銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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・女性主人公(アズ)/地上ルート。
・体験版(4話)までを一応予定。
・幕間は不定期に更新予定。
・原作と内容や戦闘の流れの一部が変わっているので、ご注意を。
・未購入の人には序盤のネタバレになります。
・皆もスパロボ。買おう。

以上の注意点に気をつけてご覧ください。


幕間(スパロボ2話)

 三洲湾に隣接する『南原コネクション』という科学研究施設を目指すドライストレーガーの格納庫では、相変わらずパッチワークの改造が行われていた。電子部品や各種ケーブルを配線し、武装や操縦席に取り付けられたモニターの調整を行うというそれらの作業を区切りつけたジークンは、メカニック達に一息入れようと提案する。

 

「いやー、これまだ5割なんですよね」

 

「ひのふの……さっきのモニター設置でようやく5割だよ。あとはテストもあるんだから笑えねぇ」

 

 近くの床に座り込み、飲み物を口にするメカニックの言葉にジークンは端末を弄るとパッチワーク改造計画のタスク表を表示させる。これはアルとジークンが協力して作成した表で全部で数百にも及ぶ改造実施項目の内、半分は消化されていた。これからさらにテストも加わるので、メカニック達の表情はますます暗くなった。

 

「だけど、この計画作るのも結構大変だったんだぜ? あいつって機動兵器のことになるとネジ外れるからさ。最初は甲児さん呼んで光子力に手を出そうとしたり、ジェガンの核融合炉もサブの動力炉にしようと言って来たりして、それを何とか理由つけて止めさせて……。もうあいつと改造案を詰めるのやりたくねぇ」

 

「この前、ヒュッケバイン30の装甲板の裏地にクリスタルティシューっていう、なんでも魔力を貯蓄する部品を固定しようとしてましたよ。こっちの方が装甲の品質が良いからとかなんとかで」

 

「ああ、やりそう」

 

 メカニックの頭の中であの小さい子供がジークンの周りをチョコチョコ歩き回ってはどう考えても無茶な──いや、組み込むのにかなり大変な改造案を希望してくる姿が浮かんでくる。

 機体をメンテナンスする上で一番厄介な部分は動力炉系統である。ジェガンなどの核融合炉など、ちょっと扱いを間違えただけでも大惨事なのに、そこに追加で幻晶騎士(シルエットナイト)を動かす動力炉である魔力転換炉(エーテルリアクタ)も調整というおそらく地球連邦軍至上初めての試みは、士官学校に未だ籍を持つジークンには手の余る所業であった。

 ただ、この時のジークンは知らなかった。1か月もしない内にアルと同じような子供が参入し、毎日という頻度で動力系統や操作系統といった細かい部分にメスを手当たり次第入れるような改造の要望書が舞い込んでくることに。

 

 閑話休題

 

「はぁ……。おっと、召集がかかってたんだった。お前達も南原コネクションに備えて第1格納庫の掃除しておけよ」

 

 端末のアラームにジークンは慌てながら格納庫を飛び出していく。メカニックの数人が『南原コネクション』という単語に急いで向かおうとし、勉強不足ゆえに休憩を続けていたメカニックはその数人にどやされながら渋々第1格納庫へと向かっていった。

 第1格納庫。それはモビルスーツやイチナナ式のような比較的小柄な機体とは別の『重特機』を扱うためのハンガーが存在する場所で、これから赴く南原コネクションと大いに関係する場所であった。

 

***

 

「伊豆……踊り子……温泉」

 

「アル君、伊豆詳しいの?」

 

 伊豆に想いを馳せながらすごい勢いで野菜を刻むアルに船務科の女性が声をかけてくる。前世によく『休みになったら温泉行きてぇ』と呟きながら温泉地について調べては、休み当日に『やっぱ良いかぁ』と外に出ること自体億劫になっていたアルは結構日本各地の名所に詳しい。

 

 ただ、この世界は大規模な戦乱の真っ最中なので多くのレジャー施設は閉鎖されているのだが、こんな状況下でも逞しい店や文化は存在していたりする。そんな伊豆の情報が詰まったパンフレットが表示された端末を隣で声をかけてきた女性に見せながら、アルは大型の冷蔵庫から生鮮食品が詰められた箱に入っていた大量の小鯵が並べられた複数のバットを取り出した。

 

「いえ、調べました」

 

「パンフッ! ……ほんとあなた異世界人?」

 

「はい。異世界産で、異世界から現地直送のアルフォンスです」

 

「温泉……わざわざお金払ってお湯に入るの? シャワーで良くない?」

 

 小鯵に軽く塩をし、出てきた水分を酒で洗い流している最中、配膳するための皿を取りにきたアズが首を傾げながら温泉について聞いてくる。この数日でアズはお金について多少煩いことが分かったアルだが、アルの中に眠る日本人の魂がアズの物言いを聞いて、『これだから外国人は』と妙な上から目線で呆れる。

 ただ、ここでギャースカ騒ぐのは厨房的にもアウトだろうし、『"小っちゃい子供"相手に大人気ない』ということでアルは、さらに『お金の無駄だと思う』と続けるアズに青筋を立てながら穏やかな口調で語りかけた。

 

「風呂は命の洗濯と言いますからね。大きいお風呂に浸かることで心身ともにリラックスが出来るわけですよ」

 

 異世界人が風呂を語るという滑稽な姿に、アズは風呂に対して興味なさそうな表情をしながら『ふーん』と言って厨房を後にする。人が熱弁しているのにも関わらず、同調も反論もしてくれない冷めた反応に油の準備をしていたアルは、『あの小娘、風呂に沈めて風呂の良さを味あわせてやろうか』と菜箸を握り締める。

 

 ただ、その独り言を聞いた女性スタッフに『女の子に対してその言葉は二重の意味で止めようね』と窘められ、怒られたことによってしわくちゃの電気ネズミのような表情で落ち込んだアルはひたすら小鯵を揚げた端から別で作っておいた南蛮ダレに絡ませる機械と化した。

 やがて、軽く見積もっても100匹以上は居た小鯵が全て揚げられ、野菜と共に南蛮ダレに漬け込まれる。後は冷蔵庫で寝かせるだけと思った矢先、艦内に緊急を告げるアナウンスが流れた。

 

「これよりドライストレーガーは最大戦速へ移行。南原コネクションにて部隊を展開するネオ・ジオンに対して攻撃を仕掛けます。パイロットは各自の機体で待機をお願いします」

 

 そのアナウンスにアルとアズはその場をスタッフに任せ、艦内の廊下を走っていく。正直、アルのパッチワークは未だ改造状態なので待機しても仕方ないのだが、戦闘がある以上は歩兵も必要だろうと少し前から考えていた『とある装備』をこちらの世界で作り出そうと決意する。

 

 やがて格納庫にたどり着いた2人。アズはヒュッケバイン30に飛び乗り、アルはパッチワークのすぐ横に置かれている仮設の資材置き場の前に座り込む。幻像投影機(ホロモニター)銀線神経(シルバーナーヴ)といったパッチワークから取り外された資材の中から長めの銀線神経(シルバーナーヴ)綱型結晶筋肉(ストランド・クリスタルティシュー)の欠片を取り出したアルは、格納庫をでて射撃訓練場へ向かう。

 

「えーっと、狙撃銃狙撃銃……あった!」

 

 立てかけられた訓練用の狙撃銃を持ったアルはちゃんと弾が抜かれていることを確認すると、銀線神経(シルバーナーヴ)を狙撃銃に巻き、銃口に触媒結晶である綱型結晶筋肉(ストランド・クリスタルティシュー)の欠片をしっかりと固定する。

 そう、これは幼少時にアルが作製した銃杖(ガンライクロッド)『サンパチ』の復元バージョンである。現在は銀の手甲に触媒結晶を固定した『アガートラム』で事足りているのだが、狙撃というアルのイメージ的にサンパチを使用した方がしっくり来るのだ。

 

 その現地改修版サンパチにスリングを通したアルは、サンパチを肩に背負いながら元来た道を戻ると既にイチナナ式とヒュッケバイン30が甲板に上がるためのエレベータに乗り込もうと歩き出していた。それを見たアルはすかさず圧縮大気推進(エアロスラスト)でその場から大きく跳躍。資材固定用のクレーンや高所作業用の手すりを足場にすることで、ヒュッケバイン30の背中に張り付いた。

 

「ん? なんか見えたような……あれ、アルってどこ行ったんだ?」

 

「さっきはそこの資材置き場に座ってたんですが……あれ?」

 

 小柄かつ、メカニック全員がアルを探して広大な格納庫の床を向いていたことで、姿を誰からも見られていなかったアルは、そのままヒュッケバイン30の背中に張り付きながらエレベータを通ってドライストレーガーの甲板に出る。すると、ヒュッケバイン30は甲高いスラスターの音を響かせながらドライストレーガーの甲板から飛び降り、近くの小島にイチナナ式と共に着地する。

 

「行くぞ、アズ!」

 

「はい!」

 

 南原コネクションを包囲するネオ・ジオンに所属するモビルスーツ『ギラ・ドーガ』を迎撃するために甲児のイチナナ式が飛び出し、ヒュッケバイン30もそれに続く。

 その背中に乗っているアルも必然的に敵に向かうことになるのだが、ヒュッケバイン30が勢いよく水の中に飛び込もうとしていたので、アルは直前にヒュッケバイン30の背中から緊急離脱を計る。圧縮大気推進(エアロスラスト)を用いてヒュッケバイン30の背中から大きくジャンプし、近くの森林部へ着陸したアルは『あぶねー』と冷や汗をかきながら端末を取り出した。

 あらかじめ登録していた数名の連絡先の中からメイヴィーの連絡先をタップして耳に当てると、数度のコールが鳴った後にメイヴィーの声が聞こえてきた。

 

「もしもし亀よー。メイヴィーさんですか?」

 

「ああ、メイヴィーだよ。アルは今……なんでそんな所に居るんだい?」

 

 突然。しかも戦闘行動中の通信にメイヴィーはアルの現在地を端末のIDから検索する。すると、ドライストレーガーには居ないことに気づいたメイヴィーが、検索範囲をドライストレーガーを中心に南原コネクションがすっぽり収まるほどの距離に広げてみると、近くの森林部からその通信が送られていることに気付いて思わずアルに聞き返した。

 

「出来ることを精一杯やったらこうなりました。今使ってる部隊内の通信チャンネルにこの端末を割り込ませることは可能ですか?」

 

「そろそろ艦長にその言葉を理由に無茶するの禁止されそうだね。とりあえず分かったよ。……でも、どうやって外に出たんだい? 一応船の扉はカードで管理してるんだけど」

 

 ドライストレーガーはそれぞれが持っているIDカードなどで乗退艦や部屋の入退室を管理している。ここ最近のドライストレーガーの履歴を見たが、アルがドライストレーガーを退艦した形跡が一切なかったのでメイヴィーがそのことについてアルに聞くと、アルが『ヒュッケバイン30に引っ付いて外に出ました』と答えたので『その手があったか』と頭を抱える。

 

(この子、機体と共連れしてるよ)

 

 本来はIDで入退室をする部屋で他人が入るのと同時に入退室するのが、正しい『共連れ』であるのだが、アルがやったのは『機体にくっついて外に出るという』誰も予想していない行為なのでメイヴィーは顔を引くつかせる。

 もちろん、どちらの行為もセキュリティ違反に属する行為なので、早急に対応が求められる案件なのだが、『どうやって対策するんだよ』といった気持ちで一杯だった。

 ただ、今は戦闘中なのでメイヴィーは、アルの言った通りに現在味方間で行われている通信のグループの中にアルの端末を入れることにした。

 

「こちらアルフォンス。敵はナイスな頭部を持つ5機ですね。端末越しから索敵情報送ります。あの肩装甲も格好良いなぁ」

 

「アル君!? 今どこに居るの!」

 

「こちらメイヴィーだよ。彼は今、この艦から右斜め300mぐらいにある林の中だね。どうやらヒュッケバイン30にくっついて外に出たらしい」

 

 メイヴィーからの報告にミツバやレイノルドは最初何を言っているのか分からなかったらしく、彼女達の頭の中に木魚の音が反響する。そして、アルが木登りをしたのかやけに高い視点からの敵の位置情報を送ってきたタイミングでようやく理解したのか、『はぁ!?』という2人の声が艦橋中に響き渡った。

 

「アル君! その場から離れなさい! 早く!」

 

「モビルスーツに人間が勝てるわけないだろう! 早く戻りたまえ!」

 

「索敵情報送るだけなんで大丈夫ですよ。あ、甲児さん。左から敵が近接戦仕掛けようとしてます。アズはそっちから見て右に水の中に入ろうとしてる敵が居ますよ」

 

 ミツバ達がその場から退避を叫ぶが、アルはパイロット達に情報を伝達していく。その情報伝達や相手の行動予測が思いのほか正確で次々とギラ・ドーガが屠られていき、途中で参戦したコン・バトラーVの登場によって形勢は一気にドライストレーガー側に流れた。

 

「ネオ・ジオン軍、残り僅かです。アル君、この後ちょっと艦橋に来てくれる? 言いたいことがあるの」

 

「私もちょーっとお話があるんだけどなぁ。すっごく大事なお話なんだけどなぁ」

 

「僕も君に言いたいことがあるんだ。なに、君次第だが手間はとらせないよ」

 

 耳からは艦橋組からの妙に優しい猫なで声や怒気が若干漏れている声が響く。それらの声にアルは、『ふっ、モテる男は辛いぜ』と軽口を叩き、再びヒュッケバイン30の背中に張り付く。

 ほとぼりが冷めるまで行方をくらまそうと考えながらヒュッケバイン30の背中を堪能していると、水の中から中破状態のギラ・ドーガが姿を現した。既に手には光刃を斧状に展開した棒を握っており、アズが気づいても回避するのが困難だと推測したアルは、ギラ・ドーガに向けてサンパチを構えながら演算を開始する。

 

「フレイムストライク スナイプショット」

 

 至近距離に爆炎を起こす魔法を何回も圧縮させるスナイプショットの魔法術式(スクリプト)を噛ませることで飛距離貫通力の揚がった炎弾は、ギラ・ドーガの頭部にあるモノアイを貫通。その後、炎弾が内部で爆発することで頭部に納められていたセンサーや部品が完全に破壊され、コクピット内のモニターの一部に不調が起こる。突如モニターの一部が死んだことでネオ・ジオンのパイロットは、足元のバランスを崩してその場に転び、方向転換をしていたアズの手によってギラ・ドーガは呆気なく達磨状態になった。

 

「アル、良い子だから出てきなさい」

 

「それ、言ってる本人が良い子だと思ってないやつなんでお断りします」

 

 戦闘が終了したことで先ほどの援護の主に意識を向けたアズがヒュッケバイン30の背中に声をかける。しかし、アルは捕縛を免れるために一足早くその場から離脱しており、現在は南原コネクションの正面玄関が見える建物の近くを陣取っている。

 ここから恐らくミツバあたりが代表者と会談するだろうから、その辺りでイチナナ式にでも張り付いておこうと今後の行動を考えていたアルの耳に甲児の声と共に地響きが聞こえてきた。

 

「機械獣ですか。避難とかも考えるべきですね」

 

 機械獣の群れにアルは南原コネクションに居る職員達を逃がす算段を立てはじめる。ただ、1人ではどうしたって対応できる人数が限られてくるので応援を呼ぼうと端末に手をかけていると、いきなり甲児達が騒ぎ始めた。どうやら、機械獣の中にとある戦いで倒したタイプも確認されたらしく、その戦いにも参加していた甲児をはじめとしたこの世界の住人が動揺していた。だが、この状況を打開するべくもう一度機械獣を撃滅することになったらしく、攻撃を再開したロボット達に一安心したアルは端末をタップした。

 

「こちらアルフォンス。研究所内の避難はどうします? 現在、正面玄関に敵はいません」

 

「陸戦隊を派遣します。アル君はそのまま見張っていてください。応戦も許可します」

 

「アイマム」

 

 アルの通信にすぐさまアルの意図を察したミツバは、リアンに陸戦隊の準備を急がせるように指示を出す。その間、アルはサンパチを構えながら建物から少しだけ顔を出すと、その場でじっと南原コネクションの正面玄関を見張っていた。

 

 戦車や戦闘機といった戦闘車両は例え機体を破壊しても搭乗者を戦闘不能にしなければ『歩兵』として戦線に参加してしまう。その常識はロボットでも変わらない。もしかすると脱出した搭乗者がこの辺りに潜んでいる可能性から、アルはこのまま南原コネクションに突入せずにミツバが要請したであろう陸戦隊が仕事に取り組みやすいようにこの場の確保を続けた。

 だが、戦闘の音が響く中でいくら待っても怪しい人影が現れず、割と退屈な時間を送っていたアルの端末が震えた。

 

「こちら陸戦隊。そちらを確認したいので合図を送ってほしい」

 

 端末から聞こえる男の声に、アルはサンパチを空に掲げると小さな炎弾を1つ投射した。実際に現場で使用される魔法現象に陸戦隊の面々が『便利だな』と呟きながらアルが隠れている建物に向かって近づいていく。1人が符丁のように建物の壁ををリズミカルに叩くとアルが顔を覗かせてきたので、陸戦隊はアルを中心に防御陣形を整えていく。

 

「この場の確保、ありがとう」

 

「いえ、このままついて行っていいでしょうか?」

 

 アルの意見に陸戦隊の隊長は『ここで1人にするのもなぁ』と頭を悩ませながら、とりあえず報告しておこうとミツバに連絡を取る。隊長の進言にミツバも同意なのか、『決して目を離さないでください。すぐ消えるので』と、まるで迷子を相手にするようなアドバイスを送った。

 

「兄さん探さないといけないのでちゃんと戻りますって。……ただ、ドライストレーガーの目立つ所に居る保証はありませんが」

 

「それを探す俺達の労力も考えてほしいな」

 

 いくら戦闘時以外は割かし暇な陸戦隊であっても子供1人探すために2キロ弱もあるドライストレーガーを走り回るのは望ましくない。ただ、訓練としてはアリだと後にエムリスと意気投合するほどの筋肉で構成された頭脳を持つ隊長はミツバに後で進言しようと期待に胸を高まらせた。

 そんな隊長の様子に隊員達は嫌な予感が脳裏を走っているのかはさておき、無事に機械獣を撃退したドライストレーガーはその巨体を南原コネクションに降ろすと、南原コネクションの『四ッ谷博士』と会談するためにミツバを代表とした部隊を編成した。

 

「アルー。アルー。出ておいで」

 

 そんな時、アズや甲児は何をしていたかというと──案の定行方をくらませたアルの捜索であった。

『ちゃんと戻りますよー』と謎の通信を遺して姿を消したアルだが、メイヴィーに端末の場所を探ってもらうと、どうやらヒュッケバイン30とイチナナ式が立っている所に居るらしい。それを聞いたレイノルドが本格的に捕獲するよう指令を下し、アズはアルという人間の思考をある程度予測するとギラ・ドーガの残骸を近くに集めながら呼びかける。その姿はまるで犬猫に餌を撒いておびき寄せる飼い主そのものだった。

 

「犬猫じゃあるまいし、そんなので……出てきたよ。しかもこっちからかよ!」

 

 その行動に呆れる甲児だったが、ふと振り返るとイチナナ式の翼の影からもぞもぞとアルが出て来る瞬間を捉え、怒って良いのか呆れて良いのかよく分からない息が漏れた。

 そのままスルスルとイチナナ式を降りたアルは、ギラ・ドーガの残骸にまずは五体投地で御挨拶。その後、壊れたロボットという生(?)前元気に躍動していた鋼鉄の塊が物言わぬ残骸となってしまったという、動から静の移り変わりに『わび・さび』を感じながら各所のパーツをいざ調べよう──といったところで、アルはヒュッケバイン30の手に優しく掴まれた。

 

「アズ! あの機体の残骸も回収してください! コレクション……いや、解析用に! ……あぁぁぁ!」

 

 ギラ・ドーガの残骸を置き去りにドライストレーガーに帰還するヒュッケバイン30の手からアルの悲痛な声が響いた。

 

***

 

「……で、なんであんな無茶をしたのか。話を聞かせてもらいましょうか」

 

 ドライストレーガーの艦橋では会談や南原コネクションが誇る巨大ロボット『コン・バトラーV』の搬入指示、バトルチームとの顔合わせが終わったミツバを筆頭にレイノルドとリアンが腕を組みながらアルを睨みつけていた。今回、アルが行った独断専行はいくらなんでも目に余る行為である。なので、今後のことを踏まえて二度と同じことを引き起こさないようにアルを叱りつけなければならないのだ。

 ひとまず、アルにも事情が存在するだろうと『まぁ、許さないけど』という副音声が聞こえそうな弁明を促す声に、アルは静かに頷いた。

 

「外に出た理由はミノフスキー粒子とかいう不思議な物質に対してです。今はそんなことはないでしょうが、昔はミノフスキー粒子が濃いと部隊間の連絡さえも出来ないという自伝などがあったので、母艦クラスが潜んでいることを考慮して偵察兼通信の確保を行おうとしました」

 

 その理由を聞いたレイノルドは『よく勉強している』と教職時代を思い出しながら少しばかり怒気を緩める。

 現在はミノフスキー粒子に対応したコンピューターの開発によって昔ほど通信に不調が起こることは無くなったが、それでも母艦クラスが全力で粒子を撒き散らしたり、ミノフスキー粒子以外の電波障害などによって通信が遮断される可能性も戦場では十分にあり得る要因である。なので、通信の確保というアルの理由は破綻していない理由として扱われる。

 ただ、それはチームを組んでの通信手段の確保で会った話である。先ほどのように独断専行を許容すると部隊は割れ、あっという間に各個撃破されてしまう。それについての説明をアルに求めると、アルは『時間が無かったからです』と単純に答えた。

 

「いろんな人から貸してもらった電子書籍で見ましたが、ロボット同士の戦闘は平均5分。長くて10分らしいです。そんな中で陸戦隊を出撃させるのでは時間が圧倒的に足りないので、1人で出撃することにしたんです」

 

 『ちょうどアッシーがあったんで』と言うアルに全員が『アッシー』という言葉に首を傾げるが、アルは続けて『仮に負けても1人だと撤退しやすい』や、『相手の帰還ポイントから根城を偵察しやすい』といった1人での行動の利点を話していく。

 そこまでよく考えられた理由を話されると、流石に『危ないから』という一点張りでお説教できる雰囲気では無くなってしまう。そう思ったミツバとレイノルドは、『デメリットやリスクも考えるように』という軽い注意をしてからアルを解散させようとするが、ふと目の前の子供が『精神年齢が自分以上の人間』であることをミツバは思い出した。

 

「ほほぅ、アル君はオペレータの私の仕事を奪う気かな? これでも情報収集能力とか学校でも成績良かったんだよ? そんなことを言うのはこの口かな? …………やだ。もちもちしてる」

 

「ごふぇんなふぁい」

 

 オペレータのリアンを差し置いて端末から各パイロットに指示を出したため、そのことについてちょっとご立腹のリアンがアルの頬をみょんみょんと制裁を加える中、ミツバは先ほどアルが話していた理由が少し説明出来すぎている気がした。

 

「アル君、本音は?」

 

「いえ、だからさっきの説明「本音は?」……あわよくば、機体を鹵獲したかったデス」

 

 精神に響きそうな妙に艶っぽい声にとうとうアルは屈した。先ほどの練りに練られた説明よりもよほど『アルっぽい』説明に満足したミツバはそのままお説教を継続する。

 結局、アルはどのような事態であれ報連相を行ってから生身での出撃を許可されることとなり、機体に張り付いて出撃する危険行為は一切禁止となった。

 

 また、コン・バトラーVの搬入作業や整備マニュアルの受け渡し、専属のメカニックの乗艦手続きや補給作業といった諸々の作業が残っているので、ドライストレーガーの乗員には合計2日の半舷上陸がミツバから言い渡された。ただ、最初の1日に休む乗員と2日目に休む乗員の名簿にアルの名前が入ってはいなかった。理由はお察しである。

 

「ふむふむ。合体か……。シルエットナイトを終結させて巨大なシルエットナイト。……いやそれだとナイトランナーが足りない。ならば、このハイパーツールって物を参考にイカルガを軸にサポートメカを合体させるのも……ありっ!」

 

「アルー。俺達余裕が無いの分かって……聞いてねぇし!」

 

 そんな中、アルはひたすらメイヴィーから拝借した過去に活躍したワンオフ機や量産機に関する情報を端末越しに読み漁り、新たなる幻晶騎士(シルエットナイト)への情熱を燃やす。当然、メカニックであるジークンの話は聞いてすらもいなかった。

 

「うーん、キッドは近接戦闘得意だし……二刀流とかいいな。アディは雷系統よく使うし、この"インコム"っていう装備を応用して……。で、僕は巨大なシルエットアームズでも付けましょうかね」

 

 幻晶騎士(シルエットナイト)どころか、ロボットを構成する上で大事な下半身の姿がどこにもなく、上半身や背部のほとんどが魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)や、この世界で使用されるスラスタで構成された異形の絵が3つ。それらは『シルエットナイトほどある巨大な剣を手にした巨大な腕』や、『銀線神経(シルバーナーヴ)をケーブル代わりにして飛び回る独立兵器』、『巨大な魔導兵装(シルエットアームズ)と巨大な魔導飛槍(ミッシレジャベリン)』と各機体ごとにかなり目立つ特色が為されており、それぞれの機体の絵から延びる矢印の中心には騎士団の旗機であるイカルガの姿があった。




何気なく思いついたネタ①

「アズって漫画描きそうですよね」

「なんで?」

「声的に」

アルがアズのドラゴンスクリューで撃沈するまで後5秒。


何気なく思いついたネタ②

「アズとアルって合わせるとロボットみたいですよね」

アズが気になって端末で調べると、そこには『ガズアル』という機体名が表示された。

「・・・じゃあ言う順番的に私がお姉ちゃんで良い?」

「なんだァ?てめェ・・・・・・」

その何気ない一言にアル、キレた。

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