銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

134 / 200
漫画版ロスをエネルギーに変えてがんばりました。

※4/10 反動により、ラストシューティング状態になっているのでお休みを戴きます


幕間(技術の発展に救済はツキモノデース)

 紫燕騎士団が無事に脱出訓練を修了してから数週間ほどが経過した。座学もたっぷりと受講した彼らは今日も元気にオルヴェシウス砦の周辺の空域でトゥエディアーネの操縦訓練に勤しんでいる。

 そんな訓練の最中。地面に座り込んで休息を取っていた紫燕騎士団員が同じく隣で座っていた同期に声をかけた。

 

「なぁ。ここ最近、アルフォンス教官見てなくないか?」

 

 その言葉を聞いた同期は首を左右に振って周囲を確認するが、たしかにアルの姿はどこにもない。脱出訓練が終わった後、『初歩の段階で自分が出る幕はない』と訓練をエドガー達に任せていたアルだったが、何かに付けてここに赴いては差し入れや見学を行っていた。

 しかし、ここ最近はそれがぱったりと途絶えている。その現状に、ふと雑談をしていた2人の脳裏に嫌なものが走った。

 

「また、おかしな試験をやるんじゃ……」

 

「や、やめてくれよ。お前はやらなかったからわからないと思うけど、あれガチで怖いんだぞ」

 

 先のシュレベール城を使用した脱出訓練の卒業試験という事例があるため、『アルが居なくなる = ヤバい』と頭の中で関連付けられてしまった2人は背筋に氷柱が突き立ったように身を震わせる。

 ただ、彼らも立派な騎士だ。『もっと練習しとかないとマズい』と言葉をハモらせながら、彼らは少し早いが訓練を再開しようと自分達の愛機の操縦席に飛び乗っていった。

 

 そんな彼らの会話に反し、アルはカンカネンにて紫燕騎士団とは一切関係のないプロジェクトの責任者になっていた。近衛騎士団が所有する工房の1つと近衛騎士団所属の騎操鍛冶師(ナイトスミス)を借りた彼は現在、幻晶騎士(シルエットナイト)ではなく幻晶甲冑(シルエットギア)の前で黙々と作業を行っていた。

 

「アルフォンス君、この意匠どう?」

 

「いやぁ、目立つから近衛の制式装備っぽくしましょうよ」

 

 騎操鍛冶師(ナイトスミス)の1人が自信満々に幻晶甲冑(シルエットギア)の外観を描いた図面を持ってくるが、アルはその豪奢な見た目にNGを出す。NGを食らった騎操鍛冶師(ナイトスミス)が『そっかぁ』と残念そうな表情を浮かべながら製図に戻ると、別の1人が『アルフォンス君、映像見てくれるかい?』と訪ねてくる。

 

 近衛騎士団所属の騎操鍛冶師(ナイトスミス)とはいえ、別の騎士団所属のアルを君付けするのは些か不味いのだが、何を隠そう彼らとアルの付き合いは頭部兵装開発──銀鳳騎士団設立よりも前になる。そんなマブダチ状態の彼らにアルも君付けという些細なことをスルーしながら呼び出した騎操鍛冶師(ナイトスミス)の前に置かれている幻像投影機(ホロモニター)の映像を確認しながら渋い顔をする。

 

「……、うーんちょっとずれてますね。スクリプトもうちょっと修正します?」

 

「やっぱりずれてるよな。スクリプトは直しづらいし、こっちで眼球水晶の位置を調整してみようか」

 

「お願いします」

 

 変わった形状の幻像投影機(ホロモニター)の映像がずれていること難色を示したアルに、騎操鍛冶師(ナイトスミス)幻晶甲冑(シルエットギア)の頭部に取り付けられた『4つ』の眼球水晶を調整しだした。調整によって徐々に幻像投影機(ホロモニター)の画角が変わっていき、じっと見ていたアルはやがて自身で思ったとおりの位置に映像が来たことで騎操鍛冶師(ナイトスミス)に合図を出す。

 

「よし。あとは十分な長さの補強済みシルバーナーヴをあいつらが持ってくるだけだな」

 

「そうですね」

 

 騎操鍛冶師(ナイトスミス)の言葉から作業が一段落したことを確信したアルは、改めて幻晶甲冑(シルエットギア)の頭部に取り付けた眼球水晶が取り付けられた装甲板を見やると満足げに息を吐く。

 先にもあった通り、この幻晶甲冑(シルエットギア)には通常の幻晶騎士(シルエットナイト)の2倍である4つもの眼球水晶が頭部に取り付けられている。この改修によって通常の幻晶騎士(シルエットナイト)よりも倍近く広い画角を映像化することが可能となった。

 さらにこの改修は頭部の一部分しか弄っていないので、使用する幻晶甲冑(シルエットギア)の頭部にこの機構を簡単に移植することが可能という親切設計が為されている。

 

「これで、あの御方のオーダーもなんとかなりそうですね」

 

「アルフォンス君、シルバーナーヴの繋ぎあわせと補強作業が終わったよ」

 

「ナイスタイミングです! 皆さん、このまま完成までこぎつけますよ!」

 

 大きな箱を持ってきた若手の騎操鍛冶師(ナイトスミス)達の到着に喜びの声を上げたアルは、気合を新たにしながらとある屋敷が建っている方角に視線を向ける。『幻晶騎士(シルエットナイト)ではなく幻晶甲冑(シルエットギア)を弄っているのはなぜか』、『そもそも幻晶甲冑(シルエットギア)に眼球水晶は必要ないのではないか』。その理由を紐解くには、アルが再びこのカンカネンの地に降り立った時まで遡る必要があった。

 

***

 

 紫燕騎士団の訓練が操縦訓練に移行して1週間後。アルは再びシュレベール城へと赴いていた。

 ただ、今回はアルが話し合いに来たのではなく、現フレメヴィーラ国王であるリオタムスがアルを召喚。しかも、召喚状を藍鷹騎士団の手によって『アル本人』に渡すというやり取りが為されているため、アルも何の用向きなのか気が気ではなかった。

 

「アルフォンス・エチェバルリア。参りました」

 

「うむ。おぬしを呼んだのは少しばかり知恵を貸してもらいたくてな」

 

 謁見の間ではなく、なぜか王族のプライベートルームに通されたことによって内心動揺していたアルに、リオタムスは少しばかり悩む素振りを見せながら今回の用向きを伝えた。ただ、その用向きも『知恵』という不明確な言葉だったので、エルより劣った幻晶騎士(シルエットナイト)に関しての知識か、藍鷹騎士団などに出入りしてたらいつの間にか身につけてしまった少々後ろ暗い諸々の知識ぐらいしかないアルはどんな知恵を借りたいのか皆目見当も付かなかった。

 

 エドガーのような品行方正な騎士と比べるとやや不良気味の自分に何が出来るのか。アルは疑問に思っていると、リオタムスは『場所を変えよう』と言いつつ席を立つ。

 

「そういえば、おぬし。ウエスタン・グランドストームから帰ってきてすぐにデュフォールへ出発していたな」

 

「はい。なんでも銀鳳騎士団に休暇を与えたとか……自分はもらってませんが」

 

 道すがらの雑談として大西域戦争(ウエスタン・グランドストーム)から銀鳳騎士団が帰ってきた頃の話が出て来た途端、アルは銀鳳騎士団がリオタムスからプロジェクト休暇を貰っていたことを思い出した。

 先にリオタムスが言った通り、アルはデュフォールで飛空船(レビテートシップ)技術を教えていたのでその休暇は取得できていない。エルからはサロドレアに便乗して魔獣を討伐したり、オルヴェシウス砦には来なかったが家で新たな幻晶騎士(シルエットナイト)に関する資料作成に取り組んだりと色々うらやまけしからんことを満喫していたことを聞かされ、自分も貰えることに期待していたアル。──悲しいかな、今まで休みのやの字も出ていない。

 

「うむ。本来ならば代替として休暇を与えようとしていたが……。エルネスティが休暇中に色々やっていたらしくてな。おぬしも休暇中は同じようなことをしそうでな。休みか報奨か迷っておった」

 

「そんなハチャメチャなこと……しない…………デス。ハイ」

 

「目を見て話せ。目を」

 

 流石にサロドレアを乗っ取って魔獣討伐はしないが、設計や幻晶騎士(シルエットナイト)に関するあれこれをやろうとしていたアルは、リオタムスから図星を突かれると思わず目を泳がせながらそっぽを向く。そんなアルの反応に大体のことを察したリオタムスはアルのことを軽く小突くと、『おぬしら兄弟は』とぶつぶつ文句を言いながらも城内を歩いていく。

 

「あの、陛下。私の記憶違いでなければこの先は陛下達のお屋敷では? 私がそちらに行くのは問題があるのでは?」

 

「ん? ……ああ、気にするな。どうせ早いか遅いかの……いや、時にアルフォンスよ。おぬしは医療の心得とかあったりするだろうか?」

 

 言い淀んだと思えばいきなり騎士に医者の真似事が出来るかと問うリオタムス。その挙動不審な行動に加え、呼び出された理由も曖昧なせいで余計に訝しんだアルだったが、何も答えないわけにはいかないので『自分は騎士だと思ってるんですが』と少しだけ呆れを含んだ返答をする。

 

「う、うむ……。そうだな……すまない」

 

「どうしました? いつもの陛下らしくないですよ?」

 

 いつものリオタムスなら『分かっておるわ!』と元気良くツッコむ所なのだが、帰ってきたのは何とも覇気のない謝罪だった。その様子に本格的に不信感を抱いたアルがとうとう何のために呼び出したのか聞いてみることにした。

 ただ、先ほどリオタムスが言葉の端で言っていた医療に関しての知識を拝借したいということなのだったら、アルの知っている医療知識はせいぜい『ス○ゼロをストローで飲むとキマること』や、『肉が美味くなくなったら本格的にヤバいこと』といったメンタルに関する経験がほとんどなので対して力になれそうもないのは確かだ。

 

「アルフォンスは、ウーゼルを知っているか?」

 

「はい、エムリス殿下のお兄様。王位継承一位の御方ですよね?」

 

 ウーゼル・ファルク・フレメヴィーラ。フレメヴィーラ王国第一王子であり、リオタムスが即位した今は皇太子となる人物である。ただ、アルは名前と王族内のどんな位置付けなのかだけ知っているだけで、それ以上のことは全くと言って良いほど知らなかった。

 

「左様。ただ、やつは身体が弱くてな。療養院と屋敷を行ったり来たりを繰り返している」

 

「病気の原因を突き止めろという命令をお出しになるのでしたら、僕以外でお願いします」

 

「先ほどの問いは忘れてくれ。アルフォンスだったらあるいは我らの知らないことを知っておるのではないかと思ってな」

 

 アルの口ぶりから怒っていると思ったリオタムスは慌てて弁解する。アルは確かに幻晶騎士(シルエットナイト)飛空船(レビテートシップ)のみならず、エルがたまにサボるので騎士団の運用法だったり、藍鷹騎士団との付き合いの結果として変装や潜入といった諜報技術の初歩だったり、融通が利くやつが欲しいという理由でリオタムスから物事を進める上での根回しの方法やらを学んできた。

 

 そんな今のアルを聞き触りが良い言葉で飾り立てるならば『万能』──なのだが、その言葉は全ての分野において完璧な成果を出せる人物が受け取るのが正しく、アルのように知識の幅が狭くて成果もまちまちの人間は精々『器用貧乏』の方がしっくり来る。

 ちなみにその評価をつけたのはエルで、曰く『アルは今後、カスタムやクゥエル目指しましょう』と言ってアルが『デン○ロビウムが良い』としょげてたのは遠い昔のお話である。

 

「話を戻すが、ウーゼルが街を見たいと言い出してな。シルエットギアを使えば出来ないかと思ったゆえに、専門家であるおぬしに来てもらった」

 

「今では鍛冶師でも使用できる簡易版がありますが、あれは元々騎士の訓練用ですから体力使いますよ? ……でもそうか。操作をもっと簡略化して体力がない人でも運用できるようにすれば障がいを持つ人も……いや、でも犯罪が怖いな」

 

 幻晶甲冑(シルエットギア)の装甲を排除し、操作をもっと簡略化させればもしかしたら障がい者の出歩きや介助用に使用するパワードスーツになるかもしれない。ただ、安易に人間以上の力を付与できる機械が出回ったらそれを違法改造したりすることによって犯罪の種になりかねないという懸念がアルの脳裏をよぎる。何か対応策はないかと思考を巡らせようとするが、その前にリオタムスの声により現状考えることではないと判断したアルは現実に戻ってくる。

 

「エルネスティといい、おぬし達の悪い癖だぞ。で、今は無理なのだな?」

 

「はい。1から設計し直さなければならないので、もし実施するのならラボが適任かと。差し支えなければあとで仕様書でも作成しましょうか?」

 

「……好きにせよ」

 

 屋敷のドアに手を掛けた辺りでそのようなことを言ってくるアルに、リオタムスは内心『そういう性格が自分の仕事を増やすのに学習しないな。助かるけど』と呆れながらさりげなく出来なかった際の逃げ道を確保してやる。

 屋敷の中に入ったリオタムスは廊下を数分程歩き、とある1室の前で静止した。そのまま『ウーゼル。私だ』と扉に声をかけながらノックすると、中から涼やかな声で『どうぞ』という返答が聞こえてくると、リオタムスはドアノブを回して部屋に入る。

 

「ウーゼル、具合はどうだ?」

 

「ええ、今日はかなり良いです。……コフッ……コッゴホッ」

 

 ベッドから半身起き上がった男がにこやかな笑みを浮かべながら話し出すが、すぐに口元を抑えると激しく咳き込んでしまう。急激な体調の変化にリオタムスは『ウーゼル!』と叫びながらウーゼルと呼ばれた男に駆け寄るが、ウーゼルは手でリオタムスを制しながらなんとか息を整え、次第に苦しそうな表情から元の笑顔へと戻っていく。

 

「大丈夫です。それより、後ろに居る方がもしかしてあのイs」

 

「っ! ああ、急いで連れて来た銀鳳騎士団のアルフォンスという者だ!」

 

 まるで何かを隠してるかのようにリオタムスがウーゼルの言葉に被せてアルを紹介するが、『王族の話は機密が多い』とアルの脳内に潜む小市民が助言を放ってきたので、アルはさほど疑問を持たずに挨拶を行う。すると、やはりアルのことを知っていたのかウーゼルも丁寧な礼と共に自己紹介をし返してきた。

 

「あの、陛下から殿下が街を見たいと仰られたとかお聞きしましたが」

 

「それで間違いないよ」

 

 アルの質問に頷いたウーゼルは、自分の願望──健康な人間がごく当たり前に行っている『街を歩き回りたい』という行動をさも長年の夢のように語りだす。なんでも療養院へ向かう最中に一陣の風が1枚の木の葉を運んできた際、運ばれてきた葉がどこから来たのかという単純な疑問から自身の世界の狭さに気付いたらしい。

 

「ウーゼル……」

 

「分かっています、私の身体が弱いということは。ですが、知りたいんです。先王陛下や父上……陛下がお作りになったカンカネンの街を見て回りたいんです」

 

 しかしながら今のウーゼルをなんの準備もせずに放り出すと、ものの数秒後には行き倒れるほど儚い存在である。ウーゼルの思いの丈をぶつけられたリオタムスがチラチラとアルの方に視線を送り続ける中、アルは元気が服を着ているような脳筋(エムリス)と蜻蛉の擬人化のような病弱(ウーゼル)の落差に人の神秘を噛みしめていた。

 

「アルフォンス、何か手立てはないか?」

 

「シルエットギアは決して劣った身体能力を補佐する物ではないので、外部から動かしてもお辛い思いをするだけだと思いますよ?」

 

 改めて線の細いウーゼルの身体を見ながらアルは答えを述べる。幻晶甲冑(シルエットギア)はそもそも健康な人間が使用することを念頭に置いた機体である。当然、試験をしたことが無いので弱った身体で使用すればどうなるかは未知数だ。玉体ともいえるウーゼルを相手に『実験させてくれね?』と提案するほどアルは狂気に落ちていないので、他に何かできないか考えてみる。

 その間、考え込んでいるアルの横ではリオタムスがウーゼルと何やら話をしていた。話題はもっぱら近況のことで、特に新しく設立した紫燕騎士団員と近衛騎士団の大捕り物はリオタムスの執務室にも幻像投影機(ホロモニター)がちゃっかり置かれていたらしく、紫燕騎士団員のバイタリティの高さにリオタムスはかなり熱を入れて話していた。

 

「私も見たかったなぁ」

 

「あー、ホロモニターここに置いて……おけ……ば?」

 

 ウーゼル達の会話に混ざろうとしたアルだが、言葉を言い終わろうとする辺りでアルに電流が走る。リオタムスに何を言わずに、アルはすぐさま部屋を後にすると近くで警備していた近衛騎士団員に声をかける。そして、眼球水晶をはじめとした幻像投影機(ホロモニター)や長い銀線神経(シルバーナーヴ)を集めてほしいと頼み込んでから部屋に戻ってきた。

 

「また何か思いついたのか?」

 

「はい。ウーゼル殿下を出歩かせることは医療に明るくない僕には判断できかねませんが、なにも出歩かずとも景色だけはお届けできます」

 

「そんなことが……あのカメラとかいったか、あれを使うのか?」

 

 先ほどの話から答えを述べたリオタムスに、アルは『仰るとおりです』と頷きながら物資の到着を待つ。数十分後、『ウーゼルの部屋からの要請』というこもあってか素早く用意されたそれらをアルは慣れた手つきと慣れた魔法術式(スクリプト)を用いて瞬く間に定点カメラもどきを仕上げた。

 眼球水晶から見た景色が銀線神経(シルバーナーヴ)を通って大きな幻像投影機(ホロモニター)に映し出される光景を始めて見たウーゼルはアルから眼球水晶を受け取った近衛騎士団員の姿を見送りつつ、まるでおもちゃを買い与えられた子供のような眼差しで映像の変化を楽しんでいた。

 

「これは……すごいな。ここに居ながらも外の景色が見れ……ウッ ゴホゴホ」

 

「ウーゼル、あまり興奮しすぎるな」

 

 あまりの興奮度合いに咳き込んでしまったウーゼルにリオタムスは気遣うが、自分の足や体調を顧みずに外の景色が見れるのはウーゼルにとって福音と言っても差支えない程に喜ばしいことであった。リオタムスの気遣いもあまり耳に入っていない様子でウーゼルはアルに礼を言うが、ここでエチェバルリア兄弟得意の『悪魔の囁き』がアルの口から流れてくる。

 

「では、これを"基"に殿下のご期待に添える物をお作りしましょう」

 

「ちょっと待て。おぬし、紫燕騎士団の教導はどうする?」

 

「あちらは別の教官がいるので大丈夫です。それ、こちらの方が緊急性が高いですよね?」

 

「なに?」

 

 紫燕騎士団の教導という銀鳳騎士団が取り掛かっている最重要案件から一時的とはいえ抜けようとするアルの行動にしかめっ面を浮かべたリオタムスだったが、アルは『緊急性が高い』という言葉と共にリオタムスを部屋の外まで連れていく。再度、ウーゼルへ言葉が届かないかもう一度確認しながらアルは『ウーゼル殿下のことなんですが』と声量を抑えながら言葉を続ける。

 

「病なのかは定かではありませんが、気持ちの持ちようによって病状が好転することがあります。なので、殿下の御心が前向きになられるように1週間。1週間だけ猶予をください」

 

 『病は気から』という諺もあるので、アルは出来る限りウーゼルの願いを叶えてあげたいことをリオタムスに伝えた。その決意に満ちた言葉と表情に、リオタムスの親心が『ぜひお願いしたい』と了承しようとするが、王としての彼の心が『今は空に関しての技術が優先ではないか』と抑え込もうとする。

 どちらのリオタムスの考えも一進一退の攻防を続けるが、やがて埒が明かないと目の前の諸悪の根源(アルフォンス)を睨みつけながら自身が思ってもみない問いかけをしてしまった。

 

「おぬし、ウーゼルとは初対面であろう。何故、そのような余計な仕事(こと)をする」

 

「え、余計とは思っていませんよ。ただ、1人ぼっちの部屋だと嫌なことしか思いつかないだろうなと思っただけです」

 

 内心で『何を言ってるんだ、私は!』とリオタムスは自分自身を責めるが、アルはその棘を多分に含んだ言葉にさして怒りもせず、さも当然のように理由を話し出す。

 

 アルは前世も今世も幸運なことに『あの葉っぱが散る頃には私は居なくなるのね』とドラマで良くあるような余命宣告系の大病を患ったことが無いが、インフルエンザのような予測可能で当たる時は当たる系の病気にはかかったことはある。ゆえに一人ぼっちの部屋で寂しく療養という結構クるものがあるということは知っているつもりだ。

 そんなアルから言わせてもらうと、そんな一人ぼっちの環境に身を置いているとどうしても悪い方に気をやってしまう。大抵は仕事や学業関係のことだろうが、広い世界を知らないウーゼルの場合は精々『生か死』ぐらいしか見つめるものがない。

 

 生が日々見えづらくなっている今のウーゼルの状態で、眼前にある死という文字から目を背けるにはやはり、外の景色から生を実感させることだろう。

 

「もし、紫燕騎士団の教導で不都合が起こるのであればこうします。先ほど仰っていた兄さん達に渡した休みの代替として申請させていただきます」

 

「おぬしは……そこまでウーゼルのことを……」

 

(よしよし。これで気になったところを研究できるかも)

 

 涙声になりながらもリオタムスはアルの肩を強く掴む。ただ、アルはなにも善意100%でこの案件を立ち上げようとしているわけではなかった。

 

 アルはクシェペルカで散ったパッチワークやシルフィアーネ・トレーナーを始め、様々な幻晶騎士(シルエットナイト)に乗って(は壊して)きたが、全ての幻晶騎士(シルエットナイト)に共通して思ったことは『左右が見えづらいこと』である。2つの眼球水晶を用いて正面の景色を投影するのは結構なのだが、左右の景色が小さな覗き窓しかないのは横入りが激しい乱戦では致命傷になりかねない。

 

(眼球水晶を増やして画角を調整できたら楽しそうだなぁ)

 

 そう。アルはウーゼルのことを出汁に、かねてより気になっていた実験を行いたいという気持ちがあった。もちろん、ウーゼルのことは可哀想だと思うし何とか力になってあげたいという気持ちも当然ある。ただ、『偶然気になっていたことを研究できそうな事態が転がり込んで来た』のである。そんなチャンスに此方も全力で掴まないのは無作法というものだ。

 

 紫燕騎士団の訓練についても『どうせ、エドガーさん達が何とかしてくれるだろう』と、とんでもない考えを頭の中で巡らせつつ、アルは未だに目元を抑えるリオタムスに『いかがですか?』と最後の念押しにかかる。

 作業を行う理由はある。ウーゼルを助けたいという大義もある。目の前の人材はこの案件を短期間で仕上げることが出来そうかつ、この人材が別の案件に行った際に紫燕騎士団の教導に支障が起こることはほとんどない。リオタムスには、もはや断るという選択肢が残されていなかった。

 

「分かった。ウーゼルにカンカネンを見せてやってほしい」

 

「御意」

 

 両者が握手をもって契約を取り付ける中、片方は『こいつをあっちに渡したくないなぁ』と心の中で涙を流し、もう片方は『勝った』と勝利の余韻に浸っていた。どちらがどちらと言うのはあえて言うまい。

 

***

 

 銀鳳騎士団宛に手紙を書き終え、無事に1週間どころか2週間の猶予と人材などを頂戴したアル。プロジェクトに参画した騎操鍛冶師(ナイトスミス)達が幼少の頃にアルが頭部兵装を作製する上で集まった鍛冶師達ばかりというリオタムスからの粋な計らいに感動を覚えながら、アルはさっそく騎操鍛冶師(ナイトスミス)達を『実験班』と『制作班』に振り分けた。

 

「ん? 計画は練ってるんだろ? なんで分けるんだ?」

 

「ついでなので、体が弱った人がシルエットギアを動かせるのか実験してみようかと」

 

 謀らずとも期日が延びたので、アルは腹案だった『障がい者用の幻晶甲冑(シルエットギア)』の実験にも手を出そうとしていた。ただ、この実験はあくまで『障がいを負った人間が幻晶甲冑(シルエットギア)を操縦できるか』という観点で実験を行うだけであり、実験が終われば実験班は集めたデータを纏めて王家や国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)に送った後に制作班と合流する手筈である。

 

「データさえあれば、後は向こうの鍛冶師の皆さんが作ってくれるはずですよ。そのための法整備も上の人に任せておけば良いんです」

 

 慣れた調子で繰り出された指示に騎操鍛冶師(ナイトスミス)達はテキパキと動き出しながら時の流れを実感する。あの頃指示を出すのも一苦労と言う感じで右往左往していた小さかった……今も小さいが、立派な大人になったのだと目から汗を流す。

 

 そんな顔合わせから数日が経ち、藍鷹騎士団や近衛騎士団の伝手で傷病軍人やちょうど風邪で寝込んでいた近衛騎士団員を幻晶甲冑(シルエットギア)に乗せるという、聞く人から見れば悪魔の実験が終わりを告げる。

 

「思った通りでしたね」

 

「元々が騎士の訓練用で、マギウスエンジンによって一般人にも使えるようになった代物だろ? 大よその検討は見当はついてたよ」

 

 最後の実験参加者を見送ったアルは消毒用の蒸留酒を幻晶甲冑(シルエットギア)にぶっかけながら結果について感想を漏らすと、実験班の班長が乾いた布で蒸留酒を拭きながらアルの感想に同調する。

 この実験、『体力が著しく低下している者は幻晶甲冑(シルエットギア)が操縦出来ず、身体の部位が欠損している傷病者は体力があっても専用の魔法術式(スクリプト)が無いと欠損部位の操縦が出来ない』というある程度予想していた結果に至った。

 

 熱で意識が朦朧としている状態では当然として、幻晶甲冑(シルエットギア)魔術演算領域(マギウス・サーキット)を動かしながら幻晶甲冑(シルエットギア)自体を動かす必要がある。つまり、どう考えてもウーゼルクラスの病人には到底動かすことが出来ない代物であった。

 かと言って幻晶甲冑(シルエットギア)自体を軽量化しても、人によっては逆に動かしづらくなってしまうので共有化はもう少し煮詰めないと危険性が跳ね上がってしまう。

 片腕や両足が存在しない場合も当たり前と言うべきだが、専用の魔法術式(スクリプト)を作製してあげないと片腕がない者は片腕が動かない状態。両足がない者は両腕のみしか動かせないので、それらの魔法術式(スクリプト)作成には骨が折れるだろう。

 

「いやー、でもスクリプト次第ではイケるかもしれませんね。このプロジェクトではやりませんけど」

 

 目を輝かせながら今後の展望を予想するアルの後姿を見ていた実験班の班長は心の中で『嘘つきめ』と呟く。

 なんてことはない。ただ、両足が欠損しているのにわざわざ参加に協力してくれた元騎士に対し、『お礼代わり』として魔導演算機(マギウスエンジン)やフレームが露出するまで軽量化した幻晶甲冑(シルエットギア)に専用の魔法術式(スクリプト)を数時間で構築。結果的に杖や他人の肩を借りながらも歩行に成功させているのだ。

 そんな大事をさらっと国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)に投げるアルに、班長は内心『こいつ、大丈夫か?』と思いながらアルを問い質す。

 

「わざわざラボに華を持たせなくても良いんじゃないのか?」

 

「僕からしたらこの実験は寄り道みたいなものなんです。本筋の成果こそ全てなんです」

 

 自分の成果をあっさりと他所に送りつけるアルの言葉に、班長は『銀鳳騎士団は色々変ってるな』とため息をつきながら班長も制作班と合流するべく工房の中央に足を運ぶ。工房の中央には既に大勢の騎操鍛冶師(ナイトスミス)が集まっており、彼らの真ん中には1機の幻晶甲冑(シルエットギア)が直立していた。

 

「兜の部分が完全に覆われてやがる」

 

「おぉ、ナイスフルフェイスです。それでは早速……」

 

 ただ、この幻晶甲冑(シルエットギア)。兜の部分には装甲板が被せられており、このまま装着しても前が見えない状態になっている。アルは上機嫌で作成した騎操鍛冶師(ナイトスミス)達を褒め称えながら幻晶甲冑(シルエットギア)に接続してある魔導演算機(マギウスエンジン)魔法術式(スクリプト)を保存しだすが、先ほど合流してきた実験班の面々はそんな上機嫌のアルを前に『どうやって動かすんだよ』というツッコミを言えずに居た。

 

「設定完了。では、順番に乗ってみてください」

 

「では、自分から……うぉっ!?」

 

 ただ、アルが幻晶甲冑(シルエットギア)の設定を完了させ、騎操鍛冶師(ナイトスミス)幻晶甲冑(シルエットギア)に搭乗させた瞬間。真っ暗闇だろうと予想する彼の考えに反し、目の前には工房や騎操鍛冶師(ナイトスミス)達の姿が映し出されていた。しかも、驚くべきことに搭乗した騎操鍛冶師(ナイトスミス)の視界全ての景色が幻晶甲冑(シルエットギア)の外の景色を映し出しているので、どのような技術を使用したのかと急いで幻晶甲冑(シルエットギア)から飛び出る。

 

「兜の裏にはホロモニターを貼り付け、装甲板に取り付けられた4つの眼球水晶から映像を取り込んでるんです」

 

「ほう、それは良いのだが……今回の目的と離れてないか?」

 

 眼球水晶を指差しながら説明するアルに、1人の騎操鍛冶師(ナイトスミス)が至極当たり前の指摘を行う。ただ、この改修内容は『最終目的の前座』だということを分かってもらおうと思っていたアルは、深く頷きながら制作班の班長の顔を見やる。

 

「いいえ、離れてません。班長、準備は?」

 

「言われた通りに作ったけど、スクリプトがないから動かないよ」

 

「大丈夫です。持ってきてください」

 

 その言葉に制作班の班長は数人の騎操鍛冶師(ナイトスミス)に声をかけながら工房の奥から変わった形の幻像投影機(ホロモニター)を運んできた。通常、幻晶騎士(シルエットナイト)に使用する幻像投影機(ホロモニター)騎操士(ナイトランナー)から見て正面に配置される板状の物体なのだが、これは半円状に形成されている。

 

「この椅子を囲むように置いてください」

 

 運び出されてきた幻像投影機(ホロモニター)が椅子を取り囲むように設置される中、騎士科を卒業しながら騎操鍛冶師(ナイトスミス)に転属になった面々が『あー、なるほど』といった表情を浮かべる。彼らの予想は当たっており、アルが魔導演算機(マギウスエンジン)魔法術式(スクリプト)を少し書き換えると、半円状の幻像投影機(ホロモニター)には幻晶甲冑(シルエットギア)に取り付けられた4つの眼球水晶から送られた映像が映し出された。

 

「ん? なんも変わらんじゃないか」

 

「いや、よく見てくださいよ。左右の様子が見えてますよ」

 

「すっげぇ! これなら首動かさなくても横の警戒出来るぞ!」

 

「へぇ、俺シルエットナイトに乗ったことないから分からなかったわ」

 

 騎士から騎操鍛冶師(ナイトスミス)になった者と鍛冶一筋の者の意見が交わされ、先ほどの幻晶甲冑(シルエットギア)の改造が『眼球水晶を増やすことで今までの幻晶騎士(シルエットナイト)が抱えていた視界不良を改善するためのもの』だという認識が騎操鍛冶師(ナイトスミス)全員に波及した。──のだが。

 ここで一部の騎操鍛冶師(ナイトスミス)達の脳内がこの言葉で埋め尽くされる。

 

『あれ、これも当初聞かされていた内容と関係なくね?』

 

 彼らはここに送り出される前、『外に出ることなく外の景色を見る方法をアルフォンスと模索せよ』という前情報をリオタムス直々に受け取っていたので、この改修内容のどこにそんな要素があるのかと一部の騎操鍛冶師(ナイトスミス)達の頭に『計画の失敗』という文字が頭を過ぎった。

 だが、このプロジェクトの責任者を担っているアルと、彼の両腕になる班長、その他年長の騎操鍛冶師(ナイトスミス)達は能天気に次の計画を練っていた。

 

「よし、あとはこれに細かな修正を加えていきましょう」

 

「そうだね。まだ映像荒いところありますし」

 

「ちょちょちょ! 待ってください」

 

 これには若手の騎操鍛冶師(ナイトスミス)達も思わず静止の声を出した。その叫びにも似た声に計画を練っていた人間は一斉に若手達を見るが、この段階で訂正しなければもはや手遅れになってしまうと感じた若手騎操鍛冶師(ナイトスミス)の代表者が真っ直ぐな瞳でアル達に自分達が考えていることを指摘として口に出す。

 

 要求とは異なる物を出すのは明らかな命令違反だ。まだ期限があるのでやり直した方が良い。

 些か彼らも責任感の方が勝ちすぎていたので語気が荒くなったが、概ねはそのような内容の指摘がアル達の耳に届く。しかし、アルを含めた古参の騎操鍛冶師(ナイトスミス)達はにっこりと笑みを作った。

 

「やっぱり気が付かないやつ居るじゃないか。アルフォンス君、もうちょっと説明上手くならないと駄目だよ?」

 

「いやー、だって1から自慢したいじゃないですか。そんなことがあろうかとぉ! って感じで自慢したいんですよ」

 

 ほんわかとした空気を漂わせながらもアルは幻晶甲冑(シルエットギア)に乗り込み、古参の騎操鍛冶師(ナイトスミス)達は指摘した代表者を胴上げのように担ぐとそのまま幻像投影機(ホロモニター)に囲まれた例の椅子に座らせる。何がなんだか分からない状況の彼だったが、元実験班の班長が『お前は今、自宅の椅子に座っている。目の前の幻像投影機(ホロモニター)は自宅に備え付けられた物と考えろ』と前提条件を述べる。

 

「ほい、じゃあ動きますよー」

 

 彼らが話をしている間に幻晶甲冑(シルエットギア)に搭乗したアルは、一声かけてからおもむろに周囲を見渡しながら工房を出て行く。幻晶甲冑(シルエットギア)には先ほどのシルバーナーブがくっついているので、必然的に幻晶甲冑(シルエットギア)の見ている光景がリアルタイムで半円状の幻像投影機(ホロモニター)に映し出されていく。

 

「あぁ……そういうことか」

 

「理解したか? ……お前らも理解したか?」

 

 百聞は一見に如かず。アルが示した行動により、指摘していた若手騎操鍛冶師(ナイトスミス)は元気な声で返事をした。──そう。『幻晶甲冑(シルエットギア)に眼球水晶を搭載』、『眼球水晶を増やすことで幻晶騎士(シルエットナイト)の視野の改善』と先ほどアルが1つ1つ別の成果のように解説したが、全ては1つに繋がっている。

 そしてそれらを統括した成果こそ、今回リオタムスやウーゼルに差し出すべき成果なのだ。

 

「いやー、申し訳ない。つい、テンションが上がって別々に説明してしまいました。ですが、こういった1つの技術を今のように切り分け出来るのでご活用ください」

 

「確かにこのホロモニターの案は使えそうだな。今度、近衛騎士団の機体で試すか」

 

「そっすね。でも、その前に仕事終わらせちゃいましょう。シルバーナーヴ取って来ます」

 

 半円状の幻像投影機(ホロモニター)を叩く制作班の班長に若手の騎操鍛冶師(ナイトスミス)が一言言いながら工房の奥から銀線神経(シルバーナーヴ)が纏められた箱を持ち出してくる。工房らしく幻晶騎士(シルエットナイト)を動かすための銀線神経(シルバーナーヴ)は貯蓄されているのだが、残念なことに箱を開けてみるとどれも修繕に使いやすいように寸断されていた。

 

「この装置……機体? の欠点ですが、シルバーナーヴの長さが行動範囲になりますよね。……結ぶかぁ」

 

「ああ、さらにいえば馬車や雑踏などでシルバーナーヴが千切れかねん。補強も必要だな。……よし、若いやつ等は長いシルバーナーヴの作製と補強作業にかかれ」

 

「俺達も別れるぞ。陛下に献上する手前、シルエットギアにしても少し身奇麗にしておくべきだろう」

 

「では、若手の皆さんはシルバーナーヴの工作。後はシルエットギア全体の手直しと眼球水晶とホロモニターの同期作業に別れましょうか」

 

 冷静に報告と相談をしながらどうするべきか考える若手に、報告を聞きながら素早く今後必要なことを列挙していく古参。やはり、フレメヴィーラ王国の近衛騎士団は騎操鍛冶師(ナイトスミス)でさえもかなり優秀な人材だと再確認したアルは、今後のことを話すと全員に解散を告げる。

 

(ヨシ! ヨシ! ヨシッ! このデータを兄さんに伝えて、頭部にマウントするオプションワークスを仕立てよう!)

 

 ただ、工房の各所に散らばっていく騎操鍛冶師(ナイトスミス)達は知らなかった。アルにとってリオタムスからのオーダーはついでで、本当は先ほどの幻晶騎士(シルエットナイト)における視野の改善が本題だったことに。

 

***

 

 そして、プロジェクトの期日。ウーゼルが療養している屋敷の中では近衛騎士団の騎士団長と副団長。そして、近衛騎士団の騎操鍛冶師(ナイトスミス)隊長とアルがリオタムスの前で騎士の礼を取っていた。

 

「皆。よくぞ、作り上げてくれた。様々な報告が上がっているが、まずはどのように使用するか説明をしてもらおう」

 

「はっ! ウーゼル殿下、まずはこの椅子にお座りになってください」

 

「こうかい? ははっ、まるでエムリスから聞いたシルエットナイトに乗っているみたいだね」

 

 椅子に着席したウーゼルは軽く周囲を見渡しながら軽く笑う。対するリオタムスは何時ウーゼルの体調が急変するか気が気でない様子だったが、アルはそのまま幻晶甲冑(シルエットギア)を近衛騎士団の騎士団長に搭乗させると、予め作っておいたエンブレムに魔力を流して刻まれている魔法術式(スクリプト)を起動させた。

 

「このように、シルエットギアの眼球水晶が捉えた光景をホロモニターに映し出します。シルバーナーヴの長さは十分に取ってあるので、このままカンカネンの警備に行ってもらいましょう」

 

「承知した。副団長、1個小隊を編成して付いて来い」

 

「あ、急激な視点の変更は殿下が酔う恐れがあります。視点を変える際はゆっくり首を動かしてくださいね」

 

 アルの注意点にゆっくりと首を動かした騎士団長はそのまま副団長と共に屋敷を出て行った。

 その後は、特に事故も起きずに幻晶甲冑(シルエットギア)は正常にカンカネンの街中を映し続けていく。屋台が立ち並び、市民が思い思いの食事を摂っている平和な光景にウーゼルは『素晴らしい光景だね』と満足げに頷き、子供が遊びまわる光景を見ては『楽しそうだね』と笑顔を作る。その姿にリオタムスと騒ぎを聞きつけてこっそり屋敷に入ってきていたアンブロシウスは静かに頷いていた。

 

 そして、警備が終わった騎士団長は副団長達と共に銀線神経(シルバーナーヴ)を巻き取りながら帰ってきた。銀線神経(シルバーナーヴ)を巻き取る手間やら、声の連携が取れないことが欠点だが、『カンカネンを見たい』というウーゼルの要望が無事に叶えられたのでこれ以上の開発をする気はアルにはなかった。

 

「ははっ、ここまで賑やかそうな光景を見たのは初めてだ。アルフォンスと言ったかい? ありがとう」

 

「いいえ、殿下にご満足いただけて何よりです」

 

 交わした言葉は少なかったが、満足そうな声にアルは手ごたえを噛み締めながら屋敷を出る。

 その後として、この幻像投影機(ホロモニター)幻晶甲冑(シルエットギア)のセットはウーゼルの屋敷内に納められ、週1の頻度で近衛騎士団がその幻晶甲冑(シルエットギア)を用いてウーゼルに外の景色──それどころか、アルに触発された若手騎操鍛冶師(ナイトスミス)達が銀線神経(シルバーナーヴ)をさらに延長させたり、幻晶甲冑(シルエットギア)の頭部を幻晶騎士(シルエットナイト)の頭部に移すことでカンカネンの外や、幻晶騎士(シルエットナイト)から見た景色をウーゼルに見せて当人を大いに喜ばしたとか、なんとか。




あるかもしれない未来の話

??「六眼位の戦士だとっ!どこの氏族の者だ!」

??「兄さん。あの子、何言ってるの?」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。