何月の生まれか聞いてきたのだが、セッテルンド大陸では前世ほど正確なカレンダーという物は存在しない。なので、エル達は『親から聞かされて大体の年齢』を実年齢として認識していた。

 そのことをいうと少女は得意げに『私は11月』と言いながら手を差し出してきたので、おそらく年下だろうと判断されたらしい。そのまま手を繋いで人を探すために町を見回り、最後に金網で区切られた巨大な建造物の前まで到着した。

 

「第30士官学校?」

 

「この辺りにも戦いが広がってるのね」

 

 途中で『アズ・セインクラウス』と名乗った少女と共に『地球連邦軍 第30士官学校』というプレートが埋め込まれた門をくぐる。しかし、そこも所々に大穴が開けられており、校舎と思われる建物にもかなりの被害が出ていた。その惨状から悲しそうな表情をするアズだったが、アルはそれとは別のことを考えていた。

 

(大湊ってどこだ?)

 

 道中の文字で現在地は日本だと認識したアルだが、十数年も異世界に暮らした人間に日本の地理など分かるわけがなかった。ただでさえアルは前世、寺院を現す地図記号を『先生! 日本と関係ない記号があります!』とテスト時に叫んだほど地理関係は疎い。そんな彼が大湊というだけで複数の県をピックアップするほどの知識はなかった。

 

 そんなこんなで士官学校の広場に集まっていた避難民達と合流した2人はしばらく避難民の愚痴を嫌々ながら聞いていると、避難民の誘導を行っていた士官学校の生徒らしき女性がこちらへ走ってきた。

 

「落ち込んでる暇はないよ、お嬢ちゃん達! せっかくの可愛い顔が台無しだよ!」

 

「私、お嬢ちゃんと呼ばれる歳じゃないです」

 

「ちなみに僕もお嬢ちゃんと呼ばれる歳や性別じゃないです」

 

 どうやら本当にここの生徒らしく、小さい子を元気づけようと近づいてきたらしいその子にアズと同じようにアルが反論すると、女生徒だけではなくアズも信じられないような物を見る目でアルの方を見た後……。

 

『えぇ!?』

 

 校内に響くほどの絶叫が響いた。

 

***

 

「僕ってちゃんと言いましたよね?」

 

「一人称が僕の女の子だと思ったの」

 

 士官学校の地下にあるシェルターに避難する列を見ながら、アルは不機嫌そうに隣に居たアズに話しかける。あの後、この士官学校は自治会会長が独断で避難民を受け入れていることと、『満点でなくてもベストを尽くす。出来ることを静一杯』という会長の口癖の下、生徒達が自分達が出来る対応に追われていることを聞いた2人は、話しかけてきた女生徒『リアン・アンバード』に手伝いを志願しようと手を挙げようとする。

 だが、突如ツナギを着た『ジークン』という男の口から知らされた召集により、リアンがここを離れてしまう。残った2人は何をするわけでもなく、ただ『混乱が起こったら諌めよう』という精神でシェルターへ伸びる長蛇の列を見守っていた。

 

「生徒達集めて何するんですかね」

 

「シェルターを出た後の移動手段の確保とか?」

 

 どうやら列を守るという習性はこの日本でも適応されているらしく、2人は列を見ながら会話を続けたが、突然鳴り響くサイレンに周囲を見渡す。避難民が口々に『機械獣が来る』と不安そうな声を漏らすが、もう少しで全員入れるのでパニックを起こさず順調にシェルターに入っていく。

 

「防衛設備とかはどうなってるんですか」

 

「機械獣にそんなもので対抗できない! ……モビルスーツ隊とか居ないの!?」

 

 ようやくシェルターに全員入ったことで2人はシェルターを閉じる。中から『君達も!』と引き留める声があったが、2人は黙ってシェルターを閉じるとお互いに向かい合う。

 

「避難しなくていいの?」

 

「出来ることがあるので、精一杯やろうかと」

 

「私も……出来ることを探してみようと思う。何もなかったら避難する予定」

 

 これからの予定を話したお互いは散開する。校舎の影に消えて行ったアズを気にする様子もなく、アルはひたすらもと来た道を戻っていく。圧縮大気推進(エアロスラスト)で木々の間を高速で抜け、パッチワークの目の前までやってきたアルはそのまま操縦席に飛び乗ると出撃準備に入る。探索に時間をかけていたせいもあって少なくなっていた魔力貯蓄量(マナ・プール)の目盛が外気を吸入することで満タンへ近づいていく。

 

「やっぱりエーテルあるんだなぁ」

 

 見慣れた計器の反応にエーテルの存在を確信したアルは腹ごなしに別れ際にリアンからもらった炊き出し用のおにぎりを頬ばる。『機械獣』とか何かは分からないが、一般人が襲われているのを黙って見過ごせるほどフレメヴィーラ王国は平和主義な国ではない。サーチアンドデストロイ。やられる前にやれ。なにがなんでもパァウワァーだ! ……一部だけ国元の王子が混ざったが、おおむねそんな風土のフレメヴィーラ人にとってこの状況は魔獣から村を防衛するのと同義だった。

 

「さって……満点じゃなくても現状のベストを尽くしましょうかね!」

 

 懐かしの味で気力と燃料を大きくチャージしたアルは、パッチワークの脚部を中心に備え付けられている推進器、魔導大気推進器(マギウスエアスラスタ)を瞬間的に大きく吹かす。その風圧により、パッチワークは森林部から大きく飛び出した。

 すると、地上から斧状の光線が飛んできたので、アルは脚部を大きく振りながら魔導大気推進器(マギウスエアスラスタ)の出力を高めることで回避機動を取りながら何とか着地に成功。すぐさま件の光線を放って来た主を見つけ──咆えた。

 

「ふおぉぉ!? あれはロボットじゃないですか! ここ日本ですよね!? 誰が乗ってるんですか! どこの企業が作ったんですか!」

 

 実弾を容易くはじき返しそうな鋼のボディに重量がある体を支える太い足。腕と一体になった斧という渋いチョイスに突起が無数にある反撃も考慮したシールド。

 アルの知らない『ロボット』が目の前に現れたことでアルのテンションは一気にマックスへ上り詰める。何とかコンタクトを計ろうとするが、そのロボットは人間のような姿にも関わらず獣のような動きでパッチワークへ攻撃を仕掛ける。

 

「だれか! 乗っていますか! ……もしかして、無人機?」

 

 幻晶騎士(シルエットナイト)ゆえに声は拡声器を通じて外に広がるので、何らかのアクションがあるかと期待したアルだったが全くの無反応。そうしている間にも第30士官学校に目の前で相対しているのとは別のロボットが攻撃を開始しているのが見え、アルは一旦目の前のロボットから距離を取り、趣味よりも人命を優先するために複合装甲で構成された大楯であるデュランダルを前に突き出した。

 

「名残惜しいですが、突破させていただきます」

 

 魔導大気推進器(マギウスエアスラスタ)を吹かせながらデュランダルを前に突き出したパッチワークは一つの質量兵器と化した。道行くロボットを轢きながらパッチワークはひたすら前に進む。

 すると、遠くの方で大勢のロボットが武器の照準を一斉に向けている現場に出くわした。先ほどパッチワークに放って来た攻撃の威力に、『攻撃を許すと大勢の被害が出る』と危険視したアルは機体の制御を直接制御(フルコントロール)に切り替える。

 

「フレイムストライク……拡大……ループ……位置調整」

 

 ロボットが攻撃対象として定めた船のドックの間で急停止したパッチワークはロボットに立ちはだかるようにデュランダルを前に突き出した。それと同時にアルの演算が終わり、デュランダルの前に巨大な火球が顕現する。

 

「オーバード・フレイムストライク。キャニスタショット」

 

 拡大術式(エンチャント)によって戦術級魔法(オーバード・スペル)まで拡大した火球は投射されると同時に弾け、無数の火球を生み出した。その1発1発がロボットの光線を寸分違わずに叩き落とし、パッチワークはロボットからの攻撃にドックを守りきることに成功する。

 パッチワークの魔力もさほど消費しておらず、アルも先ほどの『戦術級爆炎砲撃(オーバード・フレイムストライク) 単発拡散(キャニスタショット)』の魔法術式(スクリプト)を覚えているので、アルは相手が撤退するまで持久戦を決め込むつもりだった。

 だが、事態は好転する。アルの背後のドックから超巨大な戦艦が発進し出したのだ。

 

「なにあれ! マ○ロス? マク○スなの!? 変形するの?」

 

「え、その声……アル君!? なんでそんなのに乗ってるの!」

 

 超巨大な戦艦に対して思いの丈をぶつけていたアルの耳に戦艦からリアンの声が聞こえてくる。アルとしてはなぜリアンがそんな戦艦に乗って、さらにはすぐにこちらにコンタクトにとれるポジションについているのかはなはだ疑問なのだが、とりあえずリアンがその場から退避するように叫んでいるので、アルはパッチワークを士官学校の方に後退させた。

 

「へ、きたねぇ花火だぜ」

 

「そこの所属不明機の人、聞こえますか! こちらはドライストレーガー、艦長のミツバ・グレイヴァレーです。先ほどは助かりました」

 

「あ、はい。拡声器越しで失礼します。銀鳳騎士団副団長のアルフォンス・エチェバルリアです」

 

 戦艦からの圧倒的火力に先ほどまでアルが相手をしていたロボットの集団が消し炭になると同時に戦艦からリアンとは別の女性の声が聞こえてきた。ミツバと称するその女性の返礼に自身の所属と名前を明らかにするが、途端にドライストレーガーと伝えられた戦艦からのコンタクトが途絶した。

 

***

 

 一方その頃。敵対するロボット──機械獣を一掃したドライストレーガーの艦橋はアルの発した『銀鳳騎士団』という組織名について議論が交わされていた。艦長である『ミツバ・グレイヴァレー』の指示で組織や団体が記録されているデータから検索を掛けてみたが、『黒の騎士団』という組織はあっても銀鳳と名の付く騎士団は地球連邦軍のデータバンクには一切存在しなかった。

 

「あの鎧を着た人形のような機体……異世界軍かもしれません。事が終わったら拘束も視野に入れるべきかと」

 

 すると、アルの機体を観察していたドライストレーガーの副長である『レイノルド・ハーディン』が、オセアニアから『ブルーホール』という未知の大穴を通って侵攻してくる『異世界軍』の機体に似ていることを指摘し、拘束を進言する。だが、『攻撃から守ってくれた』という恩がある相手にそのような手荒なことはするべきではないと、ミツバはレイノルドに『事情聴取』を厳命する。

 

「アズちゃん、後ろ!」

 

 その時、ヒュッケバイン30や援軍に来た『兜 甲児』のイチナナ式のオペレートを行っていたリアンの声が艦橋に響く。艦橋のメインモニターには中破状態のヒュッケバイン30の後ろを取った機械獣が斧から光線を放とうとしている姿があった。被害状況から機械獣の攻撃に耐えきれないことを悟ったミツバがもう一度アズに呼びかけるが、ヒュッケバイン30は後ろに目があるような挙動で機械獣からの攻撃を回避する。

 攻撃を躱された機械獣はもう一度攻撃を放とうとするが、その前に背後から炎で形成された槍が飛来し、深紅の爆炎と共に機械獣は木っ端微塵に砕け散った。

 

「あれ?」

 

 予想外の援護攻撃にアズは先ほど合流した甲児のイチナナ式を見るが、甲児も援護した覚えがないと最後の機械獣を叩き切ったマジンガーブレードを握っていない方の手を左右に揺らす。すると、ジェット機のようなつんざく音を立てながら着膨れた鎧騎士のような機体が不用心に近づいてきたので、アズはヒュッケバイン30の手に装備したフォトンライフルを構える。

 

「あ、あれ……。さっきリアンさんからアズって声が聞こえたと思ったんですが……同姓同名の方でした?」

 

「その声、アル?」

 

 思わぬ再開にアズはフォトンライフルを下ろしながらその鎧騎士のような機体をつま先から頭まで見て一言。『変なの』という言葉を放った。しかし、その言葉はアルを大きく傷つける。

 

「はぁ!? 追加装甲の魅力も分からないなんてアズさん正気ですか!? 全国数百人……は多分居る……んじゃないかなぁ……な追加装甲スキーの人達を敵に回しましたよ!」

 

「なんでそんな自信なさげなんだよ」

 

 それを横で聞いていた甲児は新たにやってきた機体を軽く見るが、その機体は甲児が今まで仲間と共に戦ってきたどの機体でもないということだけが分かっただけで、搭乗員の正体について分かったことは一切なかった。ただ、ドライストレーガーを守ったり、ヒュッケバイン30の援護を行ったりと、こちらの陣営の手助けを行ったことから『味方に近い第3勢力』として甲児は秘匿通信をドライストレーガーに送る。

 

 そうしていると、海の向こうから腕がない謎の機体が2機現れた。その謎の機体は海の上を滑るように飛びながらドライストレーガーとの距離をみるみる内に縮めていくので、接近に慌てたミツバがドライストレーガーの拡声器で接近機への所属を問い、その間にリアンは接近機の識別信号を確認するが、結果は『友軍ではない』という判断材料が増える結果となった。

 

「アルフォンスさん。あれはあなたの仲間ですか?」

 

「いえ、あんな格好良い頭部をしたロボットは知らないです。ぜひ、持ち帰って……あぶなっ!」

 

 持ち帰る気満々のアルだったが、謎の機体の股間部分から眩い光が発せられたと同時にデュランダルを構え、魔導大気推進器(マギウスエアスラスタ)を全開にしながら大きくその場から跳躍する。ドライストレーガーの舳先へとパッチワークが着地すると、謎の機体から発射された先ほどの機械獣とは比べ物にならない出力の光線がデュランダルとぶつかる。

 

「あっ!」

 

 だが、着地の制御に手間取っていたアルの誤作動によってしっかり握っていたはずの手が緩み、パッチワークの手からデュランダルが弾かれてしまい、その堅牢だった大楯は海に落ちてしまう。

 

「野郎!」

 

 明らかな敵対行為に、甲児が叫びながらイチナナ式のマジンガーソードを謎の機体にお見舞いすることで多少の手傷を負わせるが、その時には既に『2機目』の攻撃準備が完了していた。

 2機目の光線がドライストレーガーではなく、舳先に居るパッチワークへと延びて行く。かろうじて胸部装甲を追加装甲付きの腕で防御することには間に合ったが、光線の向き先はパッチワークの胴体ではなく頭部だった。爆発音と共にパッチワークの体は衝撃に抗いきれずにドライストレーガーの甲板に倒れ伏した。

 

 それを見た甲児含むドライストレーガーの艦橋スタッフに動揺が走った。イチナナ式といった所謂マジンガー系統の機体は頭部に操縦席が存在する。仮にあの機体の操縦席も頭部に存在する場合、パイロットの生存はほぼ絶望的だ。

 ミツバによって攻撃を仕掛けてきた謎の機体は『アンノウン』として敵対認証され、甲児がアンノウンに攻撃を仕掛ける中、アズはヒュッケバイン30をアルの乗っていたパッチワークに寄せると追撃を仕掛けようとするアンノウンを照準に入れた。

 

「リープ・スラッシャー!」

 

 アズが叫ぶとヒュッケバイン30の背部から空中へ射出された細かなパーツが空中でドッキングし、チャクラムのような円形の武器へと変貌する。その武器から光刃が発生すると、誰の手も介することなく円形の武器はそのままアンノウンへ飛んでいき、装甲をずたずたに引き裂いた。

 

「おー、どうやって動かしてるんですか」

 

「えっと、私でもわかんない……けど……」

 

 ヒュッケバイン30の下から聞こえる声にアズが拡声器で答えながら声の主を探すと、そこにはアルが

 なんともないような顔で仰向けに倒れたパッチワークの上で座っていた。

 その後、パッチワークはドライストレーガーに回収されることになり、回収途中にアルが発した『えっ! 研究目的であの機体も回収しないんですか? しましょうよ!』といったアルの願望が9割ほど篭もった提案はミツバにより却下された。

 

***

 

 ドライストレーガーの格納庫にたどり着いたアルが真っ先にやらなければならないこと。それはこの場に居る最高責任者に自身の監視を行ってもらうことだった。

 アルはこのドライストレーガーやそれに属する地球連邦軍に所属していない人物である。そうなるとアズもアルと同じなのだが、彼女の場合はヒュッケバイン30という地球連邦軍の機体を使用し、さらに言えば事後承諾とはいえコンタクトを取っているらしいので、後は艦長らと話して問題なければ放免されるはずである。

 

 だが、アルはパッチワークという自身の機体を乗り回しているので、そこらへんの事情説明をしなければならない。また、アルもこの広大な世界でエル達を探すことを考えるとドライストレーガーの乗員になった方が都合が良いので、その交渉のために今は事を荒げないように気をつけた行動でもあった。手を後ろに組んで膝立ちの状態で先ほど会ったジークンというメカニックの横で待機していたアルの耳に格納庫の扉が開かれる音が聞こえた。

 

「ジークン! あなた何してるの!」

 

「いえ、この子が勝手に……俺だって何がなんだか……」

 

 入ってきた金髪の女性がアルが拘束されている姿に顔を真っ赤にする。いきなり現れたとはいえ、ドライストレーガーの発進やアンノウンからの攻撃から守ってくれた恩人──しかも、年端も行かない少女になんてことをするのかと怒鳴るが、対するジークンもアルが勝手にやったことなので、どう説明しようか迷っていた。

 

「はじめまして、銀鳳騎士団副団長のアルフォンス・エチェバルリアと申します。突然で申し訳ありませんが、僕はこの船の所属ではないので一応このような形で待機してます。後でお話しましょう」

 

「あ、はい。艦長のミツバです」

 

 律儀に礼をするアルにすっかり怒気が抜けたミツバと名乗った女性はアルフォンスという不審者について一旦無視すると、ヒュッケバイン30について協議するためにアズの元へと向かっていった。

 そして、このドライストレーガーの建造責任者である『ファイクス准将』からドライストレーガーは地球連邦軍の指令体系から外れて独立部隊として運用することが決まり、アズもヒュッケバイン30のパイロットとしてドライストレーガーに編入されることが決まった。

 

 そんな中、ファイクス准将の言葉を聞いていたアルは隣で待機しているジークンに『えー、説明義務放棄してる』と呟いていた。

 

「まだ修了課程済んでない学生に"もう学生ではない"って連邦軍そんなに余裕ないんです? そもそも独立部隊とするならば、指揮権や指揮経路を確立しないと色んな所から自由に手を回せる便利屋になるのでは?」

 

「俺にそんなこと言われてもなぁ……」

 

 この世界のことについて一切分からないアルは外野からの野次気分でジークンに話をするが、『軍隊とはそんなもん』と思っていたジークンは回答に困ってしまう。そこにヒュッケバイン30の件が片付いたミツバがレイノルドに『その辺どうなってるのでしょうか』と聞き、レイノルドも答えられなかったのでリアンに部隊構成や指揮系統を確認するように指示を出した。

 

「改めまして、ドライストレーガー艦長のミツバ・グレイヴァレーです。先ほどの援護、ありがとうございました。……ですが、非常に申し上げにくいことですが事情聴取にご協力願えませんか?」

 

「ええ、そのために来ましたから。あ、それと別に敬語じゃなくてもいいですよ」

 

 指揮系統などを確認させに行ったことにアルは深く言及せずに笑顔で了承する。あれしきの事で恩を着せようとすると印象がすこぶる悪くなりそうだし、なにより貧乏ったらしくて惨めだとアルは何も言わずにミツバとレイノルドについていく。

 格納庫を抜け、エレベータに乗り、近代的な歩く歩道に乗った先にある食堂までたどり着くと、ミツバは近くのテーブルに『どうぞ』と着席を促した。

 

「失礼します」

 

 一言言ってから席に座り、ミツバも対面に座るとレイノルドが食堂の隅に備え付けられている自販機から適当な飲み物を取り出すとそれぞれに飲み物を配っていく。その飲み物を手に取ったミツバが最初に一口飲み、それを見たアルが倣うように飲み物を口にするのを皮切りにミツバは口を開いた。

 

「アルフォンス君の素性は後にして……なぜあそこに所属不明機に乗って現れたのか聞いても良いかしら?」

 

「その場の流れっていうのが一番自然な理由ですが、強いて言うならば出来ることを精一杯した結果ですね。精一杯の中にあの機動兵器に乗って一般の方々や皆さんを守るという手段が存在しただけです。後は……、リアンさんから頂戴したおにぎりの恩ですね」

 

「おにぎりとは、あの士官学校で炊き出しとして配っていたおにぎりかい?」

 

 自身の口癖である『出切ることを精一杯』という言葉を体現したような理由にミツバは内心でアルに対する不信感が薄まっていく。リアンからも事前に『悪いことするような子には見えなかった』という情報ももらっていたのでそんなに危険視するわけではなかったが、改めて自分の口癖の通りに行動を起こしてくれた目の前の子供を責めるようなことをミツバはしたくはなかった、

 ただ、最後の『おにぎり』についての理由が行動した理由になっていなかったので、レイノルドがそのことに言及すると、アルはあっけらかんと『ここの言葉でありませんか?』と逆に聞き返した。

 

「泊まっていないので一宿はないですが、ご飯をもらったので一飯の恩。それです」

 

「おにぎり……おにぎり1個で守られたのか。この艦は」

 

 たった1個のおにぎりが地球連邦軍の切り札を守ったことにレイノルドは眩暈を起こしかける。ミツバも頬をちょっと引きつらせながら、『ずいぶん安い護衛費もあるものね』と少し呆れると、気を取り直してアルの素性について尋ねる。

 

「えーっと、名前はアルフォンス・エチェバルリア。フレメヴィーラ王国の銀鳳騎士団所属の騎士です。歳は数えで16で、気が付いたらこの町の森の中に不時着してました」

 

「若っ! え、フレメヴィーラ? 騎士? ……ごめんなさい。ちょっと理解が……」

 

 素性を洗いざらい吐いたアルだが、その情報事態聞き覚えが無いミツバは頭に疑問符をつけながら首を傾げる。すると、ようやくおにぎりの件から抜け出せたレイノルドが『失礼』と断ってから自身の端末を操作し、1つの画像ファイルをアルに見せた。

 

「アルフォンス君。この画像の機体がオセアニアで猛威を奮っているのだが、この機体についてなにか知っているかい?」

 

「……知ってますね。うわぁ、あの連中ここまで侵略しようとしてるのか。馬鹿じゃねぇの」

 

 その画像にある機体──ティラントーを見たアルは、この世界にもジャロウデクが侵略の手を広げようと企てていることに心の底から小馬鹿にしたようなセリフを吐く。

 人型機動兵器、しかも空戦も可能な機体が存在している。さらに言えばドライストレーガーのような艦艇も存在する世界に地上を歩くか、帆船を模したレビテートシップが喧嘩になるだろうか。いや、ならない。

 

「その口ぶりからすると、君はこの異世界軍とは別の勢力という認識で良いのかい?」

 

「はい。ですが、事前情報としてこちらの実情を話させてもらっても?」

 

「助かります。……こう言っては失礼ですが、随分状況の呑み込みが早いんですね。本当に16歳なんですか?」

 

「そのことについても後からご説明します。えっと、まずフレメヴィーラ王国のことなんですが──」

 

 アルはフレメヴィーラ王国の成り立ちから始め、現在フレメヴィーラからはるか西に存在するジャロウデク王国が西にある西方諸国を巻き込んだ大戦を行っていることや、その西方諸国の中でフレメヴィーラ王国と縁のあるクシェペルカ王国の救援としてアル達、銀鳳騎士団が派遣されたこと。さらにはジャロウデク王国が西方の『セフィーロ』と呼ばれる国と手を結び、西方の国々をジャロウデクの下に統一させようと様々な悪事を行っていることを話した。

 

「その悪事の一環がこちらの世界への侵攻ですか。ずいぶんはた迷惑な……」

 

「よろしければ、異世界軍の機体の特徴について解説を致しますよ? 飲み物頂きましたし」

 

「……随分安い情報料ですね」

 

 おにぎり1個に続いて飲み物1つで悩まされていた異世界軍の機体の解説がお願いできることにレイノルドの頭に激痛が走る。その横でミツバも同じような心境なのか、額に手を置きながら『お願いします』と頼むとアルはそれに笑顔で承諾した。

 

 アルにとってこれらの情報はいわば『撒き餌』である。これにより恩を売っておけばこれから先に話す独立部隊への参加も受け入れてもらえやすいし、なにより情報を知ったことで地球連邦軍が効率的な防御を行えば、ジャロウデクの邪魔をすることができる。そんな邪な考えからアルは中等部の幻晶騎士(シルエットナイト)基礎学で学ぶような幻晶騎士(シルエットナイト)の基本的な情報を2人に教えていった。

 

「──以上です。面倒なら、高高度から爆撃すれば片が付きますよ? ティラントーは空飛べないので」

 

 そう締めくくったアルにレイノルドは改めてアルの異様さに大きな疑問を持った。

 レイノルドは最初、機体名や簡単な特徴だけでも知れればいいと思っていた。しかし、先ほどアルからもたらされた情報は異世界軍の機体──幻晶騎士(シルエットナイト)と呼ばれる物の詳細すぎる情報だった。

 半永久的に稼動する動力炉に魔法の概念。その魔法の一種である外装硬化(ハードスキン)によるって遠距離からの攻撃による見た目以上の防御力を有しているや、こちらの世界で有効な戦術や武器。その知識量もさることながら、こちらの世界の武器まで精通しているのでレイノルドはアルの正体について思い切って聞いてみた。

 

「アルフォンス君。その知識量はどこから来ているんだい? まるで、この世界のことを知っているようなのだが」

 

「教官、それは失礼に当たると思いますが」

 

「いえ、お話します。ですが、その前にお願いがあります」

 

 そういうと、アルは自身の身体に配されたナイフや銀製の手甲、同じく銀製の短剣といった幻晶騎士(シルエットナイト)の鍵を含めた武装を全て机に出し、丸腰の状態で『僕を部隊に参加させてください』と頼み込んだ。

 突然の武装解除と部隊への参加表明に2人は少し驚くが、すぐに『なぜ?』とミツバが問いかけてくる。その問いかけに、アルは『仲間達を探すためです』と要点を話し、さらに詳しい事情を話した。

 アルが穴を通過した時は確かに全員居た。なので、アルがここに居るということはこの世界にエル達も迷い込んでいる可能性が大きい。だが、この広い世界を対象に1人で数人を見つけることは実質不可能だ。

 それに、生きていくにも金がいる。この世界の通過は何かは分からないが、アルが持っている金貨や銀貨が問題なく使えるという希望は早々に捨て去った方が利口だろう。

 ドライストレーガー側としても今は人手不足のようだし、独立部隊として運用するからには日本以外に国外にも当然出向くことになる。

 

「つまり、ドライストレーガーの作戦行動範囲を使って人を探したい。あと、生きていくためのお金が欲しいってことかい?」

 

「はい」

 

 レイノルドのまとめにアルは頷く。それを聞いたミツバは現在の戦力について考えた結果、『よろしくお願いします』とアルに握手を求めてきた。アルはその握手に応えて話は纏まったかに思えたが、レイノルドは手を上げると『人が乗っている機体を攻撃できるか』を問うた。

 

「剣を持ってかかってきたのなら剣を持って返すべき。そうしないと魔獣蔓延るフレメヴィーラ王国ではやっていけませんからね」

 

「君が今まで言っていた魔獣とは一体……」

 

 見た目幼い子供がそこまでの覚悟を持つ魔獣が一体どのような存在なのか気になったレイノルドに、アルはレイノルドの端末を貸してもらえるように頼んだ。レイノルドは少し渋ったが、個人情報やドライストレーガーの情報をロックしてからアルに手渡すと、アルはレイノルドやミツバに聞きながら拙いフリック入力で検索。『良かった。この世界にも居たんだ』と安堵の言葉を吐きながら端末を2人に見えるように机に置いた。

 

「ヴェロキラプトル? ……これが魔獣なんですか?」

 

「これは一例です。他にもティラノサウルスやサーベルタイガーのようなものとか、大きい物でなんだろ……ウルトラシリーズの怪獣みたいなのが居ますね」

 

「口から熱線や炎を吐いたりするあれかい?」

 

「あれです」

 

 ミツバの知らない単語で分かり合う2人にミツバは少しだけむっとするが、アルの住んでいる世界にはそのような危険な生物が住んでいることが分かったので覚悟はあると認識したミツバは問題ないと頷くと、先ほどから保留されていた話題を切り出した。

 

「どうしてそんなに事態を呑み込めるのか。聞いてもいい?」

 

「答えは簡単です。……ちょっと失礼」

 

 アルはいきなり席を立ち、食堂の隅にある自販機の前に立った。飲み物のほかに高速道路のサービスエリアにあるようにカップ麺やハンバーガーといった軽食と様々なバリエーションがあったが、アルはそれらには目もくれずに駄菓子の自販機の前に立つと、レイノルドを呼んでお目当ての駄菓子を強請った。

 

「それがどう関係するんだい?」

 

「まぁまぁ」

 

 駄菓子の箱──まるでタバコのような手の平サイズの長方形の箱を取り出したアルは、封を開けて箱を揺らしながら中に入っている1本の長細い小さな棒の端を口に含んだ。口に銜えたまま棒を引き抜いたアルは、長く息を吹きながら首を上に向け、口の中にハッカと僅かなココアの風味を楽しむ。

 

「タバコ……随分"慣れて"るのね」

 

「これはココアシガレットですがね。本物は慣れてる……とは言い難いですね。1年でようやく1箱吸いきってた性質なんで」

 

 人差し指と中指の間にココアシガレットを挟みながら『懐かしい感触だ』と笑っていたアルだが、いきなり表情に陰りを見せる。

 これから話すのはアルの前世。日本に居た鞍馬翼としての物語だ。今まで年下と思っていた子供が実はアラサーを超えた精神年齢の持ち主というのは、今まで子ども扱いしていた女性にとってはショックも大きいだろう。

 本来ならば話すべきではない事情かもしれない。しかし、この世界のことを知るためには無知な異世界人として振る舞うのは明らかに無駄な行為である。なので、『アルはそういうもの』と最低でも艦長と副長に認識してもらった方がアルにとっても、そしてドライストレーガーの皆にとっても都合が良かったのだ。

 

「僕は、こことは違う地球で生まれました」

 

 覚悟を決めたアルはゆっくりと話し出した。

 自身がこことは異なる日本で生まれた鞍馬翼という人間だったこと。そして、その鞍馬翼という青年はIT関係の仕事に就いていたこと。そして事故で亡くなった際、ひょんなことから鞍馬翼の精神──魂というべき存在がセッテルンド大陸のアルフォンス・エチェバルリアとして転生を果たしたこと。

 

「──以上が僕の秘密です。今までこちらのことについて詳しかったのは前世の異なる日本で似たような物を見聞きしたからですね」

 

 全てを話し終えたアルは残ったココアシガレット噛み砕くと、2人の返事を待った。

 1分、2分と時間が過ぎていき、ようやく5分といったところでミツバは『今までの言動を照らし合わせれば納得がいくわね』と言い、レイノルドもそれに頷く。

 

「……でも、肉体は子供なのよね?」

 

「艦長?」

 

 なにやら別の意味で雲行きが怪しい言葉がミツバから聞こえてきたが、ミツバは『なんでもありません』とすぐに咳払いをすると真面目な目つきでアルに語りかけた。

 

「武装を外してまでこちらに誠意を向けてきた相手に対して無碍にするほど冷血漢ではないと自負してます。例え、それが転生という突拍子もないことを話してきた相手だとしても対応は一切変わりません。……これでどう?」

 

「ありがとうございます」

 

「私としても転生と言われてあまりピンと来ていないのだが。それに、ヒュッケバイン30やドライストレーガーを見た時のテンションが子供のそれだったような」

 

 レイノルドの繰り出す内臓を抉るような言葉の暴力に、アルは『男はいつだって少年と青年と中年の心を併せ持つ馬鹿な生物なんです。貴方にもありませんか?』と涙目で弁解する。だが、レイノルドからは『あいにく……』と色良い返事をもらえなかったので、アルは心の底でジェネレーションギャップを痛感した。

 床に崩れ落ちながら酷く落ち込むアルに対してミツバは『副長!』と小さく怒鳴ると、空気を換えるべく何度も咳払いをする。

 

「と、とにかく! パイロットとして行動するからにはパッチワークの修理が最善だと思うけど……。部品、どうしましょう?」

 

「オセアニアの部隊に倒したシルエットナイトの部材を送ってもらいましょうか?」

 

「親方達が居ればなぁ」

 

「それってこの世界ではぐれた仲間の方々?」

 

 ミツバが聞き返したことにより、アルはエルを筆頭にこの世界ではぐれた仲間について話し出した。ダーヴィドやバトソンといった幻晶騎士(シルエットナイト)の整備を行う騎操鍛冶師(ナイトスミス)を筆頭にはぐれた仲間の名前や背格好を説明し、お次にイカルガやツェンドリンブルといったこの世界でも珍しい機体の概要を簡単に(アル基準)説明した。

 主に後半の幻晶騎士(シルエットナイト)講座の物量で、少しばかり疲労感にぐったりする2人にアルは補足説明として機体や人相を描いた紙を数枚手渡す。線がきっちり引かれた機体の外見図とは裏腹に、人相書きの方はミミズがのたくったような線やパースがしっかりしていないせいでどこかの芸術家のような福笑いのような出来だったので、そのギャップにレイノルドの眼鏡がずれた。

 

「機体と比べて人相書きはよく分からないのだが」

 

「人を書くのが苦手なもので……。あ、これが一番重要なんですが、絶対に攻撃したりしないでくださいね。下手したら機体奪われるんで」

 

「うばっ……失礼、穏やかじゃないな」

 

 レイノルドの反応にアルは目を伏せながら『兄さんはそんな人なんで』と若干諦めたような口調で話す。ロボの為に修練し、ロボの為ならば文字通り何でもするあの兄が『スタァァァップ!』と銃を突きつけたロボに詰め寄られたらどうするか。答えは蹂躙である。

 そして、『急に銃突きつけられたので反撃しました! とても、とっっても楽しかったです! アルもやりましょう!』と機体の残骸を背に言い訳する様がありありと見えたアルは真剣な表情でミツバ達にお願いする。

 

「あ、それとエルネスティ・エチェバルリア……うちの兄以外には僕の転生の話はしないでほしいです。あっちのメンバーにはまだそういった話はしてませんし、今後もすることはないです」

 

 フレメヴィーラ王国で会った仲間達は『アルフォンス・エチェバルリア』と知り合った人物達である。そこに『鞍馬翼』が入り込む余地はないし、話しても与太話か重く受け止められるかのどちらかだろう。与太話ならともかく、重く受け止められるのはアルにとっても本意ではないとアルが話すと、ミツバは少し考えて『じゃあ少し旅をして地球の知識がついたってことにしておきましょう』と代案を出した。

 

「あ、それ良いですね」

 

「念のために念書も書いておきましょうか。副長もよろしいですね?」

 

「ええ、もちろん」

 

 こうしてアルはドライストレーガーに厄介になることになった。ただ、パッチワークが直るまでは艦内のことをメインに行うように指示が下され、途中で合流したアズと共に新たに作られたIDカードと携帯型の端末が渡された。

 

「こっちがアズの部屋ね。で、あっちが私の部屋だから困ったらいつでも来てね」

 

「え、格納庫に部屋作っちゃだめですか?」

 

「女の子がそんなところで寝泊まりしちゃダメでしょ!」

 

「え?」

 

「……え?」

 

 部屋が割り当てられた際、そんなやり取りがあったのだがアルの部屋はアズの隣と変わらなかった。

『流石に年頃の女の子の横の部屋はまずい』と変な所でチキンなアルは、ジークンや、幻晶騎士(シルエットナイト)という未知の機体に興味を示したラボの主任である『メイヴィー・ホーキンス』と共にパッチワークの修理案を練る傍らで、格納庫の隅に細やかな住処を建造すると心に決めた。




次回は原作2話ではなく、移動中のお話として1.5話を予定してます。

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