銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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幕間(試作型ガンライクロッド / 試作型ヘイローコート)

**試作型銃杖(ガンライクロッド)**

 銀鳳騎士団が近くの村の開拓に乗り出してから幾日か経ったある日。そろそろ調査飛行の準備が完了しそうだという報告ついでに、リオタムスは近衛騎士団にそろそろアンブロシウスを迎えに行ってほしいと命を出した。命を受けた近衛騎士団長は、最近ようやく乗りこなせるようになったツェンドリンブルを引っ張り出し、小隊 + ツェンドリンブルという少々変則的な小隊でオルヴェシウス砦へ向かう。

 

「承知しました。では、その日にイズモでカンカネンに向かいます」

 

「迎えなぞ来なくても良いじゃろう」

 

「いえ、ですからついでに……。ところで、副団長殿はどちらに?」

 

 伝達事項を伝え終え、リオタムスからまるで楽しい場所から帰ることを伝えられた直前の子供みたいな言葉を賜った近衛騎士団長は困惑したような顔を浮かべるが、ふとこの場に居てもおかしくない人物が居ないことに気づく。

 挨拶をしておくべきかと考えた近衛騎士団長は、アルの所在をエルに尋ねると『あの子は工房でハジけてますよ』と返ってくる。銀鳳騎士団ではなくても分かるぐらい不安感を煽るそのフレーズに近衛騎士団長は挨拶せずに帰ろうと思ったが、アンブロシウスは『アルフォンスにも帰ることを言っておかねば』と半ば強制的に工房に引き摺られて行く。

 

「エンチャントォ! エンチャントォ! これをさらに縮小させて……エンチャントォ!」

 

「副団長ー、ほんとにこれジェネラルソウルなくても魔力足りるんですか!?」

 

「ゲェーッハッハッハ!」

 

「駄目だ! 聞こえてねぇ!」

 

 工房の中からなにやらマッドな声がまろび出てくるが、アンブロシウスは気にすることなく工房に入っていく。それに続いて近衛騎士団長が恐る恐る入っていくと、なにやら長大な筒の中から件の声と共にガンガンと金属同士を叩きつける耳障りな音が聞こえてくる。

 

「アルフォンス! ……アルフォンスー!」

 

「ああ、先王陛下。あの音だから聞こえてませんよ」

 

 遠くから大声を放ったアンブロシウスだったが、作業音は一向に止む気配はない。ただ、その声を聞いた騎操鍛冶師(ナイトスミス)が気を利かせ、筒の中に首を突っ込んでからアルのことを大声で呼んだら錆止め油に塗れたアルがゆっくりと姿を現す。

 その様子から土中に巣穴を持つ小動物が出てきたようなイメージを頭に思い浮かべるアンブロシウスだが、言わぬが吉と近づいてくるアルに『そろそろ帰る』という言葉のみ伝える。

 

「あ、帰り際に村に立ち寄るのお忘れなく」

 

「おぉ、あの村の腸詰で晩酌をする予定をすっかり忘れておった。いかんいかん」

 

 なにやらアルからの言葉にアンブロシウスが自身の後頭部に手を置きながら会話を続けているが、近衛騎士団長は彼らの会話には耳を傾けずにひたすらアルが出てきた長大な筒に視線を向けていた。幻晶騎士(シルエットナイト)が手で保持するのも精一杯であろう長さの筒だが、長さとは関係なく『どんな紋章術式(エンブレム・グラフ)が刻まれているのだろう』と彼は激しく気になっていた。

 

「む? 団長閣下、あれが気になります? なりますよね!? なるって言って下さい!!」

 

「あ、ああ。シルエットアームズだと思うが、あれはなんだい?」

 

 非常に圧のある三段活用に、近衛騎士団長は思わず鎮座する筒についての詳細を聞く。横でアンブロシウスが『やってしまいおった』という心の声が透けて見えそうな視線を近衛騎士団長に投げかけるが、その疑問に『いやぁー、ばれちゃいましたかぁ』と白々しいにも程がある独白を前置きにしたアルは奥から数枚の紙を持ち出すとアンブロシウスと近衛騎士団長に手渡しながら説明を始めた。

 

「これは、とある戦いでレビテートシップを1発で撃墜せしめたシルエットアームズの改良版です。あの時は時間がありませんでしたが、今回は改良に改良を重ねますよ。例えば──」

 

 『飛空船(レビテートシップ)を1発で撃墜した』という謎の実績を持ち出したのも大概だが、その魔導兵装(シルエットアームズ)をさらに改良を重ねる意味が思い浮かばないので近衛騎士団長は理解できないような呆気に取られた表情を浮かべるが、その間もアルによる改良の説明会は継続されている。

 拡大術式(エンチャント)と縮小化のループを増やして射程と威力を増やしたなどの解説は聞こえてくるが、アンブロシウスは既に言葉を右から左へといった様子で佇んでいた。

 

「ちょっと待って欲しい。法撃に使用する魔力はどうするんだ? それだけ詰め込むとなると、エーテルリアクタ1基では到底利かないだろう」

 

 しかし、聞いた手前で話を聞かないわけにはいかないと我慢して聞いていた近衛騎士団長が消費魔力についての質問を挙げる。たしかに、前回はイカルガという『自由に動けて膨大な魔力を持つ貯蔵庫(会話機能付き)』が居たので問題はなかったが、その情報を知らない人間からしてみればこの魔導兵装(シルエットアームズ)は魔力源の問題を考えていない無謀な作品と思えるほどの試みだった。

 

「最悪、強力なエーテルリアクタが手元にあるので力技で何とかします。ですが、今はクリスタルプレートで魔力を代替できないか、ガンライクロッドを用いて検証しています」

 

「ガンライクロッドというと、おぬしらが持っておる杖じゃろう? それとクリスタルプレートは関係なかろう?」

 

 将之魂(ジェネラルソウル)の話を出すが、アルは自身の腹案を2人に共有する。

 しかし、アンブロシウスはその腹案の意図を理解できず、疑問の声を上げた。杖という物は本来、自らの持つ魔力と魔術演算領域(マギウス・サーキット)内の演算を用いて魔法を発現させる媒介だ。それと魔力転換炉(エーテルリアクタ)が生み出した魔力を貯蓄する目的でライヒアラ騎操士学園の錬金科が開発したとされる板状結晶筋肉(クリスタルプレート)をどう関係を持つのだろうか。

 

「論より証拠ということで、数丁持ってきます」

 

 アンブロシウスの疑問に、アルが『丁』という不思議な単語を言いながら奥に引っ込む。しばらくすると、彼は手に1本の銃杖(ガンライクロッド)──エルが持っている『ウィンチェスター』に酷似した物を持ってくる。

 エルがいつも持っている物なので見覚えのあるアンブロシウスは受け取った銃杖(ガンライクロッド)をしげしげと見てみると、握り手周辺がなにやらゴチャゴチャとした機構が取り付けられていることが分かった。

 

「アルフォンス、これはエルネスティが持っておるものとは別物か?」

 

「モデルは兄さんの物ですが、兄さんがバトソンに何度もクレームを入れながら作ってもらってた自信作っぽいです」

 

 そう言いながらアルは自身の腰から2丁目の銃杖(ガンライクロッド)を留め具を外してから抜き取ると近衛騎士団長に手渡す。そのサイズは手のひらよりも少し大きいぐらいと杖と呼ぶには微妙だが、くの字に曲げられた部品やら何かを装填できそうなほど巨大な空洞がある筒だったりと近衛騎士団長の理解が追いつかない部品が各所に取り付けられているので、それを持つ手がおのずと貴重品を預かるように優しくなる。

 

「アルフォンスよ。実物は分かったが、どう使うのだ? 杖というならば自身の魔力を用いるのだろう?」

 

「それは後のお楽しみということで」

 

 もったいぶるようにアルは2人を工房の外にある魔法の試射を行うスペースまで連れて行く。そして、アンブロシウスの持っている銃杖(ガンライクロッド)を貸すように促し、それを受け取るとポケットから人差し指ほどのサイズに加工された細長い板状結晶筋肉(クリスタルプレート)を取り出した。

 

「これらはガンライクロッド内に格納しているエンブレム・グラフと触媒結晶。それらにこのクリスタルプレートに溜まった魔力を流して魔法を放ちます」

 

 銃身の辺りと板状結晶筋肉(クリスタルプレート)を2人の前に見せたアルは、ウィンチェスターの下部に取り付けられているレバーを前に動かすことで上部に開かれた空洞に、『これで合ってるんだっけ』と不安なことを言いながら先ほどの細長い板状結晶筋肉(クリスタルプレート)を5つほど放り込んだ。

 

「なんじゃ。おぬしも分からんのか?」

 

「兄さんとバトソンが開発して、僕はノータッチなんですよ。後から"機構が複雑だからってあんだけ作り直しさせるなんて聞いてないよ! アルのは簡単なんだよね! "ってバトソンに怒られたので、僕のは極力簡素にしました」

 

 『M1894だっけ? M1873だっけ? ショートバレルタイプのエアガン持ってたのは覚えてるんだけどな』と小さく呟きながらも装填が完了したアル。レバーを元の場所まで戻すと、立ったままの姿勢で前方の的に向かって狙いを定めてくの字の部品──引き金を引く。引いた瞬間は何も起きなかったが、1秒も経たない内に銃杖(ガンライクロッド)の先端付近に火球が顕現すると的に向かって勢いよく飛んでいった。

 

「よし、よし。あ、先王陛下もどうぞ。狙いをつけてからここを引くだけなので」

 

 レバーを再び前後に動かすことで、ガシャリという音と共に細長い板状結晶筋肉(クリスタルプレート)を1つ排出する。またレバーを元の位置まで動かしたアルは、銃杖(ガンライクロッド)を引き金に手が当たらないように気をつけながらアンブロシウスに手渡した。

 先ほどアルが行っていた射撃体勢に倣い、しっかりと狙いをつけたアンブロシウスが引き金を引く。すると、火球はアルが魔法を放った時と同じように的に向かって飛んでいき、真ん中からかなりずれた所に着弾する。

 

「信じられん。魔力も演算も必要ないとは……」

 

「後ろのハンマー部分でクリスタルプレートのお尻を叩いて、この部分にあるエンブレム・グラフに魔力を送り込んでるらしいです。機構は複雑っぽいので知らないですけど!」

 

 受け取った銃杖(ガンライクロッド)と地面に落ちた板状結晶筋肉(クリスタルプレート)を拾って投げやりな説明をするアルだが、彼は本当にこの銃杖(ガンライクロッド)の機構について知らないのだ。

 たしかにアルは、エルの銃杖(ガンライクロッド)であるウィンチェスターの名前を最初聞いた時には『あー、増改築しなきゃいけない家ですよね』とオカルト寄りの豆知識を披露した経緯があったり、FPSなどの経験からか『キィーン』という特有の排莢音が出る銃や、半透明なプラスチック製マガジンを銃の上のくっつける変わった銃といった『雑食系オタク』らしい広く浅い知識は持っている。

 ただ、装填や排莢といったディープな知識は一切持っていないので、そんなアルにどんな原理で動いているのかと聞いたところで『起用なドワーフがノイローゼ手前になるぐらい精巧な部品作りが必要になるが、詳しくは知らない』という答えが関の山であった。

 そんな『詳しくは聞いてくれるな』という雰囲気を噴出させる彼は、近衛騎士団長から手のひらに納まるサイズの銃杖(ガンライクロッド)を受け取った。

 

「さっきのはレバーを動かせばクリスタルプレートを入れた分だけ連射できますが、こっちは1発ずつ装填する必要があります。その点、装填もメンテナンスもしやすいんですがね」

 

「その口ぶりを聞くに、それをおぬしが作ったようじゃな」

 

「はい。さっきのを最初にバトソンに作ってもらったので、兄さんからの手直しの多さにキレたバトソンを宥めながら最低限の機能を試せるようにしました」

 

 『もっと色々作りたかったのに』と呪詛を振りまきながらも銃杖(ガンライクロッド)の太い筒の部分を露出させ、その中にポケットから取り出した片手にようやく収まるぐらい大きな板状結晶筋肉(クリスタルプレート)を装填する。そして、稼動させていた部分を元に戻したアルは後ろに取り付けてある部品を指で引いてから引き金を引いた。

 すると、先ほどの銃杖(ガンライクロッド)よりも大きな火球が飛んでいき、的に当たると同時に爆発を引き起こす。

 

「アチッ。こっちの方が大きいクリスタルプレートが使えるので、威力が高い魔法を使えます」

 

 急激に魔力というエネルギーが移動したことによって少々銃身が熱くなるが、先ほどのようにリロードを行ったアルは今度は近衛騎士団長に試射をしてもらう。これも先ほどのように魔力を用いない魔法攻撃に驚いた様子の近衛騎士団長は、炎上している的と銃杖(ガンライクロッド)を何度も見て自身の正気を疑っている。

 そこまでしてようやく成果を見せることが出来たアルが、『連射ならナンブみたいに板状結晶筋肉(クリスタルプレート)の塊を直置きが一番楽なんですが、何時魔力尽きるのか分からないんですよね』と気楽げに話すが、アンブロシウスは眉間に皺を寄せながらアルを呼んだ。

 

「アルフォンスよ。これは何のために作った?」

 

「先ほど見てもらったシルエットアームズの技術検証。それと、ボキューズ大森海に踏み入った人間の戦闘能力の向上です」

 

 未だに開発した物が上手く動作したという結果に満足していたアルは、頭ふわっふわの夢心地で返答した。

 ボキューズ大森海とは魔獣が蔓延る魔の領域である。そこを開拓するとなると、戦闘職として一定の知識や技量を持つ騎士だけではなく、大工や幻晶騎士(シルエットナイト)関係は問わない鍛冶師、商人や運搬業を生業にする者といった様々な人間も入る必要がある。

 それを逐一幻晶騎士(シルエットナイト)や騎士が護衛出来るはずも無く、いくら学園で魔法を教えていようが魔力切れを起こしてしまえばいかに屈強な騎士でも蹂躙されてしまう。

 

 しかし、この銃杖(ガンライクロッド)を使えば話は変わる。たとえ、魔力切れ寸前であっても板状結晶筋肉(クリスタルプレート)の入れ替えだけで魔法は放てるのだ。弾薬の代わりとなる板状結晶筋肉(クリスタルプレート)も、開発する上で下地となっているクリスタルティシューと同じで時間が経てば貯蓄している魔力が外に抜けてしまうが、それさえクリアしてしまえば命を救う一射になり得る武器である。

 ただ、アルからの言葉にアンブロシウスの脳裏には銃杖(ガンライクロッド)の運用をたった一手、間違えた場合の大惨事が思い浮かぶ。

 

「アルフォンスよ。これは量産は可能か?」

 

「兄さんのは仕組みが複雑ですよ? 数mm部品が大きくても小さくても機構がかみ合わない可能性があるので、生産もメンテナンスも知っている人じゃないと出来ないかと。僕のは図面を起こせばすぐに可能です。量産ですか?」

 

「いや、この杖は…………しばらくは表に出すことを禁じる。良いな?」

 

 しばらくの沈黙の後、アンブロシウスはこの試作銃杖(ガンライクロッド)の発表を禁止する。そんな横暴な命令にアルは理由を聞くが、アンブロシウスの放った『暗殺』という単語にアングラ系を多少齧っていたアルはアンブロシウスの言いたいことが分かった。──分かってしまった。

 

「たしかに、兄さんのならともかく。僕のは機構が単純すぎます。それに、ポケットにも入るほど小型です」

 

「すまぬ。……だが、その杖の有用性やおぬしがこれを開発した理由が民の命を守るためなのは分かっておる。ただ、その危険性を拭い去る法を整備するまでの間、表に出さずに寝かせてはくれぬか?」

 

(すみません。私利私欲です)

 

 板状結晶筋肉(クリスタルプレート)の魔力を引き金を引くことで紋章術式(エンブレム・グラフ)に移して魔法を発射させる片手サイズの武器。前世で言うピストルのような携行火気を人々が手に入れるとどうなるか。

 自衛になるならそれで良いが、過ぎた力は暴走すると国家や国同士の火種になることも十分にありえる。

 ただ、アンブロシウスもこの武器の有用性や、毒とも言うべき悪性も分かった上で『時期を待て』と言ってくれている。アルはアンブロシウスの言う開発経緯が全くの見当はずれであることを頭で謝罪しながら強く頷いた。

 

「えーっと、じゃあ兄さん呼んでこれらは処分する形で良いですか?」

 

「別に破壊するまでもなかろう? 発表はせんと言っておるだけで…………アルフォンスよ。このちっこいのをくれぬか? 手入れもしやすそうじゃし、その……ワシ用にな?」

 

「先王陛下、その一言でさっきまでのお話の説得力をぶち壊しましたよ?」

 

「最新の杖じゃぞ? しかも、魔力も演算も使用しない杖じゃぞ? ワシやエルネスティ達が自身で使う分ぐらいならば、その限りではないじゃろ」

 

 先ほどまでの話はどこへやら。アンブロシウスは『護身用』としてアルの作った小さい方の銃杖(ガンライクロッド)を欲しがった。

 魔力や演算の有無に関係なく、板状結晶筋肉(クリスタルプレート)さえあれば魔法を放てる携行武器なので、国王という席を辞したが未だ危険の多い身としては欲しいという名目だが、アルや近衛騎士団長の目には『新しい幻晶騎士(シルエットナイト)を見つけた騎士団長(エルネスティ)』の姿を幻視した。

 

 その後、連れてきたエルに事情とアンブロシウスからの命を連携したアルは『絶対、ずぇーったいに奪われないでくださいね』と唾を飛ばしつつ、太い銃身タイプの1丁をアンブロシウスに譲ってこの話は終わりとなった。

 

「ガンライクロッドの開発は禁止されましたが、弾薬の追加生産は禁止されてませんよね」

 

「ウィンチェスター型は加工が面倒そうですね」

 

 ただ、ウィンチェスターを模したタイプの銃杖(ガンライクロッド)に至っては『複数発装填できるのだから、もうちょっと生産しとこう』というエルの意志の元、詭弁を言いながら数ダースほど追加生産されたとか何とか。

 

**試作型降下用追加装甲(ヘイローコート)**

 

 アンブロシウスが帰ってからあまり時間も経たずにエル達もボキューズ大森海へ旅立っていった。やたらとテンションの高いバトソンが早く集合地であるカンカネンへ行こうとばかりにエルを引きずりながら乗船させていたり、ボキューズ大森海に向かう際に横切ったライヒアラの邸宅でエルの母親であるセレスティナがなにやら不穏な予感に苛まれていたり、エドガーが自身が踏み込むべき1歩目を決める旅に出掛けたりと様々な場所で様々なドラマが生まれていたのだが、先に言ったどこにもアルとフロイドの姿はなかった。

 

「ちわーっす。──で、少し前にもらった手紙で大体のことは知ってるんですが、これですか?」

 

「そうだよ。名前はそうだな……ヘイローコートかな」

 

 軒を連ねる工房の一角でアルは騎操鍛冶師(ナイトスミス)の集団と共に目の前にある追加装備(オプションワークス)──降下用追加装甲(ヘイローコート)と名付けられたそれを積み込んだカルディトーレを見つめる。

 可動式追加装甲(フレキシブルコート)のような装甲板をいくつもつけたこのカルディトーレは、一見すると第1中隊所属機のような出で立ちだが、背部にトゥエディアーネにも搭載されている源素浮揚器(エーテリックレビテータ)がポン付けされていた。そんな危なっかしいほどのアンバランスさを感じさせる全体像だが、製作したと見られる騎操鍛冶師(ナイトスミス)達の顔はまるで新しい幻晶騎士(シルエットナイト)や装備を作り上げたエルのように誇らしげな顔を浮かべるいる。

 

「君達がエンブレム・グラフの量産方法を整えてくれたおかげで僕らもオルヴァーさんからトゥエディアーネの組み立てに参加してくれって内示を受けてさ。で、この装備の開発を引き継いでくれそうな人といったら──」

 

「ああ、銀鳳騎士団ってわけですね」

 

 困ったように両肩をあげる騎操鍛冶師(ナイトスミス)に、アルはげんなりと目の前にある降下用追加装甲(ヘイローコート)の概要について思い返していた。

 この追加装備(オプションワークス)の設計思想は、鎖で牽引するような従来の降下手段に代わってカルディトーレのような近接戦仕様機(ウォーリアスタイル)幻晶騎士(シルエットナイト)を安全に飛空船(レビテートシップ)から降ろすための装備である。なので、この追加装備(オプションワークス)の性能を試験するには、まずカルディトーレの全身を包み込むように配されている装甲を空中で開き、大気を掴みながら源素浮揚器(エーテリックレビテータ)からの浮揚力場(レビテートフィールド)を調整する必要がある。

 つまり、試験をするには高高度で鳥になる必要があるのだ。

 

「本当はもっと早くに出来てたんだけど、着地後の戦闘試験とか防御試験以外の試験は皆、やってくれなくてね」

 

「そりゃあ、そうですね」

 

 試験騎操士(テストランナー)と定義するのは簡単だが、その実体は幻晶騎士(シルエットナイト)の動作や戦闘時の挙動といった一般的な幻晶騎士(シルエットナイト)運用に関する試験に詳しい者から、魔力切れ時の挙動や破損時の挙動の試験を得手とする者いった様々な状況に対応した騎士が存在する。

 しかし、当然ながら最近出回ってきた飛空船(レビテートシップ)空戦仕様機(ウィンジーネスタイル)といった『空』に関することを得手としている試験騎操士(テストランナー)は、デュフォール中を探しても一切居なかった。教育という名目で試験を行おうにも、事故が起こった場合のリスクを考えると慎重にしなければと二の足を踏み続けるのは仕方のないことである。

 

「復元作業してもらえる時間があるなら、今からうちまで運んでもらってあっちで試験でも見学します?」

 

 どっちみち開発を騎士団に任せるのでオルヴェシウス砦への輸送も後々行うつもりであった騎操鍛冶師(ナイトスミス)達は、アルからのお誘いに『今回はお話を通すだけで』という遠慮の心を即座に西方諸国辺りに投げ捨てた。

 

「許可とって来ます!」

 

「こいつを動かすぞ! 暇な奴手伝え!」

 

「レビテートシップ動かせる奴をかき集めてくる!」

 

 アルの気が変わらない内に作業を終えてしまおうと即座に動く騎操鍛冶師(ナイトスミス)達。数十分後にはオルヴァーの筆跡だが疲れているかのように綴りがヨレている命令書を手にした騎操鍛冶師(ナイトスミス)が帰還し、1時間もする頃には降下用追加装甲(ヘイローコート)を搭載したカルディトーレが非常にバランスの悪そうな動き方で国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)所有の輸送型飛空船(カーゴシップ)に載せられる。

 最後に、気づくとアルはフロイドと共にシルフィアーネ・トレーナーで輸送型飛空船(カーゴシップ)を先導しながらオルヴェシウス砦への帰路についていた。彼らが動き始めてから通算すると、2時間も満たない早業であった。

 

「え、急に呼び出されたんですよね? なんでこうなったんですか?」

 

「いや、僕に聞かれても……」

 

 アルとしては一言提案しただけなので、フロイドに聞かれてもどう説明して良いのか分からなかった。ただ、決して口には出さないが『銀鳳騎士団も国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)も似たり寄ったりだな』という彼らに対しての感想を頭によぎらせる。

 

 そして、急に飛び出したかと思えば輸送型飛空船(カーゴシップ)を連れて戻ってきたアルにオルヴェシウス砦に残っている騎操鍛冶師(ナイトスミス)は全員、『あ、また幻晶騎士(シルエットナイト)関係の仕事持ってきたな』という表情で出迎える。この全員の中には元国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)からの転属組も入っていることから、すっかり『エルネスティ済み』であることが伺える。

 

「アルフォンス、エドガーの件だけど」

 

「それは聞いてます。2人も近隣の騎士団や騎操士学園が演習でうちの巡回コースを定期的に回るらしいです。銀鳳騎士団側のシフトはかなり変わるので決まってから連絡します。ですが、今はこちらのラボからいらっしゃったお客様の対応が先です」

 

 国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)からのお客ということで転属組は少々動揺していたが、降下用追加装甲(ヘイローコート)の仕様や組み立て手順といった認識合わせは滞りなく完了した。次にディートリヒやヘルヴィを含めたナイトランナーを対象とした降下用追加装甲(ヘイローコート)の目的や接続時の注意点といった操縦面でのレクチャーが始まるが、やはり降下用追加装甲(ヘイローコート)の内側にポン付けされていた源素浮揚器(エーテリックレビテータ)によってバランスが取りづらい点が不評だった。

 

「なんとか小型化できないのかい?」

 

「可能だったらもっと小さく作ってますよ。小型化って結構技術いるんですよ?」

 

 バランスを崩してその場ですっ転んだカルディトーレの操縦席からディートリヒが開口一番に叫ぶ。いかに熟練のナイトランナーでも操作性に難色を示すぐらい、源素浮揚器(エーテリックレビテータ)の重量配分が厳しいものとなっているのだ。

 ただ、元は飛空船(レビテートシップ)に載せていた源素浮揚器(エーテリックレビテータ)幻晶騎士(シルエットナイト)に載せれるぐらいまで小型化した後である。それ以上小型化を行うならば、必然的に何かを犠牲にしなければならない。それは性能なのか、それとも元々あった機構なのかは分からないが、研究によって新しい概念や技術が生まれない限りは既にある存在と小型化を等価交換する手立てしかアルには思いつかなかった。

 

「本当にすみません」

 

「いえいえ、プロジェクトの急な変更は仕方ないですよ。ひとまず、一旦動かした後に調査飛行から皆が帰ってきた時にでも開発を再開させます。こちらでも結構やることが一杯ですから」

 

「やることって……あれですか? それとも、飛行場にあったあれですか?」

 

「そのどちらもだよ。この子、鬼神様が居ないとはりきっちゃってさ」

 

 『やること』について会話していたアルと騎操鍛冶師(ナイトスミス)の間に、デシレアが割り込みながらアルの方を親指で指す。凡そ副団長相手にやる行動ではないのだが、無茶苦茶をやっている自覚があるのか指された本人は『でも、労働環境は劣悪ではないですよ』とセッテルンド大陸にはない部署相手に言うような言い訳をする。

 

 しかし、デシレアの言っていることは尤もであった。今、彼らの視線の先にはアンブロシウスと近衛騎士団長が見ていた長大な魔導兵装(シルエットアームズ)の他に、円柱の形に加工した幻晶騎士(シルエットナイト)サイズの板状結晶筋肉(クリスタルプレート)と大量の装甲板や、脚部や腰部に大きな魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)を内臓した推進装置マシマシの追加ユニットが取り付けられた蒼い幻晶騎士(シルエットナイト)が鎮座していた。

 それに加え、むき出しのトゥエディアーネのフレームに源素浮揚器(エーテリックレビテータ)といった『開発途中』という文字がありありと見える部材の山に工房のスペースが圧迫され、通常業務を行うスペースが僅かしかない状況でもあった。

 

「飛行場のアレについてはヨーハンソンの改修だと分かるんですが、これはなにをやっているので?」

 

「空に居る師団級魔獣と相手出来るような装備を作っています。長距離でも使えるシルエットアームズ。機動性を上げる大型のマギウスジェットスラスタ。継戦能力確保のための大型キャパシティフレーム。当然、エーテリックレビテータもくっつけますよ」

 

 装備の概要について話したアルだったが、聞いていた騎操鍛冶師(ナイトスミス)の処理速度が追いつかないのか宇宙の真理に思いを馳せている猫のような表情をしながら固まっていたので、アルは装備のことは一旦忘れさせるために装備を作る理由について話し出した。

 

 ボキューズ大森海はざっくばらんに言えば『秘境』である。例え、調査飛行を行っても全体から見ればほんの1~2割ぐらいしか調査は進まないだろう。そんな環境に対して我らが行えることは、備えることだけだ。

 人類が未確認の師団級魔獣が森の奥から姿を現すかもしれない。魔獣の侵入に怯えながら拠点を作る必要があるかもしれない。そもそもだが、地上からの進軍は厳しくて上空から降下しながら拠点を増やしていかなければいけないかもしれない。

 様々なケースに備えるために、今も工房に転がっている様々な装備や機体。そして、飛行場で別の班が行っているようなヨーハンソンの増築作業を行っているのだと、アルは握る手に力を込めながら力説する。

 

「おかしいわね。これを作る時、"作りたいから作るんです。船とシルエットナイトは対で運用したいんです。"って言ってた気がするけど。はーい、目をそらさない! あ、ちょっ、待ちなさい! そこ! そこ座りなさい!」

 

「ソウダー。ヘイローコート ノ テストシナキャー」

 

 都合の悪いことを言われたアルはデシレアから目を逸らしながら脱兎の勢いでその場から逃げ出し、『ハハハハー』という笑い声を残しながら工房から出て行く。そんな白々しさに怒る気も失せたデシレアだったが、それでも不満が残っているらしく『普通、全員で大物1つずつ消化するものでしょ。なんで、チームに分けて一気にこなそうとするの』と愚痴を漏らしていた。

 

 その後はアルと暇そうにしていたディートリヒとヘルヴィが試験騎操士(テストランナー)を勤め、降下用追加装甲(ヘイローコート)の性能は十分実践に耐えうるものだと証明された。しかしながら、当初問題視されていた重量バランスの問題によって着地が若干怪しいという指摘が飛び、『未だ試作段階なので命名は任せます』という騎操鍛冶師(ナイトスミス)の言葉からこの『試作型降下用追加装甲(ヘイローコート)』は、調査飛行から戻った後にエルやダーヴィド達と相談しながら完成を目指す手はずとなった。

 

 だが数ヵ月後、アルは試作型降下用追加装甲(ヘイローコート)の受領をエルが旅立った後にしたことを激しく後悔することになるのだが、この頃の彼はそのことに気づかずに次なる開発──空の師団級魔獣を念頭に置いた装備の開発とそれを運用する船の建造に目を向けていた。




試作型ガンライクロッド
 モデルはレバーアクションのウィンチェスターと信号拳銃。
 どちらも撃鉄を起こしてから引き金を引くことで装填時に収めたクリスタルプレートを銃身内のエンブレム・グラフにぶつけて魔力を流す。
 欠点はウィンチェスタータイプは整備や製造の難易度の高さ。信号拳銃型はウィンチェスタータイプの連射をオミットしたため、単発なのが上げられる。
※ウィンチェスタータイプは主に装填/排莢部分の機構がかなり厳しい。

 また、魔力の充填→エンブレム・グラフによる魔法の顕現→発射というサイクルで魔法を放っているため、引き金を引くと即座に弾丸を飛ばす銃と比べ、引き金を引いた後に一呼吸ほどの余白が必要である。

試作型ヘイローコート
 レビテートシップからウォーリアスタイルを降下させるためにと考えられたオプションワークス。
 小説版から作成したのは銀鳳騎士団ではないかと思ったが、『あの大惨事クラスの騒動から、こんなの作れる余裕あったのだろうか』という疑問から下地は既にラボで試作されていたのではないかと構想。このような展開としました。
 試作型と銘打つ通り、トゥエディアーネで使用されるエーテリックレビテータをポン付けしているので、すこぶるバランスが悪いがそれに慣れてしまえば案外白兵戦も出来る使い勝手の良い装備へと仕上がっている。

???(対空の師団級魔獣装備)
 銀鳳騎士団内で進めている開発物。コンセプトは『高機動。高火力』らしく、大推力マギウスジェットスラスタと、レビテートシップを1発で撃沈させたお化けシルエットアームズを改造した物と、某騎士団長からレンタルした蒼いシルエットナイトを少しばかり改修したものが工房内に散らばっている。
 武器庫を背負うのか、分離できない武器庫を背負うのか、どこぞの不死鳥を狩るのか、未だ迷ってます。
 なお、この装備には暫定的な名称のほかに正式な名付けがされるのだが、それはもう少し後のことである。
 
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