銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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ツェンドルグ 立体化おめでとう!

今回から数話ほど日常回です。


102話

 アルとフロイドがカンカネンに到着してそろそろ1週間が過ぎようとしていた。

 その間にもフロイドは近衛騎士団で訓練に明け暮れてはメキメキと実力を上げている。──なお、フロイドが訓練を開始してから毎日、アンブロシウスがジルバティーガに乗って訓練に参加しているのだが、近衛騎士団の面々もフロイドもアンブロシウスを止めることを半ば諦めていた。

 

 時を同じくし、アルはというとエムリスに付き従いながら挨拶廻りの日々を送っていた。既に全行程の9割以上の商会や個人店舗には挨拶がし終わり、残すは現在エムリス達が赴いている大きな商会のみであった。

 

「エムリス殿下。御身体にお気をつけて」

 

「そちらもな。……おお、そうだ。こいつは銀鳳騎士団の副団長でアルフォンスと言う。今後何かと入用になった時にはこちらにも声がかかると思うが、良しなに頼む」

 

「おお、貴方がかの銀鳳騎士団の……。初めまして」

 

「初めまして。なにかあればよろしくお願いします」

 

 商会の代表である老紳士がアルと握手を交わす。その様子にエムリスは満足そうに頷くと、アルに『行くぞ』と一声かけてから大股で商会の扉から外へ出ていった。

 外を出たエムリスは、内ポケットからよれよれの紙を引っ張り出すと、乱雑に皺を延ばしながら親指の腹に少し唾液を付けてから先ほどの商会の名前が書かれた部分を親指の腹でなぞる。多少の水分によって紙に付着したインクが滲み、文字にもならない黒い線へと変貌する。

 

「食料品はあの商会で……雑貨系はあっちの商会……」

 

「あいつらは紹介込みじゃないと中々大口取引できないからな。入用になったらまずはあいつらに頼むと良い。で、細々した物は昨日とか一昨日に行ったところが得意だ。俺もお忍びでたまに使う」

 

 道を歩きながらメモを取るアルの傍ら、エムリスは挨拶回りをしようと思っていたリストがすべて消えたことに上機嫌になりながら、今まで関わってきた商会についての情報を振り返る。

 実を言うとこの挨拶回りは主にエムリスの用事だが、アルを王族が贔屓にしている商会に顔見せすることも密かに計画として入っている。これは、大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)のように銀鳳騎士団が再び大規模な遠征準備が必要になった際の措置として、リオタムスがエムリスに指示していた。

 

 そこらの行商人や木っ端の商人は情勢によって相手への立場や態度が風見鶏のようによく回り、大口取引も中々満足に出来るものではない。

 ただし、彼ら──貴族や王族と懇意にしている所謂、『御用商人』と呼ばれる者達はその限りではない。口が堅い上に一見の客には相手をしないという誠実性を持ち合わせており、さらに言えばそういった商人や商会は大規模であるゆえに金次第で多少無茶な大口取引も可能なのである。

 なので、銀鳳騎士団が今まで皆で積み上げてきた実績が分かる商会にエムリスというビックネームが紹介すれば、先ほどの老紳士のように大抵の商会とお近づきになれる。

 そうして懐を大きく開け放ってくれた商会は、きっと大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)のように緊急かつ極秘の出立準備があっても心強い味方になってくれるであろう。

 

「最後に例の劇団の所に行ってみるか。そろそろ例の演劇も──やってるな」

 

「銀鳳騎士団物語?」

 

 やがて、商会の名前や場所をメモし終わったアルが首を左右に振って小気味良い音を鳴らしていると、エムリスはカンカネンの劇場の前で足を止める。その劇場に垂れ下った垂れ幕に書かれている騎士団の名前に聞き覚えがありすぎたアルは一旦足を止めるが、エムリスは気にしない様子で懐からチケットを取り出してアルの首根っこを掴んで劇場に連行する。

 

「チケットを確認いたします」

 

「これだ」

 

 順番が回ってきたエムリスがもぎり係の男にチケットを渡す。すると、チケットに書かれていた『本来ならば案内することは滅多にないVIP席の番号』が書かれたチケットに、男はエムリスの顔とチケットを見比べながら徐々に顔を青くする。

 

「……っ!? ……っ! ……よっうこそおいでくださいました!」

 

 男は声にならない声を上げながら上擦った声で他の人物にもぎり係を引き継ぐと席に誘導する。その切り替わりの速さに、アルはまだ演劇も始まっても居ないのに人知れず感動を覚えていた。

 

「ここの劇団。いつもこんななんだよなぁ」

 

「当り前じゃないですか」

 

 案内に従いながらエムリスは少しの不満を漏らすが、『雇い主が来た時の下っ端』の気持ちが痛いほどよく分かるアルにとってその不満はかなり無茶なことを言っていると思ったので、エムリスに反論する。

 カンカネンの城下に常日頃降りてきているアンブロシウスやエムリスは、『市民』には愛称を付けられながら溶け込んでいる。ただ、藍鷹騎士団にとって先の2人は雇い主であり、自身の評価にも繋がる対象である。なので、こういった反応も仕方ないといえば仕方がないのだ。

 

「もうちょっと僕のように人畜無害なマスコットになれるように努力しましょうよ」

 

 胸を張りながら自信満々に言うアルを前に、エムリスはひたすら片手の掌を『ないない』と左右に振っていた。

 

***

 

「クシェペルカ王国の未来は我らの手にかかっている! 皆の者続け!」

 

 男装の麗人の声に後ろに控えている役者の勇ましい鬨の声が上がると場面転換のために一旦幕が下がり、次に幕が開かれ時には十数名の役者がアルの見知った幻晶騎士(シルエットナイト)──『ティラントー』に良く似た被り物を着て壇上の中央で屯していた。役者が1人1人セリフを発していくが、そのセリフを最後まで言い終わる前に、舞台袖から青い幻晶騎士(シルエットナイト)の被り物をした役者が赤と白のカルディトーレの被り物をした役者たちと共にティラントーに突っ込んでいく。

 居並ぶティラントーの群れを1機、また1機と屠りながら進む蒼い鬼神の後ろを赤や白のカルディトーレの集団が押し広げる戦闘シーンは、アルも目をキラキラと光らせるのに十分な熱量を帯びていた。

 

 【フレメヴィーラ王国の特設武装組織である『銀鳳騎士団』が、王からの命令で友好国であるクシェペルカ王国への救援に向かう。しかし、その道中で既にクシェペルカ王国が滅亡していることを知った銀鳳騎士団は、囚われた姫を救うために小人数で敵の居城へ乗り込む。

 その後、銀鳳騎士団に所属しているメンバーの1人である青年が貴族の隠し子であるといったカミングアウト。そして、その青年が王女と恋仲になるという展開があったりしたが、王女という旗印を取り戻したクシェペルカ王国は瀕死の状態から脱する。

 

 しかし、その状況を面白くないとジャロウデク王国は今度こそ息の根を止めようとクシェペルカ王国最後の領地であるミシリエに侵攻を開始する。そこで、ミシリエの森にすむ銀髪の魔女の力を借りることに成功した銀鳳騎士団は、再び迫るジャロウデク王国の魔の手を払いのけることに成功する。

 だが、ジャロウデク王国は最後の手段として古の魔獣であるドレイクを秘術で甦らせた。その強大な力にクシェペルカ王国の旗印である女王が危機に瀕した時、ミシリエの森にすむ魔女の加護が備わった盾を受け取っていた銀鳳騎士団の副団長がドレイクの炎を完全に受け止め、横合いから飛び出した隠し子の青年が放つ槍によってドレイクはついに討ち取られる。

 

 かくしてクシェペルカ王国に平和が戻ってきた】

 

 ──といったように、ストーリーは大よそ『銀鳳騎士団の愉快な仲間達』が西方に騎士団長とイカルガと散歩しに行った状況に沿ってあった。ただ、ティラントーの姿形を筆頭に、キッドやアディの出自といった銀鳳騎士団の限られた人物しか知らない内容だったり、エレオノーラとキッドのことやアルとイサドラのこと等一般人には知りえないことがふんだんに散りばめられていた。

 名前は変えられているのでバレる心配はないだろうが、当事者としては『この台本の元を作ったのは誰だ!』と小一時間問い詰めたい気持ちで一杯だった。

 

「おい、アルフォンス。お前、分裂してないか?」

 

「殿下も気になります?」

 

 演劇を見ていたエムリスの疑問の声にアルも頷く。演劇ではアルの行っていたことが別の誰かが行っていたことになっていたのだ。

 銀鳳騎士団の騎士団長である『エルトリウス』の弟で『アルバート』という人物。これがアルをモデルにしているのだということはエムリスやアルも良く分かった。

 ただ、彼の性格は誠実な騎士の模範のような、少なくともエムリスの目を通してみた彼は『あれがアルフォンスだと思ったら鳥肌が出る』と言われるぐらいの心身ともにイケメンな人物かつ、クシェペルカ王家の血を引くとある王族への対応もスマートかつ後腐れのないような展開に持って行っていたので、アルは『イケメンめ』と件のアルバート君にちょっとした解釈不一致を起こしていた。

 

 それはさておき、アルバートの代わりにアルが実際に行った後ろ暗いこと──具体的な例を挙げればミシリエの戦いにおいて口八丁と罠によってジャロウデク王国軍を撤退に追い込んだ時のような、ある意味では騎士が到底実行しないような戦法をミシリエの森に住む魔女という謎の登場人物が行っていた。

 銀髪の少女という容姿だけで名前は一切呼ばれなかったが、ミシリエにジャロウデク王国の軍が侵攻してきた際、口八丁と召喚によって生み出した眷族を伴って地上のティラントーを潰走させるというシーンがとても印象的であった。だが、彼女にはミシリエの森を離れられないという制約があり、彼女の出番はそこで終了となってしまうがアルバートに加護を与えた盾を渡すことで終盤のドレイクからの炎を受け止める一助となっている。

 どちらの登場人物も『アルを意図したデザイン』にしたことは明白だ。

 

「絶対、この台本書いたの藍鷹騎士団でしょ」

 

「俺は知らんぞ」

 

 王家との繋がりが深い藍鷹騎士団ということでエムリスは即座に自身の擁護に入る。

 やがて、演劇も終わって観客が感想を口にしながら劇場から出て行く最中。舞台袖から1人の男がエムリスとアルの座っている席へ駆けて来た。

 

「お待たせして申し訳ありません」

 

「いや、中々見ごたえのある演劇だったぞ」

 

「嬉しいお言葉ありがとうございます。もしかして、そちらの方は?」

 

 男とエムリスの会話を聞いていたアルに突然お鉢が回ってきたので、アルは自己紹介を行う。すると、男が『ああ、貴方が!』と少しばかりテンションを上げながらアルの手を掴んで上下に振る。エムリスから劇団の人物は全て藍鷹騎士団員という話を聞いていたアルは、その無邪気な反応に少し面を食らいながらもそのまま少し談笑をしたところで『奥へどうぞ』と、エムリスと共に劇場の奥へと通された。

 

***

 

 劇場の奥へ通されたエムリスは、その流れのままクシェペルカ王国に赴いた際の連絡経路や本隊である劇団が公演する町や日付といったスケジュールの確認が行う。その横でアルは何をしていたかというと、劇団員からもらった今回の演劇に使用した台本や、台本を作るうえで使用した銀鳳騎士団物語を黙読しては、時折『僕って多重人格者だったのかぁ』と呆れの声を上げていた。

 

「すみません。何分、書いた者が"こいつだけ手広くやりすぎてるからなぁ"という意見がありまして」

 

 アルの言葉を聞いた男がエムリスとの話を中断し、申し訳なさそうな顔を浮かべながらアルの持っている銀鳳騎士団物語を指差した。その解答に、アルは男の言っている意味が分からないとばかりに首を大きく傾げ、対するエムリスは『なまじ広く浅く出来るから仕方ないか』と納得するという別々の反応を示した。

 

 アルが大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)にて行った所業だが、大きく分けて2つに区分される。

 一つはミシリエの攻防戦で捕虜やクリストバルの亡骸をジャロウデク王国側に捕まるリスクを厭わずに受け渡したり、デュランダルでヴィーヴィルの炎からエレオノーラ達を守ったような騎士や人格者を思わせる一面。

 もう一つはミシリエの攻防戦の最中に行われた口八丁と罠によって地上のティラントーの大群を押し留めたり、演劇にはされていなかったがミシリエを制圧するためにティラントーを遠隔から操ってイカルガに無残に破壊させて戦意を挫く。どちらかと言えば暗殺者や密偵のような一面。

 

 ただ、アルは人間なので別の側面が見えることも仕方のないことなのだが、『主人公の意外な一面』と称してそれらのダーティな側面を付け加えるのはまずい。例えるならば、ボルシチにココアパウダーと味噌をふんだんに加えたり、カレーに『男の子だから強い方が良い』という理由で強力粉をぶちまけるぐらいの惨事である。

 

 さらに言えば、幻晶騎士(シルエットナイト)一辺倒のエルやその他、銀鳳騎士団員の活躍とは違ってかなりジャンルが異なる任務も行っていたアルはもはや1人分としてはあまりある活躍を見せていた。そうなるとアルの行ったことを2人分に分割し、いわば『光のアルフォンス』と『闇のアルフォンス』として動かすのは仕方なかったってやつである。

 

「で、誰なんですか。これを書いた人」

 

「あいつですよ。元デュフォールの宿屋の親父。あいつが書いた物を我々が多少修正して完成させました」

 

「あの人かぁー!」

 

 見知っているどころか、大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)の関係者が書いている。その事実にアルは『やけに具体的な描写だった』と頭を抱える。

 しかし、残念なことに既にこの銀鳳騎士団物語は一部とはいえフレメヴィーラ王国に住む市民の手に渡り、既にストーリーの隙間を縫った部分に様々な考察や推測をねじ込むという所謂、『二次創作』が生まれ始めている。──どこかで聞いたような話だ。

 

「レビテートシップの技術を大っぴらにした以上、ウエスタン・グランドストームの話もしなければならないだろう? こういった流言や民への情報を統制する役目も藍鷹騎士団は担っているから、そこは割り切ってくれ」

 

「言葉と表情を一致させてから言ってください」

 

 アンブロシウスと同じく真面目そうなセリフに反してエムリスの顔が笑っているので、『肖像権とかあったものじゃない』という文句を飲み込んだアルはひたすらもにょっていた。

 ただ、光のアルフォンスもとい、アルバートの役者が長身なイケメンだったのでそこだけは変えてほしいと懇願したが、役者達から『背の関係から無理』という即答を受け取ったアルはそのまま皺を眉間によせ目を細めた某電気ネズミのような表情を浮かべながら背中を丸める。

 そんな残念な思いを体全体で表していたアルに、エムリスとの会話を終えた男が『せめてお土産でも』と銀鳳騎士団物語を数冊ほどアルに手渡す。

 

(別にお土産を貰っても渡す渡さないは僕の自由ですよね)

 

 正直、これをお土産として渡した際の銀鳳騎士団の面々の顔と『何とかできなかったのか!』という文句が降りかかってくる様子が想像できるので、無理に話題に出さないことを心に誓ったアルはエムリスと共に劇場を出ていく。劇場の前には数台の屋台が出ており、それぞれには今回の演劇に参加した役者の絵や小道具をミニチュアにしたファングッズといった物から演劇の台本や銀鳳騎士団物語などが並べられており、それらのアイテムを己が物にしようと老若男女問わず屋台の周囲に集まっていた。

 

「ここでもし、"銀鳳騎士団の副団長が居るぞ"って言ったらどうなるだろうか」

 

「群衆がここに殺到して、現実と銀鳳騎士団物語のギャップに"コレジャナイ"って言われそうですね」

 

 先ほどのイケメン役者と比較したアルは自虐気に答えながら、『良いもん。イサドラ様が居れば良いもん』と屋台の横を通り過ぎる。

 やがて、屋台の横を通り過ぎた2人はいったん立ち止まって挨拶回りに行くリストを再度確認する。『この店はどうだった』や『この商会はこうだった』と感想や何を扱っているかを再確認しながら全てのチェックが終わると、エムリスは『挨拶回り終わり!』と声高に叫んだ。

 

「後1週間あるんですが、どうするんですか?」

 

「結構長めに予定を組んだのが仇になったな。お前は銀の長から受け取ったあれを改造するんだろ?」

 

「そうします。使って良い工房と人員については後で連絡ください」

 

 降って沸いた空白の予定について話した2人はそのまま解散し始める。エムリスについては大通りの影から藍色の布を巻いた男女や劇場から変装した数人の役者が出てきたので、アルは何も言わずに宿への道のりにある劇団の屋台の横を再びすり抜けようとした。

 

「不覚! もう売り切れとは!」

 

 屋台の前に屯している人だかりの中──いや、人だかりの中でもよく分かるような長身の大男から大きな声が響いた。何事かと思ったアルがその人物の長身に思わず『何食ったらあんなにでかくなるんだろ』と感想を漏らしていると、なにやらその大男が店員に身振り手振りをしながら会話。というか、声も背格好と同じように大きいのでアルの耳に入ってきた。

 

「ご主人! この○○劇団版の銀鳳騎士団物語はいつ入荷予定だろうか!」

 

「今はどの筆者職人……職人どころか見習いまで皆、銀鳳騎士団物語を飯に種にしてる有様さ。ほら、ここに書いてるけど速度重視なもんだから誤字脱字も多分に含まれてる。どこもそんな状況だから何時入荷とははっきり言えないよ」

 

 店員の話す事情に大男は納得したのか、『迷惑をおかけした』と謝りながらもすごすごと劇場前から立ち去っていく。そのようなやり取りを見ていたアルだったが、ふと自分が無償でもらった10冊にも及ぶ本の入った袋がやけに重く感じた。重く感じたのなら仕方がないので、少し減らすのに協力してもらおうとアルは小走りで先ほどの大男に近づくと声をかけた。

 

「あのー、良ければ1冊いります? 友人への布教用なので」

 

 咄嗟にでっち上げた嘘を言いながら銀鳳騎士団物語を1冊見せたアルに、大男は幻晶騎士(シルエットナイト)を前にしたエルやアルのような目をしながら見つめ、それを両手で恭しく受け取ると両膝を付いて胸元に惜しい抱いた。

 

「ありがたい! ライヒアラの長期休暇を利用してカンカネンに来た甲斐があった! 礼を言うぞお嬢ちゃん!」

 

「ライヒアラで長期休暇ということは騎操士学園の方ですか?」

 

 ライヒアラに住んでいる関係上、長期休暇が発生しうるのは騎操士学園の生徒ぐらいだと推測したアルが問いかけると、大男は自らを『ゴンゾース・ウトリオ』と名乗ってライヒアラ騎操士学園の高等部と所属を明らかにする。しかし、僅かな期間だが教官を勤めていたアルの頭には中等部にこのような大男が居る記憶が存在しなかった。

 

「高等部ということはさぞや修練を修めた騎士見習いなのでは?」

 

「いや、高等部から入って来たのだ。噂の銀鳳騎士団の副団長が教鞭を執っていると聞いて無理を言ってライヒアラに来てみたのだが、既に退任されたようだ」

 

「ありゃ、それはまた間が悪い」

 

 アルは頭の中で再び教師になろうと軽く考えていたが、ゴンゾースとの雑談を経てその考えをゴミ箱に放り込んでからそっと蓋をすることにした。その蓋を閉じたゴミ箱に『面倒事が増える』と書かれた重しをかけて厳重に封印したアルは、自身がその教師だということが知られていないことを良いことにそのまま何食わぬ顔でゴンゾースと別れることにした。

 

「まぁ、カルディトーレの時とは状況が大きく違うし、教師になることはないだろ」

 

 『後はライヒアラの芝居小屋の物だけだ!』と意気込みながら意気揚々と立ち去るゴンゾースを見送りながら、アルは自らが教師に再び舞い戻るようなことはないと楽観的に思いながら宿へ戻る。ふと、アルの頭に『フラグ』という文字が明暗するのだが、そう考えると実際に起こり得そうなのでそれ以上教師について考えるのを止めた。

 

***

 

 夜も更けた頃。騎士団が運営する宿屋の一室で、アルは部屋に1つだけ存在する机で製図を行いながら机の横に立って報告を行うフロイドの声に耳を傾けた。

 

「本日は移動時の法撃訓練を行いましたが、途中でアンブロシウス先王陛下が、"ジルバティーガが整備中ゆえ、借りてきた"とゴルドリーオにて乱入。小隊に分かれた戦闘訓練に変更となりました」

 

「ほんとあの人は……。で、なにか掴めましたか?」

 

「はい。法撃特化の機体は弾幕の密度こそ素晴らしいものの、接近されると脆い印象を受けました。そのために運用方法としては前衛機に守られながらの運用。撤退時はいち早く撤退をしなければならないので、部隊の指揮を執る者が騎乗する必要があるかと」

 

 どうやら近衛騎士団で様々な経験をさせてもらっているらしく、既に自身の幻晶騎士(シルエットナイト)運用論を展開するフロイドにアルは無言でうなずく。ただ、アンブロシウスの名前が毎日出て来ることに『あの人はひょっとして暇なのか』とかなり無礼な考えが過ったが、とりあえずフロイドが心身ともに成長していく様を嬉しく思うことにした。

 

「それで、言い渡しておいた宿題はやりましたか?」

 

「はい。こちらをどうぞ」

 

 アルはフロイドから手渡された様々な図形が書かれた紙を受け取る。

 これはフロイドが訓練に行く前にアルが作成したもので、どのような魔法術式(スクリプト)なのかを読み取る問題が書かれていた。昼休みにでも取り組んだのか、全ての問題に答えが書かれていることにフロイドの熱意を感じ取ったアルはその解答に○や×といった印をつけ、×印が書かれたところには後で復習しやすいように赤いインクで注釈を書くという『赤ペン方式』で採点していく。

 

「今回は結構難しめにしたのですが、大まかには合ってますね。ただ、問3は左腕ではなくて右腕の関節です。問8は胸部の装甲ではなく、背中の装甲です」

 

「あー、パーツが違ってましたか」

 

「パーツごとの見分けはこの前やりましたし、単純なミスですね。ですが、僕が確認したい部分はしっかり抑えられているのでこの調子で頑張ってください」

 

 図形が異なれば当然魔法術式(スクリプト)の意味合いも変わってくるので、そこを指摘しながらアルは解説を行っていく。ただ、今回は腕や脚といったパーツ単位ではなく、『関節』や『どこの装甲』といった細かい区分で問題を出したので、そこをちゃんと抑えられているフロイドはやはり磨けば光る逸材だとアルは確信していた。

 答案をフロイドに返却したアルは、フロイド同じく床に座り込んでからカルディトーレの図面を見せた。

 

「さて、次は開発についての耐性を付けていきましょうか」

 

「あー、あれですか」

 

 アルの言葉にフロイドは少しだけモチベーションが低下する。これは銀鳳騎士団──というか、主にエルが行う突拍子もない開発に尻込みしないように、具体的には今までエルやアルが開発してきた様々な物から『何をしたかったのか』と想像力を働かせる訓練である。

 ただ、フロイドからすれば『銀鳳騎士団の考えなんてわかるわけないだろ』という質問ばかりで、いまいちノリきれない訓練でもあった。

 

「それでは、カルディトーレに搭載されているバックウェポンは何をしたくて作った物でしょうか」

 

「法撃を撃ちたくて……ではないのですか?」

 

「それだと赤点ですね。正解は"武器を持ち替えずに法撃を撃ちたくて"です。では、この解答を知ったフロイド君は何を提案します?」

 

 0から1を作るのは出来る者は少ないが、0.1や0.2の物を寄り合わせて1として再構築することはコツを掴めば0から1を作るよりも容易い。そのコツである『自分ならばどうするか』という考察を習得してもらうため、アルはフロイドが考えるバックウェポンの代わりになる物を問いかける。

 

「バックウェポンは稼働する部分が多いので整備に手間がかかります。なので、腕にシルエットアームズを取り付けてあげれば腕を動かすだけで狙いが付けることが出来ますが、腕にオプションワークスを装備するのは重量や攻撃を受けた際のリスクが増加すると一昨日あたりに副団長が仰ってましたね」

 

 アルから問われた質問についてフロイドは少しだけ悩んだがスラスラと答える。前腕部に魔導兵装(シルエットアームズ)を備え付ける手法はアルのパッチワークやストライカーといった幻晶騎士(シルエットナイト)幻晶甲冑(シルエットギア)に利用されている。

 だが、その情報はフロイドには教えていないので、腕に魔導兵装(シルエットアームズ)を追加するといった考えはフロイドが独自に考え付いたものだ。その考えにアルは『良く考え付いた』と心からの称賛を送る。

 

 その後は頭部兵装だったり、綱型結晶筋肉(ストランド・クリスタルティシュー)だったりと様々な開発物を作ろうとした理由の考察やフロイドが考える改善案を聞いたり、逆にアルが意見を言ったりといったディスカッションを深夜になろうとする頃まで続けた。

 

「では、あの球体を手直しする設計図でも見てもらいましょうか。ちょうど描けましたし」

 

 そう言ってアルが机からエルが持って来たシルフィアーネの外見が書かれた絵を持ってきてフロイドに見せつけた。アルとフロイドがカンカネンに宿泊してから今までは先のディスカッションで終わっていたので、寝ようとしていたフロイドは勢いよくアルの方に首を向けた。

 すると、アルの目がキラッキラッ輝いており、その目の奥から『今夜は寝かさないゾ☆』と無言の圧がフロイドの足を絡めとる。その圧に負けたフロイドが床に座り直すと、アルはさらに嬉しそうな表情を浮かべながらシルフィアーネの改造案を話し出した。

 

「まずは申し訳なさそうにくっ付いている両手を可動式の翼にしましょう」

 

「最初から何を言っているのか分からないです!」

 

 アルの発言に想像力を鍛えたはずのフロイドから泣きの声が入る。その声にアルは『こうするんですよー』とカルディトーレの腕の絵を描き、その横にジャンボジェットのような翼を描く。翼の下部には推進用に大きな魔導大気推進器(マギウスエアスラスタ)を備え、見るからに力強く動きそうな印象をフロイドに与える。

 

「発着時はこの翼を垂直にして真下にマギウスエアスラスタを吹かせることで、多少エーテライトの消耗を抑え込むことが可能かと。後は胸部装甲付近にカルディトーレのサブアームと合体できるような接続機構を取り付けて、カルディトーレを空に飛ばせるようにするのも良いかもしれませんね」

 

 幻晶騎士(シルエットナイト)を飛ばすという案にフロイドは開いた口が塞がらなかった。ただし、フロイドにはここ1週間のアルの講習によって幻晶騎士(シルエットナイト)や銀鳳騎士団が開発した物といった予備知識が蓄積されている。それらを総動員した結果、まことに残念なことに出来そうなイメージがフロイドの脳内に浮かび上がってきた。

 それどころか、『足をもっと太くしないと地面に降りにくい』と改善案も浮かんできたので、自身が既に銀鳳騎士団に馴染み始めていることに軽く憔悴していた。

 

「あの、このままだと足でバランスを取れないかと……。なので、もっと安定性の良いように脚部を太くするとか……」

 

「そうですね! では、脚部を二本足ではなく、ソリの様な形にしましょうか!」

 

 フロイドの指摘にアルの斜め上の改造案が飛ぶ。両腕が翼になり、脚部すらも無くなった幻晶騎士(シルエットナイト)に、『これは幻晶騎士(シルエットナイト)なのか』という自問自答をするフロイド。だが、アルの方はそんな躊躇いすらなく『じゃあ、翼の上に連射式の魔導兵装(シルエットアームズ)乗せて攻撃能力も持たせましょう』や、『ソリよりもキャタピラつけて丸い某タンクに……』といった改造案を次々と描いては床に散らしていく。

 

 結局のところ、丸っこい胴体に下部に巨大な魔導大気推進器(マギウスエアスラスタ)を取り付けた稼働式の巨大な翼。方向転換用の魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)を全て魔導大気推進器(マギウスエアスラスタ)に変更し、ソリ状の着陸装置をつけた物体が出来上がった。

 

「これで後は工房で作るだけですね。こう……"アートとカルチャーがスクランブルに進化していくカンカネンでシンプルに昔ながらのサポートメカと向き合う"というコンセプトで……」

 

「父上、母上。どうやら僕はシルエットナイトではない何かを開発する手伝いをしたようです」

 

 もはやセッテルンド大陸の言葉なのに、意味が全然分からないことを言いながら上機嫌に机に座り直すアルを余所に、フロイドは窓の外から故郷に居る両親に報告する。

 ただ、この開発に使用された欠点や図面といったデータの一部が、国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)で開発される予定のとある装備群に使われるとは当時の2人は思ってもいなかった。




 今回は原作にも出ていた銀鳳騎士団物語に光を当ててみました。
 自分の解釈として、王家の情報以外に必要以上の情報が民に流れないように藍鷹騎士団がオリジナルを発行。それを見たその他の演出家などがそれぞれオリジナリティを出して二次創作化したのが色んな所に撒かれて一大ジャンルとして取り上げられたのではないかなと。

「騎士道に背く行いは出来ません。光のアルフォンスです」

「正道糞食らえ。搦め手大好きです。闇のアルフォンスです」

結論:どっちも扱いづらそう
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