銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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空戦描写難しい
※環境がかなり不安定になってきたので、2週間に1話の可能性が高くなります。


105話

 クロケの森の上空。そこでは複数機による模擬戦が展開されようとしていた。

 一方は銀鳳騎士団が誇る最強の欠陥機と呼び声の高いこの世界で最高峰の幻晶騎士(シルエットナイト)であるイカルガ。それに対し、銀鳳騎士団が開発した最新鋭幻晶騎士(シルエットナイト)であるシルフィアーネが4機とその教導機であるシルフィアーネ・トレーナーが立ち向かう。

 

 騎士団長機単騎と最新鋭幻晶騎士(シルエットナイト)という一般的な騎士団では数に押し潰されそうな戦力差だが、イカルガは愚直に直進しながら背中に配された4本のサブアームを展開すると、それぞれのサブアームに持たせた演習用の魔導兵装(シルエットアームズ)から法撃を開始した。

 

「回避! この後の行動は手筈通りに!」

 

 しかし、法撃をイカルガが放つ直前にシルフィアーネの集団が左右と上方向にそれぞれ別れる。その行動にエルは法撃を中断しようと魔力の流れを止めるが、少し遅かったらしく法弾はシルフィアーネが散開する前の場所──未だイカルガの方向に突き進んでいるシルフィアーネ・トレーナーに飛来する。

 

「ミッシレジャベリン、ファイア」

 

 4つの火球を前にアルは操縦桿の引き金を引く。すると、シルフィアーネ・トレーナーの翼に懸架されたブロック状の物体に開けられた穴の中から、数本の魔導飛槍(ミッシレジャベリン)が炎を吐き出しながら飛び出してきた。

 大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)で使用された物と比較するとかなり縮小化された銀の槍は、アルの誘導に従って火球に向かって突き進んでいく。やがて法弾と魔導飛槍(ミッシレジャベリン)がぶつかると、小規模な爆発と共に少なくない煙が発生した。

 煙による視界不良のためにシルフィアーネ・トレーナーと激突といった有り得そうな事故を防ぐため、エルはイカルガを一旦空中で停止させると周囲を警戒し始める。だが、アルはそういった思いは微塵もなかったらしく、あろうことかその煙を突っ切ってイカルガの少し上に進路を取る形で突っ込んで来た。

 

「フォックススリィー!」

 

 咄嗟のことで動くのが数俊遅れたイカルガに、シルフィアーネ・トレーナーの頭部が火を噴く。頭部兵装による細かな法弾は、イカルガのサブアームに持たせていた模擬戦用の魔導兵装(シルエットアームズ)の内の1本を弾き飛ばすと、そのままシルフィアーネ・トレーナーはイカルガの上をギリギリですり抜けていった。

 

「命中! 今日こそは勝たせてもらいますよぉ!」

 

 風に乗ってきたアルの声が聞こえなくなる。フルコントロールとイカルガの面覆い(バイザー)から流れ込んでくる映像を基に被害状況を確認したエルは、弧を描く様に方向転換を行うシルフィアーネとシルフィアーネ・トレーナーの編隊を見ながら先ほど行われた一連の攻撃を思い返す。

 

 直前に散会したことでエルの虚を突き、その後の魔導飛槍(ミッシレジャベリン)による目暗まし。そこから、本来ならば事故が起こるので、本来ならば動きを止める所を危険行為である煙の中へ吶喊して標的に攻撃し、急速に離脱する。

 本来ならば非常に危険な行為ゆえ、即座に模擬戦を止めて窘めなければならない行動。だが、裏を返せばアルは『それぐらい本気』なのだ。

 

「嬉しいですよ、アル。ここまで本気で来てくれるなんて」

 

 エルの全身に闘志がみなぎり、再度イカルガ内部の魔力の流れを確認。満足いく戦闘機動が行えるように修正を加えていく。その間にもシルフィアーネ・トレーナーのみがイカルガに攻撃を加えようと急接近するが、エルは冷静に死角から攻撃を仕掛けてくる存在が居ないか周囲を確認する。

 

「敵影なし。……となれば、アレですね」

 

 攻撃を仕掛けてくる存在自体が確認できないエルは、まるで知っている戦法かのように一気に上昇すると『シルフィアーネ・トレーナーの背後に隠れたシルフィアーネ諸共』に法弾を振りまいた。

 高度を上げるのに手順が存在するシルフィアーネはその法弾にジグザグに動きながら回避行動を取るが、シルフィアーネよりも巨体なシルフィアーネ・トレーナーは自在に回避行動を取ることが難しく、致命傷になるような部位以外の肩や腕の装甲で受ける。

 

「んなろ! フロイド君、ドッグファイトしますよ! 各機は近接攻撃は難しいと思うので、法撃で対応をお願いします!」

 

「ちょっと! それだとアル君も当たらない!?」

 

「僕諸共で良いです! それでは!」

 

 言いたいだけ言ったアルは即座に源素浮揚器(エーテリックレビテータ)を停止させると両翼を大きく展開し、魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)を吹かせた。

 源素浮揚器(エーテリックレビテータ)には浮揚力場(レビテートフィールド)の出力を上げないと高度を上げられないという制約があるので、シルフィアーネは決まった高度での戦闘には強いがイカルガのように高度を自在に変えられる存在にはてんで弱い。なので、アルは純粋な魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)の推力でイカルガとの格闘戦に臨んだ。

 

「フロイド君! マナ・プールの残量の確認をお願いします! 最悪、死にますよ!」

 

「りょうかいぃぃ!!」

 

 浮揚力場(レビテートフィールド)抜きの純粋な推力によって生まれた凄まじいGの中、フロイドは死にもの狂いで魔力貯蓄量(マナ・プール)の計器を見つめる。

 この状態──仮に『ファイターモード』と呼称しよう。ファイターモード中のシルフィアーネ・トレーナーの欠点は何と言っても『燃費』である。なにせ、魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)はかなりの改修を加えたが、魔導兵装(シルエットアームズ)と比べると魔力を馬鹿食いする装置だ。それを墜落しない様に常時使用するのは、いくら魔力転換炉(エーテルリアクタ)を2つ使用しているシルフィアーネ系統の機体でも、この状態を続けられるのはもって数分が限度である。

 

 さらに言えば、戦闘機などの格闘戦においては『どれだけ相手に無茶な機動を押し付け、相手の持つ運動・位置エネルギーを弱らせるか』が勝負の鍵になる。実質、幻晶騎士(シルエットナイト)数十機分の心臓を宿しているイカルガを相手にそのような根競べは分が悪すぎて降りる勝負だろう。

 だが、空を自由に飛べるイカルガと対等に渡り合うためには同じ土俵に立った超短期決戦しかない。アルはシルフィアーネ・トレーナーに迫ってくるイカルガに照準を合わせた。

 

「鬼神狩りです!」

 

「C'mooooon!」

 

 エルとアルがまるで一騎打ちのように法撃を行いつつ、お互いの機体目掛けて真正面から突っ込む。頭部兵装や魔導兵装(シルエットアームズ)から放たれた法弾の一部は機体の横や上といった見当違いの方向に飛んではエーテルに溶けていくが、大半は正面から向かってきたそれぞれの法弾、またはそれぞれの装甲に衝突し小さな爆炎の華と爆発音を撒き散らしながら消えていく。

 

「フロイド君!」

 

 徐々に近づいてくるイカルガの機影と濃くなっていく弾幕に、アルは操縦桿を思いっきり動かしながらフロイドに叫ぶ。その声にフロイドは慌てながら模擬戦が始まる前に口頭で教えられたとおりにボタンやレバーを押し上げていくと、フロイドの座っている操縦席に備え付けられた幻像投影機(ホロモニター)がシルフィアーネ・トレーナーの後ろの状態を映し出す。

 

 すると、突如幻像投影機(ホロモニター)一杯にイカルガの背部が映った。イカルガはそのままシルフィアーネ・トレーナーから一直線に離れると、エドガーやディートリヒのシルフィアーネから放たれる法弾を魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)を小刻みに動かしながら最小限の動きで避け、再びシルフィアーネ・トレーナーの背中目掛けて突っ込んできた。

 

「回避行動を取ります! 後ろに貼り付けれないように牽制してください!」

 

「ふぬおぉ!」

 

 返事を返すよりも早く、方向転換用の魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)をフルに活かした機動を取るシルフィアーネ・トレーナー。フロイドの身には先ほどとは比べ物にならないGが全ての方向から襲い掛かるが、目の前──というか、シルフィアーネ・トレーナーの後部を映し出した幻像投影機(ホロモニター)からイカルガがものすごい勢いで追いかける姿を捉えた瞬間、先ほどまで泣き叫んでいたフロイドの目は座った。

 別に覚悟を決めたとか、格好の良い感じは全くない。ただ、イカルガがこちらを追いながら法撃を放ち、その法弾が今までシルフィアーネ・トレーナーが居た空間を切り裂いているという別の恐怖が勝ったゆえの行動だった。

 

「フロイド君、目標をセンターに入れてスイッチですよ!」

 

「目標をセンターに入れてスイッチ……目標をセンターにいれてすいっち……もくひょうをせんたーに……」

 

「その意気です!」

 

 うわ言のように同じ言葉だけを反芻させながらイカルガを迎撃するフロイド。多少呂律が回らなくなっているのだが、アルは『迎撃出来ていればそれで良い』と、今まで左右に機体を振って回避行動を取っていたのだが、そこからさらにイカルガを振り切るための急旋回を回避パターンに組み入れる。

 当然、その急激な変化をエルも感じ取り、フロイドの迎撃を掻い潜りながら必中を込めた1発を放とうとしていた手を止めると、シルフィアーネ・トレーナーを追いかけながら周囲の索敵に入る。

 

「……エドガーさん達も高度を変えてきたようですね」

 

 エルの目に幻像投影機(ホロモニター)の隅に映し出された数機のシルフィアーネが映る。しかし、エルはそれらの編隊の距離からただちに影響はないと一旦無視をしようと、シルフィアーネ・トレーナーを追い詰めるためにイカルガの速度を上げ始める。

 

「後ろへの備えは流石ですが。僕には一手足りませんよ!」

 

 エルは称賛の言葉と共に再びイカルガに魔法術式(スクリプト)を流し込む。すると、今まではお遊びだとばかりにイカルガは速度を上げたまま空を縦横無尽に駆け回り始めた。まるで、どこぞの緑色の粒子を撒き散らすロボットの様な縦横無尽ぶりにフロイドは鳴き声を上げながら迎撃するが、法弾は当たる気配が全くない。

 

「あの騎士団長……まじで容赦ないですね。フロイド君法撃中止! 不意を突きます!」

 

 自分が模擬線開始から今までやってきた本気に本気を重ねたような容赦のない戦術を全力で棚に上げながら、アルはさらなる魔法術式(スクリプト)をシルフィアーネ・トレーナーに叩き込む。

 しかし、残念なことにエルはともかくとして、複数の系統の異なる魔法術式(スクリプト)の演算というものはアルにとってかなり神経の使う作業──ぶっちゃけると不得手で、出来ることならばやりたくない作業であった。

 だが、出来ないことを出来ないまま終わらせたくない彼は気合と根性という『日本人魂』をエンチャントすることでなんとか演算を終わらせる。

 その時、イカルガから繰り出される数発の法弾がシルフィアーネ・トレーナーの翼に突き刺さる。被弾により操縦席は大きく振動し、ベルトで固定してもなお強い振動が2人の頭をシェイクするが、負けじとアルは組み上げていた魔法術式(スクリプト)魔導演算機(マギウスエンジン)に叩き込んだ。

 

 その時、イカルガの方からはシルフィアーネ・トレーナーの翼に懸架していた魔導飛槍(ミッシレジャベリン)入りの箱が着弾の衝撃に耐えきれなかったのか翼から離れ、地面に向かって落下を始めたのが見えていた。攻撃手段を1つ奪ったとエルが確信する──だが。

 

「なにか光……マズい!」

 

 墜ちていく箱に繋がっているなにかが光った時、エルの背筋に氷柱が突き立ったような悪寒が襲う。脳裏に走った直感に従ったエルがイカルガの進行方向を大きくずらすと、動作と同タイミングで翼から離れたはずの箱から何本もの魔導飛槍(ミッシレジャベリン)が射出された。

 魔導飛槍(ミッシレジャベリン)はスクリプトが流されていないのかまっすぐ空を駆けると、イカルガのすぐ横──あのまま飛んでいればイカルガの脚部や腕に当たっていただろう場所を通り過ぎると従来のミッシレジャベリンに積まれている自爆コマンドによってバラバラに砕け散りながらクロケの森に落ちていく。

 

「ハハッ、頭部兵装に加えて遠隔操作でだまし討ちが出来るようにしたミサイルポッド。つくづく、僕の。……いや、対人に特化した装備ですね」

 

 魔導飛槍(ミッシレジャベリン)を発射した箱が繋がっている銀線神経(シルバーナーヴ)製の綱により、ちゃっかりとシルフィアーネ・トレーナに装着され直している様子をイカルガの幻像投影機(ホロモニター)を介して見ていたエルは苦笑する。

 いくら模擬戦用に刃先を潰して丸めた布を取り付けた魔導飛槍(ミッシレジャベリン)でも、法弾と比べれば立派な兵器である。それを実の兄に向けて放つというふてぶてしさと、魔獣相手ではまず使わない様な運用思想に則った仕様。間違いなくアルは1本取れれば良いという妥協の心は存在せず、ひたすらエルとイカルガを下しに──下せると確信して向って来ている。

 

「く○がぁぁ! あれも避けるとか動物的な勘ですか! ヤ○ンですか! Zの世界へ帰れ!」

 

「副団長! マナ・プールがそろそろ4割切ります!」

 

 現に今もシルフィアーネ・トレーナーの操縦席ではアルが悲痛な叫びを上げながら悔しがっている所をフロイドの冷淡な報告によってクールダウンしている最中である。

 ただ、避けられた後の話なので非常に恰好の悪いのだが、仮にエルが乗っているのがイカルガではなく、シルフィアーネといったフルコントロール前提の機体ではなかった場合、間違いなく先ほどの攻撃がオールヒットして模擬戦が終了するぐらいにはギリギリのタイミングだった。

 だが、どんなに取り繕ったとしても『攻撃が躱された』ことに変わりはないので、アルは魔導光通信機(マギスグラフ)を点灯させつつ機体を急旋回させる。

 

「これ……で! 最後の攻撃です! フロイド君……は! 耐えてください!」

 

 旋回中に発生する遠心力により、機体全体の装甲がミシミシやメシメシと今にも引き裂かれそうな危なげな悲鳴を鳴らすが、アルとフロイドは身体強化や根性で耐えながら魔導光通信機(マギスグラフ)を頻繁に灯らせる。

 魔力貯蓄量(マナ・プール)的にファイターモードを行うにはここら辺が分水嶺である。これが最後の攻撃になると踏んだアルは、遠くから帰って来る魔導光通信機(マギスグラフ)の返答を見るや否や、一直線に加速する。

 

「さぁ、最後のドッグファイトです!」

 

「来なさ……あるぇ~?」

 

 空中衝突しそうなぐらいの速度で進むシルフィアーネ・トレーナーだが、法撃で撃ち合うようなことはせずにイカルガの横をすり抜けた。そのまま彼方へ飛んでいくシルフィアーネ・トレーナーにエルは口を尖らせながら呆気に取られるが、すぐさまイカルガを反転させると自慢の魔力転換炉(エーテルリアクタ)達をフル稼働しながら追いかける。

 

「副団長! イカルガが来てます! 撃って来てます!」

 

「フロイド君、合図で身体強化とハードスキンの重ねがけを! ……くっそ、あの照準お化け! 狙いが正確過ぎる!」

 

 指示を出しながら機体を回転させることで法弾を避けようとするアルだったが、シルフィアーネ・トレーナーの図体の大きさが仇となって数個の法弾が翼や重要部品が積み込まれている部分に叩きつけられた。イカルガの持つ銃装剣(ソーデッドカノン)に内蔵されたファルコネットならとっくに墜ちているが、今回は一般的に使われている炎の槍(カルバリン)想定なので、墜落にはまだ浅いと操縦桿と鐙を思いっきり押し付けながら叫んだ。

 

「3……2……1……今ぁ!」

 

「がぁっ! ……ググッ……目が痛っ!」

 

 カウントダウン後、シルフィアーネ・トレーナーは機体を大きく広げ、肩口の魔導兵装(シルエットアームズ)から進行方向とは逆向きに風を噴出させる。それらの動きにより、シルフィアーネ・トレーナーは一気に減速。むしろ、重力も加わって下降しながら後ろ向きに進み始めた。

 

「くぁwせdrftgyふじこlp!」

 

 そうくると困るのはシルフィアーネ・トレーナーの後ろに居るエルだ。高速移動中、いきなりシルフィアーネよりも巨体な物体が『後ろ向き』に突進を仕掛けてくる。そんな異常事態で驚かないわけがない。

 咄嗟にインターネットスラングを叫びながらイカルガの魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)を強引に変更することで事なきを得たエルは、先ほどの超高機動で動き回っていた状態(ファイターモード)から元の高度を自在に変えることが不可能な状態に戻ったシルフィアーネ・トレーナーに魔導兵装(シルエットアームズ)の切っ先を向ける。

 

「味方に特攻とは……、これはもうスリーアウトですよ」

 

 死生観が割とバグっているエルだが、度重なる危険行為に頭の中の仏陀がGOサインを出す。逆説的に、1回ぐらいかつ敵に対して自爆特攻を行うならば、例えフロイド君が操縦席に居ても一考の余地があるのがエルらしいのだが、この一言を聞いているイカルガは何も答えずに与えられた指令に従うために魔導兵装(シルエットアームズ)へ魔力を送る。

 魔導兵装(シルエットアームズ)から放たれた法弾は寸分違わずシルフィアーネ・トレーナーの胸部にある操縦席付近に数発着弾し、致命的な一撃を喰らったと判断したシルフィアーネ・トレーナーは両手を挙げながらアディの乗るシルフィアーネの方へ移動を開始した。

 

「さて、後は先輩達!?」

 

 シルフィアーネ・トレーナーの脅威を取り除いたエルが改めて周囲を索敵しようとした所、数発の法撃が通り過ぎる。法撃した下手人を追うと、2機のシルフィアーネがイカルガを挟み込む動きを取っていた。恐らく、アルという大げさな動きを行う餌に釣られたイカルガを仕留める作戦だったのだろうが、少し早目にアルが墜とされたことでタイミングが合わなくなったのだろう。

 

「ですが、ここまで出来たら十分ですね」

 

 操縦席の中で半ば幕引きの言葉を呟いたエルは、イカルガの手にある魔導兵装(シルエットアームズ)をサブアームに掴ませてから短時間では浮かび上がれない程の高度まで浮かび上がる。眼下では、挟み込もうと動いていた2機のシルフィアーネがイカルガの上昇にそれぞれ法撃を行っているが、目の前から来る相方の存在に意識が向いてしまっていた。

 

「これで後は1人……チェックメイトです!」

 

「あら、勝負は最後まで分からないのよ?」

 

 外部から聞こえてくる『声』。すなわち、もう1人の存在がイカルガの近くに居ることに他ならない。

 その声が聞こえてくる方向にイカルガの首を向けると、太陽を背に1機のシルフィアーネが重量を味方に落っこちてきた。

 片手には模擬戦用に塗料をたっぷりと蓄えられた布を巻いた棒、もう片手には魔導兵装(シルエットアームズ)を持っており、その切っ先は既にイカルガに向けられている。

 

「ぐぅっ! 太陽が!」

 

 太陽を背にしたことによって逆光がエルの視界を占領する。その隙にシルフィアーネは撃てる限りの法撃をしてから、すれ違いざまにイカルガの胸部付近に棒を叩きつけた。

 棒から染み出した塗料が横一文字に彩られたイカルガに、エルは『してやられた』と喜びと悔しさが同居したような表情を浮かべつつ、シルフィアーネやシルフィアーネ・トレーナーが集まっている中に入っていった。

 

***

 

 模擬戦が終わり、砦に戻ってきた一行はシルフィアーネやシルフィアーネ・トレーナーが整備されている風景を見ながら休憩を取っていた。先ほどの模擬戦の結果をネタにしながら盛り上がりつつも、挟み込むタイミングや法撃の狙いがずれていたりと改善点を模索し続けるエドガー達の所に、ダーヴィドが手を振りながら笑顔で歩いてきた。

 

「よう、勝ったんだって?」

 

「なんとかね。副団長様様だよ」

 

「そうなると、ラボへ売り込む材料が一つ増えたな。腕選りの小隊でかの鬼神を撃墜判定に出来たってな」

 

「ちょっと待て。それは流石に盛り過ぎだろ? それに、俺達は特に何もしていない。イカルガを惹きつけていたのだって、ディーも言っていたがアルフォンスだ」

 

 ディートリヒの言葉に被せるようにダーヴィドが次に国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)へ赴いた際にこのことを報告しようと脳内書記にメモさせるが、『シルフィアーネの小隊』という盛りに盛った話に待ったをかけた。待ったをかけられたダーヴィドだが、エドガーの話を聞いても『分かってねぇな』と言いながら言葉を続ける。

 

「確かに銀鳳騎士団は陛下に認められたシルエットナイト開発の最前線だ。だがな? いくら陛下のお墨付きであっても空を飛ぶシルエットナイトなんて常識のはるか上空をすっ飛ぶ代物の有用性なんて誰が分かる?」

 

「確かに……そうだな」

 

「なら、説得材料は多い方が良い。それが例え、銀色小僧が無茶やらかしても、フロイドが失神して医務室送りになっても、翼を支える基部がもう少しで空中分解を起こすところまでぶん回してようが、あっちで副団長が大人しく叱られてようが、それはシルフィアーネ・トレーナーの話だ」

 

「あの操縦、やっぱり無理してたんだ」

 

 工房の隅で正座をしながらエルの説教を受けているアルを指差したダーヴィドは、シルフィアーネ・トレーナーの被害をつらつらと答えだした。

 ファイターモードによる高速移動や高速旋回に伴う遠心力や風圧によって、シルフィアーネ・トレーナーの全身は無事な所が無いほど損傷を負っていた。特に予想以上の遠心力がかかった翼はもう少しファイターモードでの戦闘を続けていれば、胴体から翼がサヨナラバイバイする可能性が大いにあり得たらしい。

 

 アルの専用機が須らく無茶をやらかしては壊れていくので、ダーヴィドは『金はいくら積んでも良いから、そろそろ壊れない部材がないかラボに相談するべきか』と一人で勝手に落ち込んでいると、エドガーやディートリヒの視線から話が脱線していることを思い出した。

 

「脱線したが、シルフィアーネは1機も墜ちずにイカルガを仕留めた。俺が言うのはそれだけよ。後は向こうが勝手に勘違いしてくれるだろうよ」

 

「う、うぅん? ……良い……のか? いや、別に性能を脚色していないし……良いんだろうな」

 

「うちのナイトスミス隊長もずいぶん騎士団長閣下に毒されたようで何よりだよ」

 

 何やら丸め込まれていると自覚したエドガー。だが、先ほどからダーヴィドの言っていることは別段、シルフィアーネの性能を誇張している様なことはしていないので、これ以上の問答もダーヴィドの作業時間を奪ってしまうと判断したエドガーは喉の奥に刺さる小骨のような感覚にそっと蓋をした。

 

「おや、皆さん! お見事でした!」

 

 そんな時、エドガー達の雑談にエルが合流してきた。エルの後ろでは首根っこを掴まれたアルがズルズルと引き摺られているが、全員そんなナマモノは居ないとアルの存在を無視する。合流した後も、エルはテンションを上げながら模擬戦の感想をペラペラと述べていたが、ふと『これなら予定通り騎士団規模も教導できそうですね』という言葉を放った。

 

「え、中隊規模では?」

 

「俺も中隊規模だとばかり……」

 

「私もそう聞いた覚えがあるよ」

 

「中隊規模だから銀鳳騎士団の中に新しくできると思ってたけど。違うの?」

 

 エドガー達のみならず、アルも聞いた覚えのない予定に質問すると、エルは『ああ、これまだ皆に説明してなかった』ととんでもないことを言いながら王城でリオタムスに命じられた内容を掻い摘んで話し出す。

 命じられたオーダーはただ一つ。『空戦仕様機(ウィンジーネスタイル)飛空船(レビテートシップ)を扱う騎士団を創設』だった。

 

「ウィンジーネスタイルってなんです? ゴンドラでも動かすんですか?」

 

「シルフィアーネのような空を飛ぶシルエットナイトの種別です。勝手に決めました」

 

 空戦仕様機(ウィンジーネスタイル)について説明されながらも、エルの話は『なぜ騎士団が創設されるという話になったのか』に移っていく。

 なんでも、最初はアル達に聞かされた通り中隊規模の話だった。しかし、かの銀鳳騎士団が空戦仕様機(ウィンジーネスタイル)という従来の幻晶騎士(シルエットナイト)とは別の概念を持った幻晶騎士(シルエットナイト)を作り出し、それを運用する『隊』を作る話がいつの間にか『騎士団』を作る話へと進化してしまったのだ。

 

 これには報告を聞いたリオタムスも『どうしようもならない』と焦燥感を露わにし、断腸の思いでエルに新たな騎士団の創設を命じたのだ。

 

「いやぁ、ついでにラボにもウィンジーネスタイルの増産をねじ込んだんですが、割とあっさり許可されましたよ」

 

「鬼かお前……」

 

 クライアントが困っているのにさらっとお願いするふてぶてしさにダーヴィドは毒づくが、エルは何処吹く風で『そういうことなのでー!』と強引に話題を逸らすと、エドガー達を見据える。その動作にどうにも嫌な予感が拭えない彼らだったが、エルから醸し出される圧にまるで蛇に睨まれた蛙のように足が竦む。

 

「なので、皆さん。所属は違えど、元々は銀鳳騎士団の新人として入るはずだった方達です。皆さんも……手伝っていただけますよね?」

 

 工房内のどこを探しても断れる空気は存在しなかった。黙って頷くエドガー達を前にエルは笑顔を浮かべるが、こっそり工房から出て行こうとするアルをギロリと睨みつけるとアディをけしかけた。

 

「うーん、ステファニア姉さまの言ってた抱き心地は分かるけど……エル君の方が良いかなぁ」

 

 アルを捕獲しながらソムリエのような感想を漏らすアディに何も言えなくなったアルは、『やりません!』と大声で反論する。断る時は、相手に安易な期待させない様にはっきりと。それが前世のエルから学んだ仕事の断り方だ。

 

「駄目です。ライヒアラ騎操士学園の教師と共にウィンジーネスタイルの教官もやってください」

 

「やりま……え、さらっと無茶振りに無茶振りを重ねましたよ? 頭、大丈夫です?」

 

 空戦仕様機(ウィンジーネスタイル)の教官役のみだと思っていたアルだったが、まさかの古巣への再就職指示に思わず暴言が飛び出る。教職をしながら別の所で教官なぞ、ブラックを通り越したデスマーチも同義である。

 テレスターレを組み上げている際には『休め』と言っていたあの優しい兄貴は何処へ行ったのか。アルはさめざめと泣き出し、その様子に周囲も『うちの騎士団長マジヤバくね?』といった空気が流れ始める。

 

「いえ、講師してくれってお爺様とか陛下とかに頼まれたんですって。僕は悪くないですよ!」

 

 だが、そこは栄えある銀鳳騎士団の団長であるエルも『フレメヴィーラ王国』という国の中で言えば中間管理職というわけで……。今回、アルに言ったことも上からの言い分を『自社に帰って検討させていただきます』と持ち帰ってきたわけである。

 

「向こうからのお話では週で1日でも良いらしいですし、教官が出来るという実績からアルしか頼める人が居ないんですよ」

 

 エルのお願いに、アルは『週1ぐらいなら良いか』と安請け合いをしそうになるが、ここでアルの脳裏に邪な考えが浮上する。

 時は遡り、大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)への参戦が決定した頃、アルはフレメヴィーラ騎操士学園の教職を辞職し、学園側もその旨を了解している。──つまりだ。

 

「あのー、試験をもう1回合格する必要とかあったり?」

 

「ありますね。そこらへんは聞いてきました。なんでも、無条件に再び教官は甘すぎるとのことらしく」

 

 エルの返事にアルは心の中でガッツポーズをする。そう、アルが再び学園で教鞭を執るには再度試験をパスする必要があるのだ。銀鳳騎士団が予想以上に名声共に大きくなってしまったので学園側が試験を免除する可能性もあったのだが、そこは比較的世論に流されづらい学園らしい。

 

 なにはともあれ、試験があるのだったら当然『合否』も存在する。わざと落ちてしまえば、『かぁーっ! 墜ちたんなら仕方ないっスねぇ~!』と言っておけば──

 

「あ、アンブロシウス先王陛下から言伝忘れてた。"一発で受かれ"ですって」

 

「oh……」

 

 元国王からは逃げられない。回り込みの速さに年季の違いを見せつけられたアルはそのまま項垂れ、『月月火水木金金♪』と憔悴しきった声色で闇が濃そうな歌詞を歌い始めた。

 

「いくら仕事人間の副団長でも限度がありますよ!」

 

「そうです! この人、無茶を無茶と分かっていない馬鹿なんですよ!」

 

「騎士団長っていつもそうですね! 副団長のことをなんだと思ってるんですか!」

 

「騎士団長は人の心が分からない」

 

「Arrrthurrrrrr!!」

 

 そんなアルの姿に、銀鳳騎士団の面々はすっかりアル側に立っていた。

 それもそうだろう。空戦仕様機(ウィンジーネスタイル)飛空船(レビテートシップ)を主軸とした騎士団の教導という大仕事の片手間に、未来ある若い騎士見習いに教官をしろと来たものだ。

 大よそ副団長に掛ける擁護としては若干不適切な援護射撃や『鬼神! 悪魔! エルネスティ!』という言葉がエルを突き抜ける中、エルはそんな非難中傷を物ともせずにアルに近づいた。

 

「アル。もし、これをやってくれたら……」

 

 『司令殻獣(コマンダーシェルケース)』、『魔力転換炉(エーテルリアクタ)』、『約束』とたった3単語がゴニョリと囁かれた瞬間、アルの脳を急速に覚醒した。アルは、『やります!』と元気な声を出すと瞬く間に工房内にある巣に引き籠ると、中からペンが羊皮紙を擦る音と共に主に高校2~3年生が放つ殺気にも似た雰囲気が漏れ始める。

 

「エル君、なに言ったの?」

 

「あの子をやる気にさせる言葉なんて僕にとっては朝飯前ですよ。……さて、では僕は2~3日ぐらい所用で部屋から出てこないので、フロイド君の教導やラボから送られてくる量産機のあれこれについてのことは数日後にでも」

 

 まるで人を陥れた後の様な邪悪な笑みを浮かべたエルは、そそくさと騎士団長室──1年前に鬼神の心臓を作った部屋へとルンルン気分で駆けだした。

 

***

 

 その数週間後。直感だの閃きだの集中だの愛だのといった様々な思いを盛りに盛ったアルが、ライヒアラ騎操士学園の教員試験をなんの障害もなくパスする。

 中でも幻晶騎士(シルエットナイト)応用論では、大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)で実際に使用された『飛空船(レビテートシップ)を導入したことによる幻晶騎士(シルエットナイト)の運用論の変化』という紙束を提出。異例の『120点』といった結果を叩きだした。

 

「学園から苦情が来てますよ? "さらっと最新技術を纏めた物を試験中に書かないでほしい"って」

 

「教官になるために1発で合格しろと命令されれば、こうもなろう」

 

 何はともあれ、無事に合格したアルはエルと共に家を出るとそれぞれ別の方向へ向かって歩いていく。奇しくも今日は国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)が総力を挙げて作り出したシルフィアーネの量産型、『トゥエディアーネ』が初めて人目に晒される日でもあった。




可変機についてメタセコイアでちまちまとやって上半身あたりができますた。
コクピットがガシャガシャ動く系ではなく、メ○スみたいなコクピット固定型ならワンチャンいけるんじゃないかと

飛行形態

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歩行形態

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