※4/10 反動により、ラストシューティング状態になっているのでお休みを戴きます
紫燕騎士団が無事に脱出訓練を修了してから数週間ほどが経過した。座学もたっぷりと受講した彼らは今日も元気にオルヴェシウス砦の周辺の空域でトゥエディアーネの操縦訓練に勤しんでいる。
そんな訓練の最中。地面に座り込んで休息を取っていた紫燕騎士団員が同じく隣で座っていた同期に声をかけた。
「なぁ。ここ最近、アルフォンス教官見てなくないか?」
その言葉を聞いた同期は首を左右に振って周囲を確認するが、たしかにアルの姿はどこにもない。脱出訓練が終わった後、『初歩の段階で自分が出る幕はない』と訓練をエドガー達に任せていたアルだったが、何かに付けてここに赴いては差し入れや見学を行っていた。
しかし、ここ最近はそれがぱったりと途絶えている。その現状に、ふと雑談をしていた2人の脳裏に嫌なものが走った。
「また、おかしな試験をやるんじゃ……」
「や、やめてくれよ。お前はやらなかったからわからないと思うけど、あれガチで怖いんだぞ」
先のシュレベール城を使用した脱出訓練の卒業試験という事例があるため、『アルが居なくなる = ヤバい』と頭の中で関連付けられてしまった2人は背筋に氷柱が突き立ったように身を震わせる。
ただ、彼らも立派な騎士だ。『もっと練習しとかないとマズい』と言葉をハモらせながら、彼らは少し早いが訓練を再開しようと自分達の愛機の操縦席に飛び乗っていった。
そんな彼らの会話に反し、アルはカンカネンにて紫燕騎士団とは一切関係のないプロジェクトの責任者になっていた。近衛騎士団が所有する工房の1つと近衛騎士団所属の
「アルフォンス君、この意匠どう?」
「いやぁ、目立つから近衛の制式装備っぽくしましょうよ」
近衛騎士団所属の
「……、うーんちょっとずれてますね。スクリプトもうちょっと修正します?」
「やっぱりずれてるよな。スクリプトは直しづらいし、こっちで眼球水晶の位置を調整してみようか」
「お願いします」
変わった形状の
「よし。あとは十分な長さの補強済みシルバーナーヴをあいつらが持ってくるだけだな」
「そうですね」
先にもあった通り、この
さらにこの改修は頭部の一部分しか弄っていないので、使用する
「これで、あの御方のオーダーもなんとかなりそうですね」
「アルフォンス君、シルバーナーヴの繋ぎあわせと補強作業が終わったよ」
「ナイスタイミングです! 皆さん、このまま完成までこぎつけますよ!」
大きな箱を持ってきた若手の
***
紫燕騎士団の訓練が操縦訓練に移行して1週間後。アルは再びシュレベール城へと赴いていた。
ただ、今回はアルが話し合いに来たのではなく、現フレメヴィーラ国王であるリオタムスがアルを召喚。しかも、召喚状を藍鷹騎士団の手によって『アル本人』に渡すというやり取りが為されているため、アルも何の用向きなのか気が気ではなかった。
「アルフォンス・エチェバルリア。参りました」
「うむ。おぬしを呼んだのは少しばかり知恵を貸してもらいたくてな」
謁見の間ではなく、なぜか王族のプライベートルームに通されたことによって内心動揺していたアルに、リオタムスは少しばかり悩む素振りを見せながら今回の用向きを伝えた。ただ、その用向きも『知恵』という不明確な言葉だったので、エルより劣った
エドガーのような品行方正な騎士と比べるとやや不良気味の自分に何が出来るのか。アルは疑問に思っていると、リオタムスは『場所を変えよう』と言いつつ席を立つ。
「そういえば、おぬし。ウエスタン・グランドストームから帰ってきてすぐにデュフォールへ出発していたな」
「はい。なんでも銀鳳騎士団に休暇を与えたとか……自分はもらってませんが」
道すがらの雑談として
先にリオタムスが言った通り、アルはデュフォールで
「うむ。本来ならば代替として休暇を与えようとしていたが……。エルネスティが休暇中に色々やっていたらしくてな。おぬしも休暇中は同じようなことをしそうでな。休みか報奨か迷っておった」
「そんなハチャメチャなこと……しない…………デス。ハイ」
「目を見て話せ。目を」
流石にサロドレアを乗っ取って魔獣討伐はしないが、設計や
「あの、陛下。私の記憶違いでなければこの先は陛下達のお屋敷では? 私がそちらに行くのは問題があるのでは?」
「ん? ……ああ、気にするな。どうせ早いか遅いかの……いや、時にアルフォンスよ。おぬしは医療の心得とかあったりするだろうか?」
言い淀んだと思えばいきなり騎士に医者の真似事が出来るかと問うリオタムス。その挙動不審な行動に加え、呼び出された理由も曖昧なせいで余計に訝しんだアルだったが、何も答えないわけにはいかないので『自分は騎士だと思ってるんですが』と少しだけ呆れを含んだ返答をする。
「う、うむ……。そうだな……すまない」
「どうしました? いつもの陛下らしくないですよ?」
いつものリオタムスなら『分かっておるわ!』と元気良くツッコむ所なのだが、帰ってきたのは何とも覇気のない謝罪だった。その様子に本格的に不信感を抱いたアルがとうとう何のために呼び出したのか聞いてみることにした。
ただ、先ほどリオタムスが言葉の端で言っていた医療に関しての知識を拝借したいということなのだったら、アルの知っている医療知識はせいぜい『ス○ゼロをストローで飲むとキマること』や、『肉が美味くなくなったら本格的にヤバいこと』といったメンタルに関する経験がほとんどなので対して力になれそうもないのは確かだ。
「アルフォンスは、ウーゼルを知っているか?」
「はい、エムリス殿下のお兄様。王位継承一位の御方ですよね?」
ウーゼル・ファルク・フレメヴィーラ。フレメヴィーラ王国第一王子であり、リオタムスが即位した今は皇太子となる人物である。ただ、アルは名前と王族内のどんな位置付けなのかだけ知っているだけで、それ以上のことは全くと言って良いほど知らなかった。
「左様。ただ、やつは身体が弱くてな。療養院と屋敷を行ったり来たりを繰り返している」
「病気の原因を突き止めろという命令をお出しになるのでしたら、僕以外でお願いします」
「先ほどの問いは忘れてくれ。アルフォンスだったらあるいは我らの知らないことを知っておるのではないかと思ってな」
アルの口ぶりから怒っていると思ったリオタムスは慌てて弁解する。アルは確かに
そんな今のアルを聞き触りが良い言葉で飾り立てるならば『万能』──なのだが、その言葉は全ての分野において完璧な成果を出せる人物が受け取るのが正しく、アルのように知識の幅が狭くて成果もまちまちの人間は精々『器用貧乏』の方がしっくり来る。
ちなみにその評価をつけたのはエルで、曰く『アルは今後、カスタムやクゥエル目指しましょう』と言ってアルが『デン○ロビウムが良い』としょげてたのは遠い昔のお話である。
「話を戻すが、ウーゼルが街を見たいと言い出してな。シルエットギアを使えば出来ないかと思ったゆえに、専門家であるおぬしに来てもらった」
「今では鍛冶師でも使用できる簡易版がありますが、あれは元々騎士の訓練用ですから体力使いますよ? ……でもそうか。操作をもっと簡略化して体力がない人でも運用できるようにすれば障がいを持つ人も……いや、でも犯罪が怖いな」
「エルネスティといい、おぬし達の悪い癖だぞ。で、今は無理なのだな?」
「はい。1から設計し直さなければならないので、もし実施するのならラボが適任かと。差し支えなければあとで仕様書でも作成しましょうか?」
「……好きにせよ」
屋敷のドアに手を掛けた辺りでそのようなことを言ってくるアルに、リオタムスは内心『そういう性格が自分の仕事を増やすのに学習しないな。助かるけど』と呆れながらさりげなく出来なかった際の逃げ道を確保してやる。
屋敷の中に入ったリオタムスは廊下を数分程歩き、とある1室の前で静止した。そのまま『ウーゼル。私だ』と扉に声をかけながらノックすると、中から涼やかな声で『どうぞ』という返答が聞こえてくると、リオタムスはドアノブを回して部屋に入る。
「ウーゼル、具合はどうだ?」
「ええ、今日はかなり良いです。……コフッ……コッゴホッ」
ベッドから半身起き上がった男がにこやかな笑みを浮かべながら話し出すが、すぐに口元を抑えると激しく咳き込んでしまう。急激な体調の変化にリオタムスは『ウーゼル!』と叫びながらウーゼルと呼ばれた男に駆け寄るが、ウーゼルは手でリオタムスを制しながらなんとか息を整え、次第に苦しそうな表情から元の笑顔へと戻っていく。
「大丈夫です。それより、後ろに居る方がもしかしてあのイs」
「っ! ああ、急いで連れて来た銀鳳騎士団のアルフォンスという者だ!」
まるで何かを隠してるかのようにリオタムスがウーゼルの言葉に被せてアルを紹介するが、『王族の話は機密が多い』とアルの脳内に潜む小市民が助言を放ってきたので、アルはさほど疑問を持たずに挨拶を行う。すると、やはりアルのことを知っていたのかウーゼルも丁寧な礼と共に自己紹介をし返してきた。
「あの、陛下から殿下が街を見たいと仰られたとかお聞きしましたが」
「それで間違いないよ」
アルの質問に頷いたウーゼルは、自分の願望──健康な人間がごく当たり前に行っている『街を歩き回りたい』という行動をさも長年の夢のように語りだす。なんでも療養院へ向かう最中に一陣の風が1枚の木の葉を運んできた際、運ばれてきた葉がどこから来たのかという単純な疑問から自身の世界の狭さに気付いたらしい。
「ウーゼル……」
「分かっています、私の身体が弱いということは。ですが、知りたいんです。先王陛下や父上……陛下がお作りになったカンカネンの街を見て回りたいんです」
しかしながら今のウーゼルをなんの準備もせずに放り出すと、ものの数秒後には行き倒れるほど儚い存在である。ウーゼルの思いの丈をぶつけられたリオタムスがチラチラとアルの方に視線を送り続ける中、アルは元気が服を着ているような
「アルフォンス、何か手立てはないか?」
「シルエットギアは決して劣った身体能力を補佐する物ではないので、外部から動かしてもお辛い思いをするだけだと思いますよ?」
改めて線の細いウーゼルの身体を見ながらアルは答えを述べる。
その間、考え込んでいるアルの横ではリオタムスがウーゼルと何やら話をしていた。話題はもっぱら近況のことで、特に新しく設立した紫燕騎士団員と近衛騎士団の大捕り物はリオタムスの執務室にも
「私も見たかったなぁ」
「あー、ホロモニターここに置いて……おけ……ば?」
ウーゼル達の会話に混ざろうとしたアルだが、言葉を言い終わろうとする辺りでアルに電流が走る。リオタムスに何を言わずに、アルはすぐさま部屋を後にすると近くで警備していた近衛騎士団員に声をかける。そして、眼球水晶をはじめとした
「また何か思いついたのか?」
「はい。ウーゼル殿下を出歩かせることは医療に明るくない僕には判断できかねませんが、なにも出歩かずとも景色だけはお届けできます」
「そんなことが……あのカメラとかいったか、あれを使うのか?」
先ほどの話から答えを述べたリオタムスに、アルは『仰るとおりです』と頷きながら物資の到着を待つ。数十分後、『ウーゼルの部屋からの要請』というこもあってか素早く用意されたそれらをアルは慣れた手つきと慣れた
眼球水晶から見た景色が
「これは……すごいな。ここに居ながらも外の景色が見れ……ウッ ゴホゴホ」
「ウーゼル、あまり興奮しすぎるな」
あまりの興奮度合いに咳き込んでしまったウーゼルにリオタムスは気遣うが、自分の足や体調を顧みずに外の景色が見れるのはウーゼルにとって福音と言っても差支えない程に喜ばしいことであった。リオタムスの気遣いもあまり耳に入っていない様子でウーゼルはアルに礼を言うが、ここでエチェバルリア兄弟得意の『悪魔の囁き』がアルの口から流れてくる。
「では、これを"基"に殿下のご期待に添える物をお作りしましょう」
「ちょっと待て。おぬし、紫燕騎士団の教導はどうする?」
「あちらは別の教官がいるので大丈夫です。それ、こちらの方が緊急性が高いですよね?」
「なに?」
紫燕騎士団の教導という銀鳳騎士団が取り掛かっている最重要案件から一時的とはいえ抜けようとするアルの行動にしかめっ面を浮かべたリオタムスだったが、アルは『緊急性が高い』という言葉と共にリオタムスを部屋の外まで連れていく。再度、ウーゼルへ言葉が届かないかもう一度確認しながらアルは『ウーゼル殿下のことなんですが』と声量を抑えながら言葉を続ける。
「病なのかは定かではありませんが、気持ちの持ちようによって病状が好転することがあります。なので、殿下の御心が前向きになられるように1週間。1週間だけ猶予をください」
『病は気から』という諺もあるので、アルは出来る限りウーゼルの願いを叶えてあげたいことをリオタムスに伝えた。その決意に満ちた言葉と表情に、リオタムスの親心が『ぜひお願いしたい』と了承しようとするが、王としての彼の心が『今は空に関しての技術が優先ではないか』と抑え込もうとする。
どちらのリオタムスの考えも一進一退の攻防を続けるが、やがて埒が明かないと目の前の
「おぬし、ウーゼルとは初対面であろう。何故、そのような余計な仕事(こと)をする」
「え、余計とは思っていませんよ。ただ、1人ぼっちの部屋だと嫌なことしか思いつかないだろうなと思っただけです」
内心で『何を言ってるんだ、私は!』とリオタムスは自分自身を責めるが、アルはその棘を多分に含んだ言葉にさして怒りもせず、さも当然のように理由を話し出す。
アルは前世も今世も幸運なことに『あの葉っぱが散る頃には私は居なくなるのね』とドラマで良くあるような余命宣告系の大病を患ったことが無いが、インフルエンザのような予測可能で当たる時は当たる系の病気にはかかったことはある。ゆえに一人ぼっちの部屋で寂しく療養という結構クるものがあるということは知っているつもりだ。
そんなアルから言わせてもらうと、そんな一人ぼっちの環境に身を置いているとどうしても悪い方に気をやってしまう。大抵は仕事や学業関係のことだろうが、広い世界を知らないウーゼルの場合は精々『生か死』ぐらいしか見つめるものがない。
生が日々見えづらくなっている今のウーゼルの状態で、眼前にある死という文字から目を背けるにはやはり、外の景色から生を実感させることだろう。
「もし、紫燕騎士団の教導で不都合が起こるのであればこうします。先ほど仰っていた兄さん達に渡した休みの代替として申請させていただきます」
「おぬしは……そこまでウーゼルのことを……」
(よしよし。これで気になったところを研究できるかも)
涙声になりながらもリオタムスはアルの肩を強く掴む。ただ、アルはなにも善意100%でこの案件を立ち上げようとしているわけではなかった。
アルはクシェペルカで散ったパッチワークやシルフィアーネ・トレーナーを始め、様々な
(眼球水晶を増やして画角を調整できたら楽しそうだなぁ)
そう。アルはウーゼルのことを出汁に、かねてより気になっていた実験を行いたいという気持ちがあった。もちろん、ウーゼルのことは可哀想だと思うし何とか力になってあげたいという気持ちも当然ある。ただ、『偶然気になっていたことを研究できそうな事態が転がり込んで来た』のである。そんなチャンスに此方も全力で掴まないのは無作法というものだ。
紫燕騎士団の訓練についても『どうせ、エドガーさん達が何とかしてくれるだろう』と、とんでもない考えを頭の中で巡らせつつ、アルは未だに目元を抑えるリオタムスに『いかがですか?』と最後の念押しにかかる。
作業を行う理由はある。ウーゼルを助けたいという大義もある。目の前の人材はこの案件を短期間で仕上げることが出来そうかつ、この人材が別の案件に行った際に紫燕騎士団の教導に支障が起こることはほとんどない。リオタムスには、もはや断るという選択肢が残されていなかった。
「分かった。ウーゼルにカンカネンを見せてやってほしい」
「御意」
両者が握手をもって契約を取り付ける中、片方は『こいつをあっちに渡したくないなぁ』と心の中で涙を流し、もう片方は『勝った』と勝利の余韻に浸っていた。どちらがどちらと言うのはあえて言うまい。
***
銀鳳騎士団宛に手紙を書き終え、無事に1週間どころか2週間の猶予と人材などを頂戴したアル。プロジェクトに参画した
「ん? 計画は練ってるんだろ? なんで分けるんだ?」
「ついでなので、体が弱った人がシルエットギアを動かせるのか実験してみようかと」
謀らずとも期日が延びたので、アルは腹案だった『障がい者用の
「データさえあれば、後は向こうの鍛冶師の皆さんが作ってくれるはずですよ。そのための法整備も上の人に任せておけば良いんです」
慣れた調子で繰り出された指示に
そんな顔合わせから数日が経ち、藍鷹騎士団や近衛騎士団の伝手で傷病軍人やちょうど風邪で寝込んでいた近衛騎士団員を
「思った通りでしたね」
「元々が騎士の訓練用で、マギウスエンジンによって一般人にも使えるようになった代物だろ? 大よその検討は見当はついてたよ」
最後の実験参加者を見送ったアルは消毒用の蒸留酒を
この実験、『体力が著しく低下している者は
熱で意識が朦朧としている状態では当然として、
かと言って
片腕や両足が存在しない場合も当たり前と言うべきだが、専用の
「いやー、でもスクリプト次第ではイケるかもしれませんね。このプロジェクトではやりませんけど」
目を輝かせながら今後の展望を予想するアルの後姿を見ていた実験班の班長は心の中で『嘘つきめ』と呟く。
なんてことはない。ただ、両足が欠損しているのにわざわざ参加に協力してくれた元騎士に対し、『お礼代わり』として
そんな大事をさらっと
「わざわざラボに華を持たせなくても良いんじゃないのか?」
「僕からしたらこの実験は寄り道みたいなものなんです。本筋の成果こそ全てなんです」
自分の成果をあっさりと他所に送りつけるアルの言葉に、班長は『銀鳳騎士団は色々変ってるな』とため息をつきながら班長も制作班と合流するべく工房の中央に足を運ぶ。工房の中央には既に大勢の
「兜の部分が完全に覆われてやがる」
「おぉ、ナイスフルフェイスです。それでは早速……」
ただ、この
「設定完了。では、順番に乗ってみてください」
「では、自分から……うぉっ!?」
ただ、アルが
「兜の裏にはホロモニターを貼り付け、装甲板に取り付けられた4つの眼球水晶から映像を取り込んでるんです」
「ほう、それは良いのだが……今回の目的と離れてないか?」
眼球水晶を指差しながら説明するアルに、1人の
「いいえ、離れてません。班長、準備は?」
「言われた通りに作ったけど、スクリプトがないから動かないよ」
「大丈夫です。持ってきてください」
その言葉に制作班の班長は数人の
「この椅子を囲むように置いてください」
運び出されてきた
「ん? なんも変わらんじゃないか」
「いや、よく見てくださいよ。左右の様子が見えてますよ」
「すっげぇ! これなら首動かさなくても横の警戒出来るぞ!」
「へぇ、俺シルエットナイトに乗ったことないから分からなかったわ」
騎士から
ここで一部の
『あれ、これも当初聞かされていた内容と関係なくね?』
彼らはここに送り出される前、『外に出ることなく外の景色を見る方法をアルフォンスと模索せよ』という前情報をリオタムス直々に受け取っていたので、この改修内容のどこにそんな要素があるのかと一部の
だが、このプロジェクトの責任者を担っているアルと、彼の両腕になる班長、その他年長の
「よし、あとはこれに細かな修正を加えていきましょう」
「そうだね。まだ映像荒いところありますし」
「ちょちょちょ! 待ってください」
これには若手の
要求とは異なる物を出すのは明らかな命令違反だ。まだ期限があるのでやり直した方が良い。
些か彼らも責任感の方が勝ちすぎていたので語気が荒くなったが、概ねはそのような内容の指摘がアル達の耳に届く。しかし、アルを含めた古参の
「やっぱり気が付かないやつ居るじゃないか。アルフォンス君、もうちょっと説明上手くならないと駄目だよ?」
「いやー、だって1から自慢したいじゃないですか。そんなことがあろうかとぉ! って感じで自慢したいんですよ」
ほんわかとした空気を漂わせながらもアルは
「ほい、じゃあ動きますよー」
彼らが話をしている間に
「あぁ……そういうことか」
「理解したか? ……お前らも理解したか?」
百聞は一見に如かず。アルが示した行動により、指摘していた若手
そしてそれらを統括した成果こそ、今回リオタムスやウーゼルに差し出すべき成果なのだ。
「いやー、申し訳ない。つい、テンションが上がって別々に説明してしまいました。ですが、こういった1つの技術を今のように切り分け出来るのでご活用ください」
「確かにこのホロモニターの案は使えそうだな。今度、近衛騎士団の機体で試すか」
「そっすね。でも、その前に仕事終わらせちゃいましょう。シルバーナーヴ取って来ます」
半円状の
「この装置……機体? の欠点ですが、シルバーナーヴの長さが行動範囲になりますよね。……結ぶかぁ」
「ああ、さらにいえば馬車や雑踏などでシルバーナーヴが千切れかねん。補強も必要だな。……よし、若いやつ等は長いシルバーナーヴの作製と補強作業にかかれ」
「俺達も別れるぞ。陛下に献上する手前、シルエットギアにしても少し身奇麗にしておくべきだろう」
「では、若手の皆さんはシルバーナーヴの工作。後はシルエットギア全体の手直しと眼球水晶とホロモニターの同期作業に別れましょうか」
冷静に報告と相談をしながらどうするべきか考える若手に、報告を聞きながら素早く今後必要なことを列挙していく古参。やはり、フレメヴィーラ王国の近衛騎士団は
(ヨシ! ヨシ! ヨシッ! このデータを兄さんに伝えて、頭部にマウントするオプションワークスを仕立てよう!)
ただ、工房の各所に散らばっていく
***
そして、プロジェクトの期日。ウーゼルが療養している屋敷の中では近衛騎士団の騎士団長と副団長。そして、近衛騎士団の
「皆。よくぞ、作り上げてくれた。様々な報告が上がっているが、まずはどのように使用するか説明をしてもらおう」
「はっ! ウーゼル殿下、まずはこの椅子にお座りになってください」
「こうかい? ははっ、まるでエムリスから聞いたシルエットナイトに乗っているみたいだね」
椅子に着席したウーゼルは軽く周囲を見渡しながら軽く笑う。対するリオタムスは何時ウーゼルの体調が急変するか気が気でない様子だったが、アルはそのまま
「このように、シルエットギアの眼球水晶が捉えた光景をホロモニターに映し出します。シルバーナーヴの長さは十分に取ってあるので、このままカンカネンの警備に行ってもらいましょう」
「承知した。副団長、1個小隊を編成して付いて来い」
「あ、急激な視点の変更は殿下が酔う恐れがあります。視点を変える際はゆっくり首を動かしてくださいね」
アルの注意点にゆっくりと首を動かした騎士団長はそのまま副団長と共に屋敷を出て行った。
その後は、特に事故も起きずに
そして、警備が終わった騎士団長は副団長達と共に
「ははっ、ここまで賑やかそうな光景を見たのは初めてだ。アルフォンスと言ったかい? ありがとう」
「いいえ、殿下にご満足いただけて何よりです」
交わした言葉は少なかったが、満足そうな声にアルは手ごたえを噛み締めながら屋敷を出る。
その後として、この
あるかもしれない未来の話
??「六眼位の戦士だとっ!どこの氏族の者だ!」
??「兄さん。あの子、何言ってるの?」