銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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幕間(開拓野朗 銀鳳チーム前編)

 クシェペルカ王国上層部による抗議文の事件から数日経つが、アルは未だカンカネンの城に監禁されていた。公式な謝罪文と共にイサドラ宛にかなり砕けた文体の手紙を書いてはアンブロシウスに『もっと情熱的に書かんか!』と面白がられながら駄目だしを食らい、添えるプレゼントを王族が贔屓にしている商会から選んではノーラを含めた藍鷹騎士団の女性団員達から『いや、その形ダサッ。というか鉄華は流石に重過ぎ』と引かれながら駄目だしを食らう毎日。なお、巷に流れる鉄華を送るという意味がクシェペルカ版鉄華の意味になっていたことに気づいたアルは、『なんでや、ハートって女の子好きやろ。……クシェペルカであんなことしなけりゃ良かった』と過去の自分と自分のセンスを張り倒したくなった。

 

 そんな小さな黒歴史を紐解きながらも、とりあえずもろもろの事を終わらせたアルだったが、『これを機に領地関係の勉強も教え込もう』と王族R氏と王族A氏が悪魔のような提案をし、滞在期間が本日まで延びていってしまう。

 なお、A氏は『教えたら教えるだけ吸収していくから面白かった。ラウリ、すまん』とライヒアラの方向に向かってにこやかな笑みを送る姿が近衛兵によって確認されている。

 

「アル、迎えに……なぁにこれぇ」

 

「に"ぃ"さ"ぁ"あ"ん"!」

 

 そんなある日。銀鳳騎士団の今後の動きに変化があったために召喚されたエルがアルを回収するために一室に赴くと、そこにはノーラ達藍鷹騎士団員達の精鋭に見張られたアルの姿があった。一瞬たじろいだエルだが、泣き声を上げるアルをひとまず意識の外へ置くと、床に置かれている領地経営系の教本を興味深げに確認しながらノーラに近づく。

 

「そこのナマモノを受け取りに参りました。なんで、こんなの教えてるんです?」

 

「先王陛下が"面白そう"と申しておりましたので。私どもとしましても、アルフォンス様の今後を考えると必要になりそうなことだと思っております」

 

 分かっていたことだが、いざ犯人が分かるとエルも『やっぱりかぁ』といった表情を隠せなかった。だが、周辺事情も含めればアルがこういった領地持ちになる可能性はエルよりも高いため、彼は王族側の詳しい考えについては何も聞かずにアルを回収すると挨拶をして今度はリオタムスと謁見するために城の廊下を歩いていく。

 

「ところで、なんでここに居るんです?」

 

「リオタムス陛下から僕らの今後についてお話があると呼ばれたんですよ。なんでも、困ったことになったとか」

 

 エルの状況共有に、アルの表情筋はどう返答したらいいのか皆目見当がつかないような、なんとも言えない表情へと遷移する。そうこうしている内に2人は予めエルが伝えられていた集合場所の会議室の前にたどり着く。

 

「エルネスティ・エチェバルリア。アルフォンスと共に参りました」

 

「あぁ、入ってくれ」

 

 挨拶の直後に入室の許可が聞こえ、2人が中へ入ると既にリオタムスやアンブロシウスがなにやら地図を机に置いて話していた形跡があった。そのままリオタムスが全員に着席を促し、全員が着席を確認した彼は開口一番に『ボキューズ大森海への調査飛行をすることになった』と告げた。

 

「ボキューズ大森海……ですか?」

 

「なるほど。レビテートシップで空から偵察するんですね。調査如何によってはレビテートシップと地上で連携する第2次森伐遠征軍も視野に?」

 

「本当におぬし、どこかから情報を得ておったりせぬか? 今だったら藍鷹騎士団に編入させるぐらいの罰で帳消しにしておいてやるぞ?」

 

 『ボキューズ大森海への調査飛行』という言葉のみで今後話そうとしていた大まかな流れを言い当てられてしまったリオタムスは苦い顔でアルをガン見し、アンブロシウスは身に覚えの無い冤罪を被せつつ所属を変えさせようと脅す。だが、話題沸騰中である飛空船(レビテートシップ)の利点とボキューズ大森海を踏破しようとした森伐遠征軍という出来事の顛末を知っていれば、アルのような推測をするのは容易いことだ。

 

「森伐遠征軍の記録って残ってないですよね? 仮に第2次を決行するとなると、地上のシルエットナイトって結構貧乏くじになりません?」

 

「そうやって物事を急くのもおぬしの悪い癖じゃぞ、自重せい。まずは調査飛行じゃ。リオ、説明を頼む」

 

 調査飛行をすっ飛ばした発言にアンブロシウスはアルの頭をぺしりと叩きながら話を元に戻す。すると、アンブロシウスから説明の引継ぎを頼まれたリオタムスは、現在の状況と共に今回の調査飛行を発案した理由を説明し出した。

 

 このフレメヴィーラ王国は魔獣と呼ばれる存在が居ることは諸兄もご存知の通りであろう。

 だが、エル達が開発したテレスターレ。そして、それを基に開発されたカルディトーレが普及し始めたことにより、今まで対処に手一杯だった各領地の騎士団も余裕を持って魔獣を対処。そればかりか、予め入念な計画を立ててから飛空船(レビテートシップ)の強襲によって巣穴を持つ魔獣を蹂躙して周辺の村々に平穏をもたらした騎士団も極一部だが存在していた。

 未だに決闘級魔獣がダース単位で来た際などは死傷者も多いが、サロドレアの時代とは隔絶した余裕のある事後報告が各地の領主やカンカネンに飛び込んでいた。

 

 村や町への輸送に至ってもツェンドリンブル持つ領主が陸路での大規模輸送を始め、飛空船(レビテートシップ)もその数を増やすことで一部では空という邪魔者が少ない輸送路を用いた高速大規模輸送も始まっていた。

 これらの発展によってフレメヴィーラ王国はかなりの好景気に突入し、その恩恵によってどの領地も金銭的な余裕を手にしつつあった。

 

 しかし、そうなってくるとその余裕の健全な発散場所が必要となってくる。空という移動手段を確保した彼らだが、西は既に『国』という魔獣とは勝手が異なる存在がひしめきあっていて足を踏み入れる場所がどこにも無い状態だ。

 そうなると、残る選択肢はこのフレメヴィーラ王国が生まれたきっかけであるボキューズ大森海という人類未踏の地しかなかった。

 

「最近の銀鳳騎士団って割となんでもやらされますよね」

 

「そう言ってくれるな。お前達は……あまりにも期待に応えすぎたのだ」

 

「そうしなければ僕達が詰むので、致し方なかったという要素も入れて欲しかったです」

 

 ベヘモスは最初にエルが飛び出さなければ自分達の身も危うかった。テレスターレは──エルが暴走した。殻獣(シェルケース)幻晶騎士(シルエットナイト)量産の危機ということではっちゃけたが、元々は王族からのオーダーである。西方への遠征についても王族によるオーダーなので銀鳳騎士団の意思ではない。

 そう考えていくと、周囲が言うほど暴走していないのではないかと考えたアルだったが、仮にこれを王族以外の懇意にしている貴族──特にテレスターレ開発の縁で繋がった2人に聞かれたら首根っこをへし折られることは請け合いである。

 

「直木は先ず伐られるんですねぇ」

 

「アル、期待されているのですからそう言う不満は駄目ですよ」

 

 周囲に期待(りよう)されて身を滅ぼす類の成語を口にするアルをエルは軽く叱り付ける。

 『抜け駆けして返り討ちも怖いし、どーぞどーぞ』という思想が見え隠れしていても、どの貴族も抜け駆けをせずに王を立てるように陳情を出したのは事実だ。それにこの任務に抜擢されたということは、裏を返せば想定内の脅威についての対処能力が高いと周囲に認識されていることである。

 ただ、そう言い聞かせながら叱り付けるエルの姿にリオタムス、アンブロシウス両方が『幻晶騎士(シルエットナイト)一筋のこいつが弟とはいえ、他人を叱るだと!?』と信じられないものを見たような顔で驚いていたのだが、今まで彼が叱る姿を一切見たことがないのでそれはご愛称だ。

 

 その後、銀鳳騎士団では使用する幻晶騎士(シルエットナイト)の性質上、任務に支障が出ると危惧したエルが紫燕騎士団に応援を要請。逆に銀鳳騎士団側からはつい最近出来上がった『飛翼母船(ウィングキャリアー)』と最強の機体であるイカルガを出すことになった。

 

「あれ、僕は行かないんですか?」

 

 話の終わりに、てっきり自分も行くと思っていた調査飛行に自分が指名されていなかったことをアルは疑問に思う。現在、アルの乗機は空戦仕様機(ウィンジーネスタイル)なので、行こうと思えば付いて行くことは可能だ。そして、紫燕騎士団にとって彼は教官なので、空戦仕様機(ウィンジーネスタイル)同士の陣形のやり取りもコミュニケーションも円滑に出来るだろう。

 

「ほら、僕達の騎士団って今は例の件があるじゃないですか。それを見届ける意味でもアルには居て欲しいし、仮に僕が帰ってこなかった場合のことを考えると……ね」

 

 今回の調査飛行の対象は、かのベヘモスも這い出てきた魔の森だ。念には念を入れないと呆気なく足元をすくわれる可能性も大いにありえる。

 そして、今の銀鳳騎士団はフレメヴィーラ王国中にその名を知らしめている存在。それが機能不全に陥った場合のリスクは、各貴族や王族にとってなるべく考えたくもない事態だろう。

 さらに付け加えるならば、先日の抗議文からクシェペルカ王国のロックオン具合に若干寒気を覚えていたリオタムスは、エルがアルを連れて行かないという判断に心の底で安堵を覚えていた。

 

「ですが、そうなった場合は僕も大森海に赴く可能性がありますよ。ていうか、絶対探しに行きますよ?」

 

「僕も同じ立場の場合はそうしますよ。ですが、そうするまえに色々やることがあると思いますが?」

 

 アルが言い返すだろう言葉をとっくに予測していたエルは、言い返しながら視線をアンブロシウスやリオタムスに移す。騎士団という1個の組織を気ままに動かすことは、如何に副団長としても不可能に近い。ならば、必然的に銀鳳騎士団の雇い主──つまり、王族に承認してもらわなければならない。

 仮にエルを失った際、アルというスペアをわざわざ生きているかも死んでいるかも分からないエルの捜索に充てる必要性を説かなければならないので、そこらへんも十分に考えねばならない。

 

「然り。先のことが不明ゆえに全て仮定の話になるが、エルネスティもアルフォンスもフレメヴィーラ王国には必要不可欠な人材。だからこそ、失敗した際に後を追うのであれば相応の理由と根回しが必要じゃぞ?」

 

「特に理由だな。理由なき強行は子供の駄々と同じだ。……まぁ、横に本人が居る手前でこういうのは縁起が悪い。この話はここまでにしよう」

 

 無理やり話を切ったリオタムスは調査飛行に関しての物資の貯蔵先や紫燕騎士団との情報の共有といったことを話し、エルもその話をメモしながら調査飛行に随伴させるメンバーの情報を話しながらアルにメモを取らせる。

 

「時にエルネスティよ。ウィングキャリアーの操船に銀鳳騎士団のナイトスミスが必要だということは、騎士団としての業務はどうする? 修繕もままならないだろう?」

 

「一部を連れて行くだけなので、開発は厳しいですが警邏には問題ありません」

 

「ふむ……。リオ、ラボからでたあの件。少し早いが試しにやってみるのも面白かろう?」

 

「ああ、あれですか。たしかに早いか遅いかですし、試してみてもさほど問題はないでしょう」

 

 知らない話題について話し込む2人にエルとアルは首をかしげていると、それに気づいたアンブロシウスが詳しい説明をしてくれた。

 なんでも、アルやダーヴィドが何度も国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)に出向しては技術などを押し付けていくので、騎士団に興味を持った若手が『これはお遊び研修ではない。銀鳳騎士団への命を賭けた技術研修だ!』と豪語しながら転属したいと願い出たらしい。

 なので、調査飛行によって銀鳳騎士団の騎操鍛冶師(ナイトスミス)を補充するという名目で試験的に国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)騎操鍛冶師(ナイトスミス)を転属。『いつもどおりの銀鳳騎士団』を体験させることで反応を見ようと計画していたのだとか。

 

「え、うちってシルエットナイトもレビテートシップも開発する変なのですよ?」

 

「基本ごった煮のカオスですもんね」

 

「そう思うなら少しはまともな運用にする努力をな。……まぁ、それでも構わないという者を集めさせるから受け入れを頼む」

 

 自分達の騎士団なのに奇行ばかりする困ったちゃんのような言い方をするエル達にリオタムスはもっともな言い方で諭す。しかし、国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)からの増員は錬度や意気込み的にも銀鳳騎士団の気風と合っている気がするので、ありがたくその申し出を受けることにした2人。

 ただ、いつもどおりの銀鳳騎士団といっても現在は空戦仕様機(ウィンジーネスタイル)飛翼母船(ウィングキャリアー)が作業を一時的に止めて休止を宣言した直後なので、次に何を作るのかも議論されていなかった。

 そのことについて話すと、アンブロシウスとリオタムスが部屋の隅で相談を始め、数分後に『要望を出しても良いか?』というまさかの開発指令が飛び込んできた。

 

「此度の調査飛行の後、即座に森伐遠征軍が組織されるか分からんが、ボキューズ大森海を舞台にするのは確かだ。なにか役に立つものを開発できないか?」

 

「それはシルエットナイトですか? オプションワークスですか? それとも、レビテートシップですか?」

 

 かなりふわっとした依頼。それだけでは分からないと、アルはより詳細に用件を詰めようと質問する。──が、リオタムスからの返答は『任せる』というこれまた依頼としては不適格なフリーハンドを認める言葉だった。

 

「任せるって言ってしまったら、この子は際限なく作り続けますよ? 僕のようにメモ帳に書かないで贅沢に紙に書いてますし」

 

「それで構わん。ボキューズは我らにとって未知の領域。ならばこそ、手当たりしだいに開発し、それを我らが利口に使用すれば良いだけのこと」

 

 文字や絵がぎっしり書き込まれているメモ帳を片手に依頼結果を具体的にするよう指摘するエルだが、ボキューズ大森海の中は未だ正確な調査が行われていないことから、アンブロシウスは手札の増強という名目で再び開発においてのフリーハンドを言いつけた。

 そうなるともう、アルにとっては『時は来た。それだけだぁ』状態である。すぐさま机に置いてあった白紙の紙を奪い取ると、エルの携帯しているインク壺とペンを強奪する。

 

「ボキューズを開発するのであれば拠点防衛は必須。そのためにはキャリッジを改造しましょうかね? そして、ベヘモスのことを考えると空の師団級も想定した装備や機体が必要ですね。後は……小型魔獣の数も馬鹿にならないので、シルエットギアで戦闘できるような武装。土木開発用のオプションワークスとか。……うわぁ、なんだか大変なことになっちゃったぞ」

 

 一気に開発物を書き連ねたアルがふと正気に戻ると、注文した料理のメイン食材がダブった貿易商のような悲鳴を嬉しそうに上げる。少し考えただけでもこの惨事なので、時間を置くとさらにぽこじゃかと案が出てきそうな気配がしたエルは、アルに一旦静止するように告げる。

 

「待ちなさい。まずは僕や親方が見てから決定しましょう」

 

「んあぁ!」

 

「それにこんな数の開発は無理でしょ。……あ、これは色々流用できそう」

 

「んあぁ!」

 

「いや、こうなるとウィングキャリアーより小さい母船も用意しておいたら便利じゃ……。陛下、レビテートシップを改造用に1隻用意できません?」

 

「いや、なんでそうn「ラボのヨーハンソンも持て余し気味だったな。それを改修させるのはどうじゃ?」うぇ!?」

 

 気づけば静止させようとしていたエルが更なる案を書き連ね、その横ではアルがI字開脚させながらなにかから乗り降りしそうなビバリー○ルズ在住のキャラのような返答を連呼。アンブロシウスはエルからの飛空船(レビテートシップ)という大物の注文に対して乗り気という臨界一歩手前の混沌な状態となっていた。

 

 ただ、ヨーハンソンという飛空船(レビテートシップ)はフレメヴィーラ王国で飛空船(レビテートシップ)が建造できるのかアルを出向させて試験的に作らせた関係上、物資の移動も幻晶騎士(シルエットナイト)の移動もまずしない国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)にとっては持て余し気味という報告を受けていたのは事実。それでも二つ返事で渡すのはどうかとリオタムスが理由を尋ねると、アンブロシウスは不思議そうな顔をした。

 

「ワシらが任せるといった手前、協力しないのは不義理であろう? それに、持て余している飛空船(レビテートシップ)1隻からボキューズ開発の要が生まれる可能性もこやつらなら十分にありえる。ならば、我らのすることは賭けれる物を全て賭ける気概を見せることじゃろ?」

 

 至極全うな言い分にリオタムスは諦めたかのように『そうですね』と呟くと命令書を認めるために机に噛り付く。

 

「先王陛下、整地用の掘削装備とかどうです?」

 

「ならば、両手に付けましょうよ! 飛ばすのも格好良いですよね!」

 

「ワシとしてはこう……攻撃に転じやすい武装をだな!」

 

 リオタムスが真面目に考えながら命令書を書く中、横では和気藹々とした様子で3人が次々と思いついた案を手当たり次第出していく状況が一向に止まない。1人だけ蚊帳の外 + 戦闘や幻晶騎士(シルエットナイト)の興味もそこそこなリオタムスは、『もう帰ってくれないか』という言葉を必死に飲み込んでいた。

 

***

 

 銀鳳騎士団に新しいオーダーが課せられて数日後。デュフォールの方角から1隻の飛空船(レビテートシップ)が飛んでくる。

 一応形式に沿って第3中隊のトゥエディアーネに所属を聞いてもらってから、そのままオルヴェシウス砦の横に併設されている飛行場へ誘導してもらう。飛空船(レビテートシップ)──ヨーハンソンのタラップから続々と騎操鍛冶師(ナイトスミス)が降りてくるが、それに続いて騎操士(ナイトランナー)らしい格好をした人間も続々と降りてくる。

 

「お久しぶりです!」

 

「お久しぶりです。……てっきりナイトスミスの方だけかと思っていましたが」

 

「私達だけじゃテストもままならないからって理由でネジ込んできたんだよ。まっ、暇な時はそっちの戦力としてこき使ってやってくれって言われたから、その通りにしてやって」

 

 顔見知りの騎操士(ナイトランナー)と握手を交わしていると、横からデシレアが騎操士(ナイトランナー)がついてきた理由を話す。正直、第3中隊がいるので試験騎操士(テストランナー)には事欠かないのだが、裏を返せばテストが原因で開発が遅れることはまずなくなるので、アルは『助かります!』と元気の良い声を出しながら転属組を歓迎する。

 

「それにしても、これが"イズモ"ね。話には聞いてたけど、ヨーハンソンが子供に見えるぐらいの大きさなんて……苦労したんじゃない?」

 

「そーなんだよ! そこの騎士団長や副団長がおかしなことばっかり言ってさー!」

 

 先ほど降りてきたばかりのヨーハンソンとその横に鎮座する飛翼母船(ウィングキャリアー)の1番船である『イズモ』の大きさを比較し、職業柄作成が完了するまでの工数を頭の算盤で弾いていたデシレアの横から銀鳳騎士団の造船部隊を纏める存在にまで昇格したバトソンが姿を現す。

 噂程度に囁かれていたフレメヴィーラ王国製輸送型飛空船(カーゴシップ)を遥かに凌ぐ飛翼母船(ウィングキャリアー)を実際に手がけたチームの1人。新たな技術の香りを感じたデシレアは、瞳を怪しく輝かせながら詳しく話を聞き始める。

 

「へぇ、詳しく話を聞かせてもらえるかい?」

 

「まず、なんといってもこの大きさだよ! トゥエディアーネなら中隊が入る広さだよ!?」

 

 未だ疲れが取れていないのか、やたら目をギラつかせたバトソンはハイテンションで語りながらイズモを指差す。イズモの船倉は荷運びを主任務とする輸送型飛空船(カーゴシップ)とは違い、空戦仕様機(ウィンジーネスタイル)との連携を前提として設計されている。それゆえに最大で10機──中隊規模の機体を収容し、さらにはそれらの機体を整備出来るほどのスペースが確保されているのだ。

 

「いやー、他にも兄さんの考えを多分に含んだ夢の船ですからねぇ。今のご時勢を加味しても、この船だけでどこかの都市1つぐらい落とせそうじゃないです?」

 

「そこ、物騒なこと言わない!」

 

「アルは人のこと言えないでしょ! エルの案がマシだから採用されただけだからね! なんだよ、3個中隊規模の広さが入る船体3つを合わせた船って!」

 

「えー、船団組んで行動とかめんどくさいですし……。1隻に集約できるならお得じゃないです?」

 

 割と洒落にならないことを語るアルに対し、デシレアは誰かに聞かれていないか周囲を見渡す横でバトソンは開発当初の不満をぶちまける。

 たしかに空戦仕様機(ウィンジーネスタイル)を運用する上では輸送型飛空船(カーゴシップ)で船団を構成し、それぞれに幻晶騎士(シルエットナイト)騎操士(ナイトランナー)をバラけさせながら荷物を運ぶという手法が現時点では最良と言える。だが、そこにエルとアルは『どうせならどデカい船作りましょう』と一石を投じたのだ。

 最初はいつもの発作かと仕方なく聞いていた造船班だったが、話を聞いていく内に『機能を両立できるなら確かにお得だな』とノリ気になっていくという傍目から見たいつもの流れが展開されていく。

 

 しかし、そこから設計におけるエルとアルの食い違いが生じることとなった。

 エルの案は現在のイズモ。中隊規模の機体を収容して満足に整備できる大きさ(それでも輸送型飛空船(カーゴシップ)と比べてかなり大きい代物)を設計するが、アルはそれよりも大きな3個中隊という現在の銀鳳騎士団の実働部隊がすっぽりと入るぐらいの大きさを切望し、さらには両端に倉庫用の輸送型飛空船(カーゴシップ)を増設するという三胴形式(トリマラン)の外見を発案してきたのだ。

 どう考えても工期が足りないとの理由でアルの案は棄却されることになったが、あの時の目はマジだったと当時の行動を思い出したバトソンは身震いをさせながら語る。

 

「すみません。レビテートシップを好きに建造できるって聞いて僕の中の提督が溢れ出したんです。……本当は艦首に超大型のシルエットアームズ付けたかったんですが」

 

 未だに未練たっぷりのアルにバトソンは黙って首を振り、デシレアは『転属を受けるのは早まったか』と技術研修を前に我慢できなかったあの時の自分達を責める。

 

 その後、国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)から転属してきた騎操鍛冶師(ナイトスミス)騎操士(ナイトランナー)の住居や騎士団のルールなどを連携し、ようやく転属1発目の大規模な打ち合わせが行われた。工房の会議室にはダーヴィドを含めた銀鳳騎士団の騎操鍛冶師(ナイトスミス)達とデシレアを含めた転属組の騎操鍛冶師(ナイトスミス)達が勢揃いし、その後ろで騎操士(ナイトランナー)達が今後のテストに備えて立ちながら話を聞く体勢に入る。

 

「それでは、今回のオーダーを発表します。今回は陛下からボキューズ大森海を開発するために必要そうな物というふわっとした依頼を受けています」

 

「それは……なんとも覚束無い依頼ね。それに、この騎士団のナイトスミスや騎士団長は準備が終わり次第ボキューズに調査飛行に出掛けると聞いたけど?」

 

 あらかじめ銀鳳騎士団の大まかな予定について聞いていたデシレアの質問に、アルは問題ないことを告げる。

 エルやダーヴィド達がボキューズ大森海に赴くのは物資の準備が完了しだいだが、その準備には長い時間がかかると思われる。なにせ、騎士団2つ分の食料や幻晶騎士(シルエットナイト)の補修物資、飛空船(レビテートシップ)が飛ぶために必要な源素晶石(エーテライト)など、様々な戦略物資がカンカネンに運び込まれるのだ。調達時のトラブルなども加味するとなると、アルでは判断できないほどの時間が消費されるだろう。

 それに、リオタムスや紫燕騎士団のトルスティには物資搬入の現場進捗の報告や召喚状の送付をお願いしているので、今からわちゃわちゃと忙しなく行動することはないだろうと説明する。

 

「銀鳳騎士団が出すのはイズモとイカルガだけなので、点検は骨ですが割と暇なんですよ。なので、不明点は今のうちにどんどん聞いてもらえると助かります」

 

「旗機や新しい概念の巨大レビテートシップの管理だけでも大変だと思うんだけどね」

 

 何気なしに話すエルやその言葉に『いつものことだしなー』や『あんまりやることないよな』と笑いながら答えるダーヴィド達。ただ補足すると、銀鳳騎士団側としてはイカルガのメンテもいつものことだし、飛空船(レビテートシップ)の概要も既に全員理解しているので、これらの作業は苦にはならない。

 たしかにエルの発案した機能の細かな調整や試運転をするのは手間がかかるが、全体的に見れば『暇寄りの忙しさ』と言える。

 逆に言えばそれほどまでにエル(またはアル)や時勢に調教されたともいえるのだが、細かな情報を知らない騎操鍛冶師(ナイトスミス)は須らくダーヴィド達に尊敬の念を抱いていた。

 

「じゃ、疑問も解消したっぽいので本題はいりまーす」

 

「え、この量。短期間でやるの?」

 

 本題に入る宣言と同時に黒板には様々な紙が張り出される。最初は国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)でも行っている、全員が見やすくするために同じ設計図を複写していると思っていた転属組。しかし、よくよく見るとどの設計図も記載されている図形や内容が完全に異なっていた。

 完全に別物。そのことに気づいた一行は精神力をガリガリと削られていくが、それでも工期は十分に取ってくれると一縷の望みを信じたデシレアはアルに問いかける。

 

「え、まさかこれ。短期間で出来るんで「イヤイヤイヤイヤ ムリムリムリムリ」ですよね」

 

 ただ、その質問の意図を『短期間で余裕っす』と解釈したアルが勘違いするが、聞き返した途端に転属組が揃って手を高速で振ることで話を無事に軌道修正させ、そのまま工期についての話をするアル。

 方針は既に『依頼は何をどれだけ開発すると決めていないから適度にゆるく作っていく』と決めており、工期をカツカツにする気はないが『次』があった時に備えれるように数個は開発したいと、アルは鶴嘴やシャベル、ハンマーといった土木作業を行う装備が描かれた設計図を軽く小突く。

 

「手始めに既に実績のある物を改修していきます。見覚えがあると思いますが、これは土木工事を行うためのオプションワークスで、すでにとある要塞やウエスタン・グランドストームで使用実績があります」

 

「お、私達が昔に試作したものじゃないか」

 

 土木工事を行うため、国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)が試作した追加装備(オプションワークス)──アルチュセール山峡関要塞やミシリエで大活躍した共通土木パッケージの存在を思い出したデシレアは声を上げる。

 もちろん、アルが行ったとおり『改修』なので色々変更点は存在するのだが、自分達が設計や試作した覚えのある物を手直しするという作業に転属組からの熱気が上がる。

 

「改修ポイントは多々ありますが、まずはサブアームを撤去して大型クレーンを導入しましたが、バランスが取りにくいと言う現場報告があったので、サブアームに巻上装置を取り付けることにします。次に、こちらの重機類を前腕部に取り付けれるようなアタッチメント形式で開発します」

 

 サブアームの手に円筒形状の部品を持たせたり、物を挟みこめるように万力のような形の装備(クローアーム)や地面を掘削する円錐螺旋状の掘削装備(ドリル)。さらには小さな刃がついた伐採装備(チェーンソー)といった前腕部に取り付ける予定の追加パーツの絵を無心で黒板に描きこむアルだったが、転属組の1人から放たれる一言で書く手を止めた。

 

「意外だね。アルフォンス君のことだから腕をそのオプションワークスに入れ替えると思ったのに」

 

「それは僕も兄さんも思ったんですけど、そこの親方に怒られまして」

 

「いや、俺は悪くないだろ! 手の代わりにそれをくっ付けてみろ、乗り換えや整備が面倒だろうが! それにお前等、足もパッチワークみてぇに4本足とか足を逆に折ったみてぇな変なのにしようとしてただろ! ただでさえ時間ねぇのに、そんな変なもん作れっか!」

 

 どうやら武器腕派 VS アタッチメント派の戦いは既にあったらしく、その勝負も『ロマンよりも実利』という決まり手で既に勝敗は決していた。

 しかし、よくよく考えれば手の変わりに搭載するとその分幻晶騎士(シルエットナイト)が必要になるので、整備や仮に重点的に伐採を行うといった場合の作業がやりづらくなってしまうので、明らかにダーヴィドの言うほうが正論である。

 

「しかし、腕武器こそロマンですよ! 無いから作るんですよ!」

 

「これだからもじゃは! 4足、キャタピラは土木メカの鉄則でしょ! 逆関節はただの趣味です! 設計は……まだしてません!」

 

「倉庫の肥やしをこれ以上増やしてたまるかってんだ!」

 

『があぁぁぁ!』

 

 未だに納得がいかないのかダーヴィドに噛み付いた挙句、アイアンクロー状態で宙にぶら下げられて叫び声を上げている騎士団長と副団長の姿に、デシレアは『聞かん坊はああして躾るのか』と割と間違った知識を植えつけられたのだった。




次回、開拓野朗 銀鳳チーム後編! チェーンソーやドリルで開拓したり、魔獣と言う名のでかい害獣のどてっぱらに風穴を開けるぞ!

※来週からまたしても環境が変わります。投稿頻度が分からなくなるのでご了承ください
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