銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

121 / 200
今回は1人称に挑戦しました。読みづらかったらサーセン
後、今回ちょっときわどいシーンもあります。


96話

 戦勝パーティも無事に終わってから数日。城下に軒を連ねる各商店の垂れ幕が『戦勝記念』から『エレオノーラ女王陛下御即位記念』へと完全に入れ替わった城下をアルは1人で充てもなく彷徨っていた。

 

(イサドラ様と出会わないなぁ)

 

 今まではことあるごとに絡んできたイサドラがここ数日、まったく出会わないことにアルは不思議に思っていた。絡んでほしいというわけではないが、いざ音沙汰が無くなると不安になってしまうのは人の性である。

 1日2日ぐらいは戴冠式の準備などが忙しくてこちらに構っていられるような時間が無いのだろうと好き勝手振る舞っていたアルだったが、次の日に廊下を歩いていたイサドラと視線があった。

 久しぶりに会話に発展するかと思われたが、意外にも彼女は即座に視線を明後日の方向に向けながらそそくさとその場を去る。その振る舞いにアルは懐疑の念よりも先に『怒らせたんじゃね?』と心当たりを必死に探していたが、心当たりが多すぎて見当がつかなかった。

 

 ただ、そろそろ戴冠式も始まるので、それが終わればアルはフレメヴィーラ王国に帰ることになる。いつまでも不機嫌状態は勘弁願いたかったアルは、なにか御機嫌取りのアイテムを探そうと鍛冶屋を主に回り始めることにした。

 

 ただ、『女子に剣あげるとか頭若旦那か?』と自問自答した結果、空しくなってきたので王城に帰ろうとしたアルが曲がり角を曲がると、正面からキッドが歩いてきた。キッドもアルの姿に気付くと、小走りで近づきながら手を挙げた。

 

「お、見つけた見つけた」

 

「あれ、なんか召集かかりました?」

 

 なにやら訳ありな言葉にアルは脳内の手帳を開いて会議の予定はなかったことを確認していると、キッドは『招集じゃないんだ』と手を左右に振りながら否定する。ならばなんなのかと聞くと、どうやらエレオノーラがアルと茶会を行いたいと言っているようで、その用件にアルは生返事を返した。

 

「え、今王族の方々って忙しいのでは?」

 

「な、なんかこの前の御礼だってさ! 何だか知らないけど!」

 

 アルの疑問に、キッドはまるでエレオノーラが正面に立って居る時のような怪しい挙動をしながら先導する。その挙動不審な様子から何かを頼まれたと邪推したアルは、エレオノーラから言われそうな頼まれごとのピックアップをし始めた。

 

(報酬の交渉……は、若旦那としてるし。追加オーダー? ジャロウデク軍が潜伏してる拠点とかの襲撃かもなぁ)

 

 頼まれごとのケースを考えながらキッドの後を歩いていたアルは、王城のとある一室へ通される。そこにはエレオノーラが上品に紅茶を嗜んでいるが、他には誰も居ない部屋だった。机に並べられた茶器も3人分しか無く、それらを見たアルはどことなく『足りない』印象を感じたので、アルはその足りない人間の所在をエレオノーラに投げかける。

 

「あれ、イサドラ様は?」

 

「イサドラは……えっと。詳しくはお話できませんが、クシェペルカ側の諸事情がありまして……。参加できないと」

 

 エレオノーラの返答にアルは『そうですか』と素直に席に着いた。クシェペルカ王国の諸事情ならアルが知らない方が良い話だ。最近のこともその諸事情が関わっているとすれば、比較的口が軽そうなイサドラが敢えてこちらを避けるのも頷ける。

 

 得心がいったアルの前に紅茶の入った茶器が置かれ、いよいよお茶会が始まる。すると、いきなりエレオノーラが突然アルに対して頭を下げた。

 

「クシェペルカが再興出来たのはフレメヴィーラ王国の皆様のおかげです。あのままフォンタニエに閉じ込められていたらどうなっていたことか……」

 

「いえいえ、私に言わずに若旦那に言ってください。それに……エレオノーラ様をお救いしたのはそこの騎士様のはずですが?」

 

「アル!」

 

 戴冠式がまだなされていないのに再興と気が早い言葉を聞いたアルは、『まだ早い』と言いそうになる。それにそこら辺のなんやかんやもエムリスがクシェペルカ王国に救援に行くと言わなければどうなっていたか分からない話である。

 ただ、賛辞を拒否するのも悪いので、アルは座っているキッドに粘着性を帯びたような笑みを浮かべながらからかった。からかわれたキッドは顔を赤くしながら声を荒げるが、アルは笑いながらそれを気にも留めない。

 だが、エレオノーラが次の話題に移った途端。先ほどまで平和だった部屋の空気とアルの様子を一変させる。

 

「話は変わりますが。その……こちらにも貴族の方からの仕官についてのお話が来てるのですが」

 

「それはそちらの問題でしょう? 僕達はフレメヴィーラ王国の騎士なので、対応致しかねます」

 

 突如目つきを鋭くしたアルは、エレオノーラが前置きを言い終えると同時にその問題についてズバリと切り捨てた。その不満気な態度と言葉遣い、なにより心底嫌そうな空気に充てられたエレオノーラは気分を害したと思い、何度も『すみません』という謝罪の言葉を連呼する。

 すると、そんな様子に見かねたキッドが助け舟を出すべく横からアルに声をかけた。

 

「あー、アル。前半で結論出してる。エレオノーラ様が言いたいのは、アルだったらどんな条件で首を縦に振るかって話。ほら、エルだとシルエットナイトがあれば良さそうだけど、アルは絶対色々条件付けるだろ? 話のネタに聞かせてくれよ」

 

 キッドからの補足説明にアルは早とちりをしたと深々と謝罪し、『そうですね』と自分だったら何が欲しいかの要望を考え始めた。

 やがて、『リオタムス国王陛下やアンブロシウス先王陛下からのお許しが出たらという体でお聞きください』とマルティナに話した超弩級の無理難題を前提条件として語り出した。

 

「まずは何と言ってもシルエットナイト! 後は自由に改造できる環境が欲しいですね」

 

「あー、うん。銀鳳騎士団だな」

 

「次は新しい技術を持ってきても一蹴されない──"で、いくらかかって成果どのぐらい? "とか、"進捗どう? サボってるんじゃないの? "と聞いてこない上司が良いです」

 

「アンブロシウス先王陛下だな」

 

「最後にロボットは作って愛でても良いですが、決してコレクションじゃないんです! 適度に動き回らせることが可能な環境が欲しいですね」

 

「フレメヴィーラ王国だな!! うん、分かってたさ!」

 

 次々と出て来るアルの条件に相槌を打ったキッドだったが、フレメヴィーラ王国以外に該当する国が無いことに最後の相槌をやけくそ気味に答える。

 かろうじて、大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)直前のジャロウデク王国ならば『自由に幻晶騎士(シルエットナイト)を動かせる環境』だけで見れば申し分ない。ただ、飛空船(レビテートシップ)の開発で二足の草鞋を履けるほどの潤沢な予算はないだろうし、飛空船(レビテートシップ)を開発したとされる鍛冶師も捕虜の話では幻晶騎士(シルエットナイト)を軽視する発言が絶えなかったということから、いくらエルよりは幻晶騎士(シルエットナイト)に関して温和なアルでも相性は良くないだろう。そこにエルも加えたら下手すると開発コンセプトで工房が派閥的にも、物理的にも割れる恐れも十分にあり得る。

 

 だが、今回におけるレーヴァンティアやジルバヴェールのような『発想を取り入れ、その上を行く新たな概念』が度々生まれるのがエルやアルの怖い所である。仮にヴィーヴィルがあれよりも強化した場合のことを考えたキッドとエレオノーラは心底2人がジャロウデク王国に生まれ無くて良かったと胸を撫で下ろしていた。

 

「大体、なんでそんな貴族の人達は僕達を欲しがるんです? 反乱でも起こそうとしてるんですかね? ……斬ります? 斬りますか?」

 

「大方、一度滅んだからじゃないか?」

 

「そうですね。復興しましたが、一度滅びを迎えた国です。皆、心の底では心配なのかもしれません」

 

 人斬りサークルのような物騒な言葉を無視したエレオノーラは、キッドの言葉に頷きながら持論を展開する。

 

 今回は銀鳳商会という謎の商会によってクシェペルカ王国は首の皮1枚繋がった状態から見事に復活を果たした。

 そう、奇跡なのだ。それも恐らく二度と起こらない類の。次に同じようなことが起これば、今度は間違いなくクシェペルカ王国は消えてなくなるだろう。

 それを予期した貴族達は、そうならないように対策を講じた結果として今回活躍した商会の人間を登用することで、自領やクシェペルカ王国の防衛能力を上げようとしているのではないかと話すエレオノーラに、アルは少しだけ笑う。

 

「自領の防衛能力の底上げだけしか考えてないんじゃないですかね? それか、クシェペルカ王国内での発言権を大きくするためとか」

 

「ああ、俺の所はかの商会の何某が居るんだぞーって感じか?」

 

「そうそう。大体、エレオノーラ様ももっと近衛騎士の皆さんのことを重用してあげないとダメですよ。パーティの時も言ってましたよ? 僕を引き抜いたら僕が真っ先に騎士団長から降ろされるって」

 

 なにやら話の流れが当初と全く異なる話題に流れ出す予感を感じたエレオノーラは、『もちろんです』と返事をしてから咳払いを一つ。これから言うのは『とある親戚』から頼まれた非常に重要な案件だ。

 決して失敗はできないとエレオノーラは覚悟を決めてアルに話しかけた。

 

「アルフォンス様は……お金とか興味ないのでしょうか?」

 

「え、別に? たまに贅沢できるほどのお金があれば何も」

 

「しゅっ、出世とか身分は?」

 

「正直、シルエットナイトに乗れて改造に携われれば何でも」

 

「おっ、女の人とか……」

 

「エレオノーラ様? それ、マルティナ様ですか? イサドラ様ですか?」

 

「あ……えっ……」

 

 呆気無くアルに企みを看破されたエレオノーラは言葉が詰まる。その横でキッドは割と余裕ある態度を見せていたが、心の中では『エレオノーラ様、あからさま過ぎます』と酷く呆れる中、覚悟を決め過ぎたせいでカーブどころかど真ん中ストレートの質問を投げ続けていたことを自覚したエレオノーラの顔は真っ赤になった。

 

「イサドラです。……すみません」

 

「そこはもうちょっと腹芸とか作り笑いしてほしかったですね」

 

 女王となるうえで必要不可欠な腹芸や作り笑いが出来ていないことに苦笑いを浮かべるアル。これがエムリスだったら鬼の首を取ったようにアンブロシウスをはじめとしたフレメヴィーラ王族全員に報告するが、クシェペルカ王国の問題なので『俺しーらね』とばかりに椅子に座り直した。

 その姿勢は足を組むという茶会の席では非常にマナーの悪い姿勢なのだが、アルは謝罪もせずに深く息を吐きながら『結婚するならばそちらがフレメヴィーラ王国に来てください』と言う。

 

「え?」

 

「ですから、イサドラ様がフレメヴィーラ王国に来たらその時は結婚でもなんでもしますよ。僕はフレメヴィーラ王国の人間ですからね」

 

 『当たり前でしょ?』と途端に粗暴になったアルの行動にエレオノーラは目を丸くするが、同時に『怒らせてしまいましたか』と先ほど行った不躾な質問の数々を早くも後悔した。

 イサドラは王族の一員──つまり、貴族とは血筋が全く異なる存在である。それを友好国とはいえ他国に送り出し、なおかつ結婚させるのがどれほど困難か。それが分からないほどアルは無知ではない。

 

「それは……難しいです」

 

「ええ、でしょうね。正直僕の手には負えない問題なので、後の話は上の人達に任せます。……ですが、上の人がお膳立てをしてくれても先ほどの条件に沿わなければ無意味なので。これで失礼します」

 

 割ときつめの言葉を残してマナーとして最悪な仕草をしながらアルは部屋を出る。後にはお通夜のような雰囲気のエレオノーラとキッドが残ったが、すぐさま奥の部屋に繋がる扉からエルとアディとエムリス。室内に備え付けられたクローゼットからイサドラがどんよりとした面持ちで出てきた。

 

「いやー……きっついなぁ。あいつわざと嫌われにいってるぞ。途中からわざと嫌われるように振る舞ってるし」

 

「ですね。恐らく、余計な情念はイサドラ様の今後に響くと思って断ち切りに来ましたね。やりたいことは分かりますが、さすがにあれは無いです」

 

 頭を掻きながら先ほどのアルの行動を推測するエムリスに、エルは当たってるだろうと同意する。

 最初は穏やかな茶会だったが、エレオノーラが仕官についての質問を投げかけた瞬間にアルの雰囲気が変わったことからイサドラの今後──有力な貴族との婚姻によるクシェペルカ王国地盤固めに支障を来たすことを危惧しての行動だとエムリスは言うが、『幻晶騎士(シルエットナイト)馬鹿』と呼び声の高いエルすらもアルの行った塩対応に文句を言ったので周囲の人間は目を丸くした。

 

「エムリス殿下、アル君のこと何とかならないの?」

 

「んー………………」

 

 アディの意見にエムリスにとっては珍しい長考の構えをとった。1分、2分と過ぎて行き、もうすぐ3分といった所でカッと目を見開いたエムリスは元気良く『ほぼ無理だ!』と解答。その元気の良すぎる声とは裏腹にお先真っ暗な解答により、思わず全員バランスを崩す。

 

「いや、殿下。真面目に考えてくださいよ」

 

「そうは言うが、銀の長。結構これは難しいぞ? せめて同一国ならここに王族が集まっているのだから何とか。それこそ色んなことをでっち上げてでも後押しは可能だが、他国だとそうはいかん。最悪の事態も考えたが、西方が再び爆発する」

 

 エルの文句に反論するエムリスだが、本当にその通りだった。もし、アルがクシェペルカ王国の人間ならばマルティナを主としたクシェペルカ王族がアルを文字通り掴んで離さずになんやかんやして終わりだ。

 だが、友好国とはいえ他国の人間を王族の末席に加えれば最悪、国は2つに割れるだろう。そうなれば待っているのは血みどろの内戦である。そこからさらにジャロウデク王国以外の国が領地を切り取らんと攻め込めば、第2次大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)の一丁上がりだ。

 

「俺が考えられるのは3つ。アルを信頼できるクシェペルカ貴族に預けてクシェペルカ出身と偽る。イサドラが今の地位を捨てて一般人になる。最後に……どっちか死んだことにするかだな」

 

「殿下、3番目がなんか物騒ですよ」

 

「喧しい! お前もお前で厄介なことを忘れるなよ!」

 

 最後の案の物騒さに文句を言うキッドに対し、エムリスは咆えながら野次を飛ばす。その野次に気付いたキッドがふたたびエレオノーラと良い空気を生み出すが、2人以外の全員はそれを軽くスルーしながらエムリスの案に対して思案を始めた。

 

 1つ目は俗に言う『経歴ロンダリング』である。家の格が合わない子女などを手習いのついでに相手の格に釣り合う家に養子に出す方法で、貴族の間ではあまり珍しいものでもない。

 ただ、それは同じ国同士のことであって他国の例はそんなに存在しない。また、バレたら目も当てられないのでこの案に決まった場合、アルは二度とライヒアラの地を踏むことは出来ず、またエルを含めた彼の家族にも滅多な事では会えないだろう。

 

「それは……嫌! あの子にそんな悲しい思いをさせたくない!」

 

「では2つ目だ。これは、アルフォンスよりもお前が辛い思いをするぞ」

 

 そう言ってエムリスは2つ目の案を具体的に話し出す。

 これは簡単に言えばイサドラが王族から離脱することで一般人となり、フレメヴィーラ王国に住むアルを追いかける案だ。しかしながら、この案にも難しい問題が多々存在する。

 まず第1に王族が簡単に一般人になれないこと。例え王族から離脱してもそれは一般人よりも生活が難しい『逸般人』だということが主な問題点として挙げられる。

 次に王族が離脱した場合の貴族達からの反発といった、離脱後の反動が一気にエレオノーラやマルティナに押し付けられるので、イサドラだけではなく王族全体に多大な迷惑がかかることも問題になる。

 

「理由はどうあれ、王族が国を捨てるんだ。多数からの祝福はされないものだと思って良い」

 

「で、でもリース兄! 私がフレメヴィーラ王国に嫁げば良いじゃない! それか……クシェペルカ王国からの大使として……」

 

 エムリスが一通り言い終わるとイサドラは急に顔を上げ、懇願するような表情でエムリスに縋りつく。『藁をも掴む』と形容するのがぴったりなほどのうろたえようだが、イサドラの口から紡がれた言葉は到底エムリスの眼鏡に適うような計画ではなかった。

 

「いくら大使の仕事が四六時中ではないとしても、大使が他国の人間と恋仲になったら国同士の問題になるぞ?」

 

「フレメヴィーラ王国に嫁ぐのも現実的ではないですね。エチェバルリア家は法衣貴族なので、いくら実力主義が強いフレメヴィーラ王国でも王族と結婚できるほどの上げ底なんて周囲が許しませんよ」

 

 エムリスとエルの口から放たれる却下理由にイサドラはどんどん顔色を悪くし、アディやエレオノーラがイサドラを庇いながら2人を睨む。

 だが、2人はそれでも『これが現実なんだ』と毅然とした態度で難しい顔をしながら考え込む。エムリスにしたら従兄妹、エルからしたら弟の幸せを願っていないわけでは決してない。ただ、本当にそこら辺の問題は繊細かつ、扱いを間違えた途端に破裂する火薬庫なのだ。

 どうしたもんかと考えていたエルとエムリスだったが、ふとエレオノーラが『国を助けてくれた御方の助けにもならないなんて』と自分を責めだした途端、エルとエムリスは『それだ』と声を上げた。

 

「クシェペルカ王国のどこかの領地を借りて、フレメヴィーラ王国かクシェペルカ王国どちらかが危機に瀕した場合に増援を送る先遣部隊を作ればいけるんじゃねぇか?」

 

 エムリス達の考えはフレメヴィーラ王国とクシェペルカ王国共通の騎士団を作ることだった。普段は幻晶騎士(シルエットナイト)の開発を主任務とし、その成果は両国で共有。今回のように他国が攻め込んできたり、魔獣の大量発生といった有事の際には先遣隊として騎士団を派遣すれば、両国からの評価も上がるので時間をかければそれなりの地位に立つことも可能である。

 

 ただ、それはあまりにも絵に書いた食べ物のような空手形の状態なので、内容を摺り合せる時点で国同士が十分に連携を取れていないとどちらかの国がその騎士団を吸収してしまうという諸刃の剣でもあった。

 ただ、そんな案でも現状の中では国が割れるといった致命的なデメリットは考えられる中では存在せず、言い方は悪いが両国の王族同士が談合している状態なので、悪どい貴族達の余計なインターセプトといった余計な邪魔は入りにくい。

 

「ただ、アルフォンスにはまだなにも言うな? あいつ、余計な否定案を考える天才だからな。きっと穴を突いた否定案を出すぞ」

 

「そうですね。あの子は陛下や先王陛下からの命令であればホイホイ聞く子です。ただし、まだ計画も十分に練れていないので、アルをどうこう出来るって状態ではないですから。イサドラ様も最悪の事態は覚悟しておいてください」

 

 最悪の事態、『マルティナやフレメヴィーラ王国を説得出来ずに計画が立ち消えする状況』のことを伝えられたイサドラは神妙な表情で首を縦に振る。イサドラはマルティナにとっては娘、フレメヴィーラ王国のリオタムス達にとっては姪や孫に当たるのだが、それでも彼、彼女達は国に多大な影響を及ぼす人間である。家族の情を一切抜きにした人間相手の説得は多大な労力が必要だろう。

 

「だが、問題はその間にアルフォンスが別の女と結婚する場合だ。今回のことで国許は銀鳳騎士団に目を付け始めるぞ」

 

「そうですね」

 

 今回の大戦。実際の影響は西方諸国のみだが、その余波はフレメヴィーラ王国を巻き込んでいた。

 クシェペルカ王国救援にリオタムスが派遣した銀鳳騎士団は、フレメヴィーラ王国の長い歴史においてあまり出現することが滅多になかった『他国の騎士団と戦って勝利した騎士団』である。その価値は多いに高く、魔獣相手では培われないような様々な技術を吸収した銀鳳騎士団は、もはや一介のエース級を一箇所に集合した部隊へと昇華していた。

 

「恐らく……いや、絶対にパーティに呼ばれたり、縁談を申し込まれるな。ああいうのは容姿は二の次だからな」

 

「約1名ぐらい容姿を第1。才能を第2の理由として養子とか側室候補でぶっこんで来そうな人は居ますがね」

 

 あの『可愛いくて有能な人間大好き』な人のことだから、ここぞとばかりに混ざってきそうな波動を感じたエルは遠い目をしながら母国の台所がある方向を見つめ、その人間の親族が『やりそう』と同じく遠い目をする。彼らの反応に慌てたイサドラはオロオロと視線を漂わせるが、エムリスは『イサドラ、俺からの指令だ』と力強く発言し出した。

 

「何やっても良いからアルフォンスと繋がりを作って来い。繋がりがあればそれを維持するだけでアルフォンスの行動は縛れる」

 

「どうせあの子のことですから、そんなに深い繋がりは作れませんよ」

 

「意気地ないもんね」

 

「まぁ、素敵」

 

「エレオノーラ様!?」

 

 エムリスの発したオーダーにそれぞれが反応する。一部は少し闇が垣間見えることで横に座っていた騎士が聞き捨てならないと聞き返したが、イサドラは『何でもやって良いのね』とまるで決戦に挑む戦士の表情を浮かべた。

 

「策はあるのか?」

 

「ええ、さしあたっては皆に協力してもらうけどね。私だってフレメヴィーラの王族の血が流れてるんですもの。フレメヴィーラ王国の女は執念深い……でしょ?」

 

 その後、茶会が催されていたはずの部屋が途端に作戦会議室へと変わる。割と皆、アルとイサドラの関係にヤキモキしていたのか、ノリノリでイサドラの話を聞いては修正していく。

 こうして、割と乗り気かつ覚悟を決めた系少女。イサドラが次の目的地として自身の母親であるマルティナに許可をもらうために自室に乗り込み、数日にも及ぶ説得と交渉が行われた。当然、もうすぐ戴冠式というこのクソ大事な時に何を血迷ったことを言い出すのかとマルティナは思ったが、イサドラの方も同じく時間がないので必死であった。

 

 長い議論の末、エムリスの案はジャロウデク王国に速攻をかけられて滅ぼされかけたこともあってか、マルティナからは好意的に受け取ってもらえた。ただフレメヴィーラ王国の方でどのような沙汰になるかは分からないので、マルティナは『縁を繋いでおけば次に繋がるので、最低でも文通相手になるように』と行動に対してのフリーパスを言い渡した。

 

 こうしてアルが知らない内に堀が土砂によって瞬く間に埋められていき、やがてアルがイサドラと全く出会わずに気がつけば戴冠式も終わり、とうとう銀鳳商騎士団がフレメヴィーラ王国に帰還する前夜となっていた。

 最後の夜ということで、銀鳳商騎士団の面々は悔いが残らないように満喫していたが、アルの耳にトラブル発生の報告が舞い込んで来た

 

「イサドラ様が消えた?」

 

「はい、近衛騎士団の方々も城下を探してもらってるのですが……」

 

 エレオノーラの不安そうな声に『何やってんだあの人』と額に手を置きながらアルは周囲に捜索を呼びかける。明日は銀鳳商騎士団がフレメヴィーラ王国に向けてデルヴァンクールを出立する日なので、大公の娘としての準備や色々あるだろうと心配したアルは、『私物の片付け出来てないのにー』と泣き言を言いながらもイサドラを捜索するべく城内の廊下を走っていく。

 

「第1段階成功ね」

 

「あぁ、アルフォンス様ごめんなさい。ごめんなさい」

 

「本当に仕方のない副団長だね」

 

 その様子をエレオノーラとディートリヒやヘルヴィが見守っていた。

 

 

***

 

 私はずるい奴だ。彼が……アルが断っているのにも拘わらずにここまで執着する浅ましい人間だ。

 だけど、仕方ないじゃない。

 ドレイクに立ち向かった姿が一番頼もしく感じたんだもの。祝勝パーティで会ったどんな家の跡取りのどんなお世辞を利かせた言葉よりも彼の言ってくれた『綺麗』という言葉が一番響いたんだもの。

 ……、一緒に居たいと思ったんだもの。

 

「おーい、イサドラ様やーい」

 

 ほら、アルはまたそうやって私の心臓を高鳴らせる。

 今すぐここに居ると叫びたいが、計画のために前クシェペルカ国王であるアウクスティ様の部屋の片隅でひっそりと息を殺しながら彼が近づいてくるのを待った。成人男性よりも軽い、いつも聞いていたあの足音に私の緊張の糸が徐々に張りつめていくのを感じる。

 

「アル」

 

 緊張を耐えられなくなった私はつい小声でアルのことを呼んでしまい、直後にはっと口元を手で隠したが遅かった。扉が開かれる音と共に聞こえてきた私を呼ぶ声に、寒い室内なのにも拘わらず体温が上がっていく様子が手に取るように分かった。

 

「ここに居ましたか。皆さん迷惑してたので早く戻ってください」

 

「ごめんなさい。この絵を片付けようとしていたら足を挫いちゃったの」

 

 前もって計画していたのに、アルに嘘をついてしまったという事実が私の心をささくれさせる。あれだけ一緒に居たいと……皆の前で好きだと言ったのに。私はアルに嘘を言ってしまった。

 

「おぶります。部屋までで良いですよね?」

 

「ありがとう」

 

 私の嘘を信じたアルは私の前で背を見せてくれたので、久しぶりの彼の声に甘えるように私はお礼を言いながら背中に乗る。

 私の部屋に着くまでの間、アルは無言だった。

 かくいう私も無言でおぶられてたけど、決して話題が無かったわけじゃない。色々話したいことがあったのに話題がアルと出会った瞬間からすっぽりと抜け落ちてしまった。

 だけど、せめて何か話そうと私はアルの肩を持つ手に力を込めながら口を開く。

 

「アルを仕官させるための騎士団。作れなかったわ」

 

「え、まじで作ろうとしてたんですか?」

 

「支度金も用意できなかったわ」

 

「好きな時に少し豪勢なご飯が食べれるのがちょうど良い頃合いですから。いりません」

 

「アルをここに留まらせるのは……失敗したわ」

 

「それは重畳。後は上の人達次第なので、僕の役目はこれで終わりですね」

 

 ああ、アルはやっぱり帰っちゃうんだ。そう思ったらなぜか力が抜ける。

 突然背中からずり落ちようとしている私をアルは慌てて踏ん張ってくれた。

 

「うぉ!? 重っ! ……どうしました?」

 

「大丈夫。少し色々あって疲れただけ。あと、重いはないでしょ? せめて羽毛のような軽さですって言えない?」

 

「そんな人間居たら怖いですっていでぇ!」

 

 相変わらず遠慮なく物を言ってくるアルの頭を笑いながら少し小突いてやる。ただ、小突いた後にこれが最後のじゃれ合いだと頭が認識すると、なんだか目の前が少し霞んだ。

 そうこうしているとアルはすぐに私の部屋までたどり着いてしまう。

 手早く私を侍女に預け、アルは私物を片づけると言いながらすぐに隣の部屋へ引っ込むとすぐに騒々しい音が私の部屋にまで聞こえてきた。迷惑じゃないかとさらに計画を実行に移すべきか悩んでいると、侍女が私の手を取ってきた。

 

「イサドラ様。お早く」

 

「ええ、……頑張るわ」

 

 少し笑った侍女に連れられ、私は浴室で湯浴みを行う。肌を磨き、香油を付け、軽い化粧をした私に下着が見えるほどの薄手の布が着せられる。その娼婦のような見た目に反し、まるで戦場へ赴くための戦装束を整えているような念の入れように私と侍女はなんだかおかしくなり、少し声に出して笑ってしまう。

 

「笑っている暇はないですよ。お早く!」

 

「アルフォンス様、未だお部屋に居ます」

 

「そのまま周辺の警戒を厳にしてください」

 

 笑っていると、いきなり年嵩の侍女が浴室に入ってくる。

 フォンタニエに居るはずの侍女長がなぜここに居るのかという疑問を口にしそうになったけど、相変わらず貫くような視線に声は出せなかった。……怖いんだもの。

 私のつま先から頭の天辺まで侍女長の視線が射抜く。まるで値踏みをされているかのような視線に私はじっと耐えていると、やがて『良いでしょう』という許可の言葉と共に手を引きながら私を廊下へ連れ出した。

 誰も来ない様に侍女が時折立っている廊下を『せめて文通出来る仲までなるように』やら、『こちらが非常識なんですよ』とお小言を喰らいながらも歩き、ようやく私はアルの部屋にたどり着いた。

 

「イサドラ様。せめて悔いの無いように」

 

「ありがとう」

 

 室内のアルにばれないよう、小声で言われた言葉に勇気づけられた私は一息に扉をノックする。これから行うのは非常識でアルの決断をいささか鈍らせる行為だ。この行為によってもしかしたら彼をひどく悲しませることになるかもしれない。だけど──。

 

「開いてますよ」

 

 アルの声に本日何度目かもわからない心臓の高鳴りを感じる。今夜中にでも私は心臓が爆発して死ぬのではないかというほどの鼓動を感じながら部屋へ入る。

 そして──彼と目が合った。

 

***

 

 自分はなんて小狡い性格なのだろうと、僕は幻晶甲冑(シルエットギア)の調節をしながら本日何度目かもわからないため息をつく。

 既に部品が壊れている部分を何度もチェックしたり、チェックが終わった部分を再度分解して調べたりと、自分でも無駄なことをしていると自覚していることを続けているのだが、機械と触れ合っていると自分と見つめあえるような気がするのでイサドラ様と別れてから僕はずっと金属に触れている。

 

 イサドラ様からの好意。それは兄さんに比べて半端な存在である僕にとっては大変ありがたいことだし、大変名誉なことだ。ただ、それは『幸せなことなのか』と問われたら僕は真っ先に否定する。

 

 結婚することで生まれるものは沢山存在するが、同時に失うものも沢山存在する。一人になる時間や使えるお金といったものが代表的だが、それらには僕は全く興味はない。

 ただ……。『兄との関係が離れる』、『好きな人を悲しませてしまう』。この2つだけがどうしても嫌だった。

 

 ブラコンと言われようが、僕はエルネスティ・エチェバルリア。前世の倉田 翼を尊敬している。プログラミングの腕もそうだが、新社会人だった僕にこの業界で生きていくイロハを教え込んでくれたのは彼だ。彼のおかげで事故に遭う直前まで、職にあぶれることもなく生きてこれた。

 

 ならば、恩を返さなければならないのが筋であろう。あの兄のことだから『何を馬鹿なことを』と笑いながら怒るだろうが、これは僕の根底に潜む『日本人』としての矜持だ。それだけは兄であろうと譲れない。

 今回の戦いの経験から、兄はまた幻晶騎士(シルエットナイト)を熱心に作り出すことになるだろう──いや、きっとなる。ならばアンブロシウスと初めて出会った際に切った啖呵の通りに兄を手伝い、心行くまで遊び倒さなければあの言葉は嘘になってしまう。

 

 そのためにはイサドラ様との関係は邪魔だ。結婚するとフレメヴィーラ王国からクシェペルカ王国の貴族として振る舞わなければならないので、恐らく生まれ故郷であるライヒアラの土を踏むことは二度とないだろう。

 ただ、僕も両方が取れるような道が他にないのか色々考えた。しかし、どの案も『イサドラ様が悲しむ結果』となってしまうので、考えては廃案にしていく内にイサドラ様の悲しそうにする表情に怯え、『それでも』と模索する手を止めてしまった。

 

 あの時だってそうだ。

 騎士団長にしてあげる。幻晶騎士(シルエットナイト)を用立ててくれる。側室でも変わらない愛情を約束するので来てくださいと言った彼女の手を僕は振りほどいた。彼女の幸せのビジョンに僕が努力している姿はどこにもなかった。そんな無償の愛を受け取って返せる見込みが無かったのだ。なので、僕は彼女の幸せのために手を離した。

 

「この極度なマイナス思考を反転させてパリピになりたい」

 

 ピカピカ光るホールにて小さな僕が『ウェイウェイ』言っている姿を想像していると、ドアがノックされる音が聞こえた。この時間からして兄さんだろうか。

 なんにせよ、銀鳳騎士団関係のことには違いなので入室の許可を出すとすぐに扉が開かれ──施錠された。その施錠音が耳に入った僕は指先と共に慌てて扉の方を見る。そこにはイサドラ様が居た。

 

「なん……歩いっ。エッ……」

 

「それ嘘っ! ちょっ……待っ……」

 

 下着をわざと見せているぐらいに透けた布を羽織ったイサドラ様に若干下心が出てしまったが、向こうも何か分からないが僕と同じぐらい慌てているらしい。

 良かった。今の内に素数を数えて落ち着くんだ。……素数ってなんだろう。こんなことなら同級生の島田君にマガ○ン貸してあげて教えてもらうんだった。いや、ひとまず島田君への後悔は後にしておこう。今先決なのは後ろを向くことだ。これ以上は精神が持たない。

 

 正直もっと見てごにょごにょ……だが、これ以上見ると対価として目玉を抉られるか、クシェペルカ外人部隊に編入されかねないので僕は後ろ髪が引き千切れるほどの後悔をしながら後ろを向く。

 あ、そうだ。イサドラ様の真意を聞かなきゃ。お遊びだったらまじ許さん。マルティナ様の部屋に連行して、マルティナ様と一緒に正座させてから説教してやる。

 

「イサドラ様。なんの御用でしょうか?」

 

「アル……アルフォンス様。私はあなたとの縁を結びに参りました」

 

 一瞬、誰かと思った。イサドラ様、そんな口調で喋れるんだ。

 その前に今、この人縁つったか!? うわ、衣擦れの音立てながらこっちに近づいてくる! やめるぉ! ロボ欲に性欲吸い取られた兄貴ならともかく、パンピーの魔法使いにそれは効くんだよ! 

 その場から脱出しようとするが、僕の足が動かないことに気付く。身体は正直とは言うが、まさか自分の身体に裏切られることになるとは思わなかった。

 

「な、なんの縁でごぜぇましょうか?」

 

「クシェペルカ王族との縁でございます」

 

 動こうとするのに動けないというなんとも情けない僕の姿を見たイサドラ様が、上品な声でクスクス笑いながら僕の背中にしな垂れかかってくる。誰だ、こんなこと教えたのは! ぎゃあ、『艶やかな枕』がぁ! 枕がぁ! 

 ……いや、僕は栄えある銀鳳騎士団の副団長! こんなことでは負けはせぬ! 

 

「アルフォンス様。私と切れない縁を結んでくださいませんか? もちろん、如何様にも致しますので」

 

 あ、駄目だ。負ける。多分、マルティナあたりから覚えさせられたんだろうなぁ。この口説き文句。

 フェルナンド大公もこんな言葉にやられたのだろうか。あ、窓の外から変なおじさんがこっちにサムズアップしてる。ここ3階ですよ。

 

 女は蛇、恋は穴に落ちるようだと誰かから言われたけど、いきなり落ちた先で気が付いたら絡みつかれているこの状態にぴったり過ぎてなんだか笑えてしまう。

 本来なら、このまま深みに嵌まっていくのも悪くはない。決して悪くはないのだが、それをすると僕がクシェペルカ王家に婿入りする以上にまずいことになってしまう。

 現に僕の頭の小市民が悲鳴どころか血反吐を吐いていることからこのまま流れに身を任せるべきではないので、ひとまずイサドラ様に落ち着いてもらおう。

 今まで僕に巣食うマーラを鎮めるためにアガートラムで必死に腕を抓っているけど、痛いし冷たいしでそろそろ限界だ。

 

「あのですね? 子供出来たら、極論いったら国滅びますよ?」

 

「……あっ! ち、違うの! そういう縁は最終手段なの! いや、最悪そうすることも考えてたし、欲しくないわけではないけど!」

 

 両手を動かしながら否定を露わにしたイサドラ様は、いつもの口調に戻って弁解しだす。どうやらイサドラ様にとっても『そういったこと』をするのは『最終手段』だったらしい。

 僕が肉食系だったらまずいことになってたぞ。……自他ともに認めるへたれだけど。

 

 ん?──ということは、この作戦にOKを出した人物。具体的には僕と似たような背格好のロボキチをはじめとしたOKを出しそうな面々が思い浮かんだが、処置は後にしておこう。後で分からせてやる。

 

「で、では……何の縁を結びましょうか!」

 

「ぶ、文通とか?」

 

 この子、絶対商売できなさそう。自分の価値が分かって無さ過ぎる。

 そう考えると僕の身体から余計な力が抜ける。そして、今になってイサドラ様の身体が震えていることに気付いたので、一度離れるように言うとすんなり離れてくれた。……逃げるってこと考えてないのかな。

 

「これ着てください。寒いんでしょ?」

 

「ううん、怖かったの。アルが拒絶してこの場を離れるのが」

 

 寒くないと言いながらも服は着るのか。そして、またこっちに抱き着いてくるのか。この子、怖っ! 

 ただ、その行動に『恐れ』があるのは僕も十分に理解した。それについては、今までの言動からもこの場を離れようとしていた自分が居るのでなんとも反論しにくい。

 

「もしかして、文通でもダメ? これでも足りないのならやっぱり」

 

 おい馬鹿止めろ。押し付けるな! 不安そうな声を出すな! ここに来て活発キャラから庇護欲の塊になるの止めろ。ギュッとしたくなるじゃねぇか。

 まさか、イサドラ様がここまで意固地になるとは思わなかった。正直、『あの』エムリス様に懐いていたことからさっさと離れてくれると思っていたのだが、ここまで僕なんかに執着してもらえるのは嬉しくもある。

 ……まぁ、文通だけなら縁といっても薄いだろうし。なにより、たかが文通程度ならなんとでもなるはずだ。

 

「分かりました。文通程度でしたらお受けします」

 

「うん!」

 

 クルリと回って極力イサドラ様の顔だけを見て返事をすると、イサドラ様がエレオノーラ様も霞むような笑顔を向けてくる。

 あ"ー、もう綺麗だな畜生。本当に文通だけで良いのか? もっと別の繋がりとか──いかんいかん、流されるな! ロボキチになれ! スクリプトを考えるんだ! 

 ……でも、少しくらい良いよね? ここまでしてくれたんだし。

 

***

 

「では、契約しましょう」

 

「え、じゃあ紙とペン用意しないと」

 

 突然ムードを完全に無視したアルが、商売人のようなことを言い出す。その言葉に慌てながらイサドラは首だけで周囲を見渡すが、既に片付けも終わらせた室内にはそのような都合の良い物は存在しなかった。

 

「紙とペンじゃないです」

 

 そう言いながらアルはイサドラに着せた銀鳳騎士団の隊服の襟を掴むと少しづつ力を込めた。その力に引かれ、徐々にイサドラの身体は前方に寄っていく。イサドラの視線にはアルの口元が映り、先ほどの言葉とこの行動からイサドラは黙って目を閉じた。

 

(ここまでやってもらっているのに、あの手この手でこの程度か。つくずく──)

 

(あの手この手でアルを縛っておいて、彼の方から契約の提案をさせるなんて──)

 

 両者の口が近づく中、片や身体を担保にしてまで縁を結びたいと申し出た相手に対し、理由的にも致し方ないのだが最安価のような約束を取り付けた負い目を感じ、片や本来は自分が契約の主導を握るはずなのに、相手を信じるあまりに相手に依存してしまった負い目を感じる。

 

『僕(私)は狡い奴だ』

 

 やがて、2人の影は自虐の言葉と共に一つになった。




R-15だから!ちゃんとタグ登録してるからヨシ!
え、きわどいシーン?キスしたら子供出来ちゃうだるるぉ(純粋な瞳

ぶっちゃけこの両国共同の騎士団で良いのか悪いのか分かりませんが、これでいきます。
イサドラ様ヒロインにするかぁと決めてからずっと悩んでました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。