**試作型
銀鳳騎士団が近くの村の開拓に乗り出してから幾日か経ったある日。そろそろ調査飛行の準備が完了しそうだという報告ついでに、リオタムスは近衛騎士団にそろそろアンブロシウスを迎えに行ってほしいと命を出した。命を受けた近衛騎士団長は、最近ようやく乗りこなせるようになったツェンドリンブルを引っ張り出し、小隊 + ツェンドリンブルという少々変則的な小隊でオルヴェシウス砦へ向かう。
「承知しました。では、その日にイズモでカンカネンに向かいます」
「迎えなぞ来なくても良いじゃろう」
「いえ、ですからついでに……。ところで、副団長殿はどちらに?」
伝達事項を伝え終え、リオタムスからまるで楽しい場所から帰ることを伝えられた直前の子供みたいな言葉を賜った近衛騎士団長は困惑したような顔を浮かべるが、ふとこの場に居てもおかしくない人物が居ないことに気づく。
挨拶をしておくべきかと考えた近衛騎士団長は、アルの所在をエルに尋ねると『あの子は工房でハジけてますよ』と返ってくる。銀鳳騎士団ではなくても分かるぐらい不安感を煽るそのフレーズに近衛騎士団長は挨拶せずに帰ろうと思ったが、アンブロシウスは『アルフォンスにも帰ることを言っておかねば』と半ば強制的に工房に引き摺られて行く。
「エンチャントォ! エンチャントォ! これをさらに縮小させて……エンチャントォ!」
「副団長ー、ほんとにこれジェネラルソウルなくても魔力足りるんですか!?」
「ゲェーッハッハッハ!」
「駄目だ! 聞こえてねぇ!」
工房の中からなにやらマッドな声がまろび出てくるが、アンブロシウスは気にすることなく工房に入っていく。それに続いて近衛騎士団長が恐る恐る入っていくと、なにやら長大な筒の中から件の声と共にガンガンと金属同士を叩きつける耳障りな音が聞こえてくる。
「アルフォンス! ……アルフォンスー!」
「ああ、先王陛下。あの音だから聞こえてませんよ」
遠くから大声を放ったアンブロシウスだったが、作業音は一向に止む気配はない。ただ、その声を聞いた
その様子から土中に巣穴を持つ小動物が出てきたようなイメージを頭に思い浮かべるアンブロシウスだが、言わぬが吉と近づいてくるアルに『そろそろ帰る』という言葉のみ伝える。
「あ、帰り際に村に立ち寄るのお忘れなく」
「おぉ、あの村の腸詰で晩酌をする予定をすっかり忘れておった。いかんいかん」
なにやらアルからの言葉にアンブロシウスが自身の後頭部に手を置きながら会話を続けているが、近衛騎士団長は彼らの会話には耳を傾けずにひたすらアルが出てきた長大な筒に視線を向けていた。
「む? 団長閣下、あれが気になります? なりますよね!? なるって言って下さい!!」
「あ、ああ。シルエットアームズだと思うが、あれはなんだい?」
非常に圧のある三段活用に、近衛騎士団長は思わず鎮座する筒についての詳細を聞く。横でアンブロシウスが『やってしまいおった』という心の声が透けて見えそうな視線を近衛騎士団長に投げかけるが、その疑問に『いやぁー、ばれちゃいましたかぁ』と白々しいにも程がある独白を前置きにしたアルは奥から数枚の紙を持ち出すとアンブロシウスと近衛騎士団長に手渡しながら説明を始めた。
「これは、とある戦いでレビテートシップを1発で撃墜せしめたシルエットアームズの改良版です。あの時は時間がありませんでしたが、今回は改良に改良を重ねますよ。例えば──」
『
「ちょっと待って欲しい。法撃に使用する魔力はどうするんだ? それだけ詰め込むとなると、エーテルリアクタ1基では到底利かないだろう」
しかし、聞いた手前で話を聞かないわけにはいかないと我慢して聞いていた近衛騎士団長が消費魔力についての質問を挙げる。たしかに、前回はイカルガという『自由に動けて膨大な魔力を持つ貯蔵庫(会話機能付き)』が居たので問題はなかったが、その情報を知らない人間からしてみればこの
「最悪、強力なエーテルリアクタが手元にあるので力技で何とかします。ですが、今はクリスタルプレートで魔力を代替できないか、ガンライクロッドを用いて検証しています」
「ガンライクロッドというと、おぬしらが持っておる杖じゃろう? それとクリスタルプレートは関係なかろう?」
しかし、アンブロシウスはその腹案の意図を理解できず、疑問の声を上げた。杖という物は本来、自らの持つ魔力と
「論より証拠ということで、数丁持ってきます」
アンブロシウスの疑問に、アルが『丁』という不思議な単語を言いながら奥に引っ込む。しばらくすると、彼は手に1本の
エルがいつも持っている物なので見覚えのあるアンブロシウスは受け取った
「アルフォンス、これはエルネスティが持っておるものとは別物か?」
「モデルは兄さんの物ですが、兄さんがバトソンに何度もクレームを入れながら作ってもらってた自信作っぽいです」
そう言いながらアルは自身の腰から2丁目の
「アルフォンスよ。実物は分かったが、どう使うのだ? 杖というならば自身の魔力を用いるのだろう?」
「それは後のお楽しみということで」
もったいぶるようにアルは2人を工房の外にある魔法の試射を行うスペースまで連れて行く。そして、アンブロシウスの持っている
「これらはガンライクロッド内に格納しているエンブレム・グラフと触媒結晶。それらにこのクリスタルプレートに溜まった魔力を流して魔法を放ちます」
銃身の辺りと
「なんじゃ。おぬしも分からんのか?」
「兄さんとバトソンが開発して、僕はノータッチなんですよ。後から"機構が複雑だからってあんだけ作り直しさせるなんて聞いてないよ! アルのは簡単なんだよね! "ってバトソンに怒られたので、僕のは極力簡素にしました」
『M1894だっけ? M1873だっけ? ショートバレルタイプのエアガン持ってたのは覚えてるんだけどな』と小さく呟きながらも装填が完了したアル。レバーを元の場所まで戻すと、立ったままの姿勢で前方の的に向かって狙いを定めてくの字の部品──引き金を引く。引いた瞬間は何も起きなかったが、1秒も経たない内に
「よし、よし。あ、先王陛下もどうぞ。狙いをつけてからここを引くだけなので」
レバーを再び前後に動かすことで、ガシャリという音と共に細長い
先ほどアルが行っていた射撃体勢に倣い、しっかりと狙いをつけたアンブロシウスが引き金を引く。すると、火球はアルが魔法を放った時と同じように的に向かって飛んでいき、真ん中からかなりずれた所に着弾する。
「信じられん。魔力も演算も必要ないとは……」
「後ろのハンマー部分でクリスタルプレートのお尻を叩いて、この部分にあるエンブレム・グラフに魔力を送り込んでるらしいです。機構は複雑っぽいので知らないですけど!」
受け取った
たしかにアルは、エルの
ただ、装填や排莢といったディープな知識は一切持っていないので、そんなアルにどんな原理で動いているのかと聞いたところで『起用なドワーフがノイローゼ手前になるぐらい精巧な部品作りが必要になるが、詳しくは知らない』という答えが関の山であった。
そんな『詳しくは聞いてくれるな』という雰囲気を噴出させる彼は、近衛騎士団長から手のひらに納まるサイズの
「さっきのはレバーを動かせばクリスタルプレートを入れた分だけ連射できますが、こっちは1発ずつ装填する必要があります。その点、装填もメンテナンスもしやすいんですがね」
「その口ぶりを聞くに、それをおぬしが作ったようじゃな」
「はい。さっきのを最初にバトソンに作ってもらったので、兄さんからの手直しの多さにキレたバトソンを宥めながら最低限の機能を試せるようにしました」
『もっと色々作りたかったのに』と呪詛を振りまきながらも
すると、先ほどの
「アチッ。こっちの方が大きいクリスタルプレートが使えるので、威力が高い魔法を使えます」
急激に魔力というエネルギーが移動したことによって少々銃身が熱くなるが、先ほどのようにリロードを行ったアルは今度は近衛騎士団長に試射をしてもらう。これも先ほどのように魔力を用いない魔法攻撃に驚いた様子の近衛騎士団長は、炎上している的と
そこまでしてようやく成果を見せることが出来たアルが、『連射ならナンブみたいに
「アルフォンスよ。これは何のために作った?」
「先ほど見てもらったシルエットアームズの技術検証。それと、ボキューズ大森海に踏み入った人間の戦闘能力の向上です」
未だに開発した物が上手く動作したという結果に満足していたアルは、頭ふわっふわの夢心地で返答した。
ボキューズ大森海とは魔獣が蔓延る魔の領域である。そこを開拓するとなると、戦闘職として一定の知識や技量を持つ騎士だけではなく、大工や
それを逐一
しかし、この
ただ、アルからの言葉にアンブロシウスの脳裏には
「アルフォンスよ。これは量産は可能か?」
「兄さんのは仕組みが複雑ですよ? 数mm部品が大きくても小さくても機構がかみ合わない可能性があるので、生産もメンテナンスも知っている人じゃないと出来ないかと。僕のは図面を起こせばすぐに可能です。量産ですか?」
「いや、この杖は…………しばらくは表に出すことを禁じる。良いな?」
しばらくの沈黙の後、アンブロシウスはこの試作
「たしかに、兄さんのならともかく。僕のは機構が単純すぎます。それに、ポケットにも入るほど小型です」
「すまぬ。……だが、その杖の有用性やおぬしがこれを開発した理由が民の命を守るためなのは分かっておる。ただ、その危険性を拭い去る法を整備するまでの間、表に出さずに寝かせてはくれぬか?」
(すみません。私利私欲です)
自衛になるならそれで良いが、過ぎた力は暴走すると国家や国同士の火種になることも十分にありえる。
ただ、アンブロシウスもこの武器の有用性や、毒とも言うべき悪性も分かった上で『時期を待て』と言ってくれている。アルはアンブロシウスの言う開発経緯が全くの見当はずれであることを頭で謝罪しながら強く頷いた。
「えーっと、じゃあ兄さん呼んでこれらは処分する形で良いですか?」
「別に破壊するまでもなかろう? 発表はせんと言っておるだけで…………アルフォンスよ。このちっこいのをくれぬか? 手入れもしやすそうじゃし、その……ワシ用にな?」
「先王陛下、その一言でさっきまでのお話の説得力をぶち壊しましたよ?」
「最新の杖じゃぞ? しかも、魔力も演算も使用しない杖じゃぞ? ワシやエルネスティ達が自身で使う分ぐらいならば、その限りではないじゃろ」
先ほどまでの話はどこへやら。アンブロシウスは『護身用』としてアルの作った小さい方の
魔力や演算の有無に関係なく、
その後、連れてきたエルに事情とアンブロシウスからの命を連携したアルは『絶対、ずぇーったいに奪われないでくださいね』と唾を飛ばしつつ、太い銃身タイプの1丁をアンブロシウスに譲ってこの話は終わりとなった。
「ガンライクロッドの開発は禁止されましたが、弾薬の追加生産は禁止されてませんよね」
「ウィンチェスター型は加工が面倒そうですね」
ただ、ウィンチェスターを模したタイプの
**試作型
アンブロシウスが帰ってからあまり時間も経たずにエル達もボキューズ大森海へ旅立っていった。やたらとテンションの高いバトソンが早く集合地であるカンカネンへ行こうとばかりにエルを引きずりながら乗船させていたり、ボキューズ大森海に向かう際に横切ったライヒアラの邸宅でエルの母親であるセレスティナがなにやら不穏な予感に苛まれていたり、エドガーが自身が踏み込むべき1歩目を決める旅に出掛けたりと様々な場所で様々なドラマが生まれていたのだが、先に言ったどこにもアルとフロイドの姿はなかった。
「ちわーっす。──で、少し前にもらった手紙で大体のことは知ってるんですが、これですか?」
「そうだよ。名前はそうだな……ヘイローコートかな」
軒を連ねる工房の一角でアルは
「君達がエンブレム・グラフの量産方法を整えてくれたおかげで僕らもオルヴァーさんからトゥエディアーネの組み立てに参加してくれって内示を受けてさ。で、この装備の開発を引き継いでくれそうな人といったら──」
「ああ、銀鳳騎士団ってわけですね」
困ったように両肩をあげる
この
つまり、試験をするには高高度で鳥になる必要があるのだ。
「本当はもっと早くに出来てたんだけど、着地後の戦闘試験とか防御試験以外の試験は皆、やってくれなくてね」
「そりゃあ、そうですね」
しかし、当然ながら最近出回ってきた
「復元作業してもらえる時間があるなら、今からうちまで運んでもらってあっちで試験でも見学します?」
どっちみち開発を騎士団に任せるのでオルヴェシウス砦への輸送も後々行うつもりであった
「許可とって来ます!」
「こいつを動かすぞ! 暇な奴手伝え!」
「レビテートシップ動かせる奴をかき集めてくる!」
アルの気が変わらない内に作業を終えてしまおうと即座に動く
最後に、気づくとアルはフロイドと共にシルフィアーネ・トレーナーで
「え、急に呼び出されたんですよね? なんでこうなったんですか?」
「いや、僕に聞かれても……」
アルとしては一言提案しただけなので、フロイドに聞かれてもどう説明して良いのか分からなかった。ただ、決して口には出さないが『銀鳳騎士団も
そして、急に飛び出したかと思えば
「アルフォンス、エドガーの件だけど」
「それは聞いてます。2人も近隣の騎士団や騎操士学園が演習でうちの巡回コースを定期的に回るらしいです。銀鳳騎士団側のシフトはかなり変わるので決まってから連絡します。ですが、今はこちらのラボからいらっしゃったお客様の対応が先です」
「なんとか小型化できないのかい?」
「可能だったらもっと小さく作ってますよ。小型化って結構技術いるんですよ?」
バランスを崩してその場ですっ転んだカルディトーレの操縦席からディートリヒが開口一番に叫ぶ。いかに熟練のナイトランナーでも操作性に難色を示すぐらい、
ただ、元は
「本当にすみません」
「いえいえ、プロジェクトの急な変更は仕方ないですよ。ひとまず、一旦動かした後に調査飛行から皆が帰ってきた時にでも開発を再開させます。こちらでも結構やることが一杯ですから」
「やることって……あれですか? それとも、飛行場にあったあれですか?」
「そのどちらもだよ。この子、鬼神様が居ないとはりきっちゃってさ」
『やること』について会話していたアルと
しかし、デシレアの言っていることは尤もであった。今、彼らの視線の先にはアンブロシウスと近衛騎士団長が見ていた長大な
それに加え、むき出しのトゥエディアーネのフレームに
「飛行場のアレについてはヨーハンソンの改修だと分かるんですが、これはなにをやっているので?」
「空に居る師団級魔獣と相手出来るような装備を作っています。長距離でも使えるシルエットアームズ。機動性を上げる大型のマギウスジェットスラスタ。継戦能力確保のための大型キャパシティフレーム。当然、エーテリックレビテータもくっつけますよ」
装備の概要について話したアルだったが、聞いていた
ボキューズ大森海はざっくばらんに言えば『秘境』である。例え、調査飛行を行っても全体から見ればほんの1~2割ぐらいしか調査は進まないだろう。そんな環境に対して我らが行えることは、備えることだけだ。
人類が未確認の師団級魔獣が森の奥から姿を現すかもしれない。魔獣の侵入に怯えながら拠点を作る必要があるかもしれない。そもそもだが、地上からの進軍は厳しくて上空から降下しながら拠点を増やしていかなければいけないかもしれない。
様々なケースに備えるために、今も工房に転がっている様々な装備や機体。そして、飛行場で別の班が行っているようなヨーハンソンの増築作業を行っているのだと、アルは握る手に力を込めながら力説する。
「おかしいわね。これを作る時、"作りたいから作るんです。船とシルエットナイトは対で運用したいんです。"って言ってた気がするけど。はーい、目をそらさない! あ、ちょっ、待ちなさい! そこ! そこ座りなさい!」
「ソウダー。ヘイローコート ノ テストシナキャー」
都合の悪いことを言われたアルはデシレアから目を逸らしながら脱兎の勢いでその場から逃げ出し、『ハハハハー』という笑い声を残しながら工房から出て行く。そんな白々しさに怒る気も失せたデシレアだったが、それでも不満が残っているらしく『普通、全員で大物1つずつ消化するものでしょ。なんで、チームに分けて一気にこなそうとするの』と愚痴を漏らしていた。
その後はアルと暇そうにしていたディートリヒとヘルヴィが
だが数ヵ月後、アルは試作型
試作型ガンライクロッド
モデルはレバーアクションのウィンチェスターと信号拳銃。
どちらも撃鉄を起こしてから引き金を引くことで装填時に収めたクリスタルプレートを銃身内のエンブレム・グラフにぶつけて魔力を流す。
欠点はウィンチェスタータイプは整備や製造の難易度の高さ。信号拳銃型はウィンチェスタータイプの連射をオミットしたため、単発なのが上げられる。
※ウィンチェスタータイプは主に装填/排莢部分の機構がかなり厳しい。
また、魔力の充填→エンブレム・グラフによる魔法の顕現→発射というサイクルで魔法を放っているため、引き金を引くと即座に弾丸を飛ばす銃と比べ、引き金を引いた後に一呼吸ほどの余白が必要である。
試作型ヘイローコート
レビテートシップからウォーリアスタイルを降下させるためにと考えられたオプションワークス。
小説版から作成したのは銀鳳騎士団ではないかと思ったが、『あの大惨事クラスの騒動から、こんなの作れる余裕あったのだろうか』という疑問から下地は既にラボで試作されていたのではないかと構想。このような展開としました。
試作型と銘打つ通り、トゥエディアーネで使用されるエーテリックレビテータをポン付けしているので、すこぶるバランスが悪いがそれに慣れてしまえば案外白兵戦も出来る使い勝手の良い装備へと仕上がっている。
???(対空の師団級魔獣装備)
銀鳳騎士団内で進めている開発物。コンセプトは『高機動。高火力』らしく、大推力マギウスジェットスラスタと、レビテートシップを1発で撃沈させたお化けシルエットアームズを改造した物と、某騎士団長からレンタルした蒼いシルエットナイトを少しばかり改修したものが工房内に散らばっている。
武器庫を背負うのか、分離できない武器庫を背負うのか、どこぞの不死鳥を狩るのか、未だ迷ってます。
なお、この装備には暫定的な名称のほかに正式な名付けがされるのだが、それはもう少し後のことである。