銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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101話

 イカルガの無尽蔵の魔力を用いた濃密な弾幕によって鉱山までの道を文字通り『整地』した一行。当初の予定通りにヨーハンソンは鉱山上空で待機し、マナボックスを再度投下することで燃料補給所を設置する。そこから各機への補給作業を終えた幻晶騎士(シルエットナイト)部隊は、いよいよ武装した騎士達より先行して洞窟内へ突入を開始した。

 ただ、既にかなりのダーロスが駆逐されたため、幻晶騎士(シルエットナイト)部隊が洞窟内で交戦したのは巣を守る役目を果たしていた僅かな成体と成体よりいささか小さい個体のみだった。

 

 その後は本当に事務作業のような単調さで事が運ぶ。

 アーニィスは外殻の堅牢さに剣を弾き飛ばされつつも、腕や膝を振るうことによって無手の状態でも相手に着実にダメージを与えて倒していく。その横ではツーヴァとイドラがコンビネーションによってアーニィスへ襲い掛かろうとするダーロスの動きを封じ込め、僅かに剥がれた外殻の隙間を縫ってツーヴァのカルディトーレの握ったジャマダハルに似た短剣が的確に内部構造を刺突。そのままグリップを握ることで射出された刃がダーロスの不定形な内部をズタズタに引き裂いて倒していた。

 

 こうして、成体や成体間近の個体はアルヴァンズの活躍によって瞬く間に全滅。その後はアルを先頭に幻晶騎士(シルエットナイト)部隊と合流した騎士が武器や魔法を用いて的確にダーロスの幼体と残敵の確認を十分に行ってから作戦は無事に終了する。

 

「──以上を持ちまして、本鉱山の魔獣討伐の結果となります」

 

「ありがとうございます」

 

 所変わってアルはリテイラー領の領主である『カーノル・リテイラー』の屋敷で本作戦の結果報告を行っていた。既に紫馬騎士団の中隊長が報告を上げているのだが、今回使用された飛空船(レビテートシップ)の運用を基にした結果は飛空船(レビテートシップ)に精通した者でないと説明が難しいという理由から銀鳳騎士団の誰かに説明してもらいたいという要望が出てきた。

 その要望に対し、アディは絶対に除外するとしてエルかアルのどちらかになるのだが、その話を紫馬騎士団の騎士団長を名乗る初老の男に持ちかけられた瞬間。エルは窓を開けてから『アル、後は任せます』と飛び降りていった。──逃げたのである。

 

 こうして逃げそびれたアルはひたすらに『仕事だから』という鋼の意思で報告に臨んだのだが、報告相手であるカーノルは飛空船(レビテートシップ)に対する質問を一切しなかった。『分かっているのか』や『本当に理解しているのか』といった疑問はあったが、アルに課せられた使命は報告することのみだったので何も言わずにいた。

 

「他にご質問はないでしょうか?」

 

「大丈夫です。レビテートシップですが、戦闘面に関してもこれほどまでの戦力を早期に投入できるのは大きい。エーテライトのことはもちろんですが、夜会でもレビテートシップのことは大いに宣伝させていただきますよ」

 

「それはありがたいです。是非ともよろしくお願いします」

 

 夜会という物は早馬や幻晶騎士(シルエットナイト)よりも早く情報を貴族間に浸透させる数少ない手段である。そこで宣伝することが出来れば飛空船(レビテートシップ)に対する意識改革も容易になると思ったアルは腰を折って礼をする。

 

「さて、話は変わりますが……うちのフロイドと面識があるとか?」

 

「ええ、クロケの森の演習で魔獣と戦っていた所に割り込んだ形ですが」

 

 魔獣ひしめくフレメヴィーラで魔獣に襲われる力量の者が騎士になるのは外観が悪すぎるので、アルはあえてフロイドが戦っている最中に助力したように言い換える。その言葉にカーノルは信じたのか、『そうですか。自慢の息子ですよ』と本当に思っているのかわからないような胡散臭い笑みで答えていた。

 

「はい、その時に……我が家に代々伝わる宝剣を貸したという報告がフロイドから聞かされたのですが」

 

 胡散臭い笑みを浮かべたままのカーノルに、アルは正直に魔獣との戦闘の際に紛失したことを伝える。ここではぐらかしても余計な問答の末バレる可能性が高いので、後々のために正直に話した方が心象が良くなるだろうと考えたアルは、紛失した報告のついでにどうやって紛失したのかを思い出す限りで伝える。

 すると、カーノルの笑顔は次第に理解できないものを見る目に変わっていく。

 

「剣を投げた? ……で、止めを刺すのに使って……魔獣を盾にしたまま魔獣ごと切り裂いて……そこでへし折れたから相手に投げつけて失くしたと?」

 

「はい。多分そこで失くしたと思うんですが……生憎無我夢中だったので記憶が無くて」

 

「いえいえ、そこまでで……。そうなると困りましたね。我が家の宝剣が無くなってしまうのは何とも痛い。あれは初代様がお持ちになっていたこの地の守護を司る宝剣でしてね」

 

 さらに鮮明に思い出そうと額に人差し指を押しあてるアルにカーノルは慌てて止めに入るとともに心の中で邪悪な笑みを浮かべる。彼の言う『宝剣』だが、実を言うと多少良い鋼を使っていたのでお高いのだが、貴族家代々伝わる者と銘打つほど高価でもない。出所についても紫馬騎士団が懇意にしている町の鍛冶屋から売ってもらった物をフロイドに持たせたので、悪く言えば『そんじょそこらの剣』である。

 

 ただ、ここまで言うことでアルに『お金で釣り合えない物を失くした』という負い目を感じさせることが出来た。本来ならここで紫馬騎士団にでも勧誘させるところなのだが、アルは王族の擁する銀鳳騎士団の副団長なので、安易な引き抜きは獅子の尾を踏むことになる。そこで、カーノルは一計を投じる。

 

「そうですね。金銭というのも申し訳ない。……どうでしょう? フロイドを銀鳳騎士団で雇ってもらえないでしょうか?」

 

「フロイド君をですか?」

 

「ええ、今や銀鳳騎士団は飛ぶ鳥を落とす勢い……っと"鳳"を名乗っている騎士団に不適切でしたね。改めまして、銀鳳騎士団は今や話題の中心です。そこに息子が所属しているとなると貴族としての格も高くなるというものでして」

 

 ぺらぺらと調子の良いことを話すカーノルに、アルは『はぁ』という気の抜けた返事を続ける。『貴族の格』とカーノルは言うが、もちろん目的はそれだけではなかった。騎士団の一員になってしまえば技術をこちらに持ってくることも容易になると踏んだのだ。『最初』はフロイドが何も持っていないがために失敗したが、今回は『負い目』という特攻を持っている。

 さらに言えば銀鳳騎士団から引き抜くのはまずいが、『団員として雇う』のであれば何の問題もないだろう。

 

「分かりました。お引き受けしましょう」

 

「いやぁ! 流石、最先端を担う銀鳳騎士団の副団長様! 懐が深い!」

 

 100%心にも思っていない聞こえの良いよいしょの言葉を聞き流したアルは、即座に契約書を認めるとフロイドを迎えに行くために部屋から退室する。後に残されたのは、今後入って来るであろう幻晶騎士(シルエットナイト)技術に夢想するカーノルと、今までずっと黙っていたがカーノルの指示でようやく動き出した執事のみであった。

 

***

 

 狭い自室でようやく緊張の糸を緩めたフロイドに、突然アルが来襲した。椅子から引っ張り出されたフロイドは、アルの『君の身柄は銀鳳騎士団が頂ます』という謎セリフに詳しい説明を求めるが、アルは時間が惜しいとばかりに荷造りを命じる。

 5男坊ゆえに思い出に残るような品が無いフロイドにとって荷造りはものの数分で完了し、扉を出た途端にアルは『では、ご挨拶に向かいましょうか』とフロイドの手を引きながら先ほど退室したばかりのカーノルが居る執務室を目指した。コンコンとノックをした後に扉を開いたアルは、カーノルに礼をするとフロイドの方を指差す。

 

「では、フロイド君を連れて行かせていただきます」

 

「えぇ、不肖の息子ですが鍛えてあげてください。……おっと、そうだ。アルフォンス殿、少しばかり家族の語らいをしても?」

 

「えぇ、廊下で待っているので」

 

 カーノルの言葉にアルは頷きながら返すとフロイドを置いて部屋から退室する。

 そして、廊下の窓から帰る支度をしているヨーハンソンの姿を見ながら時間を潰していると、執務室のドアが開かれてフロイドだけが出てきた。なにか思い詰めたような顔色をしているが、その表情から大体のことは読み取れたアルは『次は工房に寄りましょう』と、荷物とフロイドの手をとりながら屋敷の外に出た。

 

「おう、フロイド様。執事さんから事情は聞かせてもらった! もう準備は出来てるぜ」

 

 工房の騎操鍛冶師(ナイトスミス)に声をかけられたフロイドは何が何だか分からなかったが、綺麗に塗装され直された自身の機体やその前に並ぶ紫馬騎士団員達の姿にアルの言葉が真実だと悟った。

 別れを惜しむ言葉を投げかけながら騎士団員がフロイドと握手を交わしていくと、紫馬騎士団の騎士団長がフロイドの前に立った。

 

「向こうでも頑張りなさい」

 

「はい、騎士団長閣下もお元気で」

 

 フロイドの言葉に騎士団長は苦笑いを浮かべる。騎士団長は初老ゆえに幻晶騎士(シルエットナイト)の上り下りが厳しくなり、既に幻晶騎士(シルエットナイト)には乗っていない。そんな騎士団長を相手にに未だ『騎士団長閣下』と呼ぶフロイドのまっすぐな瞳が何とも眩しかった。

 

「ははっ、幻晶騎士(シルエットナイト)の上り下りは出来ないからね。代替わりももうじきだ」

 

「むっ! 幻晶騎士(シルエットナイト)の話をしましたか? しましたよね!」

 

 そんなしみじみとした空気が流れる中、先の戦いで使用していた多連装兵装(マルチプルアームズ)の開発者と意気投合していたアル(バカ)が割り込んでくる。驚きの表情をした騎士団長に『操縦は出来るのですか?』や『本当に上り下りだけ厳しいのですか?』といった不躾な質問をし、騎士団長もそんな不躾な質問に丁寧に答える。

 すると、少し考えたアルは一目散にヨーハンソンを操作していた騎操鍛冶師(ナイトスミス)やアンブロシウス、エムリスが集まっている場所に突撃し、何やら話し合いを開始した。『お前、せっかく考えた技術をまた……』や『フロイド君1人の価値として』と彼らの声が風の流れと共に聞こえ、自身にまたしても思わぬ付加価値が付けられたことに、フロイドが『どうにでもなれ』と諦めにも似た心情で茫然と突っ立っていた。

 

「いやー、お待たせしました。では、これを」

 

「なんですかな? これは」

 

 ようやく話し合いが終わったのか、数枚の紙を携えて戻ってきたアルがその紙を騎士団長に渡すと『手付金変わりです』と答える。先ほどから本格的に『人身売買』と言う言葉が騎士団員の頭を過っているのだが、言葉を遮るのは失礼と彼らは直立不動のまま事態を見守る。

 ただ、騎士団長だけは受け取った紙をしげしげと検分すると、突然近くの騎操鍛冶師(ナイトスミス)を呼び出して受け取った紙を見せ始めた。

 

「これは……実現可能か?」

 

「ストランドタイプの耐久性を十分に上げる必要がありますね」

 

「ああ、設計図だけだと不親切でしたね。ちょっとお待ちを」

 

 会話の途中で割り込んだアルが再び工房から離れると、今度は1機のカルディトーレを連れて戻ってきた。胸部装甲からは不思議そうな顔をした騎士──アーニィスが胸部装甲から垂れ下がった綱型結晶筋肉(ストランド・クリスタルティシュー)で出来た昇降機に掴まってカルディトーレを駐機状態にさせずに降りてくる。

 

「アルフォンス殿、どうしたんですか?」

 

 アーニィスは紫馬騎士団に挨拶をしながらアルに何のことか問い詰めると、『あちらの騎士団長閣下に昇降機を使った乗り降りを体験してもらおうと思いまして』という返答が返ってきたので、少し間を置いて『どうぞ』と笑いかけた。その反応に、騎士団長は少しぎこちない動きをしながらカルディトーレに近づくと、アーニィスは騎士団長の手を取って綱型結晶筋肉(ストランド・クリスタルティシュー)をしっかりと握って足元を附属している金具に固定するようにアドバイスを送る。

 

「魔力を送り込んでみてください」

 

「うおぉぉぉ!?」

 

 安全確認後に魔力を流すように指示したアーニィスに従った騎士団長の身体は、緩やかな速度で上に引き上げられる。やがて、ガキンという金属音が鳴ると、騎士団長の目の前には操縦席が見えていた。他人の幻晶騎士(シルエットナイト)だが、懐かしい光景についカルディトーレの操縦席に乗った騎士団長は深く息を吐く。

 

「あぁ……。懐かしいなぁ。そうか……また乗れるのか……」

 

 少しばかり鼻声の騎士団長はゆっくりと操縦席から離れると、先ほどの手順に従って再び魔力を流す。今度は先ほどとは逆にゆっくりと地上に向かって綱型結晶筋肉(ストランド・クリスタルティシュー)が伸びていき、最終的に地面まで綱型結晶筋肉(ストランド・クリスタルティシュー)が垂れ下がると和やかな笑みでアーニィスに『素晴らしい体験をありがとう』と握手を求めた。

 

「いえ、閣下にご満足いただけて何よりです」

 

「アルフォンス殿も……ありがとう。これでまだまだこの国のために戦えるよ」

 

「いえ、僕は幻晶騎士(シルエットナイト)を皆に乗りやすいように改造しただけです。それに、フロイド君はこの技術を代価にしても安いぐらいだと思っています」

 

 またしても勝手に値段が吊り上がっていくことに当の本人は呆けていたが、すでにヨーハンソンの出発準備も整っていたのでフロイドは半ば技術と引き換えに連れ去られた。

 

***

 

 ヨーハンソンがリテイラー領から一気にデュフォールへと帰還。そこで『戦闘用飛空船(レビテートシップ)の運用』という命から解放されたアルは、アルヴァンズや国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)騎操鍛冶師(ナイトスミス)達と別れた後にツェンドリンブルの荷馬車(キャリッジ)に乗り込み、そのままライヒアラに帰還する運びとなった。

 ちなみにフロイドのカルディトーレは既に荷馬車(キャリッジ)が満員だったことから、エルが持ってきていた丸っこい変な機体に申し訳ない程度にくっついている手足にカルディトーレのサブアームを掴ませ、イカルガから魔力と固定用の魔法術式(スクリプト)を遠隔で流すことで一体化。現在、ふわふわと空を飛行している。

 その有様にフロイドは『僕の機体が……』と異形の物を見るような目をし、対するアルは『もうちょっとスマートにして追加装備(オプションワークス)化出来ないかな』と新たなる改造計画を練っていた。

 

「──というわけで銀鳳騎士団に素敵な仲間が増えますよ!」

 

「いや、僕の了解取ってませんよね!」

 

 アルの発言と同時に荷馬車(キャリッジ)にアンブロシウスとエムリスの拍手の音が響く中、フロイドだけがツッコミをいれる。アルに半ば拉致されてから飛空船(レビテートシップ)でリテイラー領を去り、『飛空船(レビテートシップ)の戦闘力が分かった』とのことで任務から解放されたアルがフロイドを荷馬車(キャリッジ)に詰め込むまで、アルはフロイドに了解を一切取っていなかったのだ。

 

 その様子にエムリスが『その意気だ! 銀鳳騎士団ではその姿勢が大事だぞ!』という謎の助言を入れ、アンブロシウスがアルに『あれだけ機体を動かせたら扱いには困らぬな』と会話するというカオスな荷馬車(キャリッジ)内にフロイドはひたすら困惑する。

 

「フロイド君の了解とは言っても、既にカーノル伯爵とは話を付けましたよ? 宝剣の代価としてフロイド君を銀鳳騎士団に入れるって」

 

「宝剣?」

 

 聞き覚えのない言葉に聞き返したフロイドに、アルは『まぁ嘘なんでしょうけど』と付け加えながら、クロケの森でフロイドから奪った剣について伯爵と話したことを説明しだした。すると、言葉を重ねるごとにフロイドの顔が怒りを通り越して呆れに変わっていき、最終的にフロイドを銀鳳騎士団に入れるという話になったところで『暴言を理由に解雇してください』と言った後にアルのことを馬鹿と言い張った。

 

「いやぁ、馬鹿は無いでしょ。一応僕も考えてのことなんですよ」

 

「父上のことだから後で手紙でも送ってきて銀鳳騎士団についての情報を調査するように言ってくるはずです! ……いえ、実はそう指示されたんです」

 

 アルが周囲に『馬鹿はないですよね?』と問いかけるが、残念なことに王族2人はフロイドと同意見のようで小さく首を左右に振る様子にアルはがっくりと肩を落とす。そんな様子に未だに事の重大さに気づいていないと思ったフロイドは、先ほどカーノルに下された指示をあっさりとバラした。

 

 内側からの銀鳳騎士団の擁する幻晶騎士(シルエットナイト)技術の調査と報告。それがフロイドは先ほどカーノルと2人っきりになった際に指示されたことだった。そんな、フロイドの実感の籠った言葉に、『あー、やっぱりそうでしたか』とアルはやっぱりというような反応を返した。

 そんな、まるで分っていたかのような反応にフロイドはたじろいでいると、アルは『教師時代によくあったんですよね』と人差し指を立てながら講義の体勢を取る。

 

「良いですか? 僕達、銀鳳騎士団の理念は新しい幻晶騎士(シルエットナイト)の開発にあります。そして、その奉仕先は王家です。さらにいえば、ラボもこの国の研究機関。つまり、僕達の存在をひたすら無視してもらえれば新技術を伴った幻晶騎士(シルエットナイト)が作られるんですよ」

 

「アルフォンス。そうはいうが、おぬしらの騎士団は色々と規格外の幻晶騎士(シルエットナイト)や技術を生み出しておるではないか。それに興味をそそられるなと言うのは酷ではないかの?」

 

 銀鳳騎士団の在り方と国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)との関係性を含めた説明にアンブロシウスの指摘が飛ぶ。彼らにとってエルとアルが『失敗作』と呼ぶもの。例え、それが幻晶騎士(シルエットナイト)の発展に全くといって良いほど繋がらない駄作でさえ、『銀鳳騎士団が作った物』という色眼鏡を通してみれば十分に興味がそそられる代物なのだ。

 

「それ、一番苦労するの現場の人間じゃないですか」

 

 アンブロシウスの指摘にため息をついたアルが愚痴をこぼす。

 どんなに大きな企業でもミスはする。それを『○○社が作ったから安心! 安全!』と鵜呑みするのはとても危険な行為である。当然、何かしら問題が起こった場合は現場の人間が対応せざるを得なくなる。

 これはエルの受け売りなのだが、何かを組み込もうとする場合は、まずは組み込もうとしている物がどのような影響を及ぼすのか、またはどのようなリスクがあってそれを許容できるのか。それらを確認するのが一番大切なのである。

 

「わーかりました。適当に使えそうな物ピックアップして渡しますよ。ですが、半年に1つづつにしてくださいね。僕だってレパートリー少ないんですから」

 

「そう言いつつポンポン出てくるではないか。アルヴァンズのカルディトーレに施された昇降用の装置とか、ワシも欲しいぐらいだぞ」

 

 わいわいと騒がしくなる荷馬車(キャリッジ)内でフロイドは先ほどのアルの言葉を反芻させる。5男坊なので、いつ見限られてもおかしくはなかった。操縦が上手いだけで魔獣と戦えるように修練する時間も覚悟も足りなかったゆえに、いつ魔獣に返り討ちにあってこの世を去るか分からなかった。

 それらの環境がようやく揃ってきた実感と不都合な契約をさせてしまったアルが、その実ノーダメージでフロイドの身柄をもらったという言葉に、フロイドは揺れる荷馬車(キャリッジ)の中でアルに片膝をついた。

 

「フロイド・リテイラー。これよりアルフォンス様の指揮下に入ります」

 

「もちろんです。行く行くは僕の右腕として頑張って下さい」

 

「は?」

 

 平団員を通り越した右腕発言に、フロイドは開けた口が塞がらなかった。その表情を見たアルは、『多分ですが、近い将来にでも銀鳳騎士団の実働部隊は解散するでしょうね』とアンブロシウスのほうをちらりと見ると、アンブロシウスは『どこで聞いた?』とアルのことを睨みつけた。

 

「いえ、推測です。大西域戦争(ウェスタン・グランドストーム)を生き抜いた騎士団。それはもう精鋭といっても差し支えないでしょう。用兵や組織の運営、戦略眼が育った集団を一つの部隊に纏めるよりも各々を隊長にして配置した方が戦力の底上げになります」

 

 アルの発言にアンブロシウスは脳内で『惜しいな』とアルの推測は僅かに外れているが、良い線まで行っていることにアルの成長を感じていた。

 確かにアンブロシウスや現国王のリオタムスが考えていたのは、銀鳳騎士団の実働部隊を解体することだった。これが、フレメヴィーラ王国を代表するエース集団と銘打つ宣伝ということならエース級のみを集めた騎士団として重用するのもありだが、現在のフレメヴィーラ王国に必要なのは手数である。

 なので、現在の銀鳳騎士団実働部隊を多くて3つ。少なくて2つの騎士団に出来ないかと王家は考えていた。

 ただ、それを全て教えるのでは芸がないと考えたアンブロシウスは、『惜しいとだけ言っておく』とお茶を濁した。

 

「──して、アルフォンスよ。実は、おぬしがこのままフレメヴィーラに帰られるのは非常に困るんじゃよ」

 

「…………え、嫌ですよ」

 

 最初、何を言われたのかわからなかった様子のアルは、たっぷりと時間を取った末に『あ、これまた面倒な案件だ』とようやく理解しながら言葉を発する。フロイドは今まで何を言われても自身の趣味に絡めて驀進していくアルの姿しか見ていなかったので、『この人も断ることあるんだ』と他人事のように意外そうな顔をする。

 そんなやり取りが行われる中、説得はアンブロシウスからエムリスへバトンタッチする。エムリスは『そう言うなよぉ』とやたら軽い言葉を投げかけながら、真剣な面持ちで荷馬車(キャリッジ)からツェンドリンブルへ繋がる伝声管の蓋を慎重に閉じる。この話は未だ銀鳳騎士団には伝えられておらず、特に現在ツェンドリンブルを操作している『彼の妹(アディ)』にはまだ伏せておく事柄であった。

 

「ほら、俺がクシェペルカ王国の大使になるってことでキッドを連れて行くって話したろ? あいつの説得に同席して欲しい」

 

「それ、僕がキッドと一緒に来たら良いんじゃないんですか?」

 

「そう言うなよぉ。俺もフレメヴィーラを離れるんだから色々挨拶に回りてぇんだよぉ」

 

 アルをガクンガクンと揺すりながら思いを吐露するエムリスに、『護衛欲しいだけじゃないですかぁ』と頑なに同行を拒否するアル。帰って早々出張でデュフォールに来た身としては、やっと帰れると普段の3割り増しぐらい元気になっていたところに水を差されたので、アルのやる気は急降下爆撃を行う爆撃機並みに墜ちていた。

 横に居るフロイド(ガーデルマン)も紹介しながら訓練に参加させねばならないので、丁重にお断りしようとしたアルの耳に、エムリスの『なんでもするからさぁ』というフリーパスの言葉が飛び込んできた。

 

「何でもすると?」

 

「お、おう……」

 

「では、フロイド君を近衛騎士団の訓練に参加させてあげてください」

 

「えっ……えっ!?」

 

 なんともいえない圧を感じたエムリスが後ずさる中、アルは近衛騎士団の訓練にフロイドを混ぜるようにお願いする。今までのやり取りを全て他人事だと思っていたフロイドはその言葉に何度も聞き返すような言葉を吐くが、結果は一切変わらなかった。

 

 これにはフロイドが魔獣討伐における操縦技術や気位が足りないことに起因する。銀鳳騎士団でも幻晶騎士(シルエットナイト)の訓練はもちろんするが、フロイドの持つ柔軟な操作技術を銀鳳騎士団一色にしたくないと思ったアルは、事前にこの国の上位レベルである近衛騎士団の訓練を体験してもらおうと考えたのだ。

 

「とりあえず、何でも良いので何かを吸収してきてください。何事も無理と決め付けるのではなく、まずやってみて欲しいです」

 

「りょ、了解しました!」

 

 まるで新人教育に送り出す上司のような笑みを浮かべるアルにフロイドが背筋を正しながら答える。その2人の姿にエムリスは『よし! 護衛役ゲット!』と喜ぶが、横に居たアンブロシウスに『クシェペルカ王国に大使として赴くのだから、それ相応の勉を修めよ』と死刑宣告を受けた。

 

***

 

「──というわけで、僕はこのままカンカネンで殿下の護衛しながらキッドのクシェペルカ王国大使補佐のやり取りに同席するので。帰りはもうちょっと遅くなります」

 

「勝手に仕事取って来て、勝手にどこか行くのやめません?」

 

 そして、急遽荷馬車(キャリッジ)で行われたアルの今後の予定をカンカネンで聞いたエルは、その仕事を捻じ込む癖に対して大いに呆れる。ただ、嫌がりながらも与えられた仕事はきっちりとこなすそのバイタリティの高さもアルの魅力の一つなので、『経過報告もお願いします』と報連相をアルに命じた。

 

「あ、その丸っこい変なのもここに降ろしてください」

 

「いい加減、機体名で呼びません?」

 

 呆れを含んだエルの提案に、『ヤです』とアルは拒否感を露わにした返答をもって切り捨てる。アルにとってはあのような辛うじて四肢があることで人型のような気がする物体を騎士とは言いたくなかった。さらに言えば設計段階で自身も携わっていれば試験目的でもあのような珍妙な物を作らず、例えかなり大型化してでもちゃんとした騎士の姿に仕立てることが出来たのではないかと少しだけ歯がゆい思いをしていた。

 

 ただ、そのようなことをアルが考えていたことなぞつゆ知らず。エルは飛空船(レビテートシップ)の発表の後に超特急で作らせたカンカネンのエアポートへシルフィアーネを背負ったカルディトーレを慎重に降ろす。

 そして、フロイドにカルディトーレのバランスを取ってもらいながらシルフィアーネを分離させ、機体が転がっていかない様に固定すると、イカルガはそのまま空へと舞い上がっていく。

 

「それでは僕達はこれで失礼します」

 

「アルくーん。またねー!」

 

 さっさと帰っていく2人に内心では『我、副団長ぞ? 重要人物ぞ?』と反芻させるが、ここで再度我儘を言っても何も始まらない。キッドが来るまで恐らく1日や2日だろうし、その間はエムリスと同行。帰りはシルフィアーネの乗り心地と改善点を調査しながらキッドやフロイドとゆっくり帰ろうと脳内スケジュールを定めていたアルだったが、エムリスは『じゃあ、これから2週間よろしくな!』と悪魔のような言葉を投げかけてきた。

 

「……Pardon?」

 

「なんだって? まぁ、良い。キッドが来るまで2週間だ。俺だってカンカネンでやることが色々あるんだ。例えば──」

 

 やたらネイティブな発言をしたアルに奇異な視線で返したエムリスは『2週間』というかなり長い期間を拘束する理由を話し出す。そのほとんどは昔馴染みや顔馴染みの商会への挨拶廻りなのだが、その中に『劇場へ芝居を見に行く』という物見遊山的な予定も入っていたので、アルの顔はみるみるうちに渋くなる。

 ただ、その表情を見てアンブロシウスは少しだけ面白そうな表情を浮かべながらアルの肩を叩く。

 

「アルフォンス。おぬしには言っておらなんだが、藍鷹騎士団には様々な部署があっての」

 

「あ、そういうのは良いです「なぁに! 藍鷹騎士団に頼ることもあるかもしれん! 聞いておけ!」」

 

 アンブロシウスの言葉に嫌な予感が頭の中を反復横跳びしていたアルは会話を中断しようとする。しかし、悲しいかな。先代国王からは逃げきれなかった。今にも吹き出しそうな表情を浮かべながら、アンブロシウスはとある劇団が藍鷹騎士団の隠れ蓑になっていることをアルに伝える。

 

「劇団なら大量の馬車が並んでても不思議じゃありませんし、小道具に色々仕込めそうですもんね」

 

 各地へ興行へ行く劇団と馬車は切っても切れない仲である。

 劇の小道具や衣装を始め、日用品や劇団員の私物と馬車による運送が不可欠で、初めは怪しまれようが講演を1つ行ってしまえば警戒心もかなり薄くなるので潜入工作には持って来いの職業である。

 

「藍鷹騎士団はわし等、王族の耳じゃからな。エルネスティがこういったことに無頓着ゆえにおぬしに教えておかねばと思ってな」

 

「えー、それは兄さんに言ってくださいよー」

 

 あくまでも『今後の騎士団運用のため』と話すアンブロシウスにアルが嫌そうな顔をするが、横で聞いていたエムリスは『その理由が建前ではないか』と邪推していた。

 他には『台詞を覚えるのが仕事という演者は口頭での情報の伝達に長けている』や、『移動頻度から流言を流しやすい』といった劇団部署を扱う上の内容を無理やり聞かされたアルは、多少げんなりした様子で本日から世話になる宿──藍鷹騎士団のカンカネン支部の場所をエムリスに教えてもらうと、そのままフロイドと共に宿まで足を運んだ。

 

「うーん、2週間ならばちょちょっとあの丸っこいの改造できますね。一先ず、自立飛行出来て、カルディトーレと合体することで飛行能力を付与できるサポートメカにでもしますか」

 

「何を言ってるんですか?」

 

 宿までの道のり。アルの何気ない一言によって、今後自身に降りかかる受難が大いに予想できたフロイドはひたすら頭を抱える。ただ、何故かいつものような否定的な口癖は出てこなかった。




昇降装置は他に境○戦機のような折りたたみ式の案があったが、動く部分が多数あってメンテナンスに苦労しそうなので、クリスタルティシューの伸縮能力を用いたワイヤーに掴まる形にしました。
 
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