銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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本編が100話を迎えました。これからも銀鳳の副団長をよろしくお願いします。


100話

 魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)の耳をつんざく様な音を伴いながら上空に現れたイカルガは、地平線の向こうから土煙を上げながらデュフォールに走り込んでくるツェンドリンブルと荷馬車(キャリッジ)を視認すると銀線神経(シルバーナーヴ)で接続している丸っこい物体と一緒に高度を下げていく。

 銀鳳騎士団の旗機であり、史上最高の性能を誇る欠陥機とも異名高い機体やそれに乗る騎操士(ナイトランナー)の非常識さを数年前に味わったばかりの騎操鍛冶師(ナイトスミス)達は一様に口を大きく開けて事態を見守る。ただ、そんな時間を無駄にする行動を許さない人物が居た。

 

「呆けていないで発進準備に取り掛かってください。ナイトランナーにも召集を」

 

「は、はい」

 

 手を打ち鳴らしながら騎操鍛冶師(ナイトスミス)達を正気に戻し、各自に指示を出していくアルが人波をかき分けながらイカルガから降りてきたエルに近づく。だが、アルは開口一番で『あ、トー○ス社の方ですね。お帰り下さい』と自らの兄を変態技術者の仲間と定義してライヒアラの方を指差した。

 その随分なご挨拶に、何か気に障るようなことをしたのかと思ったエルは再度自身の作り出した飛行型幻晶騎士(シルエットナイト)の試作品、『シルフィアーネ』を見つめる。そして、数秒の後、アルの言ったことに合点がいったのか『あれは自立砲台じゃないですよ』とやんわり反論した。

 

 その後、デュフォール側が出撃準備を行っている間にツェンドリンブルからアディが、荷馬車(キャリッジ)からはアンブロシウスとエムリスが降りてくる。なんでもアンブロシウスが城を発つ際にエムリスに見つかったらしく、そのまま流れに流れて今回の討伐に参加する運びとなったらしい。荷馬車(キャリッジ)の隙間から金と銀の輝きが見えたが、アルは極力そちらの方を見ないようにした。

 

「そういうわけだ。アルフォンス、よろしく頼む!」

 

「あのー、今回の討伐の主旨分かっておられます?」

 

 ガハハと笑いながらアルの頭をバシバシ叩くエムリスに、アルは少しだけ不安になったので今回の目的を問いかける。だが、エムリスは少し考えた末に『アレだろ? アレ。……飛空船(レビテートシップ)の運用のテストだろ?』と若干怪しい返答が返ってくる。ひとまず、主旨としては合っているのでアルは『大丈夫です』と言いながらサムズアップを送る。

 ──のだが、アルの目は決して笑ってはいなかった。その目はひたすらに予測可能回避不可能な苦労を背負い込むことを強いられたドス黒い諦めの境地へ至った目をしていた。

 

 彼らが久しぶりの再会を歓談している中、ようやく出発準備が終わった試作型戦闘用飛空船(レビテートシップ)である『ヨーハンソン』に各自の幻晶騎士(シルエットナイト)が格納されていく。ゴルドリーオの分だけ多少重くはなったが、ヨーハンソンは船倉の床が抜けることなく無事に浮かび上がっていった。

 ただ、エルが持って来た球体が飛空船(レビテートシップ)に載せられないツェンドリンブルと共に駐機場に置かれてあったので、それを窓の外から見たアルはあれは何のために持って来たのかと不審に思いながらエルに問いかけた。

 

「あれ、あのソル○ィオス。今回使うんじゃないんですか?」

 

「シルフィアーネです。あれはアルに見せたかったんです」

 

 自信満々で答えたエルに、アルは『嘘でも長距離飛行試験ですと言いなさい』とチョップを見舞う。そして、『その手があったか!』という瞳でアルの方を見てくるエルにもう一度制裁を加えようとしたアルだったが、少し考え込んだ末に『あれ、くれません?』と問いかけた。

 

「うぇ!? アル君、あんなの欲しいの? 親方さんとか皆、嫌そうに作ってたよ?」

 

 シルフィアーネと呼ぶあの幻晶騎士(シルエットナイト)ともいえないような産物の裏話を言いながら考え直すよう説得するアディだが、間違ってもアルはあれを『幻晶騎士(シルエットナイト)』として運用したいとは毛ほども考えていなかった。

 

「別にあれをシルエットナイトとしては見てませんよ。適当に操縦席くっ付けて調整すれば便利な移動手段になりますし」

 

「うわ、この子せっかくの試作機を便利な移動手段にしようとしてる! ……まぁ良いか」

 

 アルの語った改造案にエルが非常識な人間を見るかのように抗議するが、よく考えたら試作品かつ、ダーヴィドを含めた銀鳳騎士団の騎操鍛冶師(ナイトスミス)にも不評だったので体の良い在庫処理だと考えたエルはあの球体を譲り渡すことを承諾した。

 

「でもあの子、ちょっと方向転換しただけでグルグル回っちゃうよ?」

 

「どうせ、マギウスジェットスラスタでも使ったんでしょ? あれは出力高いんですから当てにするのは危険です。それに、エーテリックレビテータを起動していればずっと浮かんでいられるので、一度止まってからゆっくり方向転換すれば良いかと。そこらへんを踏まえて、移動用として割り切ろうかと」

 

 あくまでも『幻晶騎士(シルエットナイト)』ではなく、『移動用の車両』と考えるアルの発想に『一応あれは幻晶騎士(シルエットナイト)ですけどね』と再びエルがブー垂れるが、船長から騎操士(ナイトランナー)達にヨーハンソンの会議室に集まるよう伝声管で指示が下された。

 

***

 

「それでは、今回の作戦の概要をご説明します」

 

 広めに設えられた会議室の机にアルが地図を広げる。

 今回の目的地はリテイラー伯爵が所有する領のとある鉱山跡地である。どうやらこの鉱山は数年前に魔獣が住み始めたという理由で閉山したらしく、採掘記録では未だにに銀線神経(シルバーナーヴ)の材料である銀やら石英やらが出て来ることが分かっている。

 そして、その記録の中に今回の目的である源素晶石(エーテライト)鉱石があった。現場では『ハズレ鉱石』と呼ばれて忌み嫌われていたこの鉱石の存在を思い出したリテイラー伯爵が王家に報告し、ヨーハンソンはこうして現地に赴いている。

 

「鉱山はシルエットナイトの出入りもされていたらしいのでかなり大きいです。しかし、崩落の危険性があるので、洞窟に突入後はシルエットアームズの……ブラストハウンリングやファルコネットクラスの物は厳禁でお願いします」

 

 エルとアンブロシウスとエムリスの方向をチラリと見ながら、アルは次に主に相手をしなければならない魔獣についての説明に入る。

 

『ダーロス』。

 生まれて間もない頃は赤ん坊と同サイズぐらいのスライムのような不定形の小型魔獣である。ただ、長年かけて周囲の物体を取り込み、外殻を形成しながら本体も大きくなるという変わった習性を持ち、最大だと幻晶騎士(シルエットナイト)よりも少し大きいサイズの巨人へと変貌する。

 当然、そのぐらいの大きさになると戦闘能力も跳ね上がるので、分類的には『決闘級』。もしくは『小隊級』に再定義されるのだが、討伐する際に注意しなければならないのはダーロスの育った『環境』にあった。

 

 先ほども述べたように、ダーロスには周囲の物体を外殻として取り込む習性がある。ゆえに森の中なら木の葉や樹木で出来た外殻にしており、その場合は炎の槍(カルバリン)など炎系統の魔法や魔導兵装(シルエットアームズ)を用いて内部ごと燃やすことによって楽に駆除が出来る。

 ただ、育った環境が森林以外──荒地や水辺といった場所で育ったダーロスは岩や地面、魔獣の骨やら水を外殻として用いているので、外殻を無効化させる分、駆除難易度は高くなりやすい。

 

 そして、今回のダーロスが生息しているのは洞窟。つまり、岩や精錬されていない鉱石を外殻にしているので、相手の攻撃力や防御力がかなり高い水準であることが予想される。魔獣の傾向が分かった全員が、『面倒くさそうだ』と一様に苦い表情でお互いの顔を見た。

 そんな中、エルだけは『それはもう幻晶騎士(シルエットナイト)同士の戦闘と言っても過言ではないのでは!?』とハッスルしていた。──過言である。

 

「さて、ここからが肝心の作戦ですが……。前段作戦として鉱山周辺の安全を確保します。すでにリテイラー伯爵の紫馬騎士団が中隊規模で現地に派遣されているので、僕達は紫馬騎士団と合流して洞窟までの道を確保するのが前段作戦の概要となります」

 

「その作戦のどこにレビテートシップが使われてるんだ?」

 

 1人だけ違う世界へトリップしているエルを放っておくことにしたアルは、洞窟突入前の前段作戦の概要について話終わると、エムリスが質問と同時に手を挙げる。

 何度も言うが、今回の魔獣討伐は飛空船(レビテートシップ)運用法の一つを貴族に見せ付けるために行っているので、洞窟の制圧を行うであろう後段作戦とは違って飛空船(レビテートシップ)が活躍できる前段作戦に飛空船(レビテートシップ)の行動が一切聞かされていないのだ。

 すると、まるでその言葉を待っていたのか、ニヤリと笑ったアルは真新しい羊皮紙になにやら絵を描き始めた。

 

「先ほどのはシルエットナイト部隊の動きです。レビテートシップはシルエットナイトを降ろした後、偵察と空中からの援護を担います。偵察情報は常に大型の拡声器でお伝えする手筈なのでご安心を。また、橋頭堡を作った際にはヨーハンソンから"マナボックス"を降ろしますので、各自はそれで補給を行ってください」

 

「マナボックス?」

 

 聞きなれない言葉にアンブロシウス、エムリス、エル、アディといったアルの作っていた物を知らない者達が首を傾げる。

 マナボックスというのは、端的に言えば『魔力供給用の巨大な箱』である。巨大な蓄魔力式装甲(キャパシティフレーム)によって作られたその箱の内部には同じ形に切り分けられた板状結晶筋肉(クリスタルプレート)が収められており、その箱を銀線神経(シルバーナーヴ)を寄り合わせた綱に接続して飛空船(レビテートシップ)から投下して運用する。

 地上側はマナボックスが地上に投下され次第ボックスを解放、中の板状結晶筋肉(クリスタルプレート)を各々のカルディトーレが腰部に備え付けられてあるポーチや魔導兵装(シルエットアームズ)に接続して魔力の供給を行うことが出来る。

 

 また、ポーチがないといった機体の対応も想定に入っているらしく、マナボックスには投下時に接続するものとは別の銀線神経(シルバーナーヴ)と端子が同封されているので、幻晶騎士(シルエットナイト)銀線神経(シルバーナーヴ)に端子を接続することでの供給も可能となっている。

 

「なるほど。レビテートシップを移動型の簡易拠点にするんですね。ですが、改造ってそんなものなんですか? アルにしては大人しいですね」

 

「はい。本来であれば機銃もりもりで船首あたりにでも超威力のシルエットアームズを備え付けたかったのですが、お値段がですね……」

 

 何時の世も『お値段』という言葉が希望を打ち砕いていく。その言葉だけで色々察したエルはチラリとアンブロシウスを見ると、『参考までにどのぐらいじゃ?』とお値段についての疑問をアルに聞く。すると、アルが『魔力転換炉(エーテルリアクタ)がこのぐらい』と片手を開いた状態でアンブロシウスに向けた。

 

「うむ。その量は量産するとなるとわしとて首を横に振るしかない」

 

「デスヨネー」

 

 案の定の回答にアルはがっくりと肩を落とすが、説明を続けようと後段作戦についての概要を話し出すのだが、これは前段作戦よりもシンプルな内容であった。

 まず、洞窟前に再び橋頭堡を作成した幻晶騎士(シルエットナイト)部隊が洞窟内に突入。成長しきった固体や、成長途中の固体を駆逐し、生身の騎士が洞窟に入れるようにする。

 そこからは生身の騎士が突入し、生まれて間もないダーロスや生まれる前のダーロスといった『巣』の駆除に当たるのだ。ダーロスの身体は核のような物を傷つければ絶命するので、燃やしてしまえば簡単に駆除が出来る。

 そうなると、幻晶騎士(シルエットナイト)が使えれば洞窟を焼き払うのがベストなのだが、入り組んだ坑道も存在するとの情報もあるので最終的には人の目と耳で把握しなければならないので、騎士の出番は必要不可欠だ。

 

「概要は以上です。他に質問は……なさそうですね」

 

 説明を終了したアルは周囲を見渡すが、手を1本の棒のようにピンと上に挙げたエル以外は誰も居ない。アルはその腕を無視して出撃準備をするように号令をかけるが、その都度手を一旦下げた後に再びピンと上に勢いよく挙げて自身を強くアピールするエルに、周囲は『お前の兄貴だろ。なんとかしろよ』という視線をアルに投げかける。

 その視線に耐え切れなくなったアルは、『あのテンションだとどうせ禄でもないことだろう』と予想しながらもエルが疑問に思っていることを話すように促した。

 

「天然鉱石の外装に興味があるので、研究材料のためにちょっとばかし持って帰っては……あぁっ! 無視しないでください!」

 

「エーテライト以外の鉱石は伯爵領の貴重な産出資源になるので駄目です」

 

「アル君。ツェンちゃん置いてきたけど、私はどうすればいいの?」

 

 エルのトンチキな質問にエルの性格を知っている面々は『やっぱりか』という諦めたような感想を漏らしつつ出撃準備に入ろうとするが、アディが自分の役割を聞いていないことを思い出して質問する。

 いつもは天才肌ゆえに『あっちからどーんってすれば良いのね!』といった擬音マシマシの質問をしていたアディが珍しく質問らしい質問を投げかけてくれたので、アルはちょっと感動しながらもアディの配置先について長考する。

 

「兄さん小さいですし、イカルガに乗れば」

 

「賛成!」

 

「却下です」

 

「じゃあ、兄さん置いてイカルガに乗れば」

 

「さてはおめー、デルヴァンクールのことを根に持ってますね?」

 

 次々と飛び出る兄を兄と思っていない対応策の連続にエルの口調が少し乱れる。ただ、イサドラに弟の個人情報や外堀を埋める手法を教えたり、去り際のやり取りを覗き見したりと、先に仕出かしたのはエルである。それらのやり取りを仏陀スマイルですべて許せるほどアルは聖人ではない。

 

 ただ、それを何度もネチネチ繰り返すほど陰湿でもないので、『これぐらいにしておきましょう』と言いながらアディにヨーハンソンの見張り台で情報の連携をするようにお願いする。最初はエルと離れ離れになることにむくれるアディだったが、一度エルを強く抱きしめると船長に尋ねながらヨーハンソンの見張り台を目指して駆けて行った。

 その後ろ姿にもう少しゴネるかと思っていたエルは『成長しましたねぇ』としみじみ呟く。それにはアルも同意見で頷くが、そうしていると後ろから『デルヴァンクールで思い出した!』とエムリスの叫び声が聞こえる。

 

「アルフォンス! イサドラから手紙が返って来たぜ!」

 

「そうですか。……え、現物は?」

 

 手をエムリスの方に差し出すアルだったが、エムリスは服やズボンのポケットをごそごそと忙しなく弄り続け、ひとしきり確認を終えて大きく息を吐き出した。そして一言、『悪い、置いてきた』とすまなそうに声に出すと、アルは『シッテマシター』と片言で返事をしながら落ち込んだ。

 

「フフフ……我が孫ながら中々情熱的な言葉を書いておったな」

 

「レーヴァンティアの試験運用から参加していた小隊のあいつらも結婚したらしいし、今度行ったら酒でも振る舞ってやろう」

 

 しかし、自分の知らないことで盛り上がっている王族を前に、アルは『はて?』という懐疑的な表情を向ける。数秒後、その理由が電流のようにアルの脳裏に走ると、まるで膝の下をハンマーで叩かれたかのようにエムリスに飛び掛かった。

 

「え、見たんですか! 手紙見たんですか!」

 

「いや、そりゃ見るだろ。藍鷹騎士団から手渡された最重要の文書だぞ?」

 

「左様。国と国の機密文書じゃぞ? 中を改めない道理がどこにある?」

 

 至極当然のことを言ってくる王族2人だが、諭すような口調とは裏腹にその顔は終始笑顔だった。その反応にアルは悔し紛れの軽いローキックをエムリスに入れ、『王族だぞ!』と叱られつつも作戦地点が近いことを理由にさっさと艦橋へ逃げてしまう。

 

 ちょうどその頃。イサドラもエレオノーラやマルティナから最重要文書──アルからの手紙を微笑ましい光景を見ているような表情を浮かべながら渡されることで叫び声をあげていたが、それを外部で知るのは王城で守護を任ぜられた近衛騎士団のみであった。

 

***

 

 閉山した鉱山が存在する森林部から少し離れた平原。そこではカルディトーレの中隊がV字型に開いた陣形を取りながらひたすら法撃を放っていた。

 

「くそっ! 魔力が足りん! 突破されるぞ!」

 

「やはり中隊では足りなかったんだ!」

 

 泣き言を言う騎操士(ナイトランナー)達の目線の先には鬱蒼と茂る森があり、そこから岩の外殻を纏った巨人が次々と吐き出される。その巨人達は動きこそ緩慢だが、浴びせかけられる法弾を馬鹿正直に受け止めながら前進を続ける。

 時折、法撃によって外殻が剥がれ落ちて内部にまで燃え移った個体が大地に沈むが、すぐさま森の奥から追加がやって来るのでこのままではカルディトーレの魔力が先に枯渇するのが目に見えていた。

 

(こんなはずではなかった)

 

 そんな絶体絶命の中、とあるカルディトーレの操縦席では騎操士(ナイトランナー)である『フロイド・リテイラー』が、ここ数年で幾度もなく口から出てきたその言葉と共に強いため息を吐いていた。

 彼は先ほど述べた魔獣によって閉鎖された鉱山を所有するリテイラー伯爵の5男坊で、伯爵の保有する『紫馬騎士団』に所属していた。だが、騎士団に所属と言っても彼は残念なことに騎士になるための学び舎──ライヒアラ騎操士学園を中退していた。

 そんな彼がなぜカルディトーレに乗り、さらにいえばここで向かってくる岩の巨人相手にひたすら法弾を放っているのか。それには洗面器ぐらい広く、水たまりよりも浅い訳があった。

 

 彼がライヒアラ騎操士学園に入った真の理由。それは銀鳳騎士団の調査だった。

 新型機を開発したアンブロシウス肝いりの騎士団という触れ込みに興味を持った伯爵は早速フロイドを入学させ、あわよくば銀鳳騎士団の一員になって幻晶騎士(シルエットナイト)の新情報を仕入れられないかと空論に浸っていた。ただ、そんな空論はどこの貴族も容易く頭の中に描いており、入学したフロイドはそんな集団の中に呆気無く埋まってしまった。

 そんなフロイドが幻晶騎士(シルエットナイト)の新技術や概念と言った目新しい報告など仕入れられるはずもなく、ありきたりな報告に伯爵がやきもきする日々が続く中、銀鳳騎士団はライヒアラ騎操士学園から拠点を移すことが知らせられる。

 それを機に伯爵はフロイドをライヒアラ騎操士学園から退学させた。伯爵の本音からすれば、これ以上5男に余計な金を使いたくはなかったのだろう。フロイドもそんな透けて見える意図に気付いてすぐさまリテイラー領へと帰還した。

 

 話はそこで済めば良かったのだが、ここで良い意味で思わぬ誤算が生じる。フロイドが新しくリテイラー領入ってきたカルディトーレの操縦を一通り出来てしまったのだ。これには伯爵も大喜びし、すぐさま導入されて間もないカルディトーレの指南役としてフロイドを据える。

 そこからあれよあれよという内にカルディトーレの操縦方法が騎士団中に浸透していき、『この分なら戦闘も出来るだろう』という伯爵の鶴の一声にフロイドは紫馬騎士団の一員となった。

 

 しかし、なぜフロイドがカルディトーレの操縦を行えるのか。それは、彼が幻晶甲冑(シルエットギア)の講習に参加していたのに起因する。

 幻晶甲冑(シルエットギア)の本来の用途は『実機を使わない騎士の育成』にある。つまり、幻晶甲冑(シルエットギア)を容易く動かせる者はカルディトーレを動かせる者であり、フロイドも拙いながらも幻晶甲冑(シルエットギア)の操縦法を会得していたのだ。

 ただ、『それも報告に書けよ!』と伯爵が後悔の念に苛まれるのだが、『親の心。子知らず』、『後悔先に立たず』であった。

 

 ──それはそれとして。

 フロイドは幻晶甲冑(シルエットギア)やカルディトーレが動かせるとしても騎士として魔獣と十全に戦えるわけではない。こうしてひたすら砲撃を行っているのがその証拠だ。

 先ほどから魔力貯蓄量(マナ・プール)の目盛りがじわじわと減っていく状況にフロイドや他の騎操士(ナイトランナー)の背中に嫌な汗が伝う。本来ならばもう少し持ちこたえられたのだが、序盤に投入した『多連装兵装(マルチプルアームズ)』と呼ばれる新兵器の運用がいけなかった。

 

 これは数本の魔導兵装(シルエットアームズ)を束ねた物を幻晶騎士(シルエットナイト)用の荷車に乗せたリテイラー領が開発した新型装備である。フロイドが見たとされる銀鳳騎士団が運用している荷車から着想を得たこの魔導兵装(シルエットアームズ)は、数本の魔導兵装(シルエットアームズ)を同時に投射できるので弾幕形成に非常に役立った。──役に立ったのは役に立ったのだが、『あ、これ5つ分の魔導兵装(シルエットアームズ)に魔力送ってるだけだ』と大して意味がないことを悟る。

 しかし、弾幕を形成しないと鉱山に踏み込めないので、これを限界ぎりぎりまで使用して橋頭堡を作ろうという作戦になった。その結果、このようなジリ貧の状況となってしまったのだ。

 

「なんとかならないのか!」

 

 万事休すの状況に中隊長が意味もなく喚く。──その時であった。

 空から無数の法弾が降り注ぐ。そのうち何割かの法弾がダーロスの外殻を弾き飛ばしながら内部を延焼させた。

 その現象に驚きを露わにする紫馬騎士団だが、唐突に聞こえるジャラジャラと金属が擦り合う異音と空が陰ってきた事態に全員が慌てて上を向く。

 

「なん……だ……あれは」

 

「見ろ! シルエットナイトが降りてくるぞ!」

 

 鎖に接続されたカルディトーレやゴルドリーオといった銀鳳騎士団製の幻晶騎士(シルエットナイト)が降下してくることにより、あっという間に幻晶騎士(シルエットナイト)戦力が整った。

 その常軌を逸した展開についてこれない紫馬騎士団の面々はただひたすらに口を開けていたが、少なからず銀鳳騎士団のやり方──主にアルが学校内で行っていた所業によって少なからず耐性を得ていたフロイドは合流した部隊を指揮する部隊長は誰かを訪ねた。

 

「部隊長……わしになるのか?」

 

「爺ちゃんだろ?」

 

「先王陛下だと思います」

 

「先王陛下ですね。常識的に考えて」

 

「エルネスティよ。おぬしに常識を問われる筋合いはないぞ? ……アンブロシウス・タハヴォ・フレメヴィーラである」

 

 降下した面々の総ツッコミの中にしれっと混ざるエルの発言に反論しながらも威厳たっぷりな声で自己紹介をするアンブロシウスだが、周囲の反応から既に誰が乗っているのか薄々感づいていたフロイドはガクガクと泡を吹きながら痙攣を起こす。

 しかし、中隊長を含めた紫馬騎士団の面々もまさか先王であるアンブロシウスが来るとは思わなかったのか、ちょっと目の前の事実が受け入れられない事態に陥っているため、フロイドはこの時だけ貴族の生まれであることを恨みながら丁寧に戦況や魔獣の種類を説明していく。

 

「あい分かった! ……にしても、おぬし中々胆が据わっておるの」

 

 すると、アンブロシウスがフロイドの胆力に目を付けた。正直一杯一杯だった彼は咄嗟に『教師が良かったんです』と話を別方向に向けて煙を撒こうと思っていたのだが、題材のチョイスがまずかったのかアンブロシウスがさらに興味を持った。

 『どこの学校に行ってた?』やら、『どんな教師だ?』と根掘り葉掘り聞く上司(LV100)に、フロイドはやけくそ気味に『ライヒアラ騎操士学園のアルフォンス・エチェバルリア教官です!』と叫んだ。『こんな辺鄙な所にあの小さい名物先生が居るわけない』、『そもそもあの人辞めたはず』と確信めいた打算で発したその言葉により、アンブロシウスの興味はその『アルフォンス』という教師に向くはずだった。

 ──ただ、フロイドには1つ誤算があった。

 

「皆さん、そろそろ動いてくれないですか? ヨーハンソンから催促が来てますよー……ってなんか呼びました?」

 

 アルが魔法のみで地上に着陸することにより、フロイドの脳裏によぎった打算は粉々に打ち砕かれることになった。

 

***

 

 その後、『フロイド』という人物にピンと来ていなかったアルに、フロイドが顔を見せたことによってようやく声と顔が一致したアルが『お久しぶりです』という挨拶する一幕があったが、その間に紫馬騎士団はヨーハンソンから投下されたマナボックスによる補給にありついていた。フロイドのカルディトーレも例外に漏れず、目減りしていた魔力を補給しているのだが、未だに横を離れないアンブロシウスや、なぜかこの場に居る辞めたはずの名物先生が居ることに痛む腹を押さえていた。

 

「ほう、おぬしが教師時代の生徒じゃったか」

 

「クロケの森で行われていた演習で知り合っただけです。でも、そう考えると僕の2つぐらい下ですよね? まだ卒業してないのでは? まだ長期休みでもないですし」

 

そんなフロイドの状況謎知らないアルは、『卒業していないのに何でここに居るの?』という指摘をフロイドに投げつける。本来の目的を抜きにすればフロイドは『騎士を志していたのに中等部を中途退学した者』なので、お家事情であっても外観が悪すぎる。

 

 そんな指摘にどう答えようか迷っていると、アンブロシウスは『他の家の事情に首を突っ込むでない』とジルバティーガの操縦席からアルのことを叱る。

 貴族という物は多かれ少なかれ闇を持っているので、余計な一言は命取りになりかねない。それを察したアルはカルディトーレに『申し訳ありません。忘れてください』と相変わらず生徒にも丁寧に接するので、フロイドは『とんでもない』と器用にカルディトーレの手を左右に振る。そんな何気ない動作をアンブロシウスとアルは見逃さなかった。

 

「やはりおぬし……カルディトーレに慣れておるな?」

 

「シルエットギアの講習がここまで操作に反映されるとは……。先王陛下、フロイド君引き抜くにはおいくら万枚包めば良いです?」

 

 銀鳳騎士団ではたまに第2中隊がディートリヒをからかう目的などでよくカルディトーレでハンドサインを用いられるが、他の騎士団ではその動作の精密性から非常に再現が困難であった。それを会話の返答込みでやってのける器用さに、アルの脳内にある『欲しいものリスト』にフロイドの名前がリストアップされる。

 どのように引き抜こうかとアンブロシウスと相談しようとした矢先、イカルガが魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)で着地すると森の方を指差した。

 

「先王陛下。アル。雑談はそこまでにしてください。魔獣の数が少なくなってきたので、そろそろ押し返しますよ」

 

「おお、そうか。わしはエムリスと合流してこよう」

 

「僕はー……フロイド君のーせて?」

 

 本来ならばヨーハンソンに戻るべきだろうが、せっかく幻晶騎士(シルエットナイト)の戦場に降り立っていたアルはフロイドの乗っているカルディトーレに便乗しようとする。対するフロイドも恩師なので少しだけ迷うが、やがて胸部装甲を開いてアルを招き入れた。

 銀鳳騎士団やラボで使っているカルディトーレと幻像投影機(ホロモニター)やボタンの位置が変わっていないかつぶさに確認していくアルだったが、幻像投影機(ホロモニター)に映った多連装兵装(マルチプルアームズ)に目が止まった。

 

「フロイド君、あれなんです? 僕も知らない装備ですが」

 

「あ、あれはうちの領が開発した新型のシルエットアームズ。……ですが、「素晴らしい!」うぉっ!?」

 

 多連装兵装(マルチプルアームズ)の欠点をフロイドが話そうとした矢先にアルの声が遮る。

 

「ラボ以外に新しい装備を開発する気概! 発想! なんとも素晴らしい! これは是非開発した本人にご挨拶に行かなければ……」

 

 開発者を褒め称える言葉の嵐にフロイドは『あなたの荷車から着想を得たんです』と言いづらく、『ア、ハイ』と適当な返事をするしかなかった。

 すると、突然カルディトーレがフロイドの操作もなしに動き出す。いくら操縦桿を動かしても一向に操作を受け付ける気配がしないので、フロイドは吟遊詩人から聞いた『人喰い幻晶騎士(シルエットナイト)』の話を思い出して半泣きになるが、アルは『あ、言い忘れてましたけど操作お借りしますね』と何気なくフロイドに伝えた。

 それを言ったアルの両手にはアガートラムが嵌められており、それらがしっかりと銀線神経(シルバーナーヴ)を掴んでいた。

 

「行くぞぉ! 爺ちゃん!」

 

「抜かせ! まだまだおぬしには負けんわい!」

 

双獣王轟咆(ダブルハウリング)!』

 

 森の入り口辺りでゴルドリーオとジルバティーガが何やら合体技を披露し、『気持ち良いZOY』とばかりに環境破壊に勤しんでいる。その気持ち良さそうな破壊っぷりに『伯爵に何か言われたらあの人たちのせいにしよう』と強く心に決めたアルは、一先ず興味をそそった多連装兵装(マルチプルアームズ)を回収しだした。

 

「大丈夫なんですか? 洞窟とか崩落しないですかね?」

 

「何かあったらあの人たちの責任にしましょう。兄さんやヨーハンソンも上空から見てるから大丈夫だとは思いますけど。……これも魔力がネックになるんですねぇ」

 

 未だに怒号が聞こえないことに双獣王轟咆(ダブルハウリング)は森林部だけを整地したらしく、一安心しながらアルは多連装兵装(マルチプルアームズ)を検分する。ただ、すぐに魔力を大喰らいする特性を見抜くと多連装兵装(マルチプルアームズ)をカルディトーレの両手に装備させ、補修素材としてヨーハンソンに積み込んでいた銀線神経(シルバーナーヴ)を投下してもらうと多連装兵装(マルチプルアームズ)に巻き付ける。

 

「なにをするんですか?」

 

「今から都合の良いエーテルリアクタを呼び出すんですよ」

 

 全ての準備を行ったアルは、カルディトーレの拡声器でエルを呼びながら急いで前線に向かう。すると、前線の上空で滞空していたイカルガがカルディトーレの近くへ降り立ったので、アルはカルディトーレの両手に装備した多連装兵装(マルチプルアームズ)を揺らすことで括り付けた銀線神経(シルバーナーヴ)の端っこを左右に振ってアピールする。

 

「はいはい。洞窟まで被害は出ませんでしたけど、他の用ですか?」

 

「先ほどの見事な合体技には、同じく合体技で返礼しないと不作法だとは思いませんか? 兄上、ちょっとお耳を拝借──」

 

 合流するエルに何やら面白げなことを吹き込むアル。その内容にフロイドは『騎士団長になに言ってるんだこの人』と戦々恐々していたが、全ての内容を聞いたエルはノリノリで多連装兵装(マルチプルアームズ)に括り付けられた銀線神経(シルバーナーヴ)の端っこを掴んだ。

 

「全部隊へ! これより弾幕を展開するのでイカルガの後方に撤退をお願いします」

 

「なに!?」

 

 それぞれが戦っている最中に聞こえたアルの警告に、『アルのことを良く知っている面々』が後退を開始する。ただ、彼のことを知らない紫馬騎士団は突然の後退に二度見どころか三度見をしながら撤退もせずに戦っていたので、アルは『なお、指示に従わなかった場合の安全は保障しかねます』とトドメの一言を放った。

 そこまでして流石にヤバそうだと感じたのか、紫馬騎士団はすぐさま後退を開始。全機がイカルガの後ろまで下がったことを確認したアルは、カルディトーレの両手に持たせた2丁の多連装兵装(マルチプルアームズ)を正面に構えた。

 

「ベヘモスハート起動します」

 

 皇之心臓(ベヘモスハート)というイカルガをいつまでの空中に留まらせられることが可能な魔力転換炉(エーテルリアクタ)から迸る魔力が銀線神経(シルバーナーヴ)を通じて多連装兵装(マルチプルアームズ)へと流れ込んでいく。すると、先ほどまで沈黙を続けていた各魔導兵装(シルエットアームズ)から法弾が飛び出していった。1丁5本、合計で10本の魔導兵装(シルエットアームズ)から放たれる法弾はダーロス共々双獣王轟咆(ダブルハウリング)の余波から免れた木々をもなぎ倒し、やがて1つの巨大な道が形成されていく。

 

 なお、こんな破壊行動をしていると、当然だがダーロス以外の魔獣も寄って来る。

 しかし、寄ってきた魔獣の末路は多連装兵装(マルチプルアームズ)による法撃の餌食か、後方に待機していた泣きじゃくるジャロウデク軍も黙ってしまうほどの戦果を西で挙げた鬼神、もしくは最近は幻晶騎士(シルエットナイト)に乗っていなかったので割とテンション高めの王族の餌食だった。

 

「鉱山が復活するなら道も整備しないとですからね。この際ですから間引いときましょう」

 

 軽快な音を立てながらズンズンと前進するカルディトーレに、フロイドはもはや操縦する気も失せたのか、操縦桿を握っていた手を自らの膝に乗せた。周囲で起こっている『討伐』という言葉よりも『駆除』と言った方が正しいと思えるぐらい機械的な殺戮の風景に、『父上。この人達をうちに入れるとかやっぱり無理ですよ。最悪、うちの領が別物になります』と現場の状況が見えていない父親に向かってひたすら念を送っていた。




皆様。良いお年をお過ごしください。

ダーロス
 本編オリジナル魔獣。ゼウスがエウロペに送った巨人の『タロス』から命名。
 この魔獣は周辺の物質を外殻に巨人へと変貌するので、育った環境によって討伐難易度が異なるのが一番の特徴。

マルチプルアームズ
 リテイラー領のとある鍛冶師が作った試作装備。元ネタは中世後期に登場した『オルガン砲』。
 圧倒適正圧力を誇る当装備だが、結局の所『シルエットアームズをつなげただけなので、前段当たらない分、魔力が余計に消費するだけ』という残念な結果となった。
 ※ただし、規格外の魔力を保有する場合は圧倒的制圧力を誇る代物である。

ダブルハウリング
 ナイツ&マジックコミカライズ担当様のところにあったネタ。
 ちなみにこの後、緊急で魔力供給をする必要が出たのでイカルガの魔力をシルバーナーヴによって直接補給したという裏話がある。

フロイド君
 いつぞやに登場した子。銀鳳騎士団製のシルエットナイトの情報に夢中な他の貴族の坊ちゃん達から距離を置いて、ちゃっかりシルエットギアの講習を受けていたためにカルディトーレが割りとすんなり動かせた人。
 ただ、満足に戦えるというわけではないので、現状は細かい動きが出来る操縦技術が高いだけの人である。
 ??「君、良い腕してるね。銀鳳騎士団に入らないかい?」
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