エルが調査飛行に赴いて早2ヶ月。
調査飛行で傷ついているはずのイズモやトゥエディアーネの補修資材をそろそろ申請しようかという
「フロイド船長、前方に魔獣に襲われているカーゴシップを監視員が発見しました」
「あ、あぁ。全速前進!」
伝声管からの報告を聞いた
「船長、まずは相手に手助けの有無を確認するべきでは?」
「す、すまない! 大至急で確認してくれ!」
指摘を受けたフロイドは慌てて指示の訂正を行う。そんな拙くも指示を出す彼の様子に、
「副団長に状況の伝達と発進準備もしておきますね」
「文句言われそうなんで、お願いします」
さて、このアサマ。先にも言った通り、アルが現在残っている銀鳳騎士団の
そんなイズモを空母とするならば軽空母のようなアサマ。現在搭載されている
そんなこんなで、副団長補佐という役職にいつの間にかなっていたフロイドがアサマの、アルが船倉に積み込まれた
行動を予測しにくい魔獣なのでトラブルとは言いがたいが、つくづく楽に物事を進めてくれないことに、フロイドを除く艦橋に詰めていた面々は少々呆れた表情で
「カーゴシップから返信。"タノム"……だそうです」
「船倉から開放許可が来てます」
「船倉開放! トイボックス・ハーミット発進後にカーゴシップと合流します」
フロイドの指示を聞いた
「トイボックス・ハーミット、および"強襲用オプションワークス"起動します」
かの操縦席でアルは操縦席中に張り巡らされたボタンやレバーを順番に押していき、最後に自らの
「起動確認。続けて"クレヤボヤンス"を起動、艦橋のホロモニターに映しました」
「ブレイドダンサーに集られてますね。ですが、群れの後ろに大きな個体が居るので、それを狙えば散り散りになるのでは?」
「了解です。ゆっくりしている暇は無いですからね」
このままゆっくりしていると
「レビテートフィールド規定範囲、こちらは大丈夫です」
「船倉! トイボックスを切り離してください」
「パージ!」
フロイドの指示を聞くや否や、船倉に居る
「カーゴシップに現在の高度を維持するように通達。えーっと、ドーラ……グスタフはもうつけたんだっけ? パリ砲……はいまいち。"後で決める砲"を発射するんで射線に入らないようにー」
拡声器の出力を上げながら、『後で決める砲』という適当に適当を重ねたような雑なネーミングの
「レビテートフィールド、現高度に固定します。フロイド君、通達は!?」
「出来てます! 先方の返事も確認済みです」
拡声器越しの情報連携を行いつつ、アルは
途端、
ただ、火球が飛んでいく速度はミシリエで放ったそれとは比べ物にならないほど速く、領域に侵入してきた愚かな敵に同胞をけしかけることに集中していた頭頂部に立派な鶏冠を持つ巨大な
「よしよし。フロイド君、カーゴシップの保護をお願いします。怪我人が出ていたら横付けして救助を行ってください」
「了解。アサマ、全速前進!」
羽ばたくことで空を飛ぶ性質を持つ
「ぐ……ギ、ギギギ。身体強化でもきつい。やっぱりシルエットギア……着込む!」
激しく振動する操縦席でアルはシートに強く押し込まれながら、再度搭乗する場合の注意点を思い浮かべてGによる失神を何とか防ぐ。離脱を図る
「弱っ! 威力弱くしすぎたかな」
法弾が飛んでいく速度に機体が追いついて自爆、という展開を防ぐために威力を犠牲にして速度を上げた頭部兵装の法弾。案の定、数十発打ち込まないと
「"ショートスピア"……今っ!」
その二手に分かれた群れの片方に向け、トイボックス・ハーミットは進路を変える。左肩に固定してある箱──トゥエディアーネにも搭載されている
先制攻撃によって1つの群れを潰したが、まだ戦いは終わっていない。もう1つの群れが個々の身を1本の槍へと変じ、トイボックス・ハーミットの前方から強襲を仕掛けてくる。
「エーテリックレビテータを停止! ってはやっ」
その攻撃に対し、
一応
「くっそ! 降下が間に合わない!」
ようやくアルは生き残るための行動を開始する。利き手ゆえに操縦しやすいトイボックス・ハーミットの右の掌で操縦席が納まっている胸部装甲付近を包み込むように防御し、左手で握り拳を作ってからいつでも拳を振りぬけるよう構える。
そして、
ただ、拳によって撃退したのはたったの1匹で、時間差で襲い掛かってきた
「痛た"あ"ぁ!」
トイボックス・ハーミットの速度と
機体に向けて『遅い』と憤るが、後はアサマに帰るだけと
「うわ、本当に増援だ。とりあえず、位置を変え……っ!?」
アサマからの報告に従ってクレヤボヤンスで位置を確認すると、狩りとかで一時的に離れていたのか4匹程の群れが確認できた。幸いにも一塊になって向かってきているので、
頭の中でシミュレートを終えたアルは
「あっ! この野郎!」
不可解な振動に、アルは慌ててトイボックス・ハーミットの首を左右に振ることで半円状の
増援の方向に機体を向けようにもあっちへこっちへと傾いてしまうので、アルはつい乱暴な口調で
「むしり候へ。むしり候へ」
器用にトイボックス・ハーミットの左腕に突き刺さった
「全部正常で返ってきてますが。…………デスヨネー」
トイボックス・ハーミットのみならず、背後に繋がっている強襲用
「左手ーOK! 左肘関節ーOK! 左肩関節ー……ここか!」
右側に突き刺さった
おそらく、先ほど関節部に突き刺さった
「パージするべきか、しないべきか。それが問題ですね」
動かないのなら、その部分を早めに切り離したほうが軽くなって機動力は上がるだろう。ただ、現在は右腕に余計なウェイト兼予測不能な抵抗を生み出す
「ま、今も結構危ないですが安定してますし、このまま続行しますかね、…………本当はやりたいけど! 皆が怖い」
徐々に近づいてくる
本当ならば自身の心に秘めたるロボット魂的にパージしたかった。もっと言えば、捥いだ腕を鈍器にして振り回す『勇者的行為』もやってみたかった。
ただ、それをすると怒る人間が1人や2人では利かず、ダース単位での罵詈雑言がちらりと脳裏を過ぎったアルは小声で『怖い怖い』と呟きつつ、数個のボタンをパチパチと押してから操縦桿を手に取った。
操縦桿を捻ったり、押し込んだりといった操作を行うごとにトイボックス・ハーミットの背部に接続された強襲用
手始めに
「リロード完了。……うーん、でも操縦辛いなぁ。やっぱりスクリプト考えてマギウスエンジンに追加しとけば良かった」
基部が再び閉じられ、操縦席の
だが、なぜそのような仕様になっているのか。理由は簡単で、先ほどの流れを全て
よくよく考えなくても、このトイボックス・ハーミットと強襲用
そして、出来上がったばかりの装備で走り出した10代後半の結果がこの始末であった。
「まぁ、良いか。フロイド君も居るから頼めばいけるいける」
アルは何気なしに
──刹那。つい先ほど彼らのボスを荼毘に付したように、狙いをつけていた
この後の後始末は肉食獣や微生物に任せておけば良いだろうと食物連鎖に対しての謎の安心感を胸中に、アルはアサマと合流するべく推力を落とした状態で機体を進めた。
──無論、右腕側に
***
「はい、並んで並んでー。同意書が書けたら教官に渡してくださーい」
「あ、そこまで! それ以上近づいたら危険ですよ。はい、この魔獣はブレイドダンサーと言って──」
「ウィングキャリアー見学の方はこちらまでー。こちらの指示に従わずに乗船および船内での行動を行った場合、しかる対処を行わざるをえないのでご注意をー」
ライヒアラ騎操士学園の校庭が祭りもかくやとばかりに騒がしい。その騒ぎにライヒアラの住人が窓から外の様子を伺うと、学園の真上にはいつも上空を通り過ぎている
その巨体と船底に描かれた銀の鳳といったお馴染みの徽章に、『ああ、
「突然来て驚いたが、かなり盛況なようだな」
「父……エチェバルリア教官。いきなりこのような催しを行って申し訳ないです」
「いや、お義……学園長も仰っていたが、今後の騎士は活動範囲が広がるからな。空の知識も教えていかねばならん。……ただ、今後はちゃんと計画を持ってきて欲しいな」
「ティンと来たもので」
マティアスの登場にアルは謝罪の言葉を放ってから腰を折るが、マティアスは魔獣や
なぜ、学園でこのような突発的な催し物が開かれているのか。
簡単な話、『アルのもったいない病と、出来上がった物を他人に見せびらかせたい気持ちが噴き出したから』である。
時はアルが
本来ならばアサマへの格納もテスト要項に入っているのだが、トイボックス・ハーミットや強襲用
幸いにも先ほどの法撃による熱波を間近で受けた
そこからさらに時間が経過し、ようやくライヒアラの街が見えた頃。お世話になっているもう一つの職場を上空から見ていたアルは突然、『騎操士学園に体験授業をしにいきましょう』と叫ぶ。
これには今までアルの突飛な行動に付き合っていたフロイドも思わず、『何言ってるんですか』と伝声管越しにマジトーンで返すが、『鍛冶科や騎士科に空に住む魔獣のサンプルや
その返事に、アルはすぐさま進路を学園に向ける。強襲用
最初は『カリキュラムが──』と渋る教官も居たのだが、
教官達がそれぞれの学科に銀鳳騎士団による公開授業を伝達。その際に公開授業の進行や誘導といった仕事を別の教官に押し付けたいという面々が、目を血走らせた状態でのくじ引きを平行して開催する。
『ウオォォ! 当たった』だの、『あ、後出し! ズルッ! ノーカン! ノーカン!』と知識に貪欲な教官達の叫びを他所に、前準備として未だ痙攣状態の
そのタイミングで学園に到着したアサマから
その反論にアルは納得し、ラウリや他の教官を交えて相談。十数分の議論の末、とりあえずは屋上付近に滞空して屋上から乗り降りすることへと決まった。
その後は公開授業に参加する生徒や教官には同意書にサインしてもらって今に至るわけだが、唐突な公開授業開催にも拘らずに死んだばかりの魔獣や銀鳳騎士団が開発した
特に説明者がフレメヴィーラ王国の
「それにしても良かったのか? 最新鋭のレビテートシップなんだろう?」
「ウィングキャリアーは有り体に言えば大きなカーゴシップなので、真似する気概があれば簡単に真似できますよ? ただ、制作費がすごいことになりますが」
公開授業の様子を見学する親子2人。しかし、彼らから聞こえてくる言葉は凡そ親子というよりは機密事項の漏洩を心配する同僚のようであった。
ただ、アルから言わせてもらえば
例えば、機動力を上げたければ
ただ、勘違いしてはいけない。ゲームのクリエイトモードなら何の問題もないが、改造にはお金が掛かる。装甲だの移動力だの、はたまた各武装の攻撃力だのを限界まで行おうとした結果、金は滝壺に落ちて行く水の如く勢いよく、そして大量に消費してしまうということはよくある話だ。
イズモ建造時もディスカッションが無ければ、おそらく『あれも欲しいこれも欲しい』と2人の中の鋼鉄の魂が咆哮を上げた挙句に船を魔改造に有り金を全部溶かした人の顔をしていたに違いない。
「即応部隊になったり隣国のごたごたに連れて行かれたりしましたが、金銭面に余裕があるクライアントで良かったです」
「陛下たちの御前で言うんじゃないぞ!?」
「大丈夫です。この前も先王陛下と一緒に村を開拓した時、最終的には皆で棟梁呼びしてたんで」
あわや不敬罪一歩手前の言葉をのたまったアルに対してマティアスは周囲を気にしだすが、先ほどの一言すら凌駕する爆弾発言に『銀鳳騎士団が許されてるなら良いか』と余計な言及を止める。
そんな危ない会話を止めるように沈みかける太陽が2人の間に差し込んできたので、マティアスは人の出入りも疎らになってきた校庭を見やる。
「そろそろ終了するか」
「分かりました。いやぁ、盛況で良かったですよ」
マティアスからの提案にアルはほくほくとした表情で責任者クラスの教官の元へ歩いていく。その後姿にエルやアルが騎士を目指すと自分達に宣言した時を思い返し、マティアスは思わずが熱くなった目頭を押さえる。これからもエルが作った技術をこうしてアルがフレメヴィーラ王国に広げるという幼少時から行ってきた連携で、フレメヴィーラ王国をさらに発展させて欲しいとマティアスは柄にも無くおセンチな気分に浸っていた。
しかし、その1ヵ月後ぐらいにフレメヴィーラ王国。さらにはクシェペルカ王国の約数名を巻き込んだ大事件が待っているのだが、この時のエチェバルリア一家は割りとのほほんとした様子でいつまでも続いてきた平和を享受していた。
トイボックス・ハーミット
テルモネン謹製シルエットナイトフィギュア(鉄製)数個を購入する約束と共にレンタルされたトイボックスを改修した姿。命名は『ヤドカリ(Hermit crab)』からで、モデルは某ナラティブのA装備とディープなストライカーの合いの子みたいな感じ。
トゥエディアーネの胴体部を流用した素体に大型マギウスジェットスラスタや各種武装を取り付けた強襲用オプションワークスを背部に接続することでウォーリアスタイルでも空を飛ぶことができるが、所詮は直線番町なので器用な方向転換は至難の業である。
本機に取り付けられた装備は以下の通り。
・頭部兵装
アルの代名詞で毎度お馴染みの頭部に搭載されたシルエットアームズ。ただ、超高速戦闘を行うコンセプトだったので、威力を犠牲に弾速をかなり上げている特別製。
・クレヤボヤンス
頭部のバイザーにくっついた板状の偵察機器。板の四隅と中央上下に眼球水晶が埋め込まれ、シルエットナイトが慢性的に陥っていた視界不良を解決している。
さらに、板の中央には倍率が異なるスコープが取り付けられ、最低野朗の如く回すことで倍率が上げ下げできる。
イメージ図(水色の部分が眼球水晶):
【挿絵表示】
・右肩部のハードポイント
強襲用オプションワークスのシルエットアームズの砲身を固定して射撃精度を上げるために搭載。ついでに肩部にタックル用のスパイクをつけて欲しいと頼んだが、『整備中に怪我しかねん』という尤もな意見に却下された。
・左肩部のアトラトルポッド
ミッシレジャベリンを小型化したショートスピアを複数格納した箱。元々トゥエディアーネの装備だったが、『他機の武装を取り付けるのって現地改修っぽくないです?』という謎の言葉によって取り付けられた。
・脚部大型マギウスジェットスラスタ
トイボックス・ハーミットの脚部に取り付けられた大型のマギウスジェットスラスタ。設計当初、強襲用オプションワークスのマギウスジェットスラスタだけでは、飛行時のバランスが取りづらいというエルとダーヴィドの指摘から増設された。
これらによって飛行時の安定性が保たれ、仮に強襲用オプションワークスに不具合が生じて空から投げ出されても軟着陸は可能となった。--が、速度が増したことで一気に直線番町化が高まった。
・腕部マジックソード
両腕の前腕部に収められたエンブレム・グラフからカルバリンが顕現し続ける非実体剣。カルディトーレのような一般的なエーテルリアクタであれば数秒もすれば機能停止に陥るが、大隊級の炉による力技でなんとかしている。
操縦席のボタンによって出力や長さを調整できる謎のこだわりが強い装備だが、アルの近接戦闘適正が結構低いために最後の手段的なお守り扱い。
・強襲用オプションワークス
トイボックス・ハーミットの背部に接続される巨大なオプションワークス。
シルエットナイトサイズの巨大なマギウスジェットスラスタという推力に、レビテートシップを撃墜せしめたものをさらに改良した高火力シルエットアームズとその魔力充填機能。さらにはエーテリックレビテータによる浮遊機能も完備している大型機動兵器っぷりである。
使用目的は主に空を狩場にする師団級魔獣の排除。もちろん、今までの戦闘経験を動員したアルがこの量の装備で安心できるわけが無いので、まだまだ積み込む予定だとかなんとか。