空中に浮かぶ巣を根城にしていた魔獣を退けた後、山を思わせるほど大きいタコのような魔獣がこれまた巨大な数本の触腕をくねらせながら興味なさげに船団を横切って行ったり、
そんなある日。数日置きにイズモに全員集まって行われた会議が何回か行われ、トルスティやダーヴィドから『そろそろ例の場所だ』と
その音を聞いたある者はまだ心の準備が出来ていなかったのかはっと顔を強張らせながら、またある者は『ついに来たか』と戦いに赴く覚悟の言葉を呟きながら即座に持ち場に着くと、それぞれが与えられた仕事に注力していく。
「イズモからのマギスグラフを確認、文面は"ゼンポウ テキ ミユ"です!」
「イズモに例の蟲型か確認を取ってください! ただ、既に我々は例の魔獣の生息域に入っています! なので、本船はこれより蟲型を想定した動きを行ってください!」
イズモからの連絡に緊張が走る艦橋だが、アルの指示が届くと共に
そんな力が入り過ぎない程度の適度な緊張感が艦橋からアサマ全体に浸透していく間、アルはフロイドに同行不要を伝えてから艦橋から姿を消す。
アルが向かった先は格納庫のトイボックス・ハーミットの操縦席だった。操縦席に座って
「やっぱり、相手は蟲型魔獣らしいです。こちらから折り返すことはありますか?」
「了解、艦橋には船体を傾けないようにお願いしたいです。僕が森に落ちますので」
万に一つもありえなさそうな動きを行わないよう頼む指示に、
そのまま昇降機を使ってようやくアサマの甲板に降り立ったアルは、早速援護の準備に入った。
「クレヤボヤンス起動。今回は援護ですから気が楽ですね」
先日自爆する魔獣の巣に行った法撃と同じように頭部のクレヤボヤンスを起動させると、片膝立ちになってアサマの装甲の出っ張りに股間部から伸びたサブアームを保持させて機体の体勢を安定させる。
体勢が整ったアルはクレヤボヤンスによって望遠状態になった
「む、あれがアシッドクラウドですか。本当に雲ですね」
いつごろ援護を行おうかと
伝え聞いていた情報どおりの現象をつぶさに観察しつつ、アルは操縦桿を動かすことでトイボックス・ハーミットに
「援護を行うので前線に連絡してください!」
「了解」
トイボックス・ハーミットの腰部にあるポーチから
その間にもじわじわと
***
時は少し遡り、前線で戦っていた紫燕騎士団は発射された5発の体液弾によって発生した
「このまま戦うのは危険過ぎる。法弾で散らすしか」
そのまま戦うべきか悩むキヴィラハティだったがすぐに危険すぎると考えを改めて法撃を行おうとしたところ、近くを飛んでいたディートリヒ機から
「"アサマ エンゴ カイシ タイヒ"? アサマはたしか最後尾だったはずだけど」
発信された符丁にキヴィラハティをはじめとした戦闘中の紫燕騎士団員は首を傾げる。ただ、その指示──特にアル関係のものに従わない場合はもっと酷いことになることは、銀鳳騎士団との訓練で嫌というほど思い知っていた彼らは大人しく蟲型魔獣から距離をとる。
距離を離すために彼らが後退をしていたところ、高度を上げているアサマから何かとてつもない力の塊が
「うおっ! なん……えぇ……」
不可視ゆえに全然みえなかったが、トゥエディアーネすら容易に破壊できそうな力が高速で機体の横を飛んでいったことに冷や汗を流しながら驚くキヴィラハティだったが、『パァンッ!』とパンパンに膨らんだ巨大な風船を破裂させたような音に再び驚いた彼は、
そこには、先ほどまで漂っていた忌々しい白煙は全く無く、蟲型魔獣の姿が丸見えになっていた。
空ゆえに各々理解しがたいと独り言を呟いていたが、その状況からいち早く脱したディートリヒ機が装備していたツェンドルグタイプが装備している騎槍の両側面に2本の槍を並べた新型装備、『
先ほどアサマ方向から加えられた謎の法撃によるものなのか、蟲型魔獣は覚束無い動きをしながらも向かってくるディートリヒ機に攻撃を加えるために体液をため出すが、その行動よりも早く
「せっかく副団長が作った隙なんだ。有効利用させてもらうよ!」
紫燕騎士団と比べて
空を機敏に駆けるためなのか防御力はあまり高くないらしく、鋼で作られた
その余波で身体も千切れ飛んだ蟲型魔獣の残骸は、そのまま体液を飛び散らせながらボキューズの母なる大地へと墜ちていく。
「うぅむ、潰しても面倒なことに変わりないか」
倒した蟲型魔獣の遺した
「なんだ……。あいつら、やたらめったらに攻撃してやがる」
「雲が厚くなっていく! 煙幕のつもりか!?」
連携も欠片も無い体液弾が魔獣とトゥエディアーネの間に撒き散らされ、広範囲に厚い
「全機、アサマから支援が来るぞ! 散会しろ!」
トゥエディアーネに標準装備されている強化された拡声器からディートリヒの声が周囲に響く。どうやら
その瞬間、先ほど
「……どうやら撤退するための煙幕だったようだね。深追いは無用、むざむざ釣られてやるほど僕達に余裕は無いよ」
遠くへ逃げていく蟲型魔獣の後姿。そのあまりにも無防備な光景を前にディートリヒは『魔獣が戦術を用いていた』というダーヴィドの言葉を思い出す。
あの無防備すぎる後姿に調子付いて追いかけ、逆に本隊と別働隊に囲まれるといったことになった日には死んでも死に切れないと身震いしたディートリヒはちらりと遠方で飛行する
「"ゼンマジュウ コウタイ カクニン"か。どうやら挨拶は成功したようだ。帰って朝食にするとしよう」
『了解』
ディートリヒの音頭にトゥエディアーネ達は自分の乗船している船と連絡を取りながら帰還していく。ディートリヒもそれに倣ってイズモへの帰路に就くが、ふと森のほうに機体の首を向ける。
「魔獣はここに居た……ということはやはり、君もここに居るんだろうね。騎士団長」
朝日がディートリヒ機の外装を照らす。反射した日の光を映し出した
もしかしたら、そこの森の切れ間にこの瞬間にもエルがひょっこり歩いていそうな感覚を覚えるが、すぐに妄想を振り払うように首を振った彼はいつまでも帰ってこないことに怒りの
「どうせ、このまま進めばあの騎士団長のことだからなにか騒ぎが起こるだろう。そこに馳せ参じれば良い。……なんというか、いつものことだね」
銀鳳騎士団の当たり前の認識に気負っていた気持ちが幾分かまともになったディートリヒはイズモの船倉に戻っていった。
***
「トゥエディアーネ、偵察役の小隊以外は全機帰還しました」
各
だが、いつまでもそうしているわけには行かないので機体の周囲に散乱した長方形の
帰ってきたトイボックス・ハーミットは先ほど
「放っているのが大気系なので、外装やエンブレム・グラフの劣化はありませんね」
「魔力もクリスタルプレート依存なので大丈夫です。ただ、甲板に落とした衝撃で砕けたものもあるので、取り扱いには気をつけてください」
この
そして、このシナツヒコ。長距離に
また、この設計には『トイボックス・ハーミット以外の
その改修によって、仮にアルが前線に赴いている際に蟲型魔獣が横合いから乱入してきても船団を護衛する部隊のみで
「機体も異常ないですね。ご飯にしますか」
シナツヒコや
しかし、エルが墜ちたとされる大まかな空域まで近づいたのは良いものの、GPSのように彼の現在地を断定するようなアイテムが無いこの世界での捜索は困難を極めた。基本足で捜索するしか手段が無い船団は、ひたすら蟲型魔獣が飛んでくる領域を闇雲に動き回りながら夏の虫のように飛び込んでくる魔獣を殴り倒す日々を送る羽目となる。
そのため、ただ浮かんでいるだけでも
いよいよをもって案が煮詰まってきた感がすさまじかったが、そこでいつの間にかイズモにもぐりこんでいたアルが挙手を行う。
「仕方ない。兄さんが分かりそうな合図でも出しますか」
「え、そんなのあるの? って、また勝手にアサマから移動して……」
「僕の数少ない隠し芸の一つですよ。それに分かるといっても覚えてなかったら意味ないですが」
そう言いながらアルは
「えっと、こう……だっけ。いや、音違うな。こう……あ、この調子」
固定の音を出すという音楽には程遠い練習をする姿に、本格的になにをやろうとしているのか分からない面々は徐々にアルを奇異な目で見る。そして、練習を開始して決して短くない時間が経過した後、アルは『ああ、これだこれだ』とようやく納得が言った様子で連続した音を出し始めた。
それは、昔の走り屋や暴走族がよく鳴らしていた3つや6つの音階で表現することが出来る俗に言う『ヤンキーホーン』だった。パラリラパラリラだったり、某ゴッドな父のテーマを外の森に浸透するように何度も鳴らしたアルは、『忘年会で使う一発芸のために覚えましたが、まだまだ覚えてるもんですね』と一人やり遂げたような顔しながらアサマに戻っていく。
当然、そんなヤンキー丸出しな音の意味さえも知らない面々は『エチェバルリア語ならぬ、エチェバルリア音か』と理解できないことに対する魔法の造語を新たに付け加えて黙認する。ただ、エルがこちらにアクションを取ってくる可能性が少しでも上がるのならばと、イズモから毎朝と夕暮れに必ずこれらの音が流れてくるのだった。
***
そんな毎日を送っていた船団だが、1週間もしない内に事件が起きる。魔獣の襲来を告げる警鐘がイズモやその周辺を飛んでいた
その音に、先ほど例のヤンキーホーンを演奏し終わったアルは踵を返して艦橋へ向かうと、すでに
「先行しているウィングマンからの魔獣の接近報告ですね。しかも1匹。今、1個小隊が向かってますよ」
「迷い込んできた可能性はあれど、元々1匹のみで暮らすタイプかもしれません。そこらへんの確認はお願いします。もしかしたら僕とフロイド君が出るかもしれません」
ボキューズ大森海の上空という魔獣の襲来がひっきりなしに来る場所に居る彼らだが、今まで出くわした全ての敵に対して未だ死傷者無しという奇跡にも近い結果を残していた。その結果に少々慢心気味になっても仕方の無いことだが、その1匹が船団を壊滅状態にしかねない危険生物の可能性も考えたアルは周囲の船との連絡を密にして情報提供を受けるよう指示を出しながら格納庫へ急ぐ。
強襲型
すると、対応に向かった小隊や偵察から迎撃に切り替えた小隊の包囲網をすり抜けられたとの報告がアルの耳に届いた。
「蟲ですか?」
「いえ、"フメイ"っぽいです。今、再度符丁を調べさせてます」
「了解。フロイド君、艦橋は誰かに任せてください。念には念を入れてディセンドラートを着てからオプションワークスへ乗り込んでてください」
この辺りの強敵である蟲型とは異なる魔獣。それだけでも十分警戒に値する情報だった。
ライヒアラ騎操士学園で教鞭をとった際、アル自身が言った『魔獣は怖い生き物です』の言葉通り、その魔獣はなにをしてきて、なにが命取りになるのか分からない。
「これだから大自然ってやつは」
慣れて来たと思っていたところに経営の人が特大級の案件を嬉々として持ってきたときの心境に近いものを感じながら、アルはクレヤボヤンスで前線──小隊の包囲網を掻い潜った魔獣がどのような姿か観察することにした。
「魔獣? あれが? ……シルエットナイトのような」
全体を見た時の違和感を口に出したアルは、じっくりと細部をみるためにもう少し映像を拡大する。
骸骨を思わせるような顔に、人の上半身が浮いているかのような姿の奇怪な出で立ちの魔獣が巨大な人を抱えて飛んでいる姿。そんな有機的な魔獣(仮)を見ても、アルの『所々が生物の素材のようだけど、
「エドガーさん達も来ましたし、僕が援護する……必要……」
正面にはエドガー率いる第1中隊のトゥエディアーネ。後ろからは包囲網を抜けられた小隊が追いつき、
明らかな『詰み』の様子にシナツヒコを下ろそうとしたアルだが、彼の表情が途端に曇る。
後ろから迫り来る
「あれは……なんだ」
自分以外誰もいない操縦席で自問する。その頭には自身が一番受け入れた願望のような予想が湧き水のように生まれ、エルを失ったことで人間性が乾いていた肉体に染み込み始める。
──しかし。
「じゃあ、あれは……誰だ」
先ほど法撃を行った腕とは異なる小さな腕に抱えられた
本来ならばそんな結論を出すと同時に、『いやいや、イカルガだったとしてそれ動かすなんて兄さんじゃなきゃ無理でしょ』と手を左右に振りながら否定する所だが、エルがいないことで結構参っていた精神にそんなプラス方向に考える余裕などなかった。
「お前は……誰だ!」
一気に物騒な思考に切り替わったアルは操縦桿を動かすと、トイボックス・ハーミットに立射の状態でシナツヒコを構えさせる。
「フロイド君、オプションワークスは甲板付近で待機。1射したら合体して船団から"アレ"を引き剥がします」
フロイドに指示を出しながらも、アルの頭は『復讐』の2文字に染まる。レティクルを魔獣ではなく、その魔獣が掴む巨人に合わせ、強襲用
大気を圧縮して精製された不可視の法弾が、先ほどエドガー機の放った渾身の攻撃すら辛くも抜き去り、その勢いのままイズモに近づく魔獣目掛けて飛んでいく。
だが、その魔獣はその法弾の存在を悟ったのか、先ほどエドガー機に貫かれた騎槍が刺さった方の装甲を纏った腕を法弾が飛んでくる方向に向けて防いだのである。
ただ、防いだといっても元々損傷を負っていた腕は法弾に耐え切れずに胴体から千切れ、その余波をまともに食らった魔獣はバランスを崩して一気に地上へと墜ちて行った。
「フロイド君、急いで合体を もしかしたら……」
「こうなるなら殺傷力のあるアヴェンジャーの方がよかったですね」
アルの援護もあって全戦力での完全防御陣形が完成したイズモを尻目に、アルはフロイドに強襲用
***
一方その頃。アルの法撃を受けて森の中へ叩き落されたエル達はというと──。
「いやぁ、まさか狙撃されるとは思いませんでしたよ。ジャロウデク軍の気持ちがよく分かりましたよ」
「笑い事ではありませんよ! 本当にあの船は貴方の騎士団なのですか!?」
追撃されないよう墜落を装って一旦森の中へ機体を隠したエルはあっはっはーと笑うが、そのあっけらかんとした感想に
本来ならばそういったことを行うのはエルやアディの機嫌が悪くなるので憚られる行為なのだろうが、先ほどまでカササギ──大破したイカルガの残骸をこの地に住む
さらに言えば、先ほどの狙撃によってザカライアは数十秒ほどカササギの身体から離れ、母なる大地へフリーフォールという体験したくない体験もしたところである。語気が強くなるのも当たり前であろう。
「とは言いましても、僕達がこれに乗っているって誰も知らないわけですし」
「シルエットアームズ次第じゃ、私達丸焦げになっててもおかしくなかったよね」
何気なしにとんでもないことを話し出す2人に、カササギに身体を掴まれていた
「もうひと当てしましょうか」
「えぇ、もう皆と合流……っていっても聞かないよね、分かった」
エルの強い意志にアディも折れて操縦に集中し出す。その言葉に先ほどよりも凄まじい攻防が行われると予想したザカライアは、先祖代々伝わる杖で必死に演算を行いながらカササギにしがみ付いた。
──途端、カササギは一気に高度を上げると
「あれってトイボックス? なんで浮いてるの!?」
「……ふふっ、あはははは! 昔の機体を今の技術に合わせた改造で持ち出してくるなんて、アルはほんっとうに兄孝行ですね!」
自身が手がけた最初の専用機──
「マギステル・エル! あれは本当にマギステルの氏族なのか!? 九眼位なぞ、御伽噺でしか聞いたことが無い!」
「まーた眼球水晶増やしましたね……っとぉ、危ない!」
「アーッチ! エルネスティ様、直前で避けるのは止めて欲しいのですが!」
真正面に飛び込んでくる法撃を
そして、向かってきた相手の目──
だが、エルは既に目の前の
最初は適当にあしらうだけで勝てた模擬戦も、いつごろからか策や罠を張り巡らせ始めた。それらの工作を踏み潰して勝利を収めても、今度は更なる作戦や手数を持って圧殺しにかかった。
そんな模擬戦を続けること数度経て──ついには部隊を使うことで自身が誇る
「さぁ、アル。僕と君のお祭りを始めましょうか」
イカルガとトイボックス。『元』と形容するのが適切な表現の如く魔改造に魔改造を重ねてはいるが、エルの頭から産み落とされた機体がボキューズの上空を舞台に激しくぶつかり合う。
覚悟ガンギマリ+復讐心むき出し状態の二次主人公とエンジョイ気狂い勢の原作主人公との温度差に風邪をひきそう。だけどこの作品ではこれがデフォです。
自身の崇める神に尤も近い眼位の巨人と出会い、あまつさえ敵対する羽目になった小魔導師ちゃんの気持ちを答えよ。(配点:10点)
シナツヒコ
アシッドクラウドを消し飛ばすほどの風量を持った法弾を射出するシルエットアームズ。--以上!
特徴らしい特徴といえば、某ベルカ式魔法のようにクリスタルプレートのマガジンを何度もリロードすることで法弾の効果範囲が2倍、3倍と増えていく。(その分負荷もかかるので、10べぇだぁ! をする前に壊れる)
アシッドクラウドがそれだけヤバいと紫燕騎士団から伝えられていたので、自分以外の誰でも使えるようエンブレム・グラフも取り扱いも使用手順もシンプルにした、ある意味ではアルの苦労の結晶。
だが、調整に調整を重ねた時間が仇となり、『シルエットアームズは』この1丁しか存在しない。
8/21はお休みをいただきます。