銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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99話

 朝日と共に飛空船(レビテートシップ)が1隻、デュフォールに飛んできていた。

 流線型の外観に加えて後部に大きい魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)を備えたその飛空船(レビテートシップ)の名前はジルバヴェール。言わずと知れた銀鳳騎士団の保有する飛空船(レビテートシップ)であり、現在デュフォールで試験を待っている飛空船(レビテートシップ)のオリジナルである。

 自分達が作っていたのとは異なるデザインの飛空船(レビテートシップ)の登場にデュフォール中が騒ぎ出し、やがて手が空いている騎操鍛冶師(ナイトスミス)達がデュフォールの城門に集まってくる。

 

 そんな騒ぎの中、ジルバヴェールがデュフォールの城門付近まで近づくと徐々に減速を始める。完全に動きを止めたジルバヴェールが次に船底を開くと、その真っ暗闇な船底の中からジャラジャラという金属を叩く嫌な音を響かせながら鎖で繋ぎ留められた金と銀の外装をそれぞれ身に纏った2機の幻晶騎士(シルエットナイト)を降ろし始めた。

 

「おい、何か降りてくるぞ! ……まぶしっ!」

 

 外装に反射した朝日が地上に居る騎操鍛冶師(ナイトスミス)の目に入るが、彼らは食い入るように2機の幻晶騎士(シルエットナイト)──ゴルドリーオとジルバティーガが降りる様子を目に焼き付ける。

 やがて、ゴルドリーオとジルバティーガが地上に降ろされると、ジルバヴェールも次第に高度を落とし始める。船体から係留用の錨が地上へ投じられ、ジルバヴェールもデュフォールの地に船体を横たえると、ジルバヴェールの拡声器からアンブロシウスの声が響いた。

 

「皆の者、出迎え大義である。早速だがオルヴァーとガイスカを呼んできてくれんか?」

 

「はっ!」

 

 アンブロシウスの声を聞いた数人の騎操鍛冶師(ナイトスミス)がデュフォールに戻っていく横で、アルはトコトコとジルバティーガの側に近づく。その姿に気付いたアンブロシウスはジルバティーガを駐機状態にしてから地上に降りると、気楽そうに片手を上げながらアルの正面に立った。

 

「まさかこんな短時間で試作機が出来るとは思わなんだが……。アルフォンス、大義であった」

 

「動作試験はまだなので、そのお言葉は後で頂戴いたします。……ところで、銀鳳騎士団のどなたを連れてきたのでしょうか? エルネスティ騎士団長閣下……ブフッ……失礼。それともヘプケン鍛冶師隊隊長でしょうか?」

 

「おぬし、素直に兄と言えんのか。その2人は連れてきておらぬが、歴戦の強者を連れてきておるぞ」

 

 途中で噴き出したアルに呆れながらアンブロシウスは親指でジルバヴェールの方向を指す。

 今回のジルバヴェールをエスコート役にした起動実験ではジルバヴェールの操作も重要になってくるので、割かし動かし慣れた人物が居なければならない。アンブロシウスの言葉から誰を連れてきたのかと思っていたアルの後ろから唐突に『おーい』と声をかけられる。その声の感覚にアルは『あー、確かに歴戦の強者だわ』と思いながら振り返り、幼馴染であるバトソンに挨拶するように手を挙げた。

 

「バトっさんが来てくれたんですね」

 

「うん。エルや親方がシルエットナイト飛ばせようってなってて、俺達がそのシルエットナイトと一緒に進むレビテートシップの建造も任せられた……。今回はエルも設計段階だったからこうやって来れたけど、多分もう来れないかも」

 

「なにそれすっげぇ楽しそう! ずるい! あん畜生! 人間マギウスエンジン!」

 

「そうなんだよ! ずるいよな! あの親方! もじゃ!」

 

 何やら意気投合する2人を傍目で見ていたアンブロシウスは、『銀鳳騎士団にもヒエラルキーがあるんじゃのぉ』としみじみ思っているとゴルドリーオからエムリスが降りてきたので、アンブロシウスは早速アルに国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)の作った飛空船(レビテートシップ)を見せるように案内させる。

 その途中、エムリスが『面白そうな気配がする』と先日のアンブロシウスのようなことを言いながらデュフォールの街並みに消えていくというアクシデントがあったが、アル達は飛空船(レビテートシップ)を係留している工房へ戻ってきた。

 

「えー! あんな短期間でこんな立派なもの出来るの!? ラボすげぇ!」

 

「まぁ、100人ぐらいで頑張りましたからねぇ」

 

「なにそれ怖い」

 

 短期間で飛空船(レビテートシップ)を仕上げた秘密にバトソンは率直な意見を漏らす。いくら最新技術だとしても『幻晶騎士(シルエットナイト)』の鍛冶師である騎操鍛冶師(ナイトスミス)なのだから、『仕事しようよ』という意識が先に来てしまったのだ。

 ただ、自分も今後は飛空船(レビテートシップ)につきっきりになることが確定しているので、『そういえば自分も同じことするんだな』と少しだけ遠い目をする。

 

「ところでアルフォンス。これはどうやって運び出すんじゃ?」

 

「ああ、それはこうするんです」

 

 アルが合図をすると、近くで待機していた騎操鍛冶師(ナイトスミス)が壁に埋め込まれたレバーを引く。すると、様々な歯車や絡繰りの音が幾層も工房中に鳴り響きながら工房の天井が真っ二つに割れ、次第に澄み切った青空が見え始めた。

 これはデルヴァンクールの飛空船(レビテートシップ)整備用の工房にも存在していた仕掛けで、オルヴァーがアルの情報を聞くや否や、デュフォール中の建築家や大工を招集した賜物であった。

 

「よし、では……」

 

 完全に天井が取り払われたので、アンブロシウスはさっそく飛空船(レビテートシップ)に乗り込む。

 本来ならば安全なことを確認してから乗せるべきで、『では……ではないです!』と誰かがアンブロシウスを取り押さえなければならない。

 ただ、それを止められそうなアルは既にジルバヴェールとの連携のためにガイスカやオルヴァーと共に外に出ており、止められそうな人物が居なかった。──となると、後はもうアンブロシウスの天下だ。悠々と艦橋に歩いて行ったアンブロシウスは中央に設えられた艦長席にどっかりと座りこみ、周囲を眺めながら一言『悪くない』と笑みを浮かべる。

 

「お待たせしましたー。……あれ、先王陛下は? ……乗った? 艦長席から動く気配が無い?」

 

 アンブロシウスが勝手に飛空船(レビテートシップ)に搭乗し、少し間を開けてからようやく帰ってきたアルがアンブロシウスの行動に『あの人は……』頭を悩ませる。アンブロシウスはエルと大変良く似ているので、恐らく今回の実験をその身で体験して喜びたいのだろうと察したアルは、せめて失敗した場合の保険として建築に使用されていた幻晶甲冑(シルエットギア)を着込んでから国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)騎操鍛冶師(ナイトスミス)達をサポートする銀鳳騎士団の騎操鍛冶師(ナイトスミス)達と共に乗船する。

 

「なぜ鎧なぞ着ている?」

 

「失敗した際に先王陛下を脱出させるためです」

 

「おぬしも大概心配性よの……。実験前に辛気臭い」

 

 アンブロシウスのため息に『先王陛下が楽観的過ぎるんです』と言いかけたが、なぜだかカザドシュ砦の方向から誰かが同志を見るような気配がしたのでそれ以上言うのを止めた。

 そして、全員が配置に着いたことによっていよいよ飛空船(レビテートシップ)の操作が開始される。

 

「ジルバヴェールからの鎖、接続しました」

 

 ジルバヴェールから延びる数本の鎖を飛空船(レビテートシップ)の甲板にしっかりと接続した騎操鍛冶師(ナイトスミス)が伝声管に吼える。その連絡を受け取ったアルは、全ての伝声管の蓋を開けながらアンブロシウスに『せっかくなんで、発進のご指示を出されますか?』と問いかけると、アンブロシウスは『分かっておるではないか』と笑顔で答える。

 

「レビテートシップ、発進せよ!」

 

 アンブロシウスの大声が伝声管まで響いたのか、飛空船(レビテートシップ)の各所が一斉に行動を開始する。

 

「エーテリックレビテータ正常値! 浮き上がります!」

 

「計器、問題ありません!」

 

「こちら動力室、異常なし!」

 

「こちら見張り台、そのまま浮上。繰り返す。そのまま浮上せよ。間違ってもブローエンジンを動かすなよ?」

 

 各所から聞こえてくる報告と共に上昇する飛空船(レビテートシップ)に嫌が応にも緊張感が増していく。鎖があるので仮に失敗してもジルバヴェールが引き上げてくれる手筈なのだが、飛空船(レビテートシップ)のような大質量をジルバヴェールのみで支えきれるのかすらも分からないので、既にアルの手は汗でびっしょりだった。

 だが、その心配に反して飛空船(レビテートシップ)はゆっくりと工房を出ていき、次第にジルバヴェールと同じ高度まで上がっていく。

 

「エーテル流入中止。現在の高度を維持せよ」

 

「動力室了解」

 

「ジルバヴェールから蒼い発光を確認。動作試験開始します」

 

 ジルバヴェールと同じ高度に至った飛空船(レビテートシップ)の艦橋では浮かび上がることに成功したことを祝した軽いどよめきが起こるが、ジルバヴェールからの蒼い光に気付いた操舵手が再度気を引き締めながら実験の開始を宣言。操舵によって起風装置(ブローエンジン)飛空船(レビテートシップ)の帆に風を送り込み、船を前方に進ませる。

 

***

 

「えー、以上を持ってレビテートシップの起動試験は完了とします」

 

『ヒャッハー!』

 

 デュフォールの商業区では騎操鍛冶師(ナイトスミス)達の乱痴気騒ぎが繰り広げられていた。商業区画に存在する全ての酒場を巻き込んだこの騒ぎは、瞬く間にデュフォール中の住人が参加したことで盛大な祭りへと発展した。この祭りの主題はもちろん、『フレメヴィーラ王国初の飛空船(レビテートシップ)が誕生したこと』だった。

 

「まさか初見で成功してしまうとは……おかしい」

 

「ほんとだよ。俺達が一発で成功とかおかしいよ。絶対揺り戻しが来るよ」

 

「おぬしら、普段からどんな開発しておるんじゃ?」

 

「爺ちゃん、こいつらにとって失敗や事故は日常茶飯事だから仕方ねぇよ!」

 

 そんな酒場の隅では果実水に口をつけながらアルとバトソンが起動実験が何事もなく成功したことに恐怖していた。その対面では今回の宴会のスポンサーであるアンブロシウスが2人の様子を訝しみ、その横で上機嫌に酒をかっ食らっていたエムリスがクシェペルカでの開発の様子を思い出しながら豪快に笑っていた。

 

 常に技術の最先端を往く彼らにとって、初見で成功という物は存在しないも同然だった。それが例え『国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)が作った物』でも技術を教えたのが自分達なので、大失敗とは行かなくても動作不良を起こすかもしれないという気概でいた。

 それが蓋を開ければふらつきもせずに飛行し、途中でアルの書いた設計書通りに改修を行ったカルディトーレに乗ったエムリスや技術検証に郊外に出ていた2個小隊を乗せてもジャロウデク王国の飛空船(レビテートシップ)よりも速いような運動性能と失敗どころか大成功と呼べる成果を叩きだしたのだ。

 自分達の今まで行ってきた開発に関しての戦績を鑑みて、揺り戻しを不安視しない方がおかしいのである。

 

「まぁ、良いではないか。成功したのだから……して、あのレビテートシップだが何に使われるようになるんじゃ?」

 

「何に使われるってそりゃ……何になるんでしょ。戦闘? 輸送?」

 

 アルのか細い声に少し前まで騒いでいた騎操鍛冶師(ナイトスミス)達はシンと静まり返った。口々に『あれって輸送用なのか?』や『幻晶騎士(シルエットナイト)運ぶんだから戦闘用じゃね?』という意見が流れる中、アンブロシウスは一つ大きな勘違いをしていたことに気付く。

 そう、今回の飛空船(レビテートシップ)は技術を完全に模倣できているかの『試作品』であり、各用途に特化したものを作っているわけではなかったのだ。

 

「今の状態でもシルエットナイトを抜けば輸送用になるよな? ……あー、でも輸送と割り振るならばもうちょっとスペース広げる余地があるか」

 

「銀鳳騎士団の人達。特化したやつ作りたいから知恵貸してくれ」

 

「お前ら、仕事だ仕事!」

 

 次に作る飛空船(レビテートシップ)の方針決めのため、近くの井戸で酔いを醒ます騎操鍛冶師(ナイトスミス)達による長蛇の列が出来上がる。酒場もあっという間に会議室へと変貌し、各自が真剣な面持ちで発言しては他の発言に叩き潰されるという変りように、アンブロシウスとエムリスは手に取ったジョッキを1度見、2度見してから騒げるような空気ではないと名残惜しそうに机の横へスライドさせる。

 

「ところでアルフォンス。あの実験で使用したレビテートシップなんじゃが……出来るのであればおぬしの考える戦闘用に仕立てることは出来んか?」

 

「出来なくはないと思いますが、物騒ですね」

 

 『戦闘用』という言葉にきな臭い物を感じたアルだったが、アンブロシウス曰く飛空船(レビテートシップ)をただの空飛ぶ船だと認識している者達が一定数居るらしい。反論するにしても飛空船(レビテートシップ)の有用性をアンブロシウスも良く知らないので、『ちょうど1隻出来たんだから、戦闘用に改造して魔獣討伐に組み込んでみよう』という考えを先ほどのやり取りから思いついたらしい。

 その相変わらずな即決ぶりにバトソンは『やっと国に帰ってきたって実感したよ』と変な感動を覚え、アルは『任務継続かぁ』とボスを倒したと思ったら裏ボスが現れた時の主人公のような心境に浸っていた。

 

「まぁ、そう言うな。ほれ、わしはおぬしとアレについてのことは賛成しておるんじゃぞ? リオのやつもそれについて頭を捻っておるらしいが、わしがなんとかしてやるゆえ……な?」

 

 『アレ』という訳の分からない言葉にアルは首を傾げる。その反応に快濶に笑ったアンブロシウスは、『口が滑りすぎたわい』と言いながら席を立つと騎操鍛冶師(ナイトスミス)達の輪の中へ入っていく。相変わらずのフットワークの軽さと嵐のような言動にアルは茫然としていると、エムリスは『俺からも話がある』とバトソンに、ちょっとの間アルと2人にしてもらうように指示した。

 

「実はな……。俺は再びクシェペルカ王国へ大使として派遣されることになった」

 

「それはまた重大な案件ですね」

 

 大使──国の代表として相手国に赴く大役にアルは、『殿下が暴走しなけりゃ良いけど』と一縷の不安がよぎったが、エムリスには留学や先の大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)によって確かな人脈が形成されているので、(多分)大丈夫だとエムリスの言葉を話半分に聞き流した。

 

「で……だ。大使1人で行くのも恰好がつかないだろうということで供回りとしてキッドを連れていくことにした」

 

「妥当ですね。戦闘力やシルエットナイトの操縦センス。殿下が動かせる範囲を考えると、キッド以上の人材は居ないでしょうし」

 

「当然のように自分は当て嵌まらないって顔してやがるな」

 

 つまらなさそうにアルのことを睨むエムリスに、アルは『当然でしょ』と答える。今でもこのようなくそ忙しい状況なのに、飛空船(レビテートシップ)や飛行型幻晶騎士(シルエットナイト)とやることが多い系騎士のアルを他国へ向かう大使の御付きとして参加させるのはナンセンス以外何物でもない。

 

 そのことを説明すると、エムリスは『まったくもってつまらん!』とやけ気味に横に置いたジョッキの酒を飲み下す。そして、酒臭い息を吐いてからアルに『今度、キッドにこの話を持っていくから付き合え』と命令した。

 色々やることが存在するアルは一瞬だけその命令を断ろうとするが、キッドもキッドで自分の考えに整理が付けてなさそうな気がするので、幼馴染として背中を押すことぐらいはやろうとその命令に静かに頷く。

 

「ところで先王陛下が言ってたアレってなんです?」

 

「あー……。手紙の運搬のことだろ」

 

「なんですか? その長い間は。……まぁ、良いですけど」

 

 明らかに何かを長考していたエムリスだったが、アルは特に気にすることなく設計の熱が入りすぎて人が乱れ飛ぶ酒場の中央の席に足を向ける。ただ1人残されたエムリスは、内心で『あっぶねー』と冷や汗をかきながらアンブロシウスの言っていたアレ──『フレメヴィーラ王国とクシェペルカ王国共有の騎士団を設立する計画』のことをアルには漏らさないよう、周囲に徹底しようと決心した。

 

***

 

 そして、激動の起動実験から数週間がたった。既にジルバヴェールは砦に戻り、飛空船(レビテートシップ)の起動実験が終わったことで国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)は再び幻晶騎士(シルエットナイト)の開発、増産に着手──できなかった。

 あの後、ガイスカ率いる第1工房は『輸送型飛空船(カーゴシップ)』と新しく命名した輸送用の飛空船(レビテートシップ)の建造に着手。そして、アル率いる第1工房以外の人材はアンブロシウスから言い渡された戦闘用の飛空船(レビテートシップ)の改造に着手した。

 またしても国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)本来の業務が執り行えない状況なのだが、そこはアンブロシウスが何とかしてくれたのかオルヴァーの表情はいささか明るかったとかなんとか。

 

「それでは、戦闘用としてどんな改造するか決めたいと思いまーす」

 

 ガイスカ率いる第1工房の騎操鍛冶師(ナイトスミス)達が喧々諤々と案を出し合いながら輸送型飛空船(カーゴシップ)を建造する片隅で、アル達もどのように戦闘用に持っていくか検討を行っていた。

 戦闘用と一言に言ってもその運用は多岐に渡る。直接的な火力支援もそうだし、魔力の節約のために現地まで運んで幻晶騎士(シルエットナイト)を投下。部隊の指揮といった戦略的なサポートをするのも戦闘用と言い切れる。

 

「あちらではどのようなことを行ってたんですか?」

 

「基本的に輸送がほとんどですね。後は上からカタパルトで岩を撃ってきたり、法撃してきたりとかですね」

 

「それだとシルエットナイト頼りになりますね」

 

 ジャロウデク王国が使ってきた主な飛空船(レビテートシップ)の運用法を羅列していくと、それを聞いていた騎操鍛冶師(ナイトスミス)が指摘した。

 たしかにジャロウデク王国の行っていた運用法は飛空船(レビテートシップ)自体の戦闘能力よりも幻晶騎士(シルエットナイト)ありきの能力となってしまっていた。これは恐らく、飛空船(レビテートシップ)の開発者がエルとは真逆の飛空船(レビテートシップ)を優先する思想の持ち主であることに起因しているのだろう。

 しかし、このどちらかを強力にするという運用法は仮想敵が人間である西方だけでしか使えない。なので、アルはフレメヴィーラ王国で使用される魔獣に対しての戦略を飛空船(レビテートシップ)によって補強する運用法を提唱した。

 

「僕達はシルエットナイトとレビテートシップ両方を強くするようにします」

 

「……となると?」

 

 一言つぶやいたアルは、周囲の騎操鍛冶師(ナイトスミス)の反応も置き去りにして黒板にチョークで絵を描いていく。

 船体の各所には実験用の飛空船(レビテートシップ)にも載せてある機銃を配し、甲板は大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)で猛威を振るった法撃戦仕様機(ウィザードスタイル)が待機できるよう広めに設計する。そして、黒板の端にはなにやら長大な魔導兵装(シルエットアームズ)を書いてから飛空船(レビテートシップ)の艦首と矢印で結び、細かい立方体が納められた箱のような物を飛空船(レビテートシップ)の下部から降ろしている描写がアルの手によって描きあげられていった。

 

「戦闘用なので、船倉はシルエットナイトが動き回れる最低限の狭さで良いかと。代わりに艦首には大型シルエットアームズによる攻撃能力を付与させます。機動性も上げるためにブローエンジンではなく、マギウスジェットスラスタにも変更します」

 

「この箱は何ですか?」

 

「魔力供給用の箱ですね。中にクリスタルプレートを詰めて船外に投下。作戦行動中の機体やシルエットアームズの魔力を回復するのに使用します」

 

 この改修は少し前にカルディトーレの改修を行っていたメンバー達が作成していた機体を基に設計している。

 作戦開始と共にカルディトーレが降下し、法撃や近接戦闘によって魔獣を駆逐。そして、橋頭堡を確保した段階で飛空船(レビテートシップ)から板状結晶筋肉(クリスタルプレート)に魔力を目一杯詰め込んだコンテナを投下してもらうことにより、幻晶騎士(シルエットナイト)は常に魔力を気にしながら戦うストレスをある程度緩和でき、魔力不足によって進軍速度が落ちてしまう状況への対策も出来るだろう。

 また、魔獣の数が多いといった不利な状況下では飛空船(レビテートシップ)に配された機銃や法撃戦仕様機(ウィザードスタイル)からの攻撃によって地上で行動中の部隊の援護も可能だし、いざという時には艦首の魔導兵装(シルエットアームズ)によって強力な攻撃を相手にぶつける手札も存在する。

 

 アルの説明によって騎操鍛冶師(ナイトスミス)達のイメージは固まっていくが、アルは『ただ……』と不安になる枕詞を吐き出した。

 

「問題は……これだけ大掛かりな物を搭載するのであれば、エーテルリアクタは2つじゃ全然足りません。せめて4つ……5つは欲しいです」

 

 アルは自らで自分の考えた設計に対する問題点を指摘する。

 一般的な飛空船(レビテートシップ)であれば魔法による攻撃や防御といったは幻晶騎士(シルエットナイト)にほぼ一任してため、特別に魔力転換炉(エーテルリアクタ)を付け足すといった改造は必要ない。ただ、アルが考えている設計は飛空船(レビテートシップ)自体からの法撃や幻晶騎士(シルエットナイト)への魔力供給装置といった部隊を支援する装備に加え、機動力確保のために魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)も組み込む想定だ。それらを加味すると必然的に燃費は一般的な飛空船(レビテートシップ)の比ではなくなる。

 

 そして、そんな改造をすると次の問題として挙げられるのが『お値段』の問題である。戦闘用としての改造のために魔力転換炉(エーテルリアクタ)を何個もくっつけるとなると、流石のアンブロシウスも難色を示すだろう。

 

「推進装置はブローエンジン。機銃も最低限にして、主な近接防御はウィザードスタイルに任せましょうか。艦首シルエットアームズも中止で……。地上へ何時でも魔力供給の基地を作れるという利点だけでもセールスポイントになるでしょうし」

 

「それぐらいなら訓練入れると2週間もあればいけそうですね」

 

 セールスに必要な最低限の手間で分かりやすい効果が狙える部分だけを改修しようと方針を固めたアルに、騎操鍛冶師(ナイトスミス)達が素早く工数を見積もる。ここから先は実際の作業となるので、アルの出番は大方終了していた。

 ただ、ここで素直に引き下がるほどアルの中に存在するロボット魂は素直ではない。1日毎に飛空船(レビテートシップ)の作業進捗をオルヴァーに話す傍らで、アルは暇つぶしと趣味と実益を兼ねたカルディトーレの改造案を纏めた資料を共に提出し続けるのだった。

 

***

 

 飛空船(レビテートシップ)を戦闘用に改造する計画が発案してから1週間がたった。改修作業も大掛かりな部分が比較的少なかったおかげか既に完了しており、現在はいつの間にか要塞からアルヴァンズを1小隊ほど招集し、実際にカルディトーレを積み込んで訓練にいそしんでいる段階まで来ている。

 

「今日はマギウスジェットスラスタを追加した重装甲オプションです。ここのフレームで武器を固定し、前に突き出したまま相手に突撃することで圧倒的質量をぶつけることが出来ます」

 

「とうとうレビテートシップの進捗も話さなくなったね。まぁ良いけど……」

 

 相変わらずカルディトーレの改造案を持ってくるアルにオルヴァーは『飛空船(レビテートシップ)はどうした?』と的確にツッコむ。しかし、窓の外から悠々と飛んでいる飛空船(レビテートシップ)の姿が見えるので、もはや進捗の報告など必要ないのと、彼の作る改造案は『地面に設置して魔力を流すことで幻晶騎士(シルエットナイト)に損害を与える兵器』や『坂道で転がして相手を轢き潰しながら爆発させる兵器』といったクシェペルカ王国で実際に作ったと本人が言っている危険物こそ多いものの、幻晶騎士(シルエットナイト)業務をほとんどしていない国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)にとって有益な物が多いので、オルヴァーは後で改造担当の部署に引き渡すために受け取った改造案をそっと机の引き出しに仕舞いこんだ。

 

「あ、そうだ。先王陛下が言っていた現場への投入の日取りが決まったよ」

 

 そう言ったオルヴァーが別の引き出しから便箋を取り出した。それを受け取ったアルがしげしげと内容を見ると、どうやら近日中に魔獣の巣を潰す大掛かりな作戦に飛空船(レビテートシップ)を投入するようだ。便箋の中には他に参加する領地の騎士団や出現する魔獣の種類といった情報が書かれており、その中の『員数外』という項目を見ていたアルは膝から大きく崩れ落ちる。その項目には数名の慣れ親しんだ名前が書かれていた。

 

『アンブロシウス・タハヴォ・フレメヴィーラ』

 

『エルネスティ・エチェバルリア』

 

『アデルトルート・オルター』

 

「過剰戦力甚だしいわぁ!」

 

 そこから導き出される『いつもの光景』にアルは叫ぶ。

 いくら大規模といってもイカルガに出張られると飛空船(レビテートシップ)の力を見せつける前に全てが終わってしまう。仮にそれを止めるのがアディだとしても、エルに蜂蜜の数倍ぐらい甘々なアディが咄嗟の発作を起こすエルを止めることが出来るだろうか?──いや、出来ない。

 

 ただ、生命を賭けた戦いゆえに増援としては非常に心強いのもまた事実。『今回のお披露目は厳しそうだな』という考えを漏らすアルに、オルヴァーは『だから、いざとなったら投入するような予備人員として割り込ませたんだよ』と事前にリオタムス達と決めていたことを話す。

 

「エルネスティ君が戦場に突っ込むのは予想以上の被害が出て殿をする時。あのイカルガの性能ならそこら辺の魔獣も物の数じゃない……だろう?」

 

「そりゃそうですね」

 

 あのセッテルンド大陸一、頭のおかしい性能や操縦難易度を誇る欠陥機ならば、例えベヘモスが出てきても返り討ちが出来るだろう。

 ただ、エルと同じ性質のアンブロシウスに至ってはどのような行動を起こすのか分からない。もしかしたら『小型魔獣1点で決闘級2点な!』と最前線へ突進することも考えられるので、アルはオルヴァーに今回の作戦の主旨をちゃんとアンブロシウスへ伝えておくようにお願いする。

 

「アルフォンス君。それがどんなに困難な事か分かってる? あの人は火が着いたら止められないんだよ?」

 

「大丈夫。行けます行けます」

 

 何の根拠もない言葉を言いながら、アルは恨みがましい瞳を向けるオルヴァーを無視して部屋を出る。そのまま所長室がある建物から出ていくと、さらにその足でデュフォールの外へと出ていった。

 

 デュフォール郊外にあるエアポートでは、カルディトーレ2個小隊がそれぞれ訓練に勤しんでいた。その上空には戦闘用に改造した飛空船(レビテートシップ)。多数決から建造責任者の名前を取って『ヨーハンソン』と名付けられたそれが浮かんでおり、船底から銀線神経(シルバーナーヴ)を捻り合わせて出来た極太の綱を頼りに箱が地上に降ろされている。そんな何時もの訓練模様に、アルは何の気なしにカルディトーレに近づいた。

 

「皆さん、お疲れ様です」

 

「アルフォンス殿! もう報告はよろしいので?」

 

 声に反応したカルディトーレの1機が駐機体勢を取って胸部装甲を開くと、1人の男が胸部装甲の内側に新たに取り付けられた綱型結晶筋肉(ストランド・クリスタルティシュー)に掴まる。その状態で男が魔力を流すと綱型結晶筋肉(ストランド・クリスタルティシュー)はゆっくりと伸びていき、やがて男──アルヴァンズのリーダーであり、第1小隊の小隊長も兼任しているアーニィスは地面に降りたった。

 

「いかがですか? 訓練の程は」

 

「技術の進歩と言うのは目まぐるしい物だと実感しております。同じ訓練でも練度が上がることでまた違った成果を実感できる。正直、毎日が発見の連続ですよ」

 

 上機嫌になりながらアーニィスは先ほどから自身の横で左右に揺れている綱型結晶筋肉(ストランド・クリスタルティシュー)で出来た昇降装置を手に持ちながら笑いかける。その笑顔にアルも上空のヨーハンソンが下りてくる様子を見ながら『時代はまた変わりますよ』と答えた。

 

 そして、ヨーハンソンが地上に巨大な船体を降ろして中から騎操鍛冶師(ナイトスミス)が出て来る。

 本来ならば操船には騎士を使うところなのだが、『未だノウハウが固まってない以上は騎操鍛冶師(ナイトスミス)達に頼むしかない』というリオタムスからのありがたいお言葉を頂戴した彼らがそのまま船を動かしている。

 そんな彼らに、オルヴァーから伝えられた『本番』の日付を伝えたアルは『準備は?』と問いかけた。

 

「ヨーハンソンは問題ないです」

 

「こちらの小隊も問題ありません」

 

 ヨーハンソンを動かす騎操鍛冶師(ナイトスミス)達やその甲板で空に居る魔獣を追い払う役目を担うカルディトーレの騎操士(ナイトランナー)の返答にアルは小さく頷く。

 ヨーハンソンは今回の作戦の要であり、仮に敗走するとしても絶対に落とされるわけにはいかない。彼らには事前に『撤退タイミングについての裁量』を与え、さらに『撤退時の動き』も訓練に取り入れているのでなんとかなると踏んだアルは最後にアルヴァンズに身体を向ける。

 

「アルヴァンズの皆さんは問題ありませんか?」

 

「ええ、最新型のカルディトーレの習熟も完了していますし、オプションワークスも我々の適正に合わせてくれたものを作っていただき感謝します」

 

 アーニィスの礼にアルは『趣味ですから』と、エルと似たような言葉を吐き出しながら彼らのカルディトーレを見る。彼らのカルディトーレは、いわばアルがヨーハンソンの改造中に行った趣味を取捨選択して取り入れたカルディトーレの新しいバリエーションである。

 

 全ての機体には胸部装甲の内側に結晶筋肉(クリスタルティシュー)の伸縮特性を利用した昇降用の綱や頭部兵装、魔力供給用のポーチが増設され、そこから各騎操士(ナイトランナー)に合わせた装備が割り当てられていた。

 

 アルヴァンズで1,2を争う剣技を持つとエドガー経由で聞いたアーニィスの機体には、大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)で見たあの剣だらけのようにサブアームにも大きくて肉厚な剣を2本固定している。さらに機体の腕や膝を覆う装甲にはまるで刀剣のように鋭い傾斜が付けられており、装備が手元に無い状態でも腕を大きく振るうことで相手を切り裂けるよう調整が加えられている。

 

 ツーヴァの機体には彼からの要望でカルディトーレを全体的に軽量化させる調整となった。

 ただ、それでは剣や槌といった近接装備が持てないだろうと、アルは腰に『コの字型』をした柄の平行な2本の枠の間に2本のグリップが渡されている奇天烈な武器。──アルの前世では『ジャマダハル』と呼ばれる武装を用意した。

 ただこの武装にはとあるギミックが隠されていた。グリップを握りこむことで刃の結合部が外れ、接合部の後方から戦術級魔法(オーバード・スペル)クラスの風衝弾(エアロダムド)が放たれることで、法弾と共に刃を遠くへ飛ばすことが出来るのだ。さらには刃も幻晶騎士(シルエットナイト)が使用する一般的な剣の切っ先部分を使用しているので簡単に刃の差し替えが出来、刃がなくなった状態でも炎の槍(カルバリン)よりも弱いが、一応法撃戦も出来るなんともお得な武装だったりする。

 ただ、この武装が一番誤作動が多くて調整にかなりの労力を伴う問題児だった。しかし、今ではその兆候すらも見られず、ゆくゆくは一般的な装備群に属するのではないかと噂されている。

 

 最後にイドラの機体なのだが、彼の『基本が一番ですから』という熱い言葉に従って全ての機体共通の改造以外には何の追加もされていない。これにはアルもちょっと悲しそうな顔をするが、『無理強いして扱いきれないのが一番悲しいですからね』とすぐにイドラの意見を尊重する。

 

「しかし、まさかこれほどデュフォールが大事になっているとは思わなかったがね」

 

「僕もまさかアルヴァンズが招集されるとは思いませんでした。……おかげで試作品が試せるようになったのは嬉しいことです」

 

 アーニィスが昔を思い出すような口調で放った言葉に、アルは機嫌良さげに返答する。

 アルは知らないが、アルヴァンズはエルフの隠れ里を守護する秘匿部隊である。ゆえに人員は限られているので滅多な事では表に出ることはない存在だ。

 

 それがなぜこうしてデュフォールに来ているのか。それは、銀鳳騎士団が開発したツェンドリンブルや荷馬車(キャリッジ)の登場が大きかった。

 これらの高速移動が可能な幻晶騎士(シルエットナイト)や輸送方法の確立により、各領地の行動範囲が大いに広がったおかげで魔獣の行動範囲や被害をかなり抑え込むことが出来た。そこからさらにカルディトーレがフレメヴィーラ王国中に配備されたことにより、アルヴァンズもかなりの余力が持てるようになっていた。

 

 そんな情勢を鑑みたオルヴァーが『試作品のテストと新戦術の検討』という名目でアルヴァンズを招集。カルダトア・ダーシュの件もあってかアーニィスも乗り気で自身を含めた小隊編成でデュフォールに向かった。

 ただ、彼らを待っていたのは『試作武器だと思っていたのが、カルディトーレの改造品+試作武器』だったり、『新しい陣形の考案だと思っていたのが、空飛ぶ船と言う面妖な物体から鎖を頼りに降下』という予想より遥か斜め上となった作業内容だった。

 それを聞かされたアーニィスを含めた小隊全員が、『国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)がこんなになっているなんて』とオルヴァーをまるで変人のような視線を向けるが、オルヴァーは『私は悪くないよ!』と珍しく語気を強めて反論した一幕があったとかなんとか。

 

 閑話休題

 

「さて、本番までオーバーホールを行わなければならないので日程を上げておいてください」

 

「了解です」

 

 言いたいことを全て終わったアルは騎操鍛冶師(ナイトスミス)からの返答を待たずにデュフォールへ帰っていく。

 

 その数日後、デュフォールは再び奇怪な物の登場によって少なく無いどよめきが起こる。そのどよめきの中、奇怪な物──『球体に申し訳程度に四肢がくっついている幻晶騎士(シルエットナイト)と言うのも烏滸がましい物体』を連れてくる1機の幻晶騎士(シルエットナイト)を見たアルは、なぜか喜びの表情を浮かべたまま言葉を空に放った。

 

「あんなものを浮かべて喜ぶか! 変態め!」




最近めっきり寒くなってポンポン痛いです
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