銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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毎度のことながらご確認を

・女性主人公(アズ)/地上ルート。
・体験版(4話)までを一応予定。
・幕間は不定期に更新予定。
・原作と内容や戦闘の流れの一部が変わっているので、ご注意を。
・未購入の人には序盤のネタバレになります。
・皆もスパロボ。買おう。

以上の注意点に気をつけてご覧ください。

 今回は大湊~伊豆の道中となります。(あんな巨大戦艦が青森-伊豆間なんてメシ準備する前にいけるやろという疑問を持ったので、慣熟航行してたのではないかという独自設定が付け加えられてます。
 まぁ、銀鳳の副団長自体独自設定の塊ですし へーきへーき


幕間(スパロボ1.5話)

***改造計画とシミュレーション***

 

 ドライストレーガーは長距離航行での修練を積むため、日本の領海ぎりぎりまで航行していた。

 

「うーん、ひとまずバラしますか」

 

「そうだな。魔法で映像を出力すると言われても俺にはさっぱりだ」

 

 ドライストレーガーの格納庫の一角で、メカニックチーフのジークンとアルが床で胡坐をかきながら悩んでいた。その彼らを同じメカニックの仲間達が遠巻きに観察し、彼らの傍らで駐機状態を取っているパッチワークと彼らの表情を見比べながらなにやらこそこそと話をしていた。

 

「どうしたの? チーフ」

 

「どうしたもこうしたも……整備マニュアル自体存在しないらしい。後、改造しようにもあの機体にもOSの概念がないからただ頭部をくっ付けても中まで手を入れないと画面が映らないらしい」

 

 男性メカニックの返答に女性メカニックは『はぁ!?』と声を荒げた。

 地球連邦軍の機体はジェガンやイチナナ式といった量産機からマジンガーZやガンダム系統といったワンオフの機体まで整備マニュアルという物が存在する。メカニックは最初はそれに従ってメンテを行いつつその機体の理解度を深めていき、パイロットと共に改造という段階に踏み出すのが定石である。

 

 だが、このパッチワークは地球連邦軍のデータベースに最近新たに登録された幻晶騎士(シルエットナイト)という種別の機体だ。なので通常の整備や修理するためのマニュアルも一切存在しないので、メカニックを束ねるチーフという役職を拝命しているジークンでもお手当て状態なのである。

 

「もう、ジェガンのOS積み込んじまうか? 電子部品突っ込める余剰スペースあるよな?」

 

「操縦席の後ろに広めのスペースあるので積み込んじゃいましょうか。ついでに視野の拡大も出来ます?」

 

「任せとけ。センサー類も組み込めばいけるはずだ」

 

 全て魔力という物で動いていた魔導兵器に電子部品を積み込むというキメラ化の提案に、アルは否定する素振りすら見せずに快諾する。こうして、魔力によって眼球水晶に映った景色を投影する幻像投影機(ホロモニター)は綺麗に取り外され、新たに第30士官学校の格納庫に教材用として転がっていた『EWACジェガン』という偵察用モビルスーツの頭部が、機体の各所にはセンサーが取り付けられることとなった。

 

「あと、シルエットアームズとかいう魔法の杖頼りじゃ不具合があった時に怖くないか? イチナナ式のマシンガンなら補充も補給も楽だし、予備として持たせるか?」

 

「そうですね。一応近接戦闘用のマシンガンのような杖はあるんですが、魔力の節約のためにイチナナ式のを使わせてもらいます。このサブアームに2丁と……腰に2丁マウントさせてください」

 

「分かった。腕部にも諸々のケーブルを配線しとく」

 

 幻像投影機(ホロモニター)の取り外し作業中にジークンが武器について問いかけてきたので、サブアームを動かしながらアルは答える。

 本来ならパッチワークの腕部に増設された連射式魔導兵装(シルエットアームズ)や、ナンブといった手持ち式の連射式魔導兵装(シルエットアームズ)があるのだが、魔導兵装(シルエットアームズ)の欠点として『魔力を用いること』が挙げられる。魔力は幻晶騎士(シルエットナイト)の燃料にもなっているので、撃ちすぎると機体に支障が出てしまうという理由からアルは実弾兵装への切り替えを申し出た。

 

 だが、あまりにもパッチワーク本体が防御特化。兵装も中・遠距離仕様なので、ジークンは『近接戦闘苦手なのか?』と聞くが、アルは『うちの国に出てくる害獣って基本攻撃食らったら死ぬレベルなので』と少しだけ遠い目をする。

 幻晶騎士(シルエットナイト)1機でようやく相手できる決闘級と属される魔獣でも、例え一撃食らってしまったら即死。もしくは行動不能に陥ってしまうこともフレメヴィーラ王国では『あるある』の範疇だ。なので、騎士達が近接攻撃を行うのはベテランか、小隊で連携時、もしくは法撃で十分に弱らせてからと新兵が安易に近づかないのが鉄則である。

 

「魔法の実演の時も思ったけど、異世界って変わってんなぁ」

 

 大湊を発って2日目に『魔法という概念の説明』のためのプレゼンが行われた際、航行中ゆえに一部のメンバーに限定されたがドライストレーガーの乗員はアルが魔法を使用するところを確認していた。だが、確認をしたところで『魔術演算領域(マギウス・サーキット)』といった異世界人特有の器官でなにやら演算をし、それに魔力を流すことで魔法を発言させるといった説明には技術畑のメイヴィーやラボの面々以外は置いてけぼりを食らっていたのは記憶に新しい。

 

 ただ、この魔法の存在が幻晶騎士(シルエットナイト)の根幹に関わってくるので、ジークンはこうしてアルと会話しながら戦力が整えられないかと苦心していた。──『稼動できる機体が2機しか居ないので開店休業中だから暇つぶしの一環』という気持ちがジークンの心の8割ほど占めているのだが、幸いにしてジークンの本音は誰にも知られていないどころか、ドライストレーガーのメカニック全ての気持ちを代弁していた。

 

「端末どころか、通信はランプの光を使った符丁ぐらいしかないですからねぇ。……っと、メイヴィーさんからなんか来たんで失礼します」

 

 セッテルンド大陸にはまだない端末を手の中で遊ばせていたアルだったが、メイヴィーからの通信が入ってきたのでパッチワークの操縦席から降りながらジークンに報告する。それを聞いた『さっきのことをメイヴィー先輩に報告しておいたから、機体のソフト面はそっちに相談してくれ』という言葉と共にジークンが配線の作業を行いだしたので、アルは格納庫から出るとその足でドライストレーガーのラボを目指した。

 数十mおきに地図や船務科のスタッフに確認を行いながらもアルはラボの扉を開くと、そこには主任であるメイヴィーとヒュッケバイン30のパイロットであるアズがなにやら話し込んでいた。

 

「アル、良い所にきたね。用件とは別なんだけど、アズにパーソナルデータの確認をしてもらう傍らにエースについて講釈を述べていたんだ」

 

「エース? 地球連邦軍にはそんな制度あるんですか?」

 

 エース。本来は最高や最上という意味だが、話の脈絡的にはエースパイロットのことだと思ったアルは自分の考えがメイヴィーと合っているか確認する。

 エースパイロットといえば撃墜王と呼びかえることも出来る言葉である。エースパイロットの有無は戦局に多大な影響を及ぼし、その中でも限られたエースは政治的にも武器となる。マンガやアニメで聞きかじった知識だが、アル自身の思っていたエースという言葉の概要は間違ってなかったらしく、メイヴィーは『よく知ってるね』と機嫌良さげに頷いていた。

 

「私の持論では、パイロットは60機撃墜すると途端に化ける傾向があってね。地球連邦軍でも私と似たような理論が発表されてるのか、機動兵器でも戦闘機でも何でも良いから60機でエースパイロットとして認定しているそうだよ」

 

「へぇー、てっきり5機撃墜とかもっと少ないと思ってました」

 

「昔はそのぐらい少なかったらしいけどね。なんでも、当時のエースパイロットは名声もさることながら給金も跳ね上がるらしくてね。後1機ってところで功績を焦って撃墜されたり、エースになった瞬間に喜んで動きを止めた途端……ズドン! って事故も起こったらしい」

 

 そう言いながらメイヴィーは数十年前の戦闘データをアルに見せて来た。とあるエース候補がネオ・ジオン残党を討伐する任務に就き、エースの認定撃墜数になった途端に喜んだのか、その場で動きを止めたところを後ろから撃墜される。その後、地球連邦軍の艦艇もやられたらしく、このデータは軍の哨戒ポイントに漂流していたその艦艇から吸い出されたデータらしい。

 

「お金を稼ぐのは大事だけど……それはちょっと……」

 

「まぁ、そんなわけだから私としてもちょっと高めのハードルを用意させてもらうよ。アズもエースに興味があったら今後出てくるエースパイロットに話を聞いてみるといい」

 

「はい、そうします。あ、私のデータの不備はなかったです」

 

 手にしたデータが記載されたメモリを手渡したアズはそのままラボを出て行く。相変わらずその妙に壁があるような物言いに、メイヴィーは『じっくりやっていこう』と楽観的な感想を漏らすとアルの方を振り返った。

 

「……で、だ。君のパッチワークのことなんだけど、さっきジークンから武器についての要望を聞いたよ。実弾武器を使うのは良い。ただ、君のパッチワークに武器の管制システムを実装しなければ使えないね」

 

 深く椅子に座りなおしたメイヴィーの話は続く。

 管制システムとは、文字通りコンピュータによって目標に対して行う射撃などの方位や距離を指示する装置のことである。このシステムによってロックオンはもちろんのこと、武器を使用する際の認証確認もこのシステムの中には搭載されている。

 なので、先ほどジークンと話していたイチナナ式のマシンガンをパッチワークが装備する件も現状では引き金は引けはするが、マシンガンの中に搭載されているコンピュータにエラーが生じて発砲は不可能。ただの銃口という握りやすい持ち手がついた鈍器にしかならないのである。

 パイロットの中にはマニュアル操作や武器自体の操作権限を変更することで即座に使用できる人物が居るらしいが、『なんちゃって異世界人』のアルには土台無理な話だ。

 

「そんな顔をしなくても良い。幸い、イチナナ式やジェガンのシステムは同一でね。ジークンに頼めばハード面は少し時間がかかるだろうが、ソフト面は積み込もうとしているOSに入ってるから問題ないさ」

 

 メイヴィーの話に不安になったアルの顔を見たメイヴィーは可笑しげに笑う。

 少しもったいぶった話し方だったが、時間をかければこちらの装備を使えることが分かったアルは表情をぱっと変え、期待した瞳でメイヴィーを見る。しかし、一旦『問題ない』と話を区切ったメイヴィーは、『ただ』という前置きを発すると手元のコンソールからとあるデータを映し出した。

 

「ヒュッケバイン30。これはモビルスーツやマジンガー系統とは異なるパーソナルトルーパーという機体種別でね。当然、搭載している武器の管制システムは異なるんだ」

 

「つまり、アズからフォトンライフルを受け取っても使用できないというわけですね」

 

「そういうこと。武器を喪失した際に即座に補給に戻れないといったリスクはなるべく避けたいが、管制システムを手動で改竄するのは手間でね」

 

「テストも現地で行わなければならないし、不具合は即座にパイロットの命に直結しますし……技術屋としては不確定な物を取り付けたくないですもんね」

 

 素人には首を突っ込みにくいシステムに関しての話だが、それでもついてくるアルにメイヴィーは『話が分かるね』とさらに上機嫌になるとコンソールをものすごい勢いでタイピングしだした。一つの画面にいくつもの画面が立ち上がり、そのそれぞれに異なるロボット。アズの乗機である『ヒュッケバイン30』や甲児の乗機である『イチナナ式』、パーツでしか見たことないが『ジェガン』の写真を始め、様々な武装の写真が映し出されると、メイヴィーは改めてアルの方を振り返って『君はどちらにする?』とアルに問いかけた。

 

「どちらとは?」

 

「これから組み込むOSさ。ジェガンの物なら良いが、ヒュッケバイン30の装備を使いたいなら互換性の問題もあるし、そちらのOSを組み込むべきだ。武装も量産機より強力だしね。ただ、ヒュッケバイン30はブラックボックス化している部分も多いから何が起こるか分からないのが難点かな」

 

 これから組み込むOS。その言葉にアルの喉が鳴った。

 方や何が起こるか分からないが、フォトンライフルやリープ・スラッシャーのような強力な火器のサポートを行えるOS。ロボット好きとして『じゃじゃ馬で扱いにくい機体』というものにロマンは感じるが、アルの中の技術者としての魂が『実証もテストもしてない物をぶっつけ本番? 死にたいの?』とそのロマンと殴り合いをしている。

 

「ちなみに、量産機は何が使えるんですか?」

 

「んー、君が分かるか知らないけど。ジェガンだけでも光線を発射するビームライフルに、光刃を発生させて相手を切り裂くビームサーベル。イチナナ式とは異なるタイプだけどサブマシンガンとか、新しく武装を取り付けるならバルカンポッドとか「ジェガンでおねがいします!」……あ、うん」

 

 先ほどの戦いに『武装が豊富なんですよ!』と宣伝文句を叫ぶスーツ姿の影がロマンをドロップキックで蹴り飛ばしたことにより、パッチワークはジェガンのOSを使用することになった。

 ロボットのアセンブルは機体だけではない。武器の選定もまた醍醐味なのだ。新たなるロマンの風にアルは先ほど映し出された武器の写真やスペックを食い入るように見つめていると、メイヴィーは『そこまで分かってるならシミュレータのデータ取りでもしてもらおうかな?』とアルを椅子に座らせ、なにやら端末を耳に当てだした。

 

「艦長、メイヴィーだよ。アルフォンス君だけど、シミュレーターのモルモット……もとい、パッチワークのデータを作るお手伝いをさせたいんだが? ……うん。……うん。アルフォンス君のスペック次第だけど、30日ぐらいかなぁ。知らんけど! ……はははっ! まぁ、時間はかかるけどこっちも割りと暇だからさ。暇の内にやっておきたいんだよ! ……そう、OK! じゃあまた!」

 

 横で聞いていたアルの顔が真っ青になった。

 これから始まることは端的に表現すると『前世の仕事』である。データを纏め、動作確認し、取り直したデータを元に修正する。そんな地獄の作業がまた始まろうとしていたのだ。

 

(どうせ、不具合があったらテンションがノっている状態でもシミュレータを強制終了させられるんだろなぁ。それはやだなぁ)

 

 『地獄の作業』とは言ったが、アルにとってプログラミングの作業は別に嫌ではない。しかし、『シミュレータでハイになっている所を不具合が見つけたから半ばで強制停止』というフラストレーションがずんずん貯まりそうな作業はいくらパッチワークのシミュレーションデータが出来るといっても進んでやりたくなかった。

 そんな不完全燃焼を何度も味わってたまるかと、アルは『さてと』と言いながら振り返るメイヴィーの背後に回りこみながらラボから脱出しようと一目散に扉に向かう。

 

「駄目じゃないか。逃げちゃ」

 

 アルが扉を開けるよりも早くメイヴィーの手がコンソールを叩く。すると、スライド式のドアがガチリという嫌な音を立てながら硬く閉ざされ、アルはラボの中に閉じ込められた。

 

「戸がね! 開か……ないのっ!」

 

「そりゃ閉じたから開かないさ。艦長から君は仲間と共にここに来たときいたし、仲間もシルエットナイトを持っているんだろう? ならば基礎のパラメータだけでも作っておくのが良いと思うがね」

 

 ラボの扉を開閉するスイッチを16連射するアルの脇から自らの腕を通したメイヴィーがひょいっとアルは持ち上げる。そして作業スペースにアルを座らせると、メイヴィーは口から彼を説得するような言葉を垂れ流すが、シミュレーションのデータ作りに必要そうな設計書データの山をアルの目の前にある画面に次々と移動させていった。

 

「こっちが機体の運動性能のパラメータ。こっちが操縦席のホログラムを担当する関数。数は多いが、スムーズに行けば…………日付が変更する頃には終わるだろう。それまでに私は似たような機体のデータを流用しておくことにするよ」

 

「うぇい……」

 

 ちなみに現在午前11時。昼前である。メイヴィーも作業を手伝ってくれるのは嬉しいが、子供の身体に8時間以上の労働はアルにとって過酷な旅路であった。しかも、『予想以上にやれる』ということが知られたアルは、いつの間にかシミュレーションのデータ以外にもドライストレーガーで運用する様々なプログラムの開発に捻じ込まれるようになっていく。捻じ込まれることが確定した時、アルは『技術者あるあるー!』と叫びながら白目を剥いていたが、それを気にする人は誰も居なかった。

 

 そんなラボだが、昼になってもメイヴィーどころかスタッフ全員休憩する様子もなくデータの収集に余念なく働き続け、日付変更ギリギリにようやくぽつぽつと帰りだすほどのブラック環境だったことは言うまでもない。

 

「メイヴィー主任。残業を工数に入れるのは止めて欲しいって言いましたよね? 子供を残業させるって何を考えてるんですか!」

 

「いや、アルがすっごい慣れてる調子だったし、実際すごい役に立ってたからつい……。ああ、明日もこっちを手伝ってくれると「手伝いません!」あ……うん。分かったよ。随分進んだからこっちでやっておく」

 

「あ、アルコルが点いたり消えたりしてる……。綺麗だなぁ」

 

 その後、見回りに来たミツバがエナジードリンクと栄養ドリンクの缶の山の中で『メイヴィーさん! この処理イケてなくないですか!? イケイケのマブい処理じゃないですか!』と叫ぶアルを発見したのが、もうすぐ朝日が差すような時間だった。

 

 

***お茶会***

 

 ドライストレーガーが大湊を発って数日が過ぎた。何事なく領海に達した艦は『南原コネクション』という所からとある機体とパイロット達を招集するべく、進路を伊豆に向けていた。

 

「え、お茶会?」

 

 メイヴィーから頼まれていたパッチワークのシミュレーションモデルを確認していたアルに、アズがまさかのお茶会の誘いを振ってきた。詳しく聞くと、どうやらミツバが数日ドライストレーガーに乗った感想やアル達の話を聞きたいらしく、次の休憩時間にミツバの私室に集合するとのことであった。

 

「お茶会って……少しでも作法が違うと田舎者って笑われたりするんでしょ! 挙句の果てには石の入った手袋を投げられるんでしょ!」

 

「どこでそんな知識身に着けてきたの……」

 

 頓珍漢なことを叫ぶアルにアズは呆れながら問うと、アルは端末の電子書籍のアプリを起動した。その中にはロボット物の漫画や小説が所狭しとあったが、その中にアズでも知ってる妙に歌劇チックな少女漫画の存在もあった。

 

「異世界の人が地球をエンジョイしてる……」

 

「まぁ、冗談は置いといて。女性2人に挟まるお茶会とかやばい匂いが……」

 

「何かあれば艦長が言うし、私も言うから行くよ」

 

 まるでエルフが現代に来て行く先々の出来事をエンジョイしているかのような錯覚に陥ったアズだったが、それでもお茶会を頑なに拒否するアルにじれったくなると、首根っこを掴んで引き摺って行く。

 『艦長の言葉は絶対』のアズと『レイノルド副長が突然人類最強になって、こっちにガイアッッッしそう』と謎の危惧が頭をよぎったアルの力比べは、ちょうど呼びに行こうと思ったのか格納庫の扉を開けたミツバが面白半分に参加したことでアズに軍配が上がった。

 ちなみに、その騒動を艦内のカメラで見ていたレイノルドはボソリと『散歩を拒否する犬みたいだな』と漏らし、艦橋中を笑いの渦に沈めていた。

 

「おかしい。ドライストレーガーのクールなパイロットを意識していたのに」

 

「クール……あれで?」

 

「アル君。人には向き不向きがあるのよ?」

 

 ミツバの私室で席に着いたアルの語りにミツバとアズは呆れた顔をする。ロボを相手にする時はパッションを通り越してもはや『クレイジー』だし、なにかと相手の都合に合わせるその姿勢はクールというよりも『苦労人』である。

 それらの総ツッコミを耳を抑えたことで聞かなかったことにしたアルは、胸ポケットからココアシガレットを1本取り出すと口に含む。どうやらそれで『クール分』を補充しようという企みだったらしいが、アズに睨まれてしまう。

 

「ほんとどこで覚えてきたの。そんな悪いこと」

 

「それより2人共、数日たったけどどうかしら? ここは慣れた?」

 

 これ以上はアズの中にある内なる姉が出てきてしまうので、新たな話題として近況を聞くミツバにアルは『労働基準法についてお話ししたい』と言うが、『それはラボの皆に言って』と責任者としての責務を放棄してくる。その会話にアズも『あそこの人達、いつ寝てるの?』と疑問に思っていることを話したが、あそこで缶詰め状態の際に『ラボの隅に置かれた寝袋に包まっている人間』を見たアルは、前途洋々たる少女に話すことではないと考えて『遅くにやっと帰るんじゃない?』とはぐらかす。

 

「アズは慣れた?」

 

「まだ慣れないです。ですが、皆さんにとっても優しくしてもらってます」

 

 照れながらも少し拙く話すアズの言葉をミツバは嬉しそうに相槌を打つ。船務科のスタッフには前もってアズの評判を聞いていたが、『少し壁を作っているが、それでもこっちへ歩み寄ろうと努力している姿が可愛らしい』とまるで妹のように接しているようで、ミツバは一安心といった調子で紅茶を口に含む。

 

「アズさん良いよなぁ。ことあるごとにメイヴィーさんからスキルプログラムの開発手伝えとか身体検査要求されなくて」

 

「ちゃんと断らない方が悪い」

 

 アズの総評について『もう少し頑張りましょう』と結論付けたミツバは、2人の会話には混ざらずに今度はアルに視線を向ける。

 アルフォンス・エチェバルリア。彼に至っても関係を持った様々な部署からミツバに内評が届いていた。

 

 ラボからは『パイロットじゃなくてこっちによこして欲しい』と言われるほどメイヴィーと話が合い、プログラミングの腕についてアル自身は『ラボで使ってる言語勉強中です』と言っているが、メイヴィー曰く『プログラミングの骨子を知っている様な勉強法を実施しているから、すぐ使い物になる』と太鼓判を押すほどである。──もちろん、絶対にあげないが。

 

 船務科でもふらりと手伝いに来てはいろいろ手助けをして帰っていくという姿が度々報告されていた。

 中でも食堂にはよく出入りをしており、とある料理が下手なスタッフが料理当番となった際にふらりと現れて朝に具だくさんのスープを寸動鍋3つ拵えたかと思うと、夜中に余ったスープにカレー粉を入れてカレーにするといった『面倒くさがりの大学生のような料理活用法』でスタッフを助けたのはドライストレーガー内でも有名な話である。

 ドライストレーガーが発った大湊が青森県と近いことから、一部では『ドライストレーガーに迷い込んだ座敷童の類なのではないか』という噂が立っているが、メカニックを束ねるジークンからは『あんな不可思議な機体を持ってくる座敷童が居るわけない』と噂を強く否定している。

 

 格納庫でもイチナナ式の修理を手伝ったり、ヒュッケバイン30の脚部装甲にしがみ付いて頬ずりしている所をアズに見られて変質者を見るような目を向けられながら拳骨されたりと、割と和気あいあいとした様子らしく。ミツバが想っている以上に馴染みすぎている目の前の転生者兼転位者に、ミツバは『諍いが無いなら良いか』と現状維持に徹した。

 

「そういえば、なんでアルはこの艦に乗ったの?」

 

 聞きたかったことを聞き終わり、ミツバ本人も本格的にお茶会を楽しもうとしていた時、アズがアルにドライストレーガーに乗った理由を聞いていた。その理由に対して事情聴取の際に話した経緯をアルが説明するとアズは、兄が居ることに『アルも!?』と強く反応する。だが、最後に今は離れ離れでそれを捜索したいという話をすると、今度は『アルも離れ離れなのね』とかなり落ち込んだような反応を見せた。

 

「込み入った事情がありそうだし、アズには何も聞かないことにする。ただ、会いたい時に会えないのは寂しいことだと思うよ」

 

 そう言いながら注意されたのにも拘らずにアルはココアシガレットを口に含みながら端末を取り出すと、電源を付けることもなくじっと見つめた。

 

 端末が渡された夜。アルは端末のマップ機能で2つの住所を検索していた。

 1つはもはや記憶の断片となってかなりおぼろげだが、会社の住所。幸いなことに端末には道路沿いの風景をパノラマ写真で提供してくれているらしく、記憶に刻み込まれた出社時の道を辿ることは可能だった。

 もう1つは実家の住所だ。高等学校を卒業するまで住んでいたあの場所を忘れるはずもなく、アルは淀みなくフリック機能で住所を入力していった。

 

 しかし、検索結果は両方とも更地。様々な戦乱を経て疎開したのか、それとも元々この地には何もなかったのか分からないが、アルはこの時初めてこの地球が自分が住んでいた地球とは異なる世界だと認識した。

 もしかしたら鞍馬翼は居なくても、両親や会社でお世話になった方々が居るかもしれない。そんな一縷の望みは呆気なく砕かれてしまったアルの目はあの夜だけ潤んでいた。

 

「アル、どうしたの?」

 

「……なんでもない。アズはお兄さん探さないの?」

 

「アルがそういう話してたら……でも……」

 

 どうやら事情がかなり深いらしく、アズは離れ離れの自身の兄を探すことに難色を示す。これ以上はおせっかいを通り越してただの自己満足になりそうなので、アルは両手を上げて降参の意を示しながら『これ以上は何も言いません』と言うと、思惑が伝わったのだろうかアズは『ありがとう』と呟いた。

 

「なので、当面の目標は僕が生き残ることですね。そして、生きる以上お金が必要だからそれを稼ぐためにこの艦に乗った。結構シンプルですね」

 

「まずいわね。現実を直視し過ぎててぐぅの音も出ないわ」

 

 転生に関係することを口走ったらフォローしようとしていたミツバだが、相変わらずの事態の呑み込みとその対応への説明が堂に入っていて軽い笑いが漏れる。そんな中、アズは先ほどのアルの言葉にあった『生き残ること』と『お金を稼ぐこと』について琴線が響いたのか、『お兄ちゃんと同じこと』と呟いた。

 

 しかし、アルは先ほどこれ以上は何も言わないと宣言したので、あえて聞かなかったことにした。その反応を見たミツバも同じような対応をし、改めて楽しいお茶会が実施された。

 

「あー、猫ちゃんってそういう時ありますよね」

 

「そう! 餌を持って行っても餌だけ取って逃げられちゃうの!」

 

「餌係として認識されてるわね」

 

 アズが猫と触れ合えずに四苦八苦する旅の話をアルとミツバが聞いて感想を言い合い──。

 

「貴族に石造りの城壁や建物……本当に中世みたい」

 

「外には人間を捕食対象にする魔獣って、どこの異界の地かしら」

 

「西の諸国は魔獣の存在は半ば伝説の存在らしいですけど、うちの方では現役バリバリですよ」

 

 アルが改めてセッテルンド大陸の文化様式や魔獣の存在について話をし、ミツバとアズがそれをおとぎ話のような世界だと思うと共に、『本当、この世界に馴染んでるな。この異世界人』と言葉には出さないが、目の前の少年に対する順応性の高さに呆れ──。

 

「へぇ、レイノルド副長って先生だったんですか」

 

「確かに艦長や皆より歳が離れてる印象は受けてました」

 

「ええ、色んなことを教えてくれた尊敬する教官よ」

 

 ミツバの士官学校時代の話やレイノルド副長の話をアルとアズが聞き、アズがミツバの年齢を聞きたがったので副産物としてミツバの年齢が21歳ということをアルは取得した。この時代、セクハラはあるのか分からなかったのでアルからは何も聞いていないし、断じて年齢について何も言及しなかった。

 

「それでね……。そろそろ休憩も終わりね。2人共、ありがとう。またお茶会しましょ」

 

「私も楽しかったです」

 

「次はアズが料理に失敗した時の話を詳しく聞きたいです。目玉焼きで黒こげとかどうやるってぇ!」

 

 そんな和気藹々とした空間に電子音が響く。それが聞こえると共にミツバはカップなどを片付けようとするが、アルはそれを手で制してアズと共に片づけを行っていく。

 

 アルにとってもこのお茶会はかなり笑わせてくれる話題が多かった。特に、アズが目玉焼きを失敗する話が面白かったので、アルは失敗する要因について次のお茶会にリクエストするが、顔を赤くしたアズに頭をペシリと叩かれてしまう。

 その暴力にムスッとした顔で文句を言っているという、そんな姉弟──アルの精神年齢を加味すると兄妹だろうか、そんな雰囲気がある2人のやり取りを見ていたミツバがクスクスと笑っていた。

 だが、『とある苦情』を思い出したミツバは出て行こうとするアルを呼び止めた。

 

「ねぇ、アル君? ちょっと私とお話ししない?」

 

「え? さっきお茶会して色々話してたじゃないですか」

 

 お茶会をした直後に会話という謎の行動にアルが首を傾げながら、アルに向かって手を出してきたアズに自身の持っていたカップを預けてミツバの部屋に居残った。

 再び両者は着席。何を話すのか不思議に思ったアルをよそに、ミツバは端末を耳に当てて話し出した。

 

「あ、副長ですか? この前の苦情の対応を行うので、少しお時間をいただきます。……はい、容疑者を確保したので」

 

 『苦情』、『対応』、『容疑者』この3つの単語にアルの脳内に警鐘が鳴り響くが、ミツバは連絡を取りながらも席を立って出入り口を塞ぐ。連絡が終わり、後ろ手で扉を施錠したミツバは耳に当てていた端末を操作し、とある画像ファイルをアルの眼前に見せつけた。

 

「これについてなんだけど」

 

 画像を見たアルは息が詰まる。その画像にはパッチワークの重厚な足の影に隠された『掛布団で出来た巣』だった。恐らくリネン室から持って来たのだろう数枚の掛布団を重ね、すぐに眠れるようにカスタマイズされた巣の画像にアルはついに見つかってしまったことを悟ってしまう。

 

「ちゃんと部屋で寝なさい!」

 

「格納庫でロボを見ながら就寝と起床はロボ好きの悲願なんです!」

 

 その後、ミツバによるお説教とアルによる持論がぶつかり合い、数時間後には格納庫からアルの巣は完全撤去され、今後エルがアルと共に作成した『格納庫に仮設待機所を立てる戦術的メリット』という分厚い資料と共にミツバとレイノルド相手に大立ち周りをするまで、格納庫に巣が作られることはなかった




次回 アル、一時的に鳥になる。

どうでも良いネタ(もし、ランディ主催男だけの決起会にアルが混ざってたら)

「1人で製図をしてたら決起会という名の鑑賞会が行われていた件」

「うぉわ! アル居たの!?」

 ブリーフィングルームで静かに製図をこさえていたアルフォンスだったが、部屋が暗くなったと思えば決起会という名のR-元服ビデオ鑑賞会が始まったので製図した紙を纏めながらプロジェクターに近づく。その存在に気付いたチームラビッツの『ヒタチ・イズル』は驚きながら声を上げるが、アルは指先を自分の唇に当てながら『バレますよ』と小さく警告した。

「お、女の子は見ちゃいけません!」

「すみません。男なんで……よっこいしょっと」

 チームドーベルマンに所属する『パトリック・ホイル』にそう言いながら近くの椅子に座り込むアルにチームラビッツの『アサギ・トシカズ』が『座るのかよ』と冷静にツッコみ、『まぁ今出て行ってもなぁって感じなんで』と歯切れの悪いことを言う。
 そんな見た目少女な男のやけに冷めた態度に、チームドーベルマンのリーダーであり、この上映会の主催者である『ランディ・マクスウエル』はこれ幸いとアルの好みを聞こうとにやけた笑みを浮かべる。

「なぁ、アルフォンス……といったか? お前、好きなタイプは?」

「包容力のあるお姉様。ランディさんとは真逆ですね」

「好きな胸部のサイズは?」

「触らせてくれる人のサイズ」

「求める恋人像は?」

「ロボに興味があるか、僕の趣味に口出ししない人で、僕も尽くすので僕に尽くして欲しい人です」

「ほう、ならばアズっていう女の子かミツバ艦長が好みか?」

「いやぁ、アズは相性は良いんですけどねぇ……包容力もクソもないので。機体改造案見せたら目の前で燃やされました。艦長は……包容力はありそうですが怒ると怖いので、2人とも今はお友達感覚です」

 まるで興味なさげに言う解答がすべからく枯れた発言か二の足を踏みまくってる消極的発言なので、ランディは質問を終えると『つっまんねぇ解答!』と毒づく。
 だが、アルにとってその答えが全てであった。ロボのために学び、ロボのために生き、ロボのために死ぬ狂人と言う名の兄もそうだが、アルも精神年齢上ではもうすぐアラフォーである。ランディのようなフレッシュさはもはや失われたに等しいのだ。
 また、少し前にステファニアから差し出された手を拒んでいるので、それを思い出したアルはポツリと溢すとランディが鼻息を荒くしながらアルにまくし立てて来た。

「お、なんだ!? フラれたのか? 相手は? 何で別れた?」

「それは良いんですが、ブリーフィングルームにカメラあるのご存知でない?」

 そう言いながらアルはブリーフィングルーム最後尾の天井に設置された監視カメラを親指で指し示した。恐らく、ドライストレーガーの艦橋にもこの映像が流れているし、艦長のミツバやリアンなども見ていることだろう。『公開鑑賞会とかレベル高いっすね』と笑いながら部屋を出たアルは、そのまま艦橋にたどり着くと一言、『巻き込まれました! 画質クソ悪かったです!』と正直に報告。その淡白すぎる報告にミツバから『アル君、もしかして女性に興味ない?』と変な誤解を受けた。

 その後、一部の男性陣に対して女性陣からの視線がきつくなったとかならなかったとか。

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