銀鳳の副団長   作:マジックテープ財布

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今回で幕間は終わります


幕間(強襲用オプションワークス付きシルエットナイト)

 エルが調査飛行に赴いて早2ヶ月。飛空船(レビテートシップ)に積み込まれた物資がどれだけ多くても、数十ではとても利かない人員が毎日消費する量を考えるとそろそろ引き返してきてもおかしくは無い頃合だ。

 調査飛行で傷ついているはずのイズモやトゥエディアーネの補修資材をそろそろ申請しようかという騎操鍛冶師(ナイトスミス)達の意見が高まってきた頃、アルはフロイドや騎操鍛冶師(ナイトスミス)の中で飛空船(レビテートシップ)を動かせる人員を伴って大空を漂っていた。

 

「フロイド船長、前方に魔獣に襲われているカーゴシップを監視員が発見しました」

 

「あ、あぁ。全速前進!」

 

 伝声管からの報告を聞いた騎操鍛冶師(ナイトスミス)に、艦橋中心に設置された椅子に座っていたフロイドは全速で救援に向かうよう指示を出す。ただ、下手に近づくと輸送型飛空船(カーゴシップ)の迎撃行動の邪魔になると判断した騎操鍛冶師(ナイトスミス)は、周囲の同僚の行動を制止させながら再び指示を仰ごうとフロイドのほうを振り返る。

 

「船長、まずは相手に手助けの有無を確認するべきでは?」

 

「す、すまない! 大至急で確認してくれ!」

 

 指摘を受けたフロイドは慌てて指示の訂正を行う。そんな拙くも指示を出す彼の様子に、騎操鍛冶師(ナイトスミス)達は彼がこの飛翼母船(ウィングキャリアー)2番船である『アサマ』の暫定的な船長になった経緯を思い出して不憫そうな表情を浮かべる。

 

「副団長に状況の伝達と発進準備もしておきますね」

 

「文句言われそうなんで、お願いします」

 

 魔導光通信機(マギスグラフ)輸送型飛空船(カーゴシップ)への接触を図る傍らで、フロイドの軽いジョークに薄く笑った騎操鍛冶師(ナイトスミス)の1人が現在、アサマの船倉で待機しているアルや作業中の騎操鍛冶師(ナイトスミス)へ発進準備に入るように連絡する。

 

 さて、このアサマ。先にも言った通り、アルが現在残っている銀鳳騎士団の騎操鍛冶師(ナイトスミス)達に改修を頼んだ飛翼母船(ウィングキャリアー)2番船の名前である。しかしながら、アサマは元々飛翼母船(ウィングキャリアー)として建造していたイズモとは違い、国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)が建造した国内初の飛空船(レビテートシップ)である『ヨーハンソン』を飛翼母船(ウィングキャリアー)の設計思想に基づいて改修を行ったためにイズモと比べるとかなり──具体的には、格納庫内にトゥエディアーネの機数が1個中隊(10機)から1.5個小隊(5機)程にスケールダウンする羽目となった。

 

 そんなイズモを空母とするならば軽空母のようなアサマ。現在搭載されている幻晶騎士(シルエットナイト)戦力は1機、さらに言えば近接戦仕様機(ウォーリアスタイル)しかいない。──というのも、アサマの改修と平行して改修されたこのウォーリアスタイルはアルの言葉を借りると『アサマで運搬してもらわないと全力を出せない』らしく、連携も考えるとどうしてもアサマと共にテストを行う必要性が出てきた。

 そんなこんなで、副団長補佐という役職にいつの間にかなっていたフロイドがアサマの、アルが船倉に積み込まれた幻晶騎士(シルエットナイト)、『トイボックス・ハーミット』のテスト責任者となって本日テストを行った所にこの状況である。

 行動を予測しにくい魔獣なのでトラブルとは言いがたいが、つくづく楽に物事を進めてくれないことに、フロイドを除く艦橋に詰めていた面々は少々呆れた表情で輸送型飛空船(カーゴシップ)からの返答を待つ。

 

「カーゴシップから返信。"タノム"……だそうです」

 

「船倉から開放許可が来てます」

 

「船倉開放! トイボックス・ハーミット発進後にカーゴシップと合流します」

 

 フロイドの指示を聞いた騎操鍛冶師(ナイトスミス)は間髪居れずに船倉の開放を指示。すると、『船倉開きます』という声と共にガコンという大きな音と振動が船全体を包みこんだ。アサマ下部に取り付けられた船倉を覆う蓋が外向きに開き、その中から大型魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)を組み込んだ独特の脚部を持つ蒼い幻晶騎士(シルエットナイト)──トイボックス・ハーミットが姿を現す。その背中には様々な機材をマシマシ一丁どころか二丁ぐらいされたトゥエディアーネの胴体がくっついており、どちらもクローアームにガッチリと掴まれた状態で船外へ運び出されていく。

 

「トイボックス・ハーミット、および"強襲用オプションワークス"起動します」

 

 かの操縦席でアルは操縦席中に張り巡らされたボタンやレバーを順番に押していき、最後に自らの魔術演算領域(マギウス・サーキット)で演算した魔法術式(スクリプト)魔導演算機(マギウスエンジン)に送り込む。すると、トイボックス・ハーミットの頭部に取り付けられた面覆い(バイザー)の左右斜め上下、中央上下に散りばめられた眼球水晶と面覆い(バイザー)の中央に鎮座する長さが異なる3本の筒のそれぞれに光が灯った。操縦席では半円状の幻像投影機(ホロモニター)に前方180度の映像が映し出されたことで、アルは改めて操作を続ける。

 

「起動確認。続けて"クレヤボヤンス"を起動、艦橋のホロモニターに映しました」

 

「ブレイドダンサーに集られてますね。ですが、群れの後ろに大きな個体が居るので、それを狙えば散り散りになるのでは?」

 

 面覆い(バイザー)中心部の筒──『クレヤボヤンス』をクルクルと回しながら輸送型飛空船(カーゴシップ)周辺の情報収集を行うアル。その映像はトイボックスなどを掴んでいるクローアームに内蔵された銀線神経(シルバーナーヴ)を通してアサマの艦橋にも共有されており、フロイドは一際大きな個体──おそらくボスの討伐を進言する。

 

「了解です。ゆっくりしている暇は無いですからね」

 

 このままゆっくりしていると輸送型飛空船(カーゴシップ)が墜とされかねないので、アルはフロイドの意見を採用すると素早くトグルスイッチを3つほど上に押し上げる。その操作によって魔力の経路や魔法術式(スクリプト)が変更され、トイボックス・ハーミット背後の『強襲用追加装備(オプションワークス)』とアルが呼んでいたトゥエディアーネの胴体から浮揚力場(レビテートフィールド)が発せられる。

 

「レビテートフィールド規定範囲、こちらは大丈夫です」

 

「船倉! トイボックスを切り離してください」

 

「パージ!」

 

 フロイドの指示を聞くや否や、船倉に居る騎操鍛冶師(ナイトスミス)が掛け声と共にレバーを引き下ろす。トイボックス・ハーミットや強襲用追加装備(オプションワークス)を繋ぐクローアームの拘束が一気に解かれたことで、一瞬重力に引かれるような浮遊感がアルを襲うが、既に強襲用追加装備(オプションワークス)内部に格納された源素浮揚器(エーテリックレビテータ)から浮揚力場(レビテートフィールド)を生み出しているので、トイボックス・ハーミットは地面に墜落せずにアサマのすぐ下を浮遊し始める。

 

「カーゴシップに現在の高度を維持するように通達。えーっと、ドーラ……グスタフはもうつけたんだっけ? パリ砲……はいまいち。"後で決める砲"を発射するんで射線に入らないようにー」

 

 拡声器の出力を上げながら、『後で決める砲』という適当に適当を重ねたような雑なネーミングの魔導兵装(シルエットアームズ)の攻撃準備に入るアル。新たな魔法術式(スクリプト)を読み込ませることにより、強襲用追加装備(オプションワークス)の横に取り付けられた長大な魔導兵装(シルエットアームズ)が稼動し、砲身がゆっくりとトイボックス・ハーミットの右肩に増設されたアタッチメントに固定された。

 

「レビテートフィールド、現高度に固定します。フロイド君、通達は!?」

 

「出来てます! 先方の返事も確認済みです」

 

 拡声器越しの情報連携を行いつつ、アルは幻像投影機(ホロモニター)に映る後で決める砲の照準に集中する。万が一が起こらないようにクレヤボヤンスを最大望遠状態にしながら魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)を小刻みに動かし、やがて意を決すると法撃ボタンを一気に押し込んだ。

 途端、魔導兵装(シルエットアームズ)の基部内でガコンッという固い物同士が衝突する大きな音が操縦席に響いた。アルの耳からその音が消え去るまでの僅かな間、時間にして数秒も経たない内に魔導兵装(シルエットアームズ)の穂先からミシリエで飛空船(レビテートシップ)を撃墜した時と同等の火球が照準通りに飛んでいく。

 ただ、火球が飛んでいく速度はミシリエで放ったそれとは比べ物にならないほど速く、領域に侵入してきた愚かな敵に同胞をけしかけることに集中していた頭頂部に立派な鶏冠を持つ巨大な剣舞鳥(ブレイドダンサー)は禄に回避も行うことが出来ず、取り巻きの数匹と共に法撃が命中した際に生じた大爆発の中へと消える。

 

「よしよし。フロイド君、カーゴシップの保護をお願いします。怪我人が出ていたら横付けして救助を行ってください」

 

「了解。アサマ、全速前進!」

 

 羽ばたくことで空を飛ぶ性質を持つ剣舞鳥(ブレイドダンサー)には大爆発の余波がかなり利いたらしく、輸送型飛空船(カーゴシップ)周辺から剣舞鳥(ブレイドダンサー)が一掃される。その隙に乗じ、アルはアサマに連絡を入れると追撃を仕掛けるためにトイボックス・ハーミットの脚部にある魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)と、強襲用追加装備(オプションワークス)の背部にある幻晶騎士(シルエットナイト)の全長ぐらいありそうな2基の魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)を起動させる。火山が噴火したと聞き間違えるぐらいの轟音を上げた魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)は、莫大な推力をもってトイボックス・ハーミットを遥か前方に向けて押し込んだ。

 

「ぐ……ギ、ギギギ。身体強化でもきつい。やっぱりシルエットギア……着込む!」

 

 激しく振動する操縦席でアルはシートに強く押し込まれながら、再度搭乗する場合の注意点を思い浮かべてGによる失神を何とか防ぐ。離脱を図る輸送型飛空船(カーゴシップ)の上空を通り過ぎ、前方から再び高度を上げてきた剣舞鳥(ブレイドダンサー)の群れを捕捉したアルは頭部兵装による牽制を行いながら魔法術式(スクリプト)魔導演算機(マギウスエンジン)に流し込む。

 

「弱っ! 威力弱くしすぎたかな」

 

 法弾が飛んでいく速度に機体が追いついて自爆、という展開を防ぐために威力を犠牲にして速度を上げた頭部兵装の法弾。案の定、数十発打ち込まないと剣舞鳥(ブレイドダンサー)1匹始末できないが、仲間がやられたことで脅威と感じたのか群れが二手に分かれた。

 

「"ショートスピア"……今っ!」

 

 その二手に分かれた群れの片方に向け、トイボックス・ハーミットは進路を変える。左肩に固定してある箱──トゥエディアーネにも搭載されている小型連装投槍器(アトラトルポッド)の蓋を開くと、その中に隠されていた6本の魔導短槍(ショートスピア)を一斉に発射。魔導飛槍(ミッシレジャベリン)よりも小型化された銀の槍は、それぞれ意志を持ったようにそれぞれ別の剣舞鳥(ブレイドダンサー)に向かって進路を変えると、1つの群れを須らく物言わぬ躯へと変えた。

 

 先制攻撃によって1つの群れを潰したが、まだ戦いは終わっていない。もう1つの群れが個々の身を1本の槍へと変じ、トイボックス・ハーミットの前方から強襲を仕掛けてくる。

 

「エーテリックレビテータを停止! ってはやっ」

 

 その攻撃に対し、源素浮揚器(エーテリックレビテータ)を停止させることで降下、回避を行おうとしたアル。しかしながら、地上と比べると比較対象の少ない空ゆえに相手との距離を見誤ってしまう。さらに操縦席が密閉型なのでアルは気づいていなかったが、剣舞鳥(ブレイドダンサー)の背後から強烈な風──追い風が吹いていたので、その突撃速度は先ほど輸送型飛空船(カーゴシップ)を襲っていた際の速さとはまるっきり異なっていた。

 

 源素浮揚器(エーテリックレビテータ)を操作している隙を突かれ、気づいた時には既に降下では到底回避できないような距離まで近づかれたアルは思わず目を剥いた。

 一応魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)を瞬間的に真上に吹かすことで回避は出来るが、余計な速度も増すのでリカバリの大変さや地面に激突する可能性が増すというデメリットが頭に過ぎり、アルの思考と操縦桿を握る手が僅かに強張る。その間にも追い風と絶妙な突入角度を味方につけた剣舞鳥(ブレイドダンサー)は当初の勢いのまま突撃を続けており、もはや緊急回避も出来ないと察したアルは自らの判断の遅さに悪態をつく。

 

「くっそ! 降下が間に合わない!」

 

 ようやくアルは生き残るための行動を開始する。利き手ゆえに操縦しやすいトイボックス・ハーミットの右の掌で操縦席が納まっている胸部装甲付近を包み込むように防御し、左手で握り拳を作ってからいつでも拳を振りぬけるよう構える。

 そして、剣舞鳥(ブレイドダンサー)が目の前までやってきた途端。トイボックス・ハーミットに内蔵されている綱型結晶筋肉(ストランド・クリスタルティシュー)が唸りを上げ、運が悪い1匹の剣舞鳥(ブレイドダンサー)を一撃で黙らせる。

 ただ、拳によって撃退したのはたったの1匹で、時間差で襲い掛かってきた剣舞鳥(ブレイドダンサー)は強化をその身に宿した必殺の一撃をトイボックス・ハーミットの突き出した左腕を中心に見舞う。

 

「痛た"あ"ぁ!」

 

 トイボックス・ハーミットの速度と剣舞鳥(ブレイドダンサー)の突撃速度がぶつかり合い、アルは頭を操縦桿に打ち付ける。痛がる彼の声とは裏腹に、トイボックス・ハーミットはようやく重力による降下を開始した。

 機体に向けて『遅い』と憤るが、後はアサマに帰るだけと源素浮揚器(エーテリックレビテータ)を再起動させつつ魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)で姿勢を整えるアルだったが、アサマから放たれる数発の信号法弾に非常に嫌そうな表情を浮かべる。

 

「うわ、本当に増援だ。とりあえず、位置を変え……っ!?」

 

 アサマからの報告に従ってクレヤボヤンスで位置を確認すると、狩りとかで一時的に離れていたのか4匹程の群れが確認できた。幸いにも一塊になって向かってきているので、魔導兵装(シルエットアームズ)の先制攻撃を行えば対処は可能である。

 頭の中でシミュレートを終えたアルは魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)を使ってトイボックス・ハーミットの位置を変えようとするが、突然操縦席は不可解な振動に見舞われた。

 

「あっ! この野郎!」

 

 不可解な振動に、アルは慌ててトイボックス・ハーミットの首を左右に振ることで半円状の幻像投影機(ホロモニター)に外部の状態を映し出す。そこには、強化を解いた剣舞鳥(ブレイドダンサー)達が突き刺さった装甲や機体の関節から脱しようと、必死に翼を羽ばたかせながらもがく姿があった。決闘級という大きい存在が複数もがくことにより、尋常ではない空気抵抗が生まれて機体を激しく動かす。

 増援の方向に機体を向けようにもあっちへこっちへと傾いてしまうので、アルはつい乱暴な口調で剣舞鳥(ブレイドダンサー)を罵ると操縦桿から直接制御(フルコントロール)へと操縦方法を切り替えた。

 

「むしり候へ。むしり候へ」

 

 器用にトイボックス・ハーミットの左腕に突き刺さった剣舞鳥(ブレイドダンサー)の首をへし折りながら力任せに引き抜く。腕だけではなく胴体と肩を繋ぐ関節や小型連装投槍器(アトラトルポッド)にも突き刺さっていたので、嫌な予感を過ぎらせたアルは直接制御(フルコントロール)を用いて魔力が機体全体に行き渡っているかを確認する。

 

「全部正常で返ってきてますが。…………デスヨネー」

 

 トイボックス・ハーミットのみならず、背後に繋がっている強襲用追加装備(オプションワークス)へも魔力経路が無事か確認して異常がないことが返ってくる。だが、いざ左腕を動かそうとしても左腕の動作がやたらもったりしている感覚にアルはため息をついて事態の究明に当たった。

 

「左手ーOK! 左肘関節ーOK! 左肩関節ー……ここか!」

 

 右側に突き刺さった剣舞鳥(ブレイドダンサー)が暴れる中、左腕の末端である掌から順番に直接制御(フルコントロール)と目視で動作を確認していくこと数度。ようやくアルは左肩部分だけが動作不良を起こしていることに気づく。

 おそらく、先ほど関節部に突き刺さった剣舞鳥(ブレイドダンサー)を力任せに引き抜いた際の異物が残留しているのだろう。機体側の動作不良を見抜けない直接制御(フルコントロール)の意外な弱点に気づいたアルだったが、とりあえずは動かない左肩の処遇に悩み始める。

 

「パージするべきか、しないべきか。それが問題ですね」

 

 動かないのなら、その部分を早めに切り離したほうが軽くなって機動力は上がるだろう。ただ、現在は右腕に余計なウェイト兼予測不能な抵抗を生み出すお荷物(ブレイドダンサー)をくっつけている状態なので、この状態でパージ。さらには、大型魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)での超高速移動を行った際のバランスが取れるのだろうかとアルは思考をぐるぐると回す。

 

「ま、今も結構危ないですが安定してますし、このまま続行しますかね、…………本当はやりたいけど! 皆が怖い」

 

 徐々に近づいてくる剣舞鳥(ブレイドダンサー)の群れの方向に機体を向けることが出来たアルは、トイボックス・ハーミットの腕をパージしないことを決断する。

 本当ならば自身の心に秘めたるロボット魂的にパージしたかった。もっと言えば、捥いだ腕を鈍器にして振り回す『勇者的行為』もやってみたかった。

 ただ、それをすると怒る人間が1人や2人では利かず、ダース単位での罵詈雑言がちらりと脳裏を過ぎったアルは小声で『怖い怖い』と呟きつつ、数個のボタンをパチパチと押してから操縦桿を手に取った。

 

 操縦桿を捻ったり、押し込んだりといった操作を行うごとにトイボックス・ハーミットの背部に接続された強襲用追加装備(オプションワークス)に変化が生じる。

 手始めに剣舞鳥(ブレイドダンサー)のボスを燃えカスにした長大な魔導兵装(シルエットアームズ)の基部が一箇所だけ後退し、そこからドラム缶のような形とサイズをした板状結晶筋肉(クリスタルプレート)が1個、弧を描くように空中に弾き出された。その板状結晶筋肉(クリスタルプレート)が下に広がる森林地帯の最奥付近に墜ちるよりも早く、強襲用追加装備(オプションワークス)から伸びたサブアームによって新しい板状結晶筋肉(クリスタルプレート)魔導兵装(シルエットアームズ)の基部に補充される。

 

「リロード完了。……うーん、でも操縦辛いなぁ。やっぱりスクリプト考えてマギウスエンジンに追加しとけば良かった」

 

 基部が再び閉じられ、操縦席の幻像投影機(ホロモニター)に照準が灯ったことを確認したアルは大きな息を吐きながら一人ごちる。先ほど行われた一連の流れは全てアルの手動操作で行われており、精密すぎる操縦が彼の神経に多大な負荷を与えていたのだ。

 だが、なぜそのような仕様になっているのか。理由は簡単で、先ほどの流れを全て魔法術式(スクリプト)に認め、検証しながら内容を推敲し、完成した魔法術式(スクリプト)を正式に魔導演算機(マギウスエンジン)に追加する工程が面倒くさ……。失敬、時間がもったいなかったのだ。

 

 よくよく考えなくても、このトイボックス・ハーミットと強襲用追加装備(オプションワークス)はイカルガまでと言わずともワンオフの機体と装備である。なので、『ワンオフなら皆使えるようにならなくても良いですよね!』とアルは魔導演算機(マギウスエンジン)魔法術式(スクリプト)の充実具合と反比例して徐々に出来上がっていくおもちゃ──もとい、機体の誘惑に負けてしまった。

 そして、出来上がったばかりの装備で走り出した10代後半の結果がこの始末であった。

 

「まぁ、良いか。フロイド君も居るから頼めばいけるいける」

 

 アルは何気なしに輸送型飛空船(カーゴシップ)に合流したアサマの艦橋に居る人物をロックオン。それと同時にフロイドの背筋に氷柱と同程度の悪寒が突き刺さるが、それはさておくとして……。

 魔導兵装(シルエットアームズ)の射程圏内まで十分待ったアルは、剣舞鳥(ブレイドダンサー)の集団のさらに中心の1匹に向けて法撃を行った。

 ──刹那。つい先ほど彼らのボスを荼毘に付したように、狙いをつけていた剣舞鳥(ブレイドダンサー)に突き刺さる。耳が壊れそうなほどの爆発音と爆炎が起こり、トイボックス・ハーミットに向かってきていた群れは焼け焦げた大小の塊や羽のみとなって森林内に降り注ぐ。

 この後の後始末は肉食獣や微生物に任せておけば良いだろうと食物連鎖に対しての謎の安心感を胸中に、アルはアサマと合流するべく推力を落とした状態で機体を進めた。

 ──無論、右腕側に剣舞鳥(ブレイドダンサー)を突き刺した状態で。

 

***

 

「はい、並んで並んでー。同意書が書けたら教官に渡してくださーい」

 

「あ、そこまで! それ以上近づいたら危険ですよ。はい、この魔獣はブレイドダンサーと言って──」

 

「ウィングキャリアー見学の方はこちらまでー。こちらの指示に従わずに乗船および船内での行動を行った場合、しかる対処を行わざるをえないのでご注意をー」

 

 ライヒアラ騎操士学園の校庭が祭りもかくやとばかりに騒がしい。その騒ぎにライヒアラの住人が窓から外の様子を伺うと、学園の真上にはいつも上空を通り過ぎている輸送型飛空船(カーゴシップ)よりも一回りも大きな飛空船(レビテートシップ)が空中で静止していた。

 その巨体と船底に描かれた銀の鳳といったお馴染みの徽章に、『ああ、銀鳳騎士団(いつもの連中)か』と非日常から瞬時に各自の日常に切り替えていく。

 

「突然来て驚いたが、かなり盛況なようだな」

 

「父……エチェバルリア教官。いきなりこのような催しを行って申し訳ないです」

 

「いや、お義……学園長も仰っていたが、今後の騎士は活動範囲が広がるからな。空の知識も教えていかねばならん。……ただ、今後はちゃんと計画を持ってきて欲しいな」

 

「ティンと来たもので」

 

 マティアスの登場にアルは謝罪の言葉を放ってから腰を折るが、マティアスは魔獣や飛空船(レビテートシップ)の下に集まっている生徒達とそれに混ざる一部の教官の様子に目を細めていた。

 なぜ、学園でこのような突発的な催し物が開かれているのか。

簡単な話、『アルのもったいない病と、出来上がった物を他人に見せびらかせたい気持ちが噴き出したから』である。

 

 時はアルが剣舞鳥(ブレイドダンサー)を右腕周辺に突き刺したまま、覚束無くアサマ周辺まで帰ってきたころまで遡る。輸送型飛空船(カーゴシップ)内の怪我人の有無や航行やエスコートの可否といった確認事項を済ませ、感謝の言葉や再会した際の奢りの話と共に次なる目的地へ旅立っていった輸送型飛空船(カーゴシップ)を見送りながら、アサマとトイボックス・ハーミットはオルヴェシウス砦への帰路に就いていた。

 

 本来ならばアサマへの格納もテスト要項に入っているのだが、トイボックス・ハーミットや強襲用追加装備(オプションワークス)をアサマ内に再び格納するには突き刺さっている剣舞鳥(ブレイドダンサー)の存在が邪魔であり、かの魔獣の息の根を止めてから引き抜くのも、トイボックス・ハーミットの左肩の修理を行うのも空中で対処するのはあまりにも厳しい。

 幸いにも先ほどの法撃による熱波を間近で受けた剣舞鳥(ブレイドダンサー)は半殺し状態なので、フロイドはこのままトイボックス・ハーミットを収容せずにオルヴェシウス砦まで帰ろうという提案。その結果、こうした奇妙な併走関係が生まれたわけだ。

 

 そこからさらに時間が経過し、ようやくライヒアラの街が見えた頃。お世話になっているもう一つの職場を上空から見ていたアルは突然、『騎操士学園に体験授業をしにいきましょう』と叫ぶ。

 これには今までアルの突飛な行動に付き合っていたフロイドも思わず、『何言ってるんですか』と伝声管越しにマジトーンで返すが、『鍛冶科や騎士科に空に住む魔獣のサンプルや飛空船(レビテートシップ)を見学させるのは国にとって益になる。兄さんが調査飛行に行ってから巡回も代わりにやってもらっているので恩返し代わりです』と早口状態でまくし立てた説得によって空返事で承諾する。

 

 その返事に、アルはすぐさま進路を学園に向ける。強襲用追加装備(オプションワークス)を含めたかなり大きな機体を校庭に着陸させると、慌てて飛び出してきた教官達に見学会を打診する。

 最初は『カリキュラムが──』と渋る教官も居たのだが、飛空船(レビテートシップ)の運用を教える学科を設立するという噂話は既に聞いているらしく、後からやってきたラウリの『今後の騎士や鍛冶師は空に携わることもあるだろう。ならば、数時間の見学会ぐらいは許可して当然』という後押しによって教官、生徒といった区分けが一切されない公開授業が実施された。

 

 教官達がそれぞれの学科に銀鳳騎士団による公開授業を伝達。その際に公開授業の進行や誘導といった仕事を別の教官に押し付けたいという面々が、目を血走らせた状態でのくじ引きを平行して開催する。

『ウオォォ! 当たった』だの、『あ、後出し! ズルッ! ノーカン! ノーカン!』と知識に貪欲な教官達の叫びを他所に、前準備として未だ痙攣状態の剣舞鳥(ブレイドダンサー)をマティアスや他の教官の乗るカルディトーレ・トレーナーが丁寧に止めを刺していき、トイボックスの装甲から外して校庭に並べていく。

 そのタイミングで学園に到着したアサマから降下甲冑(ディセンドラート)を纏ったフロイドが慣れた様子で学園の校庭に降り立ち、アルから公開授業についての話を聞くがアサマの全長的に完全に地に下ろすことは難しいことを反論する。

 その反論にアルは納得し、ラウリや他の教官を交えて相談。十数分の議論の末、とりあえずは屋上付近に滞空して屋上から乗り降りすることへと決まった。

 

 その後は公開授業に参加する生徒や教官には同意書にサインしてもらって今に至るわけだが、唐突な公開授業開催にも拘らずに死んだばかりの魔獣や銀鳳騎士団が開発した飛翼母船(ウィングキャリアー)という飛空船(レビテートシップ)の新たな形態に、生徒達(と見学の権利をもぎ取った教官達)は全員少年少女の目をしながら説明者の話を一言一句聞き逃さないばかりの気迫で望んでいた。

 特に説明者がフレメヴィーラ王国の幻晶騎士(シルエットナイト)開発の最前線である国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)や騎士団の騎操鍛冶師(ナイトスミス)なこともあってか、鍛冶科の面々は説明が終わっても『もっと、もっと聞かせてくだされ!』といった状態で中々離してくれなかったらしい。

 

「それにしても良かったのか? 最新鋭のレビテートシップなんだろう?」

 

「ウィングキャリアーは有り体に言えば大きなカーゴシップなので、真似する気概があれば簡単に真似できますよ? ただ、制作費がすごいことになりますが」

 

 公開授業の様子を見学する親子2人。しかし、彼らから聞こえてくる言葉は凡そ親子というよりは機密事項の漏洩を心配する同僚のようであった。

 ただ、アルから言わせてもらえば飛空船(レビテートシップ)はかなり乱暴な言い方だが、源素浮揚器(エーテリックレビテータ)と推力となる部品さえ組み込めば飛べてしまう。そして、そこから先は各自の目的で改造内容や対策がまるっきり異なってくるのだ。

 

 例えば、機動力を上げたければ魔力転換炉(エーテルリアクタ)の増設や搭載する幻晶騎士(シルエットナイト)から魔力を拝借するなど魔力を調達する手段を講じてから魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)を追加すれば良い。また、魔獣への対処能力を上げるのであれば装甲板の追加や船倉を増築、機銃の配備といった諸々のアップグレードを施せば良い──といった具合だ。

 

 ただ、勘違いしてはいけない。ゲームのクリエイトモードなら何の問題もないが、改造にはお金が掛かる。装甲だの移動力だの、はたまた各武装の攻撃力だのを限界まで行おうとした結果、金は滝壺に落ちて行く水の如く勢いよく、そして大量に消費してしまうということはよくある話だ。

 イズモ建造時もディスカッションが無ければ、おそらく『あれも欲しいこれも欲しい』と2人の中の鋼鉄の魂が咆哮を上げた挙句に船を魔改造に有り金を全部溶かした人の顔をしていたに違いない。

 

「即応部隊になったり隣国のごたごたに連れて行かれたりしましたが、金銭面に余裕があるクライアントで良かったです」

 

「陛下たちの御前で言うんじゃないぞ!?」

 

「大丈夫です。この前も先王陛下と一緒に村を開拓した時、最終的には皆で棟梁呼びしてたんで」

 

 あわや不敬罪一歩手前の言葉をのたまったアルに対してマティアスは周囲を気にしだすが、先ほどの一言すら凌駕する爆弾発言に『銀鳳騎士団が許されてるなら良いか』と余計な言及を止める。

 そんな危ない会話を止めるように沈みかける太陽が2人の間に差し込んできたので、マティアスは人の出入りも疎らになってきた校庭を見やる。

 

「そろそろ終了するか」

 

「分かりました。いやぁ、盛況で良かったですよ」

 

 マティアスからの提案にアルはほくほくとした表情で責任者クラスの教官の元へ歩いていく。その後姿にエルやアルが騎士を目指すと自分達に宣言した時を思い返し、マティアスは思わずが熱くなった目頭を押さえる。これからもエルが作った技術をこうしてアルがフレメヴィーラ王国に広げるという幼少時から行ってきた連携で、フレメヴィーラ王国をさらに発展させて欲しいとマティアスは柄にも無くおセンチな気分に浸っていた。

 しかし、その1ヵ月後ぐらいにフレメヴィーラ王国。さらにはクシェペルカ王国の約数名を巻き込んだ大事件が待っているのだが、この時のエチェバルリア一家は割りとのほほんとした様子でいつまでも続いてきた平和を享受していた。




トイボックス・ハーミット
 テルモネン謹製シルエットナイトフィギュア(鉄製)数個を購入する約束と共にレンタルされたトイボックスを改修した姿。命名は『ヤドカリ(Hermit crab)』からで、モデルは某ナラティブのA装備とディープなストライカーの合いの子みたいな感じ。
 トゥエディアーネの胴体部を流用した素体に大型マギウスジェットスラスタや各種武装を取り付けた強襲用オプションワークスを背部に接続することでウォーリアスタイルでも空を飛ぶことができるが、所詮は直線番町なので器用な方向転換は至難の業である。

 本機に取り付けられた装備は以下の通り。
  ・頭部兵装
   アルの代名詞で毎度お馴染みの頭部に搭載されたシルエットアームズ。ただ、超高速戦闘を行うコンセプトだったので、威力を犠牲に弾速をかなり上げている特別製。

  ・クレヤボヤンス
   頭部のバイザーにくっついた板状の偵察機器。板の四隅と中央上下に眼球水晶が埋め込まれ、シルエットナイトが慢性的に陥っていた視界不良を解決している。
   さらに、板の中央には倍率が異なるスコープが取り付けられ、最低野朗の如く回すことで倍率が上げ下げできる。
   イメージ図(水色の部分が眼球水晶):
【挿絵表示】


  ・右肩部のハードポイント
   強襲用オプションワークスのシルエットアームズの砲身を固定して射撃精度を上げるために搭載。ついでに肩部にタックル用のスパイクをつけて欲しいと頼んだが、『整備中に怪我しかねん』という尤もな意見に却下された。

  ・左肩部のアトラトルポッド
   ミッシレジャベリンを小型化したショートスピアを複数格納した箱。元々トゥエディアーネの装備だったが、『他機の武装を取り付けるのって現地改修っぽくないです?』という謎の言葉によって取り付けられた。

  ・脚部大型マギウスジェットスラスタ
   トイボックス・ハーミットの脚部に取り付けられた大型のマギウスジェットスラスタ。設計当初、強襲用オプションワークスのマギウスジェットスラスタだけでは、飛行時のバランスが取りづらいというエルとダーヴィドの指摘から増設された。
   これらによって飛行時の安定性が保たれ、仮に強襲用オプションワークスに不具合が生じて空から投げ出されても軟着陸は可能となった。--が、速度が増したことで一気に直線番町化が高まった。

  ・腕部マジックソード
   両腕の前腕部に収められたエンブレム・グラフからカルバリンが顕現し続ける非実体剣。カルディトーレのような一般的なエーテルリアクタであれば数秒もすれば機能停止に陥るが、大隊級の炉による力技でなんとかしている。
   操縦席のボタンによって出力や長さを調整できる謎のこだわりが強い装備だが、アルの近接戦闘適正が結構低いために最後の手段的なお守り扱い。

  ・強襲用オプションワークス
   トイボックス・ハーミットの背部に接続される巨大なオプションワークス。
   シルエットナイトサイズの巨大なマギウスジェットスラスタという推力に、レビテートシップを撃墜せしめたものをさらに改良した高火力シルエットアームズとその魔力充填機能。さらにはエーテリックレビテータによる浮遊機能も完備している大型機動兵器っぷりである。
   使用目的は主に空を狩場にする師団級魔獣の排除。もちろん、今までの戦闘経験を動員したアルがこの量の装備で安心できるわけが無いので、まだまだ積み込む予定だとかなんとか。
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