銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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飛翔騎士開発編_教導の章
103話


 アルとフロイドがカンカネンに帰ってきて2週間どころかそろそろ4週間目に突入しようとしていた。当初の予定では2週間過ぎた頃に来る予定だったキッドと共にライヒアラに帰還しようと思っていたのだが、藍鷹騎士団から『飛行型幻晶騎士(シルエットナイト)のテスト飛行に騎士団長が熱中し過ぎている』という近況報告がアル達に届けられたことでアルの顔は能面のように無表情となった。

 

 今回、キッドを召喚した理由が理由なので、銀鳳騎士団の騎士団長であるエルにはシラフに戻ってもらう必要があると考えたアルは即座にリオタムスに状況を報告。そして、今後の予定が大きく変わるという連絡。そして、銀鳳騎士団に予定の変更を伝えるように相談という社会人の必須スキル(ほう・れん・そう)を行うことで、どうにかキッドとの面談をずらすことに成功した。

 

「良いですか、フロイド君。社会人は1に報告2に報告。3、4も報告で5に報告なんです! 報告をきっちりやって、後に自分の意見を言ってから"どうでしょう?"と相談しとけば大抵上手くいくんです。……ま、うちではどうにもなりませんでしたけどね」

 

 そう言いながら急にやさグレるアル。ここで間違ってはいけないのは『前世の職場(うち)』であって『銀鳳騎士団(うち)』ではないのだが、そんなことを知る由もないフロイドは今後世話になる騎士団に僅かな恐怖心を募らせることになった。

 

 しかし、時間というものは全ての人間に等しく流れていく。一気に期間が2週間ほど伸びた一行は、訓練やシルフィアーネ──近況報告ではまともに動いた2号機に名を奪われた悲しき試作機の改修を施し、勉強の傍らでその試作機に『スクランダー』という名前を付けたりと忙しなく動いていると、あっという間に約束の日がやってきていた。

 

「では、フロイド君はカルディトーレとスクランダーの側で待機しておいてください」

 

「了解しました」

 

 フロイドに指示を出したアルは足早に宿を出るとエムリスに伝えられた集合地点へ急ぐ。大通りから脇道へ入ってから右へ左へ進み、しばらくした所で再び大通りに出てから再び脇道に入る。そんな複雑な道のりを愚直に突き進んだ末、アルはカンカネンの外周部にぽつんと建っている小さな酒場にたどり着いた。

 

 指定された場所であることを確認しながらドアベルの音と共に扉を潜ると、そこそこ繁盛している店内の奥に昨日のゴンゾースと似たような筋骨隆々の大男──エムリスがせっせとパスタの山を切り崩していた。その姿を確認したアルは一定の歩調でエムリスに近づくと、エムリスもアルの接近に気付いて振り返りながら手を振る。

 

「リース兄! 待ったぁ?」

 

「ぶほぇ!」

 

 アルが声をかけたその瞬間。エムリスの頬袋パンパンに詰め込まれたパスタがエムリスの口から飛び出し、それらはすべからくアルの顔面にぶち当たる。その際、パスタソースがアルの眼球に命中し、酒場から『いったぁい! 目がぁぁ!』という絶叫が轟いた。

 

***しばらくお待ちください***

 

「いや、俺も悪かったがな? いきなりその呼び方は止めてくれ」

 

「うっす」

 

 いささか騒がしくなったが、再び落ち着きを取り戻した店内で水気でややしっとりしたアルはエムリスと揃ってパスタをせっせと口に運んでいた。エムリスを『殿下』というのは憚られるのでふと思いついた呼び名だったが、思いの外インパクトが強かったらしくエムリスの文句を右から左に受け流しながら、アルは酒場の扉付近に視線を固定させる。

 すると、ドアベルの音と共にキッドが視線を彷徨わせながら入ってきたので、アルとエムリスは手を振りながらキッドに居場所をアピールする。

 

「よく来たな! お前も食うか? ここは美味いし、量が多くておすすめだぞ」

 

「なんでそんなこと知ってるんですか、でん……若旦那。あと、アルはなんでここに居るんだ? やたらしっとりしてるし」

 

「リース兄って言ったら口の中の物ぶっかけられたんで。後はまぁ……銀鳳騎士団でキッドのこれからのことについて知ってるのは僕だけなので」

 

 適当な料理を注文しながら雑談していたキッドは、アルだけしか知らないという自身のこれからについての話題に一気に緊張が高まる。ただ、アルもエムリスも口の周りにパスタソースがくっついていたので、高まった緊張感は一気に氷点下まで下がっていくのを感じた。

 

「エルもアディも連れてくるなってことは、これからのことについて知らなかったからってことで良いのか?」

 

「それもありますが、アディの場合は絶対キッドが決めたことに干渉するのでダメです。本当ならば、僕も干渉するから席を外したいところですよ」

 

 おどけて見せるアルだったが、その言葉の節々から自身が悩みながら決めなければならない案件だと察したキッドは生唾を飲み込んだ。今まではエルとアルの後を着いて行った先で様々な体験をしたキッドだが、それらが無くなる今後に少しばかり不安が芽生える。

 

「そう言うな。キッドも不安がっているじゃないか」

 

「こればっかりは性分です。直す気はありませんよ」

 

 キッドの目の前で言い合いする2人だが、キッドが注文した料理がテーブルに並べられたところでエムリスは『食べながら聞いてくれ』と言いながら、今回キッドを呼び出した理由を語る。

 

 それは端的に言えばエムリスが再びクシェペルカ王国に赴くため、キッドにはその供回りとして来いとのことだった。アルから十分に脅しの言葉を受け取っていなければ、恐らくキッドは酒場という公共の場にも関わらずに大声を上げていただろう。それぐらいのインパクトがエムリスの口から出てきたのだ。

 

「来い……なんですか?」

 

「ああ、お前も向こうでは顔が利くだろう。それに、騎士団長補佐ではないか。補佐役としては適任だろう」

 

 抜擢した理由を話すエムリスにキッドの視線はみるみる下がっていくと、ついには机とにらめっこをし始めてしまった。

 たしかにアルぐらいとまではいかないが、エルの補佐役として動いたことはある経験が豊富なキッド。ただ、未だにクシェペルカ王国に住まう『然るお方』に対しての答えを持ち合わせていない彼は返答を詰まらせる。

 

「ちなみにキッドには関係ないとは思うが、セラーティ侯爵は二つ返事で認めたぞ。他にもキッド達にセラ……あ、これはまだ構想段階だった。忘れてくれ」

 

「なんですか!? 今の言葉の後切れはぁ!」

 

 根回しの速さに流石王族の1人だと感心していたキッドだが、突然なにやら言いよどむエムリス。そんな反応に嫌な予感が過ったキッドは、店内にも拘らず大声を出してアルに窘められた。

 

「これは……断れない空気ですかね? 少し持ち帰って皆と話し合いたいのですが」

 

「ぶっちゃけ質問とかガンガンして、本当に嫌ならば断っても良いと思いますよ? 突然、期限なしの出張の話を持ってくること自体があれですからね」

 

「おい、俺が悪いのかよ。もちろん、何かあれば相談に乗るぞ?」

 

 緊張ゆえになのか料理に一切手が付けていないキッドに気付いたアルは、エムリスをちらりと睨みながら苦言を呈する。対するエムリスも反論しながらだが、キッドへの手厚いサポートを約束する。そんな『断りやすそうな空気』を感じながら、キッドはひたすら視線をクシェペルカ王国のある方へ向いていた。

 

***

 

 並べられた料理が全て3人の腹に収まり、ようやくアルがライヒアラに帰還する時間となった。

 

「あ、フロイド・リテイラーです。これからよろしくお願いします」

 

「アーキッド・オルターです。よろしくお願いします」

 

 これから騎士団で働く同僚となるのでフロイドとキッドが挨拶を交わす中、アルはスクランダーの操縦席に座り込んで起動準備にかかった。源素浮揚器(エーテリックレビテータ)やエーテル量の目盛りといった見慣れない計器が多いものの、やっていることは小さな飛空船(レビテートシップ)を動かすような感覚なのでアルは特に苦も無く計器を弄繰り回す。

 

「浮きまーす。離れておいてください」

 

 注意勧告をしたアルがスクランダーの両腕に位置する可動式の翼を垂直に動かし、翼の下部に接続された大型の魔導大気推進器(マギウスエアスラスタ)を起動させた。すると、魔導大気推進器(マギウスエアスラスタ)から大量の空気が地面に思い切り吹き付けられる。その風圧に顔を顰めるエムリスやキッドを余所に、アルは注意勧告したときには既にカルディトーレに乗り込んでいたフロイドに声をかけた。

 

「フロイド君、カルディトーレのサブアーム展開準備」

 

「了解です」

 

 フロイドの返事に、アルはそのまま源素浮揚器(エーテリックレビテータ)の出力を最小限にして起動する。突如、ふわりと浮き上がる感覚にアルは懐かしの愛機のことが頭に過ぎる。初めて魔導大気推進器(マギウスエアスラスタ)で地を駆けようとした感覚を思い出しながらも、アルはそのまま魔導大気推進器(マギウスエアスラスタ)源素浮揚器(エーテリックレビテータ)の出力を調整しながらカルディトーレの背中の位置までスクランダーを上昇させる。

 

「カルディトーレ、接続します」

 

 フロイドの声と共にカルディトーレのサブアームがスクランダーの胸部装甲の両端に付けられた専用の金具をしっかりと掴む。その衝撃をスクランダーの操縦席で感じたアルは、フロイドに『魔導演算機(マギウスエンジン)上書き(オーバーロード)を開始します』と報告すると、サブアームを伝ってカルディトーレの魔導演算機(マギウスエンジン)に介入する。

 

「魔法の範囲、オーバーロード! カルディトーレの魔力の経路を変更、スクランダーと共有! サブの操縦権を構築!」

 

 マギウスエンジン内部の魔法術式(スクリプト)を書き替えながら、カルディトーレとスクランダーを一体化させる。また、カルディトーレの操縦者であるフロイドが何らかのアクシデントに見舞われて操縦不能になった場合に備え、遠隔で操縦出来るようにカルディトーレ・トレーナーにも使用されたサブパイロット用の魔法術式(スクリプト)を新たに仕込む。

 

「ちょっと範囲が狭い、修正。スクリプトのエラー、修正」

 

 そして、カルディトーレとスクランダーを動かしながら魔法術式(スクリプト)の微調整を加え、ようやく動作確認が終えたアルは源素浮揚器(エーテリックレビテータ)の出力を徐々に上げるためにスイッチをパチパチと押し上げる。スイッチを入れるごとに源素供給器(エーテルサプライヤー)の出力が上昇し、機体が小さく振動する中でアルが最後のスイッチを押し上げるとスクランダーはさらに宙へ上がる。

 

 当然、接続されたカルディトーレもスクランダーと共に地面から数mほど浮かぶことで周囲の人物を驚かせるが、両腕があった場所に存在する大きな翼のおかげでなんとか恰好がつくが、それでも大きな球体を背負ったカルディトーレの姿はあまりにもダサかった。

 

「アルフォンス! なんか、こう……アレだぞ!」

 

「アレってなんでs、ダセェ!!」

 

 エムリスの一言に激昂しながらアルがスクランダーから飛び出すと、圧縮大気推進(エアロスラスト)を用いながら地上へ降りる。そして、スクランダーを背負ったカルディトーレを見た瞬間、ノータイムでその容姿について罵った。

 

 まず、なんといっても大きな球形のデザインがダサかった。これが幻晶騎士(シルエットナイト)の上半身ぐらいの大きさなら『デカい貯蔵タンクを背負った長距離飛行追加装備(オプションワークス)』と自己暗示を掛けれるのだが、腹部と背部にある魔力転換炉(エーテルリアクタ)に加えて源素浮揚器(エーテリックレビテータ)諸々を積み込んだスクランダーは幻晶騎士(シルエットナイト)1機分ぐらい大きい。

 

「流用しただけですからねぇ。仕立て直しは図面とか話聞くとして……。あ、人余ってるかな」

 

 銀鳳騎士団は非常に優秀でキャラが濃いメンツが揃ってはいるが、慢性的な人手不足である。聞くところによれば飛行型幻晶騎士(シルエットナイト)の他にも作っているとのことなので、アルもそれらのヘルプや新たなタスクに捻じ込まれるかもしれない。そんなことを想像していると、横でその呟きを聞いていたエムリスが『資料作って国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)にでも頼め』と丸投げを提案する。

 

「それもそうですね。オプションワークスについてですし。じゃあ、そこら辺の調整お願いします」

 

「あっ! ちょ、待て!」

 

 言いたいことだけ言ったアルは、エムリスが反論する前にエアロスラストであっという間にスクランダーに乗り込む。キッドの方も既にツェンドリンブルに乗っているので、エムリスは『この国で最後にやる仕事が増えた』と肩を落としながらまるでアル達を追い払うかのように手を動かした。

 

「では、行きましょうか」

 

「……ああ」

 

 やっと家に帰れるとウキウキ気分のアルと違い、キッドは何やら思い詰めたような声色の返事を放つ。そんなキッドの反応に、スクランダーの翼を地面と平行にしながら大型魔導大気推進器(マギウスエアスラスタ)の出力を強めたアルは『家に帰るのは明日かなぁ』とつぶやいた。

 ライヒアラの方向に向け、勢いよく宙を征くカルディトーレ(+α)をツェンドリンブルも追いかける。その操縦席ではキッドが、エムリスやアルから言われたことを反芻させながらクシェペルカ王国──具体的には少し前に別れた人物に思いを馳せていた。

 

 だが、キッドがそんなことを考えたのも束の間。街道がガラガラだったことも手伝って、ものの数時間にも満たない時間で一行はライヒアラに帰ってきた。ライヒアラの城壁から何人もの人がカルディトーレとストランダーを『またあの騎士団か』と珍獣を発見したかのように指差すが、遠いことからよく見えなかった3人はそのまま銀鳳騎士団の活動拠点であるオルヴェシウス砦へ向かった。

 

「フロイド君、多分まだ君の生活拠点の用意が整ってないと思うので、しばらくはオルヴェシウス砦で生活してください。夜勤の中隊が居るので寂しくはないと思います」

 

「分かりました。……、副団長。前方から何かが飛んできます」

 

「あー、あれがうちの騎士団長で銀鳳騎士団随一の気狂いです。……? もう1機は知りませんね」

 

 砦の全容が見えてくると、突然オルヴェシウス砦から蒼い幻晶騎士(シルエットナイト)と緑の異形の存在が宙を駆けるカルディトーレ目掛けて高速で飛来する。

 幻晶騎士(シルエットナイト)が空を飛ぶという現象に未だに慣れないフロイドがアルに声をかけるが、見慣れた機体と共に飛んでくる半人半魚の存在にアルは首を傾げる。ただ、オルヴェシウス砦から出てきたところから友軍機だと判断したアルはスクランダーの両翼周辺の外装硬化(ハードスキン)を若干強くかけ直しながら翼を逆方向に向け始めた。

 

「うおっと……。やっぱり飛行中の変形はバランス取るの難しいですね」

 

「アバババ!」

 

 地面と平行状態だった翼が一度垂直になったことで風の影響をダイレクトに受けて大きくバランスを崩す。

 これが仮に前世だった場合、アルとフロイドはそのまま地面の染みになるのだが、源素浮揚器(エーテリックレビテータ)が発生させている浮揚力場(レビテートフィールド)に支えられたおかげで墜落はしなかった。ただ、カルディトーレとスクランダーに少なくない衝撃が発生したため、アルは顔面を強かに打ち、フロイドは顔を真っ青にさせながら口を必死に抑えていた。

 

「なにやってるんですか」

 

「んー、以前よりは多少可愛くなったけど……まだ無理! 頭にもう1個ボール置いてみたら可愛くなるかも」

 

 そんな時、エルとアディの声が響き、カルディトーレ達の正面にイカルガと奇妙な幻晶騎士(シルエットナイト)がそれぞれ停止した。相変わらず魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)を器用に操って滞空するイカルガと違って、スクランダーと同じように浮揚力場(レビテートフィールド)を用いたような浮かび方をする機体。アルは即座にその正体に気付くと、『アディ、そっちの制動はどうなんですか?』と聞こえてきた声の持ち主に質問した。

 

「え? シーちゃんはこう―……ぎゅっぎゅって浮かび上がったら、マギウスジェットスラスタをばびゅんって動かして、旋回する時はぐるぅんって──」

 

「分からないので、実際に動かしてください」

 

 相変わらずの擬音マシマシの解説だったので、アルは実際に動かすように頼むとアディは『そんなに分かり辛いかなぁ』と独り言を口にしながら『シーちゃん』と名付けていたそれを動かし始めた。魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)から轟音と共に炎を吐き出しながら機体を前に進ませる。

 やがて、ある程度イカルガ達から距離を取ったシーちゃんは体をくねらせながらゆっくりと方向転換を行い、元の位置まで上半身に備わっている両手を振りながら戻ってくる。そこには不安定さを覚えるようなガタつきは一切なく、空を悠々と泳ぐ半人半魚の存在にアルは『あれだけスマートに出来るならこれもなんとかなるか』とスクランダーの操縦席を見渡した。

 

「ふぅーふぅーふぅー。シルフィアーネの姿に興味津々の様子ですが、まだお仕事は終わってませんよ」

 

「あー、やっぱりこれが1号機扱いなんですね」

 

 エルは、懐かしの地球を破壊できるほどの爆弾を平然と出す青狸と同じような笑い方をしながらイカルガの指でオルヴェシウス砦を指差す。どうやら、『まずは降りて話をしようや』とのことらしい。

 その合図に『了解』と返したアルはイカルガとシーちゃん──シルフィアーネにいつでも介助してもらえるように頼みながら、ゆっくりと源素浮揚器(エーテリックレビテータ)の出力を下げつつ両翼を稼働させる。垂直にすることで風をダイレクトに受けた両翼は、制動帆(エアブレーキ)のように機体の速度を緩める。

 

「こうして見ると、動作面に関しては案外悪くないですね。動作面だけは!」

 

 あえてスクランダーを見ない様にしながらエルは、アルが改造した飛行用追加装備(オプションワークス)について脳内で総評を始める。

 外見については手を加えていないことから時間が無かった。もしくは、調査でバラした後に動かなくなるのを防ぎたかったのか分からないがそのままなので割愛。しかし、性能面では途中で墜落もしていないし、バランスも割と安定傾向なことから、『急造品にしては中々』とエルはスクランダーに良さげ印象を持った。

 また、追加装備(オプションワークス)で飛行能力を付与させる発想についても、飛行型幻晶騎士(シルエットナイト)を作ろうとしたエルとは別の角度からの試みである。このままいけば陸戦型の幻晶騎士(シルエットナイト)も空を飛べるようになる展開が予想できたエルは、にこやかな笑みを浮かべながらどのようにダーヴィドか国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)に説明しようかとした矢先──。

 

 またしても1陣の強風が着陸態勢に入ろうとしているカルディトーレ達に襲い掛かる。

 だが、アルの飛空船(レビテートシップ)転落事件やアディの空中独楽回り事件という経験から、カルディトーレが何時落ちても救助が出来るようにスタンバイしていたエルがイカルガに命を降す。機体を支えようとイカルガがカルディトーレに近づくが、そのちょうど同じタイミングでアルの方も強風に対する制御を行っていた。

 

「なんとぉぉ!」

 

 気合の声と共に操縦桿から特定の魔導大気推進器(マギウスエアスラスタ)の出力を上げながら噴射させる。風で煽られた場合のカウンターとして行ったその操作だったが、咄嗟に操縦を行ったことゆえに数か所ほど出力の配分を間違えたスラスタが存在した。

 すると、少し前のアディが行ったようにスクランダーが独楽のように回転……しなかった。

 

「「あっ」」

 

 金属同士が軽く衝突する音の後、エルとアルの言葉がハモった。地面と垂直となったスクランダーの翼がイカルガの面覆い(バイザー)を強かに打ち据えたのだ。この時、スクランダーの回転も備わったため、破壊力を十二分に増したその一撃はイカルガの面覆い(バイザー)を半壊せしめた。

 

「イカルガってバイザーの奥はそうなってたんですね」

 

 話題を必死に逸らそうと、アルはイカルガの歯をむき出しにしたような意匠の面覆い(バイザー)の奥。まるで、兜を装着した人間の様な意匠の頭部についての感想を言いだした。

 ただ、その話は現在のエルにとっては地雷であったらしく、『戦闘中に面覆い(バイザー)が割れて真の顔が露わになるのが嫌いな男子は居ないでしょう? 戦闘中にやりたかった!』と答えたエルは、イカルガの拳でスクランダーを何度も軽く小突く。

 

「兄さん、事故! 事故だからぁ!」

 

「ええ、分かってます! 分かってるので八つ当たりです!」

 

「き、騎士団長閣下。せめて降りてからうぷっ」

 

 三者三様の反応を示す中、イカルガやシ-ちゃんの介助によってカルディトーレとスクランダーは無事にオルヴェシウス砦の敷地に足を踏み入れた。──ただ1人。徹夜でカルディトーレの拭き掃除を行っていたのだが、当人の名誉のために氏名は伏せておく。

 

***

 

 その後、キッドも帰還したということで銀鳳騎士団の上層部は、長らく使われた形跡のない──というか、イカルガの制作に着手した時の状態の騎士団長室に集まった。

 

「皆さん、軽く掃除しながら報告お願いします」

 

「あ、フロイド君。ここにあるのは全部機密なので、言い触らしたら怖いお兄さん達がピカッてしに来るので注意してください」

 

 使う必要が無くなった重要書類をビリビリに破きながらアルは軽口を言い放ち、元ネタを知っているエルは『サングラスも用意しないとダメですよ』と笑いながら補足し、アディ達は『いつものエチェバルリア語か』とスルーする。フロイドも数週間の共同生活で慣れたのか、『言いませんよ。言っても説明に苦労しますし』と当り前のように答えた。

 

「ところで、アルはカンカネンの用事はどうでした?」

 

「王家御用達の商会と顔繋ぎしてきたので、もし大規模な遠征になっても物資は何とかなります。問題はこれですがね」

 

 片手で親指と人差し指で輪っか、もう片手で親指と人差し指と中指を擦るアルに、エルは『そこらへんは陛下にお任せしますかね』とカンカネンの方向を見つめる。

 

 その後はフロイドを貰ってきた理由やら戦闘型飛空船(レビテートシップ)の状況やら、既に量産体制の整った輸送型飛空船(カーゴシップ)はどうなっているかといった報告を全員に済ませながら掃除を終わらせた全員は、改めて騎士団長室の中で整列する。

 

「改めまして、銀鳳騎士団の騎士団長をやっております。エルネスティ・エチェバルリアと言います。フロイド君、君には副団長補佐という役職を担ってもらいますが、しばらくはアルの言った通りオルヴェシウス砦に泊まって銀鳳騎士団の人となりを見極めてもらいます」

 

「承知しました」

 

 エルの指示にフロイドは姿勢を正しながら元気良く返事をする。その初々しさに、エドガー達は最初こそ『初々しいなぁ』と懐かしい表情を浮かべるが、数秒後には『数か月後には初々しい反応もスレて、完全に俺達の仲間入りするんだろうな』と別の考えが浮上し始めた。

 そんなフロイドの人事が終わり、業務に戻るようにエルが指示を出そうとした矢先、アルが挙手をしながら『シルフィアーネのことですが』と発言する。

 

「兄さんはあの機体をどういった運用にしようと思ってます?」

 

「え、レビテートシップの護衛や哨戒のためだと決めたじゃないですか」

 

 シルフィアーネを作製する前に決めたコンセプトや運用法はアルと共に決めた物から多少しか変わっていない。そこを聞かれるとは思わなかったエルが素っ頓狂な声を上げながら慌てて説明するが、アルは続けて『じゃあカルディトーレと同じく量産型の雛型ってことで良いんですよね?』と確認するような口調で尋ねた。

 

「それであっています。あの子は荒削りなのでラボに仕立て直してもらうこと前提ですが、ゆくゆくは量産する予定ですね」

 

「じゃあ、誰が操縦教えるんですか?」

 

「それは……アディ……が」

 

 最初は元気よくアディの方を見たエルだったが、徐々に言葉に覇気が無くなっていく。アルの言葉を聞いていたフロイド以外の面々も、最初こそアルが何を言っているのかと訝しんでいたがアディの話を聞きながらアディの顔を見た途端、得心がいったかの様な表情に変わった。

 

「エル君! 皆も酷いよ!」

 

「アディちゃん、私にまともなツェンドリンブルの動かし方教えてくれたっけ?」

 

「うっ!」

 

 そんな一同の変わり身の早さにアディが怒るが、ヘルヴィからの一言によって呆気なく床に沈む。その様子を見もせず、アルはシルフィアーネの教導を行える人材として現在集まっている面々を推薦する。

 

 たしかにシルフィアーネは空を飛ぶ性質上からツェンドリンブルよりもはるかに高い操縦技術が必要な機体だ。そして、仮に撃破された場合、陸上ならば大怪我や奇跡的に軽傷で幻晶騎士(シルエットナイト)から引っ張り出されることが多々あるが、空の場合は撃破された後に『適切な行動』を取らないと死亡する可能性が飛躍的に上がる。

 

「たしかに物を作ってそのままポイは明らかに不義理ですね。皆さん、申し訳ありませんがシルフィアーネの訓練をお願いします。量産される機体もシルフィアーネを基に作られる以上、シルフィアーネの習熟を行っていれば大丈夫だと思うので」

 

 そんな教導をアディ一人にやらせるのは明らかに責任が大き過ぎる。アルの疑問を孕んだ指摘からそう思ったエルは全員に命を降し、今までの経験からその程度のことは予想できた面々は大きく返事をする。

 

「ちょっと待ってください! 僕もですか!」

 

 ただ、その返事をしていた面々に加わらなかったフロイドが大きく手を挙げながら異議を唱える。つい先日までカルディトーレを動かしていたフロイドからすれば、いきなり最新鋭ともいえる幻晶騎士(シルエットナイト)──しかも『空を飛ぶ』という新しい概念を持った機体に乗れといった命令は場違い感も甚だしかった。

 

「フロイド君もスクランダーで飛んだじゃないですか。我儘ですねぇ」

 

「それは副団長が操縦したからでしょうがぁ! もうちょっと何とかならないんですかぁ!」

 

 スクランダーのことを引き合いに出しながら、まるでフロイドが我儘を言っているので優しく諭している風を装うアル。慣れたと思ったらそんなことは一切なかったフロイドは両手で頭を押さえつつ、身を捩りながら雄叫びを上げて抗議する。

 

 そんな抗議の声に顎に手を置きながらどうするべきかと考えたエルは、妙案が浮かんだのか『こうしましょう』といきなり声を発した。

 

「フロイド君にはエドガーさん達の教導でシルフィアーネが動かせるようになるかの生徒第1号になってもらいましょう」

 

「それは良いね。こちらは教導役も初めてなんだ。ちゃんと教えられているか確認した方が良い」

 

 シルフィアーネについてちゃんと教導出来ているかの確認として試しにフロイドを教えてみる。そんなエルの提案にディートリヒが賛同した。フロイドも『教えてもらえる環境を作ってくれるのならば』と快諾し、ようやく報告会や指示出しが終わったエルはそのまま解散を宣言する。

 

「あ、騎士団長に最後の報告があります」

 

 『騎士団長』と恭しく言うアルに、エルは解散途中の面々に人払いを頼むと完全に人の気配が無くなるまでじっと待機する。やがて、人が居なくなったことを扉を開けて確認したアルが人払いを済ませたのにも拘らず、『キッドがクシェペルカ王国に行くことになりそうです』と小さく呟いた。

 

「それは……本当ですか?」

 

「ほぼ確定事項です。断っても良いということですが、それをするにしても代役は必要となります。クシェペルカ王国の事情も知ってて、王家からの信用も厚い。なおかつ、現在安易に動かせる人材に心当たりはないでしょう?」

 

 アルの報告と人材についての疑問にエルは黙り込んだ。

 幻晶騎士(シルエットナイト)の操縦技術や人当たりの良さを考えてもキッドは銀鳳騎士団に必要な人間である。ただ、必要な人間だからという理由で断るには、代案を用意しなければならない。前にも言ったが、今の銀鳳騎士団にそんな人的余裕が一切ない。──断れる材料は一切ないのであった。

 

「僕らが行けと命令するのは簡単ですが、どうせならばキッドの意思で行ってもらいたいのが僕としての意見です」

 

「そうですね。悔いはないようにしてほしいです。……もし、ここに残るという意思があったらどうします?」

 

「そうなったら僕が代わりに行きますよ。なぁに、あっちでフロイド君に色々叩き込んでこっちに戻せばなんとでもなるはずですよ」

 

 仮にフロイドが聞けばストレスが胃が破壊されそうなことを良いながら笑うアルに、エルは静かに窓の外を見る。工房に帰還するカルディトーレの列を夕日が照らす光景を見ながらエルは意を決したように口を開いた。

 

「キッドには後悔せずに自分の道を行ってほしい。そのためには……キッドの今の考えを聞く必要がありますね」

 

「そうですね」

 

 後悔しっぱなしでこの世界に来た2人にとって、気持ちを押し殺すことはエレオノーラやイサドラといった例外を除いてという枕詞が付くが、極力やって欲しくない行動であった。なので、キッドには今一度何をしたいのか、どうしたいのかを問い詰めなければならない。

 だが、アディをハブってそんなことをすれば、たちまちアディが乱入してくるだろう。はてさて、どうしたものかと悩むエルに、アルは手を打ち鳴らして『お泊り会しましょう』と提案する。

 

「今日にでもお泊り会でもして、僕がキッドの本心を探ります。兄さんはその間、アディの気を引いておいてください」

 

 思い立ったが吉日とばかりに本日を指名するアルだが、この男。カンカネンから一直線にオルヴェシウス砦に向かったので、当然ながら家族の元へ帰っていない。一応、帰るのだろうが1日と待たずにオルタ―家にお泊り会はそろそろ家族全員に怒られそうだとエルが注意するが、アルは『殿下に早めに連絡しないとまずいでしょ』と聞く耳を持たない。

 

「……とはいえ、いきなり押しかけるのはNGです。夕飯時の人数の追加はあちらの家に迷惑をかけます。ここは家でご飯を食べてから手土産を持参してからいきましょう。それがお気遣いの紳士というものです」

 

「オルター家だけじゃなくて、エチェバルリア家の迷惑も考えてくださいよ、お気遣いの紳士。そもそもそのやけに具体的な行動指針はどこ情報ですか」

 

「シットロト踊りがチャームポイントの漫画」

 

 アルのヒントに腰蓑を付けた少年と犬が松明両手にエレク○リカルパレードする風景が浮かんだエルは、『雑食系オタクめ』とひとしきり罵りながら帰り支度を始めた。

 その後、砦の入り口で合流したキッドとアディに今日はオルター家に泊まることを伝えるが、特に怪しまれずに2つ返事で了承が得られた。その言葉により、作戦開始を告げる合図が頭に鳴り響いたエルとアルは、キッド達にばれない様にハンドサインでお互いの武運を祈った。




スクランダーのイメージ(メタセコ引っ張り出して適当に作りましたが、概ねこんなイメージ)

【挿絵表示】



ブルーレイボックスのCM動画を見て、ティンと来たから書いた。後悔はしていない。

 とある日、銀鳳騎士団の拠点であるオルヴェシウス砦に1つの小包が届けられた。
 それを受け取ったアルは宛先や内容物を一読すると、テンションが一気にバクシンすることになった。ただ、小包に書いてある文字がどう見てもセッテルンド大陸の文字ではなかったのだが、この空間は本編とはかけ離れた超次元的な空間である。そのため、特に気にしないことにしたアルは小包を工房の一画で製図を行っているエルの所へ持っていく。

「兄さーん。例の物が届きましたよ」

「とうとう! 来ましたか!」

 エアロスラストによってかっ飛んできたエルは、小包を持ったアルの袖を引きながら工房を出て砦の中へ入っていく。そして、騎士団長室の扉に『重大案件中 入室禁止!』という張り紙をしてから部屋に入ると、コレクション棚に飾ってあるイカルガのプラモデルと共に正座をしながらそわそわと落ち着かない様子でアルを見た。

「ふ、ふふふ。ついに届きましたよ! ナイツ&マジックのブルーレイボックスが!」

「あぁ! 兄さんずるい! 僕にも頬擦りさせてくだ……ふはぁ。このわざとらしい紙箱のかほり……」

 2人は奪い合うようにブルーレイボックスの紙箱を一通り堪能し、名残惜しいがいよいよ開封の儀を執り行うことになった。
 だが、この開封の儀。生半可な取り扱いをしては製作者に失礼なので、代表としてエルが執り行うことになった。まずは五体倒置をもってブルーレイボックスを手掛けるために尽力した人々や原作者様に感謝を表す。
 たっぷりと時間をかけた五体倒置を経て、エルはいよいよ包装を取り外しに掛かった。

「兄さん、カッターはダメですよ! 丁寧に! 丁寧に包装を剥がして記念に取って置くんですから!」

「わ、分かってます! 慎重に……慎重に……イカルガの操縦桿を最初に握った時のように」

 緊張の為か手をプルプルと痙攣させながらもエルはブルーレイボックスの包装を解いていき、ようやく箱が開かれると箱の中から凄まじい『圧』。いや、これはもはや魔力といっても差し支えないほどの力が箱からエル達目掛けて飛んでくる。

「ほ、ほわぁぁ! か、書き下ろし小説がぁ! 僕達の旅路にまた1ページィ!」

「読み物がたくさん……ここが天国っ! シュキィ!」

 顔が極限まで蕩けそうになりながらも2人は一心不乱に読み物を確認していく。ロボットにはスペック表、小説やアニメには設定資料集が必須と思っている2人にとって、この箱は文字通り宝箱といっても差し支えない内容だった。
 ただ、このブルーレイボックス。まだ真の実力を発揮していなかった。次にエルがボックスから取り出した超ワイドなジャケット絵に2人の興奮は止まらない。むしろ、加速する! 

「ふ、ふひゃああああ! 戦場に立つ銀鳳騎士団の機体! なんとぉ、なんと……ふつくしい!」

「はぁ~……っっはぁぁぁ! シュキィ……」

 テンションがまだまだ上がるエルに、もはやオーバーヒート寸前の脳から出た熱気を口から逃がし始めるアル。これ以上は実は持たないと彼らは自覚しているが、それでもブルーレイボックスの中から特典を引っ張り出す手を止めない。
 DVDやサウンドトラックの数々を引っ張り出し、それらの色が銀鳳騎士団のシルエットナイトの機体色と同じであることに歓喜の声を上げた2人は、早速DVDで一気見を始める。

「兄さんって僕が居ないとマジもんのバーサーカーですよね」

「二次創作キャラの癖に君は裏方のパッとしないキャラですもんね。アサシン君」

『あ"!?』

 多少の入れ違いはあったが、無事に視聴を終わった2人はそのままベッドに直行し、特典の読み物を回し読みしながらサウンドトラックの音色に導かれるように就寝する。

(あれ、途中からイカルガのプラモが自動的に動いてなかった?)

 まるで映画鑑賞をするかのようにポップコーンの箱を持ったり、読み物に集中するかのようにページを開いた先をじっと見つめるイカルガのプラモの姿があったのだが、アルは『こんな世界だからプラモぐらい動くだろう』と特に気にせずに就寝した。
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